(4人の子供がいるエルドアン大統領夫妻 【6月6日 BBC】)
【「母性を拒否して家にいない女性は、どんなに仕事で成功しても欠陥があり、不完全だ」】
従来は世俗主義を国是としてきたトルコにあって、公の場での女性のスカーフ着用を認めるなど、エルドアン大統領はイスラム主義的施策を進めていますが、今回は女性の出産について「避妊はイスラム教徒の家族にとってありえない」とも。
よくは知りませんがイスラム教では、カトリック同様に避妊を認めていないとも言われています。
もっとも、避妊具もなかった時代できたコーランですから、“イスラムの教義には産児制限に関して賛成派、反対派どちらにも有利になるような側面が含まれている。そのため、各国のムフティ(イスラム教最高指導者)の見解が、人口抑制策を容易にもすれば難しくもしてしまうのだ。「人口増加に危機感をもっている国では、政府がムフティなど、その国のイスラム教指導層の中心的人物を説き伏せて、家族計画を奨励するお触れを出させているケースもあります。・・・・(後略)”【2003年3月号フォーサイト 西原伸氏】とのことです。
また、“ただ、「アラーの神の御心のままに」子供をつくるという考え方がムスリムの意識には根強くあり・・・・”とも。(男性側の勝手なご都合主義のようにも思えますが)
いずれにしても、“産めよ、増やせよ”は、エルドアン氏のかねてよりの持論のようです。
****「避妊はイスラムの家族にありえない」トルコ大統領演説****
トルコのエルドアン大統領は30日、イスタンブールで開かれた教育関連イベントで演説し、「避妊はイスラム教徒の家族にとってありえない」と述べ、避妊せず子どもを増やすべきだと主張した。
トルコは人口の99%がイスラム教徒だが、宗教を理由に避妊を禁止する法律はない。人権団体などは「避妊は国民の権利だ」と反発している。
エルドアン氏はトルコの人口は現在約7900万人と説明し、「はっきり言う。子孫を増やせ、世代を増やせ、と言いたい」と訴え、人口増加で国力を強化すべきだと主張。その上で聴衆の中の若い女性に「第一の責任は母親にある。子孫は母親たちのものだ。あなた方のような、質よく育った母親候補に特に期待している」と呼びかけた。
エルドアン氏の発言に対し、人権団体や野党からは「避妊する権利をあなたが奪うことはできない」と反発の声が上がっている。
エルドアン氏は大統領就任前の首相時代から「トルコのために女性は少なくとも子ども3人を産むべきだ」と繰り返し主張し、2014年には「避妊は国家反逆罪」と発言。自身は妻との間に2男2女がいる。【5月31日 朝日】
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更には、「母性を拒否して家にいない女性は、どんなに仕事で成功しても欠陥があり、不完全だ」とも発言、女性の社会的役割は、まずは出産することだとしています。
****トルコ大統領、女性は「最低3人」産むべきと主張****
2016年06月06日 07:22 発信地:イスタンブール/トルコ
トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は5日、トルコ人女性は子どもを少なくとも3人産むべきだと主張し、子孫を残さない女性の人生は「不完全」だと述べた。
トルコの人口は近年、既に大幅に増加しているが、さらなる人口増加を目指すエルドアン大統領は、過去にも女性の出産を奨励する発言を繰り返し、物議を醸していた。
娘のスメイエさんが副会長を務める女性団体「女性と民主主義協会(KADEM)」の新設ビル落成式で演説したエルドアン大統領は、「母性を拒否することは、人間性を放棄することを意味する」との持論を展開。「少なくとも子どもを3人持つことを勧める」と述べた。
さらに「職業人としての人生を送ることが、母親になる妨げになるべきでない」との見解を示し、トルコは働く母親を支援する「重要な措置」を取ってきたと述べた。
エルドアン大統領は5月30日に、イスラム教徒の家族にとって家族計画と避妊は不必要だと発言し、女性活動家らの反発を呼んでいた。
5日の演説ではさらに、「『私は働いているから母親にはならない』と言う女性は、自身の女性性を否定している。母性を拒否して家にいない女性は、どんなに仕事で成功しても欠陥があり、不完全だ」と主張した。
公式統計によると、トルコの人口は2000年には6800万人に満たなかったが、昨年には7874万1000人まで増加。前年比の増加率は約1.3%だった。【6月6日 AFP】
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エルドアン大統領も、働く母親を否定している訳ではないようですが・・・。
いろんな考え方があるようですが、個人的にはエルドアン大統領のような考えは女性の役割を男性社会の都合で制約するもので、避妊・出産は個人が判断すべき事柄だと思います。
【相次ぐテロ 7日朝イスタンブールで、8日にも】
このところのトルコの情勢は、ハイテンションなエルドアン大統領を更に刺激するような状況にあります。
