(“flickr”より By doneastwest
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【「アルシャバブ」の攻勢】
バーレ政権崩壊後の91年以降、事実上の無政府状態が続くソマリアは「崩壊国家」とも呼ばれており、国際的には海賊問題で注目されています。
日本も、6月に成立した海賊対処法に基づく海上自衛隊の第2次派遣部隊の護衛艦「はるさめ」と「あまぎり」が7月6日拠点となるジブチに向けて出港しており、現在新法に基づく海賊対処行動を行っています。
ただ、誰もが口をそろえて言うように、ソマリア国内の無政府状態が解消しない限り、その混乱のひとつの表れである海賊問題も解決しません。
そのソマリア国内では、国際テロ組織アルカイダと関連があるとされる急進的イスラム組織「アルシャバブ」などのイスラム武装勢力が今年1月のエチオピア軍撤退以降急速に支配地域を拡大し、5月初旬から暫定政府軍への攻勢を強めています。
6月20日には暫定政府は非常事態宣言を出し、国会議長がエチオピアなど周辺国に軍隊派遣を要請する異例の声明を出す事態になっています。(今更“非常事態”というのも妙な話ですが)
7月に入っても状況は好転せず、 ソマリア南部を実質支配する武装勢力「アルシャバブ」が暫定大統領官邸から約1キロの地点まで侵攻し、アフリカ連合(AU)の平和維持部隊との戦闘にもなっています。
ソマリア国内にはアフリカ連合(AU)の平和維持部隊約4300人が駐留していますが、政府機関や要人の警護などが主な任務で、自衛にしか武力は使えないことになっています。
AU部隊の戦闘参加は07年3月の駐留開始以来初めてのことです。
【急増する難民】
この内戦によって多数の難民が発生しています。
****ソマリア:避難民22万人に急増 無政府状態続く****
東アフリカ・ソマリアで、暫定政府軍と急進的イスラム勢力「アルシャバブ」などの戦闘で首都モガディシオからの避難民が急増、22日までの約2カ月半で22万人を超えた。民間人の死者は少なくとも350人、負傷者は1500人に達している。今月末には海賊対処法下の初派遣で海上自衛隊の第2次部隊がソマリア沖で活動を開始する予定だが、海賊発生の根本原因である本土の無政府状態は、好転の兆しが見えない。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、戦闘が激化した5月7日以降、首都からの避難民は少なくとも22万3000人に達した。隣国エチオピアのダダブ難民キャンプには定員の3倍以上の約29万人が身を寄せている。
人道団体が支援しているが、水や薬品、支援資金も不足がち。20日にはソマリア南部でアルシャバブが国連関連事務所3カ所を「イスラムに反する」などと主張し閉鎖した。(中略)
暫定政府を支援する米国は先月26日、軍事訓練や兵器の購入資金、約40トンの武器・弾薬の提供を認めた。しかし、「エリトリア政府の資金援助を受けている」と国連などが指摘しているアルシャバブは活発で、暫定政府の支配権はモガディシオですら限定的だ。
ソマリアに駐留する約4300人のアフリカ連合(AU)平和維持軍に部隊を派遣するウガンダは16日、治安回復権限の強化と増派が必要だと指摘。
06年に暫定政府支援で侵攻したエチオピアは、南部に部隊を派遣したとの報道もあるが、米国のけん制もあり、公式には介入に慎重姿勢を示している。【7月22日 毎日】
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海を渡って対岸のイエメンに逃れようとする人々も急増しています。
****ソマリア:イエメンへの難民、09年前半で3万人 内戦激化の影響深刻*****
東アフリカ・ソマリアで続く戦闘などを逃れ、アデン湾経由でイエメンに渡った難民が今年前半だけで約3万人となり、通年で約5万人だった昨年を超えるペースで増加している。渡航中に死亡または行方不明となった人も300人近くに上っており、内戦激化の影響が深刻化している。
イエメンの地元紙によると、ソマリアからたどり着く難民の数は、首都モガディシオで戦闘が激化した5月初旬以降に急増。今月1日にも女性20人を含む61人の到着が確認された。中東地域では最貧国のイエメンだが、推定約15万人のソマリア難民が生活している。(後略)
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以前のブログでも取り上げたことがありますが、このイエメンへの密航を手引きする業者のなかには悪質な者も多く、船上で難民から金品を巻き上げたり、沖合で船から難民を突き落とし溺れ死にさせることも珍しくないようです。そうした危険がありながらも、多くの人々がソマリアに留まるよりイエメンに脱出する方を選ぶということに、ソマリアの置かれている現状が窺えます。
