孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

韓国  「ポストオミクロン対応計画」で通常生活を目指す コロナ禍の「終わらせ方」

2022-04-17 22:55:08 | 疾病・保健衛生
(ソウル市の桜の名所、汝矣島(ヨイド)には花見客があふれた(9日午後)【4月15日 日経】)

【「K防疫」自賛も、オミクロン株の出現で感染爆発】
韓国ではかつて徹底した検査・隔離を行う「K防疫」という言葉がもてはやされたように、新型コロナ対策では世界でも注目される効果をあげていましたが、オミクロン株の出現によって感染者が急増、3月中旬にはPCR検査だけでなく医療機関での抗原検査で陽性と判定されれば、感染者とみなす形に変更されたことや、大統領選挙で候補者の遊説に大勢の人たちが集まったことも影響して、1日の新規感染者が60万人を超える感染爆発(人口規模は日本の約4割)を経験しました。

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韓国は一時期、コロナ封じ込めという点では最も厳格な国の一つだった。昨秋、高いワクチン接種率が達成された時点で、保健当局は通常モードの生活に戻ることを検討し始めた。

だがオミクロン株が現れ、冬の間に感染者が急増したことで、それは中断された。当局はソーシャルディスタンス(対人距離)を確保するルールを強化。集まりは4人までに制限し、営業や公共スペース使用は午後9時以降禁止にした。
 
だが結局、韓国はオミクロン株による感染爆発を抑制できなかった。同国で報告された累計のコロナ感染者数は2022年初めには50万人強だったが、3カ月後の現在は1300万人近くに達している。
 
患者数の多さとは裏腹に、病院の空きベッドには余裕がある。29日時点で集中治療室(ICU)の使用率は約68%だった。韓国はこの2カ月間にコロナ患者全員を入院させる方針から、高齢患者や持病を持つ患者のみにする方針へと移行。若年層の無症状患者には14日間ではなく7日間の自宅待機を求めている。
 
韓国が特に力を入れたのは高齢者への追加接種だ。3回目のワクチン接種を受けた人は、人口の約63%を占める(米国は29%)。韓国やニュージーランドなどは、感染者数は多いものの、ワクチン接種率が高く、入院や死亡の割合が抑えられている。一方、香港などはワクチン接種率が低く、高齢者層を含めて死亡率の高さに苦慮している。【4月1日 WSJ「アジア諸国「コロナ共生」へ舵 感染高止まりも」】
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感染爆発の方は3月中旬にピークアウトしたものの、4月に入っても依然高い水準が続いていました。

【「ポストオミクロン対応計画」 コロナ禍からの出口戦略】
いろいろ評価はあるところでしょうが、こうした今年に入ってからの感染爆発にもかかわらず、ワクチン接種率が高く、入院や死亡の割合が抑えられていることもあって、韓国政府は規制緩和による日常生活復帰への強い意思を見せています。

****韓国 爆発的な感染継続でも飲食店さらに規制緩和へ****
韓国では、新型コロナウイルスの爆発的な感染が続く中、飲食店などの規制がさらに緩和される。
韓国が4月1日に発表した新規感染者の数は28万273人で、3月中旬の62万人あまり(62万1187人)をピークに減少傾向だが、依然として高い水準。
また、重症者の数もおよそ1300人(1日発表:1299人)で、過去最多の水準が続いている。

しかし、韓国政府は医療体制に余力があることなどを理由に4月4日から、飲食店の営業時間や人数の制限をさらに緩和し、『午前0時まで(現在は午後11時まで)』『1グループ10人まで(現在は8人まで)』認めることを決めた。

さらに感染状況次第では、4月中旬にも飲食店の営業制限を完全に撤廃する可能性もあるとしている。
また、現在一部の病院に限定されている感染者の対面診療を4月4日から地域のクリニックなどすべての医療機関に拡大するほか、新型コロナの隔離措置も見直しが検討されていて、近い将来、感染者の隔離がなくなる可能性もある。

こうした規制緩和は、『日常回復』に向けた動きを加速させたいものと見られているが、オミクロン株のうち、より感染力が強いBA.2「ステルスオミクロン」への置き換わりが進む中、さらなる感染拡大につながる懸念もある。【4月1日 FNNプライムオンライン】
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感染水準は、4月16日は10万人を切るところまで低下しています。

韓国政府は「パンデミック」収束後の防疫・医療体制戦略となる「ポストオミクロン対応計画」を発表しています。

****新型コロナを「第1級感染症」から除外へ 5月下旬から感染者の隔離免除=韓国政府****
韓国政府は15日、新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」流行収束後の防疫・医療体制を長期的に日常化するための戦略を盛り込んだ「ポストオミクロン対応計画」を発表した。

政府は国内で初めて新型コロナ感染者が確認されてから2年3カ月で「日常医療体制の回復」を公式に宣言し、5月下旬までに新型コロナ以前の水準の防疫・医療体制に復帰するためのロードマップを提示した。

政府は今月25日に、新型コロナを最高レベルの隔離義務が生じる第1級感染症から除外し、第2級感染症に指定する。

結核、はしか、コレラ、水ぼうそうなどと同じ第2級感染症になれば、第1級で適用される7日間の隔離義務や医療機関による患者の申告義務が免除され、感染者はインフルエンザと同じように一般の医療機関を利用することになる。

これまでは新型コロナによる外来・入院医療費は無料だったが、今後は健康保険と患者本人の負担となる。新型コロナの検査・診断は民間医療機関で行い、保健所では60歳以上と療養型病院・施設の従事者など高リスク群のPCR検査のみを行う。

全ての医療機関を自由に利用できるようになるため、「在宅治療(自宅療養)」の概念もなくなる。ただ、感染者は当分の間これまで通り地域の病院・医院で電話による非対面診察や処方を受けることができる。

政府は新型コロナを第2級感染症に指定する今月25日の直前までを「準備期間」、25日から4週間を「移行期間」として段階的に医療体制の転換を準備する。ポストオミクロン戦略の施行準備が完了段階に入れば「安定期」を宣言する方針だ。

感染者の入院治療体制は重症者用病床を中心に改編し、現在の計3万2802床から4191床に減らす。

海外からの入国者に対する検査も簡素化する。入国者は現在、入国当日にPCR検査、6〜7日目に迅速抗原検査を受けているが、6月からは入国当日のPCR検査のみを受けることになる。

金富謙(キム・ブギョム)首相は「政府は日常回復を推進しながらも、新たな変異株や再流行に備えて監視体制を強化し、危機が感知されれば医療リソースを迅速に再稼働する」と述べた。

一方で、医療界からは新規感染者数が依然として1日当たり10万人以上発生しているなか、1カ月という短期間で隔離・入院・病床政策を転換するのは望ましくないとの意見も出ている。【4月15日 聯合ニュース】
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【18日から新型コロナの行動規制がほぼ撤廃】
上記方針に沿って18日から新型コロナの行動規制がほぼ撤廃されます。
当然ながら「急ぎ過ぎ」との批判はありますが。

****韓国で18日から新型コロナの行動規制ほぼ撤廃...撤廃に批判の声も****
韓国ではこの2年間、新型コロナウイルス感染症の行動規制だった「社会的距離の確保」が今月18日に終了する。連合ニュースなど複数の韓国メディアが報じた。  

15日に韓国政府が発表した新型コロナによる防疫規制の調整案によると、私的な集まりの人数や飲食店など大勢の人々が利用する施設で、営業時間の制限も完全に撤廃されることになった。イベントや集会も人数の制限なしに開催できるようになり、映画館や公演場での飲食も可能になる。  

