(気勢をあげる北部同盟支持者
北部同盟は、工業地帯が密集し経済的に優越しているイタリア北部の自治拡大を主張する地域政党ですが、現在は、“連邦制”の枠組みでの地方分権の主張という形で北部色を薄めると同時に、安価な外国人労働者によって職を奪われるという脅威から「外国人移民への排斥」へと軸足を移し、人権問題の観点から移民対策には弱腰の左派政党を見限った南部労働者層の支持も集め、イタリア南部でも党勢を拡大しています。 “flickr”より By maxalari
http://www.flickr.com/photos/34139543@N05/3181907041/)
【「ラチズモ(人種差別)」】
イタリアでは、旧東欧諸国がEUに加盟してから、ルーマニアからの労働者を筆頭に外国人労働者が増加し、正規登録の外国人居住者は9年前の4倍に増え440万人、人口の7%強に達したとも言われています。
このほかに、北アフリカなどからの約100万人の不定期労働者として働く不法入国外国人がいるとも。
外国人増加に伴って、外国人が起こす犯罪件数も急増し、銀行強盗の6%、窃盗・強盗の51%、スリ・ひったくりの70%が外国人による犯罪であると報じられています。【08年8月3日 産経】
昨年4月総選挙で、「犯罪の36%は違法移民によるもの」と主張して治安強化を公約とするベルルスコーニ首相が率いる中道右派連合「自由国民」が勝利。東欧、アジアやアフリカなどからの移民を嫌悪する極右政党「北部同盟」も中道右派連合の一翼を担い、前回06年の得票率4.5%から上下両院で8%台へと躍進しました。
そのベルルスコーニ政権は、不法移民による犯罪対策などのために、08年8月、陸海空軍の兵士3000人を全土に展開しました。3000人は警備・巡回などに動員され、約三分の一は各大使館・主要駅など攻撃の標的となる恐れのある重要施設周辺に、もう三分の一が不法入国者の収容施設周辺に、残る三分の一は警察との合同パトロール要員として都市中心部に配置されました。
治安維持を目的にした兵力展開は97年に犯罪組織マフィア対策として南部ナポリに配置して以来のことです。
一方、アフリカ人や中国人が被害に遭う殺人、傷害事件が連続して発生。「ラチズモ(人種差別)」という言葉がマスコミで多用され、人種差別に反対するデモも各地で起きています。
“08年9月14日未明、北部ミラノの雑貨店で起きた。イタリア人店主の父子(51歳と31歳)が、店に来たアフリカ系の男性(19)の万引きを疑い、口論の末、鉄パイプで頭部をめった打ちにし殺害した。男性は両親が西アフリカ・ブルキナファソから移住したイタリア生まれだった。
父子は男性を殴る際「汚い黒人泥棒」などと叫んでいたとの目撃証言がある。
4日後の18日、今度はナポリ北方のカステル・ボルトゥルノで、路上にいたガーナ、トーゴ、リベリア出身の男性7人がバイクで近づいた男たちに銃撃され死亡した。
地元警察は犯罪組織カモッラによる麻薬密売の縄張り争いと発表したが、地元住民が「アフリカ人差別だ」と怒り、暴動になった。
08年10月2日には、ローマ郊外で、中国人男性(37)が10代前半の少年7人に殴られた。”【08年10月17日 毎日】
なお、こうした事件には、商売上のトラブルや縄張り争い、少年の非行という側面もあり、憎悪や恐怖が絡む「人種差別」と結論づけるのはそう簡単ではないとも。
【自警団】
外国人移民をめぐる社会問題が先鋭化しているイタリアで、違法移民をかくまう市民には禁固刑を科し、自警団による巡回を合法とする治安法が施行されたことは、7月24日ブログ「イタリア 治安法施行 自警団による違法移民の捜索、摘発」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090724)で取り上げたところです。
治安法の主な内容は、(1)違法移民は5000~1万ユーロ(66万~132万円相当)の罰金を科し、国外に追放する(2)医師と学校職員を除く公務員には、違法移民に関する情報を当局に報告する義務を課す(3)元警察官らで組織された自警団は違法移民の捜索、摘発ができる(4)違法移民に部屋を賃貸した者は6カ月から3年の禁固刑--など。
外国人を犯罪者とみなす市民の過剰防衛が広がる危険を危惧する野党だけでなく、欧州議会やローマ法王庁などからも「外国人差別を促す」「ファシズムの再来」との批判が出ていましたが、与党が押し切った形となりました。
治安法に関するその後の状況を伝える記事です。
****イタリア:自警団巡視の合法化めぐり南北で温度差 対立も****
7月に大統領が調印したイタリア・ベルルスコーニ右派政権による治安法の施行で、自警団による市内巡回が合法化された。だが、これを推し進める北部の自治体に反し、南部は「必要ない」と異を唱え、外国人排斥を招きかねない治安法そのものをめぐる対立が浮上している。
7月施行の治安法は不法滞在外国人に罰金刑、その協力者に禁固刑を科し、元警察官らが指導する自警団の巡視が合法化された。
だがナポリターノ大統領は調印に際し、暴力や私刑を招きかねないと、自警団の合法化に懸念を示す意見書を首相や発案者のマローニ内相(北部同盟)に手渡した。
これを受けマローニ内相は、自警団について(1)地方自治体が認定(2)団員は無給で25歳以上の精神健常者(3)特定の政党や労組、サッカーのサポーターと無関係(4)軍や警察官のような記章や制服、武器の不使用(5)1カ所に徒党を組んで歩けるのは3人まで--など、細かな条件を課した。
イタリアには、15年前にミラノで発足した「シティ・エンジェルス」(構成員100人)をはじめ、北部を中心に未認定の巡回集団がすでに68ある。
だが、北部同盟の党員団体など、条件を満たさない例が多い。また中南部では「巡回という形がなじまない」(ローマ市長)、「住民にあつれきを生む」(ナポリ市長)と反発する声が強い。
左派の野党、民主党やバチカン(ローマ法王庁)は、自警団が増長すれば外国人狩りをする恐れがあると非難している。
伊レプブリカ紙の調査では、人口10万人以上の全国48市のうち自警団認定に賛同するのは、北部の12市で、残る24市が反対、12市が検討中と答えている。治安法は外国人排斥を目指す北部同盟の政党色が濃く、寛容な中南部が疑問視している形だ。
中北部のマッサ市では7月末、自警団反対の左派と右派の若者が衝突し、警官3人が負傷する事件も起きた。【8月13日 毎日】
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前回7月24日ブログでも書いたように、移民の存在が社会にもたらす影響は非常に大きなものがありますので、違法移民に対する何らかの対処は必要でしょうが、そうであったとしても「元警察官らで組織された自警団は違法移民の捜索、摘発ができる」というのは、“不気味”です。
公権力による法の執行とは別なところで、経済問題などの社会にくすぶる不満が“自警団”による憎悪による暴力というかたちで、社会の底辺に位置する者へ向けられる事態も想像されます。
異民族間の軋轢という非常にデリケートな、冷静に対応すべき問題に、感情的な剥き出しの暴力が向けられる恐れが強く懸念されます。