【外国の介入・関与】こうしたソマリア情勢に関して、外国の介入はイスラム原理主義勢力を活発化させるだけで、むしろ事態を悪化させる。介入せずに放置することが賢明だ・・・という意見もあるようです。
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「外国の軍事介入は過激派を結束させている」と、米シンクタンク外交評議会のブロンウィン・ブルトンは言う。さらに、国際的なジハード(聖戦)の舞台にしようとパキスタンからソマリア入りするアルカイダの戦闘員も多い。おかげで長期的な政治的解決ははるかに難しくなっている。
最も賢明な対応は、非情に思えるだろうが、首都を制圧しようとするシャバブをこのまま放置することかもしれない。その理由はいくつかある。まず、イスラム武装勢力は一枚岩には程遠く、外敵がいなければ分裂する可能性が高い。次に、ソマリアの氏族の多くは十分に武装しており、狂信的な武装勢力に簡単には負けないはずだ。
そして、実際にシャバブが権力を掌握したとしても、統治という難題が待っている。「ソマリ人は厳格な宗教イデオロギーを嫌う」ため、タリバン式の支配には抵抗するだろうと、ブルトンは言う。外国軍が役に立つのはシャバブが自滅した後だ。ソマリアに戻るとしたら、目的は戦闘ではなく復興支援でなくてはならない。
【8月5日号 Newsweek日本語版】
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06年にソマリアを支配したイスラム原理主義勢力「イスラム法廷会議」の頃には、それなりに社会は安定し、海賊行為も抑えられた・・・とも言われますので、イスラム原理主義だろうがなんだろうが、とにかく地元勢力による国内支配を実現させるほうが、徒に内戦状態を継続するよりましではないか・・・というのもひとつの考えです。
しかし、現在の「アルシャバブ」は「イスラム法廷会議」より更に過激化しており、アルカイダなど外国勢力との繋がりも強いと言われています。
「アルシャバブ」が勢力を拡大した地域では、人道支援用の物資・資産・機器が大規模に略奪・破壊され、支援活動に大きな支障が出ています。こうした勢力に、難民対策や「良き統治」を期待するのは難しいようにも思えます。
イスラム過激派勢力を抑えて、暫定政府側で国内をまとめようというのであれば、結局アメリカが動かないと・・・というのが現実です。
95年に米軍主体の国連平和執行部隊が撤退して以来、アメリカにとってソマリアはトラウマでもあり、ソマリアへの関わりには及び腰でしたが、ここにきてアメリカが本格支援に乗り出す可能性が出てきたそうです。
****米国:ソマリア支援強化 国務長官、アハメド大統領と会談*****
アフリカ7カ国を歴訪中のクリントン米国務長官は6日、ケニアの首都ナイロビで、ソマリア暫定政府のアハメド大統領と会談し、国際テロ組織アルカイダとの関連が指摘される急進的イスラム武装勢力との戦闘が続く暫定政府への支援を強化する意向を伝えた。95年に米軍主体の国連平和執行部隊が撤退して以来、ソマリア問題に及び腰だった米国が本格支援に乗り出す可能性が出てきた。
ロイター通信によると、クリントン氏は会談後の共同記者会見で、武装勢力を支援しているとされる周辺国エリトリア政府の姿勢にも言及。「彼らの行動は受け入れがたい。(介入行為を)やめなければ我々も行動を取る」と強くけん制した。(中略)
オバマ政権は6月、軍事訓練や兵器購入のための資金や約40トンの武器・弾薬の提供を発表。米軍はソマリア本土での戦闘には直接関与しないが、拠点を置く隣国ジブチでソマリア治安部隊への訓練任務を開始したとの情報もある。クリントン氏のアフリカ訪問は歴代の国務長官の中で就任後、最も早い。オバマ政権のアフリカ重視の姿勢を印象づける狙いもあるようだ。(後略)
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エリトリア政府にイスラム過激派を支援する余力があるのも不思議ではあります。
それはともかく、ベトナム、イラク、アフガニスタン・・・アメリカが介入すれば批判をあびることもありますが、北朝鮮、ミャンマー、ソマリア・・・国際社会が遠巻きにしているだけでは事態は改善しないというのも現実です。
ただ、いくらアメリカなどの外国からの支援・介入があっても、腐敗・汚職を絶って国民生活向上に責任を持つ現地政権がないと、混乱を拡大するだけでもあります。
アメリカのケネディ、ジョンソン両政権で国防長官としてベトナム戦争を遂行したマクナマラ氏が先月、死去しました。