孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ  内部変革しないと時代から置き去りにされる自治政府 すでに忘れられたパレスチナ難民

2020-10-06 23:04:53 | パレスチナ

(レバノン・ベイルートにあるシャティーラ難民キャンプ【2019年7月7日 YAHOO!ニュース】)

 

【国交正常ドミノで風化するパレスチナ問題】

UAE、バーレーンがイスラエルとの国交正常化に踏み出したのに続き、「国交正常化ドミノ」とも言えるような動きがあると(特に、アメリカ、イスラエルサイドから)言われています。

 

****国交正常ドミノ、アフリカからか 対イスラエル、5カ国以上****

イスラエルとアラブ諸国の「国交正常化ドミノ」で、アラブ首長国連邦(UAE)とバーレーンに続き、アフリカのアラブ諸国が正常化するとの見方が出ている。

 

トランプ米大統領は「5、6カ国が続く」と強調。仲介役の米国との関係強化などを期待している国々とみられている。

 

イスラエルのメディアによると、パレスチナ自治政府の閣僚は20日までのラジオ番組で「オマーン、スーダン、コモロ、ジブチ、モーリタニア」が正常化協議に入っていると説明。このほかモロッコもイスラエルとの直行便開設を模索しているとされる。【9月20日 共同】

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こうした「ドミノ」を引き起こしているのは、ひとつには、トランプ大統領自身が「裏口を使った」と自慢するような、アメリカのこれまでにない、なりふり構わぬ「異次元」の外交手法です。

 

もうひとつあげれば、内部分裂を続け、汚職もはびこるパレスチナ自治政府がアラブ諸国にも見放され、アラブ諸国がイスラエルとの関係で得られる「実利」に走っているという面でしょう。

 

****孤立深まるパレスチナ 「実利」優先でアラブ諸国がイスラエルと国交樹立****

歴史的に対立してきた中東のイスラエルとアラブ諸国の国交正常化が相次いでいる。8月のアラブ首長国連邦(UAE)に続き、9月11日にはバーレーンが正常化合意を発表。仲介役のトランプ米大統領は、さらなる国の追随を予告する。

 

実利を優先するアラブ諸国の「裏切り」に、イスラエル占領下にあるパレスチナの孤立は深まり、住民には焦燥と諦めが広がっている。

 

◆内も外も悪化の一途

「抱き合った家族に背中を刺されたみたいだった」。UAEとバーレーンの国交樹立を次々と目の当たりにし、パレスチナ自治区ガザに住むムハンマド・オマルさん(36)は苦い感情に襲われた。本紙の電話取材に「両国は恥を知るべきだ」とまくしたてた。

 

20年前、イスラエルの占領に抗議するパレスチナの民衆蜂起「第2次インティファーダ」が始まり、自らも闘争に身を投じた。足や肩に受けたイスラエル軍の銃弾の傷痕は癒えたが、パレスチナを取り巻く状況は悪化の一途をたどる。

 

イスラエルとパレスチナの「2国家共存」を目指して和平交渉を進めるはずの自治政府は、2007年からガザとヨルダン川西岸で内部分裂を続け、汚職もはびこる。自治政府への期待は薄れ、「アラブ諸国から見放されても仕方ない」と人々の間には諦めが漂う。

 

◆サウジの影 かすむ「アラブの大義」

国交正常化で経済発展や湾岸での台頭をもくろむUAEに対し、バーレーンの場合は「アラブの盟主」サウジアラビアの意を受けた政治的理由が色濃い。人口164万の島国バーレーンはサウジの「裏庭」とも呼ばれ、政治決断の影に常にサウジがいるとされる。

 

サウジにとって米国は安全保障や諸問題での最大の庇護ひご者。サウジ人記者殺害事件でムハンマド皇太子の関与疑惑が浮上した際も、米国が表だった批判をせず沈静化に向かった過去がある。

 

国交正常化には「パレスチナ和平が優先」の立場だが、エジプトのアラブ評論家タミール・ヘンダウィ氏は「UAE-イスラエル便の領空通過を認め、バーレーンも国交正常化に『差し出し』た。米国への協力を示すためだ」と指摘する。

 

米国からテロ支援国家の指定解除を引き出し経済改善につなげたいスーダンや、イスラエルとイランを仲介し存在感を示したいオマーンも、国交正常化にそれぞれ思惑が透ける。パレスチナ和平実現がイスラエルとの国交樹立の前提とした「アラブの大義」は、実利の前にかすんでいる。

 

◆「裏口使った」トランプ氏は和平仲介役か?

