孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  タリバン復権から2年 悪化する人権問題 アメリカとの協議も

2023-08-07 23:12:53 | アフガン・パキスタン

(アフガニスタンの首都カブールで、イスラム主義組織タリバン暫定政権による美容院閉鎖命令に抗議する女性ら(2023年7月19日撮影)【7月20日 AFP】)

【強化される教育機会からの女性排除 失われる将来の「夢」】
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンが復権して8月15日で2年となります。

タリバン政権は、政権奪取当時はやや柔軟な姿勢もほのめかせ、旧タリバン政権当時とは異なる対応の期待も抱かせましたが、女性の権利制限など、彼らがイスラムの教えにのっとっていると考える(実際は、イスラムというよりは、タリバン独自の特殊な思想やパシュトゥン人部族社会の考えだったりする面も多いように思われますが)施策は次第に強化される傾向にあります。

****タリバン政権、女子の留学禁止 教育制限を徹底、奨学金も****
女子の大学教育を停止したアフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権が、女子の国外留学も禁止したことが7日、複数の政権関係者への取材で分かった。留学のための奨学金利用も禁じた。

進学機会を求め国外に出る女性もいるが、阻止するため教育制限を徹底している実態が明らかになった。欧米の批判は必至。タリバン復権から8月で2年となるが、国際社会の承認はさらに遠のいた。

アフガンへの影響力拡大を狙うロシアにタリバン暫定政権が奨学金制度の対象からアフガン人女性を除外するよう求め、ロシア側が追認、20代のアフガン人女性の申請を却下したことも判明した。【7月7日 共同】
*********************

厳しさを増す女性の教育からの排除のなかで、女性は将来の「夢」も奪われています。

****大学で勉強して医者になる夢が…タリバン支配下、アフガン女性の困難****
裸電球がぶら下がる部屋の片隅に、1人用の小さな机が置かれていた。広げられたノートには、オンライン授業で習った英単語がびっしりと書かれている。

「大学で勉強して医者になるのが子どものころからの夢でした。私の人生は何もかも変わってしまいました」。アフガニスタンの首都カブール西部ダシュテバルチで暮らすマリヤム・サダトさん(18)はそう言うと、苦しげに声を詰まらせた。

2021年8月に実権を握ったイスラム主義組織タリバン暫定政権は女子の中等学校教育を停止し、サダトさんは通学を断念せざるをえなかった。

地域によっては私塾での女子教育も制限されているが、サダトさんの居住地では塾に通うことは認められている。サダトさんは以前から放課後に通っていた近隣の学習塾「カジ教育センター」で、他の女子生徒らとともに大学受験に向けた勉強を続けた。

本来なら12年生(日本の高校3年生に相当)だった昨年9月末、サダトさんら約400人の生徒が同センターで模擬試験を受けていたところ、教室に何者かが侵入して自爆した。サダトさんは直前に外で銃声が響くのを聞いて教室から飛び出して助かったが、国連アフガニスタン支援団(UNAMA)によると、女性48人を含む54人が死亡し、114人が負傷した。

同センターがあるダシュテバルチは、住民の大多数がイスラム教シーア派を信仰する少数民族ハザラ人だ。タリバンの復権後に治安は安定したとされるが、シーア派を敵視する過激派組織「イスラム国」(IS)系の「ISホラサン州」などによるテロは今も続く。

同センターでの自爆事件も同様のテロだとみられている。UNAMAによると、タリバンが復権してから今年5月までに全国で自爆テロなどで市民1095人が死亡し、2679人が負傷した。

サダトさんはその後も自宅で大学受験の勉強を続けたが、22年末に今度はタリバンがそれまで認めていた女性の大学教育を停止すると発表。大学進学の道は途絶えた。今も毎朝5時に起きてオンラインなどで勉強し、近所で市民団体が実施する英語の授業を1日約2時間受けているが、将来は見えない。「この国で女性として生きるのは大変なことです。海外で勉強を続けたいですが、国を出るのも難しい」と声を落とす。

傍らで娘を見つめる母マスーマさん(50)は「私は教育を受けられなかったので、職に就くことができなかった。だから娘には教育を受け、良い未来をつかんでほしいと願っています」とつぶやいた。マスーマさんはサダトさんが生まれる5カ月前に夫サイド・アブドル・カリームさんを亡くし、一人でサダトさんら10人の子どもを育ててきた。

