(米国防総省が公開した、シリア北部アレッポ県の村でアルカイダ幹部を標的に実施された空爆の現場の写真(2017年3月17日提供)【3月18日 AFP】)
【相次ぐ“誤爆”報道】
戦争においては民間人犠牲は避けられない・・・・、特に、シリアのラッカ包囲や、イラクのモスル後略で現在進められている「イスラム国(IS)」との戦いにあっては、ISが住民を“人間の盾”として意図的に危険にさらしているため、住民の犠牲も必然的に膨らんでくる・・・・とは言うものの、ここのところ米軍爆撃による民間人犠牲に関する報道が相次いでいます。
本当に、誤爆等によって犠牲者が出たのか、それともアメリカ等を非難するためのプパガンダ的偽情報なのか、単なる不確かな情報なのか・・・現地で監視する信頼できる機関・組織がある訳でもないので、そのあたりはよくわかりません。
****モスク空爆で46人死亡、米軍が誤爆か 市民ら礼拝中*****
在英NGO「シリア人権監視団」によると、シリア北部アレッポ県西方のシリア反体制派支配地域のジナ村で16日、モスク(イスラム教礼拝所)が空爆され、少なくとも46人が死亡し、多数が負傷した。
当時、礼拝するために多数の市民がモスクにいたという。過激派組織を狙った米軍が誤って空爆した可能性がある。
米中央軍の報道官はモスクの近くにある建物で国際テロ組織アルカイダが開いていた会合を狙って空爆したと明らかにした。ただ「モスクを故意に狙ったものではない」とした。
報道官は当初、空爆を実施したのはアレッポ県に隣接するイドリブ県だとしたが、後に「正確な場所は不明」と説明した。ジナ村はイドリブ県の近隣にある。報道官は、米軍は空爆で市民に被害が出た疑いについて調査するとしている。【3月17日 朝日】
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シリア内戦ではアサド政権軍はロシアの支援を受けてISやアルカイダ系組織を空爆していますが、米軍主導の有志連合もそれとは別に2014年からISや他の過激派への空爆を続けています。
米軍は“証拠写真”を公開して、誤爆を否定しています。ただ、民間人犠牲を完全に否定する証拠とも言い難いようです。
****米軍、シリアのモスク空爆を否定 「証拠写真」公開****
米国防総省は17日、同国軍が前日にシリア北部で実施した空爆を受けたのはモスク(イスラム礼拝所)ではなく、国際テロ組織「アルカイダ」メンバー数十人が会合を開いていた隣接の建物だったと発表し、空爆後の現場を撮影した写真を公開した。
在英の非政府組織(NGO)「シリア人権監視団」は先に、同国北部アレッポ県にあるモスクが夕方の礼拝中に空爆を受け、42人が死亡したと公表していた。
同省のジェフ・デービス報道官は「モスクは崩壊しておらず、比較的無傷のままだ」と説明。攻撃目標は隣接した建物で、空爆は「明確に標的に命中した」と述べた。
同省は同時に、古いモスクのすぐそばで崩壊した建物を写したとみられる白黒写真を公開。ただデービス報道官は、破壊された建物がどのような目的で使われていたのか、また空爆を受けた建物とモスクが何らかの形でつながっていた可能性については言及しなかった。
シリア人権監視団は、空爆による死者の大半が民間人だったと発表していたが、米国防総省は死者に民間人は含まれていないもようだとしている。デービス報道官は、空爆により「テロリスト数人が死亡した」と述べた。【3月18日 AFP】
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数日後の同じシリアのラッカ郊外でも、避難民の収容施設として使用されていた学校が爆撃を受けたと報じられています。
****避難施設への爆撃で33人死亡、米主導の有志連合が空爆 シリア****
シリアで米主導の有志連合が実施した空爆により、避難民の収容施設として使用されていた学校が爆撃を受け、少なくとも33人が死亡した。在英のNGO「シリア人権監視団」が22日、明らかにした。
同監視団によると、空爆はラッカ県に位置する、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」支配下の町マンスーラの南方で、「21日未明ごろに発生した」という。
同監視団のラミ・アブドル・ラフマン代表はこの空爆で33人が死亡したことを明らかにし、犠牲者が「ラッカ、アレッポ、ホムスから逃れてきた人々だった」と述べた。
