孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル  年内にイランの核施設に大規模な攻撃を加えることを検討しているとの報道

2025-02-23 23:39:28 | イラン
(エルサレムでの記者会見で、握手するマルコ・ルビオ米国務長官(左)とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相(2025年2月16日撮影)【2月17日 AFP】)

【ガザ・レバノン南部でイスラエルは強気姿勢】
パレスチナ・ガザ地区での停戦は第1段階は残り約1週間となりましたが、イスラエル軍の撤退・人質全員の解放・戦闘の恒久的終結を含む第2段階に進めるのかは厳しい状況になっています。

****「屈辱的な式典やめよ」イスラエル首相がハマスとの身柄交換を延期 政治宣伝利用に反発****
イスラエル首相府は23日、イスラム原理主義組織ハマスとの停戦合意に基づく身柄交換の実施を延期すると表明した。ハマスが人質引き渡しの際に行う式典は「屈辱的で、人質を政治宣伝のために利用している」とし、式典の停止と次回の人質解放の確実な履行を身柄交換を継続する条件に挙げた。

ハマスは1月19日の停戦発効後、人質解放の際にパレスチナ自治区ガザで式典を行うことを定例化した。22日は6人を3回に分けて解放したが、うち2人が解放された南部ラファの式典では、大勢の住民の前で覆面戦闘員が設置された演壇に上り、解放を仲介する赤十字国際委員会(ICRC)の職員と文書を交換したり、引き渡し前の人質を登壇させたりした。

イスラエルや後ろ盾の米国は、ハマスの壊滅や戦後のガザ統治からのハマス排除などを主張している。ハマスは解放時の式典でいまなお多数の戦闘員と武器を擁し、住民の支持もあると誇示する狙いとみられる。

イスラエルは人質解放の引き換えに、22日にも拘束・収監した600人超のパレスチナ人を釈放するとみられていた。

停戦合意の第1段階は残り約1週間で、ハマスはこの間に人質33人を解放する。停戦恒久化を目指す第2段階の工程を決める協議は難航が予想されている。【2月23日 産経】
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ハマスは停戦の第2段階への移行についても「準備は整っている」としており、戦力が大幅に低下した現状での戦闘再開を防ぎたい意向と思われます。

しかし、イスラエル・ネタニヤフ政権内ではハマスの壊滅を求める極右閣僚らを中心に、軍の完全撤退や戦闘終結への反発が根強くあります。今回の身柄交換延期もハマスに圧力をかけ、もしハマス側が反発して第2段階移行が破綻するなら、それはそれでかまわない、むしろ好都合・・・といった感じも。

レバノンでのヒズボラとの停戦も、イスラエル側の強気姿勢が目立ちます。今月18日までに戦場となった南部からイスラエル軍とヒズボラが撤退し、中立の立場にあるレバノン国軍がUNIFIL(国連レバノン暫定軍)の支援を受けて治安維持にあたることで合意していますが、イスラエル側は停戦合意が完全に履行されていないとしてレバノン南部の5か所で駐留を継続するとしています。

当初は1月26日が期限でしたが、イスラエル側の主張で2月18日まで延期された経緯があります。

【昨年来のイラン・イスラエル双方の直接攻撃 明らかになるイスラエルの優位性 イラン防御態勢の弱体化】
イスラエルにとっては、ハマス壊滅やヒズボラの戦力を削ぐことも重要ですが、やはり本丸は背後に控えるイランを叩くことでしょう。

イスラエルとイランの対立は、1979年のイラン革命で反米政権が成立して以来、45年間続いていますが、両国は一昨年までは互いに直接戦火を交えることは避けてきました。
その状況が変わったのが昨年。

2024年4月1日には、イスラエルによるとみられる、在シリア・イラン大使館への空爆が行われ、イラン革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」の将官ら13人が死亡。これへの報復としてイランは4月13日に、ドローンや弾道ミサイルなど300発以上をイスラエルに向けて発射しました。

そして4月19日には、イラン中部イスファハンでイスラエルによるとみられる報復攻撃が行われました。発射されたミサイルは3発で、イスファハン近郊のナタンツにある核関連施設を守るために配備された防空レーダーを攻撃したと報じられています。

イスラエルはこの攻撃で、イランが核施設を守るために配備した防空網をかいくぐり、精密攻撃できる力を誇示したことになります。

その後、イランの首都テヘランでは7月、同国が支援するパレスチナのイスラム組織ハマスの最高指導者ハニヤ氏が暗殺されましたが、イスラエルの作戦とみられています。イスラエルは9月27日には、同じくイランが後ろ盾となっているレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの最高指導者ナスララ師を空爆で殺害。

