孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル  シナゴーグ襲撃、犯人自宅破壊命令・・・・緊張は危機的状況に 

2014-11-20 21:57:19 | パレスチナ

(エルサレム 11月18日 シナゴーグ襲撃事件の犠牲者を乗せた車を取り囲み、その死を悼むユダヤ教超正統派の人々 “flickr”より By scrolleditorial https://www.flickr.com/photos/115313787@N08/15639118608/in/photolist-pPYz71-q5uyrh-pQ3oVy-q7CGWV-q7Mh9N-pQfpr7-pQbGcS-paTWgt-q7t42R-pQimuS-paRcoQ-paTVZr-pQfpvA-pQgG4n-pQfptG-q5xw9W-q7LGMs-paT8cZ-q5xwty-q7CGVn-q7LGQy-pQfpyG-paTWuz-pPNxQT-pamh2A-pao9B1-q7zJkn-paU4Nn-pamgXN-q7UHwg-pPxTsD-pPAxdM-q5SQhm-pb8Mz2-pb8N1c-q5Mng7-paDS5v-q7GrVV-paakYf-q5SEKW-pQ25Fi-payKEB-paw5iA-q6CWJr-q7g9sK-pa2iH9-pPtkQS-q6NMSn-pamPtx-pPJFHp)

高まり続ける緊張 繰り返される暴力
イスラエルにおけるパレスチナ住民の新たな“インティファーダ”(抵抗運動)をも懸念させる緊張の高まりについては、11月7日ブログ「イスラエル 東エルサレムでパレスチナ住民と治安部隊の衝突 高まる緊張」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141107)でも取り上げました。

残念ながら、その後も事態は悪化しています。
10月以降の主な事件・衝突をまとめると、以下のようになります。

*****10月以降の主な事件*****
 10月16日 パレスチナ自治区ラマラ近郊で、投石しようとした13歳の少年をイスラエル軍が射殺
    22日 エルサレムでパレスチナ人の男(20)が車で行列に突っ込み乳児ら2人が死亡。男は射殺
    24日 軍がデモ隊に発砲し、パレスチナ人の少年(14)が死亡
    29日 パレスチナ人の男(32)がユダヤ教活動家を銃撃し重傷を負わせる。男は射殺。
        翌日、イスラエル当局は旧市街のイスラム教聖地「ハラム・シャリーフ」(ユダヤ教では「神殿の丘」)を完全封鎖

 11月5日 エルサレムでパレスチナ人の男(38)が車で歩行者に突っ込み2人が死亡。男は射殺
       イスラム教の聖地アルアクサ・モスクにイスラエル治安部隊が侵入
    7日 パトカーの窓を刃物でたたいたパレスチナ人の男(22)が射殺される
   10日 テルアビブ中心部でパレスチナ人の男(18)がイスラエル兵士を刺殺。男は逮捕
       自治区ヘブロン近郊でパレスチナ人の男(30)が入植者の女性を刺殺。男は射殺
   11日 自治区で軍と衝突したパレスチナ人の男性(22)が射殺される
【11月18日毎日 11月20日朝日 より】
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更に、16日にはエルサレムのバス車内でパレスチナ人運転手が首をつった状態で発見され、自殺とする治安当局に対し、パレスチナ住民はユダヤ人による犯行として反発を強めています。

***エルサレムのバスに運転手の遺体、「自殺」説にパレスチナ人反発****
エルサレム(Jerusalem)で16日、パレスチナ人バス運転手が担当車両の中で首をつった状態で見つかった。イスラエル当局は自殺と断定したが、これに反発した住民らが翌17日に警察と衝突した。死亡した男性の同僚は、他殺に見えたと話している。

死亡したのはイスラエルが実効支配している東エルサレムのオリーブ山にあるアットゥールに住むユザフ・ハサン・アルラムニさん(32)。

警察の発表によると、イスラエル領西エルサレムの産業地区ハーホツビムのバス車庫で16日、上司が遺体を発見した。

警察は、当局が遺族の同意を得て翌17日に検視を行った結果、犯罪があったことを示す証拠は見つからなかったと発表。これに対し家族は、2児の父であるアルラムニさんが自殺したとは考えられないとしている。

アルラムニさんの兄弟はAFPの取材に対し「子どももいて幸せに暮らしていた。自殺するはずがない」と話し、遺体にはあざがあり、亡くなる前に拷問を受けた可能性があるとして、家族は自殺という検視結果を受け入れられないと述べた。

アルラムニさんの同僚のバス運転士もAFPに対し、「遺体に暴力を受けた痕があったのを見た」と当局の発表とは食い違う証言をした。「バス後部の階段の上で首をつった状態だった。自分で首をつるのは不可能な場所だった」という。

17日に執り行われた葬儀には数千人が参列。一部には「復讐」を叫ぶ人たちもいた。ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスは「この人種差別に基づく残忍な犯罪に対し怒りを表に出す」ようパレスチナ人に呼び掛けた。【11月18日 AFP】
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18日には、エルサレムのシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)がパレスチナ人に襲われ、ユダヤ人4人が死亡しました。

****パレスチナ人、礼拝所襲撃 ユダヤ人4人死亡 エルサレム****
エルサレム西部のシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)で18日午前7時ごろ、銃やおのを持ったパレスチナ人の男2人が礼拝に来ていた人々を襲撃し、ユダヤ人4人が死亡、7人が負傷した。

イスラエルのネタニヤフ首相は報復する考えを示した。イスラエルとパレスチナの間の対立がさらに深まるおそれがある。

警察によると、男2人はイスラエルの占領下にある東エルサレム在住。2人は襲撃後、駆けつけた警察との銃撃戦で射殺された。(後略)【11月19日 朝日】
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ネタニヤフ首相:「ハマスとアッバス氏が扇動した結果」 犯人自宅破壊命令
エルサレムでユダヤ教施設がパレスチナ人に襲われたのは2008年以来で、イスラエルのネタニヤフ首相は18日夜、記者会見し「我々は今、テロ攻撃の波にさらされている」「ハマスとアッバス氏が扇動した結果」と述べ、警戒態勢を強化する方針を明らかにしました。

エルサレム市長は、許可を得て銃などの武器を保有する市民に対し、護身のため日常的に携行するよう呼びかけています。【11月19日 毎日】

パレスチナ側の対応はハマスと自治政府・アッバス議長では差があります。
ハマスの政治部門のアブマルズク幹部は18日、フェイスブックで「新たなインティファーダ(民衆蜂起)の始まりだ」と記し、さらなる攻撃を呼びかけています。

一方、パレスチナ自治政府のアッバス議長は18日午後、「今回の事件と共に(イスラエルによる)聖地やモスク(イスラム礼拝所)への攻撃も非難する」と述べ、「市民に対するいかなる殺害も非難する」と攻撃を非難すると同時に、イスラエルによるイスラム教聖地などへの挑発行為の停止を求めています。

エルサレム旧市街のイスラム教聖地「ハラム・シャリーフ」(ユダヤ教では「神殿の丘」)では最近、ユダヤ教右派が本来禁じられている礼拝行為などを強行し、パレスチナ人らが強く反発しています。

こうしたなかで、イスラエル・ネタニヤフ首相は18日、シナゴーグ襲撃事件の犯人及びこれまでの襲撃事件の犯人の自宅を破壊するように指示し、強硬姿勢を鮮明にしています。

****礼拝所襲撃 犯人宅の破壊指示 イスラエル、強硬姿勢鮮明に****
パレスチナ人2人がエルサレムのシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)で礼拝者らを殺傷した事件で、イスラエルのネタニヤフ首相は18日夜、東エルサレムにある襲撃犯宅を破壊するよう指示した。

同国当局は19日、別の事件でイスラエル人2人を死亡させたパレスチナ人の自宅も破壊。パレスチナ側は反発しており、暴力の連鎖への懸念が強まっている。

イスラエルは長年、パレスチナ武装勢力などの破壊行為に対抗するため、メンバーらの自宅を破壊する措置を取ってきたが、ロイター通信によると2005年以降は「抑止効果が薄い」として停止していた。

しかし、このところ、東エルサレムのイスラム教聖地ハラム・シャリーフ(イスラエル側呼称「神殿の丘」)の扱いをめぐりパレスチナ住民と治安部隊の衝突やイスラエル市民に対する襲撃が相次いでいることから、強硬姿勢を鮮明にしている。

一方でネタニヤフ氏は、市民に「法の尊重」を呼び掛け、市民がパレスチナへの報復などに出ることを戒めた。また同国は18日、シナゴーグ襲撃で負傷した警官1人が死亡し犠牲者が計5人になったと発表した。【11月20日 産経】
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“イスラエル軍はその数時間後、10月22日に起きたひき逃げ事件の容疑者の家族が住む東エルサレムの住宅を破壊。家族は破壊前に自宅を離れ、親類宅に身を寄せていた。”【11月20日 AFP】

自宅破壊措置は、これまでの経験で「抑止効果が薄い」だけでなく、暴力の連鎖を助長することが懸念されます。

ユダヤ教右派勢力による挑発的行為を問題視する見方も
一連の事件・緊張の高まりの背景には、ユダヤ教右派勢力の活動が活発化していることも指摘されています。

****エルサレム、高まる緊張 礼拝所襲撃 宗教対立も加わる****
・・・・6月から続くイスラエルとパレスチナの暴力の連鎖は、7~8月のイスラエル軍によるガザ攻撃後も止まらない。

エルサレムを中心に起きた一連の事件を「エルサレム・インティファーダ」とたたえるパレスチナのメディアもある。

背景には、イスラエルとパレスチナの和平交渉が4月に頓挫して以降、和平に反対するユダヤ教右派が勢いづいたことが挙げられる。

連立政権内に極右政党を抱えるネタニヤフ首相は、右派からの圧力を受けてガザ攻撃に踏み切った経緯がある。

さらに、エルサレム旧市街にあるイスラム教の聖地「ハラム・シャリーフ」(ユダヤ教では「神殿の丘」)でも、ここをユダヤ教の聖地とみなす右派の動きが活発化。パレスチナ人と治安部隊の衝突がたびたび起きている。(後略)【11月20日 朝日】
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このような認識を背景に、イスラエルの国内治安機関シャバクのヨラム・コヘン長官は、ユダヤ人側の挑発的な行動を戒めています。

****<イスラエル>治安機関トップ、宗教対立激化を懸念***
パレスチナ人によるエルサレムのシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)襲撃事件で、イスラエルのネタニヤフ首相は18日夜に会見し、パレスチナ自治政府のアッバス議長らが「テロ行為」を扇動していると非難した。

だがイスラエルの国内治安機関トップは同日、宗教的対立をあおるイスラエル側の行為が混乱を拡大させている側面があるとの異なる認識を示した。治安当局の懸念は、宗教対立の激化がイスラエル内外の情勢をより不安定化させることだ。

ネタニヤフ首相は会見で、パレスチナ自治政府などが「イスラエルに対する虚言を流布している」と指摘。衝突拡大の原因は、自治政府を率いるアッバス議長らにあると批判した。

だがイスラエルのハーレツ紙によると、国内治安機関シャバクのヨラム・コヘン長官は18日午後、国会議員に対する治安状況の説明で、アッバス議長について「テロに関心はなく、隠れて指揮したりもしていない」と強調。

むしろユダヤ教右派の国会議員が、エルサレム旧市街のイスラム教聖地「ハラム・アッシャリーフ(高貴なる聖域)」(ユダヤ教の呼称は「神殿の丘」)で、本来禁じられているユダヤ教の礼拝行為を強行したり、礼拝の権利拡大などを認める新法を提案したりしてパレスチナ市民を「憤激させている」との認識を示した。

国会議員に対し「今の状況で聖地に行くべきではない」とも語り、抑制を求めた。

ユダヤ教は、「神殿の丘」の下にある西側城壁の一部(通称「嘆きの壁」)を最高の聖地とするが、モスク(イスラム礼拝所)の建つ丘での礼拝は禁じている。しかしユダヤ教右派が礼拝を強行したため、10月29日にはパレスチナ人が右派活動家を銃撃し重傷を負わせた。

長官は「宗教的な要素は非常に危険で、一触即発の危険性を持つ。パレスチナ人だけでなく世界中のイスラム教徒に影響をおよぼす可能性があるからだ」と指摘。宗教対立の激化が周辺のアラブ諸国との関係悪化につながる危険性を懸念した。

パレスチナ人による一連の攻撃はイスラエルの占領政策に対する不満が最大の要因と見られるが、イスラエル側の宗教的な「挑発行為」(パレスチナ・メディア)が衝突を拡大させている側面も大きい。

最近、イスラエルに住むパレスチナ人の若者がシリアに渡り、過激派組織「イスラム国」の戦闘員となる事例もあり、治安当局はヨルダンなど穏健派アラブ諸国と共闘し、若者らが過激化することを阻止したい思惑がある。

18日起きたシナゴーグ襲撃では、重傷を負ったイスラエル人の警官が死亡し、犠牲者は5人になった。【11月19日 毎日】
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イスラエルの情報機関としてはモサドが有名ですが、シャバクは主にイスラエル国内と撤退後のガザを含めたイスラエル軍占領地区で治安維持活動や防諜活動に従事している機関のようです。

そのトップの冷静な判断は評価できますが、すでに沸点に達し始めた緊張を抑えることができるか・・・イスラエルとの対決姿勢を組織の存在理由とするハマスのように危機を煽る勢力もありますので、難しい事態です。

双方の自制を求める声
オバマ米大統領は18日、エルサレムのシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)で起きたパレスチナ人の男2人による襲撃事件を「最大限の言葉で非難する」と表明した上で「緊張を緩和し暴力を拒否するため、パレスチナとイスラエルの双方が協力に努めることが重要だ」と自制を訴えています。

フランシスコ・ローマ法王も19日、のシナゴーグ襲撃事件について「受け入れられない」と非難したうえで、イスラエルとパレスチナの双方に「憎悪と暴力の連鎖」をやめ、「和解と平和のための勇気ある決断」をするよう促しています。「平和構築は困難だが、平和なしに生きるのは苦痛だ」とも。

自制を呼びかける国内外のこうした声が届けばいいのですが・・・。
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インドネシア  燃料費への補助金削減という難題に挑むジョコ新大統領

2014-11-19 21:18:14 | 東南アジア

(ジャカルタ ガソリン価格引き上げが発表された17日深夜、駆け込み給油に集まる人々 バイク・車が庶民の足になっていますので、その影響の大きさは想像できます。 【11月18日 日経】

【「クリーンさ」を前面に出した「働く内閣」】
インドネシアでは、これまでのインドネシア政治家にはなかった“庶民派”のジョコ大統領が10月20日に就任しました。

同月26日の新閣僚指名では、事前に司法当局に閣僚名簿を提出して汚職疑惑がないかを確認するなど“身体検査”を厳しく行い、一部を差し替えるなど「クリーンさ」を前面に出しています。

ただ、“組閣では、大統領選挙で対立候補を支援した野党6党のうち1党を連立与党に取り込むことに成功した。ただ与党は依然として国会では過半数に届かず、厳しい政権運営が続くとみられる。”【10月27日 毎日】とのことで、前途には課題も少なくありません。

野党との関係以外にも、与党内における実力者メガワティ党首の関係で独自色を出せるのか、軍に基盤のないジョコ氏が軍をコントロールできるのか・・・「ジョコ氏は組閣で妥協を強いられた」(現地紙ジャカルタ・ポスト)との声もあります。

****民間出身、国軍の協力が鍵 インドネシア、ジョコ内閣発足****
第7代インドネシア大統領に就任したジョコ・ウィドド氏(53)が指名した閣僚34人が27日、承認され、ジョコ内閣が発足した。

かつて日本で「さあ働こう内閣」とキャッチフレーズをつけたのは福田赳夫元首相だったが、ジョコ大統領も新内閣のキャッチフレーズを「働く内閣」とし、顔ぶれも実務家を多く配置した。

新内閣の目玉政策である海洋開発担当の海事担当調整相ポストを新設したほか、インドネシアでは初の女性外相を起用するなど民間出身の大統領として独自カラーを出すことに腐心した。

ただ、インドネシアの経済成長もここに来て足踏みしているだけに、これまでの既得権益を打破するとともに、大統領が掲げる「海洋国家インドネシア再興」に向け、国軍の支持を得られるかが課題だ。

 ■汚職撲滅に全力
「閣僚は慎重かつ細心の注意を払って選んだ。この内閣は今後5年間は続くからだ。裏情報を手に入れるため、汚職撲滅委員会(KPK)や金融取引・報告分析センター(PPATK)にも調査を依頼した」

ジョコ大統領は26日、大統領宮殿の中庭で行われた記者会見で、閣僚名簿を発表するにあたってこう説明。賄賂や不正支出など金の問題がないかどうかを、徹底的に調べあげたことを強調した。

日本での2閣僚の辞任を気にしたわけではなく、インドネシアはユドヨノ前政権からとくに汚職防止に力を入れてきた。

大統領のこだわりのおかげで、いったん固まっていた閣僚のうち数人が汚職撲滅委員会などの指摘で問題ありとされ、再検討した結果、閣僚名簿の発表が当初予定よりも遅れていた。