宗教施設と一部の事業所に半月間「運営制限」を勧告する初の行政命令が下された2020年3月22日を開始時点で見ると、社会的距離の確保が解除されるのは757日、約2年1か月ぶりとなる。  

韓国政府が防疫規制の解除を発表したことで、夜間の飲食店にも人々が戻り始めている。  
16日、ニューシスの報道によると、規制解除前の最後の金曜日だった15日、ソウル都心のレストランや居酒屋は、すでに防疫制限が解除されたかのように、夕食を楽しみに来た人々でにぎわった。飲食店の店主らもも、2年ぶりの防疫制限の解除で浮き立っている。  

ソウル市ヨイド(汝矣島)にあるビヤホールには、5~6人の団体客が後を絶たないほど賑わっていた。  殺到する客で休む間もなく動いていた社長の金さん(57)は、「営業制限時間が午前0時に伸びて、暖かくなってきたこともあり、お客さんが前より多くなった」とし、「人手不足なので、店員を追加で採用しなければならなくなった」と賑わいの状況を説明した。  

こうした中で、韓国政府が早急に防疫制限を解除したことに、憂慮する見方も少なくない。  
15日、韓国経済新聞の社説では、今回の措置は韓国政府が防疫の責務を国民に転嫁したも同然だという見方もあると指摘する。  

同紙は一部では「世界で初めてコロナのパンデミック(世界的大流行)からエンデミック(感染病の風土病化)に転換した国家」というタイトルを獲得するために、政府が解除の措置を急いだのではないかという疑念を提起している」と伝えた。  

また「警戒心を緩めず、早期警告システムなどの対応体制を整える必要がある。政府が昨年11月、生半可にウィズコロナ政策を施行して失敗した手痛い経験を忘れてはならない」と忠告した。【4月17日 WoW! Korea】
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【世界最初の「エンデミック国」に? コロナ禍の「終わらせ方」】
「世界で初めてコロナのパンデミック(世界的大流行)からエンデミック(感染病の風土病化)に転換した国家」というタイトルを獲得するため・・・云々は、いかにも韓国らしくて笑えますが、政府当局の「パンデミック」収束に向けた強い意思は感じます。

****韓国が世界最初の「エンデミック国」になる? *****
<韓国の新型コロナウイルス感染者が急増する中、金富謙(キム・ブギョム)首相は「韓国はエンデミックに転換する世界最初の国になることを期待する」と述べた......>

2022年4月12日、韓国の新型コロナウイルス感染者が累計1563万5千人余となり、人口5161万人(22年3月推計人口)の30%を突破した。

専門家らが楽観視できない状況だとして警告を発するなか、金富謙(キム・ブギョム)首相が「韓国はエンデミックに転換する世界最初の国になることを期待する」と述べ、マスク着用義務の解除などソーシャル・ディスタンスを緩和する検討をはじめている。

「エンデミックにはendが入っているが、何かが終わる意味はない」
4月1日、米ウォールストリートが「韓国が最初のエンデミック国になるだろう」と報じると、金富謙首相がエンデミックへの移行を期待する発言を行った。

エンデミックは周期的に発生する風土病で、ギリシャ語に由来する。特定地域を意味するエン(en・英語のin) と人々を意味するデム(dem)を組み合わせた語で、特定地域で流行を繰り返す感染症を指している。

エンデミックより広範囲におよぶ感染症をエピデミック、世界的な流行をパンデミックと呼んでいる。マラリアなどがエンデミックとされており、インフルエンザがエピデミックに分類されている。

2020年1月、世界保険機構(WHO)が新型コロナウイルス感染症をエピデミックに分類した後、パンデミックに拡大した。

エンデミックは予測可能な範囲で広がることから社会機能に大きな支障をきたさないとされている。米国や欧州などで新型コロナウイルスが2022年にはパンデミックからエンデミックに移行するという考えが広がる一方、世界保険機構(WHO)は否定的で、慎重な姿勢を崩していない。

韓国でも保健福祉部の班長が「エンデミック宣言ができるかどうかは未知数で、当分は難しい」「エンデミックは予測可能な水準で患者が発生することを意味しており、世界的に新型コロナが小康状態に入らなければならない」などと首相の発言を牽制し、専門家らもエンデミックに移行する期待は時期尚早だと警告する。

対外経済政策研究院のチャン・ヨンウク副研究委員は「エンデミックにはendが入っているが、何かが終わる意味はなく、実際はその反対」といい、「ある病気が消えずに特定地域内で続くか、周期的に発生して土着化する意味」だと指摘する。

エンデミックを念頭に置いた対応へ
しかし、政府は病院や医院の検査・治療体系の拡大、防疫規制の解除予告、隔離期間の短縮など、エンデミックを念頭に置いた動きを見せる。(中略)

「『エンデミック』へ転換する世界初の国になることを期待する」
金首相がエンデミックに言及した直後の4月4日、韓国政府は規制緩和を行った。(中略)

金首相は「重症と死者を減らして医療システムを管理できるようになったら、ソーシャル・ディスタンスなどの防疫措置を改編する」とし、「コロナ患者が市内の病院や医院で不便なく対面診療を受けられる『エンデミック』へ転換する世界初の国になることを期待する」と述べた。

早ければ4月18日にも私的会合の人員制限や飲食店等の営業時間、300人以上の行事や集会の禁止など、あらゆる制限を解除したい考えを示している。また、屋内のマスク着用は「防疫最後の砦」として維持するが、屋外のマスク着用を解除する可能性を示唆した。

世界ランキングや世界初を過度に意識する傾向
韓国の新規感染者は3月17日に60万人台を記録した後、右肩下りとなっている。減少しているといっても、3月には1日あたり20万人以上、4月に入ってからも連日10万人から20万人の新規感染者が確認されている。(中略)

検査を受けるために訪問した病院で感染する可能性がある。韓国は世界ランキングや世界初を過度に意識する傾向が強い。「世界初のエンデミック国」にこだわって対応を誤る可能性は拭い切れない。【4月14日 佐々木和義氏 Newsweek】
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「急ぎ過ぎ」への批判はいくらでもできますが、一方で日本の場合、いったいどうする考えなのか全く出口戦略が見えません。ただその時々の感染状況の推移に一喜一憂しているだけ、ひたすら警戒・自粛を呼び掛けるだけ・・・の感も。

コロナ禍の「終わらせ方」のひとつとして韓国の事例は参考になると思われます。

****韓国60万人超の感染爆発で非難殺到も世界初のコロナ勝利宣言!?****
韓国内から「K防疫の勝利」の声は?
3月末のウォール・ストリート・ジャーナルに「新型コロナウイルスが風土病に転換する初の国は韓国になるかもしれない」という記事が載った。

パンデミック(世界的な感染大流行)からエンデミックへ。

現在、これが世界中の共通認識になっているコロナの終わらせ方。つまり、一定地域で季節的に流行を繰り返す風土病に移行することで、新型コロナウイルスは季節性インフルエンザのような存在となる。

