孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

“意外”にも、ロシア軍のウクライナ侵攻以前の水準に戻っている原油・穀物価格

2022-08-06 22:38:58 | 経済・通貨
(WTI原油先物価格動向)

【原油価格「いつの間にか」ウクライナ侵略以前並みへ】
今日は少し“意外”な話。

「世界的インフレが各国で進行しており、その元凶は原油などエネルギー価格と穀物など食料品価格。
エネルギーや食料の価格上昇傾向は以前からのものですが、その高騰を加速させたがロシア軍によるウクライナ侵攻。こうした物価上昇で、特に途上国や、貧困層の暮らしに大きな負担がかかっている・・・・」

上記のようなイメージが一般的かと思います。このブログでも、そうした話を再三取り上げてきました。

インフレ傾向、多くの国・国民の生活への負担増加というのは今も続いており、間違った認識ではありません・・・・が、インフレの中核にある原油と穀物価格自体はすでに下落に転じており、ロシア軍のウクライナ侵攻以前の水準に戻っているようです。

原油については、一昨日の4日ブログ“小幅増産にとどまった原油生産 ガスパイプライン「ノルドストリーム」をめぐるロシア・ドイツの綱引き”でも触れたように、1バレル=120ドル付近まで上げた価格は、世界経済の景気後退懸念を背景に90ドル付近まで下落に転じています。

****原油価格「いつの間にか」ウクライナ侵略以前並み…専門家が指摘する新たなリスク 「油が崩壊」エコノミストが警鐘****
このところ、毎日のように食料品などの値上がりを伝えるニュースが流れ、大半の企業が値上げの理由の一つに「原油価格の高騰」を挙げている。そのため、今も一時期のような1バレル=100ドルを大きく超えるような原油高になっていると思っている人も少なくない。

しかし実は、原油価格はロシアのウクライナ侵略以前の水準に戻っている。

1バレル=122ドルから90ドルに
昨年まで1バレル=70円~80円台だった原油価格は今年に入ってから徐々に値を上げていき、今年2月3日には、1バレル=90ドル代に乗った。2月末からのロシアのウクライナ侵略をきっかけに、原油価格はさらに上昇していき、6月8日には1バレル=122ドルという記録的な高値を付けた。

しかし、それをピークに原油の価格は徐々に下落していき、8月4日には、1バレル=90.53ドルとロシアのウクライナ侵略以来の水準となった。

7月半ばまでは1バレル=100ドル代の高値を付けていた原油の価格は、なぜここに来て急速に下落し始めたのか。その理由は、景気減速への懸念だ。

原油価格急落の理由
アメリカは今、歴史的なインフレに見舞われているが、アメリカの中央銀行にあたる連邦準備理事会(FRB)は、2か月連続で政策金利を0.75%引き上げるなど強い金融引き締め措置を取っている。さらに、アメリカに歩を合わせるように、ヨーロッパ各国の中央銀行も相次いで政策金利を引き上げた。

だが、金融を引き締め過ぎて景気後退局面に陥る、いわゆる「オーバーキル」になってしまうのではとの懸念が市場に漂っている。

景気後退への懸念が高まる中、さらに原油価格の下落を加速させる発表があった。米国エネルギー情報局(EIA)が、3日に発表した統計「U.S. Stocks of Crude Oil and Petroleum Products(アメリカの原油および石油製品の在庫)」によると、アメリカでは原油とガソリンの在庫が増えているという。この発表を受けて3日から4日にかけて、原油価格がさらに下落した格好だ。(中略)

なお、夏休みを前にした一般家庭にとっては、原油価格が下落したと聞いた時、まっさきに気になるのが「ガソリン価格はどうなる?」ということではないだろうか。こちらは、原油価格と違い、急落とはならない。

石油情報センターによると、レギュラーガソリンの小売価格は、全国平均で1リットル当たり169.9円。5週連続で値下がりしているものの、依然として高い水準のままだ。【8月5日 箕輪 健伸氏 SAKISIRU】
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下落したとは言っても、まだまだ“油が崩壊”云々水準ではありませんし、コロナ禍で2020年4月前後には20ドル水準にまで下落したこともあります。今時点で騒ぐ必要はないですし、日本のような需要国としては更なる下落を期待したいところです。

供給国には大きな問題になるでしょう。以前取り上げた未来都市「ネオム」を計画するサウジアラビアなど中東湾岸諸国など。ただ、中東諸国も原油価格は上下変動するものと認識していますから、一喜一憂もしないでしょうが。

