孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  選挙でリードを広げるカルザイ現大統領 ただ、混迷の気配も

2009-08-30 13:35:12 | 国際情勢

(投票するアフガニスタン女性 “flickr”より By Canada in Afghanistan / Canada en Afghanistan
http://www.flickr.com/photos/camafghanistancam/3842162649/

正確なところはわかりませんが、アフガニスタンの保守的な地域では女性が家から出ることが少ないため、04年選挙から、男性が身内の女性の有権者カードを預かって代わりに投票する「代理投票」制度が認められているそうで、これも悪用されると不正選挙につながります。

そうした不正の問題とは別に、そもそも女性の参政権に対する認識の低さという問題があります。
2004年の選挙前に行われた調査では、回答者の87パーセント(男女両方を含む)が女性の投票には夫の許可が必要であり、72パーセントが女性の投票内容に関して身内男性からのアドバイスが必要であると答えているそうです。
【The Asia Foundation(TAF)ホームページより(http://www.tafjapan.org/programs/wep.html)】)

【選挙妨害か、国民の失望か】
日本では今日夜にも政権交代の結果が出そうですが、20日に行われたアフガニスタン大統領選挙の方は時間をかけて開票が行われており、29日に3回目の中間発表が出されました。

****カルザイ氏がリード広げる アフガン大統領選*****
アフガニスタンの選挙管理委員会は29日、全体の約35%の投票所から届いた大統領選の開票集計結果を発表した。現職のカルザイ大統領は2位のアブドラ前外相に15ポイント差をつけ、前回の中間発表からリードを広げた。

選管の29日までの集計では有効票は203万票余り。カルザイ氏が94万558票(得票率46.3%)、2位のアブドラ氏は63万8924票(同31.4%)、3位のバシャルドスト元計画相が27万7404票(同13.6%)だった。集計はアブドラ氏の地盤である北部と首都周辺で早く進んだため、他地区に広がるにつれカルザイ票が増えているとみられる。【8月29日 朝日】
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“全体の約35%の投票所”で“有効票は203万票”ということは、総投票数は約600万前後でしょうか。
(8月24日産経では、“開票済み約451万票、未開票分約200万票”とありますので、総数は約650万票)
そうなると有権者数1700万人に対し、投票率は35%~38%程度となります。
投票直後の報道では、投票率は2004年の前回選挙70%を大きく下回る40-50%になるとも報じられていましたが、よくて40%、もしかすると40%を切るかも・・・という感じです。
やはり、タリバンによる選挙妨害の結果なのか、それとも政治に対する国民の失望なのか、誰が当選するかとは別に、この投票率の低さが現在のアフガニスタンの置かれている状況を示す数字と言えます。

【過半数超えの勢い】
今後のスケジュールとしては、9月3日に暫定結果、17日に最終結果の予定ですが、このペースで3日の暫定結果に間に合うのでしょうか?
8月23日の選挙管理委員会の会見では、大統領選挙及び同時実施の州議会選と合わせ、不服審査委員会への不正申し立てが225件あり、選挙結果に影響を与えかねないものが35件あるということで、17日の最終結果が遅れる可能性も取り沙汰されています。

“選管によると、各投票所から集められた投票箱は、いったん管轄の投票センターごとに開票・集計された後、首都カブールに集められて再集計される。中間結果は首都での再集計を終えた暫定数値の位置付けで、その後に投開票に対する抗議の是非を検討した上で、9月17日に最終結果を発表する段取りだ。
選管は当初、選管職員の不慣れなどから、投票日から2週間後の9月3日に全国の暫定結果をまとめて発表する予定だった。しかし、カルザイ陣営やアブドラ陣営が投票翌日から「勝利」を宣言し合ったり、投票の「不正」情報が飛び交うなど混乱。メディアの報道合戦も熱を帯び、選管は五月雨式にでも結果を発表せざるをえない状況となった。”【8月25日 毎日】

これまでの中間発表を見ると、カルザイ現大統領の得票率は、1回目40.6%(開票率約1割)、2回目42%(同17%)、そして今回が46.3%(同35%)と伸びており、2位のアブドラ前外相との差も大きくなっています。
過半数を得票した候補がいない場合、上位2人による決選投票が行われますが、今後カルザイ現大統領の地盤であるパシュトゥン人居住地域の州の票が開いていきますので、今の勢いだとカルザイ現大統領が過半数を超えそうです。