韓国がそれを最初に行う国。世界に先がけてコロナ終焉宣言を出すことになるかもしれない。ということなのだが。

他国の評価をやたら気にするお国柄。いつもであれば、韓国のマスコミがこぞって「K防疫の勝利」とか言いながら自画自賛して悦に入りそうな感じなのだが、意外に反響は少なかった。なぜなのだろうか。

「韓国はパンデミックから抜け出せる手段を持っている」
今年3月の段階で人口に対する新規感染者の割合で、韓国は米国の約3倍にもなる感染爆発を起こしていた。
そんな状況で、韓国政府は感染防止措置を撤廃して経済活動を再開させている。

集団免疫を獲得するには、ウイルスの蔓延に目をつぶるしかない。感染力が高いわりに毒性が低いとされるオミクロン株の蔓延は、それに最適ということだろう。不安視する国民は多く“政治防疫賭博”と揶揄されていた。

しかし、韓国ではすでにワクチンを2回接種した人が86.08%と中国に続く世界2位の接種率を誇っている。
3回目の追加接種も64.65%で世界のトップクラス。さらに公衆保健システムも万全で、感染者の死亡率でも3月17日時点で0.14%と他国に比べてかなり低い。

これらの条件からウォール・ストリート・ジャーナルの記事では、「パンデミックから抜け出すことのできる適切な手段を持っている」と、伝染病専門家のコメントを載せて韓国政府の決断は正しいと判断したようだ。

韓国から学ぶコロナの終わらせ方
現実を見てみれば、防疫措置を撤廃後の3月中旬に1日の感染者数が60万人を突破。韓国政府が予測していた1日31〜37万人をはるかに越える数だった。これだけの数が感染すれば、いくら致死率が低いとはいえ、重症者や死者数もそれなりの数になる。

重症患者の激増で医療システムの危機を訴えるニュースが連日のように報道され、大統領や疾病庁に対する批判や謝罪を求める声も多く聞かれた。

外国の新聞が韓国を褒めて、国民がそれを否定して低評価。
韓国では決して見られることのなかった、かなり珍しい事態ではある。それだけ状況が逼迫(ひっぱく)していたのだろう。

しかし、近々の4月8日は感染者数も20万5333人に減少しており、死者数もピーク時の3分の1程度になっている。数字を見れば、韓国政府の判断は正しかったと言える感じになってきた。

今さらながらにウォール・ストリート・ジャーナルの記事を取り上げて、「韓国は世界が認めた最初のコロナ戦勝国」とか、そろそろ韓国マスコミの自画自賛が始まるか。

そうなることが、世界にとっても幸いなことだと思う。コロナの終わらせ方。それを韓国に学んで、日本も方針転換を図る時期なのかもしれない。【4月13日 青山 誠氏 コリアワールドタイムズ】
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フィンランドとスウェーデン、NATO加盟の動き プーチン大統領の暴挙が逆効果

2022-04-15 23:00:10 | 欧州情勢
(4月13日 ストックホルムで首脳会談に臨むスウェーデンのアンデション首相(左)とフィンランドのマリン首相(右)【4月15日 ロイター】 ともに女性首相、日本とは別世界・・・)

【プーチン大統領によって存在感を回復するNATO】
今更の話ではありますが、プーチン大統領がなぜウクライナ侵攻というロシアにとってハイリスクな行為にでたのか・・・ザックリ言ってプーチン大統領の頭の中には二つのことがあるように思えます。

ひとつは、約束を反故にしたNATOの東方拡大によってロシアが危険にさらされているという現状認識、もうひとつはウクライナはロシアと一体であり、ロシアあってのウクライナであるという歴史認識。

戦前日本で言えば、欧米列強によって日本の活路・資源獲得の可能性が狭められているという現状認識と、大東亜共栄圏みたいなアジアのあるべき姿に関する認識みたいなものでしょうか。

ただ、NATOに関して言えば、ロシアのウクライナ侵攻によって、逆にロシアの脅威が改めて強く意識され、NATOはその存在を確固たるものにして求心力を高め、更に拡大の方向にすらあります。

(もっとも、反ロシアの動き、ロシアの脅威云々は欧米では明確ですが、世界全体で見ると、必ずしも「ロシアが孤立していている」とは言い難い面もあります。そのあたりはまた別機会に)

ロシアのウクライナ侵攻以前のNATOは、地域的には東方拡大しつつも、冷戦時代のような確たる存在感は薄れたような感もありました。内部の結束も緩んだような感も。

こうしたNATOをフランス・マクロン大統領は「脳死」とも。

****NATOは「脳死」とマクロン氏 加盟各国が反論、ロシアは称賛****
エマニュエル・マクロン仏大統領は7日、英週刊誌エコノミストが掲載したインタビューで、北大西洋条約機構(NATO)が「脳死」に至っていると発言した。

これを受け、加盟国の間ではNATOの真価をめぐる議論が勃発。独米はNATOを強く擁護したのに対し、非加盟国のロシアはマクロン氏の発言を称賛した。
 
70年の歴史を持つNATOは来月、英国で首脳会議を開催する予定。同誌が掲載した英語の書き起こしによると、マクロン氏はインタビューで「われわれが今経験しているのはNATOの脳死だ」と表明。欧米間の協調欠如や、主要加盟国トルコによるシリアでの一方的な行動を非難した。

マクロン氏は「米国と他のNATO同盟国の間には戦略的意思決定での協調が全くない」と指摘。「われわれの利害にかかわる地域で、NATO加盟国のトルコが協調を欠いた攻撃的行動に出ている」と述べた。
 
しかしアンゲラ・メルケル独首相は、NATOは「必須」の存在であると擁護。マクロン氏の「十把一からげの批判」は「不要」と述べた。
 
訪問先のベルリンでメルケル氏と共同記者会見を開いたイエンス・ストルテンベルグNATO事務総長は、欧米間同盟の弱体化は「欧州を分割する」恐れがあると警告。同じく訪独中のマイク・ポンペオ米国務長官も、NATOは「重要で、不可欠」だと述べた。
 
一方、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官はマクロン氏の「脳死」発言について、「最高の言葉だ……NATOの現状についての的確な定義だ」と評した。【2019年11月8日 AFP】
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マクロン仏大統領に対し、ドイツ・メルケル前首相はNATOは「必須」とはしていましたが、一方でアメリカ・トランプ前大統領は防衛費支出に関しNATO加盟国、特にドイツと「もっとカネを出せ!」と激しくやりあっていました。

あまりカネをだしたがらない欧州各国・ドイツなどの対応は、NATOの存在意義・必要性に関する認識の反映でもあったでしょう。一方で、トランプ前大統領にはNATO同盟国をパートナーとして見ているのかという疑問も。

****トランプ氏、NATO加盟国の防衛支出増を要求 ドイツを名指し批判****
ドナルド・トランプ米大統領は11日、北大西洋条約機構(NATO)加盟国に対し防衛費支出を、目標の倍に当たる対国内総生産(GDP)比4%に引き上げるよう求めた。

ホワイトハウスは、トランプ大統領がこの日ブリュッセルで開幕したNATO首脳会議でこの発言をしたことを認めている。トランプ大統領はまた、防衛費に関してドイツを名指しで攻撃した。

NATOのイエンス・ストルテンベルグ事務総長は、全ての加盟国が防衛費にGDP比2%を支出することに注力するべきだと話した。

ストルテンベルグ事務総長はトランプ氏の発言に直接関係する質問には答えなかったものの、「まずは2%を達成するべきで、今はそこに集中するべきだと思う(中略)幸い目標に向かっている」と記者団に述べた。

