孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル  加速するユダヤ人入植活動 増加するパレスチナ人住宅の破壊

2022-01-21 22:58:57 | パレスチナ
(建設作業が進められている東エルサレムのユダヤ人入植地ラマトシュロモ(2022年1月5日撮影)【1月10日 AFP】)

【極右ベネット首相のもとで進むユダヤ人入植活動、パレスチナ人住宅破壊】
パレスチナでは依然として対立。衝突が繰り返されています。

****西岸でパレスチナ人58人が負傷 イスラエル軍と衝突****
イスラエル軍が占領するヨルダン川西岸の北部ナブルス近郊で25日、断続的にパレスチナ人とイスラエル軍兵士が衝突、パレスチナ通信によると、58人が負傷した。イスラエル紙ハーレツは軍兵士1人も軽傷を負ったと伝えた。
 
国際法違反とされるユダヤ人入植地の拡大が進む中、ナブルス近郊では緊張が高まり、入植者が16日に射殺され、パレスチナ人が逮捕される事件が発生。
 
25日には、入植者の大規模集会が計画され、軍はパレスチナ人集落の入り口を封鎖。反発したパレスチナ人が軍に投石し、パレスチナ通信によると、軍は催涙弾やゴム弾のほか実弾で応じた。【12月26日 共同】
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イスラエルが、アメリカ以外の国際批判にもかかわらず、占領するヨルダン川西岸地区や東エルサレムにおいて国際法的に「違法」とされるユダヤ人入植を進めていることは周知のところです。

イスラエル支持を基本とするアメリカですが、入植活動などへの対応は政権によって違いがあります。パレスチナ和平を困難にすると反対するオバマ元大統領は当時のイスラエル・ネタニヤフ首相と険悪な関係になりましたが、トランプ前大統領は同首相と「蜜月」にも。民主党バイデン政権は違法な入植活動には反対の姿勢です。

昨年7月には、国際法のみならず国内法的にも違法な入植地で、ユダヤ人入植者がイスラエル政府との合意のもとに退去しましたが、これは違法入植地の縮小ではなく、今後の国内的合法化に向けた一歩と見られています。

****国際法にも国内法にも「違反」 イスラエル入植地で波紋****
イスラエルが占領するパレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区で、イスラエルの法律でも「違法」とされる入植地が建設され、波紋を呼んでいる。

6月に発足したイスラエルのベネット新政権が容認すれば、入植地の建設に反対する米バイデン政権との間でもあつれきが生まれかねず、対応に注目が集まっている。

入植者の数、40万人以上
イスラエルは1967年の第3次中東戦争で勝利し、ヨルダン川西岸地区などを占領。パレスチナ自治区となった同地区などでの占領を現在も続ける。国際社会から国際法違反を指摘されながらも、ユダヤ人を移住させる入植活動を進めてきた。入植者は年々増え、ヨルダン川西岸地区には40万人以上が暮らす。
 
5月には、ヨルダン川西岸地区中部で新たにエビタール入植地が建設された。イスラエル政府の許可を得た入植地が多いなか、ここでの建設は無許可で行われており、イスラエルの国内法でも「違法」とされる。
 
近隣のパレスチナ人は強く反発。5月以降、抗議活動が続き、イスラエル当局との衝突でこれまでにパレスチナ人4人が死亡した。
 
エビタール入植地はエルサレムから車で約1時間。荒涼とした山の間を進むと、小高い丘の上に建設されていた。今月1日に訪れると、白いプレハブ住宅や共同の簡易トイレが並んでいた。五十数家族の数百人が暮らしているといい、子どもや若者の姿が目立つ。幼稚園も作られていた。
 
ベネット政権は6月30日、入植者側と合意を結び、入植者は7月2日までに退去した。合意によると、退去後はイスラエル軍が常駐し、住宅を残す。イスラエル政府は、土地の所有権を調査し、入植の適法性を判断するとしている。

「新たな章の始まり」
パレスチナ側はパレスチナ人の所有地だと主張しているが、イスラエル政府はこの主張を認めず、エビタール入植地を「合法化」する可能性が高いとの見方がある。入植者のハイム・ワルツァさん(49)は1日、「数カ月後に政府が合法化した後、ここに戻って街を作る」と語った。
 
今後、イスラエル政府が国内法でも違法とされる他の入植地の承認を進める可能性も指摘されている。エビタール入植地の建設を進めた右派団体幹部で、同地に住んでいたダニエラ・ワイス氏は、今回の合意について「新たな入植地の建設に道を開いた。これは新たな章の始まりだ」と語った。
 
極右政党から左派政党まで参加するベネット政権内には、早くも不協和音が響く。連立に参加する左派政党「メレツ」のモシ・ラズ氏は、今回の合意に強く反対。エビタール入植地の違法性を調査するよう、検事総長に申し立てた。ラズ氏は「法を犯す入植者と合意を結ぶべきではない。政府は違法な入植地を撤去するべきだ」と取材に語った。
 
イスラエルが入植地を拡大すれば、パレスチナとの関係がさらに冷え込むのは確実だ。
人権を重視する米バイデン政権との関係にもひびが入りかねない。米国務省のポーター副報道官は6月30日、「イスラエル法でさえ違法とされる入植地の建設など、一方的な措置を控えることが極めて重要だ」と指摘した。【2021年7月6日 朝日】
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イスラエルのベネット首相は極右政党ヤミナの党首を務め、ネタニヤフ氏以上の右派とされますが、政権は中道や左派、アラブ系政党を含む連立政権です。

****驚きあったイスラエルの連立政権 新しい首相は強硬的?****
(中略)極右政党ヤミナの党首を務める49歳。(中略)熱心なユダヤ教徒で、キッパと呼ばれるユダヤ教徒の小さな帽子をかぶる。「イスラエルで史上初めての宗教的な首相になる」と評される。
 
パレスチナ問題では強硬な態度で知られる。パレスチナ自治区をイスラエルに併合することを主張し、ユダヤ人による入植活動を推進してきた。将来パレスチナが独立国家を樹立する「2国家解決」にも反対する立場だ。
 
もともとネタニヤフ氏の主張と共通点が多く、右派リクードが野党だった時代に、党首だったネタニヤフ氏のもとで働いた経験もある。(中略)

「連立合意には『ナショナリズム』が一言も入らない」
3月の総選挙(定数120)でヤミナが得たのは7議席にとどまるが、ベネット氏が中道や左派、アラブ系政党「ラーム」を含む連立政権への参加を決断したことで、連立が実現した。
 
(中略)ベネット氏がパレスチナ問題などをめぐって強硬な姿勢を取れば、政権内で反発を生み、連立が崩壊する恐れもある。そのため、現状を変えるような強硬な政策には踏み込まないとの見方もでている。【2021年6月14日 朝日】
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“現状を変えるような強硬な政策には踏み込まない”かどうかはともかく、現状を加速させる動きにブレーキはかからないようです。

上記のようなユダヤ人入植活動が進められる一方で、パレスチナ人住宅のイスラエル当局による破壊も増加しています。

****イスラエル占領地で住宅破壊増加 人権団体集計、17年以降最多****
イスラエルの人権団体ベツェレムは4日、イスラエルが占領するヨルダン川西岸と東エルサレムで2021年にイスラエル当局に破壊されたパレスチナ人住宅が295戸に上り、895人が住宅を失ったと発表した。16年の366戸に次いで多く、17年以降最多となった。
 
イスラエル当局は「許可のない違法建築」として住宅破壊を正当化するが、パレスチナ人に建設許可を出すことはまれでベツェレムは「イスラエルのアパルトヘイト(人種隔離)政策がパレスチナの発展を妨げている」と非難した。
 
ベツェレムによると、17年には164戸、19年以降は毎年270戸以上が破壊された。【1月5日 共同】
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上記の流れに沿うパレスチナ人住宅取り壊しが先日も報じられています。

****イスラエル警察がパレスチナ人の住宅取り壊し、家族ら十数人を逮捕****
イスラエル占領下にある東エルサレムで19日、イスラエル警察がパレスチナ人家族が住む住宅を「違法建築」として取り壊し、家族や活動家ら十数人を逮捕した。

パレスチナ人の強制退去問題は5月、イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区を支配するイスラム組織ハマスの戦闘の原因になった経緯があり、双方の緊張が高まる可能性がある。
 
家を強制撤去されたのは東エルサレムのシェイクジャラ地区に住むマフムード・サルヒエさん。マフムードさんはこれまで、イスラエルが東エルサレムを占領した1967年より前にこの土地を購入し、住み続けていたと主張。

一方、エルサレム市当局は土地の権利は市側にあり、家族は「違法に住宅を建てた」と訴えており、裁判所も市の主張を認めていた。市当局はこの土地にパレスチナ人向けの特別支援学校や幼稚園を作る予定だという。
 
マフムードさんの自宅隣でガーデンショップを営み、17日に同じく店を強制撤去されたアムジャド・アルナチェさん(42)は「イスラエルの主張は信じられない。彼らは東エルサレムを自分たちのものにしたいだけだ」と語った。
 
欧州諸国は強制撤去を批判しており、エルサレムの英国領事館は17日、ツイッターで「占領地での強制撤去は例外的な状況を除き、国際人道法違反だ」と投稿、撤去を中止するよう求めていた。
 
パレスチナ自治政府のアッバス議長は19日、イスラエルの行為を「戦争犯罪」と主張。イスラエルの同盟国である米国に「イスラエルによるパレスチナ人への民族浄化政策」を中止させるように求めた。

一方、ハマスは同日、強制撤去について「パレスチナ人に対する残酷な戦争を激化させた」と非難する声明を出した。
 
イスラエルは67年の第3次中東戦争後、東エルサレムを占領、併合したが、国際社会は認めていない。一方、パレスチナ自治政府はパレスチナ人が多く住む東エルサレムを将来の独立国家の首都に想定している。【1月20日 毎日】
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イスラエル首相は任期4年で、前半の2年をベネット氏が務めた後、中道ラピド氏に交代する輪番制を取るとされていますので、もうしばらくは右派ベネット首相のペースで進みそうです。

なお、両者は全ての政策の拒否権を持つため、事実上の2トップ体制とも。右派ベネット首相が行う施策については、中道ラピド氏も拒否していないということでしょう。(拒否権行使は連立崩壊にもなりかねず、行使は難しい側面もあるかも)

なお、ベネット首相はシリア領占領地のゴラン高原でも入植活動を倍増させることを表明しています。

****イスラエル、ゴラン高原の入植者を倍増へ 首相が表明****
イスラエルのベネット首相は26日、占領地ゴラン高原への入植者を今後数年で倍増させる方針を示した。
ゴラン高原で開かれた閣議で表明した。「住みやすい場所」にするため、10億シェケル(約370億円)を投資する計画も明らかにした。

この中には新たに2つの入植地を設け、住宅数千棟を建設する費用も含まれているという。(中略)現地のメディアによると、閣議では全会一致で計画が承認された。

ゴラン高原は国際法と国連安全保障理事会(UNSC)決議により、イスラエルに占領されたシリア領とみなされている。約5万3000人の住民はイスラエルの入植者とシリア系のイスラム教ドゥルーズ派がほぼ半々で、少数の同アラウィ派も含まれている。

2019年にはトランプ前米大統領が米国の従来の立場を覆し、ゴラン高原におけるイスラエルの主権を承認。当時のネタニヤフ首相はこれを受け、「トランプ高原」という名の新たな入植地を設ける構想を打ち出した。この土地には今も、看板だけが立っている。

シリア政府は27日、イスラエルの発表を強く非難した。同国の外務省は国営シリア・アラブ通信(SANA)を通し、「政府はゴラン高原でイスラエルの占領に抵抗するシリア市民への永続的で強力な支援を確認する」との声明を出した。【12月28日 CNN】
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【アッバス議長、11年ぶりにイスラエル訪問 ガンツ国防相と会談】
国内的には“現状が加速される”ような状態ですが、パレスチナ自治政府との関係では、昨年末にこれまでにない動きも。

****パレスチナ議長と会談=イスラエル国防相、自宅に招く****
イスラエルのガンツ国防相は28日夜、パレスチナ自治政府のアッバス議長と会談した。イスラエルのメディアによると、ガンツ氏がイスラエル中部ロシュハアインの自宅にアッバス氏を招待した。
 
ガンツ氏はツイッターで会談が行われたことを確認し、「経済や市民生活に関する措置」について協議したと表明。「治安協力の深化や、テロ、暴力の阻止が重要だ」と強調した。イスラエルの占領下にあるヨルダン川西岸で繰り返されるユダヤ人入植者とパレスチナ住民の衝突についても、意見交換が行われたもようだ。
 
両者による会談は、ガンツ氏が西岸のパレスチナ自治区ラマラを訪れた8月下旬以来。アッバス氏がイスラエル側を訪問したのは、エルサレムでペレス元大統領の葬儀に参列した2016年以来とみられる。
 
イスラエルでは極右政党を率いるベネット首相が、パレスチナとの2国家共存を前提とする和平に反対の立場を取る。和平交渉再開の見通しが立たない中、占領地での個別の問題に対処するため、政権内「ハト派」のガンツ氏がパレスチナ指導部との信頼醸成を進めている。【12月29日 時事】 
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****アッバス議長、11年ぶりにイスラエル訪問 国防相と会談 連携強化****
両氏の会談は8月末にパレスチナ自治区で実施して以来。イスラエルのベネット政権はバイデン米政権の意向を受け、今夏からパレスチナへの経済支援を検討しており、一連の会談はその一環とみられる。

地元メディアによると、イスラエル側は今後、パレスチナ人数千人に市民権を供与するほか、自治政府に3200万ドル(約37億円)を融資する。
 
今月に入り、ヨルダン川西岸ではパレスチナ人とユダヤ人入植者の衝突が相次いでおり、ガンツ、アッバス両氏は、暴力の抑止に努めることでも一致した。和平交渉を巡っては、パレスチナ側は政治的解決の重要性を議論したと説明しているが、イスラエル側は言及していない。【12月29日 毎日】
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ガンツ氏はネタニヤフ前首相やベネット首相に比べると「中道」寄りともされますが、イスラエルの対パレスチナ政策においては「中道」も「右派」もない、みな同じ・・・という指摘も。

アッバス議長に関しては、イスラエルとの協議はいいけど、自治政府の選挙はどうするんだ・・・という話も。

【アメリカ・イスラエルではイスラエル批判は「反ユダヤ主義」扱い】
個人的なことで言えば、パレスチナ側にも深刻な問題が多々ありますが、上記のようなイスラエルの強引な入植政策、衝突時の「非対称性」(投石に対する実弾 ロケット弾に対する大規模空爆 数名被害に対する子供を含む百名単位の被害者)などを目にすると、ついついイスラエルに対し厳しい見方にもなってしまいす。

一方、イスラエル支持のアメリカでは、イスラエル批判は「反ユダヤ主義」のレッテルを貼られることも。
その渦中にあるのが映画「ハリーポッター」で売れっ子女優になったエマ・ワトソン。

****エマ・ワトソン、パレスチナをサポートする投稿で「反ユダヤ主義者」と批判される****
エマ・ワトソン氏の投稿した1枚の写真が、反発と賛同を呼んでいる。
大きな反応を引き起こしたのは、ワトソン氏のInstagramに1月3日に掲載された写真だ。

これは、2021年5月にガザ地区でイスラエルとパレスチナの衝突が発生した際に行われた、パレスチナをサポートする抗議デモの写真。この時の紛争では、ガザ地区で子どもを含む少なくとも243人が犠牲になった。

写真は元々アクティビストたちの団体「バッド・アクティビスト・コレクティブ」が投稿したもので「Solidarity is a verb(団結は動詞だ)」というメッセージが書かれている。

ワトソン氏は写真の再投稿に、フェミニスト作家で学者のサラ・アーメッド氏の次の言葉を添えている。
「団結するとき、私たちの苦しみがすべて同じ苦しみであるわけではありません。痛みが同じ痛みであるわけではありません。希望が同じ未来のためのものであるわけではありません」
「団結は献身と労力を伴います。そしてたとえ同じ気持ち、同じ生活、同じ体を共有していなくても、同じ土台で生きているという認識を伴います」

多くの賛同や感謝と強い批判
パレスチナをサポートするワトソン氏の投稿にはたくさんのいいね!や11万を超えるコメントが寄せられている。
その多くがパレスチナの旗やハートの絵文字や、「声を上げてくれてありがとう」という感謝のコメントである一方で、一部のイスラエル高官はワトソン氏の投稿に強く反発した。

イスラエル国連大使のギラド・エルダン氏は、ワトソン氏が出演した「ハリー・ポッター」シリーズを引き合いに出し、「ハリー・ポッターのようなフィクションは、現実では起きない。もし起きるのであれば、魔法でハマス(女性を抑圧しイスラエルの壊滅を目論んでいる)とパレスチナ自治政府(テロをサポートしている)の害悪を取り除くだろう。そうなって欲しいものだ!」とツイートした。

さらに、イスラエルの元国連大使ダニー・ダノン氏も、「ハリー・ポッター」シリーズに登場する魔法界のスポーツ「クィディッチ」にちなみ、「反ユダヤ主義者のグリフィンドールから10ポイント」とコメントしている。

一方で、ワトソン氏のパレスチナへのサポート表明を「反ユダヤ主義」扱いすることへの、批判も起きている。
アメリカの政治活動家リア・グリーンバーグ氏は、投稿を引用して「皮肉で不誠実な方法で反ユダヤ主義を武器にしてパレスチナの人々のための団結をシャットダウンさせようとする、完璧なデモンストレーション」とツイート。

また、イギリスの元閣僚のサイーダ・ワルシ氏は「パレスチナに対して団結を示すことは、反ユダヤ主義じゃない」「パレスチナに対するいかなるサポート抑えつけようとするこういった試みは決して受け入れられるべきではない」と投稿を問題視している。

声を上げ続けてきたワトソン
「ハリー・ポッター」シリーズのハーマイオニー・グレンジャー役で知られるワトソン氏は、俳優として活動しながら、女性の権利や気候変動、持続可能性など様々なアクティビズムに積極的に関わってきた。(後略)【1月5日 ハフポスト日本版】
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中国  中国独自の人権意識のもと、北京五輪にも厳しい「管理・統制」

2022-01-20 23:05:26 | 中国
新型コロナ感染者が立ち寄ったということで突然封鎖されたデパートで、孫と離れ離れになった女性「早く扉を開けて!私の孫が・・・」 SNS映像


一方、政府側は、閉鎖を終えて出てくるにこやかな客に花や記念品を配る関係者の様子を「心温まる55時間」として紹介

【中国メディアは「党の喉と舌」 報道管理の実態】
2月の北京オリンピック、更には習近平体制継続を決める秋の党大会を控えて、中国がなりふり構わぬ姿勢で「ゼロコロナ」を死守し、それに伴って多くの「弊害」も出ていることが連日報道されています。

下記もそうした報道の一つですが、報道管理という中國政治の「怖い面」がうかがえる内容にも思われます。

****上海ユニクロで客がいるのに“封鎖”北京五輪“一般チケ”販売中止で国内から不満も****
開幕まで3週間を切った北京オリンピック。コロナを巡る情勢が厳しいとしてチケットの一般販売はしないことを発表しましたが、国内からは不満の声も上がっています。  

上海のユニクロで撮影された、まさかの映像。  
買い物客:「まさか!おしまいだ!ちょっと、ついでにユニクロに寄っただけなのに…。店内に入って2分も経たないうちに、もう出られなくなった!」  
入り口は閉められ、テーブルの上には食料も。床を見ると、寝袋で睡眠を取っている人も。  

一体、何が起こっているのか。  ゼロコロナ政策を行う中国。13日、店内で陽性の疑いのある人物が発見されたとして、店舗ごとおよそ20時間閉鎖し、店内にいた買い物客、全員のPCR検査を行いました。  

このところ、各地のデパートや商業施設などで同じような事態が起こっているそうです。  閉鎖されたデパートの中には離れ離れになった小さな子どもの姿も。  

一方、同じデパートの話ですが、政府側は「心温まる55時間」として全く違う世界観でこのニュースを紹介。  閉じ込めから解放された人々がデパートの出口付近で盛大に出迎えられ、記念品や花束を渡されている様子も。(中略)

また、開幕まで3週間を切った北京オリンピックの大会組織委員会は「新型コロナを巡る情勢が厳しい」として、観戦チケットの一般販売は行わないことを発表しました。  しかし…。  