またラフマン代表はAFPに対し、「現在もがれきの中から人々を救出する作業が続いている。救出された生存者は2人だけだ」と語り、空爆を受けた学校には50世帯近い避難民がいたことを明らかにした。【3月22日 AFP】
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【モスルでは200人超?】
イラクのモスルでは完全制圧を目指して激しい市街戦に突入していますが、いまだ40万人が旧市街で包囲された状態にあるとのことです。
****IS掌握下のモスル旧市街、40万人「包囲状況」と国連****
国連は23日、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が掌握するイラク北部モスの西部地区に今も約60万人が取り残されており、うち40万人が旧市街で包囲された状態にあると発表した。
避難民の中継地点となっているモスル南方の町ハマム・アルアリルで対応中の国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のイラク駐在高官が、電話でスイス・ジュネーブからの取材に応じ、明らかにした。
避難民らは、モスルの絶望的な状況を口々に訴えているという。「燃料も食料も電気もなく、人々は家具や古着など燃やせるものは何でも燃やして暖を取っている。雨天が続き、夜間には気温が著しく低下している」とこの高官は語った。【3月24日 AFP】
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40万人が包囲された状態で砲弾が飛び交い、ミサイルが撃ち込まれ、空爆が行われるのですから、住民犠牲を最少にすべく最大の留意をしているとは言いつつも、何が起きても不思議ではないとも思えます。
そのモスル爆撃で200人超の民間人犠牲が発生したとの報道があります。
****米軍空爆、非戦闘員多数死亡か=モスルで最大200人―米紙*****
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は24日、イラクでの過激派組織「イスラム国」(IS)の最大拠点モスルに対する米軍の空爆で、多数の非戦闘員が死亡した可能性があり、米軍主導の有志連合が調査に着手したと報じた。地元住民の話では、死者は最大200人に上る恐れがあるという。【3月25日 時事】
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“al arabiya net は、これまで305の遺体が搬出され、まだ200の遺体ががれきの下に残っていると報じていて・・・”【3月25日 「中東の窓」】とのことで、犠牲者数は更に増大する可能性があります。
イラク軍は、以下のようにその責任を否定しています。
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イラク軍等では、問題はISが住民を人間の盾として使っていて、住民を建物の中に閉じ込めて、そのうえで戦闘しているために、被害が及ぶことが大半で、またこれらの大量死亡の近くでは、ISが大量の燃料に爆薬を付けた車両を動かしていて、これをイラク軍が狙い、大爆発が起きたともしているよし。【3月25日 「中東の窓」】
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【調査に乗り出す米軍】
こうした民間人犠牲・誤爆情報が相次ぐなかで、米軍も調査を開始したようです。
****空爆で民間人300人近く死亡の情報、米軍が調査****
シリアとイラクで今月行われた3件の空爆で両国の民間人合わせて300人近くが死亡したとされる問題をめぐり、米軍が自軍の攻撃が原因かどうかを調査していることが25日までに分かった。
米国防総省の当局者は、3件とも民間人の犠牲が指摘されているものの、いずれも状況は異なり複雑だと指摘。これまでのところ、空爆をめぐる米軍の手続き上の問題を示す情報はないと強調した。米国は軍事作戦の停止は考えていない。
ただ、犠牲者の一部もしくは全てが米国の攻撃によるものとの可能性は深刻に受け止められており、イラクやシリアでの作戦行動を管轄する米中央軍は正確な事態の把握に努めているという。
最も大きな被害が出たとされるのはイラク北部モスル西部での攻撃だ。米軍によると、3月17~23日のいずれかの時点で米軍機から投下された爆弾で、民間人200人以上が死亡したとの情報があり、分析が進められている。被害情報は主に空爆に関する現地の報道やソーシャルメディアの記述に依拠している。
