(【8月1日 時事】自身に批判的な訪問中の仏外相との会談を直前に取りやめ散髪するブラジルのボルソナロ大統領)
【不都合な報道・報告書は“ウソ”】
元軍人の極右政治家で、過激な発言で大衆の注目を集めるトランプ米大統領によく似た政治スタイルのポピュリストでもある、ブラジルのボルソナロ大統領、7月1日ブログでも取り上げましたが、その後も過激な言動が止まりません。
****ボルソナロ大統領が児童労働を擁護、「私は8歳で働いていた」 ブラジル****
ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領に物議は付き物だが、今度は児童労働を擁護する発言を繰り返し、世間を騒がせている。
ボルソナロ氏は自身のフェイスブックで公開討論を毎週、ライブ配信しているが、4日の配信映像の中で、極右の同氏は「聞いてくれ。どこかで8歳か9歳の子どもが働いていると、多くの人たちが『強制労働』とか『児童労働』だとか言って非難する。だが、そうした子どもがコカインペーストを吸っていても、みな知らんぷりだ」と訴え、「労働は男性にも女性にも尊厳をもたらす。年齢は関係ない」と主張した。
その後も、ボルソナロ氏は同様の発言を繰り返している。5日の公式行事では「私は8歳の頃にはトウモロコシを植えたり、バナナを収穫したりして働いていた。同時に勉強もしていた」と述べ、「その結果が現在のこの私だ。扇動しているのではない。これは真実だ」と豪語した。
さらに6日にも、米ホワイトハウスでドナルド・トランプ大統領の大ファンだという11歳の少年、フランク・ジアチオ君が芝刈りをする2017年のAFP動画を、再び自身のフェイスブックに投稿。「労働は人に品格を与える」とのコメントを付けている。
ブラジルの法律は16歳未満での労働を禁じているが、例外として見習いの場合は14歳からの労働が認められる。ブラジル地理統計院によれば、ブラジルでは5歳から17歳までの子どもや青年約250万人が労働に就いている。 【7月7日 AFP】
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大統領の幼少期のように、トウモロコシを植えたり、バナナを収穫したりしながらも勉強できる環境にあれば、家事労働の“お手伝い”は“尊厳をもたらす”かも。
しかし、現実の児童労働の多くは、家族の生計を支えるために苛酷な労働条件、劣悪な賃金のもとで働くことを“強いられている”ものであり、“勉強と両立”とか“労働は人に品格を与える”といった類ものとは別物でしょう。
そこらを誤魔化そうとする、味噌も糞も一緒にするような発言は、悪意ある詭弁としか言えません。
自身に都合の悪い報道を“フェイク”“ウソ”として受け付けないのも“本家”そっくりです。
****ボルソナロ大統領、ブラジルの飢餓問題は「ポピュリストの大うそ」****
ブラジルの極右ジャイル・ボルソナロ大統領は19日、外国特派員らに対して、自国に飢餓は存在しないと断言し、街を見渡しても、がりがりに痩せている人はいないことがその証拠だと主張した。
ボルソナロ氏は外国特派員らに対し、ブラジルには十分な食料を得られていない人々がいるという主張は、「ポピュリスト(大衆迎合主義者)」の「大うそ」と切り捨て、「ブラジルで飢餓が発生しているというのは、人気取りを狙ったポピュリストの言い分にすぎない」と主張。
「中には、満足な食事が取れず、ひもじい思いをしている国民もいる」と認めつつも、「ブラジルには確かに食事に関する問題があることは事実だが、それは私のせいではない。この問題は私が大統領になる前から存在していた」と強調した。
国連食糧農業機関の最新統計によれば、人口約2億1000万のブラジルで、約510万人が栄養不良状態にある。ただし、栄養不良人口の比率は、1999〜2001年の11.9%から2008〜2010年には2.5%未満へと減少している。
FAOはこの要因として、ルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ元大統領時代の左派政権による「ゼロ飢饉(ききん)」計画などの社会福祉政策を挙げている。
影響力を持つロドリゴ・マイア下院議長は有力紙グロボとの最近のインタビューで、ボルソナロ氏は貧困層に無関心だと批判している。 【7月20日 AFP】AFPBB News