NATO加盟国は冷戦終結後、防衛費を削減し続けたものの、今は緊張が高まっているため増額する必要があると、事務総長は付け足した。(中略)

トランプ大統領のドイツ批判とは?
トランプ氏は首脳会議に先立ち、アンゲラ・メルケル独首相と衝突した。
トランプ大統領は、ドイツがGDPに対して「1%ちょっと」しか防衛費を支出していないと批判した。米国は「実際の値で」4.2%を投じているとしている。NATOの最新統計によると、ドイツの防衛支出はGDP比1.24%、米国は3.5%。

トランプ氏はまた、「ドイツは完全にロシアに制御されている。なぜならエネルギーの60~70%と新しいパイプラインまで、ロシアからもらうことになるからだ。特に問題ないことだと思うならそう言ってほしい。私はそうは思わないし、NATOにはとても悪いことだと思う」と話した。(中略)

ツイッターではドイツを含む同盟国への非難を繰り返し、「ドイツがロシアのガスとエネルギーに何十億ドルも払っているようでは、NATOは何の役に立っているのか。どうして29カ国中5カ国しか約束を守っていないのか? 米国は欧州の防衛のために金を払って、貿易で何十億ドルも失っている。2025年まででなく、今すぐにGDPの2%を払うんだ」と書いた。(中略)

しかしこれらの根底にある実際の問題は、トランプ大統領のNATOへの献身度合いだ。トランプ氏はNATOをただの取引相手としか見ていないのか、それとも第2次世界大戦以降、欧米の安全保障の中心的要素だった大西洋パートナーシップを掲げる組織だと認めているのだろうか?【2018年7月12日 BBC】
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しかし、今やNATOはロシアの脅威に対抗するための必要欠くべからざる存在になったかのようです。

【フィンランドとスウェーデンのNATO加盟でロシア包囲網 ウクライナ侵攻が逆効果】
そして、プーチン大統領の思惑とは逆に、これまでNATO加盟をためらっていた国が、ロシアの脅威を目にしてNATOに駆け込む動きも。結果、(ウクライナの帰趨に関らず)ロシア包囲網が更に狭まり、より強固になると予想されます。

****フィンランドとスウェーデン、NATOに今夏にも加盟する見通し 英有力紙****
ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、北欧のフィンランドとスウェーデンがNATO(=北大西洋条約機構)にこの夏にも加盟する見通しであると、イギリスメディアが報じた。

イギリスの有力紙「タイムズ」は11日、アメリカ当局者の話として、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟への準備が早ければ夏にも整う見込みだと伝えた。この当局者によると、先週行われたNATO外相会合でも両国の加盟について議題となり、複数の協議が行われたということだ。
 
フィンランドの加盟申請は6月に予定されていて、スウェーデンがそれに続くと伝えている。
 
ロシアによる一連の侵攻の結果、両国のNATO加盟への動きが加速することとなり、この当局者は「プーチン大統領にとって大規模な戦略的失敗以外の何ものでもない」と指摘している。【4月11日 ABEMA Times】
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フィンランドのマリン首相は13日、スウェーデンの首都ストックホルムでスウェーデンのアンデション首相と共同記者会見し「北大西洋条約機構(NATO)に加盟しなければ安全の保証が得られない」と述べ、加盟への意欲を表明しています。

****フィンランド、NATO加盟申請「数週間以内」に決定****
フィンランドのサンナ・マリン首相は13日、北大西洋条約機構への加盟申請の是非について、今後「数週間以内に」決定すると述べた。
 
マリン首相は、訪問先のスウェーデンの首都ストックホルムでマグダレナ・アンデション首相と共同記者会見に臨んだ際、自国のNATO加盟申請に関しては比較的早く決定が下されるとの見方を示し、「数か月以内ではなく、数週間以内だ」と強調した。
 
ロシアが2月24日にウクライナに侵攻したことを受けて、スウェーデンもNATO加盟の是非を議論している。 【4月13日 AFP】
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ロシアと約1300kmにわたって国境を接するフィンランドはNATOのパートナー国ですが、これまでも戦火を交えた隣国ロシアに配慮し、加盟はしていません。そのことでソ連の圧力をかろうじてかわしてきたとも言えます。

マリン首相はウクライナ侵攻で「全てが変わった」と強調し、NATOの集団防衛と抑止力以外に国の安全を保証する手段はないとの見解も示した。
 
****スウェーデンとフィンランドがNATO非加盟である理由****
・第二次世界大戦後、両国ともロシアに比べて軍事力は弱小ながらも非同盟の立場を堅持してきた。

・フィンランドは1917年にロシアから独立したが、第二次世界大戦中にソ連と2度交戦し、その過程で領土の一部を奪われた。1948年にロシアと友好協力相互援助条約を締結。これにより、軍事的には西欧諸国から切り離されることになった。

・冷戦終結とそれに続くソ連解体によってモスクワからの脅威が低減し、フィンランドはロシアの影響下から脱っした。

・フィンランドの平和は、自国の軍事的抑止力とロシア政府との友好関係によって守られてきた。だが、ロシアが「特別軍事作戦」と称するウクライナ侵攻を行ったことで、プーチン露大統領は友好的とは言い難い存在になった。

・スウェーデンは200年間戦争をしていない。戦後の外交政策においては、国際的な民主主義の支援、多国間での対話、そして核軍縮推進を柱としてきた。

・同国は冷戦終結後、軍事規模を縮小した。紛争が発生した際には、援軍が到着するまでロシアの侵攻を遅らせることを目指したものだった。プーチン大統領によるウクライナ侵攻により、軍事支援が保障されることの魅力が格段に増した。

・とはいえ、スウェーデン国内の左派勢力の多くは、究極的には米国による核抑止をベースとしたNATOの安全保障体制に依然として懐疑的である。

・フィンランドとスウェーデンは、1995年の欧州連合(EU)加盟を機に、公式の中立政策から軍事上の非同盟へと立場を転換した。

・だがロシアの威圧的な態度が強まる中、両国は近年、情報機関の交流や演習への参加という形でNATOへの接近を強めてきた。

・NATOに加盟すれば、スウェーデンとフィンランドは北大西洋条約「第5条」の対象となる。加盟国1国への攻撃をNATO全体への攻撃とみなすという規定だ。【4月15日 ロイター】
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両国の国内状況については、スウェーデンは加盟に反対する声も多くあります。

*****NATO加盟への支持は広がっているか****
・世論調査によれば、スウェーデンではNATO加盟に賛成する声が過半数をわずかに超えており、議会でも加盟申請を支持する会派が優位に立っている。

・申請に抵抗する最も有力な勢力と見られているのは、スウェーデン社会民主労働党だ。同国最大の政党であり、20世紀の大半の時期にわたり政権を担当していた。しかし同党も反対の方針を見直している。

・スウェーデン左翼党(旧共産党)と緑の党は反対している。

・フィンランドの民間放送局MTVが最近実施した世論調査によれば、フィンランドではNATO加盟賛成が68%、反対はわずか12%だった。

・報道によれば、左派連合を例外として、フィンランドの国会議員の過半数と大半の政党がNATO加盟を支持している。【同上】
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両国の動きは、プーチン大統領のウクライナ侵攻を“無駄骨”にすることにも。
一方、ロシアはそうした動きに対し、「核のないバルト海はなくなる」(メドベージェフ前大統領)と核兵器の配備も示唆して牽制しています。