一方、ジョコ大統領が就任演説で宣言した「海洋国家インドネシア再興」を実現すべく、新設された海事担当調整相には、国連食糧農業機関(FAO)の漁業・養殖局の漁業・海洋資源部長を務めていたインドロヨノ・スシロ氏(59)が選ばれた。(中略)

経済関係閣僚の顔ぶれをみると、政治家を多く起用したユドヨノ前政権とは異なり、ソフヤン・ジャリル経済担当調整相(61)以下、ほとんどが実務家だ。

もっとも、彼ら経済閣僚にも、政党に所属していないがジョコ政権を支える闘争民主党のメガワティ党首に近い人が多い。

なかでもリニ・スマルノ国営企業相(56)はメガワティ氏の側近中の側近。アリフ・ヤフヤ観光相(53)、スディルマン・サイド・エネルギー・鉱物相(51)もメガワティ氏に近い経営者だ。

 ■軍隊経験なし
メガワティ氏に近いといえば、プアン・マハラニ人間・文化開発担当調整相(41)はメガワティ氏の長女だけに、会見では「私が娘だということばかり取り上げないでほしい」と強調した。

実際、政治家としての経験や人脈も豊富で、新内閣では強い影響力を持ちそうだ。ジョコ大統領が、メガワティ氏をはじめとする既成勢力の圧力に屈せず、どれだけ独自色を出せるかが改革実現の鍵でもある。

同様に国軍をいかにコントロールするかも重要だ。ユドヨノ前大統領は、自身が改革派の将校といわれつつ、軍での実績を背景に影響力を保持した。しかし、ジョコ大統領は軍隊経験、人脈がほとんどない。ユドヨノ前大統領が軍の支持を得られたのは、兵士の待遇改善を進めたこともある。(後略)【11月16日 産経】
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燃料補助金削減で成長軌道回復を目指す
政策的には、成長率に陰りが見える経済立て直しが急務ですが、そのための“突破口”として、燃料費への補助金削減による財政支出見直し・構造改革を狙っています。

****ジョコ大統領 経済立て直し最優先 不調の資源輸出/補助金圧縮カギ****
高い成長を維持してきたインドネシア経済に、資源輸出の不調などでブレーキがかかっている。

ジョコ・ウィドド大統領は、経済構造改革が今後の成長には不可欠だとして、燃料費への補助金削減による財政支出見直しなどを重要施策に掲げるが、前途は多難だ。

国際通貨基金(IMF)は今月、インドネシアの2014年の実質GDP(国内総生産)成長率を5・2%と、それまでの5・4%から下方修正した。成長率が6%を割り込めば昨年(5・8%)に続き2年連続となる。

下ぶれの主な原因は、近年の高成長を支えてきた外部経済環境の悪化だ。中国を筆頭にした新興国の減速で、石炭など輸出の6割を占める資源価格が低迷し貿易収支は悪化。米国の利上げ観測で資本が国外へ流出し始め、自国通貨下落や利上げが景気の重しとなっている。

購買力を増した中間層が成長のエンジンとなることが期待されるが、十分な雇用と賃金を生むには「6%以上の成長率が必要」(地元エコノミスト)ともされる。

自律的な成長へ、ジョコ氏が“突破口”に位置付けるのが、歳出の3割を占めるガソリンなどへの燃料補助金の圧縮だ。これにより、構造改革を促す狙いがある。

実質値上げで需要を抑えるとともに、浮いた予算の一部を貧困層への教育や医療支援に振り向ける。同時に渋滞緩和や洪水対策などへも財源を重点配分し、整備が遅れているインフラを改善する。公共工事などで外資を呼び込めば、新たな雇用も創出できる。

ジョコ氏は、大統領への就任が決まった後、ユドヨノ政権に対し、昨年6月に続く補助金付き燃料の再値上げを催促したが、拒否された経緯がある。

東南アジア研究所(シンガポール)のアリス・アナンタ上席研究員は「補助金削減は国民の反発が高い。ジョコ氏は支持率が高いうちに断行すべきだ」と主張。前政権幹部からは「11月にも大幅削減に踏み込むだろう」との声も漏れる。

もっとも、議会勢力で上回る野党連合を前に、補助金改革の審議は曲折が予想される。野党に屈して改革が先延ばしとなれば、失望した外資が逃げだし、成長が一層鈍化するという悪循環に陥りかねない。燃料補助金圧縮は、ジョコ新政権の今後を占う“試金石”ともなりそうだ。【10月21日 産経】
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国民の反発が強い政策は支持率が高いうちに・・・ということで、予想されていたように、ジョコ政権はガソリン価格の大幅引き上げを決定しました。

****インドネシア、燃料値上げ…インフレの懸念も****
インドネシア政府は18日、補助金で安く抑えていたガソリン価格を31%、軽油価格を36%引き上げた。

補助金削減で財政再建を目指すジョコ大統領が公約を実行したものだが、急激な値上げでインフレが進行する懸念が出ている。

先月就任したジョコ大統領は17日夜、値上げを発表し、「消耗的だった政府予算を生産的なものに変える」と語った。同国では補助金を支出し燃料価格を実勢価格よりも約4割安く抑えているが、燃料への補助金は歳出の約15%を占め、財政を圧迫していた。

政府は、価格見直しで100兆ルピア(約9500億円)以上の補助金を削減できるとしており、余った財源で社会保障や教育などを充実させる狙いだ。【11月18日 読売】
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社会不安にもつながる難題
理論上は、補助金を削減し、浮いた予算を社会福祉やインフラ整備に回すというのは極めてまっとうな施策です。
放置すれば膨張する財政負担で国家予算は食われ、低く抑えられた価格設定で資源配分は非効率化するだけです。

ただ、国民の生活に直接的に響くだけに、極めて対応が難しい施策でもあります。
補助金制度は依存症を伴う麻薬のような制度です。多くの新興国が同様の補助金制度に手を染めて、そこからなかなか抜け出せなくなっている現実もあります。(日本の補助金制度も同様でしょう)

補助金削減は、場合によっては、暴動や政権転覆に至る社会不安を呼び起こすこともあります。
エジプトも燃料費補助金制度からの脱却に苦慮しています。

****エジプト 財政へのしかかる補助金の負担****
・・・エジプトの電力は、90%が石油と天然ガスで占められている。この両方が不足し、さらに送電容量も追いつかない昨今、電力会社は定期的に停電を実施しなければならない状況に追い込まれている。

多くのエネルギー専門家は、50年間にも及ぶ政策決定の拙さが原因であると指摘する。中でも特に問題なのが、化石燃料の価格を人工的に低く抑えてきた政府からの補助金制度である。

例えばディーゼル燃料の価格は、補助金のおかげで1リットル1エジプトポンド(15.26円)に抑えられている。隣の国ヨルダンでは、同じ量が103.64円である。おかげで、両国を分ける狭い海峡では安い燃料を持ち込もうとする密輸入がはびこり問題となっている。

燃料への補助金制度が最初に導入されたのは、1960年代、ガマール・アブドゥル・ナーセル大統領による社会主義政権時代である。

当時エジプトの人口は3000万人前後を行ったり来たりしていたが、その後、国は急成長して人口も3倍近くに膨れ上がり、それと平行して補助金を受ける燃料の需要も増加した。

1日の石油の消費量だけを見ても、1995年から2013年の間に、45万8000バレルから73万8000バレルに増加している。

それと同時期に、国内の石油および天然ガスの生産量は減少している。1990年代半ばには1日に90万バレルの石油を生産していたのが、2013年には70万バレル以下に落ち込んだ。

また、地元産業が大きく依存していた天然ガスも、生産量は2009年をピークに減少を始め、今では国外から初めてガスを輸入する準備を進めている。

2011年初めに、長年政権に就いていたホスニ・ムバラク大統領が失脚し、後に続いた政権はどれも、せっかく手にした指導権を危険にさらすのを恐れて、補助金制度の削減に及び腰だった。

おかげで、エジプトは巨額の対外負債を抱えることとなり、2014年の第1四半期には450億ドル以上に膨れ上がっていた。外国のエネルギー企業へ負っている60億ドルの支払いも滞り、ほとんどの企業は未払い金を受け取るまではこれ以上の開発は進められないとしている。

エジプトのエネルギーモデルを調査した専門家は、劇的な改革が実施されない限り、この国の将来は危ないと懸念している。【10月8日 National Geographic News】
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産油国イランも、ガソリンなどに対する補助金削減に苦労しています。

****特派員メモ)補助金「ヤーラネー」 @テヘラン****
イランの国営テレビで最近、やたら「ヤーラネー」という言葉を耳にする。聞けば、ペルシャ語で補助金という意味だそうだ。

政府は補助金でパンやガソリン、電気や水道などの価格を抑えているが、国家予算の4分の1を占め、財政への圧迫が問題になっている。

もとはイラン・イラク戦争(1980~88)の緊急措置で、歴代政権がカットに取り組んだが、市民の反発が強い。07年には暴動にまでなった。

そこで政府は市民の自主性に委ねる手に出た。補助金を登録制にし、「十分豊かな人は登録しないで」と呼びかけたのだ。本当に必要な層にはちゃんと出し、浮いた金は社会整備に回すという。

うまくいけば理想的だが、やり方がなんとも露骨なのだ。人口7600万人超なのに登録期間はたった10日間。テレビでは、ニュースはもちろんバラエティー、料理番組までが「登録をやめよう」の大合唱。高位聖職者まで「富める者の補助金受給は宗教的に禁忌だ」と言い始めた。

いっそ「もう補助金はヤーラネー」とはっきり言っちゃった方がいいのでは。【4月17日 朝日】
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****補助金改革は第2段階、物価上昇懸念高まる (イラン)****
燃料などの生活物資への補助金投入の削減(価格引き上げ)と低所得者層への現金給付を柱とした補助金改革が4月25日に第2段階を迎えた。

この改革により、ガソリン小売価格は、1リットル4,000リアル(約16円、1リアル=約0.004円)から7,000リアル(約28円、75%増)に引き上げられた。

物価上昇は国民の最大の関心事であり、物価抑制は政府の最大の政策課題の1つだ。ガソリン価格の引き上げに伴い、今後、さまざまな財・サービスの値上げが見込まれる。【5月9日 JETRO】
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インドネシア中央銀行は燃料費高騰によるインフレに先手を打つ形で利上げを決定しました。ただ、テコ入れが必要とされていた景気を更に押し下げる懸念もあります。
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中国  腐敗摘発で粛清の「嵐」 党・国家への批判を許さない“体制引き締め”

2014-11-18 22:38:46 | 中国

(文化大革命時代 教師を“反革命分子”として吊し上げる学生たち・・・でしょうか。 集団の狂気の恐ろしさは右で左でも同じです。 “flickr”より By China in "1984" https://www.flickr.com/photos/china_in_1984/1024145471/)

自殺者続出 「反腐敗の名を借りた“粛清”だ」】
中国・習近平政権の汚職撲滅キャンペーンの最大の獲物である周永康氏に関する処分は時間を要しているようです。
単に慎重に事を運んでいるのか、あるいは、背後でさまざまな権力が暗闘を繰り広げているのか・・・そのあたりは部外者にはわかりません。

もとより、習近平氏の“トラ叩き”は、反汚職・反腐敗闘争というだけでなく、自身の権力闘争の一環として行われていると見られています。

****周永康事件の調査長期化へ=中国高官****
中国司法省の張蘇軍次官は5日、北京で記者会見し、最高指導部メンバーだった周永康・前党中央政法委員会書記に対する汚職容疑での異例の調査について「党中央規律検査委員会による調査が行われており、比較的長いプロセス(が必要)になるだろう」と述べ、党籍剥奪処分や刑事責任追及決定までに時間がかかるとの見通しを示した。

張次官はその上で、「調査が一定の段階に達すれば、適当な方法で公表する」と述べ、党規や法律に触れれば追及する方針を示した。

周氏の事件をめぐっては最高人民法院(最高裁)の江必新副院長も1日の記者会見で「司法手続きにまだ入っていない」と述べていた。【11月5日 時事】 
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ただ、いずれにしても、徐才厚・前中央軍事委員会副主席及び周永康・前党中央政法委員会書記という大物を手にかけた習近平国家主席の“本気度”に、軍部・官僚・国有企業関係者などは震え上がっているようです。

あまり“人権”とか“法的な公正さ”への配慮が期待できないお国柄ですから、過酷な取り調べは“粛清”の様相も呈し、自殺者が続発しているようです。

****中国高官、相次ぐ自殺40人超 事実上「粛清」の声****
 ■習政権「反腐敗」 過酷な取り調べ
中国の習近平国家主席が主導する汚職撲滅キャンペーンで、共産党幹部の自殺や不審死が頻発している。
今年になってから「不自然に死亡した」と認定された党、政府、国有企業の幹部らはすでに40人を超えた。

党の規律部門のずさんな捜査と過酷な取り調べが官僚たちを追い詰めたとの指摘は多い。捜査対象に習主席が所属する派閥、太子党の関係者がほとんどいないことから「反腐敗の名を借りた“粛清”だ」との声もある。

遼寧省高級人民法院(高裁)のナンバー2だった女性副裁判長、徐安生氏(55)が10月29日未明、同省内のホテルで、バスローブの帯で首をつり、遺体は同日朝に発見された。

同日正午頃には、同省の身体障害者協会のトップ、任志偉・共産党書記(55)が勤務先のビル7階の窓から飛び降りて自殺した。

同じ省の局長級幹部2人が同じ日に自殺を図ったことはインターネットなどで話題を集めた。
地元紙記者によると、徐氏は汚職問題で党の規律部門の調査対象になっており、自殺した日の午前には、規律委員会との面談を控えていたという。任氏にも汚職の噂があった。

ネットには「2人は死ぬことで上にいる大幹部を守ろうとしたのでは」といった書き込みもあった。

中国メディアの統計によれば、2003年から12年まで、中国で自殺した官僚は毎年10人以内だった。ところが12年11月に習近平指導部が発足して以降に急増し、13年は23人を記録した。今年は昨年からさらに倍増する勢いだ。

自殺する官僚の多くは、地方指導者や国有企業の幹部で、病死と発表されたケースもあるといい、すでに50人を超えたとの見方もある。

党の規律部門は、今年になってから1日2人の速いペースで汚職官僚の摘発を進めている。証拠調べはずさんで「調査対象になったら、無罪になることはまずない」(共産党幹部)という。

汚職官僚に認定されると財産が没収されてメディアで宣伝され、子供の進学や就職にも影響が出る。こうした事情が、取り調べ前の自殺を選ぶ原因になっていると指摘されている。

一連の汚職撲滅キャンペーンで、摘発され自殺した共産党幹部は、胡錦濤前主席や江沢民元主席の派閥の関係者が多く、習派の太子党につながる人脈はほとんどいないといわれている。【11月5日 産経】
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****中国海軍高官、自殺続出か・・・腐敗摘発で取り締まり・粛清の「嵐」、陸軍でも対象者続々****
香港メディアや中国の簡易投稿サイト「微博」(ウェイボー、中国版ツイッター)は、中国海軍の馬発祥副政治委員(中将)が17日までに、当局の調査を受けた後、飛び降り自殺をしたとする情報を次々に流した。

「微博」では同日までに、中国海軍南海艦隊装備部の姜中華部長(少将)が9月2日に飛び降り自殺をしたとする情報も流れた。陸軍関係でも、取り調べを受ける高官が続出している。

馬副政治委員、姜装備部部長ともに、汚職などいわゆる「腐敗」の疑いで、調べを受けていたとみられる。
馬副政治委員は、「当局による調査」の後、北京市内の海軍大院のビル15階から飛び降りたとされる。(中略)

中国人民解放軍については、総後勤部の劉〓副部長、苑世軍・湖北軍区の元司令員(司令官)寇鉄・黒龍江省軍区の元司令官も、王愛国・瀋陽軍区聯勤部元部長も軍紀律委員会により身柄を拘束され、取り調べを受けているとの情報がある。(〓はさんずいに「爭」)【11月18日 Searchina】
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腐敗幹部を「もはや人の姿をしていない」と叱咤する檄文のようなものも出されているようです。

****一部幹部はもはや「人」ではない、問題の根本は「徳の欠如だ!」・・・・中国共産党が論語も引用して激烈批判****
中国共産党中央紀律委員会監察部は17日、「徳と法は互いに補ってこそうまくいく」と題する文章を発表した。中国ではこのところ、「法治主義」を改めて強調していたが、同文章は「一部幹部はもはや『人』の姿をしていない。問題の根本は『徳』の文字にある。徳が欠けている!」などと、腐敗幹部を強烈に批判した。(後略)【11月17日 Searchina】
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改革には抵抗も
当然ながら、汚職撲滅キャンペーンを推し進める習近平氏への反感・怨嗟も広がっており、不穏なうわさもあるようで、習近平氏の改革路線を危ぶむ声も出ています。

****中国で高まる「反習近平」気運*****
経済失速と改革強行に翻る「反旗」
公費の無駄遣い禁止から汚職腐敗の摘発、国有企業や人民解放軍の既得権打破まで容赦ない改革を進める習近平政権の足元が揺らぎ始めた。

過去二十年にわたる高成長の恩恵を最も受けてきた大手国有企業と中流層が反旗を翻し、汚職摘発に喝采していた農民・労働者も景気の急激な悪化で離反し始めたからだ。

苦い薬を国民に飲ませることで中国の長期的な安定成長を目指した習改革は漂流し、中国経済はハードランディングのリスクが高まってきた。

「まるで文化大革命の再来だ」。北京の政府機関に勤める高級官僚の一人がこう説明してくれた。今春、職場に一通の通達が届いた。同僚や他部門で汚職を見つけたらすみやかに報告するよう求める内容で、規律検査部門へのホットラインの電話番号も各人に渡された。しかも率先して密告した本人は、企業の談合事件と同様に自らの汚職は情状酌量される、と耳打ちされた。

一九六六年から十年間続いた文化大革命は毛沢東主席の政策に疑問を呈する人々を資本主義に走る「走資派」や「右派」と呼び、次々に処分していった。その時使われた手法が同僚、親戚、兄弟までをも陥れる密告だった。文革中の悪夢が再び中国の政府機関、国有企業を覆っている。【2014年11月号  選択】
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“「習総書記が今晩、どこで床に就いているかは彭麗媛も知らない」。北京で流行している小話だ。彭は言うまでもなく、習総書記夫人で、中国のファーストレディだ。(中略)小話の真意は総書記が安全のために寝所を頻繁に変えているということだ。”【同上】

しかしながら、追い込まれた中流層が政治的に意味のある“反乱”をおこせるか?
習政権が独占の牙城を崩しにかかっている石油、通信、電力、銀行など強大な国有企業の反乱は?
粛清が進む軍内部の反乱は?