ひとつは、国内で頻発するテロの問題。
****爆弾テロで11人死亡=警察車両狙う―イスタンブール中心部****
トルコ最大都市イスタンブールの中心部で7日朝、警察車両を狙った爆弾テロが起き、地元当局によると、警官7人を含む11人が死亡、36人が負傷した。負傷者のうち3人は重体。犯行声明は出ていない。
在イスタンブール日本総領事館によれば、現時点で日本人が巻き込まれたという情報はない。
現場はイスタンブール旧市街のベヤズット地区で、市役所やイスタンブール大学にも近い。地元メディアによると、警官を乗せたバスが警察署近くを通過した際、自動車爆弾がさく裂した。バスはイスタンブール大学に向かっていたという。爆発に使われた自動車はレンタカーで、車の調達に関与した容疑者4人が拘束された。
事件を受け、エルドアン大統領は負傷者が搬送された病院を訪問。今回のテロについて「許せない」と非難し、テロリストとの戦いを最後まで続けると断言した。【6月7日 時事】
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このテロについては、トルコ国内で少数派のクルド人系の反政府武装組織「クルド自由の鷹」が10日に犯行声明を出しています。
トルコでは、イスタンブール旧市街の観光地で、ことし1月に自爆テロで10人が死亡したほか、去年10月には首都アンカラでISが関わる自爆テロで100人以上が犠牲になっています。
更に翌日の8日にも。
****警察本部前で爆発、4人死亡=首相「PKKの犯行」―トルコ南東部***
トルコのメディアによると、南東部マルディン県ミドヤトにある警察本部前で8日、自動車爆弾による爆発があり、少なくとも警官ら4人が死亡、30人が負傷した。ユルドゥルム首相は「反政府武装組織クルド労働者党(PKK)による犯行だ」と述べた。【6月8日 時事】
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【ドイツの「ジェノサイド」認定決議は対欧関係に「深刻な影響を及ぼす」と警告】
国外でエルドアン大統領を激昂させているのが、アルメニア人虐殺問題に関するドイツの決議です。
****アルメニア人殺害は「虐殺」、独下院が決議 トルコ反発****
ドイツ連邦議会(下院)は2日、第1次世界大戦(World War I)中の1915~16年に起きたオスマン帝国軍によるアルメニア人殺害は「ジェノサイド(集団虐殺)」だったとする決議を採択した。
これを受けてオスマン帝国の後継国トルコは駐独大使を召還するとともに、さらなる措置も辞さない構えを見せた。
投票の結果、反対1、棄権1以外全員賛成という圧倒的多数で可決されたこの決議に法的拘束力はないが、かねてトルコと欧州の関係を揺るがしてきた問題に改めて踏み込んだ格好となった。
「ジェノサイド」という言葉を使うかどうかは、長く世界の意見を二分してきたこのアルメニア・トルコ間の問題の核心に関わる。
アルメニア側は10年にわたり、アルメニア人殺害がジェノサイドと認められるよう働き掛けてきた。一方トルコ側は、トルコ人もアルメニア人も同数が犠牲になっており、双方にとっての悲劇だったと主張している。
今回の決議採択にトルコは激怒。駐独大使を召還して話を聞くとともに、駐トルコの独大使代理を外務省に呼び出した。
レジェプ・タイップ・エルドアン大統領は、この動議が対欧関係に「深刻な影響を及ぼす」と警告。一方ベキル・ボズダー法相はドイツ史を引き合いに出し、「自分たちはユダヤ人を焼いておきながら、トルコ人に対しジェノサイドと非難するとは。まず自国の歴史を振り返るべきだ…わが国の歴史に恥ずべきことは何もない」と述べた。
世界では既に、フランスやロシアを含む20か国以上がこの事件をジェノサイドと認定している。
ドイツをはじめとする欧州連合(EU)は、人権問題などで摩擦はあるものの、欧州への移民の記録的流入に歯止めをかけていく上でトルコに頼っており、両国関係をぎくしゃくさせかねないタイミングでの採択となった。
アンゲラ・メルケル独首相の報道官は、首相も決議を支持したと明かしたが、メルケル首相は他の公務を理由に採決を欠席した。
メルケル首相は、北大西洋条約機構(NATO)のイエンス・ストルテンベルグ事務総長との共同者会見で決議に関する質問への回答は避け、「アルメニアとトルコの対話を発展させていくために全力を尽くす」と述べるにとどまった。【6月3日 AFP】
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特に、「ジェノサイド(集団虐殺)」という言葉にトルコ側は激しく反発しています。
****<ドイツ連邦議会>トルコの「アルメニア人虐殺」認定*****
・・・・決議案はメルケル首相の出身会派キリスト教民主・社会同盟と与党社会民主党、野党緑の党が提出した。
「当時のオスマン・トルコ政府の指示により、100万人を超えるアルメニア人の計画的殺害が始まった」とし、「20世紀をおぞましい形で特徴付けた民族浄化や虐殺の一つだ」と認定。
