(【1月16日 DIAMONDonline】)
【デフレマインドのもとでの経済停滞が続く日本】
停滞が続く日本経済は長らくデフレマインドが定着してきたと言われています。
今回の4万円の手額減税でデフレマインド脱却を実現したいとか、いやすでに物価は上昇し始めておりデフレマインドから脱却しているとか、いやいや個人消費は依然として軟調でデフレマインド脱却は容易でないとか・・・・様々な指摘・意見があります。
****デフレマインド*****
「物価はこの先も上昇しない、またはこの先は下がっていく」と考えることで、「デフレ心理」「デフレ期待」とも呼ばれます。デフレ(デフレーション)とは、モノやサービスの価値よりお金の価値の方が高くなる、つまり、モノやサービスの値段が下がる状態をいいます。
たとえば、財布のなかに1万円があって、店でお気に入りのカバンが1万円で売られているのを見つけました。いつほかの人が買ってしまうかわかりません。しかし、デフレマインドが定着していると、少し待てばカバンは9000円で買えると考え、すぐには買わないでしょう。
世の中にデフレマインドが定着していれば、「他の人も同じように考えて、すぐに売れることはない」と考えますから、急いで買わないと売れてしまう心配もしないわけです。
これは会社でも同じです。会社に余分な資金がある時、新たな工場を作るために設備投資をしても、そこで作った製品が売れなければ投資が無駄になって損をしてしまいます。デフレ下では損するかもしれないリスクを背負ってお金を使って設備を増やすよりも、金庫に入れておくだけでお金の価値は上がります。
デフレマインドの下では何もしないのが一番賢いという雰囲気になって、投資は先送りされてしまいがちです。従業員の待遇でも同じです。物価は下がっている(お金の価値は高まっている)のだから、額面上の給料(賃金)も上がらないのが当たり前の時代が長く続いてきたわけです。
しかし、デフレマインドが定着して消費や投資が先送りされると、値下げして割安感をアピールしないとモノやサービスは売れなくなります。価格が下がると消費者の間では一段と値下げ期待が広がって、さらに消費や投資が手控えられてしまいます。
値下げが値下げを呼ぶ悪循環「デフレスパイラル」に至ってしまうと、企業の売り上げは減っていきます。政府や日本銀行が「デフレ脱却」を掲げるのは、デフレが続くと経済が縮小してしまうからです。
これを防ぐには、世の中に出回るお金の量を増やして、お金の価値よりモノやサービスの値段価値が徐々に高まって、「持っているお金を寝かせておくより、消費や投資に振り向けた方がいい」とみんなが思うようにすることが必要です。
世の中に出回るお金の量を増やせば、お金の価値がモノやサービスの値段より低くなるだろうと考えた日本銀行は、2013年からこれまでとは次元が違う「異次元の金融緩和」を行ってきました。
それでも企業や消費者にいったん染みついたデフレマインドはなかなか消えませんでした。モノやサービスの値段が上がり始めたのは、主に海外から輸入している資源や食料の国際価格が大きく上昇し始めた2年ほど前からです。
先ほどの例でいえば、この2年で消費者からデフレマインドが消え、逆に「店にあるお気に入りのカバンはいずれ値上がりして、1万円では買えなくなってしまうかもしれない」というインフレマインドが生まれてきたわけです。
もちろん、物価が上がっても給料(賃金)が上がらなければ暮らしを切り詰めることになって、カバンを買うこと自体をあきらめてしまいかねません。そうなると景気は冷え込んでしまいます。
政府が賃上げをした企業の法人税を減らし、日銀も植田和男総裁が「物価上昇を上回る賃上げを見極めるまで、今の金融緩和を続ける」と約束しているのは、企業が従業員の賃金を大幅に上げて消費者のデフレマインドを完全に消し去り、物価と賃金がともに上がっていく好循環を生み出そうとしているからです。
企業の経営者や消費者の心理がデフレからインフレへと切り替われば、企業は新しいモノやサービスをどんどん作り、消費者も買い控えせずにどんどん買うようになることが期待できます。そうなれば世の中にお金が回り、消費者が実感できる形で景気はよくなっていくでしょう。
今の物価高は暮らしにとっては打撃ですが、デフレから脱却する大きなチャンスとみることもできるわけです。ただ、それには2024年の春闘で、消費者物価の上昇率(3~4%)を上回る率の賃上げが実現することが不可欠といえそうです。
【1月24日 読売】
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2%程度の適度な物価上昇でデフレマインドから脱却し、賃上げで好循環をつくっていく・・・・話としてはわかるのですが、実質賃金が長期的に目減りする日々の暮らしの中で少しでも安いものを購入して家計をやりくりしたいと苦労している立場からすると、物価上昇を期待するよううな論調は生活感覚からして釈然としないものも感じます。