習総書記が視察中におきたウルムチ駅前で爆弾テロは、周永康関連の石油閥や、徐才厚関連の軍部による犯行だったと可能性がある・・・・といった話になると、いささか現実性には疑問を感じます。

社会全体で進む“体制引き締め”】
ただし、改革に抵抗勢力が立ちはだかるのは、中国でもどこでも同じであり、習近平政権は汚職撲滅キャンペーン・国有企業改革などの改革で不利益を受ける既得権益層の強い抵抗を打ち破る必要があります。

そうした抵抗を押しのけて独自路線をすすめるためもあってか、ここのところ、政治・経済以外の社会全体においても、“体制引き締め”的な動きが目立ちます。

****習主席、「文芸」統制=毛路線回帰より鮮明に―西側価値観と対峙・中国****
中国の習近平共産党総書記(国家主席)はこのほど、文芸工作座談会を北京で開き、「文芸は市場経済のうねりの中で方向を見失ってはならず、市場の奴隷になってもいけない」と述べ、文学・芸術界に対して社会主義価値観を盛り上げる役割を果たすよう指示、統制を強化している。

党刊行物も最近、「階級闘争」や「人民民主独裁」を強調した文章を相次ぎ公表。「毛沢東時代に回帰したようだ」(中国人研究者)との批判や懸念が指摘される中、民主主義や自由など西側の価値観への徹底した対峙(たいじ)路線を鮮明にしている。(中略)

今回の文芸座談会は日中戦争中の1942年、毛沢東が主宰した「延安文芸座談会」以来のものとされる。中国紙・北京青年報は「わが党は終始、思想宣伝と文芸工作を非常に重視している」と伝えており、習氏は、庶民に思想面で大きな影響を与える文芸界を利用することでイデオロギー統制を図った毛沢東の手法をまねているとみられる。

特に西側価値観の影響を強く受けるネットについて習氏は「世論闘争の主戦場」とみなしている。

座談会での習氏の発言に対し、ネット上では早速、「文芸は権力の奴隷になるな」との反発が出ているが、習氏は(共産党体制の擁護者として知られるブロガーである)周氏らの重用でネット空間での「愛党勢力」の増長を狙っている。【10月22日 時事】 
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習近平主席が賞賛した体制擁護派ブロガーの周氏は、かなり怪しげな情報をばらまいているようですが、人民解放軍出身で特段の教育も受けていない経歴などから、大衆を代表する反インテリの存在として重用されているようです。(参考:“反米ブロガーは習近平「公認」” 11月11日号 Newsweek日本版)

宗教に関しては、「無神論」を唱える中国共産党は宗教を迷信と位置づけて禁止しました。
毛沢東が始めた文化大革命(66~76年)の際には、仏像や教会が破壊されるなど厳しく弾圧された時期もありましたが、一般民衆の宗教信仰は70年代末からの改革開放に伴い、容認へと向かっていました。

しかし、ここにきて、再び宗教禁止の原則論が前面に出てきているようです。

****中国共産党、党員の宗教禁止徹底 民族対立の深刻化恐れ****
中国の習近平指導部は、「共産党員は宗教を信仰してはならない」という原則を改めて徹底する方針を固めたもようだ。
党の規律部門を動員し、宗教を信仰する党員を全国で精査する見通しだ。

キリスト教やイスラム教などの信者が増え、党中央の求心力が弱まっていることが背景にあるが、宗教を信仰する党員は少数民族や貧困層が圧倒的に多く、こうした“組織浄化”措置は民族対立などの社会矛盾を深刻化させる可能性をはらんでいる。(後略)【11月16日 産経】
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****人権派弁護士らへ引き締め強化=香港問題、外部の干渉警戒―中国****
中国国営新華社通信は28日夜、20~23日に開かれた共産党第18期中央委員会第4回総会(4中総会)で採択された「法治全面推進の重大問題決定」全文を配信した。

「決定」は弁護士に対して「共産党の指導と社会主義に基づく法治」の堅持を強く要求するなど、政治思想面の引き締めをより強化する方針を示した。

中国では市民の権利が侵害される社会矛盾が深刻化する中、法律を武器に立場の弱い市民を支援する人権派弁護士の影響力が増し、こうした弁護士と共産党権力が対峙(たいじ)する場面が増えている。

決定は「弁護士は社会主義法治を歩む自覚と堅実性を増強する」とも求め、人権派をけん制した。

一方、選挙制度民主化をめぐり民主派学生らのデモが続く香港問題に関しても決定は「法に基づき高度の自治を保障する」としながらも、「法に基づき中央の権力を行使し、行政長官・政府の施政を支持する」と強調。「外部勢力による香港問題への干渉を防止・反対する」と警戒感を示した。

さらに大学での人材育成に関して「マルクス主義法学思想と社会主義法治理論」を重視し、「同理論が教材となり、教室で教えられ、頭脳に入る」よう指示。また、「中国で活動する海外NGOの管理を強化する」として、西側諸国の価値観流入に危機感を示した。
こうした点から習近平総書記(国家主席)が進める「法治」は、人権派弁護士や民主派、改革派知識人など共産党支配体制を揺るがしかねない勢力に対する統制を強化する側面が強いことが浮き彫りになったと言える。【10月28日 時事】
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実際、講義中に中国政府を批判した大学教師を糾弾する「公開書簡」が新聞に掲載される・・・・という状況になっているようです。

****中国紙記者が大学20校に潜入調査 政府批判の教師を糾弾「罵ったりするな****
中国遼寧省の地方紙「遼寧日報」が17日までに、講義中に中国政府を批判した大学教師を糾弾する「公開書簡」を掲載し、波紋が広がっている。

当局は10月、教師の思想に関する指針を発布。香港で学生団体による民主化要求デモが続く中、共産党員の宗教禁止に続き、「学問の自由」にも規制が加えられようとしている。

同紙によると、10月下旬、ある学生から「教師の間で中国を悪く言ったり、社会批判がはやっている」との情報が寄せられた。教師は公然と政府の政策に異議を唱えているという。いわゆる「西側」の制度を追求すべきとの意見や、腐敗や格差社会を「政治システムの欠陥」と誇張する言葉も聞いたとしている。

同紙は約半月かけて、北京、上海、広州、武漢、瀋陽の大学20校の講義に記者を潜入させて調査。公開書簡の中で「教授らの広範な知識や研究態度、責任意識には感動したが、中国批判も存在し、度を超したものさえあった」と伝えた。

さらに、学生の価値観や思想に対する教師の影響力を指摘した上で、「中国の問題点を論じるのはかまわないが、明確かつ客観的でなければならない。ただ好き勝手に批判したり、罵(ののし)ったりするな」と訴えた。

中国共産党機関紙、人民日報傘下の国際情報紙、環球時報(英語版)によると、10月に出された「指針」には、「教師は価値観を正し、社会主義の核となる思想を学生にもたらすべきだ」と記されており、当局が大学での民主化思想の拡散に神経をとがらせていることをうかがわせる。

教師らは「教室は自由に意見交換できる場だ」と反発しているが、中国メディアは「中国や国家の名誉を傷つけるのは違法だ」などと、公開書簡を支持する意見を強調している。【11月17日 産経】
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反汚職・反腐敗という大衆受けするキャンペーンと併せて、党や国家への批判を許さない風潮を芸術や教育など社会全般で推し進める習近平政権の姿は、やはり毛沢東の権力奪取闘争として行われたかつての文化大革命を思い起こさせるところもあります。

ただ、中国にも権利を主張し、ネットなどでものをいう市民社会が一定に育っていますので、文化大革命のような極端な社会運動とはならないでしょう。
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台湾  圧倒的多数が“台湾人” 連戦氏ら国民党幹部と意識ギャップ

2014-11-17 22:19:26 | 東アジア

(台湾統一地方選 国民党の牙城・台北で無所属新人にリードを許す異例の展開を強いられている連勝文候補(写真中央 連戦名誉主席の長男) 左隣は馬英九総統のようです。 “flickr”より By Lin Li Hsuan https://www.flickr.com/photos/lihsuanlin/15793127881/in/photolist-q4zUGi-8XwQ9y-91kx19-4yHg8v-4yMzKQ-4yHhqz-4yMAmQ-4yMz9j-4yMxk7-4yHi3p-8XwQE9-8XtEHi-8XtJpB-8XwR8E-8XtKC8-8XwJho-8XwNzE-8XwSRA-8XtJU2-8XtLo8-8XtL2B-eLAFRB-pcs2YT-oYZxQx-p2Lo75-oxcrcz-v4par-v4iMm-8WjQLi-bWH9QM-641MbC-pyHKSJ-oMxBC1-8X7tpm-soJHp-8XyJuT-4PziEi-4Pzdxk-4Pzgax-4PzaS2-pFaXBJ-oZsBqy-oJEL2Z-5nWXgi-owXJAr-95456q-dcf1P9-4E7LTV-4n9jne-pKXUJo)

台湾しか知らない世代
台湾では今年3月~4月、中国との経済関係強化を目指す「中台サービス貿易協定」をめぐり、中国への警戒感からこれに反対する学生が立法院議場を占拠する騒動(いわゆる「ひまわり運動」がありました。

こうした状況への馬英九政権や中国側の苛立ち、習近平国家主席の「一国二制度」へのことさらな言及などについては、9月27日ブログ“台湾・馬政権の苛立ち 香港で問われる「一国二制度」の実態”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140927)で取り上げました。

その後、馬英九総統は習近平主席の「一国二制度」発言を受ける形で、9月28日、更に中華民国の誕生につながった辛亥革命を記念する10月10日の「双十節」の式典で、重ねて香港の普通選挙を求める学生ら運動への支持を表明しています。

馬英九総統の香港学生運動支持発言は、“多くの台湾人にとって、香港は今や「悪い前例」になっている。それは、中国が真の民主主義を容認せず、自治の約束を守るとは思えず、洗練された住民たちとその政治的な願望に対応するために必要な柔軟性に欠けることを示す証しだ。”【10月10日 WSJ】という台湾側の認識の表明でもあります。

こうした経緯や、台湾側の意識において世代間のギャップが大きくなっていることは、10月14日ブログ“台湾 香港での抵抗運動を受けて、中国が主張する「一国二制度」への批判が鮮明化”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141014)で取り上げました。

このような最近の流れからするとやや異質とも思える、国民党の連戦名誉主席の発言が報じられています。

****脱中国化教育」が若者の精神をねじ曲げ台湾社会を不安定にした=国民党・連戦名誉主席****
国民党の連戦名誉主席は16日、台北市内で開催された「中国人反独立護国動員大会」に出席し、台湾で2000年ごろから始まった「脱中国可化教育」が、台湾の若者の価値観をねじ曲げ、現在の台湾社会の不安定さを招いたと述べた。中国新聞社などが報じた。

「中国人反独立護国動員大会」は「台湾人半独立護国大同盟」が主催。「分裂逆流を阻止せよ。中華文化を発揚せよ」などと宣言した。

大会は、「台湾海峡の両岸の同胞は近年になり密接に行き来し、次第に心も解け合ってきた」と、大陸人と台湾人が融和しつつあると主張。

さらに「大陸は過去数十年にわたり平和発展をとげ、すでに昂然とそびえたち、世界が感服する富強の国になった」と中国大陸側を絶賛し、「たとえば大陸側は現在、世界の1000カ所以上で孔子学院を設立し、全人類のあいだで中華文化を推進する実質的な役割りを果たしている」と、文化面でも大陸側の取り組みを賞賛した。

さらに、「中華文化の発揚は、(伝説上の中華社会の支配者である)炎黄の子孫のひとりひとりの天職であり、分裂逆流を阻止することは、権力をになうものの責任だ」などと宣言した。

国民党の連戦名誉主席は同大会で、「2000年以降に、台湾の教科書では『脱中国可教育』が始まった。当時の一部の12、3歳の生徒がこの種の教育を受け、倫理道徳観と歴史観がねじ曲げられてしまった。

これらの生徒は今では青年となり、インターネットで意見を発表する際、事実をねじ曲げ、社会の不安定さを招いている」と主張した。【11月17日 Searchina】
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「中国人“反独立”護国動員大会」と「台湾人“半独立”護国大同盟」・・・・“半独立”というのは誤記でしょうか?
台湾の現状からすれば、“半独立”というのはなかなか微妙な表現です。

更に一方が“中国人”で、他方は“台湾人”・・・・なぜ使い分けたのか、非常に意味深でもあります。

国民党・連戦名誉主席の発言は、“40歳以下の若者は、台湾の民主化プロセスの真っ只中、台湾しか知らない世界で成長しており、中国への心情的な愛着やアイデンティティは皆無であるが、40歳以上の人々は、国民党の「偉大な中国」教育を受けて育ち、中国人であるとはどういうことかについて、一定の理解がある。”【10月10日 WEDGE】という世代間の意識ギャップに対する高年齢層側の苛立ちでもあります。

ただ、途中まで読んできて、「これは大陸側主催の大会だろうか?」と改めて文頭を確認したぐらい、中国を賞賛するものです。

連戦名誉主席と言えば、野党時代の2005年、中台分断後初めて中国を訪問して胡錦濤国家主席(当時)との会談を行い、野党のトップとはいえ、1945年の蒋介石・毛沢東の重慶会談以来の国民党と共産党の首脳会談を60年ぶりに実現させた政治家で、その後もたびたび中国を訪問しています。

陝西省西安生まれの、いわゆる「外省人」です。

若い世代との意識ギャップはもちろん、台湾全体の意識ともかなり差があるのではないでしょうか。

先述の“中国人”と“台湾人”の話にもなりますが、2013年8月初旬に実施された「台灣指標調查研究股份有限公司」(「台灣指標民調」、TISR)による台湾の世論調査によると、「台湾人と呼ばれたいか、それとも中国人と呼ばれたいか」という質問に対して、82.3%が「台湾人」と答え、「中国人」と回答したのはわずかに6.5%でした。

「台湾人」と答えた者は、2003年には61.5%であったのが、2013年は上記のように82.3%に増加したとのことです。(2月6日 「平和外交研究」 美根慶樹氏 http://heiwagaikokenkyu.blog.fc2.com/blog-entry-237.html より)

この一点においても、「中国人反独立護国動員大会」なるものは全体意識から乖離したものとなっています。

一方、こうした全体意識から乖離した意識を持つ連戦名誉主席などが、たびたび訪中して胡錦濤氏などと会談を重ねてきたことが、中国側の認識を誤らせることにもなっているように思われます。

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サービス貿易協定締結に対する台湾側の反発については、共産党側も“想定外”だったという。
頼(台南)市長によると、台湾の野党・親民党の宋楚瑜主席が5月に北京を訪問して中国共産党の習近平総書記(国家主席)と会談した際、習総書記は「国民党は事実と異なるメッセージを送ってきていた」と述べたという。【9月16日 Searchina】
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8割以上の人が「台湾人」と考えることからすれば、「一つの中国」というのも“虚構”ではありますが、中台の現状を穏便におさめるためには、この“虚構”を維持さざるを得ない・・・というのが現実政治です。

****一つの中国」めぐる中台「コンセンサス」堅持で一致 習主席と台湾・前副総統が会談****
台湾の蕭萬長前副総統は9日、北京の人民大会堂で中国の習近平国家主席と会談、「一つの中国」をめぐる中台間の共通認識「92年コンセンサス」を堅持することで一致した。台湾の中央通信社が中国国営新華社通信の報道として伝えた。