これに対し、イランは10月1日、弾道ミサイル約180発を敵対するイスラエルに向けて発射、報道によれば、落下した破片でイスラエル人2人が負傷、ヨルダン川西岸でパレスチナ人1人が死亡。

イスラエル軍は10月26日未明、報復として「イラン国内の軍事目標を標的とした精密な攻撃」を実施。
3波の攻撃が行われたとのことで、ミサイルやドローンの基地と生産拠点が標的だった報じられています。

****イラン革命防衛隊のミサイル・宇宙開発拠点、イスラエル軍の報復で大打撃か…軍事筋「発表よりも被害大きい」****
AP通信は29日、衛星画像の分析結果に基づき、イスラエル軍がイラン北部セムナン州にある精鋭軍事組織「革命防衛隊」のミサイル・宇宙開発拠点を攻撃していたと報じた。26日のイスラエルによる報復を巡っては、革命防衛隊の施設は攻撃されていないと報じられていた。報道が事実なら、大きな打撃を受けたことになる。

APによると、攻撃を受けたとされる施設は首都テヘランの北東約370キロに位置し、革命防衛隊のミサイル製造施設や宇宙開発に関係する航空センターがある。在イラン軍事筋は「実際の被害は発表よりも大きいだろう。人的被害も出ているのではないか」と指摘した。(中略)

米ニュースサイト「アクシオス」は15日、イスラエルが10月下旬にイラン領内へ加えた攻撃で、首都テヘラン近郊パルチンにある稼働中の核兵器研究施設を破壊していたと報じた。イランは核兵器開発の意図を否定しているが、核兵器起爆に必要な爆発物を設計する機材に打撃を与えたという。【10月30日 読売】
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一連の攻撃の応酬を見ると、やはりイスラエル側の軍事的優位が窺えます。イラン側は防空体制などにも大きな被害が出ていると思われます。

【トランプ大統領 イランへの「最大限の圧力」政策を復活】
ただ、イスラエル・アメリカにすれば、イランが通常兵器で弱体化すれば、(ハマス・ヒズボラの弱体化、アサド政権崩壊という影響力低下もあって)核兵器製造に走る・・・という懸念もあります。

****弱体化したイラン、核兵器製造する可能性=米大統領補佐官****
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は(昨年12月)22日、バイデン政権は弱体化したイランが核兵器を製造することを懸念していると語った。トランプ次期政権のチームにもそのリスクについて伝えたという。(中略)

イランは自国の核開発は平和的目的に基づくものと説明しているが、トランプ前政権が制裁緩和と引き換えにイランの核開発に制限を加えるという核合意から離脱して以来、イランはウラン濃縮を拡大している。

サリバン氏は、イランが核兵器を製造しないという約束を放棄するリスクがあると警告。「それは、私たちが今警戒しているリスクであり、私が個人的に次期政権チームに説明しているリスクだ」と述べ、米国の同盟国イスラエルとも相談したと語った。

来年1月20日に就任するトランプ次期大統領は、イランの石油産業への制裁を強化し、強硬なイラン政策に回帰する可能性がある。

サリバン氏は、イランの弱体化を考えれば、「トランプ氏は今度こそ、イランの核開発を長期的に抑制する核合意を実現できるかもしれない」と語った。【2024年12月23日 ロイター】
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第2次トランプ米政権発足の翌日の1月21日、イランの最高指導者ハメネイ師が突然、核兵器開発を禁じたことが発表されました。制裁緩和に向けた交渉開始を求めるシグナルではないか・・・とも見られましたが、トランプ大統領はイランに対する「最大限の圧力」政策を復活させる大統領覚書に署名。ただし、『ぜひ素晴らしいディール(取引)をしたい』とも話し、交渉の余地があることを示しています。

「最大限の圧力」政策では、イランの核兵器保有を阻止するため、原油輸出を完全に停止させることを目指しています。

これに反発するイランの最高指導者ハメネイ師は2月7日、軍関係者との会合で、アメリカとの交渉は「賢明ではない」と語り、アメリカとの対話を進めるべきではないとの方針を示しました。