****フィンランドのNATO加盟はプーチンに大打撃──ウクライナ侵略も無駄骨に****
<ウクライナを取りに行ったせいでフィンランドがNATOに加盟するのは完全な誤算、プーチンの立場も危うくなるが、米ロ対立の新たな火種にもなりかねない>

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナ東部への大攻勢を準備するなか、西側の戦略家は一貫して、停戦交渉の落としどころはウクライナの「フィンランド化」、言い換えれば「強いられた中立化」になる可能性があると見てきた。

ところが、そのフィンランドが中立の立場を捨てて、西側の軍事同盟に加わる動きを見せ、プーチン大統領に手痛い失点をくらわそうとしている。(中略)

「ロシア包囲網」が完成
NATO加盟には現在の加盟国30カ国の全会一致の承認が必要なため、申請が受理されるには最長で1年程度かかる。それでも伝統的に防衛協力を2国間に限定してきたフィンランドとスウェーデンがそろってNATOの集団安全保障体制に入れば、地域全体のパワーバランスが一気に激変するのは確実だ。(中略)

過去1世紀フィンランドに中立を保つよう圧力をかけ続けてきたロシアにとって、これ以上に壊滅的なダメージはまず考えられないと、専門家は言う。あるとしたら、目下プーチンが必死で避けようとしているウクライナにおける全面的な敗北だけだろう。

フィンランドの首都ヘルシンキはプーチンの出身地サンクトペテルブルクから約300キロしか離れていない。フィンランドがNATOに加盟すれば、「ウクライナのNATO加盟とNATOの拡大政策を止めることを口実に」ウクライナ侵攻に踏み切ったプーチンに「正義の鉄槌」が下った格好になると、(米シンクタンク・戦略国際問題研究所の)モナハンは言う。

「プーチンはさらに追い詰められる」と見るのは、かつて米政府の北朝鮮担当特使を務め、現在はシンクタンク・ランド研究所に所属するジェームズ・ドビンズだ。

「たとえウクライナの中立化に成功しても、フィンランドを失えば、大した成果を挙げられなかったことになる。ウクライナ、フィンランドの両方を失ったら、下手な侵攻作戦で事態をこじらせ、国境の向こうにNATOの圧倒的な兵力が展開するという悪夢のシナリオを招いた責任を問われかねない」

フィンランドはロシアと1300キロ余りにわたって国境を接している。これが加われば、NATO陣営とロシアとの境界線は今の倍に延び、EUとロシアがにらみ合う前線の距離は史上最長に延長されることになる。「それにより軍事面だけでなく、文化的、経済的にも厄介な問題が生じる」と、ドビンズは指摘する。

自らの挑発行為で包囲網を完成させたとなると、プーチンは壊滅的な戦略上のミスを犯したことになると、プリンストン大学の政治学者で元米政府高官のアーロン・フリードバーグはメール取材に応えて述べた。

ドイツはロシアのウクライナ侵攻を見て、軍備拡大に転じたが、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟は「少なくともそれと同等か、ことによるとそれ以上に」ロシアにとっては手痛い誤算だと、フリードマンは見る。

米ロ一触即発の危機
(中略)しかし、そうした変化は「重大な危険性」を伴うと、ドビンズは警告する。「無防備に歓迎すべきではない」
フィンランドにNATOの基地ができて、兵士と武器が送り込まれれば、ウクライナ侵攻で一気に高まったアメリカとロシアの一触即発の危機はさらにエスカレートする。

(中略)今でも名目上はアメリカが主導権を持つにもかかわらず、米政府関係者は同盟国に先んじてこの件に言及することを慎重に避けている。(中略)それでもジュリアン・スミス米NATO大使は5日の記者会見で、アメリカが他の29カ国と同様に、両国のNATO加盟を歓迎する考えであることを示唆した。(中略)

NATOのイエンス・ストルテンベルグ事務総長は6日、NATOはフィンランドを「温かく歓迎する」つもりだと発言。「彼らを加盟国として迎える決断は、迅速に下すことができる」とつけ加えた。(中略)

特にフィンランドにとっては、NATOへの加盟申請は、ロシアに対するこれまでの慎重なアプローチの大きな転換を意味する。フィンランドは冷戦の際、表向きはロシアに服従するという屈辱的な立場に耐え(その姿勢は「フィンランド化」揶揄された)、西側諸国やNATOと距離を置くことで、ソ連中心のワルシャワ条約機構に加盟せよという圧力をなんとかかわした。

世論もNATO支持に
しかし冷戦終結後は、長年貫いてきた中立主義政策を捨て、徐々に西側諸国に同調。EUに加盟し、アメリカとの防衛協力関係を強化してきた。F18とF35の購入もその一環だ。

ロシアによるウクライナへの本格侵攻が始まった2月24日前までは、フィンランド国民は大半がNATO加盟に反対だった。しかし3月にシンクタンク「フィンランド・ビジネス政策フォーラム(通称EVA)」が実施した世論調査では、回答者の60%(2021年の調査から34ポイント増加)がNATO加盟を支持した。そのほかの複数の調査でも、同じような結果が示された。

過去100年の間に2度にわたってロシアと戦い、第2次世界大戦の際には勇敢にもその侵略を撃退したフィンランドがNATOに加盟すれば、プーチンから見ても歴史的な勢力転換であり、大きな打撃となるだろう。【4月15日 Newsweek】
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アメリカ  中間選挙を控え“敏感”な移民問題 5月から国境での即時送還措置を廃止 移民増加の懸念

2022-04-14 23:26:10 | 難民・移民
(ウクライナからの亡命者も。ロシアのウクライナ侵攻以後、米国への亡命を求めてメキシコ国境に到着するウクライナ人が過去1週間で2倍以上に増加している。ティフアナで7日撮影【4月8日 ロイター】)

【中間選挙を控え、“敏感な問題”にもなる移民問題】
どこの国でも国民の最大の関心事は自国内の内政問題です。「外交は票にならない」とも言われるように、国際問題への関心には一定の限界があります。

大統領選挙が行われているフランスで、現職マクロン大統領が“極右”とされるルペン氏の猛追を受けているのは、マクロン大統領がロシアとの外交にかまけ(しかも、成果を出せず)、国民生活に直結するインフレなどの問題をないがしろにしているとの批判が背景にあってのことと思われます。

アメリカの場合も、国民の最大の関心事は経済問題にシフトしつつあります。

今年3月のギャラップ調査【2022.3【ギャラップ調査】アメリカで最も重要な問題】で「今日この国が直面している最大の問題は何だと思いますか?」という問いに対し
高い生活費・インフレ 17%(昨年12月は6%) 経済一般 11%(同11%)燃料・石油価格 4%(同1%)

一番多いのは政府・貧弱なリーダーシップ22%(同21%)ですが、これは要するに共和党支持者、特にトランプ支持者などの現政権が気に入らないというものでしょう。

さすがにウクライナ問題を受けて「ロシアとの状況」が9%(同0%)を占めていますが、経済問題には及びません。
「コロナウイルス・病気」は3%(同13%)と、すでに過去の問題にもなったようです。