チケットの販売は中止されましたが、「無観客」ではありません。ある中国の国有企業に配られた「招待状」です。実は水面下では、こうした企業などへの観戦枠の割り当てが進められています。  

「特定の人だけ」に観戦を認める方針に当然、国内からは不満の声も。  中国のネットの声:「自分の国で開催されるのに観られない。スタジアムに行けるのは政府と関係のある人だけだ」「政府とパイプのある人だけオリンピックを見られるのか?」  

政府批判にもつながりかねない状況ですが、一体なぜ、観戦枠の特例を認めるのでしょうか。  

中国総局長・千々岩森生記者:「『国民の不満』というリスクはありつつも、中国政府には、事前に選んだ観客だけを入れることで、『オリンピック全体をコントロールしたい』『管理しやすくしたい』という狙いも見え隠れします」【1月18日 テレ朝news】
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冒頭2枚の画像  有無を言わせず突然閉鎖し、家族が離れ離れになるのも厭わない・・・というだけで、十二分に衝撃的ですが、同じデパートの出来事が政府にによって「心温まる55時間」として紹介される怖さ。

中国の政府系メディアは共産党のプロパガンダを担う「党の喉と舌」ですから当然と言えば当然ですが、国家権力による「管理」の実態、「中国独自の民主」の実態、報道の自由の重要さを教えてくれるます。

国民の生活すべて、政治はもちろん社会・経済の全てを、国家・党がその価値観に沿って「管理・統制」するというのが中国政治の基本であり、上記のような出来事も、五輪観客を「招待者」に限るという発想も、あるいは最近話題になっている文革を連想させるようなもろもろの社会・経済統制の強化も、すべてその基本の延長上にあるものでしょう。

そしてそうした「管理・統制」に異を唱える者、国家・党の価値観に沿わない者は排除・拘束され、場合によっては収容施設や精神科病棟に送られる。そうした「管理・統制」に従う限りにおいて個人の豊かさの追及が認められるというのが「中国独自の人権」でもあります。

【広がりを書く「外交的ボイコット」 欧米企業に対する五輪スポンサー撤回の説得も失敗】
北京オリンピックに関しては、そうした中国の人権の在り様に対する抗議から「政治的ボイコット」の動きもあります。しかし、アメリカ、イギリス、カナダなどが表明済みで、日本も政府代表団の派遣見送りを決めているものの、中国との関係を重視する立場もあって、そう大きな広がりにはならないようです。

****デンマーク、オランダも北京五輪を外交ボイコット****
2月に行われる北京冬季五輪について14日、デンマーク、オランダ両政府がそれぞれ、外交団を派遣しない方針を発表した。ロイター通信が伝えた。

デンマークのコフォズ外相は「われわれは、中国の人権状況を懸念している。政府として五輪に出席しないことを決めた」と述べた。オランダでは、外務省報道官が「中国の新型コロナウイルス対策で、現地での行動が極めて制限される」ことが理由だとしたうえで、中国の人権状況に対する政府の懸念を示した。

北京五輪への対応をめぐり、欧州連合(EU)は13、14日の非公式外相会合で一致した立場をとることができなかった。このため、オランダ、デンマーク各政府は、単独で方針発表を決めたとみられる。【1月15日 産経】
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「外交的ボイコット」が広がりを欠くなか、人権活動家による欧米企業に対するスポンサー撤回の働きかけも失敗しています。

****人権派の「説得」失敗か、世界の有名企業が北京五輪のスポンサー撤回を拒否―米華字メディア****
2022年1月19日、米華字メディア・多維新聞は、北京五輪・パラリンピックのスポンサー企業に対する人権派の「説得」が失敗に終わりそうだと報じた。

記事は、米紙ワシントン・ポストの19日付報道を引用。2月4日に始まる北京五輪、3月4日に始まる北京パラリンピックに向けて、一部の人権活動家がこの2年ほどの間、米国をはじめとする西側企業に対して大会スポンサーからの降板や中継取りやめを呼びかけるとともに、香港、新疆、チベットで弾圧を行っているとして中国当局を非難してきたと紹介する一方で、人権活動家が「欧米企業は北京五輪との取引履行をやめようとせず、中国による人権侵害に対して沈黙している」と語り、スポンサー企業への説得が奏功していないとの見解を示したことを伝えた。

その上で、多くのスポンサーにとって中国は非常に大きな市場の一つで、コカ・コーラ、P&G、Visa、ブリヂストンなどのスポンサーは中国の人権問題を回避しようとしており、1932年以降五輪の公式タイマーであり続けているオメガは「われわれのスポーツ事業の促進を妨げるため、一部の政治問題には干渉しない」というポリシーを定めているという同紙の報道を紹介した。

また、北京五輪に米国の外交官は出席しないものの米国選手は参加することから、米放送局NBCは北京五輪の放送権を放棄していないことにも言及。NBCが「北京五輪放送期間の広告販売は好調で、ほぼ売り切れ状態だ」とコメントしたことを伝えている。【1月20日 レコードチャイナ】
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このあたりが「現実」です。

【五輪での選手の発言への厳しい「統制・管理」も 「沈黙は共謀」ではあるものの、身の安全優先】
一方、開幕間近になって新型コロナ以外で表面化している問題は、参加選手らによる中国の人権状況への発言を抑え込もうとする動きです。

中国当局は外国人選手に対しても「管理・統制」に従うように求めており、国際人権団体も不用意な発言は重大な危険を伴うことを警告しています。

****【北京冬季五輪】 選手が人権問題で発言なら処罰も 組織委が警告****
北京冬季オリンピックの大会組織委員会は19日、オリンピック精神や中国のルールに反する言動をした選手について、処罰する方針を明らかにした。

大会組織委員会の国際関係部局の副責任者ヤン・シュウ氏は、「オリンピック精神に沿った表現は、いかなるものも間違いなく保護される。オリンピック精神に反した行動や発言、特に中国の法律や規制に違反するものは、いかなるものも特定の処罰の対象となる」と述べた。

処罰としては、選手の参加資格の剥奪が考えうるとした。

中国は、少数民族ウイグル族など主にイスラム教徒らを集団虐殺していると非難されている。中国はこの疑惑を繰り返し否定している。

香港の民主化運動や反体制的な言論への弾圧を強めているとの批判も出ている。中国は内政問題だと反発している。
イギリス、アメリカ、オーストラリア、カナダ、日本などは、中国での人権侵害が疑われることから、北京冬季大会に政府関係者を派遣しない外交ボイコットを表明している。

組織委が処罰方針を示す前には、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が記者会見を開き、北京冬季大会で選手が意見表明をすることの危険性について注意を呼びかけた。(中略)

東京五輪では緩和
国際オリンピック委員会(IOC)は、組織委の処罰の方針について問われると、五輪憲章第50条の2について説明した。同項目は、競技や大会の中立性の保護について規定している。

IOCは、「大会は五輪憲章に基づいて運営される。北京2022大会でも、過去のどの大会とも同様に、五輪憲章が適用される」とした。

昨夏の東京オリンピックでは、IOCは抗議活動の禁止を緩和。記者会見で「自分の意見を表明」することを認めた。だが、表彰台の上で政治的デモ行為をすることは引き続き禁止した。

「沈黙は共謀」
世界中のスポーツで「前向きな変化」が起こることを目指す選手中心の団体「グローバル・アスリート」は、自国に戻るまで抗議をがまんするよう求められるのは「ばかげている」と主張。

ロブ・キーラー事務局長は、「IOCは、声を上げると決心した選手全員を守ると表明していない。沈黙は共謀であり、だからこそ私たちは懸念している」と述べた。

英オリンピック委員会のアンディ・アンソン最高経営責任者は先週、選手たちが「分別をもつ」必要があるとBBCスポーツに話した。そして、個人の意見表明を止めることはないが、発言について相談してほしいと述べた。

北京冬季オリンピックは来月4日、パラリンピックは3月4日に開幕する。【1月20日 BBC】
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国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)の選手へ向けた注意喚起については、以下のようにも。

****北京五輪で人権問題巡る発言自粛を、選手に専門家が警告****
人権団体の専門家らは18日、来月の北京冬季五輪に参加する選手に対し、身の安全のために中国国内にいる間は人権問題について語らないよう警告した。非営利の国際人権組織であるヒューマン・ライツ・ウォッチが主催したセミナーで語った。

人権団体はかねてから、中国政府によるウイグル族などイスラム系少数民族の扱いを問題視し、国際オリンピック委員会(IOC)が中国を五輪開催地に選定したことを批判してきた。米国は中国のウイグル族への弾圧をジェノサイド(民族大量虐殺)と見なして非難しているが、中国は人権侵害を否定している。

国際的なアスリートらによる団体「グローバル・アスリート」の代表であるロブ・ケーラー氏はセミナーで、「選手はほとんど守られないだろう。沈黙は共犯にもなるが、参加選手には何も語らないことを勧める。彼らには五輪で競技をし、帰国した際に発言してほしい」と語った。

オリンピック憲章第50条は、競技会場などでの政治的、宗教的、人種的な宣伝活動を禁じている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの研究員、Yaqiu Wang氏は「中国の犯罪法は極めて曖昧で、人々の自由な言論を取り締まるために使えてしまう。けんかを売ったり、トラブルを招いただけで起訴されることがある。平和的で批判的な意見と見なせるあらゆるものが犯罪とされている」と述べた。

クロスカントリースキーの元米国代表選手、ノア・ホフマン氏は、米国の五輪代表チームは安全のため人権関連の質問を受けないことになっていると指摘。本来、選手が極めて重要だと考える問題について発言を控えさせる必要はないべきだとした上で、「中国当局から起訴されるだけでなくIOCからも処分される恐れがあるため、北京五輪の参加選手は沈黙を守ってほしい」と語った。【1月19日 ロイター】
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“ディレクターのミンキー・ワーデン氏は、「歴史を通して、アスリートは強力に変化を推し進めてきた。しかし中国では、アスリートは監視され、発言と抗議の権利は奪い取られる」と説明。選手が自らの安全を考慮しなくてはならない状況は、現代のオリンピックでは前例がないと述べた。”【1月20日 BBC】とも。

アメリカ選手の人種差別への抗議など、選手の政治的意思表示がいろいろな問題を惹起した“前例”がない訳ではありませんが、中国政府によって厳しく「管理・統制」される北京オリンピックにあっては、格段に状況が厳しくなりますし、場合によっては選手の安全が保証できないことも・・・。
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ウクライナ問題でNATO東方拡大停止を求めるロシア 協議は膠着 高まるロシア軍事進攻への警戒感

2022-01-19 23:40:12 | 欧州情勢
(【1月12日 朝日】 ロシアはウクライナ北方のベラルーシにも軍事演習として部隊を送ります)

【膠着状態のロシアとの協議】
NATO東方拡大停止を求めるロシアが大規模な部隊を国境地域に集結させて軍事進攻の可能性も見せ、これに対しアメリカが「もしロシアがウクライナに軍事進攻すればロシアに重大な代償を負わせる」と牽制するなど、緊張が高まっているウクライナ情勢については、アメリカとロシア、NATOとロシア、欧州安保協力機構(OSCE)という各種のレベルで連日の協議が行われましたが、互いの主張の溝は埋まらず膠着状態になっています。

****米ロ主張、平行線たどる ウクライナ情勢、継続協議へ****
ウクライナ国境付近でのロシア軍の増強で緊張が高まる中、米国とロシアの代表団が10日、スイス・ジュネーブで協議した。

部隊撤退を求める米国に対し、ロシアは米側が拒む北大西洋条約機構(NATO)の拡大停止などを実現するよう要求。主張は平行線をたどったままで、さらに協議が続けられることになった。
 
協議ではロシア側がウクライナを攻撃する意図を否定した。ただ10万人規模とされる国境付近のロシア軍部隊について、米国のシャーマン国務副長官が協議終了後、記者団に「攻撃の意図がないことは兵力を引き揚げることで証明できる」と述べたのに対し、別に会見したロシアのリャプコフ外務次官は「我が国の領土内で活動しており、状況悪化の懸念はない」と従来の見解を繰り返した。
 
協議は、ウクライナのNATO加盟を認めないことや、東欧に配備された部隊や兵器の撤去を求めるロシアの要求を受けて開かれた。シャーマン氏は会見で改めてNATO拡大の停止を拒否したと述べた。
 
一方で、米側はトランプ前政権が中距離核戦力(INF)全廃条約から撤退したことで再配備の懸念が高まるミサイル問題や、ロシア国境付近での軍事演習の制限では議論に応じる構えを示した。シャーマン氏は「ロシアが緊張緩和への具体的な動きをとれば、進展が得られる」とも述べた。
 
ただ、ロシア側はNATOの拡大停止を「絶対条件」とする姿勢を崩していない。リャプコフ氏はウクライナとジョージアを「将来の加盟国」とした2008年のNATO首脳会議の決議が「次の6月の首脳会議で撤回されることを望む」と述べた。(後略)【1月12日 朝日】
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****NATO、ロシア要求を拒絶し協議は終了 2年半ぶり理事会****
緊迫するウクライナ情勢を巡り、北大西洋条約機構(NATO)とロシアは12日、ブリュッセルで2年半ぶりに理事会を開催。ロシアの東方不拡大要求をNATO側が拒絶し、議論は平行線のまま終了した。
 
理事会終了後、NATOのストルテンベルグ事務総長は記者会見し、「ロシアとの間には大きな意見の相違があり、歩み寄りは簡単ではない」と厳しい認識を表明。

一方で「NATO加盟国とロシアが同じテーブルに座り、実質的な議論を行ったことは前向きな兆候だ」とも語った。NATOはロシアに対し、ミサイル配備や軍備管理について協議を続けるよう提案したという。
 
米欧とロシアは13日も、欧米や旧ソ連の国々で構成する全欧安保協力機構(OSCE)で協議を行うが、現段階で対立解消に至るのは難しいとみられる。
 
NATOロシア理事会には、ストルテンベルグ氏や米国のシャーマン国務副長官、ロシアのグルシコ外務次官が出席した。
 
理事会でロシアはNATOに対し、ウクライナなど旧ソ連諸国に同盟国を拡大しないよう改めて求めた。NATOはこれを拒絶したうえで、ロシアがウクライナ国境付近に10万人規模の部隊を集結させていることに対し、「近隣諸国の主権と領土保全を尊重」するよう訴えた。
 
理事会終了後、米国のシャーマン氏は記者会見し「米国とNATOは、永続的な安全保障体制を構築するのに最も確かな道が外交であり、安全保障問題にロシアの関与を受け入れる意思があることを伝えた」と説明。そのうえで「緊張を高めることは外交にとって最適な条件ではない」とし、大規模部隊の撤収を求めたとした。
 
一方、ロイター通信によると、ロシアのグルシコ氏は理事会終了後、「NATOのさまざまな主張が受け入れられないものだった」と述べ、緊張緩和のためにはNATO側の譲歩が必要だと主張した。【1月13日 毎日】
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****欧州安保機構でも進展なし 緊迫のウクライナ情勢****
米国やロシア、欧州諸国などが加盟する欧州安保協力機構(OSCE)の会合が13日、ウィーンで開かれ、ロシア軍の国境付近集結で緊迫するウクライナ情勢を中心に協議した。

米国や北大西洋条約機構(NATO)とロシアによる今週の協議がいずれも平行線に終わったのに続き、OSCEの会合でも対立解消に向けた具体的進展は得られなかった。(後略)【1月13日 時事】
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これまでも再三触れたように、ロシア・プーチン大統領はNATOの東方拡大に対し「騙された」「アメリカ・NATOは約束を破った」と強い不信感を抱いており、そのことで敵対勢力がロシア国境に迫りロシアが危険にさらされているとも認識しています。

そうした認識がNATOの拡大停止、喫緊の課題としてはウクライナのNATO加盟拒否を求めるロシアの要求の根底にあり、事実に照らすときその認識はあながち間違ってはいません。

短期的な時間軸で見ると、ロシアのクリミア併合など、ロシアの強引な勢力拡張姿勢が目立ちますが、より長期の時間軸で見ると、冷戦終結後、かつてロシアの勢力圏であった中東欧諸国が相次いでNATOに加盟し、欧州の勢力バランスがロシアを追い込む形に大きく傾いていると言えます。ロシア・プーチン大統領の勢力拡張姿勢は、ロシア不利のより大きな流れへの危機感に駆られたプーチン大統領の抵抗とも考えられます。

しかしながら、アメリカ・NATOとしても、「(国家が自らの同盟関係を選ぶ権利を持つとの)原則を侵すことは許されない」(アメリカのカーペンター駐OSCE大使)という姿勢を変える訳にもいきません。

現段階でロシアとの火種を抱えるウクライナをNATOに加盟させるということは(ウクライナの希望にもかかわらず)アメリカ・NATOも全く考えてはいませんが、だからと言って、ロシアにウクライナ加盟拒否を確約することは出来ません。「原則」の問題です。

【「軍事手段」をちらつかせて譲歩を迫るロシア】
ロシアは「軍事手段」をちらつかせる強い姿勢で、アメリカ・NATOの譲歩を求めています。
もちろん、ロシア・プーチン大統領が甚大なリスクを伴うウクライナ侵攻を実際に行う可能性は大きくないとは見られています。

ただ、12月27日ブログ“ウクライナ周辺に軍事展開するロシア 「侵攻」はあるのか? 緊張下での米ロの綱引き”でも触れたように、緊張下にあって“不測の事態”はあり得ます。

****露「軍事手段」改めて示唆 ウクライナ情勢で譲歩迫る****
ウクライナ情勢をめぐり12日に開かれた北大西洋条約機構(NATO)とロシアの「NATOロシア理事会」で、ロシアは10日に協議した米国に続き、NATOに対しても東方不拡大の確約やウクライナへの支援停止を強硬に要求。軍事力を行使する可能性を示唆しつつ、要求を受け入れるよう圧力をかけた。

タス通信によると、露代表団を率いたグルシコ外務次官は同理事会後に記者会見し、ロシアはNATOに「国の安全を守るため、あらゆる軍事的・技術的措置を取りうると伝えた」と強調。「外交的手段がなくなれば、軍事的手段で脅威を排除する」とも警告した。

ロシアは「軍事的・技術的措置」の内容について具体的な言及を避けている。露専門家の間では、欧州向けミサイルの増強などを意味し、即座にウクライナ侵攻を意味するものではない−との見方が支配的だ。経済低迷が続くロシアに、侵攻時の軍事費増大や欧米による経済制裁に耐えられる余力はないとの観測も強い。

ただ、ロシアは「自国民保護」や「自衛権行使」などの名目でウクライナ侵攻を正当化する余地を残しており、あえて「措置」の内容を明確にせずにNATO側の疑念を拡大させ、交渉を有利に運ぶ思惑だ。

グルシコ氏は、ウクライナ情勢の緊張緩和には、ウクライナ東部紛争の解決に向けた和平合意で、ロシア側に有利な「ミンスク合意」をウクライナ政府が履行することが不可欠だとも主張した。【1月13日 産経】
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****露、クリミアなどで軍事演習開始…20か所以上で1万人参加****
ロシア国防省は12日、ロシアが併合したウクライナ南部クリミア半島などで軍事演習を開始したと発表した。クリミアや露南部の20か所以上で実施し、1万人以上が参加しているという。
 
ロシアは11日には、ウクライナとの国境に近い西部地域でも演習を始めている。ロシアはウクライナ情勢を巡り、米国や北大西洋条約機構(NATO)と協議を重ねているが、進展はない。演習によって緊張を高め、交渉を優位に運ぶ狙いとみられる。【1月13日 読売】
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****露とベラルーシ、2月に合同軍事演習****
ロシアとベラルーシの国防省は18日、ベラルーシ南西部で2月に合同軍事演習「同盟の決意2022」を実施すると発表した。タス通信が伝えた。演習は2月10〜20日の日程で、ウクライナや北大西洋条約機構(NATO)加盟国のポーランドに近接する地域で行われる。

ロシアによる侵攻の可能性が指摘されるウクライナ情勢をめぐりロシアとNATOの緊張が高まっているほか、ベラルーシも人権問題などで欧米諸国との対立を深めている。ロシアとベラルーシは合同演習を通じ、NATOに対して軍事的結束を誇示する思惑だ。