92年コンセンサスは、1992年に中台双方の窓口機関が確認したとされる。双方が「一つの中国」を認めつつ、台湾側が「中国とは中華民国」と主張する余地を残している。台湾の馬英九政権が中台関係を改善する際の基礎となった。

習氏は9月末、台湾からの訪中団との会談で、「一国二制度」による台湾統一に言及。その際、92年コンセンサスに触れなかったことから、台湾側で中国の対台湾政策が変更されたのではないかと憶測を呼んでいた。(後略)【11月9日 産経】
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「中台サービス貿易協定」をめぐる混乱、香港学生運動への馬総統の支持発言などで、中台関係には停滞感が漂っています。そんな状況で、敢えて「交流加速」を打ち出す会談も。

****<中台閣僚>北京で非公式会談 交流加速を表明****
アジア太平洋経済協力会議(APEC)の台湾代表団に同行していた台湾の対中政策を主管する行政院大陸委員会の王郁※(おう・いくき)主任委員(閣僚)は12日、中国の対台湾政策を主管する台湾事務弁公室の張志軍主任(閣僚級)と北京市内で非公式に会談した。

終了後、双方は、関係改善の基礎と位置づける「1992年合意」を堅持し、交流を加速させると表明した。(※は王ヘンに奇)
92年合意は、「一つの中国」を認めつつ、その解釈は中台各自に委ねるとの内容。

主管官庁トップの会談は今年2月、6月に続き3回目だが、今回は非公式会談のみが行われ、停滞期にある中台関係を象徴した。「交流加速」は対外的に広がる停滞感を払拭(ふっしょく)させ、体面を維持する狙いがあるとみられる。

2月の初会談では非公式の場で中台首脳会談実現に向けて話し合うなど双方が積極的な姿勢を見せた。

だが、春には台湾で中国とのサービス貿易協定に反発する学生らによる立法院(国会)議場占拠を機に台湾住民の反中警戒感が噴出。同協定の承認は頓挫したままだ。8月には実務を取り仕切る大陸委ナンバー2の高官が中国に対する「情報漏えい疑惑」により更迭された。

さらに9月には、中国の習近平国家主席が「(高度な自治を保障する)『1国2制度』が台湾問題を解決する基本方針」と述べた。従来の台湾政策とは変わらないが、馬英九政権と関係改善を進めてきた中国側は同制度に触れてこなかっただけに、馬総統は「受け入れられない」と強く反発した。

台湾メディアによると、中国の張主任は会談後、中台首脳会談について「今回は話していない」と述べた。【11月12日 毎日】
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国民党が台北や台中を落とせば、民進党に勢い
台湾は国内的には、今月末に統一地方選挙が予定されています。

野党側が優位に選挙戦を展開していると報じられており、“2016年の総統選に向け、台湾の政治地図が塗り変わる可能性が出てきた”とも。

国民党に比べて中国に対して距離を置く野党側が勝利し、更に次期総統選挙も・・・という話になれば、当然に中台関係も大きく変わります。

台湾統一地方選は、日本の都道府県知事に当たる直轄市や県の首長から町内会長まで、九つの選挙を同時に行いますが、中でも「五都」と呼ばれる台北、新北、台中、台南、高雄の直轄市の市長選が大きな注目を集めています。

なお、国民党の牙城・台北で苦戦しているのは、前述の連戦名誉主席の長男・連勝文氏です。

****国民党、地盤で苦戦 台湾統一地方選、29日投開票*****
11月29日投開票の台湾統一地方選で、政権与党の国民党が苦戦している。同党が地盤にしてきた台北と台中の市長選で、野党系候補が優位に立つ。「最後は与党が巻き返す」との見方も根強いが、2016年の総統選に向け、台湾の政治地図が塗り変わる可能性が出てきた。

「情勢はかなり厳しく、危急を告げている。あらゆる友人の力を借りて票を掘り起こし、支持を広げていきたい」
台北市長選の国民党候補、連勝文(リエンションウェン)氏(44)は4日、劣勢が伝えられる選挙戦に危機感をあらわにした。

対立候補の無所属の医師、柯文哲(コーウェンチョー)氏(55)が、連氏に対し、42%対29%(台湾紙・聯合報)となるなど各種世論調査で軒並み差をつけているのだ。

台湾の政界は、国民党や同党に近い政党の「青」勢力と、最大野党の民進党を中心とする「緑」勢力に二分される。
国民党が長く一党独裁で政治経済の中枢を押さえていたため、首都機能を持つ台北には国民党支持者が多く集まった。

市長選では、国民党重鎮の連戦元副総統の長男で、同党次世代ホープの連氏が優位という事前予測が強かった。

伸び悩む最大の原因は、「権貴」(特権階級)とのイメージだ。
連家は金持ちで知られ、民進党の台北市議らは父親の連戦氏の資産は少なくとも786億円と指摘。連勝文氏も台北随一の豪華マンションに自宅を持ち、庶民の生活とかけ離れている、との受け止めが広がった。

連氏は「いくら政策を訴えても響かない。メディアや有権者は関心がないようだ」と嘆く。

対立候補の柯氏は女性蔑視とも取れる失言などもあるものの、率直な物言いで有権者の共感を集める。学生らが立法院(国会)を占拠した3月の「ひまわり学生運動」など、有権者が政治に関与しようという「公民運動」を意識し、「市政府の開放」などを訴える。

柯氏は「緑」系だが、政党対立の図式を嫌い、民進党入党を断った。民進党はそれでも「国民党に勝てる候補」選びを最優先。独自候補の擁立を見送り、柯氏を支援する。

国民党と民進党の二大政党が激突する構図が崩れ、無所属候補が善戦するのは台湾の主要選挙では極めて異例だ。(中略)

 ■逆風下の政権、内部に亀裂
連、胡両氏にさらに重しとなっているのが、支持率が低迷する馬英九(マーインチウ)政権への逆風だ。

最近、食品大手が飼料用油を食用油と偽って売る大規模な食品安全問題が発覚。「当局が機能していない」と批判が渦巻く。

党の亀裂も深刻だ。馬総統は昨夏、党内ライバルの王金平・立法院長(国会議長)を更迭しようとして失敗。支持基盤の軍人や公務員らの年金削減を進め、反発を招いた。国民党支持者の投票意欲が低いのも、今回の特徴だ。

今回の選挙は総統選に向けた「中間選挙」の意味合いもある。台北市長選で国民党候補が落選したのは、同党が分裂した1994年の選挙だけだ。

また、台湾北部では国民党が、南部で民進党が強いが、台中より南の濁水渓がその境目とされてきた。国民党が台北や台中を落とせば、民進党の勢いが増すことになる。(後略)【11月5日 朝日】

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イラク戦争時の“不品行”「ブラックウオーター事件」に有罪判決 進む“戦争のアウトソーシング化”

2014-11-16 22:11:01 | アメリカ

(ブラックウォーター発砲事件後に現場に残された車の残骸 【10月23日 AFP】)

【「いまだもって彼らを厳格に管理できていないという米政府の問題は解決していない」】
****イラクで市民14人殺害 米軍事会社「ブラックウオーター」社員に有罪****
2007年9月16日、イラク首都バグダッドにあるニサール広場で市民14人を殺害し、17人を負傷させた米民間軍事会社ブラックウオーターの社員4人に対する判決言い渡しが10月22日、米首都ワシントンの連邦地裁であった。

事件は、ブラックウオーター社員が護衛していた駐イラク米大使館員の車列が広場にさしかかったところ、武装組織の攻撃を受け、社員らが反撃した際、多くの住民に死傷者が出たものだ。

社員らの発砲を受けた乗用車に乗っていた医学生や母親は丸腰だったことなどから、ブラックウオーター側の対応に非難が集中した。

イラク戦争で、米国人による不品行の代表的事件として挙げられ、イラク国内の対米感情の悪化を決定付けたとして知られる。

 ■ブラックウオーター事件
今年6月から始まった公判で陪審員は評議に7週間以上をかけた。その結果下された判決は、社員1人が殺人罪で無期懲役、残る3人が過失致死罪で最高30年の有罪だった。

10月24日付の米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)社説は判決について、戦地における民間軍事会社におとがめ無しは認められないことの保証を与えたとして評価した。

NYT紙は一方で、「海外での戦闘地で軍事力補足のために民間軍事会社に強く依存しており、いまだもって彼らを厳格に管理できていないという米政府の問題は解決していない」と指摘した。

元軍人を擁する民間軍事会社は、多くの場合、非戦闘任務の警護や警備を担当するが、襲撃にさらされれば応戦を強いられる。

しかし、政府をバックにした軍と異なり、民間軍事会社の場合、その行動に対する法的責任と義務は明確ではない。

 ■民間にも説明責任
それだけに、英紙ガーディアンの記事(10月22日、ウェブ版)は「社員4人に対する過失致死罪、殺人罪など32件での有罪判決は、戦闘地での説明責任をめぐる重要な転機だ」とする専門家の言葉を載せている。判決が民間軍事会社に説明責任があることを明確にしたことは画期的なのだ。

しかし、10月24日付のリベラル系米誌ニュー・リパブリック(ウェブ版)は「ブラックウオーター判決は戦争遂行のため米国がウォールストリートへの依存度を増すことを示唆している」との記事の中で、「多くの人にとって、有罪判決はイラク戦争の不名誉な一連の出来事の終結をもたらすが、現実はこれは始まりにすぎないのだ」と冷ややかな見方をする。

この記事によると、2010年の段階で、米国は戦闘地に17万5000人の軍人を派兵したが、民間軍事会社などの請負人は20万7000人と、米兵の数を大きく上回っていた。

 ■空白を埋めて急成長
民間軍事会社は1990年代に入ってから急成長した。冷戦終結後に各地で軍の規模が縮小されたことに伴い元軍人の受け皿になったのだ。

折しも、冷戦後、世界はさらに不安定化し、軍事力の必要性は高まった。しかし、米国だけでなく多くの先進国でみられるように、財政難や厭戦(えんせん)ムードなどで派兵に関する国内世論は消極的。

軍が埋められずに増える一方の空白を民間軍事会社が埋めていくことが趨勢(すうせい)になっており、今後もこの流れは続くとの見方が大勢だ。

また、米誌ニュー・リパブリックは、今や民間軍事会社は英米の企業だけでなく、「ロシアや中国の人権への配慮が乏しいが、アフリカや中東、中南米での紛争地帯で新たな機会を求めている」とも記述する。

NYT紙は「民間軍事会社は今後も米国の海外軍事活動で中心的役割を担っていくだろう。ブラックウオーターの判決で、米国は今日の戦争プロフェッショナルが厳しく管理され、その行動について説明責任を負うということを確実にするために全力を傾けなければいけない」として、論説を締めくくっている。【11月15日 産経】
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進む“戦争のアウトソーシング(外注)化”】
イスラム過激派や反政府勢力などのゲリラ的戦闘は別にして、アメリカ等の軍事大国が遂行する今日の戦争は、これまでと比べて急速に変化しつつあります。

そのひとつが、無人機やロボット兵器に見られるような、人間の手が直接には血で汚れることがないような兵器の無人化・ロボット化の流れです。
攻撃側の手は汚れなくても、攻撃を受けて流される血はこれまでと同じであり、そのギャップが問題にもなります。

もうひとつの顕著な流れが、民間軍事会社への“戦争のアウトソーシング(外注)化”です。
(参考:2007年9月21日ブログ「イラク 進む戦争の民間委託」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070921

民間軍事会社(あるいは民間警備会社)は、一昔前の“傭兵”のような実際の戦闘参加だけでなく、施設・要人・輸送部隊の警備、生活環境提供(兵士の宿舎設営、食事の提供サービス、ショッピングモールの運営)、輸送業務、兵器の整備(地元兵員の教育・訓練、兵器のメインテナンスなど)など幅広い分野をカバーしています。

その人数も、例えばイラク戦争当時、記事にもあるように補給業務を加えれば駐留米軍を上回る“社員”がイラクに展開していたといわれ、米軍等の撤退後は、外交官や開発専門家の安全を確保するためにむしろ増員さえされています。

民間軍事会社が活用される背景としては、高コストパフォーマンスと統計上の戦死者数を減らせるメリットが挙げられています。

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高コストパフォーマンス
自国で軍隊を創設し維持し、運用するには莫大な費用がかかり、使用する兵器もどんどん複雑化、高額化している。また軍事費での一番の比率を占める人件費は正に軍事費削減の一番のキーである。少ない兵力を運用する上ではいかなる時でも即座に対応できる民間軍事会社のフットワークの軽さは大変魅力である。

統計上の戦死者数を減らせる
民間軍事会社所属の社員が正式な戦死者数としてカウントされないことも、軍にとって無視できない利点である。

ベトナム戦争に代表されるように戦争を継続する上での最大の懸念は自国兵士の想定以上の被害数であり、このことは世論の戦争に対する支持率を大きく左右し、民主主義国家にとってはより重要な要素である。【ウィキペディア】
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ただ、“民間人”でありながら武器を携え、ときに戦闘行為に及ぶ彼らの活動については、その行為の責任をいかに問うべきかという問題があります。

****戦時国際法での位置づけが不明瞭****
軍と共に作戦行動を共にすることが多いにも拘わらず、社員らの戦争犯罪に関しては軍の法令を適用できず、正規兵と比べ処罰が軽すぎることが問題となっている(戦争犯罪の加害社員にとっては利点となる)。(中略)

また、活動がジュネーヴ条約に規制されないことから、社員らに戦争犯罪的な行為が『業務』として正式に命じられることもある。【ウィキペディア】
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現地では裁かれなかった民間人犯罪
こうした問題を抱える民間軍事会社の存在をクローズアップさせたのが、冒頭記事にある、2007年9月16日にイラク・バグダッドで起きた民間軍事会社最大手「ブラックウォーター」社による事件でした。

上記産経記事では、“武装組織の攻撃を受け、社員らが反撃した際”とありますが、殆ど一方的に発砲したとする説明の方が多いようです。

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それは「バグダード血の日曜日」と言うべきものだった。

9月16日、イラクの首都バグダードの混み合ったマンソール地区にあるニソール広場近くを、重武装した米国国務省の車列がブラックウォーターUSAの護衛のもと、道路の逆側を猛スピードで進んでいた。

この車列を通すためにイラク警察がかたまって通行中の車を制止していた。この混乱の中、イラク人の運転する車が一台、広場に入ってきた。警官の警告が間に合わず、運転手に聞こえなかったのではないかと言われている。

米国人ボスである国務省の高官を護衛していたブラックウォーター社の傭兵がこの車に向かって発砲し、運転手を殺した。

目撃者によると、ブラックウォーターの傭兵たちはそれから車に向かって何らかの爆弾を投げつけ、車は炎上した。けれども、車の中にいたのは、ブラックウォーター社がこの事件について公式声明で発表したように、アルカーイダ・イン・メソポタミアの兵士やマフディ軍といった「武装ゲリラ」ではなかった。

殺されたのは、若いイラク人夫婦と子供からなる家族で、その罪といえば、混乱した道路状況にパニックを起こしたことだった。目撃者によると、母と子供は車を焼き尽くした炎により溶けて一体化していたという。

人々が命からがら逃げまどう中、ニソール広場では銃声が響いた。目撃者たちは、ブラックウォーター社の護衛が無差別に発砲する恐ろしい光景だったと述べている。(中略)

「女性たちと子供たちが車から逃げ出してきて、撃たれないよう路上を這っているのを見ました」。この事件で背中を4発撃たれたイラク人弁護士ハッサン・ジャバル・サルマンはこう語る。

「けれども、それにもかかわらず発砲は続き、こうした人々の多くが殺されました。10歳くらいの少年が恐怖に駆られてミニバスから飛び出しましたが、彼は頭を打たれました。少年の母親は泣き叫び、少年のあとに飛び出しましたが、彼女も殺されました」。【「ファルージャ 2004年4月」 http://teanotwar.seesaa.net/article/60026736.html
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上記サイトによれば、“目撃者たちによると、遠くで爆発が起きたようだが、それは非常に遠くのことで脅威ではなかった”とも。

また、議会で行われた公聴会では、ブラックウォーターの傭兵は「まず発砲し、その後で質問する」という基本原則の元で訓練を受けていたことなども明らかとなっていました。

被告の一人は事件前、米同時多発テロの仕返しとして、できるだけ多くのイラク人を殺したいと知人に話していたとのことです。【10月23日 AFP】

ブラックウォーター社が起こした事件はこれが初めてではなく、過去1年間だけでブラックウォーター社が関与する死者が出た事件が少なくとも6件あったとされています。

イラク政府はその活動の在り方に抗議し、アメリカとイラク政府関係者は、9月の射殺事件が起きる数カ月前からブラックウォーター社が罪に問われていないことを議論してきたと言われています。

