孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イエメン内戦  攻勢を強めるサウジ及びハディ大統領派 しかし「泥沼」内戦は続く

2015-11-08 23:18:49 | 中東情勢

(緑はフーシ派の勢力圏 ピンクはハディ大統領派の勢力圏 白は「アラビア半島のアル=カーイダ」傘下のアンサール・アル・シャリーア勢力圏 黒丸で囲ったのが、上が首都サヌア、下がハディ大統領派が奪還したアデン 赤丸で囲ったのが現在攻防が続くタイズ 【ウィキペディアより】)

イエメンにサイクロン 地球温暖化?たまたま?】
中東・アラビア半島の先端に位置するイエメンを珍しくサイクロンが襲ったことが話題にもなりました。

****イエメンにサイクロン上陸、観測史上初****
強い勢力を持つサイクロン「チャパラ」が3日、イエメン中部に上陸した。同国に熱帯低気圧が上陸するのは観測史上初めて。年間降雨量の何倍もの豪雨が内戦の混乱に追い打ちをかけ、大きな被害をもたらす恐れもある。

チャパラは同日、中部の港湾都市ムカラ付近に上陸し、一帯は最大風速38メートルあまりの暴風に見舞われた。ムカラの港は今年に入り、国際テロ組織アルカイダ系の「アラビア半島のアルカイダ」に制圧されている。

イエメンの平年の降雨量は年間100ミリ程度。しかし予報によると、チャパラによる降雨量はわずか1日で、その2~3倍に達する見通し。乾燥した地域でこれほどの雨が一気に降れば、大規模な土石流や鉄砲水が発生する恐れもあるとして、専門家は警戒を呼びかけている。

過去30年ほどの記録を見る限り、これまでイエメンに強いサイクロンが上陸したことはなかった。チャパラの勢力は一時、アラビア海で観測された台風としては史上2番目の強さにまで達した。

アラビア海に浮かぶイエメンのソコトラ島(人口6万~6万5000人)は2日深夜にかけて暴風雨や高波に見舞われ、民家などに被害が出ている。島の北東部とは1日以来、連絡が途絶え、同地へ通じる道路も洪水による冠水で通行できなくなっているという。【11月4日 CNN】
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イエメンが面するアラビア海でサイクロンが発達し、かつ、イエメン方向に進むことは、気象学的な理由でこれまでなかったようですが、今回のサイクロン「チャパラ」のような事例は、地球温暖化の影響なのか、たまたまの事象なのか・・・

****イエメンの砂漠地帯に観測史上初のサイクロン:「10年分の降雨」で洪水被害****
・・・・アラビア海は、サイクロンが形成されるぐらいには温暖だが、サイクロンが強力になるには面積が小さすぎる。また、7月から9月に雨季があるが、熱帯性低気圧が形成される期間は限られる。

低気圧が形成され、天候によってそれがアラビア半島に進行した場合は、通常は砂漠地域の乾燥した気候が低気圧の構造を破壊し、上陸する前にそのエネルギーを弱体化させてしまうのだ。

「傾向として、低気圧は上空の風によって分散させられるか、アラビア半島からの暑くて乾燥した空気によって水分が奪われてしまうのです」と、ヘンソン氏は説明している。

科学者たちは以前から、気候変動による海面温度の上昇が原因となって、通常とかけはなれた場所で異常に強力な熱帯性低気圧が生じる可能性があると予測してきた。

今回のサイクロンが、長期的気候変動の結果なのか、あるいは、短期的な現象なのかはもちろんわからないが、イエメンの人々にとっては不安が募る状況といえるだろう。【11月5日 WIRED NEWS (US)】
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サイクロン「チャパラ」に次いで、新たなサイクロンが9日にイエメンに上陸する可能性がある・・・・とも報じられていましたが、どうなったのかは知りません。

国連主導の交渉も頓挫 差し当たりはタイズ攻防が焦点
サイクロンによる自然の猛威も大きな問題ですが、イエメンをもっと苦しめているのが人災「内戦」です。
被害の実態はよくわかりませんが、イエメン内戦では7800名が死亡し、240万人が難民になっているとの報道もあります。

また、もともとイエメンは「アラブ最貧国」でしたが、内戦も加わって、“人口の80%に当たる2100万人が人道支援を必要としている”【9月3日 NHK】とも

イエメンの内戦については、10月3日ブログ「イエメン内戦 イランはサウジの「誤爆」批判 サウジはイランの武器供与批判 戦況は「泥沼」化も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151003)で取り上げました。
これまでの基本的な内戦の構図を前回ブログから再録します。

