孤帆の遠影碧空に尽き

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ナイジェリア  ある少女の快挙が際立たせる誘拐拉致による教育崩壊の現実 

2021-05-04 22:42:53 | IT AI

(武装集団による襲撃を受けた学校の空っぽの教室【3月2日 CNN】)

 

【「娘の経験がナイジェリアの若者たちの励みになってくれたら素晴らしい」】

西アフリカ・ナイジェリアの少女の快挙に関する明るい話題

 

****ナイジェリアの17歳少女、北米19大学に奨学金付き合格 ハーバード、エールなど****

ナイジェリアの高校を卒業した女子生徒が今年、米国とカナダの計19大学から学費全額免除の奨学金付き合格を勝ち取った。

 

ビクトリー・インカバンジョさん(17)はCNNとのインタビューで「こんなにたくさん出願したのは、どこにも受からないかと思ったから」だと話した。

 

実際には米国のハーバード、エール、プリンストン、ブラウンなど「アイビーリーグ」と呼ばれる名門私立大学やスタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)、ジョンズ・ホプキンス大学などから、学費全額免除が可能な合格通知が届いた。さらにカナダのトロント大学、ブリティッシュ・コロンビア大学にも奨学金付きで合格。提示された奨学金の総額は推定500万ドル(約5億5000円)を超えた。

 

ビクトリーさんは毎日、夢ではないと自分に言い聞かせているという。

高校時代は教師の補佐役を務める「監督生」に選ばれ、昨年末には西アフリカ高校認定試験(WASSCE)でオールAを取って全国のトップに立った。

 

英ケンブリッジ大学国際教育機構の国際中等教育修了試験(IGCSE)では、受験した6科目すべてで最上級「Aスター」の評価を受けた。

 

ビクトリーさんはこれまでの努力を振り返り、「私には合格する資格があるという自覚がゆっくりと芽生えてきた」と話す。

志望する分野は計算生物学だが、どの大学を選ぶかはまだ検討中だという。

 

ビクトリーさんの母でラゴス大学の上級講師を務めるチカさんは、名門大への進学は米国で育ったナイジェリア系米国人が有利なのに対し、ビクトリーさんは国内の学校の卒業生だと指摘。「娘の経験がナイジェリアの若者たちの励みになってくれたら素晴らしい」と語った。【5月3日 CNN】

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アメリカの大学は日本のような入学試験ではなく書類審査が基本だと聞いていますので、ナイジェリアにいてもこういうことが可能なのでしょう。

 

もちろん、本人の天才的な才能に加え、母親がラゴス大学上級講師という恵まれた家庭環境もあってのこと。

 

【北部を中心に学生の誘拐拉致が日常化・ビジネス化している現実】

このビクトリー・インカバンジョさんの話は素晴らしいことで、とやかく言うことは何もありませんが、このニュースを呼んで感じたのは、現在のナイジェリアの危機的教育環境との「落差」

 

イスラム過激派武装組織「ボコ・ハラム」による女子学拉致事件(2014年4月 ボルノ州の公立中高一貫女子学校から276名の女子生徒が拉致された事件が世界的に衝撃をあたえましたが、ナイジェリアではその後も学生を狙った誘拐拉致が日常化しています。

 

最近では・・・

 

****大学から誘拐の学生、さらに2人殺害で犠牲者5人に ナイジェリア****

アフリカ西部ナイジェリアで、北西部カドゥナ州の大学から誘拐された学生2人が殺害された。州当局が26日に明らかにした。誘拐されて殺害された同大の学生はこれで5人になった。

 

カドゥナ州のグリーンフィールド大学からは、20日に学生20人と教職員3人が拉致されていた。

 

同州治安当局はフェイスブックに掲載した声明の中で、グリーンフィールド大学の学生がさらに2人、武装集団に殺害され、26日に遺体が収容されたと発表した。

 

同大から拉致された学生は、先に3人が殺害され、学校に隣接する村で23日に遺体が見つかっていた。

 

カドゥナ州のナシル・エルルファイ知事は、犯人グループとの交渉には応じない姿勢を崩していない。

ナイジェリアのムハンマド・ブハリ大統領は24日、カドゥナ州で繰り返される誘拐・殺人事件を「野蛮なテロ攻撃」と形容した。

 

