孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

カンボジア  野党急追に“なりふり構わぬ”フン・セン首相 野党・メディア弾圧と労働者懐柔

2017-09-04 23:00:37 | 東南アジア

(工場労働者に対し産休中の給与引き上げを約束するフン・セン首相 その一方で・・・ 画像は【8月26日 CAMBODIA BUZINESS PARTNERS】)

21回目の来日
ほとんどニュースにもなりませんでしたが、先月初め、カンボジアのフン・セン首相が来日しました。

****晩餐会での安倍首相挨拶****
「改めてフン・セン首相の訪日を心から歓迎いたします。フン・セン首相は長年にわたる日本の親しい友人であり、今回でなんと21回目の訪日となります。つい一昨日誕生日を迎えられたことを、まず皆様と共にお祝い申し上げたいと思います。
 
日本とカンボジアの関係は、古くは17世紀の初めに、かぼちゃがカンボジアから来たことにさかのぼりますが、近年においてはカンボジア和平が両国の大きな絆であります。(後略)【首相官邸HP】
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21回の来日というのもすごいですが、来日のたびに“カボチャの話”を聞かされているのでしょうか。
これだけ足繁く訪日するのも、それだけのメリットがカンボジアにとってあるからでしょう。

****フン・セン首相来日 日本政府2億4400万ドルを援助予定 ****
日本政府は、プノンペンでの洪水防止と排水機能改善のプロジェクトの実施、シアヌークビル深海港での新しいコンテナターミナルの開発のために、カンボジアに無償資金協力・無利子融資として、2億4400万ドルを提供する予定である。(後略)【POSTE】
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来日回数が多い単純な理由は、フン・セン首相が1985年以来、32年に及ぶ長期政権を維持しているからでもあります。

フン・セン首相が長期政権を維持できているのは、良く言えば、内戦後のカンボジアが成長軌道に乗っているからであり、悪く言えば、フン・セン首相の批判を許さない強権姿勢があってのことです。

経済成長と格差拡大
強権政治による政治的安定に支えられたカンボジアの経済成長も、他の途上国同様に格差という歪も生んでおり、必ずしも全国民から支持されている訳でもありません。

****風 プノンペンから)発展と格差、「民意」の行方は****
空港に向かって機体が徐々に高度を下げていく。窓から見えるのは、あちこちで建設が進む高層ビルだ。13年前、初めてカンボジアの首都プノンペンを訪れた時、高い建物はほとんどなかった。それがいま、この街では建設ラッシュが続く。
 
中心部にある大型のショッピングモールは、週末ともなると駐車場に車があふれ、おしゃれなカフェやレストランがあちこちにできた。郊外では、瀟洒(しょうしゃ)な一戸建てが並ぶ住宅街の開発が次々に進む。
 
ショッピングモールに来ていた男性(30)は「ここは品質が一番。多少は高くてもいいものがほしい」と話す。外資系の会社に勤め、食事も週に2回はここに来る。地場の飲食店に比べるとかなり割高だが、「給料はまあまあもらっているから」と笑った。首都の表情のこの変わりようは、この国の経済発展の一つの証しなのだろう。
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カンボジアは長い間、混乱と戦乱の中にあった。自国民を虐殺したポル・ポト派は1979年に政権を追われたが、その後も91年まで内戦が続く。総選挙にこぎつけたのは93年。東南アジア諸国連合(ASEAN)に加わったのは99年と、加盟10カ国の中で最も遅い。
 
だが、ここに来て7%前後の経済成長が続く。人件費の安さや外資規制の緩さ、インフラ整備の進展などに合わせ、首都だけでなくタイ、ベトナム国境の経済特区にも工場の進出が相次ぐ。「政治的な安定」(企業関係者)もそれを後押しする。
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ただ、経済発展にはひずみも伴う。プノンペンの高層ビルの建設現場のそばに、労働者らが住み込むバラックが広がる。南部のカンダール州から来たソー・チェットさん(30)は「地元には仕事がないからここで働くしかない」と話す。
 
1年前、妻と一緒に農村から出稼ぎに来た。月収は夫婦で計約300ドル。地元にも建設現場があるが、賃金は首都の3分の1という。先月、娘が生まれたが、この暮らしをやめる気はない。