米国防総省の報道官は、有志連合がモスル付近で複数の空爆を行ったことを確認。さらなる調査のため、同省で民間人の犠牲を調査するチームにこの情報を提供する方針を示した。
ただ米当局者らは、米軍は地上に要員を配置していないため現地の報道を検証することは難しい場合もあると指摘。こうした報道は事態の解明に必要な正確な詳細を欠いていて、信頼性に欠ける場合もあるとしている。
モスルが位置するニネベ州の地方議会議長はCNNに、モスル西部の複数の地域で3月22、23の両日、米主導有志連合とイラク空軍の空爆により少なくとも200人が殺害されたとの見方を示した。死亡者の大半は民間人で、中には子どもや女性もいたとしている。
そのうえで、イラク治安部隊に対して民間人の安全が保証されるまでは一帯での軍事作戦をやめるよう求めたと述べた。
米国防総省の報道官によれば、有志連合は民間人犠牲者の発生の有無について正式な調査に着手したという。
米軍はまた、3月16日にシリア北部で行われた空爆についても正式な調査を開始した。現地の報道によると、この空爆ではモスクが攻撃され、40人以上が死亡したという。
ソーシャルメディアに寄せられた多くの報告では、がれきの中から遺体が搬出される様子をとらえた画像が示されている。国防総省は当初数日間にわたり、民間人の犠牲者はいないと発表。また、狙ったのは約12メートル離れた別の建物で、アルカイダの会合を狙ったものだったとも説明していた。
米中央軍はさらに、今月22日、シリア北部ラッカ付近の学校の建物が空爆を受けた件も調査している。現地の活動家らは、建物に避難していた民間人30人以上が空爆により殺害された可能性もあるとしている。
米国防総省の当局者は、米国が一帯で空爆を行っていたことを確認した。米中央軍は空爆対象が正しい建物だったのか、また米軍が把握していなかった民間人が内部にいなかったか解明を進めている。【3月25日 CNN】
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【“220人”対“2463人”】
いずれのケースも定かなところはわかりません。
米軍はこれまでも、シリア・イラクにおける一部の誤爆・民間人犠牲については認めていますが、その数は非常に“限定的”です。
****アメリカが、イラクとシリアでの民間人殺害の事実を認める****
アメリカ軍が、昨年11月と今年の1月にイラクとシリアで行われた、テロ組織ISISに対するアメリカ主導の連合軍の攻撃で、民間人21名が死亡した事実を認めました。
IRIB通信によりますと、アメリカ軍は、声明の中でこの数字を発表したとともに、「2014年にイラクとシリアで、対ISIS有志連合軍による攻撃が開始されて以来、この攻撃で殺害された民間人の数は220人に達している」と表明しています。
しかし、この数字は監視団体が算出した数字よりはるかに低いものとなっています。
在英ジャーナリストらでつくる監視団体「エアウォーズ」による調査の結果、イラクとシリアでアメリカ主導の有志連合軍の空爆で殺害された民間人の数は2463人であることが判明しています。
対ISIS有志連合軍は、オバマ政権時代にシリアとイラクにおけるテロリストとの戦いを名目に結成されました。
こうした中、複数の正式な報告によりますと、アメリカとこれに同盟する西側諸国やアラブ諸国は、ISISをはじめとするテロ組織を形成し、資金や兵器を提供した主な国とされています。【3月5日 Pars Today】
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上記はイランメディアですから、最後のような指摘にもなります。(アラブ諸国やトルコなど多くの国々がISに資金・武器を提供してきたこと、便宜を図ってきたこと自体は間違いありませんが)
“英ジャーナリストらでつくる監視団体「エアウォーズ」”がどういう組織か知りません。
よく報じられる“在英の非政府組織(NGO)「シリア人権監視団」”の数字も、かなり不確かであることはしばしば指摘されるところですが、そうした情報しかないというのも現実です。
ですから“2463人”と“220人”という10倍以上の開きがある数字のどちらを信用していいのかはわかりません。
ただ、“220人”というのは、相当に“絞り込んだ”数字のようにも思えます。