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2011年1月 、「アラブの春」の影響を受けて市民による反政府デモが発生してサレハ大統領は退陣し、ハディ副大統領が翌2012年2月の暫定大統領選挙で当選。

2015年2月、サウジアラビア国境に近い北部を地盤とするイスラム教シーア派系武装組織「フーシ派」が事実上のクーデターで首都サヌアを掌握。ハディ暫定大統領は南部アデンに逃れましたが、翌3月には「フーシ派」の勢力がそのアデンにも迫り、後ろ盾のサウジアラビアへ逃れました。

「フーシ派」をシーア派の地域大国イランが後押ししていると言われ、イラン及びシーア派の影響力拡大を嫌うスンニ派の地域大国サウジアラビアは他の湾岸諸国と共同でイエメンに軍事介入、空爆を継続しています。

なお、失脚したサレハ前大統領は「フーシ派」と共闘しており、イランが支持するシーア派の「フーシ派」とサレハ前大統領の連合勢力と、サウジアラビアが空爆支援するハディ暫定大統領・政府軍という内戦構図となっています。

その後の戦況については、サウジアラビアなどの激しい空爆が一定に奏功し、7月17日、ハディ大統領支持派がシーア派系武装組織「フーシ派」から南部アデンを奪回したと発表されています。

また、9月22日には、ディ大統領が事実上の亡命生活を送っていたサウジアラビアから南部アデンに帰還したことが明らかにされています。

サウジアラビアに支援されたハディ大統領支持勢力は、今後首都サヌアの奪還、更には全土の奪還を目指して攻勢を強めていますが、戦闘地域が北上すれば「フーシ派」が地盤とする山岳地帯ともなり、このままサウジアラビア・ハディ大統領支持勢力が支配地域を拡大できるかは不透明です。【10月3日ブログより再録】
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その後の状況は、メディアの情報が少ないことでよくわかりませんが、サウジアラビアの主導するアラブ連合軍に支援されたハディ大統領支持勢力が攻勢を強めており、「フーシ派」及びサレハ前大統領支持勢力が支配してきた主要都市タエズ(タイズ)の攻防が焦点となっているようです。

なお、国連主催のイエメン和解会議が近く開かれると言う報道もありましたが、頓挫したようにも報じられています。【10月30日 野口雅昭氏 中東の窓】

****サウジ連合軍、イエメン暫定大統領派に軍用車両30台供与****
サウジアラビア主導の連合軍は、イエメン南部タイズ(Taez)のアブドラボ・マンスール・ハディ暫定大統領派に、軍用車両30台を供与した。

連合軍はイランの支援を受けるイエメンの反政府勢力と戦っている。軍関係筋とアラブ首長国連邦(UAE)のメディアが2日、明らかにした。【11月6日 AFP】
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こうしたサウジアラビア等からの武器供与が、ハディ大統領支持勢力攻勢を支えているようです。

サウジ側はクラスター爆弾も
ただ、サウジアラビア主導のアラブ連合軍はクラスター爆弾を市民に使用していると、国際人権団体アムネスティが批判しています。

****イエメンでサウジアラビア主導の連合軍がクラスター爆弾を使用か****
10月末、サウジアラビア主導の連合軍がイエメン北部の住宅地で、世界的に禁止されているクラスター爆弾を使用したとみられる。この爆撃で、少なくとも4人が負傷し、多数の不発弾頭が周辺農地に拡散した。

アムネスティ・インターナショナルは現地で聞き取り調査を行い、目撃者の証言と攻撃の残骸から、クラスター爆弾の疑いがあると考える。(後略)【11月6日 アムネスティ・インターナショナル】
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使用時に一般市民を殺傷するだけでなく、不発に終わった多くの子爆弾爆発のリスクが長期間残るクラスター爆弾の使用、製造、販売、移転は、2008年に締結された「クラスター弾に関する条約」で禁止されており、これまでの締約国はおよそ100カ国にのぼっています。

使用されたクラスター爆弾はブラジル製に類似しているとのことですが、ブラジル、イエメン、サウジアラビアなどイエメンの紛争に関与するサウジアラビア主導の連合軍の国は「条約」締結国ではありません。

もっとも、アムネスティは、クラスター爆弾は、紛争当事者が用いることのできる戦闘の手段と方法(兵器とその使用法)を制約する一般原則が存在する国際人道法に反しており違法であるとの立場です。