原油価格下落で現実的問題が出るのはロシアでしょうか。今必要な莫大なウクライナ戦争の戦費を支える財源が揺らぎますので。

【再開にこぎつけたウクライナからの穀物輸出】
一方、穀物については、問題となっていたウクライナからの輸出になんとか道がひらけたようです。

****ウクライナ穀物輸出の再開合意、ロシア側に一定の配慮か…米は速やかな履行求める****
ロシア軍の黒海封鎖によりウクライナ産穀物の輸出が停滞している問題で、ロシア、ウクライナ、トルコ、国連の4者が22日、イスタンブールで海上輸送再開に向けた合意文書に署名した。各国は歓迎しているが、ロシアに確実な合意履行を求める声も出ている。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は22日のビデオ演説で、「合意内容はウクライナの利益に全てかなうものだ」と評価し、昨年収穫した約2000万トンと、今年の収穫分で100億ドル(約1兆3800億円)相当の穀物の輸出が可能になるとの認識を示した。

国連のアントニオ・グテレス事務総長は署名式で「(食糧危機で)破綻にひんしている途上国に安心をもたらす」と語り、穀物価格の安定化などにつながると強調した。

インターファクス通信によると、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は署名式後、「ロシアは合意文書で十分明確に示された義務を負った」と述べた。一方、米国のブリンケン国務長官は22日の声明で「合意の履行が速やかに開始され、中断や妨害なしに進むことを期待する」とくぎを刺した。

合意にはロシア側の要求が一定程度盛り込まれた模様だ。ウクライナの穀物輸出拠点のオデーサ、チョルノモルシク、ユジニの計3港からの航路が確保され、輸送対象は、ウクライナ産穀物と食料に限定された。航路の安全を維持するためイスタンブールに設置される「調整センター」が積み荷を検査する。ロシアは航路を通じてウクライナに武器が輸送されることを警戒しており、露側の条件に従ったものとみられる。

国連も合意の見返りをロシアに示した。露国防省は22日、ショイグ氏とグテレス氏が会談し、ロシア産の農産品と肥料の供給を促進することに関する協力覚書に署名したと発表した。露産肥料などの輸出促進はウクライナからの穀物搬出と合わせた「パッケージ」として国連が合意を目指していた。

国連によると、国連貿易開発会議(UNCTAD)のレベッカ・グリンスパン事務局長の下に作業チームを設置し、加盟国や、金融、保険、物流などの民間部門と調整するという。【7月23日 読売】
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ロシアとしても世界を苦しめる穀物価格高騰の“元凶”とされるのは回避したい思惑があってのことでしょう。

合意直後にロシアがオデーサにミサイルを撃ち込むなどですったもんだしたのは周知のところですが、第一便がトルコ沖合で検査を受けてレバノンに向かい、その後も3隻がウクライナを出港する予定など、なんとか輸出再開にこぎつけたようです。

****ウクライナからの穀物輸出 トルコ政府が船3隻出発計画明らかに****
ウクライナからの穀物輸出の再開を受けて最初の貨物船が中東レバノンに向かう中、トルコ政府は新たに農産物を積んだ貨物船3隻がウクライナ南部の港から出発する計画があることを明らかにし、南部でも戦闘が続く中、安全に輸出を継続できるのかが焦点となっています。

ロシア軍による黒海の封鎖で滞っていた、ウクライナからの貨物船による穀物輸出の再開を受けて、トウモロコシを積んだ最初の船が中東レバノンに向かっています。

また、トルコのアカル国防相は、農産物を積んだ貨物船3隻が5日にウクライナ南部の港から出発する計画があることを明らかにしました。

さらにウクライナへの貨物船の入港についても「空荷の船がイスタンブールでの検査を経て、ウクライナに向かうことも予定されている」としています。

ウクライナへの貨物船の入港については、これまでロシアが武器の運搬に利用されるおそれがあるとして難色を示していましたが、ロシアとウクライナ、それに仲介役のトルコと国連の合意に基づく、農産物の輸出に向けた動きが着実に進んでいることがうかがえます。

こうした中、トルコのエルドアン大統領が5日、ロシア南部のソチを訪れてプーチン大統領と会談する予定で、今後の穀物輸出についてどのような意見が交わされるのか注目されます。

一方、ロシア軍は、ウクライナ東部ドネツク州や南東部ザポリージャ州などでも攻撃を続けていて、これに対し、ウクライナ軍は南部を中心に反撃しています。

ウクライナ南部でも戦闘が続く中、安全に穀物輸出を継続できるのかが焦点となっています。【8月5日 NHK】
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【ウクライナの穀物輸出再開とは関係なく、市場での投機筋の動きで穀物価格は下落傾向】

(シカゴ小麦先物価格動向)

こうしたウクライナから穀物輸出再開の話とは別に、穀物市場の方は投機筋の市場撤退で、すでに下落に転じています。

****投機筋が消えた穀物市場、価格下落に拍車****
小麦やトウモロコシ、大豆などの穀物市場では、ヘッジファンドや投機筋が値上がり益を手にして市場から姿を消したことで、価格下落に拍車が掛かっている。需給に照らして正当化される水準を下回っていると指摘するアナリストもいる。