【不正選挙への批判】
しかし、そうした結果をアブドラ前外相などの対立候補がすんなり受け入れる状況ではないようです。
対立候補側からは、すでに投票前から“不正選挙”の批判がなされていましたが、アブドラ前外相は投票日後の23日、記者会見を開き、「南部の州で政府職員が投票を妨害した」などと例を挙げ、「選挙で(カルザイ陣営により)大規模な不正が行われた証拠がある」と語り、服審査委員会に正式に不服申し立てをしたことを明らかにしています。

“不正選挙”への懸念は、対立候補だけでなくアメリカにもあって、ホルブルック特別代表とカルザイ大統領が「一触即発」の「大口論」を行ったとも。

****アフガン大統領選:米が第2回投票を要請 カルザイ氏激怒******
英BBCは28日、20日投票のアフガニスタン大統領選を巡り、米国のホルブルック特別代表(アフガン・パキスタン担当)が21日のカルザイ・アフガン大統領との会談で、選挙での不正への懸念から第2回投票の実施を促した、と報じた。第2回投票は決選投票を指すとみられるこの「干渉」に対し、カルザイ大統領は激怒し、会談は決裂したという。

米政府とカルザイ大統領との亀裂を示す新たな材料で、「選挙後」のアフガン情勢へのさらなる暗雲となる。ホルブルック氏の第2回投票「要請」の背景には、アフガン戦争への支持が先細りする米世論をつなぎ留めるためにも、選挙の「信頼性」を高めたいとの判断があるようだ。
BBCによると、複数の「高官筋」の証言として、ホルブルック氏は会談で投票プロセスでの不正行為に懸念を示した上で、第2回投票の実施について2度言及。会談は「一触即発」「大口論」となった。現地の米大使館は「怒鳴り合い」などはなかったと否定しているという。【8月28日 毎日】
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アメリカは、汚職と不正が横行して国内統治が改善しないカルザイ政権、また、とかく民間人犠牲者などでアメリカ批判を口にすることが多いカルザイ大統領に不信感・苛立ちを持っていると言われています。

“オバマ米政権は今春以降、カルザイ政権の「汚職」への非難を強め、カルザイ氏の実弟が麻薬密売に関与していると指弾。国内の「カルザイ非難」が高まる結果となった。さらに7月、ドスタム氏が01年11月に関与したとされる投降タリバン兵大量死事件の「調査」を命令。「カルザイ氏は戦争犯罪者の軍閥を取り込んでいる」と非難する人権団体と呼応し、カルザイ氏を揺さぶる。
背景には、米国の後ろ盾で政権を維持しながら、米国批判を強めるカルザイ氏へのいらだちがある。しかし同氏陣営は、「将来的な米軍撤退も視野に入れた政権作りが必要」と立場の違いを示す。”【8月9日 毎日】
こうした状況から、アブドラ前外相の陣営では「決選投票に持ち込めば米国の支持が得られる」との見方を示していました。

それにしても、結果も出ないうちに選挙での不正への懸念から第2回投票の実施を促すというのも、はっきりしていると言うか・・・。
当然カルザイ大統領の心中は「いったい何様のつもりか!この国はアメリカのものではない!」といったところでしょう。

【「タリバンとの対話」とアメリカ新戦略】
いずれ去っていく外国人と違い、タリバンとの共存を模索せざるをえない現実を見据え、カルザイ大統領は「再選されればタリバン指導者と本格対話を始める」と明言しています。他の有力候補者も「タリバンとの対話」を掲げています。

アメリカ・オバマ政権は、包括的な対アフガニスタン戦略で、先日も取り上げたように、「民間人の犠牲者を最小限に抑えること、民間人の安全を守ること」を第一とし、アフガニスタン人民のアメリカに対する敵意を和らげ、タリバンと引き離す方針に転換を図っています。
(8月27日ブログ「アフガニスタン 住民の支持獲得が勝敗を決める 米軍の新作戦 タリバンも“マニュアル”」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090827

そのほか、タリバンの活動の主な資金源となっている麻薬対策に関しても、農民に負担を負わせるだけに終わっているこれまでのケシの栽培地を強制的に潰す対策に代えて、麻薬の取引業者の取り締りを強化する作戦に切り替えています。
また、イラクの治安改善に貢献した「イラクの息子たち」プログラムにならって、アフガニスタン国内の治安の悪化している地域において、部族に所属する戦闘員たちを治安要員として雇用する新しいプログラムも開始しています。

アフガニスタン政権側の取組みも、アメリカの取組みも、国内の意思統一とアフガニスタン・アメリカの緊密な連携を必要としていますが、今後選挙結果が公表されても、アブドラ前外相等の対立候補の抗議行動、後ろ盾アメリカとの関係で混乱が尾を引きそうな気配です。

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