孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

日本製鉄と宝山鋼鉄の合弁経営解消 日中関係の歴史を映したその関係 “大きなターニングポイント”

2024-07-24 23:17:13 | 中国

(ヘルメットを着用して新日鉄君津製鉄所を見学する中国の鄧小平副首相ら(1978年10月26日撮影)【7月23日 読売】)

【1978年の日中平和友好条約締結以降の日中関係を反映した日本製鉄と宝山鋼鉄の関係】
日本製鉄が中国の鉄鋼メーカー宝山鋼鉄との20年にわたる合弁経営を解消するというニュース・・・・大企業とは言え、一企業の経営判断に関するニュースと言ってしまえばそれまでですが、鄧小平によって始まった中国の改革・開放政策とその後の経済発展、日中関係の歴史・推移を思い起こさせ、感慨深いものがあります。

****日本製鉄が中国企業との合弁解消=「大きなターニングポイント」―仏メディア****
2024年7月23日、仏国際放送局RFI(ラジオ・フランス・アンテルナショナル)の中国語版サイトは、日本製鉄が中国の鉄鋼メーカー宝山鋼鉄との20年にわたるすると報じた。

記事は、日本製鉄が23日、宝山鋼鉄との合弁契約が満了する8月末で契約を終了すること、合弁会社の宝鋼−新日鉄汽車鋼板(BNA)について、日本製鉄が保有する全株式を17億5800万元で宝山鋼鉄に売却する予定であることを発表したと伝えた。

そして、日本メディアの報道として、昨年末現在でBNAには591人の従業員がいること、BNAが日本から輸入した良質な鋼材に電気メッキを施して日本の自動車メーカーの中国工場に供給してきたことを紹介。BNAを通じて日本製鉄側は中国事業を拡大する一方、中国側は日本の鋼板技術を獲得し、双方が利益を得てきたとした。

その上で、中国の自動車市場では自国ブランドの電気自動車が大きくシェアを伸ばし、トヨタ、日産、ホンダに代表される日本メーカーで軒並み販売台数が減少するようになったと指摘。

日本メーカーの需要が減少したことで日本製鉄は中国事業の拡大は難しいと判断、投資リソースを米国やインドに集中させるために今回の合弁解消に至ったと伝え、合弁解消によって日本製鉄の中国での鉄鋼生産能力は70%減少することになると紹介した。

記事は、1978年の日中平和友好条約締結以降、日本製鐵は中国政府の要望に応えて上海宝山鋼鉄工場の建設をサポートするなど、経済協力の象徴として中国の鉄鋼産業近代化に貢献してきたと紹介。2004年により続いてきた合弁関係の解消は大きなターニングポイントとしての意味を持つと伝えた。

この件について中国のネットユーザーは「もっと早く出ていくべきだった」「合弁解消を喜ぶ人が多いけれど、宝山鋼鉄は当初日本の支援を受けて日本の技術を100%使っていて、そこから中国一の技術を持つ鉄鋼会社に成長した。それに上海虹橋空港だって日本の支援で建設したんだぞ」「時は流れ、状況が変わったということだ」といった感想を残している。【7月24日 レコードチャイナ】
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私などの世代だと、山崎豊子原作で、1995年の放映されたTVドラマ「大地の子」の舞台となった製鉄所建設ということが思い浮かびますが、まさに(いろいろな問題は内在しながらも)順調に見えた日中関係を象徴する製鉄所建設プロジェクトでした。

同製鉄所建設は日本を視察した鄧小平の一言で始まったとも言われています。

“中国は日本の新日本製鐵(新日鉄)と協力して、日本の鉄鋼産業の進んだ技術と設備を導入することを決めた。1978年10月、鄧小平氏が新日鉄の君津製鉄所を見学した時、案内をした稲山嘉寛・新日鉄会長と斎藤英四郎社長に対し「中国にもこれと同じような製鉄所をつくってほしい」と言った。”2009年10月20日 人民中国】

中国側の将来への期待や日本に対する特殊な感情なども含めて、日中の技術者達の様々な思いがぶつかり合いなが日本製鉄のサポートで建設された宝山鋼鉄は巨大企業「宝鋼集団」に成長し、2004年には米誌「フォーチュン」で世界企業500傑に名を連ねるまでになりました。

「鉄は国家なり」という言葉のように、宝山鋼鉄は中国の製鉄業、ひいては急成長する中国経済を牽引することになりました。

1978年に世界5位だった中国の粗鋼生産量は96年にトップに立つことに。また、宝山鋼鉄は合併を繰り返して巨大化し、グループの中国宝武鋼鉄集団の粗鋼生産は世界首位となりました。