このあたりの話は2月8日ブログ“イラン トランプ大統領の「最大限の圧力」再開に対し、最高指導者は米との交渉を拒否”で取り上げたところです。

改革派とされるイランのペゼシュキアン大統領も対米強硬姿勢を見せています。

****イラン大統領、トランプ氏の交渉姿勢に不信感 各地で反米集会****
イランのペゼシュキアン大統領は10日、米国が誠実にイランとの交渉を求めているのか疑問を呈した。

トランプ米大統領は先週、イランに「最大限の圧力」をかける政策を復活させるととともに、ペゼシュキアン大統領との会談に前向きな姿勢を示した。

ペゼシュキアン大統領はテヘランのアザディ広場で演説し「米国が交渉について誠実であれば、なぜわれわれに制裁を科したのか」と発言。「(イランは)戦争は望んでいない。だが、外圧には屈しない」と述べた。

イランの国営テレビによると、全国各地で1979年のイスラム革命を記念する集会が開かれ、参加者は「米国に死を」「イスラエルに死を」と口々に叫んだ。【2月10日 ロイター】
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【イランへの大規模攻撃を予定するイスラエル これを避けたいイラン トランプ大統領との取引希望か】
一方、イランの核兵器保有を安全保障上の最大問題とするイスラエルは、この際イランの核兵器製造能力を徹底的に叩きたいところ、できれば体制を転覆させたい思いも。WSJは、イスラエルが今年中にイランの核施設に大規模な攻撃を加えることを検討していると報じています。

ただ、イスラエルもアメリカの意向を無視できないので、トランプ大統領へイラン攻撃へのゴーサインを求めている段階と思われます。

****イスラエルがイランの核施設の大規模爆撃検討か 「トランプ氏の支持求めて圧力高めるだろう」と報道****
イスラエルがイランの核施設に対する大規模な爆撃を検討し、トランプ大統領に支持を求めて圧力を高める可能性があると報じられました。

ウォール・ストリート・ジャーナルはアメリカ政府当局者の話として、イスラエルがイランの核施設に対して大規模な爆撃を今年中に行うことを検討していると報じました。

アメリカの情報機関が今年の年明けにまとめた分析の中に盛り込まれたもので、トランプ大統領の就任後にも改めて報告されたとしています。

報告書では、バイデン前大統領と比べてトランプ大統領の方が爆撃に協力する可能性が高いとみて、イスラエルがアメリカの支持を求めて圧力を高めるだろうと分析しているということです。

トランプ大統領はイランに対して「最大限の圧力」をかける大統領令に署名した一方で、今月10日にはイランの核開発をめぐって「ディール=取引ができると思う」との考えを表明。「イスラエルがアメリカの支援や許可を得てイランを爆撃するとみんな思っているが、私はむしろ、取引をして、核兵器がないようにしたい」と発言しています。【2月13日 TBS NEWS DIG】
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表向きの強気発言とは異なり、イランはイスラエルによる3回目の大規模攻撃、イラン体制にとって致命傷ともなりかねない攻撃を防ぐため、ペゼシュキアン・イラン大統領はトランプ大統領との「取引」に応じるように国内で働きかけているとも。

問題はイスラエルの出方です。

****<イランがトランプ大統領と交渉したい理由>最大の危機に止められないイスラエル、日本に橋渡しを頼む動きも****
フィナンシャル・タイムズ紙の1月28日付け解説記事‘Iran rethinks confrontation with Donald Trump’が、「イランは、イスラエルの攻撃を受けて弱体化している。イラン側は弱みを見せたくないが、イスラム革命体制存続のためにトランプ大統領との取引を望んでいる」と指摘している。要旨は次の通り。

イランは、1980年代のイラン・イラク戦争以来で最大の危機を迎え、トランプ大統領の就任前から静かに同大統領に対する姿勢を変えている。つまり、イランは、ここ何年間で最も脆弱となっており、イラン政府関係者は対決を避け、トランプ大統領とのディールを望んでいる。

イラン側が嫌うトランプ大統領の復権は、核開発問題で西側との交渉が土壇場ぎりぎりのタイミング、かつ、イランとその代理勢力との一連の戦闘で勝利したネタニヤフ・イスラエル首相が大胆になり、このイラン側の敗北により中東のパワーバランスが変わっている時に起きた。

イスラエル側はイランへの2回の報復攻撃の結果、イランの防空網の大部分を破壊し、イランの重要な代理勢力であるヒズボラを弱体化させたと主張しているが、その結果、専門家は、イラン側はトランプ大統領を刺激したり、イスラエルや米国と軍事的に衝突したりすることを避けたいと思っていると分析している。