「お金をためて地元に自分たちの家を建てたい」。首都と地方の発展ぶりの差について聞くと、「不公平だとは思う」とぽつりと言った。
 
格差は広がり続ける。都市でも地方でも、開発に伴う住民の強制退去や土地の収奪、汚職などの事案も後を絶たない。
 
「政治的な安定」は、長きにわたるフン・セン首相の強権支配のたまものでもある。政府への批判を辞さないNGOやメディア、野党などへの圧力、締め付けは強まる一方だ。
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カンボジアは来年7月、総選挙を迎える。今年6月の地方選挙では与党が勝利を収めたものの、野党も善戦した。総選挙では与党がさらに苦戦するとの見方もある。

「今の発展はいびつだと市民が気づき始めた。経済発展は必ずしも、与党に有利に働かないと思う」と、政治情勢に詳しい関係者は語る。
 
だれのための発展なのか。果実はどう分配されているのか。「民意」の行方を、自らの五感で確かめてみたい。【8月28日 朝日 アジア総局長貝瀬秋彦氏】
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別に“「民意」の行方を五感で確かめる”ためではなく、単なる観光旅行ですが、今年12月には3回目のカンボジア旅行をを予定しています。アンコールワットのあるシェリムアップで、まったりとすごす予定です。

アンコールワットは15年ぶり、カンボジアは10年ぶりですが、近年の経済成長で大きく変化していると思われます。10年間、夕暮れのプノンペンで車が行き交う道路を、観光客相手の“お勤め”を終えたゾウがノシノシ歩く姿に感動しましたが、今はそんな光景は見ないとか。また当時は、地雷で足を失った子供たちも街中で目にしました。

ポル・ポト政権や内戦を知らない若年層の増加で野党台頭 長期政権に危機感
****地方選で野党躍進=最終結果発表―カンボジア****
カンボジア国家選挙管理委員会は(6月)25日、地方選(4日投票)の最終結果を発表し、フン・セン首相率いる与党・人民党の勝利を確認した。一方、最大野党・救国党も躍進した。
 
公式結果によると、全国1646の行政区(コミューン)評議会のうち人民党が約7割に当たる1156の評議会で第1党となった。

一方、議席数では計1万1572議席中、人民党が得票率50.7%で6503議席、救国党は同43.8%で5007議席を獲得した。
 
前回2012年の地方選は人民党が9割を超える評議会と7割以上の議席を制して圧勝したが、今回の選挙では人民党と救国党の差が大きく縮まった。【6月25日 時事】
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野党・救国党の躍進の背景としては、成長の歪などのほか、“ポル・ポト政権や内戦を知らない若年層の増加、Facebookなどのソーシャルメディアが浸透したことで情報の入手が容易になったこと、党の公約がより豊かな生活を求めるようになった国民の願いを汲み取る具体的な内容であったこと”【ウィキペディア】が挙げられています。

フン・セン首相は、良くも悪くも、カンボジア内戦という世界にも類を見ないほどの悲劇を国民とともに生き抜いた人物であり、その意味で、多くの国民からの共感を得てきました。

しかし、“ポル・ポト政権や内戦を知らない若年層の増加”というように、時代は変わりつつあります。

長期政権を誇るフン・セン首相も、しりに火が付いた状態で、危機感を強めていると思われます。

野党・メディア弾圧を強化 民主主義の終焉
もとより強権姿勢の評価があるフン・セン首相ですが、そうした危機感を背景に、このところその強権ぶりを強めています。

****最大野党党首を逮捕=「国家反逆」容疑―カンボジア****
カンボジア最大野党、カンボジア救国党のケム・ソカ党首(64)が3日未明、国家反逆容疑により首都プノンペンの自宅で警察当局に逮捕された。

政府側は、同党首が米政府の支援を受け、フン・セン政権の打倒を図ろうとしたと主張している。
 
報道によると、フン・セン首相は「自国を裏切り、外国と共謀した反逆行為」とケム・ソカ党首を非難。共謀相手は「米国だ」と明言した。
 
救国党は、憲法で保障された国会議員の不逮捕特権に反するなどと反発。即時・無条件釈放と「政治的威嚇」の中止を要求する声明を発表した。
 
米国務省のナウアート報道官は声明を出し、「逮捕は政治的動機に基づくとみられる」と指摘した上で、「重大な懸念を持って留意する。ここ数十年の進展の価値を低下させるものだ」と政府側を批判した。
 