当然、イラク・マリキ政権はその“犯罪行為”をイラクの法廷で裁くように求めましたが、イラクでアメリカのために職務についている契約私企業要員に包括的な免責特権を与える政令を盾に、アメリカ側はイラク政府が契約私企業要員がイラク国内で犯した犯罪をイラク国内法で裁くことを阻止しました。

その後、イラク政府は米軍兵士に免責特権を付与する地位協定の延長を認めず、2011年末には米軍が完全撤退し、イラク政府の失政につけこむ形で「イスラム国」が勢力を拡大しています。

今にして思えば、2007年9月のブラックウォーター社が起こした事件の責任をイラクで問うことができなかったことが、イラク政府のアメリカへの不信感を強めることにもなり、その後の流れにも影響したのではないでしょうか。

いずれにしても、責任を問う舞台はアメリカに移り、今回の有罪判決となりました。

従来から“正規兵と比べ処罰が軽すぎる”と言われていた民間軍事会社の犯罪行為に、一定に歯止めをかける判決ではありますが、“戦争のアウトソーシング(外注)化”は今後も進み、同様な事件も多発することが想像されます。

なお、イラク同様に民間軍事会社が活動しているアフガニスタンでは、カルザイ大統領(当時)が2010年8月、国内で活動する民間警備会社に対し、2011年1月1日を期限とする4カ月以内に解散するよう求める大統領令を突然に出したことがあります。
(参考:2010年8月21日ブログ「民間警備会社 イラクでは米軍撤退後をカバー アフガンでは活動停止」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100821

もし、実際に民間軍事会社の活動が禁止されれば、米軍の戦闘遂行に多大な影響を与えますが、その後、そのような事態が起きているとの話は聞きません。

2011年11月に、民間軍事会社の活動を2012年3月までにアフガニスタン治安部隊に肩代わりさせるのは無理があるとの報告書がだされ、アフガニスタン政府側は、更に12か月延長して民間会社が活動することを許す用意がある・・・といった話があったようです。(http://spikemilrev.com/news/2011/11/4-1.html

おそらく、その他の事案同様に、ずるずるとなし崩しになったのではないでしょうか。
いまや、アメリカにとっては民間軍事会社の活動なしに戦争を行うことが困難になっています。

事件後、イラクでの事業免許を取り消されたブラックウオーターは、09年に「ジー・サービシズ(Xe Services)」、11年に「アカデミ(Academi)」と社名を変えています。
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日中首脳会談  「あいまい決着」で取りあえず手打ちはしたものの・・・

2014-11-15 21:37:39 | 中国

(表情・仕草はそれぞれ国内外の評価を念頭に置いた演出であり、それ以上のものでもありませんが、習近平国家主席の無表情ぶりはいささか滑稽でもありました。【11月10日 日経】)

G20議長国は日本ではなく中国へ
日本にとって快いものではありませんが、日本の置かれている状況を示すものでしょう。

****G20、16年議長国は中国=日本、今回も逃す―豪紙****
20カ国・地域(G20)の議長国を務めているオーストラリア政府は、2016年の議長国に中国を選ぶことを決めた。オーストラリアン紙が15日報じた。議長国就任を以前から希望してきた日本は今回も名乗りを上げたが、実現を逃したもようだ。

15年の議長国はトルコに決まっている。豪政府は当初、16年の議長国として、アボット首相が「アジアの親友」と公言して良好な関係にある日本を推す意向だった。

ところが、G20構成国の間では、経済的な影響力を強める中国を支持する声が多く、日本推薦を断念したという。【11月15日 時事】
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【「あいまい決着」と、その危うさ
日中首脳会談については周知のとおりです。

****2年半ぶり、北京の人民大会堂で25分間会談****
安倍晋三首相は10日昼(日本時間同日午後)、中国の習近平国家主席と北京の人民大会堂で約25分間会談した。
日中首脳会談は2012年5月に当時の野田佳彦首相と温家宝首相が行って以来、約2年半ぶり。

両首脳は、沖縄県・尖閣諸島を含む東シナ海を念頭に、日中防衛当局間のホットライン設置など「海上連絡メカニズム」の運用を早期に開始することで一致した。

会談では双方とも首相の靖国神社参拝には言及しなかったが、首相は「安倍内閣は歴代内閣の歴史認識の立場を引き継いでいる」と表明した。(後略)【11月10日 毎日】
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政治・経済的に、また、安全保障上も、極めて重大な関係を持つ隣接する両国が、首脳同士の会談すらできないという異常な事態の改善につながる第1歩として、喜ばしいことです。

会談の内容・評価については各紙が詳しく論じていますので、ここでは細かいところは取り上げません。
総じて言えば、“それぞれ国内世論を気にする日中が「あいまい決着」で手を打ったこ”ということでしょう。

****日中“無表情”会談、あいまい合意の危うさ 国内世論に配慮した玉虫色の決着****
・・・・今回の首脳会談はギリギリまで実現が危ぶまれた。中国がホスト国である以上、少なくとも両首脳の立ち話程度はできるというのが基本的な相場観だ。

しかし、正式な首脳会談を開くために中国側は、尖閣諸島をめぐって日中間に領土問題が存在することを日本側が認める、安倍首相が今後、靖国神社を参拝しないことを表明する、という2つを条件にしてきたとされる。

どちらも受け入れがたい安倍首相側は「前提条件なしの首脳会談開催」を主張してきた経緯がある。それだけに実現への調整は困難とみられてきた。

隘路を突破できた理由は、それぞれ国内世論を気にする日中が「あいまい決着」で手を打ったことだ。

会談に先立つ7日に両国政府が発表した4つの合意事項に、そのあたりの事情が反映されている。同日に谷内正太郎・国家安全保障局長と中国外交のトップである楊潔※(※=竹カンムリに褫のツクリ)・国務委員(副首相級)が会談してまとめたものだ。

4つの合意点のうちポイントとなるのは、①両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた、②双方は、尖閣諸島など東シナ海の海域において近年緊張状態が続いていることについて異なる見解を有していると認識、という2点だ。

①は靖国神社に代表される歴史認識の問題、②は中国が主張している「領土問題の存在の受け入れ」を指してしているとみられる。

しかし、その表現は極めてあいまいで、日中双方が自国民に対して「こちらは譲歩していない」と説明できるようにしてある。(後略)【11月11日 東洋経済online】
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“異なる見解を有していると認識で合意した”・・・・いかにも外交的な表現でユーモラスでもありますが、まあ、それで“手打ち”ができるなら“大人の智慧”と言うべきでしょう。

今回の“手打ち”が今後更に内容のあるものに深まるかどうかについては、尖閣諸島の問題は、中国側の今後の出方にかかっていますが、靖国については、日本側・安倍首相の対応にかかってきます。

今回の会談に至る流れをお膳立てしたのは、7月28日の福田元首相の訪中であったと言われています。
実際、この頃から日中関係者の発言には“潮目が変わった”ものが窺えました。

****日中首脳会談、パイプつなぎ直した政治家のワザ *****
・・・・福田(元首相)、谷内(安倍首相の信頼が厚い国家安全保障局長)、王(外相)、楊(国務委員)の4人の会談に、習が姿を現した。

福田が習と会うのは昨年4月以来だ。日中関係者によると、福田はここで踏み込んだ発言をした。安倍の靖国参拝の可能性について、否定的な認識を示したのだという。

安倍とどこまで擦り合わせていたかは不明だが、同席していた谷内が「そんなことまでは……」と慌てたとされる。第2のカードだ。(後略)【11月11日 日経】
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福田元首相の発言内容、それを中国側がどのように評価したのか・・・そのあたりは知りませんが、いずれにしても中国側は今回“手打ち”で、当面安倍首相の靖国参拝はないものと判断しているのでしょう。

靖国については、日中間というよりは、国内でも異なる見解・立場がある、すぐれて国内的な問題でもあります。

その内容についてはここでは触れませんが、私個人の立場だけ言えば、戦争に突き進んだ戦前日本の流れをそのまま継承しているように思われる靖国神社への参拝を、単に“国のために命をささげた英霊への敬意”ですますことはできないと考えています。

もちろん「馬鹿を言うな!」という立場もあるでしょう(そっちの方が最近は主流のようですから)。

それはさておき、少なくとも中国側は、今後再び首相の靖国参拝という事態になったとき、“メンツを潰された”と激しく反発し、日中関係は今以上に修復が困難な状態となることが懸念されます。

****時間稼ぎには限界がある****
今回の会談で両首脳は東シナ海などでの衝突回避のための海上連絡メカニズム構築などで合意しており、首脳交流を再開することの意義は大きい。

「これで日本とのビジネスは”解禁”。中国の官も民も、日本側との接触がやりやすくなった」(経済産業省幹部)のは確かだろう。

しかし、ここから本格的に日中の関係が改善していくかどうかは予断を許さない。
8年前と現在の大きな違いは、中国と日本の関係性の変化である。

10年に日中の経済規模は逆転し、13年の中国の名目GDP(国内総生産)は日本の2倍だ。また、中国の輸出や輸入における日本の比重は8年の間に大きく低下した。

こうした変化は、中国側の日本への姿勢をどんどん強気にさせている。それだけに、日本には中国との関係をどう再構築していくかのしっかりした構想が必要だ。「あいまい戦術」はあくまで時間稼ぎでしかない。【11月11日 東洋経済online】
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【“日本にとって不快な目覚め”】
日中関係がこじれやすい背景には、両国の変化に日本側の認識がついていきかねていることがあるように見えます。

****アジア・ナンバーワンの地位****
・・・・中国は安倍氏のことを、日本の軍事的過去を否定したいと願う修正主義者として描くキャンペーンを繰り広げてきた。

一方、安倍氏は東南アジア諸国を訪問し、やはり中国との海洋紛争に対処する各国に支援の手を差し伸べてきた。

米国は、中国との対立に自国が巻き込まれかねない紛争の可能性を懸念している。

朝日新聞の元主筆、船橋洋一氏は、アジアは今、日本が1894~95年の日清戦争で中国を破った時と性質がよく似た「地殻変動」を目の当たりにしていると話す。

日清戦争での勝利とその10年後のロシアに対する勝利は、日本を1世紀にわたるアジア支配に導いた。だが、30年に及ぶ比類なき成長によって力をつけた中国は立ち直り、この地域でかつて占めていた地位を取り戻しつつある。

「日本がこの新しいパワーシフトに適応するのは、心理的、政治的に非常に難しい」と船橋氏は言う。
「日本は『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を一度も信じなかったが、『アジアにおけるジャパン・アズ・ナンバーワン』は信じてきた。これは日本にとって不快な目覚めだ」(後略)【11月7日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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そして今、中国は“アジアのナンバーワン国家”として認識されることを求めています。

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習氏は前任者よりもはるかに強硬な外交政策を打ち出した。一部のアナリストはこれを、東シナ海から米国を追い出し、日本を弱小国の地位に追い落とす試みとして解釈した。

「中国は他国を服従させる具体的な政策を考え出したわけではないが、指導部は間違いなく、中国はアジアのナンバーワン国家として認識されるべきだと考えている」。中国人民大学米国研究所の時殷弘所長はこう話す。

「実際問題としては、これは中国が日本より力があることを示さなければならないこと、そして米国政府にアジア地域における自国の優位性を認めてもらう必要があることを意味している」【同上】
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冒頭のG20議長国をめぐるエピソードも、こうした日中双方の状況を示すもののひとつでしょう。

日本を今後待ち受けているのは少子高齢化社会の進行、人口減少です。

今後中国によほどの大事が起きないかぎりは、日中の国力・影響力の差は、ますます大きなものとなるでしょう。
仮に共産党政権が崩壊するような大事・一時的混乱があったとしても、長期的に見れば流れはかわらないでしょう。

“日本にとって不快な目覚め”“不都合な真実”であったとしても、目を背けていては道を誤ります。
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アフガニスタン  今年末でNATO主導の国際部隊撤退  中国・ロシアの思惑・関心は?

2014-11-14 22:06:49 | アフガン・パキスタン

(アフガニスタンのケシ栽培農民(多分) このように公然とケシ栽培が行われていることが不思議ではりますが・・・・ “flickr”より By Phils Rusanganwa https://www.flickr.com/photos/116736269@N03/12951345215/in/photolist-kJt2Hr-hqJoyz-hqGXf2-hqHp9f-hmfmVM-pti89B-hqXkHS-pZo7qr-pH8dYR-pHbT8Z-hjcsbV-hjcs8i-hjdNye-hjcPDo-hjcP5h-hjdMDD-hjcPf7-hjcV3m-hjdNFi-hjcQ4b-hjdMA2-hjcVUm-hjcV7E-hjdND4-hjcQ6f-hjcPR7-hjcs14-hjcVv5-nZwsYx-hCZBDc-hBfCmr-hz4qQc-kfW4K4-hy45Fn-hz2Z5Q-huW9VK-pXspWY-pZFHxC-p3Lphb-pXsnLL-hjcPSu-hjdMFH-hjdNdp-hjcstt-hjcsua-hjdNqP-hjcPG9-hjcsvT-hjcsjk-hjdNur)

中国:タリバンとの交渉で、自国へのイスラム過激派流入を防止
アフガニスタンから北大西洋条約機構(NATO)が統括する国際治安支援部隊が撤退する今年末を控えて、今後のアフガニスタンの自立が模索されています。

10月31日には、中国・北京でアフガニスタン問題を討議するイスタンブール・プロセスの第4回外相会合が開催されました。

この会議で、中国はイスタンブール・プロセスへのタリバン招待を提案したと報じられています。

****中国がアフガン和平で「会議にタリバン代表を招待」提案か・・・報道官否定せず「アフガン人主導であるべきだ****
ロイター通信は11日付で、10月31日に北京市内で開催されたアフガニスタン問題を討議するイスタンブール・プロセスの第4回外相会合で中国は、関連する会合にタリバンとパキスタンの代表を招くことを提唱したと報道した。

中国政府・外交部の洪磊報道官は13日の記者会見で、同提唱の真偽を質問されたが否定せず、アフガンについて中国は「アフガン人の主導するアフガン人の持ち物」との考えを支持していると述べた。(中略)

(タリバンは)極端な政策を推進してきたことから、国際的には「タリバンは、まともに話し合える相手ではない」との見方も強い。

中国が、アフガン安定化のために14の域外加盟国、16の域外支援国、12の国際・地域組織が参加するイスタンブール・プロセスへのタリバン招待を提案したとすれば、相当に大胆な意見表明ということになる。

13日の記者会見で洪報道官が否定しなかったことから、「タリバン招待提案」は、正式なものではなかった可能性はあるが、言及そのものは事実と考えてよい。(中略)

ロイターは、中国が警戒するのは国際治安支援部隊撤退後、タリバン勢力が新疆ウイグル独立運動の支援を強化することと指摘。中国にとっては、タリバンを話し合いの席につかせることにで、自国にとって有利な「約束」をさせることを狙えることになる。

アフガニスタンは自国内でタリバン勢力を一掃できない原因について、パキスタンが自国内に逃げたタリバン勢力をかくまっているからだと非難している。

中国にはパキスタンに強い影響力を持つとの自負があり、パキスタンとタリバンの双方をイスタンブール・プロセスにおける議論のテーブルに就かせて、アフガニスタン地域の安定を実現し、自国への“問題波及”を抑えられるとの思惑があると考えられる。

ただし、西側諸国の多くが人道面で大きな問題があると認識するタリバンと交渉し、支配方法を容認することになれば、国際的に批判の声が高まる可能性がある。(後略)【11月14日 Searchina】
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中国は、新疆ウイグル自治区のイスラム教徒の治安悪化に神経をとがらせており、東トルキスタンイスラム運動が新疆での“テロ活動”の背後にいると主張しています。

東トルキスタンイスラム運動は“アフガニスタンのアルカイダやタリバンと共闘関係にあるとみられ、中国国内のメディアによると、同組織はウイグル人青年をアフガニスタンのキャンプに送り込み、テロ活動の訓練を施しているという。”【日本大百科全書】ということで、アフガニスタンからの国際部隊撤退後の混乱、イスラム過激派の台頭を懸念しています。

パキスタンは、アフガニスタンでのインドの影響力拡大を排除するためかねてよりタリバンを支援していると見られていますが、中国はそのパキスタンへの影響力を有しており、パキスタンを通じてタリバンの新疆ウイグル自治区への関与を封じ込めようという狙いと思われます。

人権無視で悪評が高いタリバンを交渉相手にすることについては、“タリバンは国家ではないので、平和五原則の適用対象になるわけではないが、発想の根底としては、「中国は、タリバンが採用してきた極端なイスラム主義政策を問題にしない。タリバン内部の問題だからだ。逆に、中国の国内問題についても、タリバンは関与すべきでない。そうすれば、互いに共存できる」といった考え方があると理解できる。”【11月14日 Searchina】と指摘されています。

中国に手出ししなければ、アフガニスタンで何をやっても関知しない・・・ということでしょうか。

中国らしい考え方ではありますが、それはともかく、タリバン勢力を一掃できておらず、今後の勢力拡大が懸念されている現状において、タリバンを交渉の席に着かせること自体は有意義なことと思われます。