ベラルーシのルカシェンコ大統領は自身の長期的な実権確保を可能にする憲法改正の国民投票を2月下旬に行う方針。軍事演習でプーチン露政権という後ろ盾があることを改めて示し、国内の反体制派を威圧する狙いもあるとみられる。【1月18日 産経】
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【アメリカ・欧州の対抗措置には限界も】
アメリカ・バイデン大統領は、12月8日、、ロシアがウクライナに侵攻した場合に(米ロの直接対決ともなる)米軍をウクライナに派遣することは「検討していない」と述べていますが、代替措置としてウクライナへの軍事支援を強めて対抗する姿勢です。

****米英、ウクライナに兵器供給へ ロシアの軍備増強に対応****
ロシアがウクライナとの国境沿いで軍を増強している問題で、米英は17日、ロシアによる侵攻からウクライナを守るためにウクライナに兵器を提供すると発表した。(中略)

これらの兵器には対戦車ミサイル「ジャベリン」やスティンガーミサイル、小型武器などが含まれる可能性があるという。

また、英国のウォレス国防相も議会で「われわれはウクライナに対し軽装甲防御兵器システムを供給することを決定した」と指摘。最初のシステムは17日に供給済みで、少数の英関係者による短期間の訓練が行われるという。

供給する兵器の種類や個数は明らかにしなかったが、「戦略兵器ではないため、ロシアに脅威を与えることはない。自衛のために使用されるものだ」と語った。

さらにロシアのショイグ国防相を数週間以内にロンドンに招待し、危機に関して協議するとしたが、ロシア側が受け入れるかどうかはわからないとした。【1月18日 ロイター】
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また、ロシアを牽制するための「ロシアに重大な代償を負わせる」という内容については、万一ロシアが軍事進攻した場合、世界の銀行の送金システムを運営する国際銀行間通信協会(SWIFT)から除外する、ロシア産天然ガスをドイツに送る海底パイプライン「ノルドストリーム2」を停止するといったことが取り沙汰されていますが、いずれも実際に行えば“返り血を浴びる”覚悟が必要な措置です。

欧州はロシアと強い経済関係にありますので、ロシアを世界経済から締め出すことは自らの“痛み”も伴います。

****独紙、西側はロシアのSWIFT除外を検討せずと報道 米は否定****
独紙ハンデルスブラットは17日、独政府筋の話として、西側諸国はロシアに対する制裁措置の一貫として、世界の銀行の送金システムを運営する国際銀行間通信協会(SWIFT)からの除外をもはや検討していないと報じた。

ハンデルスブラット紙は、代わりにロシアの銀行を標的とする経済制裁が検討されているとしている。

この報道を受け、ロシアルーブル相場が上昇した。

米国家安全保障会議(NSC)の報道官はこの報道を否定。「いかなる選択肢も排除されていない。ロシアがウクライナを侵攻した場合の厳しい措置について、米国は欧州と極めて緊密な協議を続けている」と述べた。

ドイツ政府関係者はロイターに対し、ハンデルスブラット紙の報道内容を確認できないとし、まだ何も決定されていないと述べた。【1月18日 ロイター】
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ドイツの事業承認を待つばかりになっている「ノルドストリーム2」にしても、これを停止すれば、ロシアからの報復措置を受けて欧州のエネルギー事情は極度に悪化します。

****ウクライナ交渉の足かせとなる「武器化」された天然ガス****
(中略)欧州各国でガス価格は高騰しており、それにはいくつかの要因が重なっていると言われている。コロナからの復旧による急激な需要回復、脱石炭火力を急いだために電力の供給不足が起こった、ロシアでの厳寒のためにガス需要が急増した、などである。

他方で、ロシアが意図的に供給を絞っているのではないかという疑惑は、当初から持たれていた。ロシアは昨年12月、同国西部からベラルーシ、ポーランドを経由してドイツに至る天然ガスパイプライン「ヤマル・ヨーロッパ」へのガス供給を停止した。

ドイチュ・ヴェレ(ドイツ国営の放送事業体)の2021年12月28日付け解説記事は、天然ガスの「武器化」と形容し、今後さらなる困難が続く可能性が高いと指摘している。この記事が言うように意図的かどうかは別として、ロシアからのヨーロッパ向けガス供給が減っていることは確かである。

少なくともこの状況がプーチンに有利に働いていることは間違いない。バイデン政権が、万が一ロシアがウクライナに軍事侵攻した場合の制裁の一つとして、ノルドストリーム2を開通しないことを挙げているからだ。

そもそも独露間のパイプラインであるノルドストリーム2に関して、米国に直接の権限はない。発足したばかりのショルツ新政権への根回しもほとんどせずに、ノルドストリーム2を制裁に使うということを発言してしまうのは、準備不足である。

欧州のロシアガスへの依存度は高い。20年の欧州連合(EU)のロシア産ガスへの依存度は53%にも上る。仮にノルドストリーム2を開通しないという制裁措置を取ったなら、ロシアは即座に欧州向けのヤマルとノルドストリーム1のガス供給を止めるという措置に出ることができる。

そうすれば、厳冬期にガス・電力供給が著しく不安定になる。ショルツ首相に、事実上そのような選択肢はない。ノルドストリーム2を経済制裁に使うというのは、著しく非現実的な案である。

八方ふさがりのバイデン政権
(中略)要するに、バイデン政権としては八方手詰まりである。そもそも、ウクライナ問題で、最初に軍事オプションを外して経済制裁しかしないと言った時点で、ボタンの掛け違いが始まったと言えるが、ここまでくれば、何とかプーチンが納得するような玉虫色の外交パッケージをまとめ上げるくらいしか手はない。

最も重視しているのは、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟だろうから、そこは原則譲っていないように読めるが、多くの条件を付けて事実上譲るような文面をまとめ上げるしかない。外交の腕の見せ所であるが、これは米国人が得意とする分野ではない。【1月19日 WEDGE】
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アメリカも一応、(ロシアを牽制するためにも)そうした事態になった場合の対策の検討はしているようです。

****米、欧州ガス供給で緊急対応策検討 ウクライナ情勢緊迫で****
米国政府は、ロシアとウクライナ間の紛争でロシア産天然ガスの欧州への供給に影響が出た場合に備え、複数のエネルギー企業と緊急対応策について協議した。複数の米国務省当局者と業界関係者が14日ロイターに明らかにした。(中略)

業界関係者2人がロイターに明らかにしたところによると、米国務省当局者は、追加供給が必要となった場合、どこから確保できるかについてエネルギー各社に質問した。それに対して各社は、ガス需給は世界的に逼迫しており、ロシアからの大量の供給に代わる十分なガスはほとんどないと答えたという。

米当局者は、輸出を拡大したり油田のメンテナンスを先送りすることが可能かについても質問したという。(後略)【1月17日 ロイター】
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【アメリカで高まる警戒感】
こうした状況で、アメリカでは警戒感が高まっています。

****ロシア、意図的に衝突起こす作戦を準備か ウクライナ侵攻を米が警戒****
緊張が続くウクライナ情勢をめぐって、米政府は14日、ロシアがウクライナ国内で衝突を引き起こす偽装作戦の準備をしているとの情報がある、と明らかにした。意図的に起こした衝突を引き金に、1カ月以内にもロシア軍がウクライナ侵攻に踏み切る可能性があるとして、米政府は警戒を強めている。(後略)【1月15日 朝日】
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アメリカ国務省高官は18日、ブリンケン国務長官とロシアのラブロフ外相が21日にジュネーブで会談すると明らかにしていますが、この会談についても・・・・

*****米政府「極めて危険な状況」 ロシア軍のウクライナ侵攻に警戒感****
(中略)ホワイトハウス・サキ報道官「はっきり言おう。今、極めて危険な状況になっている。ロシア軍がいつウクライナ侵攻を始めてもおかしくない状況にある」

またアメリカ国務省の幹部は記者団に対し、スイスのジュネーブで21日に予定されているブリンケン国務長官とロシアのラブロフ外相の会談について「ロシアが外交解決に本気だと判断するのは時期尚早だ」と述べ、「この会談での決裂をロシアが軍事行動の口実に使う可能性もある」と指摘した。

さらに、国務省の幹部はウクライナの北に位置するベラルーシにもロシア軍が部隊を集結させていることを明らかにし、ロシア軍がベラルーシからウクライナに侵攻する可能性も指摘した。【1月19日 ABEMA TIMES】
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プーチン大統領は計算高い性格ですから無謀なリスクを犯すとは思いませんが、互いの疑心暗鬼が制御不能な事態に至らなければいいのですが・・・。

仮に、なんらかの事情で軍事衝突の事態になれば、アメリカがどういう対抗措置をとっても、プーチン大統領の“野望”を許したとして、バイデン大統領の権威失墜は免れないでしょう。

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アメリカ  バイデン、ハリス両氏不人気で“ヒラリー待望論”も出る民主党の苦境

2022-01-18 22:57:04 | アメリカ
(【1月18日 日テレNEWS24】)

【支持率低下が止まらないバイデン大統領】
アメリカ・バイデン大統領は79歳という高齢ながら、2024年の大統領選挙での再選を目指すことを明言しています。いろいろ思惑はあると思いますが、そう言わないと“死に体”になってしまうということが大きいでしょう。

****79歳のバイデン氏、再選出馬を明言…トランプ氏との「再戦」に意欲****
米国のバイデン大統領は22日、ABCニュースのインタビューで、2024年の次期大統領選に再選出馬するかどうかを問われ、「出馬する」と明言した。ただし「私は運命を重んじる。運命は私の人生に何度も介入してきた。今のように健康状態が良ければ、再選を目指すだろう」とも付け加えた。
 
バイデン氏は、トランプ前大統領と再び対決する可能性についても質問を受け、「トランプ氏が相手となれば、私が出る見通しも高まるだろう」と応じ、「再戦」への意欲を強調した。
 
史上最高齢で米大統領に就任したバイデン氏は先月、79歳の誕生日を迎えた。高齢を理由に再出馬を疑問視する声もある。支持率も低下傾向にある中、求心力を保つために再出馬の意思を明確にした形だが、自ら健康問題に触れたこともあり、出馬を巡る臆測はやみそうにない。【12月23日 読売】
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そのバイデン大統領の支持率が低下しているのは昨年のアフガニスタン撤退あたりからの話ですが、加えて、オミクロン株による新型コロナの再拡大、原油価格高騰を受けたインフレの進行などもあって、最近その低迷ぶりが一段と目立つようになっています。

***危険水域に達したバイデン政権の支持率とヒラリー待望論のなぜ****
バイデン大統領の支持率低下が止まらない。
保守系調査会社ラスムッセンの調査を見ると、支持が40%を割り込む38%、不支持も60%、そして両者の差は22ポイントに達しており、次の選挙を考えた場合の危険水域とされるレベルに突入している。

支持と不支持が同数だったのは8月9日が最後。8月15日のアフガニスタン撤退の頃を境に悪化を続けており、止まる気配が感じられない。
 
なお、リアル・クリア・ポリティクスで全ての世論調査を見ても、悪化傾向に変わりはない。

(中略)足元の新型コロナの感染拡大や景気の先行きなどを考えると、「挽回は無理」との見方が民主党陣営内で拡がっている。中間選挙を戦うため、2024年の大統領候補をすげ替え、巻き返しに出ようとする動きも出始めている
 
そういった動きの一つが、噂の域を出なかったヒラリー・クリントン元副大統領(74歳)を担ぎ出そうとする動きの本格化だ。FOXニュースなど大手メディアが伝え始めた。

バイデン大統領の支持率が急降下している4つの理由
バイデン大統領の支持率低下の背景は、主として4つある。
 
第一に、タリバンが8月15日にアフガニスタンの首都カブールを制圧して以降の混乱だ。米軍の拙速な撤退に伴う混乱で、米国人の犠牲者も出た。この時、バイデン大統領は進歩派(プログレッシブと呼ばれる民主党左派)の軍事費削減支持を背景にして「間違いはない」と言い切っている。
 
第二に、米国の2021年度(2020年10月〜2021年9月)の違法移民が約173万人と例年の3倍に増加したこと。これは、バイデン政権が、進歩派が主張する人種差別の徹底的な排除と弱者救済の思想を受け入れた結果だ。(中略)

第三に、消費者物価が上がって国民の生活が厳しくなっていること。バイデン大統領は1月12日のブリーフィングで、「大手企業が価格を支配しているからだ」という従来の民主党進歩派の主張を繰り返した。「ソ連のお店のようだ」と揶揄されるスーパーの品不足もやり玉の対象だ。これを受け、2020年の大統領選にも出馬したブティジェッジ運輸長官は、港湾を回って荷卸しの状況をチェックし始めた。
 
第四に、これまでバイデン政権の担当者が「うまく対処してきた」と自慢していたコロナ対応だ。オミクロン株の影響で、昨年6月に1日当たり5000人を切っていた新規感染者は1月10日に140万人を超えた。死者数も1700人を数える。
 
感染者数自体は曜日などの要因で大きく増減しているが、過去の平均値も過去最多を更新している。しかも、昨年暮れからウォーレン上院議員やオカシオ・コルテス下院議員など、ワクチンを2回接種した民主党議員が相次いで感染していることもあって、米国民の間で「結局は失敗だった」との不満に繋がっている。(後略)【1月17日 小川 博司氏 JBpress】
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バイデン大統領は、トランプ前大統領の支持者らによる連邦議会襲撃から1年を迎えて議会で演説し、トランプ前大統領を厳しく批判し、反転攻勢の糸口をつかみたい構えですが、今のところ反転の兆しは見えていません。

****バイデン米大統領、トランプ氏を痛烈批判=議会襲撃1年「戦い継続」****
バイデン米大統領は6日、トランプ前大統領の支持者らによる連邦議会襲撃から1年を迎え、議会で演説した。事件を「武装蜂起」と断罪。トランプ氏が「(2020年大統領選の)敗北を受け入れず、うそをまき散らした」ことが引き金になったと指摘し、徹頭徹尾トランプ氏の責任を厳しく追及した。
 
バイデン氏は、トランプ氏の敗北こそ「真実だ」と明言。一部の国民が「大統領選は不正だった」とするトランプ氏の主張をいまだ信じていることを踏まえ、「前進する道は真実と向き合い、それに従って生きることだ」と語り掛けた。
 
また、「人々を襲撃に駆り立てたうそは衰えていない」と陰謀論の渦巻く現状に危機感を表明。「米国の魂を賭した戦いは続いている」と訴え、民主主義を守る姿勢を鮮明にした。「大統領の力は国を結束させることであり、分断することではない」とも述べた。
 
ハリス副大統領も議会で演説し、「正義のために団結しなければならない」と強調した。

一方、トランプ氏は6日、声明で「バイデン氏は私の名前を使って、さらに米国の分断を深めようとした」と反論した。予定していた記者会見は中止した。【1月7日 時事】
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【バイデン大統領の足を引っ張る民主党内の確執】
支持率低迷するバイデン大統領を支えるべき与党・民主党内では、かねてより大統領予備選で争ったサンダース上院議員などの進歩派とペロシ下院議長などの穏健派との対立が根深く、その間で揺れるバイデン大統領は双方からの不満に直面する形にもなっています。

また、1兆7500億ドル規模の気候変動・社会保障関連歳出法案や選挙改革法案といった反転攻勢の足がかりとなるべき重要法案で、民主党内有力議員をまとめきれず、法案の成立が見通せないという“指導力不足”を露呈しています。

****米民主有力議員、大型歳出法案に不支持表明 バイデン氏看板政策に痛手****
米民主党穏健派のジョー・マンチン上院議員は19日、1兆7500億ドル規模の気候変動・社会保障関連歳出法案「ビルド・バック・ベター(よりよき再建)」を支持しないと表明した。

マンチン氏は法案可決の鍵を握っており、バイデン大統領の看板政策にとって痛手となるとみられる。

マンチン氏は「フォックス・ニュース・サンデー」のインタビューで、インフレへの懸念に言及し「この法案を支持することはできない」と述べた。

その後、声明を発表し、民主党が新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)や地政学的脅威への米国の対応能力を「大きく阻害する」債務負担の増加を推し進めていると非難した。

これを受けてホワイトハウスは、マンチン氏が妥協点を見つけ、法案を通過させるという約束を破ったと非難した。
ホワイトハウスのサキ報道官は、マンチン氏の発言は「突然の不可解な立場の転換だ」とし、バイデン政権は2022年に法案を前進させる方法を見つけるだろうと述べた。

同氏の発言は党内リベラル派からも怒りを買った。イルハン・オマル下院議員(ミネソタ州)はツイッターへの投稿で「はっきり言って、マンチン氏の言い訳はでたらめだ」と述べた。
法案の策定に関与したバーニー・サンダース上院議員は、いずれにしても採決を行うよう呼び掛けた。

この法案は富裕層・法人増税で、気候変動対策や医療費補助拡大、保育無償化など一連のプログラムの財源を賄う。
バイデン氏はインフレが進行し、パンデミックから経済が回復する中、こうしたコストを押し下げることが重要だと訴えている。【12月20日 ロイター】
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****米選挙改革法案、上院の可決不透明 民主2名が議会規則変更に反対****
 バイデン米大統領は13日、選挙改革法案の推進を民主党上院議員に訴えた。ただ、民主党の議員2名が可決に向けた議会運営の規則変更に反対する意向を示し、法案が成立するかどうか不透明となっている。

下院はこの日、選挙改革法案を可決した。バイデン氏は、上院民主党の会合に出席し、法案の推進を訴えた。ただ、これに先立ち民主党のシネマ議員は上院議場で演説し、少数派が法案を阻止できる「議事進行の妨害(フィリバスター)」は、米国内の政治的分断を悪化させないために必要だと主張して、フィリバスターの規則変更に反対する意向を示した。

上院は少数派によるフィリバスターを認めており、妨害を終わらせて法案を採決するには上院100議席の単純過半数でなく60票の賛成が必要になる。民主党は50議席にとどまり、共和党全員が反対する中で法案の採決に持ち込めない。そのため、投票権保護に関わる法案についてフィリバスターのルールを変更し、民主党単独での可決を目指している。

シネマ議員はルール変更について、「米国の分断という問題を悪化させる行動を支持できない」と主張して反対を表明。マンチン議員も反対する姿勢を示した。

バイデン氏は上院民主党議員との会合後、「法案成立を望んでいるが、やり遂げられるかどうかは分からない」と記者団に語った。

ホワイトハウスによると、バイデン氏はこの日、シネマ、マンチン両議院と会談し、法案の推進を引き続き訴えた。ホワイトハウス当局者によると協議は1時間以上に及び、率直な意見が交わされたという。(後略)【1月14日 ロイター】
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【バイデン氏以上に不人気なハリス副大統領】
こうした状況で、冒頭記事における“中間選挙を戦うため、2024年の大統領候補をすげ替え、巻き返しに出ようとする動きも出始めている”という話にもなりますが、本来ならバイデン大統領に代わる候補としてはハリス副大統領ということになりますが(就任当時は、そうした期待もありました)、彼女の人気はバイデン大統領以上に悪いという状況で“アメリカ史上最も不人気な副大統領”とも。

****ハリス氏、しぼむ存在感 支持率低迷28%、側近相次ぎ退任****
米バイデン政権発足から1年近くが経つ中で、初の女性で非白人の副大統領として注目されたハリス副大統領が存在感を示せずにいる。ポストバイデンの呼び声も高かったハリス氏の低迷は、1年後の中間選挙、さらには2024年の大統領選挙の民主党の戦略にも影響しそうだ。

政権発足当初、50%台後半の支持を得ていたバイデン大統領だが、今年夏のアフガニスタンでの米軍撤退の際の混乱や最近の米国内のインフレなどが要因となり、USAトゥデーなどが11月に実施した世論調査では38%に落ち込む。ハリス氏の支持率はさらに低い28%となっている。
 
ハリス氏は政権内で移民問題や投票する権利を担当している。だが、移民問題ではメキシコ国境をすぐに訪問しなかったことを共和党から批判されただけでなく、グアテマラを訪問した際に「米国に来ないで」と発言したことが民主党内でも批判された。
 
ホワイトハウスは12月初旬、ハリス副大統領の上級顧問兼首席報道官を務めるシモーヌ・サンダース氏が年内で退任することを明らかにした。ホワイトハウスは11月、ハリス氏の広報部長が退任することも明らかにしており、就任1年足らずで側近が相次いで去る事態になっている。
 
複数の米メディアは、ホワイトハウス内でバイデン氏のチームとハリス氏のチームに確執が生じていると報じている。CNNは、バイデン氏のチームがハリス氏と側近の仕事ぶりを評価せず「お手上げの状態だ」と報道。