カンボジアでは来年7月に総選挙が予定されている。今回の逮捕は選挙を前に救国党の弱体化を図る政治的狙いがあるとみられる。

ケム・ソカ党首が国家反逆罪で有罪となった場合、救国党は総選挙への参加禁止や解党の処分を受ける可能性がある。【9月3日 時事】
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“ロイター通信などによると、政権寄りのメディアが直前に、ケム・ソカ氏が米国の支援を得て、フン・セン政権を転覆しようとしているとの情報を流していた。”【9月3日 朝日】ということで、政府系メディアを動員しての逮捕劇のようです。

救国党は、サム・ランシー氏率いるサム・ランシー党と、今回逮捕されたケム・ソカ氏率いる人権党が2012年に合流して結成された政党です。

初代党首であったサム・ランシー氏は“政治的動機に基づく一連の刑事事件のため、投獄を回避するべく国外滞在を余儀なくされている”【2016年10月25日 ヒューマン・ライツ・ウォッチ】という状況で、フン・セン政権は“(2016年)10月12日、カンボジア路線を持つ全航空会社に対し、ランシー氏を入国させないよう指示を出した”【同上】ということで、“国外追放”処置を実施しています。

そのサム・ランシー氏追放に続き、今回のケム・ソカ党首逮捕ということで、救国党は指導者の両輪を失うことになります。

救国党が総選挙への参加禁止や解党の処分を受けるということになれば、フン・セン首相は安泰でしょうが、カンボジアの民主主義は終わります。

フン・セン首相の弾圧の矛先は政府に批判的なメディアにも向かっています。

****カンボジア英字紙が廃刊 総選挙控えて政権「口封じ」か****
カンボジアの英字紙「カンボジア・デイリー」が4日、廃刊した。

政府から巨額の税金の支払いを求められ、発行を続けることは不可能と判断した。来年7月の総選挙を前に、フン・セン政権が批判的なメディアの「口封じ」を図ったと受け止められている。
 
フン・セン首相は、同紙が税金630万ドル(約6億9千万円)を支払わなければ活動を停止させる考えを表明。4日が支払いの期限だった。同紙によると、1カ月前に突然、支払いを命じられたという。
 
同紙は、今回の課税について「政治的な動機に基づくもの」と反論。適切な監査や誠実な交渉を呼びかけたが、受け入れられなかったという。最後の発行となった9月4日付の紙面では「政府がカンボジア・デイリーを破壊した」と強く非難した。
 
同紙は、1975年の昭和天皇との単独会見でも知られるバーナード・クリッシャー米誌ニューズウィーク元東京支局長が、カンボジア内戦終結後の93年に創刊。「恐れず、公平な報道」を掲げ、現地のクメール語でも報じてきた。
 
フン・セン首相はこれまで、自身に批判的な内容も載せる同紙について「書かれていることは認めないが、止めはしない」と話し、「報道の自由」をアピールするために同紙を引き合いに出していたが、強硬姿勢に転じた形だ。
 
来年の総選挙では与党の苦戦が見込まれている。劣勢のフン・セン政権は、政権に批判的なメディアやNGO、野党勢力への締め付けを急激に強めている。

8月には最大野党・救国党の番組を放送するラジオ局など10局以上の閉鎖が決定した。また今月3日には、救国党のケム・ソカ党首が、外国人と共謀して政権転覆を謀ろうとしたとして、国家反逆容疑で逮捕された。【9月4日 朝日】
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これまでのような「書かれていることは認めないが、止めはしない」といった“余裕”はもはや失い、“なりふり構わず”といったところです。

なお、フン・セン首相はトランプ大統領のメディア敵視に同調しているそうで、メディア弾圧批判の火の粉はトランプ政権にも。

****カンボジアで言論弾圧か フン・セン首相がトランプ大統領に同調****
米国務省のナウアート報道官は23日の記者会見で、カンボジアのフン・セン政権による言論弾圧の動きがあると指摘、強い懸念を表明した。
一方、AP通信によると、フン・セン首相は、トランプ米大統領のメディア敵視の姿勢に同調している。
 