経済問題と並んで政治問題化しやすいのが移民問題。
「移民」は5%(同7%)と今は経済問題ほどの高さにはなっていませんが、先月2月は8%と、そのときどきの状況で跳ね上がる敏感な問題です。

バイデン政権にとって、メキシコ国境に押し寄せる中米などからの移民にどのように対処するかは、非常に悩ましい問題です。

厳しく対処すれば、政権支持基盤でもある、移民の権利を擁護するリベラル勢力からの批判を受けます。
緩めて移民が増加すると、共和党などからの激しい批判にさらされ、与野党間の「争点」となります。
国境に移民が押し寄せる限り、どっちにしても批判を受ける政権基盤を揺るがす問題です。

今後、コロナ対策を理由にした対応ができなくなり、人の動きも再び活発化するなかで移民増加予想されており、中間選挙を左右する問題にもなります。

【「メキシコ待機」復活で与党内からの批判も】
政権は昨年末、トランプ前大統領が導入し、バイデン大統領が就任後に撤回した移民政策「メキシコ待機」プログラムを裁判所命令に従って再開すると明らかにしたことで、移民を人権を擁護する勢力や与党内からの批判を浴びました。

****米政府、トランプ政権の移民政策を復活へ バイデン氏に非難****
米政府は(2021年12月)2日、ドナルド・トランプ前大統領が導入し、ジョー・バイデン大統領が就任後に撤回した移民政策「メキシコ待機」プログラムを再開すると明らかにした。

この政策は、亡命を希望する移民を、申請手続きを行う間メキシコ側に待機させるもので、治安の悪い環境に移民が置かれることが問題となっていた。再開をめぐり、バイデン氏を非難する声が上がっている。

移民関連団体は、「メキシコ待機」政策の復活は、国境にある移民キャンプでの犯罪や暴力行為を誘発しかねないと指摘する。

バイデン氏は1月の大統領就任後、この移民政策を「非人道的」だとして撤回する大統領令に署名した。しかし連邦裁判所はこれを認めず、同政策の再開を命じていた。
アメリカとメキシコの両政府は、この政策を再開させることを認めた。

バイデン政権は、トランプ政権時代のもう1つの主要な国境政策「タイトル42」を維持している。これは、公衆衛生上の理由があれば移民を迅速に追放できるというもの。

なぜ「メキシコ待機」が復活するのか
トランプ前大統領は、当時「移民保護プロトコル」と呼ばれていたこのプログラムを導入し、6万人以上の亡命申請者をメキシコに送り返した。メキシコ側で待機する亡命希望者は、時には犯罪組織の餌食になることもあった。
慈善団体ヒューマンライツ・ファーストによると、メキシコに戻された移民に対する誘拐やレイプ、拷問、そのほかの虐待行為の事例が1500件以上報告されている。(中略)

ホワイトハウスのジェン・サキ大統領報道官は1日、同プログラムによる「不当な人的損失」に関するバイデン氏の考えは、過去の主張と変わっていないと説明。「ただ、我々は法に従うことにもなる」とした。

「メキシコ待機」政策は、メキシコの懸念に対処するため、亡命申請1件あたりに費やす時間を6カ月に制限するなど内容を修正したうえで、来週からテキサス州とカリフォルニア州の入国地点で再開される。

「暗黒の日」
「メキシコ待機」政策の再開の動きをめぐっては、移民支援団体やバイデン氏率いる与党・民主党の議員から非難の声が上がった。

米国移民評議会は、「メキシコ待機プログラムをより人道的な方法で管理できる」というバイデン政権の主張を一蹴し、「今日はアメリカと法の支配にとって暗黒の日だ」と付け加えた。

同プログラムの対象を西半球からのあらゆる移民(ハイチ人など非スペイン語圏のグループを含む)に拡大することで、バイデン氏は「プログラムをトランプ政権下よりもさらに広範なものにした」と、同評議会は指摘した。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)もこの動きを非難しており、「メキシコ待機」政策の実施に協力することを拒否した。

米自由人権協会(ACLU)は、この政策の再開は「拷問やレイプ、死を含む恐ろしい虐待」につながるとした。
ヴェロニカ・エスコバル下院議員(民主党、テキサス州)は米政治専門紙「ザ・ヒル」に対し、この政策は「国としての我々の価値観をむしばむ」ものであり、「亡命手続きに反する」ものだと述べた。(中略)

一方、野党・共和党のケヴィン・マカーシー下院院内総務は同政策の再開を歓迎した。
「バイデン政権にこの常識的な措置を適用させるために、訴訟を起こさざるを得なかったのは残念なことだ」【2021年12月3日 BBC】
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【「タイトル42」廃止で移民増加の懸念 共和党側は中間選挙「争点」にする構え】
一方、“トランプ政権時代のもう1つの主要な国境政策「タイトル42」(新型ウイルス流行国からの難民・移民を迅速に追放できるというもの)”については、5月23日に廃止すると発表しましたが、これは共和党側からの強烈な批判を浴びています。

****「米史上最悪」の移民危機、バイデン氏に責任 米共和党議員団****
米共和党の上院議員団は30日、ジョー・バイデン大統領が意図的に移民危機をつくり出したと非難した。人権団体は移民危機について、大勢の移民が虐待やレイプなどの被害を受けたと主張している。
 
メキシコから入国する移民の数はここ数週間で急増している。共和党指導部が配布した2通の文書は、バイデン氏とカマラ・ハリス副大統領が「米史上最悪」の移民危機をつくりだしたとしている。
 
議員団は記者会見で、バイデン氏が国境問題で弱腰な姿勢が、大勢の移民が米国を目指して北上する旅の途中で悪質な人身売買業者の犠牲となる事態を招いていると主張した。
 
テキサス州選出のテッド・クルーズ上院議員は「南部国境で今、日を追うごとに危機が高まっている。バイデン氏とハリス氏がつくり出したものだ」として、「それにもかかわらず、大統領も、副大統領も、民主党議員も気に掛けていない」と続けた。
 
2021年度(20年10月〜21年9月)のメキシコ国境での不法移民の拘束者数は約170万人で、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)などで少なかった前年度の約4倍に増加した。22年度上半期は100万人を超える見通し。
 
クルーズ氏は「民主党が多数派を握る議会で国境警備法案の審議が進まないのは、民主党が政治的な問題として、不法移民を支援すると決めたからだ」と主張した。「民主党は、昨年流入した不法移民200万人を未来の票田と見なしている。幼い子どもが身体的・性的暴行を受けることになる結果もいとわない」と続けた。

議員団は、バイデン氏がドナルド・トランプ前政権が導入した移民抑制政策「タイトル42」を終わらせれば、移民の数がさらに増加すると警告している。「タイトル42」は新型ウイルス流行国からの難民・移民を迅速に追放できるというもの。 【3月31日 AFP】
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共和党側は、この問題をことさらに強調して中間選挙の「争点」にしたい思惑が見られます。

****米首都へ「不法移民バス」=テキサス州、バイデン政権に反発****
米国への移民希望者の即時送還を取りやめるとしたバイデン米政権の決定に、移民の経由国メキシコと接する南部テキサス州が反発を強めている。移民殺到を危惧する同州のアボット知事(共和党)は抗議のため、入国手続きを終えた越境者をバスや飛行機で首都ワシントンに送る「奇策」に出た。
 
