孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

北朝鮮  中国に派遣されていた女性労働者が国家ピンはねに絶望して暴動

2024-02-28 23:14:31 | 東アジア

(画像は事件とは関係ありません。 2019年12月17日早朝、中国遼寧省丹東の工業団地で、隊列を組んで宿舎から工場へ出勤する北朝鮮の労働者ら(西見由章撮影)【19年12月21日 産経】)

【給料のほとんどがピンはねされる「奴隷労働」状況に派遣女性労働者怒りが爆発】
北朝鮮労働者が外国に派遣され、そこで得る賃金の多くは国家にピンはねされ、北朝鮮にとっては重要な外貨収入源ともなっています。

対北朝鮮制裁として国連安全保障理事会の決議で、各国は2019年末までに北朝鮮労働者を追放することが求めらていますが、新型コロナウイルス禍で北朝鮮が国境を封鎖したこともあり、中国やロシア、中東、アフリカに9万人余りが残ったとも報じられています。

一方で、派遣される労働者は国外逃亡防止のため家族を人質として残し、身辺に当局が不穏と考えるような人物がいないか、本人の思想に問題はないか・・・など審査されます。

稼ぎがピンはねされるとはいっても一部でも手元に残るなら、北朝鮮国内で食べるものにも事欠く多くの国民にとっては海外派遣は「特権」でもあり、派遣労働者に選ばれ、なるべく長く滞在できるために賄賂が横行していると言われています。

ただ、どの程度労働者の手に賃金が残るのかは、その時々の事情にもよるケースバイケースでもあり、「現代奴隷労働」と言っても過言でないような現状もあります。

そうしたなかで、今年1月に中国で働く北朝鮮労働者が、「暴動」を起こしたというニュースは衝撃的でした。

****北朝鮮労働者が中国でスト・暴動 数千人規模を初確認…コロナ禍で賃金不払い****
北朝鮮が労働者を派遣した中国東北部・吉林省にある複数の工場で今月、長期間にわたる賃金不払いに端を発したストライキや暴動が連鎖的に拡大し、数千人規模に達したことが18日、分かった。

元北朝鮮外交官の高英煥(コ・ヨンファン)氏が産経新聞に寄せた報告書で明らかにした。北朝鮮が派遣した労働者によるこの規模のスト・暴動が確認されたのは初めて。

北朝鮮労働者の受け入れは国連安全保障理事会の決議で禁じられているが、中国やロシアなどは受け入れを維持。労働者が稼いだ外貨の多くはピンはねされて金正恩(キム・ジョンウン)政権に上納され、核・ミサイル開発の資金源になっているとされる。

北朝鮮は事件の噂が広がらないよう情報統制を敷いているが、他の労働者の間に情報が拡散してストが頻発すれば、金政権の外貨収入源を揺るがしかねない。

高氏は北朝鮮消息筋などの話を基に報告書をまとめた。それによると、新型コロナウイルス禍で中朝の往来が途絶えた2020年以降、労働者を派遣した北朝鮮国防省傘下の複数の会社が、中国側の支払った賃金のうち、労働者が直接受け取るはずだった金額を「戦争準備資金」名目で本国に上納していた。

会社側は「コロナ禍が収まり、(労働者が)北朝鮮に帰国する際に一括して(労働者の取り分を)支払う」と説明してきたが、実際は本国に送金していた。昨年から中朝国境の往来が徐々に再開され、労働者らが事実を知るところとなった。

怒った労働者らが今月11日頃から操業拒否を始め、ストは吉林省内で衣料品製造や水産加工を下請けする複数の工場に拡大。工場を占拠して北朝鮮人幹部を人質にしたり、機器を壊したりする暴動にまで発展した。

金正恩指導部は、騒動を「特大型事件」に指定。駐瀋陽領事や秘密警察の国家保衛省要員を急派し、賃金の即時支払いなどを約束して収拾を図った。

15日頃に沈静化したが、不払い分に充てる資金は枯渇。中国駐在の会社幹部や外交官に捻出を強要しているのが現状で、騒動が再燃する危険性がくすぶっている。

高氏は、韓国政府で北朝鮮情報の分析や統一相らへ助言を行う統一相特別補佐役を務めている。【1月19日 産経】
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****大規模ストは北朝鮮の資金源を直撃 「現代版奴隷」…劣悪な労働環境も****
(中略)(派遣労働者は)制裁前は年間約5億ドル(現在のレートで約740億円)を稼いでいたと推定される。
派遣労働者は今も違法なサイバー活動による暗号資産(仮想通貨)奪取(22年に推定約7億ドル相当)に次ぐ外貨源と分析される。今回の騒動を受けてストが広がるなどすれば、金政権には大きな打撃となる。