同州やナイジェリア北部では身代金目的の誘拐事件が頻発し、守りが手薄と見なされた学校が狙われている。【4月27日 CNN】

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「ボコ・ハラム」のようなイスラム原理主義にもとづく犯行というより、いろんな犯罪集団による身代金目的の誘拐が「ビジネス」化しているようです。

 

ただ、イスラム過激派もこうした犯罪集団とのつながりがあるようです。

 

****生徒拉致のビジネスモデル、ナイジェリアで定着****

ナイジェリア北部一帯では身代金目的の拉致ビジネスが盛んだ。学校の生徒たちが最も人気の「商品」となっている。

 

3月11日の深夜、カドゥナ州の軍養成大学から約270メートルの距離にある大学に、銃を持った男11人が乱入し、数十人の学生を寮から連れ去った。それから12時間もたたずに、実行犯たちは フェイスブック に画質の悪い動画を投稿し、今や当たり前となった要求を出した。

 

連邦林業大学から連れ去られた人質の1人は、上半身裸で森の中の空き地に座らされ、おびえながら「彼らは5億ナイラを要求している」と語った。これは約100万ドル(約1億0900万円)に相当する額だ。

 

マスク姿でカラシニコフ自動小銃を持った男たちは、39人の学生の周囲を歩き回った後、牛追いのムチで学生たちを打ち始めた。学生の大半は若い女性だった。

 

女性の1人は「私たちの命が危険にさらされている。とにかく要求されたものを渡して」と叫んだ。

 

3月13日には、そこから約80キロ以内の寄宿学校で300人以上の生徒が拉致されそうになり、ナイジェリア軍がこれを阻止した。翌日には、ナイジャ州スレジャで子どもを含む11人が拉致された。

 

ある週末に相次いで起きたこれらの事件は、アフリカで最も人口の多いナイジェリアで日常化している残忍なビジネスの一端にすぎない。

 

昨年12月以降、重装備の犯罪集団が身代金目的で拉致した生徒・学生の数は、800人以上に上る。こうした事件はナイジェリア国内を揺るがせ、米国や欧州連合(EU)、フランシスコ教皇に早急な行動を求める声が上がっている。

 

さらなる襲撃への懸念からナイジェリアの4州で数百校が一時閉鎖され、1500万人近い生徒が学校に通えなくなっている。この数は世界で最も多い。

 

ナイジェリア北部の主要紙「デーリー・トラスト」の安全保障アナリストでコラムニストのブラマ・ブカルティ氏は、「身代金目的の拉致はあまりにも一般化しているため、今や合法的事業の様相を帯びてきている」と指摘。「特に子どもが対象だと」もうかるビジネスになると語った。

 

ナイジェリアの暴力犯罪の波は、隣り合うニジェール、カメルーン、チャドの3カ国にまで広がっている。犯人たちは、戦争で荒廃したリビアからニジェールを通り、ナイジェリアへと渡ってきた武器の恩恵に浴している。

 

恩赦と引き換えに自首した元拉致犯のAuwal Daudawa氏は先月、同国北部では銃の購入が「パンの購入」のようなものになっていると話した。

 

同国北西部では、犯罪組織が無力な政府と手薄な治安部隊の隙をついて拉致を実行している。組織の中心になっているのはフラニ族の遊牧民だ。彼らは牛を放牧するための土地の利用をめぐって農民と争っている。

 

ラゴスの政治リスク分析会社、SBMインテリジェンスによると、遊牧民と農民の衝突は徐々に暴力的になっており、2015年以降で約4000人が命を落としている。先週末には、ある犯罪組織がベヌエ州知事の暗殺を試みた。知事は、遊牧民ではなく農民を支持する姿勢を明確に示していた。

 

こうした犯罪集団は重武装するようになってきている。国内4州にまたがる広さ数百平方キロ以上の密林地帯「ルグ」を隠れ場所として、あるいは攻撃を仕掛けて人質を拘束するための拠点として使っている。

 

同国北東部では、イスラム過激派のボコ・ハラム(大意は「西側の教育は罪」)が2009年にナイジェリア政府に宣戦布告した後、学校の襲撃を始めた。何千人もの生徒を拉致して各地の野営地に連れ込み、地元住民を恐怖に陥れている。

 

ボコ・ハラムが2014年にチボクという町から276人の女子生徒を拉致した悪名高い事件は、国際的な関心を集めた。これをきっかけに「#BringBackOurGirls(少女たちを返せ)」という世界的な運動が起きた。

 