かたやハリス氏のチームも「副大統領が(重要な意思決定から)外されている」と不満を募らせ、ハリス氏本人も、自分の活動が制約されていると周辺に漏らしていると報じた。
 
ハリス氏への逆風が強まるなか、ホワイトハウスのサキ報道官はツイッターへの投稿で「副大統領は大統領の不可欠なパートナーだけでなく、勇敢なリーダーだ」と擁護した。しかし、上院議員1期目の途中で副大統領に転じたハリス氏の経験不足を指摘する声が増えているのが現状だ。
 
ハリス氏は初の女性副大統領であるだけでなく、初の黒人、アジア系の副大統領として注目された。米議会では上院、下院ともに与党の民主党と野党の共和党の議席数が拮抗(きっこう)し、来年11月に予定される中間選挙で新たな勢力図が決まる。ハリス氏の低迷はバイデン政権を支える民主党の支持をさらに押し下げる要因になりかねない。
 
バイデン政権の発足当初は高齢のバイデン氏が1期で退任すれば、24年の大統領選挙でハリス氏が最有力の民主党候補になるという見方があった。バイデン氏はすでに2期目をめざす意向を示しており、仮に1期で退任した場合も、候補者選びは混戦となりそうだ。【12月22日 朝日】
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ハリス副大統領に任された移民政策は、おそらく誰がやっても難しい問題、あるいは、初の女性、初の黒人、アジア系副大統領ということで、やはり厳しい視線が向けられている・・・といった面もありますが、パワハラ的な性格がスタッフとうまくいかないという彼女自身の性格が現在の低迷を呼んでいるとの指摘もあります。【1月18日号 Newsweek「ハリス副大統領、支持率急落の真相」】

【“ヒラリー氏待望論”が示す民主党の苦境】
そのような状況で、やや“苦し紛れ”的に出てきた感もあるのが“ヒラリー氏待望論”・・・ただ、「何を今更」と評判は良くないようです。

****突然取りざたされたヒラリー氏の名前が意味するのは…****
「ヒラリー・クリントンの2024年大統領選挙へのカムバック」有力紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」のオピニオン欄に、今月11日、こんな記事が掲載された。

元ニューヨーク市議会議長らが書いたこの記事では、バイデン政権と与党・民主党が、11月の中間選挙で負けて議会の主導権を失った場合、ヒラリー氏が「党のイメージを変える新たな顔」として、再び大統領候補に浮上すると指摘。

経験豊富で知名度が高い上、バイデン大統領より若く、現在の政権とは違う政策アプローチを示すことができるとして、「かつてはあり得なかったシナリオが、もっともらしくなってきている」としている。

もちろん、この論説を額面通りには受け止められない。そもそも、79歳の「バイデン氏より若い」と言っても、ヒラリー氏は現在74歳。記事の掲載以降、アメリカメディアはこぞってこの「仮説」に反論している。

「確かにクリントンは政治家として、間違いなく最も印象的な経歴を持つひとりだ。問題は、2016年の大統領選でも、2008年の大統領選の時でさえ、そうだったということだ。そして彼女は両方の選挙に負けた。当時と今の間で何が変わったのか?クリントンが『代わりの候補(change candidate)』になれるとは全く思えない」(CNN)

「この記事は、公開以降、批判と嘲笑を引き起こした」(news week)

ヒラリー氏自身、2017年に「現役の政治家としての活動は終わった」と発言している。ヒラリー氏の名前は、メディア各社の世論調査にもほとんど登場していない。唯一、マサチューセッツ大学とyougovが去年12月に行った「24年大統領選候補」調査で名前が挙がったが、支持する人はわずか6%で、民主党内の7番目となっている。

今回、ヒラリー氏の名前が取りざたされたのは、低支持率にあえぐバイデン政権の苦境、さらにはバイデン氏に代わる次期大統領候補が乏しい、民主党の現状の裏返しにほかならない。【1月18日 日テレNEWS24】
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“彼女であれば進歩派と中道派をまとめられるという見方も根強い。それは夫の元大統領が進歩派に信頼されているうえ、彼女自身が国務長官時代にパレスチナなどへの支援に注力していたという背景もあるようだ。”【1月17日 小川 博司氏 JBpress】との指摘もありますが・・・・。

まあ、「ヒラリーvs.トランプ」因縁の対決・・・という構図で盛り上げるというのは、民主党側が勝機を望めるか少ない道の一つかもしれませんが、いかにも“昔の名前”感が強すぎます。

なお、民主党内で待望論の強いミシェル・オバマ夫人は出馬を引き続き拒否しているとのこと。

また、“ハリス氏の評価が下がるにつれ、ブティジェッジ運輸長官の名前も取りざたされるようになったが、「2020年の大統領選挙で課題となった、黒人有権者の支持の低さに対処できていない」(ポリティコ)と指摘され、ハリス氏にも及んでいないという評価だ。”【1月18日 日テレNEWS24】

一方の共和党側も、トランプ前大統領をどのように位置づけて中間選挙を戦うのか・・・などの問題がありますが、また長くなったきたので、そのあたりは別機会に。
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中国・新疆ウイグル自治区  中国の考える「人権問題」 収容所送りにされた少女の証言

2022-01-17 23:18:26 | 中国
(ウイグルに暮らす人々【1月17日 デイリー新潮】)

【中国の考える「人権」・・・人権とは固定されたものでなく、社会の発展状況により異なる】
昨日ブログでは、中国の新疆ウイグル自治区における人権問題に対するアメリカの「二重基準」とも言うべき対応を取り上げましたが、今日はその人権問題そのものについて。

中国は常々欧米諸国が指摘するような人権侵害は新疆において存在しないと主張していますが、そもそも中国が「人権」に関してどのように考えているのか・・・ということについて、中国側の説明が以下の記事です。

****人権についてどのように理解すべきか―中国人専門家が「我々の考え」を紹介****
米国や米国に近い立場の日本や西欧諸国では、新疆などについて「中国での人権問題は深刻だ」とする声が大きい。しかし中国側は「人権問題が深刻なのはむしろ米国」と主張している。

西南政法大学人権研究院の張永和院長はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、人権問題についての中国側の考えを紹介した。以下は、中国新聞社が発表した記事に日本人読者の理解を助けるために、若干の補足内容を追加して再構成したものだ。

■米国が強制労働を叫ぶのは、自国の黒人奴隷の記憶と関係?
米国は、新疆ウイグル自治区では綿花収獲について強制労働が存在するとして、米国企業に対して関連品の輸入を禁止した。

しかし、西南政法大学人権研究院の調べによると、新疆において綿つみは、高収入を得られるので人気のある仕事だ。新疆では、綿つみのシーズンになると休暇を取る労働者もいる。工場などが追加賃金を提示する場合もあるが、綿つみの方がさらに稼げる仕事だからだ。

このように、新疆にはいわゆる「強制中絶」や「強制労働」は存在しない。一つ一つの事例で分かるように、米国は新疆関連問題などを持ち出しては事実と異なる理由をつけて中国を圧迫している。

米国はかつての、黒人を奴隷として綿畑で強制労働させた光景を故意に、中国の新疆に「接ぎ木」しているのかもしれない。

翻って米国は、自国に存在する深刻な人権問題をわざと無視している。そして、事実を捏造(ねつぞう)して人権問題を理由に他国を非難して、圧力を加えて制裁するのは、米国の常とう手段だ。新疆問題についても、このことが改めて示された。

■人権とは固定されたものでなく、社会の発展状況により異なる
人権とは、人類文明が共通して求めてきたものだ。どの国家もそれぞれが、自らの人権問題に取り組むことができる。そして中国の人権に対する理解や扱いも、自国の発展とともに進歩してきた。

中国は西側諸国の人権概念を認めることができる。しかし中国は、人権概念は多様と認識している。さまざまな国や地域では、人権やその他の権利は異なって理解され実現されるとの考えだ。

西側諸国の人権についての主流の考えは、「人権とは天(神)から与えられたものであり、確定したものだ」である。中国人の研究者は、人権の発展は段階的なものではないかと議論している。すなわち、国の発展段階が異なれば、社会や文化の構造が異なるので、人権の理解や人権問題で実現できることにも違いが生じるとの考えだ。

中国は例えばアフリカの一部国家の人権状況や概念が西側や中国とは異なることに理解を示ことができる。

しかし西側諸国は人権について狭い理解をしている。そして西側諸国が人権問題で中国など他国を批判し続けるのは、外交などで自らが優位に立とうとする「利益」のためだ。

一方で、中国は人権問題について「発言は少なく行動は多く」の姿勢だ。2019年に中国で発表された白書「人民の幸せを図る:新中国における人権事業の発展70年」では、中国が人権関連で多くの努力と貢献をしたことが示されている。

■人権問題の論争で、中国は主導権を握ってよい
中国の人権事業の発展は現在のところ、「受動」から「能動」への転換期にある。米国など西側の一部国家は中国に対して、いわゆる「人権外交」の攻勢をかけ、常にいざこざを起こしてきた。

中国は自らの潔白を示す反論をせねばならない。そのため中国は人権問題について、しばらく「受動」の状態を続けざるをえないかもしれない。

しかしながら中国はすでに、人権関連の作業で転換期をすでに迎えている。2020年から21年にかけては、西側諸国に存在する人権関連の構造的な問題が露呈した。

新型コロナウイルス肺炎の流行に対しての西側国家の実績はひどいものだ。死亡した人が過去に経験した大戦争における戦死者よりも多いということは、人権の中でも最も基本となる生存権すら保障されていないということではないのか。

中国はこれらの問題を指摘して反論してきた。特に米国については、人権侵害が顕著だ。例えば、米国には多くの児童労働者が存在し、2003年から16年にかけて児童労働者452人が労働災害で死亡したとの、米国メディアによる報道もあった。

中国は米国における人権問題の状況を総括して、相手が仕掛けた言葉の罠(わな)から飛翔して主導権を握る必要がある。【1月15日 レコードチャイナ】
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上記の中国側主張について、部分部分においては、「そうかも・・・」と思えるものもあります。

戦前日本において、朝鮮人労働者の「強制労働」があったか否かで日韓がずっと揉めているように、「強制労働」ひとつとっても判然としないものもあります。

確かに新疆において綿つみ作業は“いい仕事”なのかも・・・・強制ではなく、自らの意思で従事している者も多いかも・・・そのあたりは事実関係を積み上げていかないとわかりません。

よく指摘される「ウイグル族百万人が収容所に・・・」ということに関しても、個人的には以前から「百万人というのはとんでもなく大きな数字だけど、本当だろうか? “南京30万人”の類の部分はないのか?」という疑念は若干持っています。もちろん“百万人”でなくても、問題の本質は変わりませんが。(下記記事によれば「百万人」でも少なすぎるとのことのようですが)

アメリカに深刻な人権侵害が存在していること・・・それは間違いない事実です。日本にも。
ただ、それらと新疆で行われていると言われる事柄が同列に論じられるものかどうかは別問題でしょう。

【政府が定めた「信用できる」の基準を満たしていない者は、カメラを設置して信用できる人間だと示さなくてはいけない】
“人権の発展は段階的なもの”・・・・ここらになると判断が難しくなります。
ただ、どんな社会であっても最低限守られるべき人権というものが存在すると考えます。伝えられる新疆の状況はその“最低限”を大きく逸脱しているように見えます。

もっともらし人権解釈ですが、「なら、新疆のこういう事柄は人権侵害にあたらないということか?」と問えば、「そういう事実はない。でっちあげだ。」という話にもなって、話がそれ以上進みません。

その新疆で行われている具体例をあげる記事が下。

(中略)現地で何が起きているのか。顔認識や音声認識など、最先端技術を駆使した「統治」の実態を長期取材、『AI監獄ウイグル』(新潮社)を上梓した米国人ジャーナリストのジェフリー・ケイン氏が寄稿した。
 
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新疆ウイグル自治区で生まれ育ったメイセムは、高校を優秀な成績で卒業、中国の一流大学に進学した。その最中の2014年から、中国政府はウイグル住民に独裁的な魔の手を伸ばすようになる。

大量の監視カメラが町中に出現し、ショッピングモールやガソリンスタンドへ入るときにも、IDカードの提示が要るようになった。
 
北京で生活するメイセムにとっても、大学生活はつらいものだった。国を動かしているのは漢族であり、「ウイグル人は時代遅れで、過度に信仰心が篤く、少し頭の悪い存在」と見下されていたのだ。教室で挙手しても、教授たちに日常的に無視される。ただしメイセムは努力を惜しまず勉強に励み、トルコの大学院に進む。

「外の世界を見てみたかった」――だがこの選択が、メイセムが海外に住んでいるという事実が、彼女と家族の日常を狂わせることになる。最初の予兆は2016年、夏休みに故郷カシュガルに戻ったときのことだった。

「信用できる」基準を満たしていない
メイセムの実家の扉を、また親切なガーさんがノックした。家々は10世帯ごとのグループに分けて管理されており、グループ内の住民は互いに監視し合い、訪問者の出入りや友人・家族の日々の行動を記録することを求められている。ガーさんは、10世帯のグループの班長として、最近派遣されてきた礼儀正しい女性だった。

 彼女は、メイセムの家の居間に政府のカメラを設置する必要があると説明した。
「ご不便をおかけしてほんとうに申しわけありません」とガーさんは丁寧に言った。
「でもこの決定については、わたしにはどうすることもできないんです。あなたの家で何か怪しいことが行われている、と地元の警察から通知があったものですから」
 
ガーさんから手渡された1枚の紙には、当局の支援を受けて監視カメラを設置する方法が書かれていた。メイセムと家族は、この命令が下された理由をはっきりと認識していた。

メイセムは海外に留学中だった。さらに留学先はイスラム教の国だ。そのせいで彼女が“容疑者”とみなされたのだ。2015年のある時点で中国政府は、アフガニスタン、シリア、イラクなどの国が含まれる「26の要注意国」の公式リストにトルコを指定することを決めていた。

「自分は“信用できない”と判断されたんじゃないか、政府はわたしをもう信用していないんじゃないかと不安になりました」
 
彼女の直感は正しかった。ガーさんは、政府が定めた「信用できる」の基準をメイセムが満たしていないようだと説明した。カメラを設置して信用できる人間だと示さなくてはいけない、と。

居間にカメラ、さらに家族全員の“検査”
「選択の余地などありませんでした」とメイセムは振り返った。
「わたしたちにできることなんてなかった。当局に抵抗すれば、逮捕されるだけですから。みんながみんなを監視して、密告し合っていた。誰も信用なんてできません。わたしたちは地元の電気店に行って、適切なカメラを探しました」(中略)
 
購入後、技術者が家にやってきて、壁に埋め込まれたプラスチック製のケースのなかにカメラを設置した。そのためカメラを勝手にいじったり、電源を切ったりすることはできなかった。居間だけでなく、小さなマンションの広い範囲が映り込んだ。くわえて、音声も記録された。(中略)
 
メイセムと母親は居間を使いつづけた。しかし、いつものように本を並べたり、文学や世界情勢についての率直な議論をしたりするのは避けた。
 
だがこれでは足りなかった。その1ヵ月後、政府からの新たな通知をもってガーさんが戸口にやってきた。家族全員で地元の警察署に出向き、“検査”を受けろ。一家が怪しいと判断されたため、こんどは家族全員への“検査”が義務づけられたのだった。そこで身体検査に加えて、採血、声と顔の記録、DNAサンプルの採取が行われた。

「役所に来てください」
「ある日、地区の当局から携帯電話に連絡がありました」とメイセムは振り返った。陳全国という人物が新疆のトップに就任してからおよそ1週間後、2016年9月のことだった。

「役所に来てください。今日は大切なお話がありますので」と職員は言った。(中略)「外国からの帰国者は全員、再教育センターに行ってもらいます」と職員は言った。

「大切な会合がありますので、出席してください。その場所で1ヵ月にわたって勉強することになります」 職員は“その場所”がどんなところなのか具体的には説明しなかった。

「1ヵ月?」とメイセムは声をあげた。「大学院に戻らないといけないんですけど!」
予定では、2週間後にトルコに戻って修士課程の最終年をはじめることになっていた。(中略)

「すべての市民の義務である」
メイセムは、再教育センター行きの車の後部座席に乗り込むよう命じられた。1ヵ月分の服を取りに家に戻る機会は与えられなかった。
 
1時間ほどたつと、目的の建物が視界に入ってきた。メイセムは、口から心臓が飛びだしそうなほどの緊張に襲われた。
「銃をもった迷彩服の軍人がいました。特殊部隊の黒い制服を着た警察官もいた。たくさんの人が、アサルト・ライフルや巨大な棒をもっていました」 のちに彼女はその棒が、スパイク付きの電気ショック警棒だと知ることになる。(中略)メイセムは扉の上の看板の文字を読んだ─―「わが国家の防衛は、すべての市民の義務である」(中略)

「拘留センターに連れていけ」
 (中略)メイセムは(「政治を勉強するためと言われてここに来た」と、命じられた窓拭きを)拒否した。するとセンター長は机から書類の束を引っぱりだし、それから誰かに電話をかけた。「若い娘がいてな、窓を拭きたくないというんだ。なので、そちらでしばらく教育してくれないだろうか?」(中略)

建物の外にパトカーがやってきた。「拘留センターに連れていけ」とセンター長は運転手に指示した。“拘留”という言葉がはるかに大きな意味をもつことなど、そのときのメイセムは知る由もなかった。(中略)

メイセムを乗せた車はすぐに、ふたつ目の収容所に着いた。看守たちが「拘留センター」と呼ぶその施設は、大きな鉄扉がついた大規模な建物で、さきほどよりも多くの特殊部隊員がまわりを警備していた。

「性悪女!」「売春婦!」
「なかに入ってください」と看守が言った。うしろで扉が閉まると、自分が長いセメントの廊下の端にひとり立っていることにメイセムは気がついた。およそ10メートルおきに設置されたカメラのレンズが彼女のほうに向けられていた。
 
メイセムは中庭へと連れていかれ、待つように言われた。頭は真っ白で、ただただ戸惑っていた。10人の看守がまわりを取り囲むように立った。

「ここでは誰が偉いのか、この女に教えてやろう」と看守のひとりが叫んだ。
ふたりの男がメイセムを地面に押し倒し、靴を脱がせ、脚をもって体を外へと引きずりだし、隣の小さな中庭に引っぱっていった。そこには、不機嫌そうな表情をしたべつの数人の男女がいたが、彼らも意に反して連れてこられたのは明らかだった。

「この尻軽女が」と看守たちは叫んだ。「性悪女!」「売春婦!」
 
メイセムはなんとか逃れようと手足をバタバタさせた。数分後、看守たちは笑いながらうしろに下がった。
 
すでに正午ごろになり、8月の灼熱の太陽が空高くに昇っていた。看守たちはメイセムの体をもち上げ、手錠と拘束具がついた鉄の椅子に引っぱっていき、腕と足に手錠をかけた。

「とんでもなく不快な気持ちでした」と彼女は私に言った。「それはタイガー・チェアでした。そう、誰もが噂で耳にしたことのある拷問椅子です。あの人たちは、そうやって見せしめにする。体を捻じ曲げて苦しめるんです」

炎天下で8時間放置
ほかの囚人たちもその様子を見ていた。「彼らはまるで患者でした。自動車事故で負った頭の外傷から回復し、人格を失った患者みたいに」とメイセムは言った。

「考えることも、質問することも、感情をあらわにすることも、話すことさえできないようでした。みんな虚ろな眼でこちらを見るだけ。しばらくすると彼らは、建物のなかへと追い立てられていきました」
 
看守たちは、炎天下の中庭にメイセムを8時間にわたって放置した。彼女の肌は真っ赤になり、熱傷を起こしてひりひり痛んだ。(中略)
 
それから、彼女は監房に連れていかれた。一般的な住宅の居間と同じ30平方メートルほどの室内には、20人ほどの女性がおり、2台のカメラが設置されていた。(中略)
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ウイグル自治区研究の第一人者でドイツ出身の人類学者、アドリアン・ゼンツによれば、2016年から2017年にかけて新疆の学校、警察署、スポーツセンターがつぎつぎに拘留施設へと改修され、くわえて地域の治安維持の予算が92.8%増加していた。

「収容されている人数は最低でも10万人、最大で100万人強にのぼると考えられます」とゼンツは私に説明した。100万人強というのは、ウイグル人住民1100万人の約10分の1に相当する。
 