バイデン政権は1日、新型コロナウイルスの感染拡大防止を理由に移民希望者を即時送還してきた措置について、5月23日に廃止すると発表した。同措置の廃止で月に数十万人の移民希望者が押し寄せるとも指摘され、アボット氏は「バイデン政権の国境開放で、危険な犯罪組織や麻薬が流入する」と猛烈に批判していた。
 
FOXニュースによると、コロンビアやキューバからの越境者を乗せた最初のバスが13日朝、連邦議会議事堂の近くに到着した。「バイデン(大統領)が国境の混乱を見たくないのなら、国境を目の前に持って行ってやる」。アボット氏は同日のツイッターに、バスから降りる人々の画像が載ったFOXの記事を投稿し政権を挑発した。【4月14日 時事】
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共和党からだけでなく、中間選挙を控えた与党内にも移民増加を懸念する声があります。

****米、国境での即時送還措置を廃止へ 不法越境増加、与党からも懸念****
米疾病対策センター(CDC)は1日、新型コロナウイルスの感染防止のために国境で拘束した不法越境者を即時送還する措置を5月23日に廃止すると発表した。

だが、バイデン政権下で過去最多に達しているメキシコ経由の不法越境者がさらに増えるとの懸念が与党・民主党内にもある。2022年11月の上下両院選を含む中間選挙に向けた政権側の不安材料になっている。

この措置は20年3月にトランプ前政権が導入した。バイデン政権は未成年の単独越境者は例外としたが、成人の受け入れ拒否は引き継いだ。「バイデン政権は移民に寛容だ」との期待感からメキシコ経由の不法越境者が急増する中、秩序を維持して送還を容易にする名目として利用してきた側面もあった。

しかし、新型コロナの感染が減少傾向にある中で、移民受け入れを推進する民主党左派や人権団体から「非人道的な措置を続ける理由がない」との突き上げが厳しくなっていた。21年9月にはハイチからの移民を馬に乗った国境警備当局者が追い立てる映像が公開され、与野党から批判が上がった。

CDCは1日の声明で「公衆衛生の現況やワクチンなど新型コロナ対策が増えたことを踏まえ、もはや移民受け入れを制限する必要はない」と説明した。

ただ、措置廃止によって、不法越境者がさらに増えるとの懸念もある。米税関・国境警備局(CBP)によると、南西部のメキシコ国境で拘束された越境者は21予算年度(20年10月〜21年9月)に約173万人で過去最多を記録。21年10月以降も前年を上回るペースで増えている。越境者が急増すれば、収容施設が過剰収容になるなどの問題が深刻化しかねない。

メキシコ国境地帯を抱える西部アリゾナ州選出の民主党上院議員であるケリー、シネマ両氏は3月24日に連名で「国境での治安や秩序を守るため、包括的な対策の準備ができていない状況で即時送還措置を変更すべきではない」とバイデン氏に書簡で注意を促していた。

「国境の混乱」は、厳格な移民政策を求める野党・共和党に格好の攻撃材料を与えることになる。政権側も越境者のさらなる増加を懸念しており、国土安全保障省のマヨルカス長官は1日の声明で「密入国仲介業者が弱い立場にある移民から搾取するため、(米国に入国しやすくなるという)誤った情報を広めるのは分かっている。明確にしておくが、米国にとどまる法的根拠を示せない場合は送還する」と警告した。【4月2日 毎日】
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【移民にすがる人々にとっては変わらない現実の壁】
母国での事情から移民を強いられている人々からすれば、“タイトル42が停止された場合、移民希望者が国境に押し寄せる可能性があり、受け入れに消極的な層からの政権批判が高まることが予想される。中間選挙を控え、バイデン政権が積極的な受け入れに転じるかどうかは定かではない。”ということで、結局「トランプ政権と変わらない」という声も。

****「トランプ政権と変わらない」…コロナ禍理由に移民希望者を111万人「門前払い」****
メキシコ国境から米国入りを目指す中南米の移民希望者に対し、新型コロナウイルスの感染拡大を理由とした「門前払い」が続いている。亡命申請も出せないまま米国外に送還された移民希望者は昨年だけで約111万人に上った。移民に寛容な姿勢をアピールしてきたバイデン政権だが、実際にはコロナ禍を盾に移民を排除しているとの批判が根強い。

メキシコ国境
世界有数の犯罪都市として知られるメキシコ北部シウダー・フアレス。2020年の殺人件数は1642件で、人口10万人あたりでは首都メキシコ市の7倍以上に達する。貧困層が多い一角に、移民希望者向けのシェルター「サン・マティアス」はある。鉄条網付きの白壁に囲まれ、出入り口は常に施錠されている。
 
滞在する移民希望者たちは、豚や鶏などを飼育し、ビニールハウスではレタスなどの野菜も栽培する「半自給自足」の生活を送る。
 
シェルターは、キリスト教会が所有する土地に19年5月に設立された。3月現在、メキシコやグアテマラ、エルサルバドル、ベネズエラなど中南米を中心とした移民希望者約50人が滞在し、半数を子供が占める。
 
滞在者の多くは、正規の手続きを経ずに米国に入国後、移民・関税執行局(ICE)などに拘束され、メキシコに送還された人たちだ。暴力や貧困から逃れるため、米国への亡命を目指す。
 
メキシコ中部出身のヤディラ・バルガスさん(35)は、夫(39)と息子(12)と既に約8か月間滞在する。「暴力や誘拐が蔓延まんえんする故郷に戻る選択はない」と話す。
 
「半自給自足には食費の削減にとどまらず、暴力から逃れてきた人々の心を癒やす一種のセラピー効果もある」。シェルターを運営するヘクター・トレホ神父(42)は語る。
 
シェルターに滞在期限はない。米国に移住するには原則、亡命申請し、認められる必要があるが、シェルターに滞在する移民希望者の多くは申請も出せずに送還された人たちのため、今後の見通しは立たない。

みかじめ料
トレホ神父が運営する別のシェルター「エスピリトゥ・サント」で暮らすエルサルバドル出身のクリスティアン・ゴメスさん(24)は、母国ではコックとして働いていた。月400ドル(約5万円)以上の収入があったが、地元ギャングから「レント」と呼ばれる月200ドルのみかじめ料を強要された。失業で支払いに窮し、警官に相談すると、「(ギャングは)自分のおいだ。お前は終わりだ」と脅された。
 
「このままでは殺される」と恐怖を感じ、昨年8月に妻(29)と長男(1)と母国を出た。3週間かけ、メキシコ北東部レイノサから米国との国境を流れるリオグランデ川をいかだで渡り、米国に入った。ICEに出頭すると、妻子と離ればなれにされ、施設に8日間拘束された。
 
亡命申請を希望したが、ICEの職員から「スペイン語は話せない」と言われ、相手にされなかった。エルパソまで移送され、国境の橋の前でバスを降ろされた。メキシコ移民局の担当者からシェルターを紹介され、ようやく家族と合流できた。
 
不法移民に厳格なトランプ政権下の米疾病対策センター(CDC)は2020年3月、新型コロナのパンデミック対策として、「タイトル42」と呼ばれる規則を発令した。
 
移民希望者は従来、亡命申請後に裁判所の判断が出るまで米国の滞在が認められてきた。この規則では、亡命申請させないまま米国外への送還が可能だ。バイデン政権は21年1月の発足後、タイトル42から同伴者のいない未成年を除外したが、規則自体は存続させた。
 