23日の会見で、APの記者が「トランプ氏の姿勢が、言論の自由を後押しする国務省の取り組みを損ねているのではないか」と問われ、ナウアート氏は「わたしたちは言論の自由を尊重している」とかわした。(後略)【8月24日 産経】
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【“これまで首相が労働者に関心を持っているのを見たことがない”首相の工場訪問
ただ、フン・セン首相は“海千山千”の政治家ですから、“ムチ”だけでなく、“アメ”も忘れていません。

****フン・セン首相 週1回、縫製工場を訪問すると発表****
フン・セン首相は、労働者のニーズと需要をより理解するために、週に1回、カンボジア全土の縫製工場を訪問すると発表した。一部の評者は、来年7月の全国選挙に先立って、有権者にアピールしようとする試みを指摘している。プノンペンポスト紙が報じた。

今月4日の閣僚会議後に発表されたメモによれば、訪問は今月20日から開始し、首相のスケジュールが許す限り、毎週日曜日に労働者と面会する予定だという。閣僚評議会のスポークスマンは、国民の要求に応じて首相は解決策を提供すると述べた。

衣料品労働者の最低賃金は毎年上昇しており、現在では月153ドルとなっている。首相の工場訪問発表は、政府、労働組合、雇用団体がどれだけ賃金を引き上げるかを議論する3者協議が開始する数ヶ月前に始まる。また同スポークスマンは、訪問は必ずしも選挙に関連していないと説明した。

労働者は日曜日勤務しないのにも関わらず、CPP派のカンボジア労働者連合協議会Som Aun会長は、労働者に対し首相に面会し、直接懸念事項を伝えるよう発言。同氏は、日曜日は仕事に影響を及ぼさないため、面会に良いと述べている。

しかし労働組合員のAth Thorn氏は、「これまで首相が労働者に関心を持っているのを見たことがない。今が選挙近い時期であり、工場を訪問しようとしているだけだ」と述べ、首相の訪問についてより懐疑的な姿勢を見せた。

同氏は更に、賃金、失業、労働環境といった問題を理解するためには、工場職員と話すだけでなく、独立労働組合の労働者と会うべきだと指摘。

政治アナリストのCham Bunteth氏も、首相の訪問が重要な国家選挙に先立った単なる政治的なものではないことを願っていると述べ、「選挙前の1年間や数か月のみではなく、一貫して実行するべきだ」と発言した。

現在、縫製産業は、100万人近い労働者を雇用している。【8月9日 CAMBODIA BUZINESS PARTNERS】
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“これまで首相が労働者に関心を持っているのを見たことがない”首相の工場訪問・・・・“いかにも”といった感があります。

****フン・セン首相 工場労働者に対し産休中の給与引き上げを約束****
23日、フンセン首相は労働者たちと面会し、産休中の給与を引き上げるとした。クメールタイムズ紙が報じた。

首相は、PPSEZ内の数千人もの労働者との会合において、女性労働者は産休中の3カ月間において最低賃金の120%を受け取ることができると述べた。これまで、労働法により1年間継続して勤務を行った女性労働者には出産休暇中の3ヶ月間は、賃金総額の50%の手当を受けることができるとされている。

また、首相は、雇用者に対し、妊娠中に定期的な健康診断を受けるための施設の開設も求めたと付け加えた。これまでに首相は、公共バスの無料化、最低賃金引上げ、健康保険等の一連のサービスの提供をすでに約束している。【8月26日 CAMBODIA BUZINESS PARTNERS】
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あの手この手で、支持つなぎ止めに躍起のようです。

今はどうかは知りませんが、かつてのカンボジアの選挙は金品バラマキで票を集めるというのはごく日常的な光景だったとか。

それに比べれば、首相が労働者の声に耳を傾け、待遇改善を約束するというのは“いいこと”ではありますが、野党・メディア弾圧と表裏の関係にもあることを考えると、素直に評価できないものも感じます。

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