これはゼンツが調査をはじめたばかりの早い段階の数字、のちに彼は推定値の上限を引き上げ、2017年の春以降、拘留施設に収容された人数は最大で180万人にのぼる可能性があると訴えている。【1月17日 デイリー新潮】
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収容施設における拷問や非人道的対応、監視などは、極めて残虐なものですが、多くの強権支配国家に共通するものです。

それ以前の、当局から“信用できない”と思われた段階で、家の中に監視カメラを設置することを強制される・・・というあたりが、いかにも現代中国らしい印象です。

前出の西南政法大学人権研究院の張永和院長は、こういう話をどのように説明するのでしょうか?
おそらく“でっちあげ”だと言うのでしょうね・・・。

なお、記事にも出てくる自治区トップの陳全国党委書記は昨年末に交代が発表されています。

****中国、新疆ウイグル自治区トップ交代****
中国国営新華社通信は25日、中国共産党が新疆(しんきょう)ウイグル自治区トップの党委書記を陳全国(ちん・ぜんこく)氏(66)から、広東省ナンバー2の馬興瑞(ば・こうずい)省長(62)に交代させる人事を決定したと伝えた。陳氏は、少数民族ウイグル族への同化政策を強化させたと指摘されている。

陳氏は新たなポストに移る予定だと伝えられている。習近平政権は、同自治区の統制強化を成果として位置づけており、陳氏が中国共産党・政府の要職に起用されるとの見方もある。

陳氏は、2016年にチベット自治区トップから横滑りし、新疆ウイグル自治区のトップに就任。昨年7月には、新疆での人権侵害に関与したとして米政府の制裁対象となった。

一方、馬氏は国有企業の中国航天科技集団の総経理(社長)や、国家宇宙局の局長などを経て13年から広東省で勤務。17年から省長を務めていた。【12月25日 産経】
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チベット・新疆で剛腕をふるった陳氏の交代で変化はあるのでしょうか?
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アメリカ 米中対立の裏で米企業の中国市場重視を後押しする二重基準 中国の自給自足志向は困難も

2022-01-16 23:09:12 | 経済・通貨
(【1月5日 レコードチャイナ】米電気自動車大手テスラが新疆ウイグル自治区の区都ウルムチにショールームを開設した際のセレモニー)

【新疆ウイグル自治区における人権問題で米中対立の渦中に巻き込まれる米巨大企業】
新疆ウイグル自治区における人権問題が米中対立の「主戦場」のひとつになっていることは周知のところで、米議会上院は昨年12月に、同自治区を産地とする物品輸入を全面的に禁じる「ウイグル強制労働防止法案」を全会一致で可決しています。

アメリカ巨大企業もこうした対立の渦中に巻き込まれています。

****テスラが新疆にショールーム 米中、非難の応酬****
米電気自動車大手テスラが人権侵害疑惑のある中国北西部・新疆ウイグル自治区にショールームを開設したことをめぐり、米国の政治家や人権団体から批判の声が相次いでいることを受けて、中国は6日、米国を偽善的だと非難した。
 
テスラは昨年12月31日、新疆ウイグル自治区の区都ウルムチにショールームを開設したと発表した。
この発表に米国の政治家が反発。共和党のマルコ・ルビオ上院議員はテスラについて、「中国共産党が新疆ウイグル自治区にけるジェノサイド(集団殺害)や奴隷労働を隠蔽(いんぺい)するのを助けている」とツイッターで批判した。
 
ジェン・サキ米大統領報道官は4日、「官民を含む国際社会は、新疆ウイグル自治区で起きていることから目を背けてはならない」と記者団に述べた。
 
これに対し中国は6日、米国は「偽善的」であり、「人権を口実に中国に対して経済的威圧と政治的抑圧」を加えようとしていると非難した。
 
中国外務省の汪文斌報道官は定例会見で、人権侵害疑惑について、「事実によってとうの昔に暴かれたうそ」と切り捨てた。
 
全米最大のイスラム人権団体「米イスラム関係評議会」はテスラに対し、ウルムチのショールームを閉鎖するよう求めた。
 
AFPはテスラにコメントを求めたが、回答は得られていない。 【1月7日 AFP】
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中国との貿易政策にたびたび疑問を呈している米国製造業同盟のスコット・ポール代表は、テスラを「恥知らず」だと批判しています。

テスラは今のところ動きを見せていませんが、もし米議会主張に沿って中国での展開を縮小すると、今度は最大市場である中国からの激しい非難にさらされます。

小売チェーン大手の米ウォルマートや米半導体大手のインテルは昨年末、新疆で生産された製品などの取り扱いを停止したことで、ソーシャルメディア上で批判が殺到し、中国消費者への謝罪も余儀なくされています。

****米インテルが中国で謝罪 新疆製品の不使用要請で****
米半導体大手インテルは23日、仕入れ先に中国新疆ウイグル自治区の製品や労働力を使わないよう求めていたことについて「尊敬する中国の取引先や協力パートナー、公衆を困惑させた」と中国の会員制交流サイト(SNS)で謝罪した。中国国内で同通知に対する批判が高まったことで、対応を余儀なくされた形だ。

ロイター通信によると、インテルは仕入れ先に対して同自治区の労働者を使用したり、関係する製品やサービスを調達することがないよう求める公開文書を出していた。これに対し、中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報が23日付の社説で「荒唐無稽で目障りだ」と反発。中国のインターネット上では同社に謝罪を求めたり、不買運動が呼び掛けられたりしていた。

同社は、中国のSNS「微博(ウェイボ)」で発表した中国語の声明で、文書は「米国の法律の順守」を表明したものだと説明。同自治区に関する記述は「他意や立場を表明したものではない」と釈明した。

米議会上院は16日に、同自治区を産地とする物品輸入を全面的に禁じる「ウイグル強制労働防止法案」を全会一致で可決している。

中国外務省の趙立堅報道官は23日の記者会見で、インテルの問題に関して「新疆の製品は品質が優れている。企業が使わないことを選ぶなら、彼らにとって損失だ」と発言。同自治区の強制労働問題については「完全に米国の反中勢力がでっちあげた噓だ」と反発した。【12月23日 産経】
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【アメリカ 同盟国に厳しい対中政策を強要している裏で、米国企業には「対中利権の保持拡大」を容認】
アメリカ政界の中国に対する激しい視線、その“あおり”で対応に苦慮する米企業・・・トランプ政権から続くアメリカの「対中デカップリング(切り離し)」というイメージも浮かぶのですが、逆に、「謝罪」してまでも中国市場を捨てられないアメリカ企業の対中国依存を見るべきなのかも。

アメリカ企業にとって中国巨大市場への参入は死活的に重要な問題で、米中対立にあっても積極的中国進出を続けていますし、アメリカ政府も“デカップリング”ではなく、この中国との関係を後押ししているとのこと。

****<米中対立パラドックス>米企業「中国ビジネス」急拡大=相互依存強まり、米経済界にブーメラン****
米中対立にもかかわらず米国企業の対中貿易投資は急拡大。米政権は、日本など同盟国に厳しい対中政策を強要している裏で、米国企業には「対中利権の保持拡大」を容認している。

米中対立にもかかわらず米国企業の対中貿易投資は急拡大している。中国・上海で2021年11月に開催された「中国国際輸入博覧会(輸入博)」では世界最大の中国市場の成長を取り込もうと多くの外国企業が最新の商品や技術を披露した。特に目立ったのは米国の出展企業で、過去最多となり熱気に包まれた。トランプ政権から続く米国の「対中デカップリング(切り離し)」は進展しておらず、逆に「相互依存関係」が強化されている。

この輸入博における米国の企業・団体の参加数は200超で過去最多となった。ゼネラル・モーターズ(GM)、マイクロソフト、アップル、ナイキをはじめ従来からの進出企業の多くは派手な巨大ディスプレイで会場を圧倒。メガ企業のアマゾンなど初出展の企業も目立ち、米中対立が続く中でも中国市場のビジネスチャンスを重視する姿勢が際立った。

中国税関総署によると、2021年の対米貿易総額は過去最大となった。対米貿易総額は前年比29%増の7556億ドル(約86兆円)で、3年ぶりに最高を更新。20〜21年はいずれも対米輸出の増加額が輸入の増加額を上回り、貿易黒字は拡大した。21年は25%増の3965億ドルと過去最大を記録した。米中間の貿易は拡大を続けており、貿易での相互依存はむしろ強まっている。

輸出は米個人消費の回復でパソコンや玩具の出荷が好調だった。20年2月に発効した米中貿易協議の第1段階合意で、中国は米国から輸入するモノやサービスを20〜21年に17年比で2000億ドル増やすと約束。この合意に基づき、農産品だけでなくの輸入も増加した。中国人民大学は21年12月に公表した研究リポートで「米国が仕掛けた貿易戦争は失敗に終わった」と指摘した。

◆世界貿易に占めるシェア、米国を凌駕
中国が世界貿易機関(WTO)に加盟して、21年12月で20年を迎えた。この間に貿易総額は9倍に拡大、世界貿易に占めるシェアは01年の4%から20年には13%に達した。13年には米国を追い抜き、日本を含む多くの国にとって最大の貿易相手国になった。(中略)

◆テスラの急成長、中国市場が支える
米電気自動車(EV)大手テスラは中国市場で成功した米企業の典型と言える。2021年7〜9月期決算は売上高と利益がともに過去最高を更新し、時価総額は1兆ドル(約110兆円)を突破。その驚異的な成長は中国事業が支えている。

1〜9月のテスラの中国販売台数は前年同期実績の約3.5倍に拡大。テスラの中国の販売台数は4〜6月から米国を安定的に上回るようになり、7〜9月には全体の50%に達した。2年前に稼働した上海工場の生産台数は米国工場を上回った。中国からテスラや中国企業がEVを世界中に輸出し急増している。時価総額で世界1、2位のマイクロソフトとアップルは中国事業のウエイトが大きいが、テスラも2社の中国重視戦略を追いかけている。

人口14億人を擁する世界最大の消費市場を掴もうと米企業は必死である。中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)と半導体メーカーの中芯国際集成電路製造(SMIC)が米国の事実上の禁輸リストに指定されているにもかかわらず、米国内の両社のサプライヤーがかなりの額の製品・技術の輸出許可を米商務省から取得していた事実が判明した。

昨年11月から今年4月までの期間に、ファーウェイ向けの計610億ドル(約7兆円)の製品・技術の販売について計113件の輸出許可が付与され、SMICには420億ドル近い製品・技術を販売するために188件の許可が与えられた。許可は4年間有効で、SMICの米サプライヤーによる輸出許可申請の90%強が承認され、ファーウェイの米サプライヤーによる申請は89%に許可が下りたという。

脱炭素で、中国は脱炭素(カーボンニュートラル)を今世紀中頃までに実施すると宣言しているが、米企業は保有ライセンスを前面に、中国企業への売り込みに血道をあげている。米国金融業界は中国で日本より多くのビジネス上の特権を持ちさらに拡大している。米中間の官民やの対話・交流は頻繁に行われており、中国に行くと米国人や米ブランドショップが目立ち、GMなどアメリカ車の多さに驚く。

◆米中覇権争いの中、米中のしたたか戦略
米中の世界覇権を巡る争いは表向き激化しているが、米国内では最近の経済安全保障に名を借りた対中強硬策への反発も経済・金融界を中心に根強い。米シンクタンク幹部は「トランプ政権以来の保護主義政策は結果的に世界最大の消費市場・中国でのビジネスチャンスを奪い、米国の経済力を衰退させる」と警鐘を鳴らす。米中経済の相互依存が強まる中で、米政府主導のデカプリング(対中切り離し)は進展しておらず、「米中対立パラドックス(逆説)」とまで言われている。

ウォール街や米産業界にとってビジネス上の中国の重要性はむしろ増大するばかり。米政府は中国とのビジネスをやめるよう圧力をかけておらず、逆に前述したように、ファーウェイなどへの輸出を容認するケースも散見される。

グローバルな市場経済下で、成長の機会を求める米経済界が中国市場を重視するのは当然と言える。中国政府による市場開放のチャンスを米企業がつかまなければ、欧州や他の地域の企業に横取りされるとの懸念も根強い。

米国では対中貿易規制の長期化により中国からの輸入品に高い関税がかけられているため、昨年暮れのクリスマス商戦を前に物価が上昇、消費者の不満が高まった。

中国との投資や貿易取引が多大な米金融経済界や農業界から米中対立の緩和を求めるロビー活動も活発化している。昨年11月の米中首脳会談(リモート)もバイデン大統領から旧知の習主席に要請した。

米半導体大手インテルは中国・新疆ウイグル自治区の製品や労働力を使わないよう部品メーカーに通達したことについて、昨年12月23日に中国側に謝罪した。中国の国民感情に配慮することで同社製品の不買運動などに発展するのを避ける狙いだ。

(中略)(インテルは)20年に同社の売上高の26%が中国本土と香港に依存しており、この傾向は多くの米企業にとって同様だ。インテルの「謝罪」は米経済界の中国依存を象徴する出来事と言える。(後略)【1月16日 八牧浩行氏 レコードチャイナ】
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【中国 安全保障重視の自給自足を目指す道を模索 実現は困難】
一方で、中国・習近平政権は諸外国との緊張関係の長期化に備え、安全保障重視の自給自足を目指す道を模索しているとも。ただ、その実現はかなり難しいようにも。

****中国「自給自足」まい進、先進諸国との関係悪化で****
食糧、エネルギー、原材料などあらゆる生産・流通過程の確保を公約に

中国政府は米国をはじめとする諸外国との緊張関係の長期化に備え、中国経済の強化を図っている。一部の必需品を備蓄し、外国依存度を下げる努力を加速させるため、国内生産の増加を計画中だ。
 
公式発表によると、国家発展改革委員会や農業農村省など中国の経済機関は最近、2022年の優先課題として「安全保障」を挙げている。特に、穀物からエネルギー、原材料に至るまであらゆる供給に加え、工業部品や商品(コモディティー)の生産・流通過程の確保を公約に掲げている。
 
中国はここ数カ月、穀物の買い付けを強化してきた。さらに、2001年の世界貿易機関(WTO)加盟以降、栽培を放棄したも同然だった大豆を栽培するため、耕作地を確保する計画も明らかにしている。
 
安全保障重視の経済政策は、習近平国家主席が2020年に発表した戦略を強化するものだ。習氏は国外投資や輸出よりも、国内のサプライヤーと消費者を中国経済のけん引役として優先させる戦略を掲げた。中国政府はこうした重点シフトを「国内循環を主体とする双循環」と呼んでいる。

多くの先進国との関係が一段と冷え込む中、中国の内向き転換が加速しているようだ。新型コロナウイルス感染拡大や人権問題、中国の台湾に対する主権主張など一連の問題は、米国のみならずオーストラリアやカナダ、日本を含む米同盟国との対立を引き起こし、中国は報復措置として各国からの一部製品の輸入を制限している。特にオーストラリア産石炭の輸入禁止は昨年、中国の多くの地域で電力不足を深刻化させた。

中国はますます自己主張と民族主義を強め、技術面だけでなく、長年輸入に頼ってきた主食作物などの基本的な必需品についても自給自足を目指す道を模索している。
 
国営メディアによると、習氏は12月下旬の農業に関する高官級会議で、「中国人民の茶わんは常に自分たちの手でしっかりと握らねばならず、茶わんには主に中国産の穀物を入れなければならない」と述べた。
 
中国の指導者が食糧と経済全体の安全保障を訴えるのは初めてではないが、今回は政治的な意味合いが強い。今年は10年に1度の指導者交代期を迎える中、権力の座を譲るのではなく、既存の継承制度を破って権力を維持しようとする習氏の、力強いイメージを打ち出そうとする意欲が浮き彫りになっている。
 
しかし、自給自足という課題は容易ではない。とりわけ中国は、世界との融合によって多大な恩恵を受け、世界の工場になると同時に、世界のモノを求める貪欲な消費者となっている。
 
中国ではコロナ禍を通して輸出が堅調で、中国製の防護具や在宅勤務向け端末の需要が急増するのに伴い、昨年の成長の原動力となった。

一方、中国政府が成長の源として期待する国内消費は低迷している。習氏の経済改革(市場原理や個人ではなく、国家の党支配強化を中心に据える)が、企業や消費者の信頼感を低下させたためだ。コロナ関連規制を巡る不透明感も、消費者に支出をためらわせている。
 
中国の備蓄は既に、穀物やその他の商品価格を世界的に押し上げている。専門家やエコノミストは、中国がオーストラリアや米国など緊張関係にある国からの輸入を増やすことなく、石油、石炭、鉄鉱石などの備蓄を増強する能力があるか疑問視している。

安全保障の重視は、中国の主要貿易相手国との関係悪化を反映したものだが、そうした政策転換が武力衝突の懸念を呼び起こした例もある。一例として、中国商務省は昨年末、冬場の食糧供給を確保するよう地方当局に要請。台湾を巡り中国本土の弁舌が先鋭化する中での漠然とした表現の声明発表であり、中国政府が武力による台湾奪還の準備を進めているかもしれないとの不安をあおった。
 
そのため中国の一部でパニック買いが起こり、商務省当局者が国営放送に出演して火消しに努めたほどだ。
商務省の朱小良氏は発表から程なく、国営テレビ局の中央電視台(CCTV)に対し、「生活必需品の供給はどこでも十分あり、供給は完全に保証される」と語った。【1月14日 WSJ】
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要は、アメリカにしろ、中国にしろ、政治的な思惑で何を言おうと、経済的依存関係(“依存”という言葉のイメージが悪ければ、“相互補完”でも“ウィンウィン”でも)は弱まることはない・・・といったところでしょうか。

【岸田首相 対中関係で「したたかな外交を行う」】
“米国以上に対中依存が高い”日本について、前出【1月16日 八牧浩行氏 レコードチャイナ】は以下のようにも。

****経産相「海外市場における日本ビジネスを全面支援」****
米国以上に対中依存が高いのが、低成長が続き対外貿易に依拠する日本である。21年11月10日、経団連や安全保障貿易情報センター(CISTEC)など10団体が「中国及び米国の域外適用規制について」の要請書を経済産業省に提出。12月1日施行の中国輸出管理法や関係法令の懸念点(法規の域外適用、産業政策的の実施、報復措置等)のほか、従来からファーウェイなど向けに実施されている米国の再輸出規制の懸念点について触れ、政府ベースでの対応を要請した。

昨年12月、梶山経産相は産業界に対して経産省としての3点の考えを表明した。(1)企業各社は海外市場におけるビジネスが阻害されることのないよう万全の備えをして頂きたい(2)他国企業と同等の競争条件を確保することが重要であり、過度に萎縮する必要は全くない(3)仮にサプライチェーンの分断が不当に求められるようなことがあれば、経産省は前面に立って支援をしていきたい―などである。経済安全保障に名を借りた企業活動制限の動きをけん制したと受け止められている。

最近になって、岸田首相は対中関係で「したたかな外交を行う」との言辞を繰り返しているが、米国バイデン政権が「米経済界に根強くある、国益を優先し攻撃一辺倒でない、したたかな外交をすべきだとの声に押されて(米経済界に配慮した)ダブルスタンダード(二重基準)政策を展開していることに触発されたため」(外務省筋)とみられている。経団連幹部によると、米政権は、日本など同盟国に経済安全保障など厳しい対中政策を強要している裏で、米国企業には「対中利権の保持拡大」を容認しているという。

中国の経済パワーは日米だけでなく欧州、アジア、アフリカ、中南米にも及んでいる。日米の一部政治家による表向き威勢の良い攻撃的な言説が目立つが、その裏で着々と進行する「不都合な真実」を注視すべきである。【1月16日 八牧浩行氏 レコードチャイナ】
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アフガニスタン・タリバンとパキスタンのTTP対応などの“微妙”な関係

2022-01-15 22:17:50 | アフガン・パキスタン
(アフガニスタンとの国境を守るパキスタン兵(2021年9月)【1月13日 Newsweek】)

【アフガニスタン撤退で、アメリカ議会で強まった“戦犯”パキスタン批判 パキスタン「もはやタリバンをコントロールできない」】
パキスタン、特にその諜報機関である三軍統合情報部(ISI)がアフガニスタンのイスラム原理主義勢力タリバンを生み、育ててきたことは周知の事実です。