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“前政権”に責任をなすりつけようとする姿勢もよく似ています。
なお、左派政権の社会福祉政策が“バラマキ”的な副作用をもたらしたのではないかという問題は検討する必要があります。
****軍政人権侵害、報告書は「うそ」=大統領、真実委にかみつく―ブラジル****
ブラジルのボルソナロ大統領は30日、左派ルセフ政権下で「真実委員会」がまとめた軍事政権(1964〜85年)の人権侵害に関する報告書を「うそっぱちだ」と非難した。
右派のボルソナロ氏は軍政末期に軍に在籍。軍政擁護発言を繰り返しているが、拷問や暗殺の犠牲者を否定しかねない今回の発言は物議を醸しそうだ。【7月31日 時事】
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上記は“極右政治家”としての側面を示すものですが、「うそっぱちだ」で済まされる話ではないと思うのですが・・・。
【環境より開発】
ボルソナロ大統領は、アマゾンにおける環境保護や先住民権利よりは、開発を優先させる立場にあります。
****アマゾン先住民の指導者が他殺、採掘業者が集落を占領 ブラジル****
ブラジル北部アマパ州のアマゾン川奥地で先週、先住民ワイアピの指導者が殺害される事件が起きた。その数日後に、武装した採掘業者が先住民保護区の集落を占領する事件があり、警察官らが28日、この集落に配備された。当局とワイアピの首長らが明らかにした。
アマパ検察当局の発表によると、ワイアピの指導者1人が22日に殺害され、翌日に遺体が川で発見された。
ワイアピの首長たちから成る議会がフェイスブックに投稿したところによると、「暴力的」な殺害の目撃者はいなかったが、現場周辺を捜索した結果、「非先住民によって殺害されたことを示す痕跡や証拠」が見つかったという。
この議会によると、26日には殺害現場近くの集落で、住民が「武装した非先住民」の集団に追われ、集落が占領されたという。地元メディアは集団について、アマゾンで活動する武装した採掘業者を指す「ガリンペイロ」という言葉を使い、その数は50人ほどだったと伝えた。
検察当局によると、27日に一連の事件が報じられたのを受け、連邦警察官と憲兵隊の特殊部隊が派遣された。翌28日に州都マカパから約300キロメートル離れたこの集落に到着したという。
ブラジルの先住民は近年、企業優先の政策を推し進めるジャイル・ボルソナロ大統領政権下で、採掘業者を始め、農場経営者や伐採業者の強まる圧力にさらされている。
ボルソナロ大統領は27日にも、アマゾンの熱帯雨林に眠る「途方もない量の鉱石」を活用するための支援を「第一世界」の先進諸国に呼びかけていた。 【7月29日 AFP】
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“ボルソナロ大統領は1月に大統領に就任して以来、選挙戦で同氏を支援した伐採業者や鉱山業者、農民たちの利益のために、アマゾンの熱帯雨林や先住民に危害を加えているとして批判を浴びてきた。
一方でボルソナロ氏は19日、外国人ジャーナリストらに矛先を向け、推計80万人とされるブラジルの先住民が「先史状態のまま、技術や科学、そして現代の無数の素晴らしさに接触せずにいること」を望んでいると非難した。”【7月23日 AFP】とも。
確かに、アマゾン先住民の問題は、大統領が最後に指摘しているように、現代文明から隔離して、単に絶滅危惧種のように保護すればいいのか・・・という面はあるように、私個人も感じます。
ただ、そのことと、先住民が採掘業者、農場経営者、伐採業者に追い立てられるのを放置・容認することは別問題です。
【親族起用】
親族の起用という点でも“本家”とよく似ています。
****ブラジル大統領、息子に駐米大使就任を提案****
ブラジルのボルソナロ大統領は11日、息子のエドゥアルド・ボルソナロ連邦下院議員に駐米大使に就任するよう提案したことを明らかにした。
ただ、就任するかどうかはエドゥアルド氏次第だとした。大統領は「決めるのは彼だ。彼の将来を決めたくない」と記者団に語った。
実際に駐米大使に就任すれば、大統領一族がブラジルの外交や政治に与える影響力が一段と強くなる。