日鉄と宝山鋼鉄は2004年、欧州鉄鋼大手のアルセロールと自動車用鋼板を製造販売する合弁会社を設立、今回解消されたのはこの合弁事業です。

ただ、その後の事業展開の中で、「日鉄内部には自社の先端技術が中国側へ流出したことへの不満が鬱積していた」(評論家の宮崎正弘氏)ということもあったようです。

****天風録 『日鉄、宝山鋼鉄を訴える』****
日中が国交を回復して5年後の1977年。ある訪日団を当時の新日鉄の現場に案内し、夜の宴席では缶ビールをプシュッとやる。これは鉄でできています、と日本側が配ると一行は「アイヤー」と驚いた

彼らは帰国後、共産党指導部に報告する。「あんなに薄くきれいな鉄板はとても作れない」。かの国は彼我の差を痛感して新日鉄に協力を求め、翌年、上海に今の宝山鋼鉄を建設する合意に至った―。「証言戦後日中関係秘史」(岩波書店)で、日中貿易の実務家が回顧している

ところが先日、新日鉄の流れをくむ日鉄が宝山鋼鉄を訴えた。この間柄で、訴訟沙汰とは穏やかではない

電気自動車に欠かせぬ部品、電磁鋼板の特許権を宝山鋼鉄が侵害したというのが理由。部品を仕入れるトヨタ自動車も訴えられた。脱炭素が進む中、日鉄にとって電磁鋼板は「虎の子」。

トヨタにしてみれば、調達先は多い方が優位に立てる。話し合いでは解決できなかったとか

中国残留孤児を主人公にした山崎豊子さんの長編小説「大地の子」に宝山鋼鉄は「宝華製鉄」として出てくる。引き裂かれた父子が再会する場だ。このたびの法廷に「情」が持ち込まれることはあろうか。【2021年10月18日 中国新聞】
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更に、中国製EV生産の拡大に伴う日本メーカーの需要減少という経済要因は冒頭記事にあるとおり。

【米中対立のなかでの日本企業の「脱中国」の動き】
USスチール買収を抱える日本製鉄にとっては、単に現在の需要減少だけでなく、米中対立のなかでの「確トラ」がもたらす将来への懸念からの「脱中国」の一環との指摘も

****日本製鉄「確トラ」で決断? 鉄鋼大手の宝山と合弁解消 日本企業〝脱中国〟加速、米国側に「親中企業では」警戒する声****
日本製鉄は中国宝武鋼鉄集団のグループ企業・宝山鋼鉄との合弁を解消した

日本製鉄は23日、中国鉄鋼大手の宝山鋼鉄との合弁事業を解消すると発表した。中国の鋼材生産能力を7割削減し、米国やインドに経営資源を集中させる。日鉄は米鉄鋼大手USスチールの買収を進めており、対中強硬姿勢を示すドナルド・トランプ前大統領の返り咲きをにらんで中国と距離を置いたとの見方もある。日本企業の「脱中国」は一段と加速するのか。(中略)

日鉄と宝山鋼鉄は2004年、欧州鉄鋼大手のアルセロールと自動車用鋼板を製造販売する合弁会社を設立したが、中国の自動車市場では電気自動車(EV)が台頭。日本の自動車メーカーは販売が苦戦しており、成長が見込めないと判断したことが合弁解消の理由としている。

評論家の宮崎正弘氏は「日鉄内部には自社の先端技術が中国側へ流出したことへの不満が鬱積していた」と話す。

トランプ政権で国務長官を務めたポンペオ氏を起用
日鉄関係者は、合弁解消は「USスチールの買収とは一切関係ない」とする。ただ、トランプ氏は、大統領に返り咲いた場合、買収を「即座に阻止する」と強調している。日鉄はトランプ政権で国務長官を務めたマイク・ポンペオ氏を助言役に起用するなど「トランプ・シフト」を進めている。

このところ、キリンホールディングスやAGC、パナソニックホールディングス、三菱自動車、ブリヂストン、住友化学などが中国事業からの撤退や縮小を発表している。

経済安全保障アナリストの平井宏治氏は「米国側には宝武鋼鉄集団との協力関係を続けてきた日鉄を『〝親中企業〟ではないか』と警戒する声もあり、日鉄側は懸念を払拭する必要があったのではないか。中国も国策でEVの国産化を進めるなか、現地へ進出していた日本の自動車企業にとっては、痛みも伴うが、脱中国化は加速するだろう。軍事面にも関わるハイテク鋼材など先端技術をめぐっては今後、日本企業も米国側に付くのか中国側に付くのか、旗幟(きし)を鮮明にすることが求められる」と指摘した。【7月24日 夕刊フジ】
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「確トラ」の方は、ハリス副大統領出馬で不透明感を強めていますが・・・・

日中協力の象徴としての製鉄所建設、その製鉄所が牽引する中国経済の成長、日中間の技術移転をめぐる確執、EV拡大などの需要構造の変化、そして米中対立の影響・・・様々な時代の動きを反映した宝山鋼鉄工場建設から合弁経営解消至る流れで、「時は流れ、状況が変わった」との感も。

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