その目的の最大のものは、隣国アフガニスタンにおいて宿敵インドの影響力が強まるのを防ぐためと言われています。

ただ、パキスタン政府は「我々のアフガンへの影響力は低下している。もはやタリバンをコントロールできない」と繰り返しています。

****タリバン再登場に戦慄するインド・パキスタン****
(中略)
パキスタンはかねてアフガニスタンを「兄弟国」と見なして付き合ってきた。実際、タリバンのメンバーは、アフガニスタンにおける多数派であるパシュトゥーン人が主流。

このパシュトゥーン人は隣国パキスタン西部のペシャワールやマルダンなどに幅広く居住している。平時においてはお互いの行き来も活発だった。

そしてパキスタンの貧困層や地方住民には景気悪化や汚職などに不満を強める人々が多く、程度の差こそあれタリバンへのシンパシーを抱いていることも無視できない。

アメリカとともにソ連のアフガン侵攻に対抗するためタリバンを支援したとされるパキスタンだが、同国の外交官らはかねて「我々のアフガンへの影響力は低下している。もはやタリバンをコントロールできない」と繰り返してきた。

だが、普通に考えればパキスタンの諜報機関である三軍統合情報部(ISI)は今なおタリバン、とりわけ最強硬派の「ハッカニ・ネットワーク」と何らかの接触を維持しているとみていいだろう。

過去20年間、ISIはタリバンのリクルート活動などを黙認あるいは支援してきた、と言われている。パキスタンの手助けや見逃しがなければタリバンの「復活」はあり得なかった、という主張には一定の説得力がある。(後略)【2021年8月30日 山田剛氏 日本経済研究センター】
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当然ながら、タリバンと戦ってきたアメリカには“同盟国”パキスタンの“裏切り的”タリバン支援には長年苛立っていましたが(とは言いつつも、結局パキスタンに対し決定的な対応をとらなかった、あるいは、とれなかった訳でもありますが)、混乱の中のアフガニスタン撤退という屈辱を受けて、改めてパキスタン批判が強まりました。

****米政界で対パキスタン議論 圧力か孤立回避か****
イスラム原理主義勢力タリバンによるアフガニスタン掌握を受け、バイデン米政権が、対テロ戦争の「重要同盟国」と位置付けられてきたパキスタンへの政策見直しを進めている。同国が米国の援助を得る一方で、タリバン支援を続けていたためだ。

議会ではパキスタンへの〝懲罰〟を主張する声が出ているが、専門家らには同国を孤立させれば大規模な地域紛争を招く危険があるとの慎重論が強い。

米下院外交委員会で5日に行われた公聴会では、議員と外交・安全保障の専門家らの間でパキスタン関与のあり方が議論となった。

トランプ前政権で大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を務めた証人のマクマスター氏は「パキスタンへの支援を停止して孤立させ、タリバンなどジハード(聖戦)勢力を保護した責任を負わせるべきだ」と述べ、民主、共和両党の一部議員が同調した。

反論したのは、同じく証人として出席したアーミテージ元国務副長官らだ。
アーミテージ氏は、パキスタンの孤立は中国、インドの領有権争いも絡む係争地カシミール地方の不安定化を招くと警告。

駐パ、駐アフガン両大使などを歴任したクロッカー氏も「パキスタンを罰する(外交政策上の)余裕はない。カシミールの暴発は中印パの地域戦争に発展する」と証言した。

こうした議論が熱を帯びるのは、アフガン政策の失敗はパキスタンが原因だとの見方があるためだ。
米国は「テロとの戦い」にパキスタンの協力は欠かせないと判断。米メディアによると2002年以降、計330億ドル(約3兆6700億円)以上の軍事・経済支援を供与してきた。

一方、1990年代のタリバン創設にも関与したパキスタンは、したたかに立ち回った。2001年のタリバン政権崩壊後も自国内に拠点を提供。タリバンを手駒に地域情勢への影響力を強め、対立するインドを牽制(けんせい)するといった狙いがあった。

タリバンが米軍やアフガン政府との戦闘を継続できたのは、パキスタンでの戦闘員徴募や訓練、武器調達が可能だったからだ。

こうした経緯から、タリバンのアフガン掌握で利益を得たのはパキスタンであるようにも見える。だが、事態はさらに複雑だ。

アフガン駐在経験のある外交筋は「勝利したタリバンが制御不能になるのを最も懸念しているのは、実はパキスタンだ」と語る。

同国内には、タリバンの影響で誕生した「パキスタンのタリバン運動」(TTP)などの過激派が存在する。それらが今後、パキスタン政府への攻撃やインドへのテロなどを行うため、アフガン領を安全地帯として利用する恐れは強い。タリバンがパキスタンを利用したのと同じ構図だ。

米政界で対パ非難が強まる中、ブリンケン国務長官は9月、米パ関係を「再評価」すると表明した。だが、パキスタンが孤立感を強めれば、巨大経済圏構想「一帯一路」を通じて域内の影響力を高める中国との関係緊密化を一層促すことにもつながる。

パキスタンのカーン首相の安全保障補佐官を務めるユースフ氏は今月、米外交専門誌フォーリン・アフェアーズへの寄稿で、対パ非難の高まりは米国など西側諸国がアフガン政策失敗を糊塗(こと)するための「スケープゴート」探しだと批判した。【2021年10月13日 産経】
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【タリバンを支援してきたパキスタンにとってもタリバン復権は副作用も】
上記記事にもあるように、タリバンとパキスタンの関係は、カジミール情勢、中国の影響力などもあって複雑な面もありますが、パキスタンとしても(国軍、ISIではなく、少なくともパキスタン“政府”は)自国内のイスラム過激派「パキスタンのタリバン運動」(TTP)の活動活発化やアメリカなどのパキスタン批判を警戒して、タリバンの復権には慎重な面もあるようです。

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旧ガニ政権を手厚く支援してきたインドにとって、タリバンのアフガン全土掌握は大きなダメージだ。これをもってパキスタンに「外交的勝利」が転がり込んできた、といえなくもない。

アフガニスタンはインドに対して大きな外交カードであり優位性となる。パキスタンのイムラン・カーン首相がタリバンの全土制圧を「隷属からの解放」と述べて歓迎した背景はこういう事情があるのだろう。

しかしタリバンの復権はパキスタンにも大きな副反応をもたらす。今後パキスタンがアフガン支援でタリバン寄りの姿勢を見せた場合には、陸軍基地の目と鼻の先でテロ組織アルカイダの頭領オサマ・ビン・ラーデンの潜伏を許すなど数々の失態を大目に見たうえ、借金まみれのパキスタンを見捨てずに付き合ってきた米国との関係が一気に悪化する恐れもある。(中略)

しかし、タリバンの台頭によってパキスタンの過激派が覚醒して再び政府に牙を剥く恐れもある。2014年に北西部ペシャワールで児童ら150人が犠牲となったテロなどをきっかけに同国陸軍は情け容赦ない過激派掃討作戦「ザルベ・アズブ(預言者ムハンマドの剣撃)」を断行、タリバン残党らも含む多くの武装勢力をアフガン側に追いやったが、彼らが再びパキスタンに舞い戻ってくる可能性もある。

パキスタン国内には、本家タリバンと緩やかに連携している「パキスタン・タリバン運動(TTP)」が跋扈する。ノーベル平和賞受賞者であるマララ・ユスフザイさんを襲撃したのも彼らの仕業だった。

パキスタン当局、特に軍はタリバンが再びテロ集団を迎え入れるなど暴走しないよう働きかける一方、指導部に対しては自国の過激派を扇動しないようくぎを刺しておく必要がある。【前出 2021年8月30日 山田剛氏 日本経済研究センター】
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【国境「柵」をめぐるタリバンとパキスタンの対立 かつてのようにパキスタンの言いなりではない今のタリバン】
このように“微妙”な関係にもあるアフガニスタン・タリバンとパキスタンですが、両国国境にパキスタン側が設置した「柵」を巡って対立があるとも報じられています。

****タリバンとパキスタンがまさかの「仲間割れ」、現地の勢力図に大きな変化が****
<パキスタンが設置していた国境の「柵」をめぐり、両軍兵が衝突。互いを必要とするはずの両者は妥協点を見いだせるか>

昨年8月、タリバンがアフガニスタンの首都カブールを制圧すると、隣国パキスタンでは歓喜の声が上がった。なにしろタリバン運動の発祥地だし、アフガニスタンに友好的な政府ができるのは大歓迎。一貫して親米政権を支持してきた天敵インドの影響力低下も必至だ。

しかし、そんな蜜月の終わる兆しが見えてきた。両国の国境、いわゆる「デュアランド線」での不穏な動きだ。
昨年12月19日にはアフガニスタン東部の国境地帯で、パキスタン側の設置した有刺鉄線のフェンスをタリバン兵が実力で撤去した。年末の30日にも似たような摩擦が南西部であった。フェンスの設置は2014年から、国境紛争と密輸を防ぐためと称してパキスタン側が進めていた。

この2回目の摩擦を受けてタリバン政権は強く反発。国防省の広報官は年頭の1月2日に、パキスタン側には「有刺鉄線で部族を分断する権利はない」と主張した。ここで言う「部族」は、国境の両側で暮らすパシュトゥン人(アフガニスタンでは多数派だ)を指す。別のタリバン広報官は、「デュアランド線は一つの民族を引き裂く」ものだとし、その正当性を否定した。

この国境線は1893年に英領インドとアフガニスタンの合意で成立した。だが1947年にパキスタンが独立して以来、歴代アフガニスタン政権はデュアランド線に異議を唱え続けてきた。

自分たちはパキスタンの代理勢力ではない
ただ、タリバン側の動きには他の思惑もありそうだ。自分たちはパキスタンの代理勢力ではないと、対外的に主張したいのかもしれない。多数派のパシュトゥン人にすり寄るためという見方もできる。

フェンスの存在が国境を越えた人流・物流の妨げになるという現実的な問題もある。タリバン構成員には今も、パキスタン側に家族を残している者が少なからずいる。

年明け早々、パキスタンとタリバンは交渉を通じて国境間の緊張を解くことで合意した。だが容易ではない。パキスタンの外相も「外交的に解決できると信じたい」と、心もとない発言をしている。

消息筋によれば、パキスタン政府はフェンス設置へのタリバンの理解を得つつ、越境往来を増やせるような譲歩をするつもりだという。だが、その程度でタリバンの不満は収まるまい。

それでもパキスタンに対するタリバンの経済的・外交的依存の大きさを考えれば、彼らもこれ以上の関係悪化は避けたいだろう。

パキスタン側にも、早期の事態収拾を図りたい事情がある。タリバンとの緊張が高まれば、最近パキスタン国内でテロ活動を活発化させているテロ組織パキスタン・タリバン運動(TTP)への対処が難しくなるからだ。

タリバンの仲介で、アフガニスタンを拠点とするTTPとパキスタンは昨年11月に停戦1カ月の休戦協定を結んだが、TTPはその延長を拒んでいる。交渉再開にはタリバンの協力が不可欠だ。

ただしタリバンも、TTPには強く出られない。国内のTTP基地へのパキスタン軍の攻撃を黙認するという選択肢もない。

パキスタンとタリバンの関係は持ちつ持たれつだ。しかし今のタリバンは、かつてのようにパキスタンの言いなりではない。【1月13日 Newsweek】
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タリバン側に“かつてのようにパキスタンの言いなりではない”という思いがあるとすれば、パキスタン側には“いったい誰のおかげで今のタリバンがあると思っているのか”という本音もあるでしょう。

【パキスタン・タリバン運動(TTP)をめぐるタリバンの“微妙”な対応】
上記のようにタリバンとパキスタンの“微妙”な関係のなかでも、とりわけ微妙なのがタリバンのパキスタン・タリバン運動(TTP)への対応。

パキスタン国内でテロ活動を活発化させているテロ組織パキスタン・タリバン運動(TTP)をパキスタン軍は厳しく掃討してきましたが、タリバンの仲介で一応「停戦」が昨年11月に成立しました。

****パキスタンのイスラム武装勢力「停戦継続は困難」…メンバー釈放巡り政府と対立****
パキスタンのイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」は9日、政府との間で先月9日から1か月続いた停戦について、「継続は困難」だとして延長しない方針を示した。TTPが挙げるメンバーの釈放が実施されず、軍が掃討を継続した、などと主張した。双方による戦闘が再発する恐れがある。
 
TTPの報道官名で出された声明では、メンバー102人の釈放が9日までに実現せず、双方が和平を話し合う協議会に政府関係者が来ないと批判した。さらに政府側が停戦を破って、掃討作戦やTTP関係者の殺害をこの1か月に何度も行ったと非難した。
 
地元紙ニューズは10日、最高指導者のヌール・ワリ・メスード司令官も音声で停戦延長を拒否する意向を示したと報じた。ニューズによれば、直近1週間で100人近くが釈放されたが、TTPが要求する102人とは異なる可能性がある。
 
停戦は、双方と関係があるアフガニスタンのイスラム主義勢力タリバンの仲介で実現した。政府とシャリーア(イスラム法)に基づく極端な統治を求めるTTPの隔たりは大きい。【12月10日 読売】
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****TTP、パキスタン政府との一時停戦終了を表明 タリバンが仲介****
パキスタンの反政府武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)は9日の声明で、パキスタン政府との間で11月から1カ月間実施していた一時的な停戦を終了することを明らかにした。一時停戦は、TTPと友好関係にあり、パキスタンの軍情報機関とも近いとされるアフガニスタンのイスラム主義組織タリバンが仲介していた。(中略)
 
TTPは、パキスタン西部にある部族地域を拠点とする複数の武装組織の連合体。アフガンのタリバンと友好関係にある。2012年には女子教育の重要性を訴えていたマララ・ユスフザイさんを銃撃したほか、軍などを標的としたテロを繰り返している。

TTPのメンバーの多くは現在、パキスタン軍の掃討作戦から逃れる形でアフガン東部に潜伏している。

一方、アフガンのタリバン暫定政権の外務省幹部によると、パキスタンでテロを繰り返すTTPの存在は、国際的な承認を目指すタリバンにとって「重荷」となっていた。

ただタリバンにとってTTPは友好関係にあるため、強制的に追い出すこともできず「パキスタン政府と和平合意を結んでもらうのが最善策」と考え、両者の仲介を試みたという。【12月10日 毎日】
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“国際的な承認を目指すタリバンにとって「重荷」となっていた”とも指摘されるTTP幹部がアフガニスタン領内で殺害されました。

****イスラム武装勢力の幹部殺害 パキスタンから逃亡****
パキスタン軍関係者などによると、隣国アフガニスタン東部ナンガルハル州で10日、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」の幹部が殺害された。殺害の経緯は不明。副指導者に次ぐ立場と指摘され、TTP報道官も務めていた。
 
死亡したのはムハンマド・ホラサニ氏。軍は、ホラサニ氏がパキスタン治安当局へのテロ攻撃を数多く手掛けた後にアフガンへ逃亡し、新たな計画を練っていたと指摘している。
 
パキスタン政府とTTPは昨年11月、1カ月の停戦で合意。TTPが12月に停戦延長を拒否して以降、軍との戦闘が激化していた。【1月11日 共同】
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TTP幹部殺害にタリバン、パキスタンがどのように関与していたのか、関係はないのか・・・想像はいろいろできますが、真相はわかりません。

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イギリス・ジョンソン首相  クリパ疑惑に続き、新たな不祥事が次々と 与党内からも強まる辞任圧力

2022-01-14 22:40:30 | 欧州情勢
(ジョンソン首相は12日、ロックダウン中のパーティー参加について議会で謝罪した【1月13日 WSJ】
別に特別の意味はないのでしょうが、首相の後ろに腕組みして写っている議員?スタッフ? なんとなく首相を冷ややかに眺めているような感じにも見えます)

【クリパ疑惑も収まらないなかで、ロックダウン中の「飲み会」また発覚 首相は謝罪】
イギリス・ジョンソン首相が、2020年の年末、新型コロナの行動規制が命じている最中に、自らの側近・スタッフが首相官邸でクリスマスパーティーを楽しんでいた等の疑惑で批判を浴びているという件は、2021年12月17日ブログ“イギリス コロナ、オミクロン株の感染拡大で規制強化へ コロナ以上に首相を追い詰めるクリパ疑惑”でも取り上げました。

****コロナ規制下、英官邸でXマスパーティー? 言い訳練習動画で火に油****
英首相官邸が昨冬、新型コロナウイルス対策の厳しい規制下で禁じられていたクリスマスパーティーを開いた疑惑が浮上し、批判を呼んでいる。

8日には官邸職員が「ルール破り」をちゃかした様子を撮影した動画の存在も発覚。ジョンソン首相は議会で謝罪したが、我慢を重ねてきた国民の怒りは収まっていない。
 
疑惑は英紙ミラーが1日に報じた記事が発端だ。昨年12月のクリスマス前に、官邸内で職員らが宴会を開き、ワインを飲んでクイズ大会をしたという内容だった。当時のロンドンは感染者数が急増。政府は市民に自宅待機を命じ、人が集まることを禁じていた。
 
官邸側はパーティーの存在を否定。出席していなかったとされるジョンソン氏は「規則は守られていた」などと釈明した。
 
ところが8日には民放ITVが、当時の官邸報道官らが、記者会見でパーティーの存在を追及された場合に備えて問答している動画を特報。報道官はおどけた様子で「どう答えよう? 」「ワインとチーズなら大丈夫? 」「あれは会議でした。社会的距離は保っていません」などと笑いながら話す姿が映っていた。動画はパーティーからまもなく撮られたとみられる。
 
これに対し、国民の怒りが爆発。ソーシャルメディア上では首相の非難が続き、市場調査会社サバンタ・コムレスが約1千人に行った緊急世論調査では、54%がジョンソン氏は「辞任すべきだ」と回答した。
 
ジョンソン氏は8日、議会で「国民の怒りはもっとも。申し訳ない」などと謝罪。身内の保守党議員からも批判され、内部調査を進めるとしている。(後略)【12月9日 朝日】
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****ジョンソン英首相、官邸で昨年クリスマスにオンラインクイズに参加****
イギリスで厳しいパンデミック対策が敷かれていた昨年12月に、ボリス・ジョンソン英首相が首相官邸で、スタッフ相手にオンラインで行われたクリスマス・クイズに参加していたことが明らかなった。英紙サンデー・ミラーが11日深夜に伝えた報道内容を、官邸が認めた。(後略)【12月12日 BBC】
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12月14日に行われたイングランドで一部の会場やイベントに入場する際に新型コロナウイルスのワクチン接種を証明するワクチンパスポートを導入する案の採決では、こうした規制強化に反対する与党・保守党の議員98人が上記“不祥事”への不満もあって「反対」投票する造反もあり、更に保守党の岩盤選挙での補選敗北など、ジョンソン首相の与党内での求心力低下も目だってきました。

「あと1回ストライクを取られれば、アウトだ」(保守党の下院議員、サー・ロジャー・ゲイル)といった発言も当時ありましたが、その後も不祥事がボロボロと明らかになっています。

****英首相官邸、ロックダウン中の「飲み会」また発覚 100人近くを招待=報道****
イギリスで新型コロナウイルス対策のため厳しいロックダウンが実施されていた2020年5月、首相官邸の庭で「飲み物持ち寄り」の集まりが開かれ、100人近くが招待されていたことが、英ITVの報道などで明らかになった。

ボリス・ジョンソン首相と婚約者のキャリーさん(現夫人)も集まりに参加していたという証言もあるが、首相は明言を避けている。

この集まりが開かれたのは2020年5月20日。イギリスは当時、新型ウイルスの感染拡大を受けた1回目のロックダウンの最中だった。このロックダウンでは、他世帯の人とは屋外で1人としか会えない決まりだった。

ロンドン警視庁は、新型コロナウイルス対策の「ルール違反疑惑に関連する相次ぐ報道」について、内閣府に連絡を取っていると発表した。

5月20日の集まりについては、元首相顧問のドミニク・カミングス氏が先週、自身のブログで明らかにした。
その後、ITVニュースが10日、この集まりへの招待メールを報道。ジョンソン首相の首席秘書官、マーティン・レノルズ氏の名前で送られていた。

メールの件名には「距離を取った飲み会!(首相官邸内のみ閲覧可能)」と書かれている。
「とても忙しい昨今ですが、すてきな天気を最大限に生かして、夕方から首相官邸の庭で、社会的に距離を保った飲み会を開催しそうと思います」と記されている。
「午後6時から、ご自分の飲み物を持参の上、お集まりください」