極右のボルソナロ大統領は、トランプ米大統領の影響を受けて昨年の大統領選を戦ったと語っており、トランプ氏に友好的な姿勢を示している。トランプ氏にならって、親族を公職に就かせてきた。
エドゥアルド氏は父が大統領選で勝利した後、ブラジル特使としてワシントンに派遣され、トランプ氏の娘婿のクシュナー大統領上級顧問と面会していた。
また、ボルソナロ大統領が今年3月にホワイトハウスを訪れた際、エドゥアルド氏も同行。ブラジルの外相や駐米大使が姿を見せない中、両大統領が会談する間、父の横に座っていた。【7月12日 ロイター】
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親族起用という政治の私物化の根底には、大統領に当選したら何でも思いのままに実現できるという、民主主義に対する理解・認識の問題もあるのかも。
日韓関係でも二階氏のドタキャンに韓国側が怒っていますが、ブラジルでは・・・
****ブラジル大統領、会談ドタキャンし散髪=仏の批判に反発?****
ブラジルのボルソナロ大統領が、同国を訪れたフランスのルドリアン外相との会談を直前にキャンセルし、散髪していたことが分かった。仏政府から環境保護に消極的な姿勢を批判されたことに対する嫌がらせとの見方も出ている。
現地メディアによると、ボルソナロ氏は7月29日午後にルドリアン氏との会談を予定していたが、1時間前になって「スケジュールが立て込んでいる」と突然中止を通告。
しかし、その時間は大統領府内で散髪しながらカメラに向かって内政問題を語っており、散髪の模様は自身のフェイスブックで生中継された。
これを見たルドリアン氏は激高。大統領報道官は、会談での議題は午前中に行われた外相会談と重なっており問題はないと指摘した上で、「大統領は朝4時から真夜中まで働いている。必要ならば(執務中の散髪も)許されていいのでは」と弁明した。【8月1日 時事】
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【支持率は“苦戦中”ながらも、「良い」「悪い」は拮抗】
一連の言動は、ボルソナロ氏の“個性”としてあまり深刻な問題とはなっていないのも本家同様ですが、7月1日ブログ“ブラジル いろいろあって極右大統領への国民支持は低下傾向”でも取り上げたように、経済問題や政権のスキャンダルで人気は低下傾向にあるようです。
****「ブラジルのトランプ」も醜聞で苦戦中****
差別的言動で「ブラジルのトランプ」とも呼ばれる元軍人大統領ボルソナロの支持率が伸び悩んでいる。7月の世論調査では、ボルソナロの政権運営について「悪い」「最悪」と答えた人の合計は33%に上り、4月の30%から上昇。「良い」「最高」の33%と並んだ。
支持率低迷の背景には進まない景気対策と年金制度改革がありそうだ。ボルソナロはエコノミストのパウロ・ゲデスを経済相に起用したが、財源不足が深刻な年金の改革は進展せず、失業率も高いままだ。
1月の発足以来、政権が醜聞続きであることも要因だろう。地元メディアのインターセプトはセルジオ・モロ法務・公安相が判事時代、政界スキャンダルの捜査に不適切に介入した疑惑を報道。当時支持率トップのルラ元大統領はこの事件で収監され大統領選に出馬できず、結果的にボルソナロは当選を助けられた形となった。
大統領の息子フラビオに関しても銀行口座の不審な取引などを当局が捜査している。不祥事続きもトランプ米大統領ばりだ。【7月17日 Newsweek】
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しかしながら“苦戦中”とは言いつつも、「悪い」「最悪」が「良い」「最高」が拮抗した状態で、一気に失速という訳でもなさそうです。
このあたりも、本家同様、岩盤支持層が存在するのでしょうか。
ボルソナロ氏やトランプ氏などの個人の問題よりは(変わった政治家はいつでも、どこにでも存在します)、こういう政治家を歓迎する現代社会の風潮・歪みに大きな問題があるように思います。
一言で言えば既存の政治・政治家への失望が、ボルソナロ氏やトランプ氏のような“型破り”な政治家への支持に向かわせているのでしょうが、特定支持層へのアピールだけが前面に出て、国民を分断するような形にもなっており、“型破り”の代償は高くつくように思われます。
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