今年に入りインフレや戦争に伴う供給問題が懸念材料に浮上すると、商品価格の上昇を見込んだ市場参加者が先物市場に資金を注ぎ込み、相場を押し上げていた。小麦と大豆は最高値をたびたび更新し、トウモロコシは史上最高値に迫っていたが、ここにきて状況は一変した。投機筋は利益を確定してインフレ取引を手じまい、リセッション(景気後退)に備えて穀物市場から撤退した。

穀物価格はほぼ1年前の水準まで下落している。当時は不作により歴史的に見れば高値圏にあったものの、ロシアのウクライナ侵攻という押し上げ要因はまだなかった。

原油や銅など幅広いコモディティ市場から投機筋が消えて価格が下落したことで、投資家の間ではインフレがピークに達したとの期待が高まった。だが、燃料や食料、衣料などの価格を左右する穀物市場ではトレーダーの出入りが激しい。

ピーク・トレーディング・リサーチのデーブ・ウィットコム氏は「穀物市場では、常にヘッジファンドが価格を左右する」とした上で、「ヘッジファンドの動きと価格の動きには最も高い相関性がある。ヘッジファンドが売れば、価格は下がる」と述べた。

2020年秋には、穀物価格の上昇に賭けるのがウォール街で人気の取引となった。ロックダウン(都市封鎖)を解除した国々で需要が伸び、食糧の輸入業者は在庫の補充を急ぐ一方、穀物は不作だった。それを見て、ヘッジファンドなど投機筋が殺到した。

ピーク・トレーディングが集計した米商品先物取引委員会(CFTC)のデータによると、21年初めまでに、13の農産品市場を合わせた投機筋の買い持ちポジションは契約枚数ベースで過去最大に膨らんでいた。

ロシアがウクライナに侵攻した2月下旬には買いが下火になっていたものの、侵攻を受けて穀物が再び買われた。価格上昇に合わせて投機筋のポジションは拡大し、3月には約570億ドルと、11年以上ぶりの高水準に達した。

小口投資家もこの熱狂に加わり、小麦先物ETF(上場投資信託)の「テウクリウム・ウィート・ファンド」は、あまりの人気ぶりに3月上旬には完売。規制当局はテウクリウムに追加売り出しを許可し、資産総額はウクライナ侵攻前の8620万ドルから5月には7億2300万ドルに膨れ上がった。その後は資金流出が流入を上回り、残高は3億2400万ドルまで減少した。

米連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ抑制に向けて利上げに着手すると、先物市場では売りが優勢となった。輸入価格を押し上げるドル高と景気後退懸念を背景に、トレーダーは買い持ち解消に動いた。ピーク・トレーディングによると、7月下旬までに持ち高はほぼゼロになった。

ここ3カ月で、先物市場ではトウモロコシが24%、小麦は27%、大豆は14%それぞれ下落している。

ゴールドマン・サックスのアナリストはこうした価格下落について、現物のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を反映していない、金融取引の手じまいによるものだと指摘する。

JPモルガンのアナリストは価格急落について、世界の農産品貿易における深刻な混乱を反映しておらず、23年になっても続くとみられる現物の供給リスクが低減されるわけではないと話す。足元の価格は生産コストを下回っており、供給問題を考慮すると、穀物価格には20~30%の上昇余地があるという。

供給リスクとは、ウクライナで続く戦争や、生育を左右する天候、世界的に低水準にとどまっている在庫などだ。

ウクライナは今週、ロシアによる侵攻後で初めて海路で穀物を輸出したが、黒海経由の安全な食糧輸送を約束した協定はほごにされる可能性がある。協定が守られたとしても、ウクライナに滞留している穀物の在庫解消には数カ月かかりそうだ。米農務省は、今収穫期のウクライナからの穀物・種子輸出量は前期の半分程度になると予想している。

一方、米国は記録的な猛暑と干ばつに見舞われ、作柄に深刻な影響が及んでいる。ゴールドマンのアナリストは3日のリポートで「トウモロコシ、大豆、春小麦の生育状況はここ6週間、ほぼ継続して悪化している」と指摘。米国の収穫量が2~3%減少し、トウモロコシと大豆は消費量に対する在庫量の割合が過去最低水準に落ち込むとの予測を示した。【8月6日 WSJ】
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ここ3か月の価格低下は投機筋の動きによるもので、根本的な供給不安が解消されたものではないので、再び上昇という局面はあるのかも。

いずれにしても、市場に左右される原油・穀物の価格動向は一般的なイメージとはまた異なる動きを見せているようです。

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