トランプ大統領は、第1期政権でイラン核合意から離脱し、対イラン制裁を再開したが、イランとディールしたがっている可能性がある。彼は、イラン側との外交的解決が可能かどうかを探るために中東問題特使としてウィットコフ氏を任命した。

他方、西側外交筋によれば、改革派のペゼシュキアン・イラン大統領は、イラン経済への圧迫を減じるために交渉による問題の解決を望んでいるというシグナルを発している。

もちろん、その様なシグナルが発せられるのは、イランの立場が弱くなり、米国とイスラエルの武力衝突を避けたいという思惑もある。しかし、同時に、この外交筋は、もし、交渉が決裂する場合、イランは西側と衝突するだろうとも警告し、イランのウラン濃縮は兵器級のレベルに近づいており、今こそ言葉ではなく行動が必要だとしている。

イラン国内では改革派がハメネイ最高指導者と革命防衛隊に、これがイスラム革命体制存立の危機を回避する最後の機会だとして交渉するよう圧力を掛けている。しかし、イランの専門家は、イラン側が追い詰められて交渉せざるを得なくなったと見られたくないと思っていると分析している。

専門家によれば、イスラエルの攻撃でイランとその代理勢力がダメージを被った結果、イランの域内における影響力が減じ、イラン側はトランプ大統領がイランに対する「最大限の圧力」を一層強めたり、イスラエルにこれ以上攻撃されたりするのを避けるためにトランプ大統領と取引をしたいと考えている。

英国王立国際問題研究所のヴァキール中東部長は、「イランが何かより大きな譲歩をしない限り、トランプ政権が支援するイスラエルの3回目の攻撃があり得る。これは、イスラム革命体制の存続、つまり、イラン経済、イスラム革命体制とその正統性の回復が掛かっている」と述べている。
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イランの交渉に向けた動き
(中略)(弱体化した)イランはトランプ大統領との取引を望んでいる、という上記の解説記事の分析には同意できる。

2024年11月、(イラン側は否定しているが)イランの国連大使がトランプ大統領の側近と見なされているイーロン・マスク氏と会談したと報じられ、また12月23日、共同通信は、イラン政府関係者が日本にトランプ大統領との橋渡しを頼むことを検討していると報じた。

これらのことは、イランが真剣にトランプ大統領との取引を望んでいることを示唆している。イラン側はトランプ大統領の要請による19年の故安倍晋三元首相のイラン訪問の前例から日本に要請する可能性を検討したのかも知れない。

しかし、問題はイスラエルだ。昨年の4月にイスラエルがダマスカスのイラン大使館を空爆して以来、イスラエル側は、ハマス、ヒズボラ、フーシー派といった個々の代理勢力に大きなダメージを与えても、その黒幕のイランのイスラム革命体制が存続する限り、根本的にイスラエルへの脅威が無くならないと考え、イスラム革命体制自体の崩壊を視野に入れている可能性があり、懸念される。その場合、トランプ大統領もイスラエルを止めるのは困難だろう。

イスラエルの2つの攻撃オプション
イスラエルは自国の安全保障について妥協がなく、かつ、現状をイラン攻撃の好機と考えてもおかしくない。ただし、問題は地続きのガザやレバノンと違い、イスラエルからイランまで千キロ以上ある事だ。

恐らくイスラエル側は2つのオプションの合わせ技で来るのではないか。一つ目は、既にイラン経済は、今も続く第1期トランプ政権の経済制裁再開で相当疲弊しているが、イスラエルが石油積み出し施設を破壊して全輸出の85.5%を占める石油輸出を止めればイラン経済は崩壊し、生活苦から国民の暴動が起きる可能性が高い。

もう一つは、イランの少数民族による分離独立運動だ。イランは多民族国家であり、人口の約半分がペルシャ人だが、アゼルバイジャン人、クルド人、アラブ人、バルチスタン人等の多くの少数民族がいる。そして、クルド人、アラブ人、バルチスタン人の間では分離独立運動が絶えず、テロも時々起きている。イスラエルはこれらの少数民族の分離独立運動を武器や資金面で支援することが出来る。

しかし、40年以上掛けて構築されたイランのイスラム革命体制は強固であり、イスラム革命体制側も相当なダメージを受けるが、最終的には生き残るのではないかと思われる。ただし、生き残ったとしても、しばらくの間はイスラエルに対する脅威とはならないであろうから、イスラエルはそれで満足するかもしれない。

いずれにせよ、現在、ガザやシリアに国際世論の目が向いているが、中東最大の不安定要因はイスラエルによるイラン攻撃である。【2月21日 WEDGE】
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