政府当局者や交渉に関わった関係者らによると、2016年と17年に、収監者との交換および300万ユーロ(約3億9000万円)の身代金支払いと引き換えに100人以上の人質が解放された。

 

米シンクタンクの外交問題評議会によると、ボコ・ハラムはカリフ制国家の創設を目指しており、09年以降3万7000人以上の死亡に責任がある。

 

ナイジェリアの治安当局は、ボコ・ハラムが複数の犯罪ネットワークと統合したことを示す新たな兆候があるとの警告を発している。

 

ボコ・ハラムは昨年12月、ナイジェリア北西部カツィナ州の学校から男子生徒344人が拉致された事件の犯行声明を出し、動画を公開した。政府当局者は、この事件は犯罪者集団によるもので、ボコ・ハラムは関与していないとしている。ただ、当時の人質解放交渉に詳しい人物やテロ専門のアナリストらによれば、ボコ・ハラムは重要な役割を果たしていた。

 

人質解放交渉に詳しいある人物によると、ボコ・ハラムの指導者アブバカル・シェカウ容疑者は犯罪者集団と協力する使者を送り、より多くの襲撃を実施できるよう計画の作成を支援したり、ボコ・ハラムへの恐怖を利用して人質の身代金を引き上げたりしている。同容疑者はアフリカで最も重要な指名手配容疑者で、その首には米国により700万ドルの賞金が懸けられている。

 

(中略)シェカウ容疑者は2014年に過激派組織「イスラム国(IS)」に忠誠を誓ったが、神学上の対立から16年にISと決別。その後犯罪者グループとの連携を強めており、それによってボコ・ハラムがより広範な地域でテロ攻撃を実行することが可能になっているとみられる。

 

(中略)ナイジェリアの情報機関当局者によると、国内の権力の空白状態につけ入ろうとしているのはボコ・ハラムだけではない。ISのナイジェリア支部や国際テロ組織アルカイダ系列のアル・アンサルも犯罪者集団と協力関係を築こうとしているという。

 

ナイジェリア北部全域での暴力犯罪とテロリズムの融合は地域の不安定な状況を増幅しており、その範囲はチャド湖周辺からサヘル地域やサハラ砂漠を経てリビアにまで広がっている。

 

米アフリカ軍司令官のスティーブン・タウンゼント大将は昨年の米議会証言で、ISとアルカイダはサヘルに展開中で、同地域でのテロ活動は5倍に増えたと述べた。民間人を対象とした攻撃により、何十万人もの人々が難民となっている。【3月24日 WSJ】

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【必然的な教育危機 少女は教育機会を奪われ早婚へ】

こうした誘拐拉致が日常化・ビジネス化すれば、怖くてとても子供を学校にはやれないだろう・・・と思いますが、実際、ナイジェリアの教育現場は危機的な状況にあるようです。

 

*****ナイジェリアで教育崩壊の危機 武装集団による相次ぐ生徒拉致で****

ナイジェリア北西部ザムファラ州で今年2月、女子中等学校を武装集団が襲撃し、寮で就寝中だったハフサットさんとアイシャさん姉妹は他の250人以上の生徒と共に拉致された。1週間監禁され、3月初めに解放されたものの、2人には、さらなる試練が待っていた。

 

心に傷を負った2人が今恐れているのは、勉強できなくなることだ。ナイジェリア北西部では生徒の拉致事件が相次ぎ、多数の学校が閉鎖されている。

 

「娘たちは心配している。学校が閉鎖されたままだと、自分たちの教育と将来が終わることになるからだ」。姉妹の父親ムスタファ・ムハンマドさんが、ザムファラ州ジャンゲベで語った。

 

ナイジェリアでは昨年末から、犯罪集団が身代金目的で学校や大学を狙い、生徒や学生を拉致する事件が増えている。3月には、北西部の都市カドゥナ郊外で武装集団が大学を襲撃し、学生39人が拉致される事件が起きた。このうちの大半の学生は、4月時点でまだ解放されていない。

 

「ナイジェリア北部では、教育が攻撃にさらされている」と言うのは、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルのナイジェリア代表、オサイ・オジホ氏だ。昨年12月、カツィナ州カンカラの町で344人の男子生徒が拉致された後にこう指摘した。

 

ナイジェリアの北西部と中部は、今や重武装した犯罪集団の拠点となっている。彼らは村落を襲撃し、牛などを略奪して火を付けた揚げ句、住民を殺すか拉致する。

 