前回のタリバン政権(1996〜01年)が崩壊した後、欧米や日本はアフガンの教育を支援してきたが、タリバン復権後の国際援助は停滞している。

旧民主政権時代に生まれ育ったサダトさんは「私たちはたくさんの希望を抱いていました。これまでアフガンを支援してきた国々に戻ってきてほしい。私たち女性を支援し、女性の学校教育を再開するようにタリバンに働きかけてほしい」と祈るように訴えた。

サダトさんはテロの恐怖からカジ教育センターに通えなくなったが、センターでは今も大学受験を目指す生徒らが学んでいる。銃を携えた警備員が厳重に警戒する中、手荷物検査とボディーチェックを受けてセンター内に入ると、教室で黒板に向かう女子生徒らの姿が見えた。「彼女たちが安心して学べる日を待ち望んでいます」。職員は硬い表情で語った。

タリバンが実権を掌握して15日で2年となるアフガンで、女性たちを取り巻く環境が厳しさを増している。女性らの声に耳を傾けた。【8月6日 毎日】
*********************

【美容院も音楽も】
7月4日には、タリバン政権「勧善懲悪省」が、女性にとって数少ない職場であり、また、女性客にとって息抜きの場でもあった美容院も1か月以内に閉鎖するように命じていることも明らかになりました。

****タリバン政権の女性排除、美容院閉鎖命令で6万人失職も****
アフガニスタンで暮らすマルジア・レヤジーさん(34)は8年前に1万8000ドル余りを投じて女性専用の美容院を立ち上げ、この事業の収入で家族を養ってきた。

しかし、実権を握るイスラム主義組織タリバンが打ち出した美容院閉鎖命令が25日に施行されれば、店は営業できなくなる。他に生計を支える手段は見当たらず、2児を抱えて窮地に立たされることになりそうだ。

「ここで働くことはできないし、家計を賄うこともできない。働き口が必要です」と話すレヤジーさんは、アフガニスタンの美容サービス部門で働く多くの女性と同様に一家の生計を背負っている。

タリバンは2年前の米軍撤退に伴う政情混乱の中で実権を掌握し、その後は女性を抑圧する政策を次々と打ち出している。美容院閉鎖は最高指導者の命令に基づいて4日に発表された。

業界の試算によると、6万人以上の女性が職を失い、1万2000軒の美容ビジネスが閉鎖に追い込まれる可能性があり、すでに危機的な状況にある経済は一段と圧迫されそうだ。(中略)

国際労働機関(ILO)によると、美容院閉鎖命令は女性の雇用にも「著しい」減少をもたらす。タリバン統治下のアフガニスタンは女性の正規労働力への参加率がわずか23%程度だという。

美容院は通常のサービスを提供するだけでなく、多くのアフガニスタン女性にとって、自宅外で男性の付き添いなしに人と会うことができる、安全な女性だけの場所となっている。

タリバン暫定政権は、イスラム法とアフガニスタン文化の解釈に沿って女性の権利を尊重していると説明している。これまでに類似した命令により、女子に対して高校・大学の門戸を閉ざし、多くの女性支援スタッフが働けなくなっている。外国当局者は、こうした動きが暫定政権の正式承認に障害となっていると指摘している。

暫定政権によると、銀行制裁、開発支援の削減、迫り来る人道支援減少の中、支援への依存から脱却し、民間セクターの発展を通じて経済を活性化させることに重点を置いているという。

タリバンの高官は、女性が経営するビジネスの発展を支え、見本市でも女性のためのスペースを認めていると主張している。だが、(アフガニスタン担当国連事務総長特別代表の)オトゥンバエワ氏は、美容院閉鎖命令は「女性の起業を支援するという当局の過去の事実上の公約に反する」と反論している。(後略)【7月25日 ロイター】
********************

厳しい圧政のもとでは異例のことですが、美容院閉鎖命令に抗議する50人規模の女性たちのデモもあったようです。
昨年12月に女子学生の大学からの締め出しを巡る抗議活動に対して厳しい取り締まりが行われて以降、こうした抗議はあまり起きていません。
参加者の話では、当局はデモを解散させるために放水銃を使い、空に向けて発砲したとのこと。