国交正常化が相次いだ背景には、大統領再選のためなりふり構わないトランプ氏の動きが大きい。

 

歴代米政権はパレスチナ自治政府を窓口に和平交渉を続けてきたが、トランプ氏は自ら「裏口を使った」と言うように、これまでと違う直接交渉でアラブ諸国に接近。軍事力強化を狙うUAEにはF35戦闘機の売却などもちらつかせ、イスラエルとの単独和平に引き込んだ。

 

各国の利益優先で進む国交正常化に、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸のナジェフ・マアンさん(32)は「米国は和平の仲介役などではない」と憤る。

 

パレスチナでは、国家樹立のため投石でイスラエルと戦った世代から、闘争を知らない若い世代へ交代が進む。マアンさんの父アブアリさん(69)も2月にこの世を去ったが、70年にわたり和平は一向に実現しない。「国家樹立よりも、経済状況のいいイスラエルに移住したい」と漏らした。【9月20日 東京】

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UAEにしても、バーレーンにしても、表立ってはパレスチナ独立国家樹立をこれまで同様主張はしていますが、「国交正常化ドミノ」によって、そうした道が今まで以上に不透明、もっと言えば、消えかかっているのが現実でしょう。

 

****パレスチナ問題、風化が加速 「裏切った」UAE・バーレーン非難****

米国の仲介により、ホワイトハウスで15日、イスラエルと国交正常化の署名式典に臨んだペルシャ湾岸のアラブ首長国連邦(UAE)とバーレーンの外相は、ともにパレスチナ問題解決に努力するようイスラエルのネタニヤフ首相に求めた。

 

だが、式典の場にパレスチナ高官の姿はなく、現地では抗議のデモが起きていた。パレスチナ問題を置き去りにするUAEとバーレーンの姿勢は明らか。問題風化の加速は避けられない。

 

署名式典で、UAEの外相は国交正常化により「独立国家という(パレスチナ側の)希望を実現させることができるだろう」と述べた。バーレーンの外相も、イスラエルと将来のパレスチナ独立国家創設による「2国家共存」案が「平和の土台になる」と訴えた。

 

しかし、イスラエルとの国交正常化という「アラブの禁じ手」を使い、独立国家創設に見切りをつけたのは両国に他ならない。パレスチナでは「裏切りだ」との非難があふれ、式典のさなかにはパレスチナ自治区ガザからイスラエル領にロケット弾が撃ち込まれた。

 

8月に発表されたUAEとイスラエル、米国の国交正常化合意に関する声明には、イスラエルが意欲をみせていた占領地ヨルダン川西岸の併合停止に関する一文が盛り込まれたが、ネタニヤフ氏は「計画に変更はない」と主張する。併合を強行した場合も、UAEやバーレーンがイスラエルと断交するとは考えにくい。

 

苦境を招いたのはパレスチナ自身でもある。アッバス議長率いる自治政府がヨルダン川西岸を、一方でイスラム原理主義組織ハマスが自治区ガザをそれぞれ統治する分裂状態が10年以上に及び、国際社会への訴求力は弱まるばかりだ。

 

アッバス氏は任期が切れた2009年の後も自治政府の議長選を行わず、腐敗の蔓延(まんえん)も伝えられる。独立国家創設の熱意など、とても感じられない。

 

パレスチナ暫定自治に道を開き、中東和平への期待が高まった「オスロ合意」から27年。イランの脅威増大を訴えてアラブ諸国の結集を図るというトランプ米政権の異次元のアプローチで、パレスチナ問題はかつてないほど色あせた。【9月17日 産経】

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【内部分裂を続け、汚職もはびこるパレスチナ自治政府の改革の必要性】

こうした現状に危機感を抱いたのか、さすがにパレスチナ側にも(遅ればせながら)内部統一の動きは出ているようです。

 

****パレスチナ議会選で合意 ファタハとハマスが接近****

分裂状態のパレスチナで、自治政府の主流派ファタハとイスラム原理主義組織ハマスが24日、パレスチナ評議会(議会)と自治政府議長の選挙を半年以内に行うことで合意した。評議会選が実施されれば2006年以来となる。ロイター通信が伝えた。

 

アラブ首長国連邦(UAE)とバーレーンが今月、パレスチナ問題を棚上げする形でイスラエルと国交を正常化し、パレスチナの存在感の低下が鮮明になっていた。ファタハとハマスは団結して国際社会にパレスチナ問題解決を訴えるため歩み寄ったとみられる。