首相官邸ではこの日、新型ウイルス対策をめぐる記者会見が開かれており、オリヴァー・ダウデン文化相(当時)が、過去24時間で363人がCOVID-19で亡くなったと発表していた。

この会見でダウデン氏は、「同居していない人とは、屋外の公共の場で1人だけ、2メートルの距離を置いて会うことができる」と述べていた。

官邸職員からは疑問の声も
BBCが取材した官邸関係者のうち2人が、この集まりにジョンソン首相とキャリーさんが参加していたと証言した。
一方で、飲酒を伴う集まりの開催に、懸念を口にする職員もいたという。「このメールはあまりにも不見識だと、複数の人が話し合っていた」と、職員の1人は明らかにした。
「多くの人が、『なんなんだこれは?』と言っていたのを覚えている」と話す職員もいる。(後略)【1月11日 BBC】
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この件で、当初回答を避けていたジョンソン首相は自身の参加を結局認め、謝罪に追い込まれています。
ただ、「職務上の集まりと暗黙のうちに信じ込んでいた」という弁解が、批判者の神経を逆撫でする感も。

****英ジョンソン首相、ロックダウン中「お酒持参」パーティー参加を謝罪****
英国のジョンソン首相は12日の議会下院で、新型コロナウイルスの感染拡大で英国がロックダウン下にあった2020年5月に開かれた官邸でのパーティーを巡り、自身も参加していたと初めて認め、謝罪した。辞任を求める声が相次いだが、パーティーとの認識はなかったと弁明し、応じなかった。

ジョンソン氏は「ルールを作った人々がルールを守っていないと感じた時の皆さんの私と政府への怒りを理解する」「私は責任を負わなければならない」と述べた。
 
本人の説明によると、5月20日午後6時過ぎ、スタッフらをねぎらうために官邸の庭に出て、25分後に執務室に戻った。パーティーではなく「職務上の集まりと暗黙のうちに信じ込んでいた」という。「厳密にはコロナ規則の範囲内と言える」とも主張した。
 
パーティーについては、英メディアが今月10日、首相秘書官が招待メールを100人ほどに送っていたと文面の写真付きで報道。そこに「お酒を持参で集まって!」と記されていた。当時、仕事で不可欠な場合などを除き、公の場での同居人以外との面会は1人までに制限されていた。
 
ジョンソン氏の参加も相次いで報じられたが、12日になるまで回答を避けていた。野党だけでなく、身内の保守党議員からも辞任を求める声が出始めている。
 
政権を巡っては、このパーティー以外にも、一昨年のクリスマス時期に官邸や保守党本部などで集まりがあったことをうかがわせる写真や証言が次々と明るみに出ている。【1月13日 朝日】
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【更に別件も 「女王が追悼している時、首相官邸はパーティーを開いていた」】
更に、追い打ちをかけるように別の不祥事も明らかになっています。

****英官邸、また別の「飲み会」疑惑 故フィリップ殿下の葬儀前日に「2件の送別会」****
新型コロナウイルス対策のロックダウン中に数々の集まりを開いていたことが発覚している英首相官邸が、2020年4月に亡くなったエリザベス女王の夫フィリップ殿下の葬儀の前日にも、2件の送別会を開いていたとみられることが13日明らかになった。

英紙テレグラフによると、この集まりは昨年4月16日に行われ、30人ほどが参加。アルコール飲料が提供され、日付が変わるまで音楽がかかり、参加者はダンスに興じていたという。
この当時、イングランドでは屋内で他世帯の人と集まることが禁じられていた。

首相官邸は、この日に集まりが開催されたことを否定していない。(中略)

ジョンソン首相は当時、週末を首相の公的な別荘「チェッカーズ」で過ごしていたため、どちらの送別会にも参加していない。

テレグラフによると、スラック氏の送別会と同じ日、首相官邸の地階ではジョンソン首相の私設カメラマンの1人の送別会も開かれていた。

職員らはこの送別会のため、スーツケースを持って近くの店舗に行き、「ワインを買い込んで」来たという。
関係者は、地階の送別会は「パーティーらしい雰囲気」で、コピー機の上に置かれたラップトップから「音楽が鳴り響いていた」と証言している。
その後、2つの送別会は首相官邸の庭で合流し、深夜過ぎまで続いたという。

この当時、イングランドでは同世帯や支援バブル以外の人との屋内での交流は禁じられていた。屋外では、最大6人、2世帯までが集まれることになっていた。また、パブやレストランなども屋外営業に限定されていた。

「女王が追悼していた時、官邸はパーティー」
(中略)最大野党・労働党のアンジェラ・レイナー副党首は、「女王は葬儀の際、他の大勢がそうしたように、個人的なトラウマや犠牲を抱えながらも国のためにルールを守り、独りで喪に服していた」と話した。
「首相官邸の文化や慣習には言葉を失うし、この責任は首相にある」

野党・自由民主党のサー・エド・デイヴィー党首はツイッターで、改めてジョンソン首相の辞任を要求。「女王が独りで座り、フィリップ殿下を追悼している写真は、ロックダウンを象徴するものだった」と投稿した。
「それは彼女が女王だからではなく、他の大勢と同じように独りで追悼する、1人の人間だったからだ」
「だが女王が追悼している時、首相官邸はパーティーを開いていた」(後略)【1月14日 BBC】
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もともと、決して「人格者」イメージではない、どっちかと言えば「型破り」イメージのジョンソン首相ですから、多少のスキャンダルには打たれ強いところもありますが、これだけいろいろ出てくると、首相を含めた政権の「体質」が問われますし。厳しい規制を強要されていた国民の納得は得難いでしょう。

首相自身が参加していないにしても「女王が追悼している時、首相官邸はパーティーを開いていた」というのもイメージが悪いです。日本で同様のことがあれば相当のバッシングを受けるでしょうが、イギリスではどうでしょうか。

【強まる辞任圧力】
当然ながら、与党内からの辞任圧力が強まっています。

****ジョンソン首相、最大の危機=封鎖中のパーティーで謝罪―与党からも辞任要求・英****
ジョンソン英首相が2019年7月の就任以来、最大の危機に直面している。新型コロナウイルスの流行でロックダウン(都市封鎖)中だった20年5月、首相官邸で開かれたパーティーに出席していたことが発覚。謝罪したものの、野党に加え与党・保守党からも辞任要求が相次ぎ、幕引きには程遠い状況だ。
 
首相は13日、家族が新型コロナに感染したとして、予定していた地方視察を取りやめた。自らの政府が定めたルールに忠実に従った格好だが、「ルール違反」のパーティー参加に、国民の怒りは謝罪後も収まっていない。

13日夜には、昨年4月のエリザベス女王の夫フィリップ殿下の葬儀前夜にも官邸でパーティーが開かれていたという新疑惑も報じられた。
 
首相が率いる保守党への逆風も強まっている。調査会社ユーガブの最新世論調査で、保守党の支持率は28%に下落し、最大野党・労働党に10ポイントのリードを許した。13年以来の劣勢という。
 
首相は12日、官邸中庭での20年5月のパーティーに約25分間出席したと認め謝罪。しかし、「仕事のイベントだと思った」と釈明したことが火に油を注いだ。ソーシャルメディアでは、パーティーの写真に「仕事のイベント」の説明書きを添える冗談が流行。酒店の看板を「オフィス用品店」と書き換える画像も出回った。
 
保守党内の一部議員は、党首(首相)の不信任投票を要求する考えを表明。党の規定では、所属下院議員の15%(現在は54人)が求めた場合、不信任投票が実施される。
 
当面の焦点は、一連の官邸内のパーティー疑惑を調べている内部調査の結果だ。月内にも公表される調査結果次第では、さらに多くの議員が不信任に雪崩を打つ可能性がくすぶる。それを乗り切ったとしても、5月の地方選に向けて政権運営は厳しさを増しそうだ。
 
こうした事態を受け、英ブックメーカー(賭け屋)は首相の辞任時期をめぐる賭けの倍率を大幅に修正。大手ウィリアム・ヒルは「年内」の賭け率を1.4倍に切り下げ、最有力シナリオと予想した。後継候補として有力視されるスナク財務相、トラス外相らの動向にも注目が集まっている。【1月14日 時事】 
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【アンドリュー王子のセックス・スキャンダル】
なおイギリスでは、王室・アンドリュー王子のスキャンダルにも動きが。こちらは未成年者とのセックス・スキャンダル。

****英アンドリュー王子、軍役職と「殿下」使用権を失う 性暴力疑惑での訴訟****
イギリスのヨーク公アンドリュー王子(61)が、軍の役職と慈善団体の後援者の役職を女王に返上した。英王室バッキンガム宮殿が13日、発表した。

王室筋によると、アンドリュー王子は公的な場での敬称「His Royal Highness(殿下)」の使用もやめるという。

エリザベス女王の次男のアンドリュー王子をめぐっては、ヴァージニア・ジュフリー氏(38)が17歳の時に性的暴行を受けたとして、米ニューヨークで民事訴訟を起こしている。王子は一貫してこの訴えを否定している。
王子に近い人物によると、王子は「自分自身を弁護し続ける」と述べたという。

米連邦裁判事は12日、民事訴訟を継続する決定を出した。王子に近い人物は、「ジュフリー氏の訴えについて判断したものではない」と強調した。

民間人として裁判に
英王室は13日、声明を発表。「女王の承認と同意を得て、ヨーク公の軍との関係性と、王室としての後援者の役職は、女王に返上された」、「ヨーク公は引き続き公務に就かず、今回の訴訟では民間人として自己弁護していく」とした。

関係者によると、アンドリュー王子のすべての役職は直ちに女王に返上された。今後、王室の他のメンバーたちが引き継ぐことになる。また、今回の問題は王室で大きな話題になっているという。

2020年3月に王室の公務から退いたサセックス公爵ハリー王子と妻のメガン妃と同様、アンドリュー王子は殿下(HRH)の称号は持ち続けるが、公的な場では使用しない。

10の軍役職を返上
アンドリュー王子は王立海軍に22年間所属。フォークランド紛争ではヘリコプターのパイロットとして従軍した。
今回、英軍最高レベルの歩兵連隊である近衛歩兵連隊の大佐(Colonel of the Grenadier Guards)の役職のほか、9つの軍役職を返上した。また、カナダやニュージーランドの軍の名誉職も失うことになる。
ただ、英王室によると、海軍中将の階級は維持されるという。(中略)

一部の慈善団体などはすでにアンドリュー王子との関係を断っている。しかし、名門ゴルフクラブや学校、文化団体など数十の組織では、王子は王室後援者としての地位を維持し続けてきた。

性暴力疑惑めぐる訴訟
ジュフリー氏は、米富豪ジェフリー・エプスティーン元被告(故人)と親交のあったアンドリュー王子から、2001年にニューヨークやロンドンなどで3回にわたり性的暴行を受け、「多大な精神的、心理的な苦痛と損害」に悩まされ続けていると訴えている。

裁判所に提出した書類でジュフリー氏は、自らを性的人身売買の犠牲者だとし、エプスティーン元被告に虐待されていたと主張している。

また、別の男性有力者たちに「貸し出される」こともあったと説明。17歳の時、アンドリュー王子とセックスするよう差し向けられたと訴えている。(中略)

アンドリュー王子は、2019年にBBC番組ニューズナイトに出演。ジュフリー氏と会った記憶はないと述べた。また、同氏がアメリカとイギリスで王子とセックスをしたと訴えていることについて、そうしたことは「起きていない」と話した。

また、エプスティーン元被告やその恋人のギレイン・マックスウェル被告(60)との交友関係は一時的なものだったと説明した。王子はこの番組出演後まもなく、公務から離れた。

マックスウェル被告は昨年12月、少女たちをエプスティーン元被告に仲介した罪などで、ニューヨークの裁判所で有罪評決を受けた。【1月14日 BBC】
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スキャンダルが表面化したのは2014年末ですが、“昨年(2019年)、公務を離れ、240余のチャリティの後援から身を引き、当然、王室助成金の対象からも外れたことが発表されたのだ。表向きは、「自らが決めた」となっているが、あまりの醜態に、チャールズ皇太子、エリザベス女王から「追い払われた」のだった。”【2020年1月15日 森 昌利氏 Hint-Pot】とのことで、すでにエリザベス女王からも愛想をつかされているようです。
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エチオピア  ティグレ州出身のテドロスWHO事務局長「ティグレほど地獄のような場所ない」

2022-01-13 22:45:59 | アフリカ
(エチオピア北部アムハラ州で、ティグレ人反政府勢力に攻撃されたとされる焼け焦げた自宅を見せる男性(2021年12月6日撮影)【1月13日 AFP】
エチオピア政府の厳しい規制のためか、政府軍の空爆の様子などティグレ州の現状に関する写真等は目にしていません)

【首都陥落の危機を脱し、再び政府軍が攻勢】
東アフリカ・エチオピアでは、以前国の実権を握っていた少数民族ティグレ人勢力とノーベル平和賞受賞者でもあるアビー首相率いる政府軍との間で内戦が続いています。

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エチオピアでは、長年権力を牛耳って権益を独占してきた少数民族のティグレ人を排除して、民族単位ではない国家を構築しようとアビー首相(ノーベル平和賞受賞者)が中央集権化を進め、それに反発したティグレ人が2020年11月に反乱。

その反乱を鎮圧する政府軍に加え、旧政権時代のティグレ人に遺恨がある隣国エリトリア軍も介入して、一時は政府軍が反乱を抑え込んだように見えましたが、2021.年6月頃から情勢は変化。ティグレ人側が反転攻勢をかけ、逆に首都アジスアベバに迫る勢いとなっています。【2021年11月30日ブログ“エチオピア 首都攻防の軍事衝突の様相 外国人は退避 現地住民は飢餓と虐殺の脅威に直面”】
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戦況は目まぐるしく変化しており、上記のようにいったんは政府軍が鎮圧したかのようにみえましたが、ティグレ人勢力の反転攻勢で首都陥落が危ぶまれる状況ともなり、アビー首相は自ら前線に出て首都防衛を行う事態になりました。

アフガニスタンでの記憶もまだ新しいので、首都陥落に備え各国は自国民のエチオピアからの退避に備えた態勢をとるまでになりました。

そこから戦況は更に反転。昨年末には今度は政府軍がティグレ人勢力を根拠地ティグレ州に追い詰める展開となっています。(戦線が激しく南北に移動したかつての朝鮮戦争のような展開です)

****エチオピアの反政府勢力、拠点の隣接州から撤退 政府軍が攻勢強める****
エチオピア政府軍と軍事衝突している同国北部ティグライ州を拠点とする反政府勢力「ティグライ人民解放戦線(TPLF)」は20日、隣接するアムハラ州とアファール州から撤退したと発表した。TPLFの広報担当者がツイッターで明らかにした。ただ、撤退により、政府との停戦交渉が進展するかは不透明だ。
 
TPLFは10〜11月にかけアムハラ州を南進し、一時は首都アディスアベバまで200キロ付近まで迫っていると主張していた。

一方、アビー首相は11月22日、自ら前線へ赴いて軍の指揮を執ると宣言。政府軍が反転攻勢を強め、今月(2021年12月)6日には首都から約400キロ北東にある要衝デセとコンボルチャを奪い返したと発表していた。
 
AFP通信によると、アビー首相の広報官は「TPLFはここ数週間で大きな敗北を喫しており、それを隠すために戦略的撤退を主張している」と指摘。アムハラ州には部分的にTPLFが残っている地域があると訴えた。
 
国連世界食糧計画によると、紛争により同国北部で食料支援を必要とする人々が増え続けており、推計940万人に上っている。【12月21日 朝日】
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陸上男子1万メートルでアトランタ、シドニーの両五輪で金メダルを獲得し、「皇帝」の呼び名で知られたハイレ・ゲブレシラシエ氏が政府軍に志願するなど、アビー首相が前線に立つ形で示した徹底抗戦の意思が一定に奏功したようにも。(このあたりが、いち早く国外逃亡して政府崩壊を招いたアフガニスタンのガニ大統領と異なるところか)

撤退準備を視野に入れた動きをとっていた日本政府も、首都陥落の危機は脱したと判断。

****政府 エチオピア情勢の調査チーム撤収へ 日本人退避の必要性低いと判断****
エチオピアの情勢悪化を受けて、日本人の退避も視野に隣国ジブチで情報収集を行っていた調査チームの撤収を政府が決めた。

政府は、エチオピアの情勢悪化を受けて、自衛隊機による日本人の退避の可能性も視野に入れて情報収集を行うため、11月下旬、外務・防衛両省からなる調査チームを隣国のジブチに派遣していた。

防衛省は12月23日、調査チームを撤収すると発表した。
エチオピア政府と対立する勢力が首都に南下する可能性が低くなったことが理由としている。調査チームは、年内にも日本に帰国する。【12月23日 FNNプライムオンライン】
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【戦闘と飢饉に苦しむ住民】
しかし、激しい戦闘にともなって住民被害も甚大になっています。単に戦闘の犠牲というより、意図的な“民族虐殺のリスク”が懸念される事態にも。更に飢饉による被害も増大しています。

****戦闘激化のエチオピアで940万人が食糧難に…ヘイト横行、専門家「民族虐殺のリスク高い」****
世界食糧計画(WFP)は、エチオピアで政府軍とティグレ人勢力の戦闘が激化する北部ティグレ州とアムハラ州を中心に、推計940万人が深刻な食糧難に陥っていると発表した。

国連の専門家は、特定民族対象のヘイトスピーチ(憎悪表現)が横行し、「民族虐殺のリスクが高まっている」とも警告している。
 
WFPの26日付の発表によると、ティグレ人勢力が首都アディスアベバに向けて南進し、戦闘地域が広範囲に拡大したことで人道危機はさらに深刻化した。政府軍が各地の道路を封鎖した影響で支援の多くは滞り、両州で調査した乳児を持つ母親と妊婦の半数が栄養不足だったとも報告した。(後略)【2021年11月29日 読売】
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【ティグレ人勢力からの停戦の呼びかけを一蹴した政府側】
劣勢となったティグレ人勢力からは昨年末、撤退とともに停戦に向けた呼び掛けもなされましたが、エチオピア政府は「何を今更」といった感じでこれを即座に一蹴、武力で決着をつける構えです。

****反政府勢力が撤退、停戦の可能性も エチオピア****
エチオピアで北部のティグライ州を拠点とする反政府勢力「ティグライ人民解放戦線(TPLF)」は19日、隣接する地域から撤退すると明らかにした。エチオピアでは1年1カ月にわたって紛争が続いているが、今回の動きが停戦につながる可能性もある。

TPLFの指導者は、国連のグテーレス事務総長と国連安保理議長にあてた19日付の書簡で、ティグライ州の州境の外にいる部隊に対して即座に撤退するよう指示したと述べた。CNNはこの書簡を20日に確認した。

同指導者は国際社会やエチオピア連邦政府からの撤退を求める呼び掛けを聞いたとし、今回の撤退が和平への糸口となるだろうと信じていると述べ、停戦に続いて和平交渉が始まることを望むと言い添えた。(中略)

TPLFの指導者は書簡の中で、国連に対し即時停戦への支持を要求。あらゆる敵対行為の停止や同地域からの外部兵力の完全撤退を保証するための仕組みを構築するよう呼び掛けた。

また、人道や民間目的以外の航空機を禁止する「飛行禁止区域」をティグライ州に設置するよう要請したほか、エチオピアとエリトリアに対する兵器禁輸も求めた。【12月21日 CNN】
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****エチオピア政府、反政府勢力からの和平呼びかけを一蹴****
エチオピア政府は、北部のティグライ州に拠点を置く武装勢力からの停戦の呼びかけを一蹴した。政府側が以前も和平を呼び掛けたものの、武装勢力側が複数回にわたって拒絶したことが理由だとしている。(中略)

アビー首相の報道官は21日、首都アディスアベバで報道陣に対し、ティグライ人民解放戦線(TPLF)の真意について疑問を呈し、「我々はこの局面での解決に当たり、平和裏なやり方で、かつ政治的な手段を通してなされるようにするという観点から力を注いでいる。それでもなお、いかなる政治的解決も常に、正義や説明責任に基軸が置かれ、また対話の中でなされることになる」と述べた。

また報道官は、どの当事者が対話に臨むことになるかについて言及することはできないとし、TPLFの行動が「戦略的な後退なのかどうか、自ずから明らかになるだろう」と述べた。(中略)