海外に送られる労働者は10カ月〜1年超の身元調査や思想教育目的の講習などを経る。500〜2千ドルの賄賂を朝鮮労働党の幹部らに贈る必要もある。出国できても、工場や建設現場で15時間以上の単純労働を強いられ、休暇はほとんどない。

賃金の6割以上を北朝鮮側幹部らが中抜きする上、年間約8千ドルに上る金政権への上納金「忠誠資金」や寮費・食費を差し引くと、労働者が手にするのは月200〜300ドル程度といわれる。中国でのスト・暴動は、この金さえ支払われなかったことへの抗議だ。

労働者らは狭いコンテナに住まわされ、作業服が支給されずにゴミ捨て場で拾った服を着る人もいる。旅券を没収され、自由な外出やスマートフォン使用も許されない。

高氏は「現代版の奴隷といえる」とし、「国際社会は労働者の劣悪な人権状況に関心を持つべきだ」と訴えている。【1月19日 産経】
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「奴隷労働」に従事させた労働者の賃金のピンはねと違法なサイバー活動による暗号資産(仮想通貨)奪取が外貨収入源というのは常軌を逸していますが、北朝鮮というのはそういう国です。

暴動を起こした労働者には反骨精神溢れるというか、血気盛んな20歳代の元女性兵士が多数含まれ、結果、北朝鮮の管理者が死亡する事態にもなったようです。

反乱を起こしたのは縫製工場の女性労働者で、カネの問題だけでなく、男性管理者による「密室の性上納」強要も労働者の怒りを大きくしたようです。(ついでに言えば、こういう「性上納」強要も北朝鮮ではごく普通に行われているようです)

****「密室の性上納」も…北朝鮮女性2千人“怒りの暴動”の舞台裏****
韓国統一研究院の趙漢凡(チョ・ハンボム)先任研究委員は25日、中国吉林省延辺朝鮮族自治州の州都・延吉の縫製工場に派遣されている北朝鮮労働者が賃金不払いに怒って暴動を起こし、北朝鮮の管理者が死亡する事態が生じたと明らかにした。工場支配人ら3人が重傷を負った可能性もあるという。

暴動が起こったのは今月11日ごろで、現地駐在の北朝鮮当局者が収集を図ったもようだ。賃金の不払いは4−7年にわたり、その総額は約1000万米ドル(約15億円)に上るという。そして、そのカネはすでに「戦争準備資金」として本国に送金されていたとのことだ。

暴動が起きたのは縫製工場だとのことだが、だとすれば、そこに派遣されていたのは北朝鮮の女性労働者たちだ。派遣労働者の数は2500人を数えるという。

管理者を死に至らしめるほどの暴力は、それ自体は肯定できないものの、彼女らの怒りがいかばかりだったかがうかがえる。

北朝鮮の女性労働者が派遣された中国の現場は、環境が劣悪で、コロナ禍においてはほとんど外出ができない彼女たちに対し、権力をかさに着た男性管理者による「密室の性上納」強要も報告されていた。

病気になってもろくに治療を受けることもできず、苦しみのあまり自ら命を絶つ例も漏れ伝わっていた。

賃金搾取も、周知の事実だった。デイリーNKジャパンは2021年10月28日付で、次のように報じている。なお、人民元レートは当時のものだ。

「中国のデイリーNK情報筋によると、中国に派遣された北朝鮮労働者は一般的に早朝4時、6時から深夜10時、12時までの長時間労働に苦しめられている。本来なら中国の労働法で禁じられた行為だが、正式な就労ビザを取得して中国で働いているわけではないので、労働法が適用されないという法の抜け穴を利用し、労働力を搾取しているのだ。

それだけではない。労働者の月給は2800元(約5万円)から3200元(約5万7000円)と、中国当局の定めた最低賃金は上回っているものの、一部の企業では、生活費として50元(約890円)を支給するだけで残りはすべて党資金(忠誠の資金)としてピンはねしている。およそ98%という驚異的なピンはね率だ。

この手のピンはねは以前から存在したが、コロナ禍で受注が減り、忠誠の資金のノルマが達成できなくなったことで、その割合がより高くなり、今では食費などの名目で給料のほとんどが奪われる状況となっている。」

こうした状況に対する怒りが今になって爆発したとすれば、それは、コロナ禍の沈静化を受けて北朝鮮の国境封鎖が解かれ、労働者の帰国が始まったからではないか。労働者たちは、死ぬ思いをしながらカネを貯め、それを家族のもとに持ち帰る日だけを待ちわびていた。