 

ファタハとハマスの幹部はトルコで協議を行い、選挙の実施で基本合意したことを明らかにした。自治政府のアッバス議長が選挙の日時を決める見通し。

 

06年の評議会選ではハマスが圧勝して単独内閣が発足したが、治安権限をめぐってファタハとの武力抗争が激化。ハマスは07年に自治区ガザを武力制圧し、ヨルダン川西岸を実効支配する自治政府と分裂した。

 

イスラエルや欧米はハマスを「テロ組織」と認定している。イスラエルとパレスチナの和平協議は14年から開かれていない。【9月25日 産経】

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ファタハとハマスによる統一政府樹立の動きはこれまでもありましたが、現実的な障害によってその都度立ち消えになっています。

 

しかし、現在の「ジリ貧」状態を脱するためには、アラブ諸国・国際世論の信頼を得るためのパレスチナ側自身の内部改革が不可欠でしょう。

 

****時代の変化に取り残されたパレスチナに必要な改革****

イスラエルとアラブ首長国連邦およびバーレーンとの国交正常化合意は、パレスチナにとり敗北であり、新たに直面する厳しい現実である。

 

この問題につき、フィナンシャル・タイムズ紙の9月22日付け社説‘Palestinians face a new reality: Fresh leadership is needed after Israels deal with UAE’は、国交正常化合意の背景にイスラエルの強硬姿勢や入植政策、アラブの変化(湾岸諸国は数年前にイスラエルを生存上の敵国とみることを止め、パレスチナの正義を最優先事項と考えることを止めた)やトランプ政権の政策(イランの脅威をイスラエルと共有)があることに言及しつつも、パレスチナ側にも責任があるという。

 

具体的には、ファタハとハマスの内部対立、パレスチナ自治政府(PA)内の汚職、和平への硬直的な姿勢、アッバス政権の長期化と長年に亘る選挙の欠如などである。そして、パレスチナ問題の「公平な解決」のためにも、先ずPA指導部の選挙をすべきだと提案する。

 

いずれも妥当な、重要な意見である。

 

アッバス議長の後任は難問だろう。アッバスはアラファト後の難しい時代を担ってきたが、和平問題はパレスチナにとりジリ貧の時代になってしまった。もう若い世代に代わるべきということであろう。

 

エラカートPLO執行委員会事務局長(1955年生まれ)等の世代になるか、もっと若い世代になるのか、内情はよくは分からない。

 

問題の困難さ、米国などを含む問題の複雑さがあるのは勿論だが、パレスチナが未だに和平を達成できていないのは残念なことである。

 

全ての責任をパレスチナに負わせることはできないが、パレスチナ側の非妥協的な、硬直した姿勢には大きな問題がある。(中略)

 

なお、上記のフィナンシャル・タイムズ社説は、パレスチナ和平の最終目標につき、二国解決であろうと一国解決であろうと、「公平な解決」が必要だと言う。これは、やや不審である。

 

フィナンシャル・タイムズはパレスチナ国家樹立ではなく高度の自治を考えているのだろうか。この一国解決が永続する解決のようには思えない。大イスラエル国家内で紛争が永続するのではないか。

またイスラエルはユダヤ国家を維持できなくなるのではないか(出生率が違う)。

 

基本的には依然何らかの二国解決以外に永続的な解決はないように思う。

 

いずれにせよ、パレスチナが置き去りになることは中東の安定にとり良くないことである。パレスチナも、もっとサウジ等アラブの国と接触、連携すべきであろう。パレスチナ単独で問題は解決できないし、支援も必要だ。

 

中東ではアラブの国がナショナルなアイデンティティと願望を強め、昔のようなアラブの正義の時代は変わろうとしている。パレスチナはこの新たな現実を直視すべきであり、機会を逃してはならない。手を打たないと置き去りにされてしまう。【10月5日 WEDGE】

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【「そこにいるのにいないことにされている」パレスチナ難民の苦境】

パレスチナ自治政府の置かれている状況は深刻ですが、自治政府以上に「誰からも顧みられない」「置き去りにされた」状況にあるのが、各国で暮らすパレスチナ難民です。

 

パレスチナ難民の帰還の問題は、もはや実現不可能として直視されない状況ともなっています。

それでも、彼らにも生活があります。

  

****誰からも顧みられない中、パレスチナ難民の苦境が深刻化する*****

「中東和平」として何かを合意したり、解決したりする問題は、イスラエルと「パレスチナ自治政府(PA)」なるものとの間だけの問題ではない。

 