おそらく、アフガニスタン政府が自力でタリバン拡大を抑え込むのは困難でしょう。

上記のような事情で中国もアフガニスタンの混乱を望んでいませんので、パキスタンを通じて停戦に向けて影響力を行使してくれるなら、歓迎すべき話でしょう。

なお、“タリバンとパキスタンの代表を招くことを”とありますが、パキスタンは当然に出席メンバーになっているのではないでしょうか?
イスタンブール・プロセス外相会合の次回は、2015年にパキスタンで開催されることになっています。

ロシアが語るアフガニスタン侵攻の教訓
アメリカなどのNATO、中国、パキスタンのほかに、アフガニスタンに強い利害を有するのがロシアです。

****ロシア アフガンへのヘリコプターの供給を完了****
ロシアは10月中に、アフガニスタン軍用の多目的ヘリコプターMI-17B-5の供給を完了した。「ロシア・ヘリコプター」社報道部が伝えた。

アフガンへのヘリコプター供給契約は「ロスオボロンエクスポルト(ロシア防衛兵器輸出)」社と米軍の間で、2011年に結ばれたもので、それによればアフガン軍は、ロシア連邦タタールスタンのカザンで製造されたヘリコプター合計63機を受け取った。

シリアでの内戦やアサド体制に対するロシア当局の公式的な立場を背景に、一連の米国の政治家達は、米国と「ロスオボロンエクスポルト」との協力に反対してきた。

しかし米国防総省は、彼らに対し、アフガン軍はロシアの武器を熟知しており、米国はパイロット再訓練のため追加的な出費をしなくてもすむと説明し、アフガン軍装備に関する自らのプラン遂行をあくまで擁護した。【11月5日 ロシアの声】
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“アフガン軍はロシアの武器を熟知しており”・・・・1979年にアフガニスタンに侵攻したソ連は、25年前の1989年に撤退するまでナジブラ政権を通じてアフガニスタンを支配してきました。

結局アフガニスタンをコントロールすることができず撤退を余儀なくされたソ連ですが、今回アメリカなどがタリバンを完全に封じ込めるには至らないまま撤退することをロシアがどのように見ているかは興味深いところです。

****ソ連、アフガン侵攻の教訓****
四半世紀前、10年におよぶソ連軍のアフガン駐屯が終了した。最後のソ連兵士がアフガンを後にしたのは1989年の今日、2月15日であった。

1979年末、ソビエト軍はアフガンに侵攻した。モスクワの皮算用では、軍事侵攻は非常に早期に終結するはずであった。アフガニスタンに血みどろの恐怖政治を敷いていたハフィズラ・アミンが除かれてから1ヶ月後には、アフガン軍がアフガンの安定を取り戻すだろう、とささやかれていた。

アフガンの多くの政治家たちが、アミンの独裁的手法でアフガンは内戦寸前に来ており、それだけはいかなる対価を払ってでも回避しなければならない、とモスクワを説得していた。

だからこそソビエト指導部は、すべてのプラスとマイナスを勘案した結果、リスクをとることを決めたのだ。(中略)1979年、ソビエト連邦は、自国の国際的地位に傷をつけるリスクを承知の上で、隣人国家を内戦から救うために、行動に出た。

計画は、外れていた。モスクワのリスキーな行動は西側に利用され、戦争は深刻化していった。アフガンの左翼勢力だけでなく、ソビエト兵士にも犠牲が出た。結果、アフガン戦争は10年にも及ぶこととなった。

雑誌「国家防衛」のイーゴリ・コロチェンコ編集長は次のように語る。

「アフガン侵攻は、ロシアの国益の観点からは、不可避であった。それに、多くのアフガン人が、ノスタルジーをこめて往時を思い出している。元アフガン軍高官でさえ、ソビエト連邦とソビエト軍のことを、一義的でない態度で評しているのを聞く。

それもそのはずだ。ロシアは本当に、誠実に、アフガンを助け、アフガンにより幸せな未来を建設しようとしたのだから。ロシアはトンネルをうがち、水路を設け、学校・病院を開き、産業を興した。そして、ソビエト兵士を引き上げながら、アフガン軍を訓練した。

そのアフガン兵らが、1991年末には、自国の治安を管理できたのは、われわれの教育のおかげなのだ。ナジブラ政権が崩壊したのは、モスクワに一大転変があり、もはやソビエトが物質的・技術的支援を施すことが出来なくなったときに、はじめて起こった。

そして、ナジブラの後にカブールの実権を握った者らが、果たしてアフガン市民の生活を良くしただろうか?」

翻って今日、アフガンからの出口を模索しているのは、ソビエトではない、米国である。

アフガニスタン人はいま、あの時と同じような課題に直面している。状況は、むろん、異なる。ナジブラの敵たちが受けたような支援を、いまのカブール指導部の敵対者たちは受けていない。

しかし、どちらにせよ、アフガン人は再び、主に自らの力によって生き、自立して隣国たちと関係を打ち立てることを学ばなければならなくなった。25年前の教訓が生き、いま、アフガン人たちがより良いものだけを選べることを、祈るばかりである。【2月15日 ロシアの声】
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ソ連がアフガニスタン侵攻に至った経緯、アフガニスタンに残した功績への評価は、西側の見方・評価とは大きく異なります。

賛同するかどうかは別として、立場が違えば異なる見方・考え方があることを理解しておくのは大事なことでしょう。
それにしても、戦前の日本のアジア諸国侵略についても日本国内において、上記のソ連国内のアフガニスタン侵攻に関する評価と似たような見方があり、近年主流となりつつあることは興味深いところです。

ロシアの関心事はアフガニスタンからの麻薬流入
ロシアは北カフカス地方のイスラム過激派の問題も抱えていますが、アフガニスタンとの関係で一番の関心事はアヘンの問題ではないでしょうか。

アフガニスタンにおけるケシ栽培・アヘン生産の問題は、だいぶ以前になりますが、2010年6月23日ブログ「“麻薬大国”アフガニスタン 社会を蝕む麻薬の害」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100623)でも取り上げたことがあります。

そのときも触れたように、ロシアはアフガニスタンから麻薬流入によって社会を蝕まれており、NATOの国際部隊がアフガニスタンでのケシ栽培を抑えられない(黙認している)ことに苛立っています。

“麻薬統制局によると、同国ではソ連崩壊後の20年間で麻薬消費量が20倍となり、麻薬常用者は200万人を超え、毎年8万人が新たに麻薬に手を出しているという。消費される麻薬の9割は、アフガン産ヘロインとみられている。”【2010年6月12日 毎日】

一方、ケシ栽培がアフガニスタン農民の生活を支えている現状にあっては、むやみに摘発するだけでは農民の反感を高め、ひいてはタリバン対策にマイナスになることから、欧米はケシ栽培摘発には消極的な対応をとっていると言われています。

“米国が「タリバンの資金源」と指摘するケシだが、アフガン政府によると、米英軍は今回の軍事作戦でケシ畑に目をつぶった。オバマ米政権は米軍増派に合わせ、南部カンダハルで次の作戦を予定している。現地では反米感情の悪化が作戦の障害となるのを避けるためケシ栽培が黙認されたと解釈されている。”【2010年4月16日 毎日】

麻薬汚染に苦しむロシアはこうしたアメリカなどの“弱腰対応”を批判しており、アフガニスタンでのケシ栽培の根絶を要求しています。

また、農業活動への資金援助を装いケシ栽培に対する大量資金が流入していること、アヘン生産に必要な物資が西側企業によって持ち込まれていることなどを批判しています。

そして今年、アフガニスタンのケシ栽培は過去最高となっています。

****アヘン原料のケシ栽培面積、アフガニスタンで過去最高****
国連薬物犯罪事務所(UNODC)は12日、アヘンやヘロインの原料となるケシの作付面積が、アフガニスタンで今年過去最高に達したと発表した。

UNODCの報告書によると、2014年のアフガニスタンのケシ作付面積は前年比7%増の22万4000ヘクタールとなっている。ヘロインの主原料であるアヘンの生産量は、前年比17%増の6400トンに達すると見込まれている。

アフガニスタンの旧支配勢力タリバンによる反政府活動で政情不安が続く地域を含め、同国南部と西部では、米国が約10年にわたってけん引してきた国際的な麻薬追放作戦の効果もむなしくケシ栽培が活気づいている。

米軍主導の国際部隊による攻撃などでタリバン政権が崩壊した1年後の02年には、アフガニスタンのケシ作付面積はわずか7万4000ヘクタールだった。しかしその後の数万人規模の外国軍の駐留にもかかわらず、現在、世界のアヘンの80%はアフガニスタンで生産されている。(中略)

今年初め、米国のジョン・ソプコアフガニスタン復興担当特別監査官は、NATO軍の大半が撤退した後のアフガニスタンについて「麻薬犯罪国家になりかねない」と懸念を表明していた。【11月12日 AFP】
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ケシ栽培が増加している背景には、農民たちが国際部隊撤退によって混乱が生じることを見越して、不確かな未来に対する保険として蓄財を試み、作付面積を増やしたのかもしれない・・・とも言われています。

ロシアは、「とにかくケシ栽培農地を潰せ!」というところでしょうが、そのあとの農民の生活を保証すべきアフガニスタン政府の施策が機能していないため、潰すに潰せないというのがこれまでの経緯でしょう。

ケシ栽培を抑制できるかどうかは、アフガニスタン政府の施策にかかっています。

中国にせよ、ロシアにせよ、アフガニスタンの混乱を望んでいないという点では今後に期待できます。
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シリア  混沌とした内戦が続く中で、アレッポ限定停戦案、市民生活を描くコメディー、男女同権法

2014-11-13 22:36:42 | 中東情勢

(砲弾で破壊された瓦礫が散乱するアレッポの反政府派支配地区で撮影される、市民生活を描いた子供だけによるコメディー「ウム・アブド・ハラビヤ」で主婦役を主演する9歳のラシャちゃん http://www.ecuavisa.com/articulo/noticias/internacionales/88454-video-satira-nina-sobre-guerra-siria

難民には厳しい冬が
シリア・イラクでは、政府軍、反政府「自由シリア軍」、アルカイダ系「ヌスラ戦線」、イスラム過激派「イスラム国」、その他イスラム過激派勢力、クルド人勢力、アメリカなど有志連合・・・・等々、様々な勢力が戦っており、誰が味方で、誰が敵かも判然としない混沌状態にあります。

避難民にとっては更に新たな強敵がこれから参戦してきます・・・冬の寒さです。

****シリア、イラク避難民の悲劇****
国連難民高等弁務官事務所は11日、シリア及びイラクの避難民の数(難民及び国内避難民)の数が1360万人に達したと発表した。

そのうちシリア国内避難民が720万人(前回の数字の650万人から大幅に増加した由)で国外難民が190万人。
一方イラクに関ししては、190万人が国内避難民で、国外難民が19万人の由。

同事務所では、これから冬に向かう季節で、これらの避難民は住む場所、食糧、水等の欠乏に悩んでおり、すくなくとも99万人が冬を過ごせるためには5850万ドルの資金が必要とされているとしている。(後略)【11月11日 野口雅昭氏 「中東の窓」】
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国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のこの発表に関するYouTube動画はhttp://www.youtube.com/watch?v=6U1RTQrRWucにあります。
1360万人・・・ほぼ東京都人口に匹敵します。
資金不足に加えて難民支援を難しくしているのは、難民が難民キャンプや滞在先を転々と移動していることだとUNHCR関係者は指摘しています。

部分停戦を呼びかける国連特使案にアサド大統領「検討に値する」】
そうしたなかにあって、デミストゥラ国連シリア担当特使が停戦案を提示し、アサド大統領が検討する用意があると表明しています。
もっとも、停戦案といっても、激戦が続く北部の大都市アレッポに限定した部分的なものです。

****シリア停戦、実現不透明 対「イスラム国」で国連提案****
シリアのアサド大統領は10日、デミストゥラ国連シリア担当特使と会談し、内戦の激戦地・北部アレッポに限定した特使提案の停戦案について、「治安回復の試みとして検討に値する」と述べた。

アレッポは首都ダマスカスに次ぐ大都市で交通の要衝。アサド政権軍は同地掌握へ攻勢をかけており、実現は不透明だ。

国連やトルコのメディアなどによると、過激派組織「イスラム国」は、侵攻を続けるシリア北部アインアルアラブ(クルド名コバニ)からアレッポに重点を移しつつある。デミストゥラ氏は、政権軍と反体制派が停戦して「イスラム国」への防戦を優先すべきだと呼びかけた形だ。

アレッポでは政権軍、反体制派、アルカイダ系武装組織「ヌスラ戦線」が三つどもえで戦闘を続けており、「イスラム国」の侵攻で戦闘激化は不可避だ。

英国を拠点とする反体制派NGO「シリア人権監視団」などによると、政権軍は8日夜から9日朝にかけて、アレッポ近郊の「イスラム国」支配地域を狙って殺傷力が高い「たる爆弾」を投下。子どもを含む21人が死亡したという。7日にはアレッポの反体制派が補給路とする地域をミサイルで攻撃したという。

米軍主導で進む「イスラム国」空爆は、アサド政権にとっては「渡りに船」。政権側は余裕ができた兵力を投入し、アレッポを包囲攻撃している。

一方、反体制派の中核となる「自由シリア軍」は、「戦闘経験に乏しい市民も多く、政権軍や『イスラム国』に比べると戦闘力は格段に劣る」(元政権軍中尉)状態だ。統一した指揮命令系統もない。

反体制派にとっては、アレッポで停戦すれば優勢な政権軍に敗北するおそれもあり、停戦案を受け入れることはできない。【11月12日 朝日】
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たとえアレッポに限定したものであっても停戦が実現すれば、今後の他地域への拡大も含めて、喜ばしいことですが、実現は難しいように思われます。

アサド大統領が直ちにのってきたということは、反政府勢力側はおそらくのってこないだろう・・・という話にもなります。

【「(FSAは)最初から米政府が望みを託せるような相手ではなかった」】
アレッポでの戦闘は、政府軍の“たる爆弾”空爆など、ここのところむしろ激化しており、“これまでも中東紛争等で停戦の可能性が出てくると、それまでに自軍の優勢を強化したいとして、戦闘が激化するのが常でした”【11月12日 野口雅昭氏 「中東の窓」】との指摘もあります。

シリアでの戦闘状態全般については、かねてより「イスラム国」とクルド人勢力の間で攻防戦が続いていたトルコ国境に近いシリア北部アインアルアラブ(クルド名コバニ)では、クルド自治政府の治安部隊ペシュメルガの支援も受けるクルド人勢力が態勢を持ち直しつつあるようですが、未だ「イスラム国」を駆逐するには至っていないようです。

上記【朝日】によれば、その「イスラム国」はコバニからアレッポに拠点を移しているとか。

ヨルダン国境付近では「ヌスラ戦線」が勢力を拡大しており、イスラム過激派の台頭を警戒するヨルダンが神経をとがらせています。

アメリカは「イスラム国」だけでなく、アルカイダ系「ヌスラ戦線」、更には、欧米へのテロを計画しているとされるイスラム過激派組織「ホラサン」などへの空爆を行っています。

混沌とした戦局のなかで一つ言えるのは、穏健派とされ欧米から支持される「自由シリア軍」が劣勢にあることです。(今に始まった話でもありませんが)

****アメリカが頼みにする自由シリア軍は死に体****
内戦が続くシリアでは、イスラム教スンニ派テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)やアルカイダ系のアルヌスラ戦線の勢力拡大により、欧米が支援する穏健な反体制派組織が急激に弱体化している。

アルヌスラ戦線は今月に入り、穏健な反体制派「自由シリア軍(FSA)」に組織的な攻撃を仕掛け、彼らの支配地域や武器の多くを奪った。

「FSAが死んだかって? FSAが生きていたことなんてなかった。最初から米政府が望みを託せるような相手ではなかった」と、イスラム過激派組織に詳しいノースイースタン大学のマックス・エイブラムズ助教は言う。

アメリカはFSAに資金援助や兵士の訓練などを提供してきた。だがFSAの兵士の中には、そうしたカネや武器を持ってアルヌスラなどの過激派にくら替えする者も少なくない。

さらにFSAはかつて、アサド政権に批判的な国民から最も支持された組織だったが、今では米軍との協力関係のせいで支持を失いつつある。米軍がISISのシリアの拠点を空爆したことが、図らずもアサド政権を助けたことになるからだ。

シリアではもう誰が敵で誰が味方か分からなくなっている。【11月18日号 Newsweek日本版】
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アメリカはいつまで「自由シリア軍(FSA)」によるアサド政権打倒という虚構にしがみついているつもりでしょうか?