首相報道官は、アムハラ州やアファール州からの撤退に関するTPLFの談話を一蹴。TPLFのメッセージを国際社会とメディアが「増幅」させていると批判。「エチオピアおよび英雄的なその部隊は外部からの検証を必要としない」と述べた。【12月22日 CNN】
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【政府軍による連日の空爆 ドローンも使用】
今年に入り、エチオピア政府が拘束していたティグレ側の幹部を解放するといった和平に向けた動きも見られましたが、政府軍はティグレ人反政府勢力を追い詰めたティグレ州に対し、連日の空爆を行っているとも言われています。

****エチオピア少数民族 政府軍空爆で56人死亡と発表 情勢不透明に****
アフリカ東部のエチオピアで1年以上にわたって政府軍と戦う少数民族の勢力は、政府軍の空爆で市民56人が死亡したと発表し、強く非難しました。

詳しいことは分かっていませんが、このところ双方に対話に向けた動きが出ていただけに、情勢は不透明感を増しています。

エチオピアでは、北部の州政府を担ってきた少数民族ティグレの勢力と政府軍との戦闘がおととしから続いていて、国連は200万人以上が家を追われ、深刻な人道危機に陥っているとしています。

こうした中、ティグレの勢力は8日、本拠地の州にある避難民のキャンプが政府軍の空爆を受け市民56人が死亡したと発表し、強く非難しました。

政府はエチオピア正教のクリスマスに当たる7日に、拘束していたティグレ側の幹部を解放し、対話を呼びかけていたところで、空爆を行ったかどうかについてコメントなどは出しておらず、詳しいことは分かっていません。

ティグレの勢力も先月、部隊を本拠地に撤退させるなど、このところ双方の間で対話の機運が高まり、1年以上にわたる戦闘や人道危機が収束するか、国際社会の関心を集めています。

それだけに、今回の空爆の発表によって、エチオピア情勢は不透明感を増しています。【1月9日 NHK】
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2019年のノーベル平和賞受賞者、アビー首相が率いるエチオピア政府は、、20年11月に戦闘が始まって以降、市民を標的にした攻撃を繰り返し否定しています。

アメリカ・バイデン大統領も、アビー首相に対し空爆や人権問題について懸念を示しています。

****バイデン米大統領、エチオピア首相と会談 空爆巡り懸念表明****
2022/01/11 08:53
バイデン米大統領は10日、エチオピアのアビー首相と電話会談を行い、エチオピア北部の内戦における空爆や人権問題について懸念を示した。ホワイトハウスが発表した。

エチオピア北部ティグレ州では2020年11月、政府軍と反政府勢力「ティグレ人民解放戦線(TPLF)」との間で内戦が勃発。多数が死亡したり、家を追われたとされる。

アビー首相はツイートで、バイデン大統領との会談は「率直」なものだったとし、協力関係の強化について話し合ったと述べた。米政府高官は、会談はビジネスライクで問題に焦点を当てたものだったとした。

ホワイトハウスが発表した声明によると「バイデン大統領は、最近の空爆を含む敵対行為が民間人の死傷者や苦しみをもたらし続けていることに懸念を表明した」。(後略)【1月11日 ロイター】
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これまでもしばしば取り上げてきたように、世界の紛争にあって戦争の形態が“ドローン”を中心としたものに変化していますが、エチオピアでもやはりドローンが使用されているようです。

****ドローン攻撃で19人死亡 対立続く北部州―エチオピア****
エチオピア政府と少数民族ティグレ人の対立が続く北部ティグレ州で10、11の両日、ドローン(無人機)による空爆があり、合わせて19人が死亡した。現地の援助関係者などが明らかにした。

10日は州南部の町の製粉所で働く17人が死亡。援助関係者は「ドローンが飛来し、少し滞空した後、爆弾を投下した。人々はパニックになった」と語った。11日には州都メケレ南方の町でも爆撃があり2人が犠牲になった。【1月12日 時事】
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【ティグレ州出身のテドロスWHO事務局長が故郷の窮状訴える】
こうした事態に、自身がティグレ州出身でもある世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長が現地の窮状を訴えています。

****紛争で医薬品不足、「ティグレほど地獄のような場所ない」…WHO事務局長が故郷の窮状訴える****
世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長は12日の記者会見で、出身地のエチオピア北部ティグレ州が紛争により深刻な医薬品不足に陥っていると指摘し、「世界でティグレほど地獄のような場所はない」と窮状を訴えた。
 
WHOによると、政府軍とティグレ人勢力の戦闘が続くティグレ州に、昨夏から医薬品の輸送が許可されていない。テドロス氏は現地の医師の話として、期限の切れた薬を治療に使っていることや、期限切れの薬も底をつきそうな状況を紹介し、「人道的な支援はどんな状況でも許されるべきだ」と批判した。
 
ティグレ州出身のテドロス氏は会見で「偏向した見方ではなく事実。21世紀のこの時代に、政府が自国民に1年以上も食料や医薬品を与えないのは想像を絶することだ」と述べた。【1月13日 読売】
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“同州(ティグレ州)では数百万人に医薬品や食料が届かず、数十万人が飢饉(ききん)に近い状態にあり、国連はこれを事実上の封鎖と呼んでいる。”【1月13日 AFP】

今後の政治体制安定のために「決着」を着けたいアビー首相でしょうが、(一般兵士は別にしても)ノーベル平和賞受賞者でもある本人自身が民族浄化的な虐殺や住民に地獄の苦しみをあたえることを望んではいないと思いますので、少なくとも住民に対する人道支援が可能となる状況をつくってもらいたいものです。
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中国「債務のわな」論議 スリランカの債務支払い条件緩和要請 ウガンダの空港改修事業

2022-01-12 23:16:12 | 中国
(スリランカ・コロンボでラジャパクサ大統領(右)と写真に納まる中国の王毅国務委員兼外相=9日(新華社=共同)【1月10日 産経】)

【外貨準備高が不足するスリランカ 中国に債務支払い条件の緩和を要請】
スリランカは親中派マヒンダ・ラージャパクサ元大統領のもとで2000年代以降に中国による巨大投資で道路や港湾開発を進めましたが、借金が膨らんで返済に窮し、中国の融資で整備した南部のハンバントタ港の運営権を99年間にわたり中国企業に譲渡することになりました。

このことは、中国の融資に頼り「一帯一路」事業を進めることの危うさ、いわゆる「債務のわな」のリスクの代表事例としてことあるごとに取り上げられます。

政権はその後、ラージャパクサ元大統領の腐敗・縁故主義への批判から、いったん反ラージャパクサで対中依存を修正する政策を進めるシリセーナ前大統領に移りましたが(ただし、“中国にハンバントタ港を99年間貸与する政策に否定的な閣僚は解任するといったことも行ってる”【ウィキペディア】とも)、2019年からマヒンダ・ラージャパクサ元大統領の弟であるゴーターバヤ・ラージャパクサ氏が大統領職についています。

ゴーターバヤ・ラージャパクサ現大統領のもとでは、兄のマヒンダ・ラージャパクサ元大統領が首相に返り咲き、親中国政策を進めています。

そのスリランカの外貨準備高が不足、債務返済の困難が再び話題となっています。

****領事館を閉鎖、支払いは茶葉で…スリランカ、外貨準備の不足が深刻に****
インド洋の島国スリランカの外務省は27日、在ナイジェリア大使館やドイツのフランクフルト、キプロスのニコシアにある領事館を31日から一時閉鎖すると発表した。同省は声明で「外貨の節約や支出の削減が必要だ」と説明。背景にはコロナ禍で拍車がかかった経済危機がある。
 
同国では新型コロナウイルスの影響で主要産業の観光業が打撃を受け、外貨準備高が不足。債務の返済に苦労している。輸入に使う外貨の不足で食料の供給が滞り、燃料や小麦粉、砂糖などの必需品の値上がりも招いている。
 
21日には、スリランカ特産の紅茶をイランに輸送し、イラン産石油の輸入による2・5億ドル(約280億円)の支払いにあてることでイラン政府と合意した。外貨が足りないため、茶葉で払うというわけだ。
 
スリランカは国営イラン石油公社から輸入した石油代金の返済を迫られており、毎月500万ドル相当の紅茶をイランに輸送し、返済したことにする。スリランカ政府が、紅茶の代金を自国の業者に支払うという。
 
スリランカの外貨準備高は1年間で約7割減り、今年11月には約15・9億ドルに。1カ月分の輸入がまかなえる程度しかないという。

通貨ルピーの下落も続き、格付け会社フィッチ・レーティングスは、今後数カ月内の債務不履行(デフォルト)の可能性が高まったとして、スリランカを格下げしていた。(後略)【12月28日 朝日】
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上記のような苦しい外貨準備・財政事情にあるスリランカは、中国に対し債務支払い条件の緩和を要請しています。

****対中債務に苦しむスリランカ 中国に債務緩和を要求 総額3900億円****
中国の融資でインフラ整備が進むスリランカのラジャパクサ大統領は11日までに、中国側に対して対中債務支払い条件の緩和を要請した。ロイター通信などが報じた。

新型コロナウイルス流行による経済状況の悪化を理由としているが、対中債務処理に苦慮していることが浮き彫りとなった形だ。中国に依存する財務体質の是非が問われそうだ。

ラジャパクサ氏は9日、スリランカを訪問した中国の王毅国務委員兼外相と会談し、新型コロナのワクチン支援に謝意を述べつつ、「(コロナ禍で)経済危機に直面したスリランカにとって大きな助けになる」と発言。支払期限の延長など債務の返済条件の緩和を検討するよう求めた。王氏の反応は分かっていない。スリランカの対中債務は33億8千万ドル(約3900億円)に上るとみられている。

中国は巨大経済圏構想「一帯一路」関連に基づきスリランカへの投資額を増やし、それに従って対中債務も増加した。スリランカは一部について既に返済に行き詰まり、2017年には南部ハンバントタ港の権益を中国側に99年間貸与することで合意している。中国が債務返済に窮した途上国からインフラの運営権などを得る「債務のわな」の典型例とされる。

それでも親中派ラジャパクサ氏が率いるスリランカの対中接近は修正されていない。昨年11月には、日印と協力して進める予定だった最大都市コロンボの港湾開発事業を中国企業に発注することを決めた。

スリランカは経済状況が悪化しており、外貨準備高は昨年11月末時点で約15億ドルにまで減少。米外交誌ディプロマットは経済的苦境について、「中国融資で建設されたインフラの収益が低いことが一因となっている」と指摘した。

中国外務省の汪文斌報道官は10日の記者会見で、スリランカの債務の問題について、「一時的な困難を早く克服できると信じている」と答えるにとどめた。

中国側は、途上国における「債務のわな」に関する批判に反発している。王毅氏は6日、ケニア訪問中に「いわゆるアフリカの『債務のわな』という見方は全く事実ではなく、一部の人々が下心を持って騒ぎ立てているものだ」と主張。債務のわなへの懸念が強まれば途上国の間で中国離れが進む可能性もあり、習近平政権は警戒している。【1月11日 産経】
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上記記事のように、スリランカの対中債務の苦境は「債務のわな」の事例として見られるのでしょうが、中国側の視点に立てば、貸したカネを返してもらうのは当然のことで、それを「わな」呼ばわりされるのは承服できないでしょう。(反ユダヤ的難くせをつけられるシャイロックみたい)

今回の対中債務支払い条件の緩和要請も、見方によっては、国際的に何かと批判にさらされることが多い中国の足もとを見た、「弱者の恫喝」みたいな感じもします。
「もし我が国が返済できなくなったら、困るのはあなたたち中国でしょう。また「わな」云々と批判にさされますよ。それが嫌なら返済条件を緩和して・・・」みたいな。

あくまでも、個人的想像の話です。

スリランカ中央銀行総裁は、2022年に期日を迎える債務を全て返済すると表明しています。

****スリランカ、今年の債務は完済へ 外貨準備増強に包括策=中銀総裁****
スリランカ中央銀行のニバード・カブラール総裁は12日、同国政府が2022年に期日を迎える債務を全て返済すると表明、外貨準備の縮小に対応する包括的な計画を作成する方針を示した。

同国は昨年末、中国との通貨スワップ協定(15億ドル)を利用して外貨準備を31億ドルに拡大した。現在、インド、カタールと総額29億ドルの与信枠・通貨スワップ協定について協議を進めている。

22年は45億ドルの債務が返済期限を迎える。まず今月18日に国際ソブリン債(ISB)5億ドルの期日が到来するが、すでに資金の手当てはできているという。

総裁は政府主催のイベントで「債務を返済しなければ、問題が大きくなる。債務など国内経済の問題に対処するより包括的で長期的な計画が必要だ」と述べた。

総裁によると、過去2年間は新型コロナウイルスの流行で約90億ドルの観光収入が失われたが、観光産業は今後2─3カ月で回復し、外貨準備の増強につながる見通し。

中国に新規の融資を求める可能性があるとも発言した。

一部のアナリストは、将来的に国際通貨基金(IMF)への支援要請が必要になる可能性を指摘しているが、総裁は「IMFは数ある選択肢の1つにすぎない。私たちは今辿っている道のりが最適だと考えている。IMFは万能策でも魔法の杖でもない」と述べた。【1月12日 ロイター】
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“観光産業は今後2─3カ月で回復し、外貨準備の増強につながる見通し”というのは、中央銀行総裁のお言葉ながら、現在の世界のコロナ状況を見ると非常に甘いような感じがしますが・・・(行けるものなら、私もすぐにでもスリランカへ飛んで、外貨準備改善に及ばずながら寄与したい気持ちは多々ありますが)

【「債務のわな」論議の対象となっているウガンダ・エンテベ国際空港改修事業】
「債務のわな」に関しては、借入国側が否定コメントを発表しています。もちろん、中国側の意向を受けてのものでしょうし、借入国にしても「わなにはめられた」というのは、自分たちの無能をさらす話にもなりますので。

****「中国による債務のわなは存在しない」=ケニア、ウガンダに続きナイジェリアも否定―中国紙****
2021年12月20日、環球時報は、ナイジェリア政府関係者が中国による「債務のわな」について否定したことを報じた。

記事は、ナイジェリア通信の18日付報道として、同国の債務管理事務室の責任者がメディアの取材に対し「わが国はこれまでも、これからも国家資産を担保に中国から金を借りることはない」と語るとともに、今年9月30日現在の同国の債務総額379億ドルのうち、中国からの借款は9.47%の35億9000万ドルに留まっているとした上で「これらの借款は国家資産を担保にする必要がなく、優遇されているものだ」とコメントしたことを伝えた。

そして、責任者の発言について、現地メディアからは「SNSや大手メディアの間で『ナイジェリアを含む一部アフリカ諸国は中国に対する負債水準が高くなっており、重要な国有資産の流失危機に直面している』という事実に基づかない情報が流れる中、ナイジェリア政府が国民に対して情報のファクトチェックに努めるよう求める狙いがある」との見方が出ていると紹介した。

その上で、ナイジェリア政府が近年「中国による債務のわなに陥っている」という指摘に対して再三反論しており、先月下旬にブリンケン米国務長官が現地を訪れて中国からの借款に言及した際にも、オンエアマ外相が記者会見で「中国による債務のわなは存在しない。わが国は良好な借款処理体制を持っており、良い信用状況を保っている」と反論したことを伝えた。

また、ナイジェリア以外のアフリカ諸国も「債務のわな」を否定しており、ケニアは今年3月に「公共資産を借款の担保にはしていない」と改めてコメントしたほか、先月末には「中国がウガンダ唯一の国際空港を接収しようとしている」との報道に対して、ウガンダ民間航空管理局の報道官がSNS上で「わが政府がこのようのな国家資産を放棄することはあり得ない」と否定したと紹介している。【12月23日 レコードチャイナ】
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上記記事にあるウガンダの空港改修事業については、以下のようにも。

****ウガンダが債務不履行なら空港差し押さえ、中国が否定****
中国政府は、ウガンダが中国に対する債務を返済できなかった場合、ウガンダ国際空港を差し押さえる可能性があるとの見方を否定した。

中国は、同空港の拡張工事のため2億ドルをウガンダに融資したが、ウガンダ議会は先月、融資には重い義務を伴う条項が盛り込まれており、債務不履行に陥れば空港が差し押さえられる可能性があるとの報告書をまとめた。

これを受け、ウガンダの国民から反発の声が出ており、地元メディアは「ウガンダが中国の現金を目当てに貴重な資産を明け渡している」と報じた。

在ウガンダの中国大使館は28日遅く「事実無根で悪意がある見方で、ウガンダを含め、中国が途上国と築いている良好な関係をゆがめるだけだ」とし「中国への返済が行われなかったことを理由に中国が差し押さえたアフリカのプロジェクトは一つもない」と述べた。

西側諸国の間では、中国が返済能力のない途上国に資金を融資し「債務の罠」に陥らせているとの批判が出ている。【2021年11月29日 ロイター】
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在ウガンダ中国大使館は声明で、「アフリカ諸国と同様、中国も経済的な命綱を外国に支配され、不当な扱いや搾取、抑圧に苦しんだつらい経験がある」と述べているそうですが、それはともかく、事情はもう少し複雑なようです。

****中国との契約に盲点、ウガンダに動揺走る 一帯一路事業****
エンテベ国際空港の改修工事巡る借款契約の細則、財務が中国政府系銀行の監督下に

中国の習近平国家主席が掲げる広域経済圏構想「一帯一路」による融資は、途上国の経済を大きく変貌させてきた。ここに来てウガンダなどで返済期間が迫る中、中国政府は時には返済期限を延長することもあるものの、契約義務の遂行をどこまで厳しく迫るかに注目が集まっている。

ウガンダのエンテベ国際空港への中国融資を巡る目下の動揺は、中国政府の債務国に対する影響力がいかに契約の細則に及んでいるかを浮き彫りにしている。

ウガンダ政府が6年前に結んだ2億ドル(約230億円)の空港建設契約に、ある条項が含まれていることが最近になって明らかになり、国内で政治的な混乱を引き起こしている。その条項は、中国国有銀行がエンテベ空港の財務に関し多大な支配力を行使できる立場にあることを示唆している。(中略)

エンテベ空港は、(中略)改修が必要な状態にあったことは疑いの余地がなかった。

この計画の下、中国輸出入銀行がウガンダに資金を貸し付け、ウガンダは北京に本社を置く中国交通建設集団に、旅客・貨物機施設の新設と滑走路2本および関連誘導路の修復コストを支払う。空港の改修は約4分の3が完了し、ウガンダの首都カンパラに向かう高速道路に接続している。この道路も別途、中国の資金で建設された。

融資案によると、プロジェクトは2期に分けられ、それぞれ2億ドルと1億2500万ドルを利率2%、返済期間27年で借り入れ、返済総額は4億1791万ドルになる。(中略)

今年10月になって、野党政治家率いる議会委員会は、空港運営者であるウガンダ民間航空局の全ての収入と経費について、南アフリカのスタンダードバンク・グループのカンパラ支店にある中国輸出入銀行の管理する口座を通す取り決めがあったことを明らかにした。スタンダードバンクには、中国最大の国有銀である中国工商銀行(ICBC)が出資している。
 
これはつまり、通常は国庫や議会に委ねられている財政監督権を中国の政府系銀行に委ねることになる。それに伴い、どの債権者へ先に支払うかを巡る影響力も手放す格好となる。さらに、急拡大する観光や輸出からの収入をウガンダ政府が活用する能力も制限される。(中略)

融資の詳細を明らかにした議会委員会を率いるジョエル・セニョニ議員は、ウガンダの航空当局の「予算は今や、中国輸出入銀行が承認しなければならない」と指摘。「あきれるばかりだ」と続けた。

議会に説明を求められたウガンダのマティア・カサイジャ財務相は、そのような条件に同意したのは誤りだったとしつつ、中国の交渉担当者が、受け入れるか否かのどちらかしかない条件を提示したと話した。その上で、融資は返済するとし、空港が中国の手に落ちる可能性はないと述べた。最初の融資返済は4月に期限を迎える。

融資条件に関しては、中国が空港の支配権を持つというセンセーショナルな報道もあったため、在ウガンダ中国大使館は断固として反論している。

大使館は、中国だけが「投資とインフラ融資への関与でそれほどの深みと広がり」をウガンダに提供したと述べたが、融資の詳細については説明せず、この記事のためのさらなるコメントは控えた。【12月28日 WSJ】
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