それなのに、渡されるはずの賃金がまったくなかった。あまりの絶望の大きさに、帰国後の処罰のリスクさえ忘れ、行動に出たのかもしれない。【1月31日 デイリーNKジャパン】
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労働者の月給に関する数字は報道によって異なりますが、ほぼ全額がピンはねさる実態にあったようです。

“北朝鮮当局は、滞納した賃金を支払うことで労働者たちをいったんなだめる一方、暴動で主導的な役割を果たした約200人を特定し、半数を本国に送還した。消息筋は「政治犯収容所に送られ、厳罰は免れない」と予測する。

事件は金正恩キムジョンウン朝鮮労働党総書記にも報告され、「北朝鮮首脳部は衝撃を受けている」という。北朝鮮が外貨稼ぎのため中露などに派遣した労働者は同様に劣悪な状況にあり、事件の余波が広がりそうだ。”【2月17日 読売】

しかし、報じられているように人質に取った管理職代表に暴行を加え死なせたとなると、単なる“厳罰”ではなく、“処刑”という話になるのではないでしょうか。北朝鮮というのはそういう国ですから。

【暴動を主導した10人前後を北朝鮮に送還】
そして今日のニュースでは・・・

*****「処刑台」に向かう北朝鮮女性10人…中国での“暴動首謀者”を強制送還****
韓国紙・東亜日報は26日、中国に派遣された北朝鮮労働者約2000人が先月、賃金未払いに抗議して工場を占拠し、大規模なデモを行ったと伝えられる中、北朝鮮当局が暴動を主導した10人前後を北朝鮮に送還したと報じた。

暴動参加者を全員帰国させたくても、国連安保理の制裁決議を気にする中国が同数の新規受け入れに否定的なことから、外貨稼ぎを優先して少数の送還にとどめたのだという。

暴動の現場となったのは縫製工場で、派遣されているのは当局側管理者を除き全員が女性だ。読売新聞によると、20歳代の元女性兵士が多数含まれた労働者らは人質に取った管理職代表を暴行し、死亡させたという。

送還された10人が処刑されるのは、間違いないと見られる。(中略)

管理者を死に至らしめるほどの暴力は、それ自体は肯定できないものの、彼女らの怒りがいかばかりだったかがうかがえる。

デイリーNKの現地情報筋によれば、北朝鮮の女性労働者が派遣された中国の現場は、環境が劣悪で、コロナ禍においてはほとんど外出ができない奴隷労働を強いられていた。中国では過去に、北朝鮮レストランの従業員らが集団で逃亡し、韓国に亡命する出来事があったが、工場労働者たちにはそうした機会は皆無だったと見られる。

病気になってもろくに治療を受けることもできず、苦しみのあまり自ら命を絶つ例も漏れ伝わっていた。

それに耐えたのは、故郷の家族に送金したい一心からだ。その唯一の希望を裏切られ、怒りを爆発させたのだろう。

東亜日報によれば、未払いは北朝鮮労働者が派遣された工場全体にわたっている。北朝鮮当局は現地駐在の貿易会社からカネをかき集め、一部を支払って労働者らをなだめようという。しかし未払い金額が数千万ドルにも及ぶことから、それも容易ではなく、当局は暴動の連鎖を懸念しているという。【2月28日 デイリーNKジャパン】
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【意外な「成績に応じてボーナス支給」】
北朝鮮に関する常軌を逸した話はとりあげるとキリがありませんが、別視点の最近のニュースから2件。

****「成績に応じてボーナス支給」金正恩の政策で北朝鮮に微妙な変化****
旧ソ連型の中央司令型計画経済の決定的な問題は数々あるが、その一つが「悪平等」だ。頑張って働いてもサボっていてももらえる給料は同じとなれば、誰も働く気にはならないだろう。

働かせるために、過大なノルマを課して達成を強いるキャンペーンを繰り返したが、質の悪い製品が大量に生み出されるだけだった。そんなことを2024年の今に至るまで続けているのが、北朝鮮だ。

一般労働者の月給は3000北朝鮮ウォン(約51円)で、コメ1キロすら買えない超のつく薄給だ。昇進すれば多少は上がるものの、それだけで生活が成り立たない状況には変わりはない。その結果、人々はワイロを使って職場を休み、商売に精を出したり、権限を利用してワイロを要求したりする。

そんな状況に若干の変化が生じつつある。一部企業に限られるが、昨年末から月給が10倍から35倍と大幅に引き上げる措置が取られた。そして、時期を同じくしてボーナスの支給も行われたと、複数のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