****アフガン女性、美容院閉鎖命令に抗議****
アフガニスタンの首都カブールで19日、女性たちがイスラム主義組織タリバン暫定政権による美容院閉鎖命令に抗議するデモを行ったが、治安当局に解散させられた。

女性を公の場から排除する政策を推進しているタリバンは先月、全土の美容院の閉鎖を命じた。美容院は多くの女性にとって唯一の収入源となっていた。さらに、自宅から離れて女性同士で集まって交流する安全な場所にもなっていた。

デモは美容院が集まるブッチャー・ストリートで行われ、参加者の一人は「私のパンと水を奪うな」と書かれたプラカードを掲げた。

アフガンで公の場での抗議行動はまれだが、現場のAFP記者によれば、19日のデモには女性約50人が参加した。 【7月20日 AFP】
********************

“ある女性は「タリバンは日々、女性を社会から排除しようとしている。私たちも人間です」と目に涙を浮かべて訴えた。身の安全を守るため、名前は明かさなかった。”【7月25日 ロイター】

直ちに全員を拘束・・・でないだけ、まだましと言うべきでしょうか。

音楽もダメです。「音楽は道徳の崩壊を招く。若者が音楽を演奏すれば道を外れる」とのこと。

****タリバン、「不道徳」と楽器焼却****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン当局は29日、西部ヘラート州で楽器や音響機器などを焼却処分した。
 ギター、ハーモニウム、タブラといった楽器のほか、アンプやスピーカーなど音響機器が野外で燃やされた。市内の結婚式場から集めたものが大半を占める。

ヘラート州の勧善懲悪省トップは「音楽は道徳の崩壊を招く。若者が音楽を演奏すれば道を外れる」と説明した。

タリバンは2021年の実権掌握以来、公の場での音楽の演奏を禁止するなど、イスラム法の厳格な解釈に基づく規制を導入している。 【7月31日 AFP】
********************

旧タリバン政権では、音楽だけでなく、テレビ、凧あげなど「娯楽」全般が禁じられていました。

タリバン幹部は7月26日、ネクタイはキリスト教の十字架の象徴であるとし、排除すべきだと主張しています。
(ちなみにイランでも、ネクタイは「西洋文化」の象徴とされています)

【アメリカ タリバンと協議】
こうした中で、タリバンとアメリカの交渉が行われているようです。

****米政府代表がタリバンと協議、経済・人権・麻薬対策など焦****
米政府の代表者が31日までの2日間、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権の代表者とカタールで会談した。米国務省の発表によると、米側は経済的安定に関する技術的協議や麻薬取引撲滅に向けた協議に前向きな姿勢を示した。

「悪化する」人権問題への懸念も表明。タリバンに対し、女子の中等教育や女性の就労の禁止を撤回し、拘束されている米国人の解放を改めて求めたという。

インフレ低下など指標の改善や2022年の禁止令の下でアヘンケシ栽培が減少したことに楽観的な見方も示した。

同省は声明で「(米側は)麻薬対策に関する対話の継続に前向きな姿勢を示した」としたほか、「経済安定化問題に関する技術的な対話」を近く行う用意があるとした。

タリバン側の発表によると、タリバンの代表者らは同組織の指導者に対する渡航制限などの解除や、アフガン中央銀行の海外保有資産の返還などを巡る問題を提起した。

タリバン指導者の渡航禁止を解除し、中銀準備金の凍結を解除して「アフガンの人々が外国からの援助に頼らない経済を確立できるようにすることが信頼醸成に極めて重要」と繰り返したという。【8月1日 ロイター】
********************

「悪化する」人権問題への懸念をアメリカ側が表明したとのことですが、それへのタリバン側の反応は書かれていません。おそらく「無視」ということでしょう。

もしタリバン指導者の渡航禁止や中銀準備金の凍結に関して「譲歩」するのであれば、タリバン側の人権問題での「譲歩」が不可欠です。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« イタリアは「一帯一路」離脱... | トップ | フィリピン  南シナ海で相... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

アフガン・パキスタン」カテゴリの最新記事