アサド政権に影響力を行使できる形でこれと和し、政府軍が優位な地域での戦闘を鎮め、将来的に「イスラム国」や「ヌスラ戦線」といったイスラム過激派勢力を駆逐していく・・・というのが、シリアに平穏を取り戻す唯一の道だと思います。

もっとも、ただでさえアメリカ国内で批判の強いオバマ政権の中東戦略ですから、今さらアサド政権と手を結ぶというのは、政治的にはとれない選択でしょう。
「自由シリア軍」もアサド退陣がなければ、アメリカが何と言おうと絶対に政権側と停戦しないでしょう。

ただ、そのためにいつまでも内戦が続き、難民が溢れ、イスラム過激派が勢力を拡大していきます。

「自由シリア軍」への支援を減らして衰退するのを待ち、「イスラム国」等への空爆で結果的にアサド政権を支援するというのが現実的選択なのでしょうか。

18万人以上の犠牲を出した内戦の中で敢えてコメディー
激戦が続くアレッポでの市民生活を描いたコメディー、それも9歳少女主演のドラマが評判を呼んでいるそうです。

****9歳少女主演のシリア内戦コメディー、動画サイトで大ヒット****
9歳の少女が主演する、内戦下のシリア・アレッポの反体制派地区での日常生活をほろ苦いユーモアをこめて描いたコメディードラマが、動画共有サイトのユーチューブで話題だ。

一躍ネットのスターとなったラシャちゃん(9)は、コメディーショー『ウム・アブド・ハラビヤ』で、3年以上に及ぶ内戦によって荒廃したアレッポを舞台に連日の空爆や物資不足のなか家庭を切り盛りする主婦を演じている。

全30話のシリーズに出演するのは子どもだけ。ラシャちゃん演じる主婦ウム・アブドをはじめ、内戦下に暮らす近所の住民たちや戦闘員たちも全員、子どもが演じている。撮影は、かつてシリア経済の中心地として栄えたアレッポ市内で行われた。

 ■9歳が風刺するシリアの日常
主役の主婦ウム・アブドは、バッシャール・アサド大統領に対する不満をぶちまけるかと思えば、アサド政権打倒を掲げる反体制派の戦闘員らも容赦なく批判する。また、往々にして威圧的なシリアの社会規範を冷笑もする。

わずか9歳にしてラシャちゃんは、シリアコメディーの特徴である風刺精神を醸し出しており、ゴシップに明け暮れる典型的なシリア女性を完璧に演じきっている。

脚本は反体制を貫いており、アレッポの反体制派地区における日々の現実をうかがい知ることのできる初の番組となっている。

たとえば、あるエピソードでは、アレッポ市内のアサド政権側が掌握する地区に住む妹と電話中のウム・アブドが、政府の支配地域でも断水が日常的になりつつあると聞き「あんたも手で洗濯しているの?あんたたちみたいなアサド支持者は、甘やかされているんだとばかり思っていたわ」と皮肉を言う。

別のエピソードでは、反体制派戦闘員である息子の嫁を探している女性がウム・アブドの家を訪ねてくる。ウム・アブドは近隣住民の間では娘を反体制派にしか嫁がせないことで有名で、「娘婿たちは全員、自由シリア軍のメンバーなんですの」と自慢する。

嫁探し中の女性は「理想的だわ!うちの息子は狙撃の名手なんですのよ」と応じ、縁談はまとまるかに見えた。だが、ウム・アブドが持参金は米ドルか金塊でと言い出したことから、破談となってしまう。(後略)【11月11日 AFP】
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戦闘状態にあるアレッポでの暮らしがどんなものか想像できませんが、戦闘の一方で、ごく日常的な市民生活もあるようです。

クルド人エリアで男女同権法
文脈からはそれますが、もうひとつシリアでの興味深い話題が。
クルド人地域で「イスラム国」に対抗して、女性に男性と同等の権利を付与する法令が可決されたそうです。

****シリアのクルド人地域、男女平等法を可決 イスラム国に対抗****
住民の多数をクルド人が占めるシリアのハサカの自治体で、女性に男性と同等の権利を付与する法令が可決された。英国に拠点を置く非政府組織シリア人権監視団」によれば、イスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国(IS)」が成立させた女性に差別的な法律に対抗する動きだという。

クルド人が多数派を占めるシリアの周辺3地域は昨年、ジャジーラ地区として自治政府の樹立を宣言した。同政府は前週5日、交流サイトのフェイスブック上の公式ページで、男女が「公的・私的生活のすべての場面で」平等を享受することを定めた法令を発表した。また法令は女性に対するいわゆる「名誉殺人」や「暴力や差別」を禁じている。

労働の場でも給与を含め男女同権が打ち出された。また女性の結婚は18歳以上とされ、本人の同意なく嫁がせることを禁じている。

この他、一夫多妻制の禁止、裁判の際の証言者としての権利の男女平等、全面的な相続権の付与などが含まれている。自治政府内にはアラブ系住民もいるが、男女平等は同自治内のすべての民族に適用されるとしている。

イスラム教では、男性に扶養能力がある場合には妻を4人まで持つことができるとされている他、相続権や裁判の際の権利について女性には制限が課されている。シリア人権監視団によれば、シリアのクルド人女性にはこれまで一切相続権がなかった。【11月10日 AFP】
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もともと、クルド人の戦闘部隊には多くの女性が参加し、男性兵士を指揮したりもしていました。
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中国:「一人っ子政策」緩和も出生数はそれほど増えず  インド:避妊手術奨励のひずみ

2014-11-12 23:02:49 | 人口問題

(インド北部アリーガルで無料の避妊手術に登録する女性たち(資料写真、2011年)【11月12日 WSJ】)

中国:「多くの人が2人目の出産を選択しないのは、理性的な判断」】
中国は長年「一人っ子政策」によって人口抑制をおこなってきましたが、人口抑制に一定の目途が立ってきたこと、一方で人為的な人口抑制によって人口構成がいびつとなり、今後急速な高齢化が進展することなどを踏まえ、「一人っ子政策」の緩和も近年は行われきました。

昨年末には更に踏み込んで、“どちらか一方が一人っ子の夫婦に第2子出産を認めていく”緩和策が決定されています。

****一人っ子政策、来春から緩和 中国が決定 ****
中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会は28日、人口抑制のため導入していた「一人っ子政策」の緩和を決めた。

地方政府が2014年春から順次、どちらか一方が一人っ子の夫婦に第2子出産を認めていく。年間出生数は例年の1割超に当たる200万人ほど増えるとの見方が多く、いびつな人口構成の修正が動き出す。(中略)

中国は食糧危機を避けるために1979年に一人っ子政策を導入し、「4億人分の人口増を抑制できた」(担当官庁の国家衛生計画生育委員会)。結果として人口構成がゆがみ、国連の推計では65歳以上の比率が35年に19.5%と、現在の日本並みに高齢化する見通しとなっていた。

12年には、「世界の工場」を支えてきた労働年齢人口(15~59歳)が初めて減少に転じた。ゆがみを解消するため、11年までに全土で夫婦双方が一人っ子なら第2子を認めるまで制限を緩和してきたが、さらに踏み込むことにした。

ただ、張徳江全人代委員長は28日、「産児制限は我が国の基本的な国策であり、長期にわたって堅持せねばならない」と演説した。現在は約13億5000万人の総人口を33年ごろのピーク時でも15億人程度に抑える方針。第3子を許可しないなど一定の制限は当面は続く見通しだ。【2013年12月28日 日経】
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この緩和策によって、毎年の出生数が200万人増加すると見られていましたが、実際の伸びは遥かに低い数字にとどまるようです。

子育てに要する費用・負担が大きく、2人目を望まない夫婦が増えていることが背景にあり、そのあたりは少子化に悩む日本と同じです。

****少子高齢化にたまりかね、中国政府が「一人っ子政策」緩和・・・・それから1年、人々「この社会じゃ2人目無理****
中国政府・国家衛生和計画生育委員会(衛生と計画出産委員会)が、いわゆる「一人っ政策」を大幅に緩和してから約1年間が立つ。

しかし2人目の子を産む申請をした夫婦は70万組で、政府の当初予想だった200万組を大幅に下回る状態だ。生活や社会状況を考え、「尻ごみ」してしまう夫婦が多いという。中国新聞社が報じた。(中略)

政策転換に際して、国家衛生と計画出産委員会は、毎年の出生数が200万人増加するとの見方を示した。しかし実際には、2人目の子を希望する夫婦は70万組強にとどまっている。

2人目の子を設ける資格がある夫婦の多くが、生活や社会状況を考えて「尻ごみ」してしむという。

まず、養育費の高さだ。学費や病気やけがをした際の医療費。さらに男の子の場合、年ごろになれば親が住居や自動車などをそろえてやることが一般的だ。医療費について言えば、女性が妊娠してからの各種検査や出産費用なども高額だ。また、医療機関が混み合うなどで、肉体的な疲労も著しいという。

若い夫婦では、「子どもはいらない。夫婦2人だけの生活をしていく」という考えの人も増えつつあるという。

遼寧省社会科学院の張思寧研究員は、「若い人は家庭、仕事、社会の圧力をかなり強く受けている。生活費は高い。子どもの養育費はさらに高い」として、「多くの人が2人目の出産を選択しないのは、理性的な判断。社会の現状からして、2人目の選択は無理なのだ」と評した。

張研究員は、「長期にわたり、社会保障、収入の配分、戸籍制度、医療、衛生、教育についての(政府側の)手配と、大衆が現実に求める期待に大きな距離があった。そのため、人々は(2人目の子を設けた場合の)後顧の憂いを消し去ることが難しいのだ」と、事実上の政府批判をした。【11月11日 Searchina】
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インド:女性教育水準が高い南部では低い出生率
一方、中国と並ぶ人口大国であり、2030年までに中国の人口を抜くと見られているインドでは、中国のような強権的な「一人っ子政策」はとられていませんが、自治体が車や電化製品の贈呈と引き換えに避妊手術を促すような施策がとられています。

ただ、そこでは医療・衛生上の問題もおきているようです。

****インド 避妊手術受けた11人が死亡****
インド中部で、人口の増加を抑制するため政府が進めている避妊のための手術を受けた女性60人が吐き気などの症状を訴えて次々に病院に運ばれ、これまでに11人が死亡し、モディ首相は徹底した原因究明を指示しました。

インド中部のチャッティスガル州のビラスプールで合わせて60人の女性が10日から吐き気や腹部の痛みなどを訴えて複数の病院に運ばれ、これまでに11人が死亡しました。

地元の保健当局によりますと、60人はいずれも今月8日に同じ医療施設で避妊のための手術を受けたということです。

手術は、インド政府が人口の増加を抑制するため女性と男性、双方を対象に州政府を通じて行っており、保健省によりますと、ことし3月までの1年間に400万人近くが手術を受け、このうち98%が女性でした。

手術を受けた人は政府から現金が支給され、この地区ではそれぞれ1400ルピー、日本円でおよそ2600円を受け取っていたということです。

11人の女性が死亡した原因は明らかになっておらず、モディ首相は州政府に対し徹底した調査を指示しましたが、こうした手術は一度に多くの人に行われているため、専門家などは、以前から医療器具が適切に消毒されていないケースがあるのではないかと指摘していました。【11月12日 NHK】
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“昨年には、インド東部で集団不妊手術を受けた後、意識を失った状態の女性が多数、屋外に放置されている映像をニュース専門局が暴露し、自治体当局が激しい非難を浴びた。この時は女性たちが、患者を多数受け入れるための設備がない病院で手術を受けさせられていた。”【11月11日 AFP】といったこともありました。

今回の事件は、避妊手術を集中的に行う「避妊手術キャンプ」で起きたものです。
手術チームは女性83人に卵管を縛る腹腔鏡手術を行いましたが、1件の腹腔鏡手術にかかる時間は5分未満で、女性たちはその日に退院したそうです。

なぜ規則を大幅にオーバーする多数の患者を処置したのか、避妊手術を行う者を集めてくる業者や手術を行う医者への報奨金(医師は患者が手術を受けるごとに約2ドルを受け取る)が目的だったのか・・・という疑問も出されているようです。

“1年間に400万人近くが手術を受け、このうち98%が女性”ということについては、日本同様、妊娠・出産に関することは“男性は関知しない女性のこと”という意識もあるのでしょう。

インドは、レイプ事件多発にみるように、“男尊女卑”的な風潮が根強い国でもありますので。

もっとも、かつてインディラ・ガンジー首相の頃は、男性の不妊手術(いわゆるパイプカット)を政策的に推し進めたこともあったようですが、その強引さもあって、国民には不人気だったようです。

****70億人の地球****
・・・・1952年、英国から独立してわずか5年後、インド政府は世界に先駆けて人口抑制政策を打ち出した。以来、何度も野心的な目標を掲げてきたが、そのたびに成功とは言えない結果となった。

2000年には新たな政策を導入。2010年までに出生率を人口置換水準の2.1に下げることを目指したが、目標は達成できず、実現には少なくともあと10年はかかりそうだ。

国連の中位推計では、インドの人口は2050年までに16億人強に達するという。「2030年までに中国の人口を抜くのは避けられない」と、市民団体「インド人口財団」の元理事長A・R・ナンダは話す。

避妊手術は今のインドで主流の避妊法で、女性が受けるケースが圧倒的に多い。政府はこの現状を変えようとしている。男性が受ける精管結紮(けっさつ)(いわゆるパイプカット)はメスを使わず、女性が受ける卵管結紮よりも、はるかに手術代が安く、簡単な処置で済む。(中略)

(男性の避妊)手術は7分足らずで終わり、患者は歩いて病院を後にした。パイプカット手術を受けた男性には、労働者の1週間の賃金に当たる1100ルピー(約2000円)が政府から奨励金として支給される。

インド政府は、人口の増加を危ぶむ声が最も高まった1970年代にも、パイプカット手術を推進しようとした。
当時のインディラ・ガンジー首相とその息子サンジャイは、人口増は国家の非常事態に当たるとして、政府の権限で国民に避妊手術を受けさせようとしたのだ。

1976年から77年までに手術件数は3倍に増え、800万件以上に達したが、うち600万件余りがパイプカットだった。

数値目標を達成するため、当局の家族計画担当者にはノルマが割り当てられた。一部の州では、避妊手術を受けないと、住宅などの公的補助が受けられなくなった。警官が貧しい人々を捕まえて、強制的に避妊手術を受けさせるといったやり方までまかり通った。

こうした行き過ぎがあったために、家族計画そのもののイメージが悪くなった。「その後の歴代の政権はこの問題に触れたがらなくなりました」と国立人口安定化基金(NPSF)の元理事長シャイラジャ・チャンドラは話す。【ナショナル ジオグラフィック日本版 2011年1月号 】
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それでも中国ほど急速なペースではないものの、インドでも出生率は右肩下がりに低下しています。
合計特殊出生率でみると、1980年の4.68が2012年には2.51に低下しています。

ただ、その内実は州によって大きく異なるようです。

****北部では「産んで一人前****
・・・・南西部のケーララ州では、州政府が公衆衛生と教育に力を入れたおかげで、出生率は1.7に下がった。

専門家によると、この成功の鍵を握ったのは、女性の識字率だ。
ケーララ州では90%前後で、インドでは抜きん出て高い。学校に通うことで出産年齢が高まる傾向があるほか、教育を受けた女性は避妊にさほど抵抗がなく、避妊の知識や情報も得やすい。

ケーララ州の取り組みは成功例として各国から注目されているが、デリーのすぐ南の一帯、「ヒンディーベルト」と呼ばれる北部の貧しい諸州では広まっていない。

この一帯にあるラージャスターン州、マディヤ・プラデーシュ州、ビハール州、ウッタル・プラデーシュ州は今でも出生率が3~4で、この地域がインドの人口増加分の半分近くを占めている。

女性の半数以上が読み書きができず、多くは法律で婚姻が認められる18歳より前に結婚する。この地域では、女性は子供を産まなければ一人前に扱ってもらえない。しかも男児が歓迎されるため、男の子が生まれるまで次々に子供を産む。

ケーララ州の事例に代わるものとして、南部のアーンドラ・プラデーシュ州の取り組みが注目されている。

この州では、70年代に「避妊手術キャンプ」が導入された。学校などに仮の手術室を設け、そこで避妊手術を受けさせるというものだ。

その後は病院で実施されるようになったが、避妊手術を受ける人は今も多い。おかげで1990年代の初めからわずか10年間で、出生率は3前後から、2を下回るまでになった。ケーララ州とは対照的に、この州の女性の識字率は今でも50%程度にとどまっている。

NPSFの現理事長アマルジット・シンは、ヒンディーベルト地帯の4大州がアーンドラ・プラデーシュ州のやり方を採用すれば、4000万人の出生が避けられたとみる。病院での避妊手術を奨励する政策がインド全土に広がれば、2050年のインドの人口は16億人ではなく、14億人に抑えられるとシンは考えている。

一方、インド人口財団のアンダらはこのやり方に批判的で、当局の担当者にノルマを課して住民に避妊手術を受けさせたり、奨励金を支給したりするやり方に異議を唱えている。

必要なのは、特に農村部で医療の質を高めることであり、子供を何人つくるかは夫婦それぞれの選択に任せるべきだというのだ。

インドでも都市部では、多くの夫婦が欧米人と同様に子供の数を自分たちで決めている。

ニューデリーの国立応用経済研究所の上級研究員ソナルデ・デサイが、デリーで働く5人の女性を紹介してくれた。彼女たちは、子供を私立学校に通わせ、家庭教師をつけるなど稼ぎの大半を教育費に注ぎ込み、子供は一人か二人しか産まないと決めている。