「盗賊団」と地元で呼ばれる武装集団による最近の拉致事件を受け、北部6州は公立学校を閉鎖した。

 

■イスラム過激派が教師を殺害し、学校を破壊

昨年12月から約730人の生徒・学生が拉致され、500万人以上の勉学に支障が出ていると国連児童基金(ユニセフ)は指摘している。「緊急に対応策を取らないと、教育制度がいずれ崩壊する」

 

ナイジェリア北東部の識字率や就学率は極めて低いが、10年以上続くイスラム過激派勢力による反政府活動によって、教育の機会はさらに奪われている。

 

ユニセフの2018年の報告書によると、イスラム過激派は北東部で、少なくとも2295人の教師を殺害、1400以上の学校を破壊した。そのうちほとんどの学校は「被害があまりに大きいか、危険な状況が続いている」ため、再開に至っていない。AFPの集計によると、学校への襲撃で殺害された生徒・学生は120人以上に上っている。

 

イスラム過激派組織「ボコ・ハラム」は、2014年ボルノ州チボクで200人以上の女子生徒を拉致した。その敵対勢力の「イスラム国西アフリカ州」も、近隣のヨベ州ダプチで100人以上の女子生徒を誘拐している。

 

この後、就学率は急激に低下した。

 

ナイジェリアは2014年5月、経済界の組織「教育のための世界経済界連合」の支援を受け、2000万ドル(約22億円)の取り組み「安全な学校イニシアチブ」を開始したが、すぐに行き詰まった。

 

ナイジェリアで就学していない1040万人の子どものうち6割は北部にいるとユニセフは推定する。北部の教育は、より豊かな南部の水準に後れを取っているが、学校襲撃でさらに悪化する恐れがある。

 

「閉鎖中の学校数や、家にいる子どもの膨大な数を考慮すると、私たちはすでに大変な窮地に立たされている」と、北部最大都市カノの教師ムスタファ・アフマド氏はAFPに語った。

 

2月、カノ市は襲撃を恐れて10数か所の寄宿学校を閉鎖し、生徒を帰宅させた。

閉鎖されたのは貧困家庭の生徒が在籍する公立学校で、裕福な家庭の子どもは私立校に通うと教師のユスフ・サデック氏は指摘した。「これで貧しい家庭の子どもたちから教育がさらに取り上げられる。教育こそ、社会的地位を変えるための唯一の手段なのに」

 

■学校に行かなくなり、早婚させられる女子たち

ユニセフによると、イスラム人口が大半のナイジェリア北部では、就学していない600万人の子どものうち6割が女子だ。同地域の女子は、宗教的・文化的な慣習に従った早婚によって教育の機会を奪われることが多い。

 

女子向けの精力的な教育キャンペーンや無料の学校給食によって北部での就学率は向上してきていたが、拉致事件の増加によって「今までの成果が水泡に帰している」とアフマド氏は嘆く。「治安の悪化で女子が学校に行かなくなるようになると、親たちは娘を嫁がせる道を選ぶようになる」

 

自分の娘2人が拉致されていたムハンマドさんによれば、実際、3月にジャンゲベで女子生徒が解放されると、その中の5人の親のところに娘の結婚話が持ち込まれたという。

 

ザムファラ州当局は、この女子生徒たちに地元で通学可能な学校に転校するよう勧めたが、学校側にはスペース不足を理由に受け入れを断られたとムハンマドさんは明かす。

 

「こんな残念な成り行きで、一番影響を受けるのは女の子たちだ」とムハンマドさんは言う。「娘がただ家にいるのを見ていられない親に嫁がされることになるのだから」 【4月30日 AFP】

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貧困からの脱却、女性の地位の向上には不可欠な教育、その教育が拉致事件頻発で危機的状況に。

結果、少女たちは早婚に追い込まれ、旧態依然の生活が。

 

イスラム過激派が犯罪集団の誘拐拉致に関与するのも、金銭面だけでなく、こうした結果を期待するためかも。

実際、彼らの期待どおりに。なんともやりきれない現実です。

 

なお、冒頭のビクトリー・インカバンジョさんの場合、母親がラゴス大学上級講師ということですから、南部の首都ラゴスに住んでいるのでしょう。

 

教育環境だけでなく、経済・社会すべてが、首都ラゴスの状況と犯罪集団に怯える北部ではまったく異なります。

そのあたりがアフリカ最大の経済規模を誇るナイジェリアの問題です。

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