【低価格競争に走る中国経済】
経済停滞が指摘される中国も、日本と似たようなデフレマインドの悪循環に陥りつつあるとの指摘も。
****中国経済がはまる「日本型デフレ」の泥沼...消費心理「どん底」で安売り店が躍進 デフレマインド定着の危険****
中国では一部の小売業者が低価格を売りに積極的にシェアを拡大し、大きな利益を手にしている。しかし、こうした経営戦略が厳しい価格競争を一段と激化させており、中国が慢性的なデフレに陥るのではないかとの懸念が高まっている。
中国の安売り業者は、不動産危機や高い失業率、暗い経済見通しで消費心理が落ち込む中、何とか需要を掘り起こそうとコーヒーから自動車、衣料品に至るまで、あらゆるものを値下げしている。
低価格帯の通販「拼多多(ピンドゥオドゥオ)」のような企業は、電子商取引大手アリババなどライバルに対抗するために値下げに踏み切り、売上高が増加した。
しかしエコノミストは、こうした戦略が成功したことによって、中国でも消費者の間に日本型のデフレマインドが定着し、慢性化するのではないかと危惧している。
小売業者は何よりも価格で勝負するため、商品の納入業者は厳しいコスト圧縮を強いられ、利益率が圧迫される。その結果、賃金の伸びが鈍ったり、単発で仕事を請け負う低賃金の「ギグワーカー」への依存度が高まったりして家計の需要が打撃を受ける。
豪メルボルンにあるモナシュ大学のヘリン・シ教授(経済学)は、「この状況が続けば中国は悪循環に陥るかもしれない。付加価値の低い消費がデフレを引き起こし、利益率が悪化して賃金が下がり、それがさらに消費を押し下げるという負の連鎖だ」と警鐘を鳴らす。
一方、直近の決算シーズンで安売り業者は利益が市場予想を上回り、競合他社を凌駕した。ピンドゥオドゥオを運営するPDDホールディングスは131%の増収を記録。フードデリバリーアプリの美団は25%、ディスカウントストアの名創と瑞幸咖啡(ラッキンコーヒー)もそれぞれ26%、42%の増収だった。
<安売り業者間の熾烈な底値競争>
消費者心理がどん底に近い環境では、価格こそが王様だ。
中国の自動車メーカーは国内需要の低迷を受けて、ほぼ2年にわたり価格競争を繰り広げており、一部のディーラーや自動車金融会社はこの2カ月間に頭金なし、さらには金利ゼロなどのローンプログラムを開始した。
米スターバックスは、「安売り業者間の熾烈な競争」(ラクスマン・ナラシムハン最高経営責任者)のせいで第1・四半期に中国での売上高が8%減少。この数カ月で割引クーポンの利用を増やし、価格をラッキンコーヒーに接近させている。
アリババの国内電子商取引部門であるタオバオと天猫(Tモール)、およびネット通販大手の京東集団(JDドットコム)は売上高の伸び率が1桁台だったが、いずれも決算後の電話会見で価格競争力が今後の成長のカギになると説明した。
JDドットコムの創業者、リチャード・リュー氏が従業員に送った社内メモに、同社が「肥大化」していると書かれていたことから、JDドットコムが競争激化に対応して人員削減に踏み切るのではないかとの憶測が流れている。これはまさに国内需要の回復に不可欠な策とは正反対の動きだ。
中国欧州国際ビジネススクール(上海)のアルバート・フー教授(経済学)は「長期的には価格競争によってさまざまな産業で弱小プレーヤーが淘汰され、生き残った企業は価格を引き上げてサプライチェーンに一息つかせることができるようになるかもしれない」と話した。
ただ、こうした展開が可能になるのは、価格競争が引き起こす市場からの業者撤退を補うだけの雇用と所得が他の産業で創出された場合に限られるとくぎを刺す。
フー氏は「デフレは深刻な問題であり、日本は30年以上もこれと闘ってきた。重要なのは賃金の伸びだ」と強調した。【6月15日 Newsweek】
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【オーストラリア 「コーヒーを運ぶスタッフに1時間40ドル(6280円)払わなければならない」】
一方、世界有数の賃金上昇、同時に進む物価高騰のさなかにあるのがオーストラリア。
****オーストラリアの最低賃金が更に上昇、ニューヨークよりも高額に****
7月から新会計年度となるオーストラリアでは、年度が変わる前までに新年度から施行される様々な法令や規則等の変更や改正が発表される。その中でも、とくに注目を集めるのが「最低賃金」の改正だ。
今年も6月3日に、フェアワーク・コミッション(公正労働法の下に設置された公正な労働を裁定する独立機関)から、2024年7月からは昨年度より3.75%アップの『24.10豪ドル(約2,510円)』とすることが発表された。