平安南道(ピョンアンナムド)、両江道(リャンガンド)、江原道(カンウォンド)のデイリーNK内部情報筋によると、一部の企業所は、年末総和(決算)を経て、年間のノルマを短期間で達成した労働者に、「社会主義競争総和金」と称してボーナスを支給した。

北朝鮮当局は農業、軽工業、重工業など部門別に地域や工場間での競争を誘導し、成果を上げる目的で社会主義競争総和を実施してきた。

このようなことは、各地方の朝鮮労働党委員会の関連部門が主催することが多い。ただ、昨年末に支給された社会主義競争総和金は、当局ではなく、企業所が独自に支給したという。

平安南道の内部情報筋は「生産性向上に貢献した労働者に言葉だけの形式的な励ましではなく、お金や現物で実質的な激励をするのが金正恩総書記の時代の特徴だ」として、ボーナスが支給されたことを伝えた。

大規模な企業所では、労働者の成績を集計し、1位から5位あるいは10位までの労働者にボーナスが支給された。江原道の某企業所では、最大で30万北朝鮮ウォン(約5100円)が、両江道の某工場では10万北朝鮮ウォン(約1700円)が支給された。

4人家族の平均的な1カ月の生活費は50万北朝鮮ウォン(約8500円)と言われており、充分とは言えなくとも、暮らし向きの助けになる金額だ。ただ、国営米屋の「糧穀販売所」での穀物価格も大幅に引き上げられており、実質賃金が上がったとは言い難い。

また、これほどの大金を支給されたのはごく一部の人に限られており、大半の労働者は依然として苦しい生活を続けている。(後略)【2月23日 デイリーNKジャパン】
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これまで市民の生活を支えてきた市場での取引を抑圧して時代を逆行させている金正恩政権で成績に応じた「ボーナス」というのは意外な感がありましたが、人々を利益を生み出さない国営企業に縛り付け、職場を通じた食糧配給で人々をがんじがらめにしていた手法の復活を目指す・・・ということでしょうか。

そもそも、一般労働者の平均的月給でコメ1キロすら買えない・・・経済体制の土台が狂っています。(男性はコメ1キロも買えない仕事に縛り付けられていますので、女性が合法・違法な経済活動で生計を支えています)

【砲弾を提供したロシアからの見返り食糧支援で食糧事情やや持ち直し】
外交面ではウクライナで苦しむロシアと接近しているということは報じられていますが、砲弾提供の見返りにロシアから食糧支援を受けて、北朝鮮の食糧事情は持ち直し傾向にあるとか。

****ロシア、北朝鮮に大規模な食糧支援 砲弾数百万発提供の見返りで****
韓国の申源湜(シン・ウォンシク)国防相は26日、北朝鮮がウクライナに侵攻するロシアに数百万発の砲弾を提供する見返りとして、大規模な食糧支援をしていると韓国記者団に明らかにした。ロシアの支援により、北朝鮮国内の食糧価格が安定傾向にあるという。

申氏によると、昨年夏以降に北朝鮮からロシアに入ったコンテナは約6700個で、152ミリ砲弾と仮定すれば300万発以上に相当するという。北朝鮮の軍需工場は電気不足から稼働率が3割程度ともされるが、砲弾などを生産する一部工場をフル稼働させて、ロシアの需要に応えているという。

北朝鮮が1月から繰り返し巡航ミサイルの試射を行っていることについては、一部、ロシアへの輸出も視野に入れているとの見方を示した。

一方、ロシアから北朝鮮に渡ったコンテナの量は北朝鮮からロシアに渡った量よりも3割程度多い9000個と推定した。国防省は中身の大半は食糧で生活必需品も含まれているとみている。

北朝鮮は戦闘機などの装備をロシアに求めているとされる。申氏はプーチン露大統領が表明した人工衛星に関する技術協力が進むと見ており、「ロシアがどれだけ支援するかは未知数だが、北朝鮮から砲弾支援を受ければ受けるほど、(北朝鮮に対して)提供するものも増えるだろう」と述べた。

北朝鮮が昨年11月に打ち上げた軍事偵察衛星「万里鏡1号」は、軌道は正常に回っているが機能していないという。【2月27日 毎日】
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ただ、北朝鮮製ミサイルについてはあまりに質が悪く、ロシアも返品した・・・とも。ロシアはかわりにイランからミサイルを調達するとも。
“「性能悪すぎて衝撃的」ロシアが使用の北朝鮮製ミサイル”【2月26日 デイリーNKジャパン】
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