(今年6月10日 ブラウン英首相と会談するカダフィ大佐
カダフィ大佐が革命でリビアの実権を握ったのが69年。以来40年間最高指導者の地位にあり、世界最長の政権だとか。1年もたない日本の指導者とは比較になりません。
若くして登場したので、年齢はまだ67歳です。まだまだカダフィ政権は続きそうです。
“flickr”より By Downing Street
http://www.flickr.com/photos/downingstreet/3706747670/)
【「世界は変わった。過去は忘れよう」】
かつてレーガン米大統領から「中東の狂犬」と呼ばれたリビアの最高指導者カダフィ大佐ですが、近年のリビアとアメリカや英仏の接近ぶりを見ると隔世の感があり、これまでも2回ほど取り上げたことがあります。
08年11月3日ブログ「リビア 国際関係進展 カダフィ大佐「地政学的な力の均衡回復を促進する」
(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20081103)
08年9月7日ブログ「アメリカ・リビア、トルコ・アルメニア 「永遠の敵はいない」」
(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080907)
ある意味では、どんなに激しく対立している関係でも、時間がたてばこのように改善するのか・・・と考えれば、一抹の希望を感じさせる・・・とも言えます。
なにせ、86年4月に米兵ら3人が死亡した西ベルリンのディスコ爆破事件に対する報復として米軍機がリビア2都市の軍事施設やカダフィ大佐宅を空爆、88年12月には英上空で米パンナム機が爆破され、270人が死亡・・・と、不倶戴天の関係でした。
それが、03年にリビアは大量破壊兵器の開発計画放棄を表明、アメリカは06年にリビアのテロ支援国家指定を解除、08年にはパンナム機爆破事件の米国人犠牲者への補償金の支払いをリビアが終了、国交は完全正常化・・・と、とんとん拍子に関係修復。
08年9月には米国務長官として55年ぶりにリビアを訪問したライス米国務長官が、首都トリポリでカダフィ大佐と会談。
ライス長官「永遠の敵はいない」
リビアのシャルガム外相「リビアは変わった。米国も変わった。世界は変わった。過去は忘れよう」
結構なことです。
たとえ、リビアの石油資源や原子力:武器輸出市場としても魅力に引き寄せられてのものであったとしても、険悪な関係を続けるよりは喜ばしいことです。
【セントラルパークに巨大テント】
今年、オバマ政権誕生で対話路線は加速し、7月9日、主要8カ国首脳会議が開かれたイタリア・ラクイラでのイタリア大統領主催夕食会で、オバマ米大統領とカダフィ大佐が記念撮影のため整列する際に握手を交わしたことが話題となりました。
そしていよいよ、そのカダフィ大佐が、9月の国連総会での首脳による一般討論で演説することが明らかになりました。
“新総会の議長がリビアから選ばれたことや、同国がアフリカ連合(AU)議長を務めていることから、最高指導者自らが総会で演説することになったとみられる。”【8月14日 毎日】
ただ、ニューヨークの治安当局にとっては悩みのタネが増えたとか。
カダフィ大佐は外国訪問の際に遊牧民が使う巨大テントを持参するのが恒例となっており、そのテントをセントラルパークに設営したいとの問い合わせがリビア政府からあったそうです。【8月20日 Newsweek】
【末期がんへの“温情”と資源外交への配慮】
まあ、巨大テントはともかく、パンナム機爆破事件の遺族の神経を逆撫ですることも米英間で起きています。
****パンナム機爆破犯 釈放で米英に波風 「明白な誤り」猛反発****
1988年12月に英上空で米パンナム機が爆破され、270人が死亡した事件で終身刑を宣告されたリビア人元情報将校が末期がんと診断され、英スコットランド司法当局の温情でリビアに移送される見通しが強まっている。しかし、犠牲者の多くは米国人で、ヒラリー・クリントン米国務長官や上院議員らが「釈放するのは明白な誤り」と反発。テロ犯人の処遇をめぐり米英間に波風が立っている。
英史上最悪のテロとされるこの事件は、ニューヨークに向けてロンドン・ヒースロー空港を飛び立ったパンナム機がスコットランド南部ロッカビー上空で爆発し、乗客乗員259人と地上の住民11人が死亡した。99年にリビアが容疑者2人を国連側に引き渡し、オランダでの特別法廷で1人に無罪、元情報将校のアブデル・バセト・アルメグラヒ受刑者(57)に終身刑が宣告された。(中略)
“(最終的決定権を有するスコットランド司法)当局は「何も決まっていない」としているが、クリントン長官は「凶悪犯罪にかかわった証拠がある受刑者を刑務所から出すのは間違い」と反発し、米上院議員7人も書簡で釈放しないよう求めた。英紙デーリー・テレグラフは「同受刑者がリビアに帰ればヒーロー扱いだ。テロリストに誤ったメッセージを送ることになる」と批判した。”【8月20日 産経】
近年、ロシアの資源外交に対抗して欧州はリビアの天然ガスに注目、07年には英石油メジャーBPがリビアと油田開発契約を結んでいます。
また、“マンデルソン英民間企業・規制改革担当相が最近、カダフィ大佐の息子と面会したため、同受刑者釈放はリビアに対する英政府の配慮との憶測も流れている。”【同上】とも。
事件遺族の手前もあって、アメリカとしては“怒り”を示さざるを得ないところですが、リビアの市場・資源への接近は英仏だけでなくアメリカも同様です。
7月の主要8カ国首脳会議でオバマ大統領がカダフィ大佐と握手を交わした後、国務省近東局のフェルトマン国務次官補代理がリビアを訪問。アメリカはアフリカ北部で国際テロ組織アルカイダと戦うために「より強力な」軍事協力を求めていると表明しています。軍事協力とは武器輸出です。
また、米5大石油企業が「リビアとの関係強化」のために創設した米リビア商業組合の事務局長を務めていたデービッド・ゴールドウィンが最近、国務省のエネルギー問題担当コーディネーターに任命されています。【8月20日 Newsweekより】
いろいろ事情はあるにしても、繰り返しになりますが、爆撃したり飛行機を爆破したりしあうよりは、仲良くするのは良いことです。