【事実を糊塗し、“オルタナティブ・ファクト”を利用するトランプ政権】
冒頭でも触れたように、戦争においては民間人犠牲も避けられないという現実はありますが(であるから、戦争自体を否定する考えもあるでしょう)、その犠牲を最小限にするためには、まず“事実”と正面から向き合う必要があります。
その点で、政権初の軍事作戦となったイエメンでの作戦“失敗”(米兵1人が死亡、3人が負傷 機体価格7500万ドル(約85億円)の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ1機を失う 目標としたイスラム過激組織「アラビア半島のアルカーイダ」(AQAP)の最高指導者は逃走 女性や子供を含む13人とも言われる民間人が死亡 特殊部隊が捕獲コンピューターから入手した映像は過去に公開されていたものだった)を“成功”と糊塗するトランプ政権の姿勢には、そうした真摯な対応は期待できません。
****イエメン戦死者と妻を責任逃れに利用したトランプ演説****
<トランプ初の軍事作戦で戦死した米軍兵士を妻の前で英雄と称え、満場の拍手を誘う演出。これで作戦失敗の責任追及は逃れられる?>
・・・・(ドナルド・トランプ米大統領が就任後初めて上下両院合同会議で行った)演説中トランプは、イエメンでの対テロ作戦で戦死したSEALs(米海軍特殊部隊)の隊員、ライアンことウィリアム・ライアン・オーエンズの妻を紹介した。
トランプが大統領就任後初めて承認した軍事作戦の失敗を帳消しにするための計算尽くの演出だ。現に同じ日の朝、には、トランプは完全な責任逃れのコメントをしていた。
作戦失敗は指揮官のせい
イエメンで1月28日に実施された急襲作戦では、オーエンズ以外にもアルカイダ系テロ組織の戦闘員とみられる数人と、複数の民間人が死亡した。それだけの犠牲を出しながら、作戦の目的だった重要な情報はまったく手に入らなかったと、米国防総省筋は明かしている。
だがトランプは2月28日朝、FOXニュースの番組に出演し、部下たちに責任転嫁する発言をした。米軍の最高指揮官の立場で次のように語ったのだ。「これは私の就任前から計画されていた作戦だ。(将軍たちが)やりたがっていた。私に会いにきてやりたいことを説明した。非常に尊敬されている将軍たちだ。私の将軍たちはこの何十年かで最も尊敬されている。だから信用した。だが、彼らはライアンを失った」
トランプは自分が承認した軍事作戦の失敗を、オバマ前政権と軍の指揮官のせいにした。最高指揮官が部下に責任転嫁をするのは現代の軍事史では稀に見る失態だ。この2日間、軍の高官数人に話を聞いたが、いずれもトランプのコメントに深い失望を隠せず、苦りきっていた。残念ながら、こうした作戦を監視する各種委員会を率いる共和党の有力議員たちは、同じ共和党の大統領を守るため、トランプの発言を容認するだろう。(中略)
巧妙なイエメン外し
見事なのは、(演説において)ライアンが戦死したイエメンという国名に一度も触れなかったことだ。子どもも含む民間人に多数の犠牲が出たことにも触れなかった。
トランプに言わせると、アメリカ人が知るべきなのは、尊い軍事作戦中に米軍の兵士が死亡した事実だけ。作戦のための情報や準備、地上支援が十分だったか、そもそもリスクを上回る成果が期待できる作戦だったのか、といった疑問など考慮に値しない、と言わんばかりだ。(中略)
さらに困惑するのは、演説の2日前にショーン・スパイサー大統領報道官が「(イエメンでの)作戦は新たな襲撃やアメリカ本土への攻撃を防ぐのに見事に成功した」と断言したことだ。アメリカ本土に対するどんな脅威や攻撃の企てがあったのか、誰も知らない。
最終的に、この日の議会演説から人々の記憶に刻まれるのは、戦死したオーウェンズの妻キャリン・オーウェンズに向けられたスタンディングオベーションだろう。(中略)
トランプはアドリブで、戦死したオーウェンズを代弁するかのような語りで演説のこの部分を締めくくった。「彼はとても幸せだ。(スタンディングオベーションの)新記録を作ったのだから」。
作戦を承認した張本人が、自分には何の責任もないと突っぱねた直後にこんな発言ができるとは、アメリカの最高司令官も地に落ちたものだ。この状況は、米軍だけでなく国家にとっても限りなく有害だ。アメリカ人にはそのことに気づいてほしい。【3月2日 Newsweek】
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