これは、英国の最低賃金11.44ポンド(約2,287円)や米ニューヨーク州の15米ドル(約2,360円)よりも高く、同じニューヨーク州の中でも生活費が高いことから最低賃金も高くなっているニューヨーク市の16米ドル(約2,516円)とほぼ同額になったという。
ここ数年、最低賃金の高さで世界 1、2位を争ってきたオーストラリアだが、さらにその最低ラインが引き上げられたことになる。当然ながら、所得水準も経済協力開発機構(OECD)加盟主要国の中でトップクラスだ。これは円安とは関係ない。
24.10豪ドルは、全国標準の最低賃金
最低賃金と一口に言うが、この24.10豪ドルは、あくまでもオーストラリア全土における標準的な最低賃金として定められたものであり、この額を下回ってはいけないというものだ。
しかもこの額は、正規雇用やパートタイムのように保険や年金、有給などの社会保障が付く雇用形態で平日の一般的なオフィス・アワーに働く場合であり、そういった社会保障がないカジュアルワーク(日本でいう単発のアルバイトや派遣などの雇用形態に近い)の場合は、雇用主はこの金額の25%増しで支払わなければならない。
また、オーストラリアでは、業界や職種ごとに最低賃金が定められており、ほとんどの職種でこれよりも高い設定になっている。
例えば、ファーストフード店勤務の場合、今年度(6月まで)は、正規雇用またはパートタイムが24.73豪ドル、カジュアルでは30.91豪ドルであったので、新年度となる7月からは、この額の3.75%増しとなるはずだ。
これらに加え、一般的なオフィス・アワー時間外や休日勤務等の割増賃金も設定されている。概ね125~175%となっているが、これもまた、業種によって細かく設定されており、例えば小売業(パン製造従業員を除く)のカジュアル勤務の場合、土曜日に勤務した場合は175%、日曜日200%、祝祭日250%などとなっている。
また、雇用主は、スーパーアニュエーションと呼ばれる強制加入の私的年金積立のために、すべての従業員に対して、11.5%(6月までは11%)を給料に上乗せして支払う必要がある。
人件費が重くのしかかり、閉店に追い込まれる店も...
賃金が上がるのは労働者にとっては大歓迎かもしれないが、このように人件費がどんどん膨らむ状況は、雇用主にとっては相当頭の痛い問題に違いない。
コロナ禍に大打撃を受けたブリスベンの人気バー&レストラン「ザ・マトリアーク」は、パンデミック終了後には投資を再開できると踏んでいたそうだが、経済状況は悪化の一途をたどり、そこへさらに追い打ちをかけるような今回の賃上げで、店を閉めることを決意したという。
同店のシェフ兼共同オーナーであるマシュー・デワクト氏は、閉店を決めた理由のひとつに、膨れ上がる莫大な人件費を挙げる。
デワクト氏は、「最低賃金は(時給)24ドルかもしれないが、土曜日なら、カジュアルで働いてテーブルにコーヒーを運ぶスタッフに40ドル払わなければならない」と言い、同店の人件費の割合は、経費の35%を占めると嘆く。
賃金が高く稼げると、日本からも大勢の若者たちがワーキングホリデーでやってくるようになったオーストラリアだが、賃金高がすべての物価に反映され、物価高にも歯止めがかからない状態になってきている。
「ザ・マトリアーク」のように、人件費が重くのしかかって閉店する店舗や事業が増えれば、結果的に失業者も増えることになる。実際、失業率は上昇中だ。
こうなってくると生活はどんどん苦しくなり、経済が回らなくなってしまうのではないかと、私をはじめ、今、オーストラリアで暮らす人の多くが、暗雲たる気持ちになっているのではないだろうか。〈了〉【6月17日 平野美紀氏 Newsweek】
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“社会保障がないカジュアルワーク(日本でいう単発のアルバイトや派遣などの雇用形態に近い)の場合は、雇用主はこの金額の25%増しで支払わなければならない。”・・・・日本では想像できない賃金制度です。
いずれにしても、“コーヒーを運ぶスタッフに40ドル払わなければならない”となるとコーヒーの値段も日本の数倍にしないと経営が成り立たない・・・そうした状況で廃業する店も、失業者も増加、賃金は高いけど市民の暮らしは大変・・・・といった事態にもなりかねません。
デフレにしても、インフレにしても行き過ぎると大変・・・ほどほどのところで安定させるのが肝要でしょうが、それが難しい。
現在、インドネシアのバリ島を旅行中ですが、日本の商品・サービスの質を考えると、日本の物価水準のコスパの良さを感じます。
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