また、ヨルダン川西岸やガザ地区と呼ばれるごくごく狭い領域とそこに住む「パレスチナ人」とやらの処遇を決めればいいというだけではない。

 

実は、ヨルダン川西岸とガザ地区に住んでいるパレスチナ人と同じくらいの数の「パレスチナ人」が、それ以外のところに居住しており、レバノンにも数十万人が暮らしている。

 

2020年8月~9月にUAEとバハレーンが相次いでイスラエルと外交関係を樹立し、他のアラブ諸国もこれに続こうとする中、「パレスチナ問題」を専ら中東諸国の国際関係の問題とみなし、「パレスチナ」の当事者はPAやヨルダン川西岸とガザ地区に住む人々「だけ」であるとの誤解が深刻化しているように思われる。

 

筆者は浅学にして、アラブ諸国とイスラエルとの外国関係についての反応で、レバノン、シリア、ヨルダンにいるパレスチナ人の反応についての記事を全くと言っていいほど見かけなかった。

 

本来、ヨルダン川西岸とガザ地区以外のところにいる「パレスチナ難民」の処遇をどうするのか、すなわち彼らが故地であるパレスチナに戻る権利としての帰還権をどのように扱うのかは「中東和平」の中で解決すべき重要な課題のはずだった。

 

これが、いわゆるオスロ合意でも、アラブ和平提案でも「そのうち決める」との調子で先送りされ、ついにはヨルダン川西岸とガザ地区以外のところにいるパレスチナ人は報道機関のカメラも人権団体の目もむかない、「見えないもの」になりつつある。

 

レバノン最大のアイン・ヒルワのパレスチナ難民キャンプには、1平方kmあたり12万人のパレスチナ難民が住んでいるそうだが、レバノンの政治・経済危機が深刻化するに伴い、パレスチナ難民の境遇はレバノン人と同等かそれ以上に悪化しているようだ。

 

報道によると、同キャンプでの失業率は90%にも達し、飢餓が広がっているそうだ。レバノンでは、同国の政治体制やこれまでのレバノンの混乱・戦乱でのパレスチナ難民と彼らの政治・軍事組織の振る舞いが原因で、パレスチナ難民をレバノンの社会に包摂することができない。

 

その結果、レバノン在住のパレスチナ難民は就労や所有の権利が著しく制限され、「うまいことやって」諸般の規制をすり抜けたり、ヨーロッパなどに移住して生活の基盤を築いたりできなかった者たちはまさに「なすところなく」暮らしている。

 

また、レバノンの官憲は原則としてパレスチナ難民キャンプには立ち入らず、キャンプ内の治安はパレスチナの政治・軍事組織の諸派が担っているため、レバノンだけでなく国際的な犯罪者(特にイスラーム過激派)の容疑者にとって難民キャンプは格好の潜伏地となってきた。

 

こうした状況に昨今の中国発のコロナ禍が重なったため、どうにかしてレバノンの農業・建設業・清掃業などに働き口を得てきたパレスチナ難民の失業が深刻化し、外部からの仕送りも減少した。

 

こうして、レバノンのパレスチナ難民キャンプはキャンプ内での新型コロナウイルスの蔓延の他、深刻な経済・社会危機にさらされている。

 

キャンプ内で活動するパレスチナ諸派や各種援助団体がパンの配布などを行っているようだが、パレスチナ難民向けの国際的な支援が減少する中、支援の内容は食事や食材の提供と呼ぶべき水準に達していないそうだ。

 

キャンプ内の治安を仕切るパレスチナ諸派は、状況の悪化により過激派に与する者が増えることを懸念している。(中略)

 

しかし、現在レバノンのパレスチナ難民に関心を抱く報道機関や視聴者はほとんどいないようだ。アラブ諸国とイスラエルとの外交関係樹立の際も、「現地取材」と称する情報発信も、そのほとんどがヨルダン川西岸とガザ地区の話しかしていなかった。

 

これは、現場での制約もさることながら、レバノンのパレスチナ難民の話なんかしても取材する側にも視聴者の側にも、「ネタとして売れない」からという事情が関係しているように見受けられる。

 

本邦にも世界にも、パレスチナ難民のために活動している団体や個人はたくさんいるはずなのだが、ヨルダン川西岸とガザ地区ではないところにいるパレスチナ難民は、「そこにいるのにいないことにされている」不思議な存在になっている。【10月5日 髙岡豊氏 YAHOO!ニュース】

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