当時オスマン・トルコと同盟関係だったドイツが迫害の情報を把握しながら止めなかったとし、「独帝国はこの出来事に責任がある」と認めた。
トルコは第二次大戦後に虐殺が国際法上の犯罪になったとし、文言の使用に強く反発している。(後略)【6月2日 毎日】
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この問題に関しては、アルメニアは、オスマン帝国が崩壊に向かっていた1915~17年に、最大150万人のアルメニア人がオスマン帝国によって組織的に殺害されたと主張していますが、トルコ側は、侵略してきたロシア軍の側についたアルメニア人のオスマン帝国への反乱による混乱のなかで、アルメニア人とトルコ人双方に30万~50万人の死者が出たが、意図的にアルメニア人を虐殺してはいないと主張しています。
これまでの各国の対応などについては、2015年4月24日ブログ「歴史認識を問う“言葉” アルメニア人迫害は「ジェノサイド」か? わかれる各国対応」などでも取り上げています。
上記ブログに書いたように、ドイツ・ガウク大統領は、当時のドイツ帝国はオスマン帝国の同盟国として兵士を派遣していたが、この兵士たちは「(アルメニア人の)国外追放の計画にも、そして一部実行にも加担していた」と、ドイツ自身の責任も認めています。
エルドアン大統領の興奮はおさまらないようで、その怒りは決議を支持したトルコ系ドイツ人議員にも向けられています。
****激しさ増す対独批判=トルコ大統領、ナチス絡め反発―アルメニア人「虐殺」決議で****
第1次世界大戦中にオスマン帝国(現トルコを含む)で多くのアルメニア人が殺害されたとされる事件をめぐり、ドイツ議会が「ジェノサイド(集団虐殺)」と認定した決議を採択したことを受け、ジェノサイドと認めていないトルコのエルドアン大統領によるドイツ批判が激しさを増している。
賛成票を投じたトルコ系ドイツ人議員を「血が汚染されている」と罵倒。欧州連合(EU)も大統領の行き過ぎた発言を問題視し、火種となっている。
ドイツ連邦議会(下院)は2日、「アルメニア人虐殺決議」を圧倒的な賛成多数で採択した。メルケル首相らは別の公務を理由に欠席した。
「(ナチス・ドイツによる)ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)について説明すべきだ」。議決前からドイツをけん制していたエルドアン大統領は実際に決議が採択されると、こう反発を強めた。一部のトルコ紙は、メルケル首相をナチスの独裁者ヒトラーになぞらえた合成写真を掲載した。
トルコ系移民の血を引くドイツ人議員11人も賛成票を投じた。これに対してエルドアン大統領は「何というトルコ人だ。血液検査をすべきだ」と強く批判した。【6月11日 時事】
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過去の歴史と向き合うことの難しさは日本も同様ですが、2015年4月24日ブログでも取り上げたドイツ・ガウク大統領の“歴史を「否定し、抑圧し、平凡化すること」によって罪から逃れることは不可能だ”と言う言葉が印象的です。
アルメニア側にしても、このような形で各国でのトルコ非難を繰り返しても、トルコ側を更に頑なにするだけで、和解にはつながらないように思えます。
本来は、アルメニア・トルコが静かに話し合わなければ和解は生まれませんが、トルコ側が聞く耳を持たないという状態では、非難を繰り返すしかない・・・・と、難しいところです。
難民問題でトルコの協力を必要としているドイツ・メルケル首相としては、エルドアン大統領を怒らせることは避けたいところでしょうが、歴史認識を曲げる訳にもいかないという難しい立場です。
もっとも、欧州側のトルコに対する本音は、下記のオズボーン英財務相の発言にも現れており、両者の溝はエルドアン大統領の言動で深まりつつあります。
****英財務相「トルコのEU加盟はない」、移民めぐり離脱派に反論****
オズボーン英財務相は8日、トルコが欧州連合(EU)に加盟することはないとの見解を示し、英国のEU残留への支持を訴えた。離脱派はトルコがEUに加盟すれば、移民が増えると主張している。
同相は、BBCテレビに対し「私の生涯においてそれが起きるとは思わない」と語った。
離脱派は、一部の有権者が懸念する移民問題を焦点に離脱への支持を呼びかけている。
EU離脱か残留かを問う国民投票までわずか2週間余りとなる中、世論調査では離脱支持と残留支持が拮抗(きっこう)している。
オズボーン氏は、2010年にキャメロン首相がトルコのEU加盟を支持する意向を表明したことについて質問され、「トルコは逆戻りしている。民主主義や人権に関する懸念がある」と指摘。
「トルコは現時点でEUに加盟すべきでないというのが英国政府の立場だ」と語った。【6月9日 ロイター】
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