デサイの研究チームがインド全土の4万1554世帯を対象に行った調査によれば、都市部では、一人っ子の家庭はまだ少数派ながら、確実に増えつつあるという。「親が子供の教育にどれだけ力を入れているか、驚くほどです。だから出生率が下がっているのかと、納得できました」(後略)【同上】
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日本や中国同様に、生活水準が向上し、子供の教育が重要視されてくると、その費用などを考えておのずと出生率は低下します。

また、ケーララ州の事例に見るように、女性の教育が出産傾向を変える大きなカギとなります。

****避妊よりも大切なこと****
人口財団のアルマス・アリは、インドが目指すべきは、出生率の低下や人口の減少ではないと語る。
「農村部の生活改善を目標にすべきです。いまだにインドの人口についての議論では、増え続ける数ばかりが問題にされます。人の暮らしに目を向けるべきなのに、それは二の次になっています」【同上】
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日本:「子供を産む母親の数」が減少
出生率を話題にしたついでに、日本の状況に簡単に触れると、日本の出生率は、1947年には4.54でしたが、その後一貫して低下を続け、1959年には人口維持に必要な水準を下回り(2.04)、2005年には1.26にまで下がりました。
その後、出生率はやや回復し、2013年には1.43となっています。

****出生数を増やす好機を逃した日本*****
・・・・こうした動きを見ていると、日本の出生率をめぐる状況は、最悪期を脱し、徐々に改善しつつあると考えたくなるが、必ずしもそうとは言えない。(中略)

合計特殊出生率は、ある一時点での年齢別の出生率を合計したものである。すると、晩産化の初期に子供の数が減ると、一時的に合計特殊出生率は低下し、その晩産化で子供が生まれるようになると、出生率が上昇するということが起きる。

ここ数年合計特殊出生率の回復がどの年齢層で生じているかを見ると、30代以上の年齢層での上昇が目立つ。ということは、ここ数年の日本の出生率の回復は、晩産化の影響だと考えられる。

要するに、これは、これからの出生率の回復をなんら保証するものではなく、より若い層での出生率回復がない限り、やがて出生率の上昇は止まるということである。(中略)

仮に、出生率の回復傾向が本物であったとしても、まだ問題は残る。出生率が回復しても「出生数」が同じように増えるとは限らないからだ。この点が、本稿で取り上げる「数」の議論なのだ。

改めて考えてみると、出生数は、「子供を産む母親の数」と「出生率」によって決まる。事実、ここ数年出生率は回復したのだが、出生数は2004年の111万人から2013年の103万人へと減少している。これは「子供を産む母親の数」が減ってきたからだ。

この点こそが、日本の人口を考える上での大問題なのである。女性の出産可能年齢人口(15~49歳)は、2010年時点で2720万人だったが、2030年には2054万人、2050年には1567万人へと減り続ける見込みである(国立社会保障・人口問題研究所、出生・死亡とも中位、以下同じ)。

すると、仮に今後ある程度出生率が回復したとしても、出生数は減り続けることになる。(後略)【6月11日 小峰隆夫氏 日経ビジネス】
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人口減少の速度を低下させるための、あるいは、人口が減少してもそれなりにやっていくための、基本的な発想の転換が必要とされているのではないでしょうか。
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メキシコ  学生失踪事件と高速鉄建設契約における疑惑で、高まるペニャニエト大統領への批判

2014-11-11 22:32:09 | ラテンアメリカ

(11月8日 メキシコ市 学生失踪事件へ抗議して、大統領宮殿に火を放つ群衆 “flickr”より By Miguel Ángel Azúa García https://www.flickr.com/photos/mikeazu/15126694723/in/photolist-pY6vcd-q12pg6-pW4ER9-q13kZK-p3Ggkr-p3Ci8y)

当初から懸念はされていたペニャニエト大統領の麻薬組織対応
メキシコでは強力な複数の麻薬組織が大きな力を持ち、カルデロン前政権は麻薬消費国アメリカとも協力して軍隊を動員してこれに力で対抗、麻薬組織と軍の衝突、および麻薬組織間の間の抗争による治安悪化で、推計7万〜11万人とも言われる死者を出す「麻薬戦争」と言われる社会状況があります。

こうした「麻薬戦争」による犠牲者の増大・治安の悪化を嫌気した国民世論を背景に、2012年7月に行われた大統領選挙では、野党・制度的革命党(PRI)のエンリケ・ペニャニエト前メキシコ州知事が、カルデロン大統領が行ってきた麻薬組織との全面対決を批判して勝利しました。

ただ、PRI はかつて71年間の長きにわたり与党の座にありましたが、政策の矛盾、党内の腐敗の深刻化などによって、2000年政権を失った政党で、体質的に腐敗が懸念される政党でもあります。

そうした事情もあって、麻薬組織との全面対決を回避する方針のペニャニエト大統領については、就任当初から麻薬組織と“取引”するのでは・・・との懸念も持たれていました。

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野党の2候補はともに、麻薬組織対策からの軍の撤退を主張。PRIは州横断で警察を強化するよう唱えている。長い与党経験を生かして治安を回復できるのでは、との期待もある。

ただPRIは昨年12月にも党首が汚職疑惑で辞任するなど、今も腐敗イメージがつきまとう。軍を撤退して麻薬組織と取引するのでは、との疑念も飛び交う。

米国は警戒感をあらわにする。米メディアによると、アリゾナ州で5月開かれた、米下院国土安全保障委員会の麻薬問題の小委員会公聴会で、米司法省幹部は「いかなる変化も極めてダメージが大きい」と言い、同州選出のクエール下院議員は「次のメキシコ大統領が麻薬組織に目をつぶって譲歩することのないよう望む」と声を強めた。【2012年6月4日 朝日】
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2012年7月2日「メキシコ 大統領選挙で治安悪化を批判する野党候補勝利 “麻薬戦争”の行方は?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120702)でも書いたように、麻薬組織が強い地域では警察は麻薬組織と癒着しているか、おそれをなして機能していないかのどちらかであり、そんな状況で軍を引っ込めて、警察の強化で本当に事態が改善するものだろうか・・・という感もありました。

そのペニャニエト大統領のもとで、武力中心の麻薬犯罪組織掃討・全面戦争から一般犯罪の取り締まりに治安対策の主軸を移しましたこともあって、確かに2014年上半期の殺人件数が、ペニャニエト大統領が就任した2012年の同期比で29%減少したそうです。

麻薬組織と市・警察の驚くべき癒着
しかし、麻薬組織の活動が縮小した訳でもなく、ペニャニエト大統領がこの“成果”を誇った直後にも、凶悪な犯罪が発生し、国民を震撼させているのは10月12日ブログ「メキシコ 「麻薬戦争」の現状 大統領は殺人事件減少を誇示しましたが・・・・」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141012)でも取り上げました。

特に、9月26日に起きた、急進的な抗議運動の中心でもある教員学校の学生57人がバスから連れ去られた事件は、
43人が殺害された模様であること、何よりも、市長夫人が麻薬組織創設者の兄弟で、市公安当局の指示で犯行がなされたことで、大量殺人は珍しくないメキシコであっても特異な事件となっています。

“癒着”と言うより、麻薬組織が市・警察を支配していたと言った方がい状況で、市長夫妻は事件後逃亡しました。
麻薬組織と共謀したとしてされる警察を軍が武装解除し、市警察官26人が取り調べを受けています。

捜査の過程で、大量の遺体があちこちで発見されますが、当該事件の被害者ではないことも明らかになりました。
ということは、当該事件以外にも、大量殺人が日常的に行われてきたということでもあります。

11月4日には、地元警察に学生らの襲撃を指示した疑いがもたれている市長とその妻の身柄が逃亡先で拘束されました。

また、麻薬組織メンバーが、警察から引き渡された学生を殺害したと供述していますが、まだ遺体は確認されていません。

****メキシコ学生失踪事件、3容疑者が学生40人以上の殺害を供述****
メキシコ南西部ゲレロ州イグアラ市で今年9月に6人が殺害され学生43人が行方不明になっている事件で、容疑者の麻薬組織のメンバー3人が、学生40人以上を殺害し、遺体を焼却したと供述した。ヘスス・ムリジョ・カラム連邦検察庁長官が7日、発表した。

3人の容疑者によると、学生たちは、麻薬組織「ゲレロス・ウニドス」とつながりのある警察から、イグアラとコクラの町の中間で3人に引き渡された後、殺害されたという。【11月8日 AFP】
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激しい抗議行動 その矛先は大統領にも
市長夫妻・警察と麻薬組織の一体化という事実、連れ去られた学生の発見ができないことに関し、事件発生当初から学生らの激しい抗議行動が繰り返されています。

***学生43人失踪に抗議、デモ隊が政府庁舎に放火 メキシコ****
学生43人が犯罪組織とつながりのある警察に襲撃され行方不明となる事件が起きたメキシコ南部ゲレロ州で13日、事件に抗議するデモ隊が暴徒化し、州政府庁舎の一部に放火した。(後略)【10月14日 AFP】
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****学生43人失踪に抗議、デモ隊が市庁舎を襲撃 メキシコ***
学生43人が犯罪組織とつながりのある警察に襲撃され行方不明となる事件が起きたメキシコ南部ゲレロ州イグアラで22日、事件に抗議するデモ隊が暴徒化し、市庁舎に放火した。【10月23日 AFP】
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失踪した学生たちの家族や友人、更には国民世論の批判を受けて、ゲレロ州のアンヘル・アギーレ州知事は辞職を表明しましたが、抗議行動は治まっていません。

****メキシコ学生失踪事件、教師が州知事公邸前で猛抗議****
メキシコ南西部ゲレロ州の州都チルパンシンゴで29日、学生43人が先月末から行方不明となっている事件に抗議する教師たちが暴徒化し、アンヘル・アギーレ州知事の公邸に押し入ろうとした。(後略)【10月30日 AFP】
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学生だけでなく、教師にも血の気の多い方が多いようです。

批判の矛先は、大統領にも向かっています。
“ペニャニエト大統領は、犯罪組織の壊滅と治安の回復を重要施策の1つに掲げていますが、警察や市当局と犯罪組織の癒着が疑われる事態に大統領に対する抗議の声も高まっています。”【11月11日 NHK】

****メキシコ学生失踪事件、デモ隊が大統領宮殿に放火****
メキシコ南部ゲレロ州で学生43人が行方不明になっている事件で、麻薬組織のメンバーが43人の殺害と遺体の処分について供述したことを受け、首都のメキシコ市では8日、同事件に抗議するデモ隊が大統領宮殿を襲撃し、火を放つなどした。【11月10日 AFP】
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****メキシコ学生失踪事件に抗議のデモ隊、空港への道路を一時封鎖****
メキシコ南西部ゲレロ州で今年9月から行方不明になっている学生43人を麻薬組織の構成員らが殺害したとみられる事件で、怒ったデモ隊が10日、同州のリゾート地アカプルコで警察と衝突し、さらに国際空港に通じる道路を封鎖した。【11月11日 AFP】
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高速鉄道建設を巡る新たな疑惑も浮上
この事件で、ペニャニエト大統領の政権は最大の危機に直面していますが、そのさなか、高速鉄道建設契約入札における中国企業との間での新たな疑惑が浮上しています。

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中国企業を中心とする企業連合が、37億ドル(約4250億円)規模とされる高速鉄道の建設契約を勝ち取っていたが、ペニャニエト大統領の妻が同連合に加盟しているメキシコ企業1社から邸宅を購入していたことが発覚した。

大統領は先週になって突然この契約を破棄した。大統領報道官は、大統領の妻は自分の資金で住宅を購入したもので、妻の住宅購入の報道と高速鉄道の契約破棄とは無関係だったと述べた。【11月11日 AFP】
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このメキシコ高速鉄道建設受注は、最近日本との競合も取りざたされることが多い中国高速鉄道の華々しい成果でもありました。
ただ、他国企業が入札をあきらめ、中国企業だけが入札するという変わった展開で実現したものです。

****中国の時速300km高速鉄道、初の輸出先はメキシコに決定か・・・中国鉄建主導のコンソーシアム****
・・・・・中国鉄建総裁助理で中国鉄建国際集団董事長(会長)の卓磊氏によると、このたびのメキシコにおける入札では、公示から締切まで2カ月しかなかった。そのため、他社は期限までに入札書を作成することができなかった。

一方で、中国側は中国国内に200人、メキシコで200人という入札書作成の「巨大チーム」を組織した。卓董事長は「私の職業人生で、これほど大規模な入札書作成チームを組んだのは初めて」と説明した。結果として、“ダークホース”である中国鉄建が主導する国際コンソーシアムだけが「浮上」することになったという。

同プロジェクトでは、入札の可能性があるとみられていた独シーメンスが見送ったなどで、中国だけが入札した。

中国は、トルコのアンカラとイスタンブルを結ぶ全長533キロメートルの高速鉄道のうち、第2期工事分の158キロメートル分を、トルコ企業とともに請け負った。ただし、同路線は最高時速が250キロメートルであり、最高時速300キロメートルの路線は、最終的に確定すれば「初輸出」となる。(後略)【11月4日 Searchina】
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“中国メディアの環球網は5日、海外メディアの目には中国高速鉄道が「中国の進歩」の縮図に映っているらしいとし、ドイツのメディアが「中国は今、模倣から革新の段階へと移行しつつあり、高速鉄道は中国の革新を代表する作品」と報じたことを紹介した。”【11月9日 Searchina】との報道に垣間見えるように、高速鉄道輸出は中国の強烈な自尊心を具現化したものでもあります。

ところが、メキシコ政府が突然、契約を撤回すると発表して騒ぎとなっています。

****メキシコ初の高速鉄道、中国勢の受注取り消し 入札やり直しへ****
メキシコ政府は6日、同国初の高速鉄道の建設をめぐり、3日前に中国企業を中心とする企業連合と締結した契約を撤回すると発表した。入札プロセスをめぐり懸念が生じたためという。

この高速鉄道計画は、首都メキシコ市と中部の工業都市ケレタロを長さ210キロの鉄道で結ぶもの。入札に唯一応じた中国鉄建とメキシコ企業4社による企業連合が3日、37億5000万ドル(約4300億円)で受注していた。

しかし、ヘラルド・ルイス・エスパルサ運輸相によると、エンリケ・ペニャニエト大統領が「3日の決定を無効とし、入札をやり直す」と決定したという。

受注を無効とした理由は、入札プロセスにおける「合法性と透明性に関するあらゆる疑義」を避けるためだと、ルイス・エスパルサ運輸相は説明した。運輸省の声明によると、大統領は「疑問と懸念を呈する世論が生じたことを受けて」契約撤回の決断を下したという。【11月7日 AFP】
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当然、中国側は怒っています。

****中国鉄建「法的措置も」 メキシコ高速鉄道取り消しで ****
メキシコ政府が入札のやり直しを決めた高速鉄道の建設プロジェクトについて、当初落札していた中国国有の鉄道建設大手、中国鉄建は9日、「必要なら法的措置を取り、企業の合法的な権益を守る」との声明を発表した。国営新華社が報じた。

同社は声明で「メキシコ政府の規定を終始順守した」とした上で、同国政府の決定は「異常で、驚きを禁じ得ない」と強調した。【11月9日 日経】
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当初の短期間に設定された入札期間も奇妙でしたし、突然の取り消しの原因とされた「疑問と懸念を呈する世論」とは一体何か・・不思議に思っていたのですが、どうやら先述のような大統領夫人の邸宅購入に関する疑惑や、以下のような資金提供疑惑のようです。

****メキシコの高速鉄道プロジェクトに汚職か、入札やり直しへ―中国メディア****
2014年11月9日、財新網によると、メキシコ参議院の野党議員は政府の進めている首都・メキシコシティとケレタロを結ぶ高速鉄道プロジェクトの入札に汚職が存在していた可能性があると問題を提起した。

同議員は4日に行われた参議院議会で、中国の鉄道建設大手・中国鉄建、車両メーカー・中国南車とともに応札したメキシコ企業の1つは、社長が1994年に退任したカルロス・サリナス・デ・ゴルタリ元大統領の親類であり、現在のエンリケ・ペーニャ・ニエト大統領にも政治資金を提供していると指摘。

汚職を直接示す明確な証拠はないものの、その疑いは十分あるとし、法に従って入札全体の透明性を確保すべきだと主張した。

エスパルサ通信・運輸相は7日、大統領が3日の入札結果を破棄、新たに入札をし直すことを決定したと発表。合法性と透明性を考慮してのことだとしている。【11月10日 Record China】
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“メキシコのペニャニエト大統領は10日から訪中し、中国の習近平国家主席と会談する予定だ。”【11月9日 日経】とのことですが、まだその関連報道は目にしていません。

あわてて契約を取り消した狼狽ぶりを見ると・・・・という感もありますが、もし疑惑が事実なら、麻薬組織と市長・警察の癒着を示す学生失踪事件と併せて、ペニャニエト大統領の進退が問われることにもなりそうです。
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