なお、サウジアラビアのクラスター爆弾使用に関しては、これまでも報道があります。

****サウジ主導のアラブ連合軍、イエメン空爆でクラスター爆弾使用か****
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(Human Rights Watch、HRW)は3日、サウジアラビアが主導するアラブ連合軍がイエメンで行っている空爆に米国が提供したクラスター爆弾が使われているとの調査結果を公表した。(後略)【5月4日 AFP】
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シリアではアサド政権軍が「たる爆弾」を使用しており、「イスラム国(IS)」はマスタードガスの使用が「シリア人権監視団」から指摘されています。
戦闘となると、効率的殺傷兵器に手を染めるのはサウジアラビアだけではありません。

ただ、「アメリカの軍事評論家で同国の元海軍の隊員だったゴードン・ダフ氏が、イエメンの首都サヌアのジャバル・ナガム地区への爆撃で、中性子爆弾を使用したとして、サウジアラビアを非難しました。(後略)」【5月24日 Iran Japanese Radio】といった報道もありましたが、さすがに「中性子爆弾」というのはありえないと思います。

痕跡が確実に残り、国際的に自殺行為です。
サウジアラビアと敵対するイラン系メディアが“風変わりな意見”に飛びついた・・・というところでは。

ロシア機が首都サヌアに飛来
【Iran Japanese Radio】の報道としては、最近、下記の報道も。

****イエメンへの支援を積んだロシア機がサヌア空港に到着****
イエメンへの人々の支援物資を運ぶロシア機の第一便が、イエメンの首都サヌアの空港に着陸しました。

イエメンのサバーネットによりますと、イエメン駐在のロシア代理大使は、支援物資を運ぶロシアの航空機が、5日木曜、サヌアの空港に到着したことを明らかにし、「サウジアラビアのイエメン攻撃が始まって以来、対イエメン連合による飛行禁止措置を無視して、サヌアの空港にロシア機が入るのは、これが初めてのことだ」と語りました。

同代理大使は、イエメン国民と、彼らの選択や決定へのロシアの支援に触れ、「ロシア機は、食料や救援物資など、イエメンの人々への人道支援物資を運んでいる」と語りました。

また、イエメン危機の平和的な解決を強調し、「ロシア政府は、イエメン危機を、国連のシェイクアフメド・イエメン特使の努力に沿った形で平和的に解決することに努める」と述べました。

イエメン当局は、ロシアに感謝を表し、サウジアラビアの攻撃によって難民となった200万人近いイエメン人への支援への迅速かつ幅広い協力を他の国々に求めました。

サウジアラビアの連合軍の艦船は、イエメンのフダイダ港近くの海域で、商船に対し、紛争地域に近づかないよう警告を発しました。【11月6日 Iran Japanese Radio】
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ロシア機がサヌアに飛来したというのは事実のようです。

首都サヌアは「フーシ派」が掌握していますので、上記記事にある「イエメン当局は、ロシアに感謝を表し・・・・」云々は「フーシ派」及びサレハ前大統領支持勢力のことでしょう。

サウジアラビアなどの連合軍は飛行禁止措置を講じてしますが、ロシア機がこれを無視したのか、サウジアラビアと何らかの調整があったのか・・・知りません。

これだけを読むと、ロシアが「フーシ派」及びサレハ前大統領支持勢力への肩入れを強めているのだろうか・・・という話になりますが、今回ロシア機については、帰途でロシア大使館館員等のロシア人の引き上げに使用され、「フーシ派」とのいざこざもあった・・・という、ロシアと「フーシ派」の関係悪化を報じるもの(al quds al arabi net記事)もあるようで、真相は・・・・わかりません。

****イエメン情勢(謎の解明****
・・・・(al qods al arabi net)記事の要点のみ次の通り

6日のロシア航空機によるロシア大使館館員等のロシア人の引き上げ(70名程度の由)は、イエメンが決定的な段階に入りつつあることの証左と受け止められている。

消息筋は、この引き上げはロシアとhothy(フーシ派)―サーレハ グループとの関係悪化を反映するものと見ていて、ロシアは今後自国民に危害が及ぶのを恐れて引き揚げたと言う。

同筋によると、ロシア大使は引き上げの2日前に、サーレハと会談したが、サーレハは自分及び家族に対する安保理制裁の解除についてロシアが圧力をかけることを求め、大使がこれを拒否したために、hothyサーレハ連合がロシアに圧力をかけるために、航空機の離陸を24時間遅らせたとのことである。(後略)【11月8日 野口雅昭氏 中東の窓】
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野口雅昭氏も「勿論それが正しければですが」との断り書き付きでのal qods al arabi net記事の紹介です。

サウジアラビア主導のアラブ連合軍及びハディ大統領支持勢力が攻勢を強め、タエズ(タイズ)攻略が迫っているのは事実ですが、繰り返しますが、ロシア機の真相は・・・・わかりません。

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