税関・国境取締局(CBP)の統計によると、20年3月〜今年2月の間、米南西部国境での拘束者数は計約283万人に上り、このうち、約59%の約166万人がタイトル42によって国外に送還された。バイデン政権発足後だけでも約122万人に達する。
 
治安の悪いメキシコ北部に送還された移民の生活は過酷だ。米国の人権団体「ヒューマン・ライツ・ファースト」が今年1月に公表した報告書によると、過去1年間に、メキシコに送還されるなどした移民希望者に対する殺人や誘拐、性的暴行などの被害が8705件確認された。移民問題に詳しいホリー・ウェブ弁護士によると、レイノサにある国境なき医師団の施設で治療を受けた人の12%が一度は誘拐に遭っていた。

バイデン政権
移民希望者の過酷な境遇への批判が高まる中、首都ワシントンの連邦控訴裁判所は3月4日、タイトル42を巡る訴訟で、迫害などの恐れがある場合、未成年の子供を伴う家族には適用できないと判断した。3月上旬には、戦禍のウクライナを逃れ、米国への亡命を求めた女性と子供3人が、タイトル42を理由にメキシコから陸路での米国入りを拒否された。批判を浴びたバイデン政権は、一転して入国を認めた。
 
そもそも米国とメキシコは連日50万人以上が陸路で国境を行き来しており、新型コロナを理由に移民希望者を排除する合理性は薄れていた。CDCは今月1日、ようやくタイトル42を5月23日で停止すると発表した。
 
タイトル42を巡る訴訟に携わったニーラ・チャクラヴァルトゥラ弁護士は「バイデン政権発足から1年以上たったが、やっていることは前政権と変わらない。安全で公正な亡命プロセスを確立すべきだ」と指摘する。
 
ただ、タイトル42が停止された場合、移民希望者が国境に押し寄せる可能性があり、受け入れに消極的な層からの政権批判が高まることが予想される。中間選挙を控え、バイデン政権が積極的な受け入れに転じるかどうかは定かではない。
 
サン・マティアスに滞在するバルガスさんは亡命を望みながら、タイトル42のために申請できていない。「移民というだけで犯罪者扱いされる。悪事を働くために米国を目指すのではない。私たちは保護や安全を求めているだけだ」と訴える。【4月14日 読売】
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欧州 「脱化石燃料」に加えて「脱ロシア依存」 対応が分かれる原発・エネルギー政策

2022-04-11 23:29:15 | 資源・エネルギー
(訪問先の英南西部ヒンクリーポイント原発で、職員の作業を視察するジョンソン首相(右)4月7日、ロイター【4月11日 毎日】 ラフな作業着の着方、日本なら炎上しますね)

【欧州委員会 一部天然ガスと原子力エネルギーを「グリーン投資」に区分する提案】
原子力発電に対する考え方が各国の事情によって国によって異なるのは以前からの話ですが、最近も温暖化対策の観点から欧州委員会が一部天然ガスと原子力エネルギーを「グリーン投資」に区分する提案をまとめたことで、欧州内でも温度差が話題になりました。

EU内でもこの方針に中道左派政権のドイツ(環境政党「緑の党」も連立参加)とスペインは反対していますが、「原発大国」フランスは当然賛成です。

****天然ガスと原子力を条件付きで「グリーン投資」、欧州委が素案****
欧州連合(EU)欧州委員会は、一部天然ガスと原子力エネルギーを「グリーン投資」に区分する提案をまとめた。1月にEUの「サステナブル・ファイナンス・タクソノミー」に関するルールを提案する見通しだ。

欧州委は、グリーン投資に区分される経済活動や環境面の要件をまとめた。

「科学的助言と現在の技術の進展、加盟国間で異なる移行面の試練を考慮し、天然ガスと原子力には、再生可能を主体とする将来に移行するための手段としての役割がある」と声明で述べた。

ロイターが閲覧した欧州委の提案の素案では、原子力発電所への投資は、放射能廃棄物を安全に処分する場所や資金を確保する計画がある場合にグリーンと判定される。新規の原発がグリーンに区分されるためには、2045年までに建設許可を得る必要がある。

天然ガス火力発電所については、1キロワット時(kWh)あたりのCO2排出量が270グラム未満、30年12月31日までの建設許可取得、35年末までに低炭素ガスに切り替える計画があることなどが条件。

欧州委関係者はロイターに、エネルギー事情が異なる加盟国の移行を支援する上で、「一見グリーンに見えない解決策も一定の条件下では理にかなう」と述べ、天然ガスや原子力への投資には「厳しい条件」が付くと指摘した。

提案の素案は、EU加盟国と専門家委員会で審査され、1月中に公表される予定。公表後、欧州議会で審議される。【1月3日 ロイター】
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****「脱原発」の見直しを進める欧州と孤立する環境原理主義のドイツ****
(中略)EUの執行部局である欧州委員会は年が開けた1月1日、原子力と天然ガスを脱炭素に貢献するエネルギーに位置付ける方針を示した。これにドイツとスペインは反発しているが、フランス発のこの流れが止まることはまずありえない。

反露・反中の環境政党と組むという劇薬
ドイツで脱原発に強いこだわりを見せているのが、SPDと連立を組む環境政党、同盟90/緑の党(B90/Grünen)だ。脱原発を公約に支持を広げた経緯がある同党にとって、その撤回は受け入れ難い。共同代表の一人であるハーベック副首相兼経済相が気候政策を担当していることもあり、同党は今年末に定めた脱原発目標の実現に執着する。

電力価格の高騰に伴い、ドイツでも脱原発の在り方を見直そうという世論が高まっている。ただ、そうした声に耳を傾けてしまうと、B90/Grünenは環境政党としての「レゾンデートル」を失うことになる。

一方、クリーンな化石燃料である天然ガスをロシアから「ノルドストリーム2」を通じて購入することも、B90/Grünenには受け入れ難い。(後略)【1月22日 土田 陽介氏 JBpress】
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【「原発推進」か「脱原発」か  エネルギー脱ロシア依存でも対応に違い】
このエネルギー対策、原子力発電対策は、ロシアのウクライナ侵攻によって、天然ガスの4割超、石油の約3割をロシアからの輸入に頼るというロシア依存の高い欧州にあっては安全保障の観点からも大きな問題となっています。

****「原発推進」か「脱原発」か “ロシアリスク”めぐり割れる欧州****
ウクライナ侵攻により、ヨーロッパではロシアに依存してきたエネルギーの調達方法を見直す動きが加速しています。原子力発電所をめぐっては、ドイツとフランス、2つの大国で対応の違いがより明確になっています。(中略)

福島第一原発事故の後、電力の原発への依存を70%から50%に引き下げることにしたフランス。しかし、マクロン大統領は方針転換を表明し、温暖化対策ともに『エネルギーの自立』を訴え、新たに最大14基を建設する計画を発表しました。

フランス マクロン大統領
「ガス、石油、石炭への依存から初めて脱却する国になることができます」

EUの加盟国は石油や天然ガスの輸入でロシアに依存してきましたが、ウクライナ侵攻で状況は変わり、ロシアへのエネルギー依存からできるだけ早く脱却することで合意。原発の稼働延長を決めた国も出ています。

一方、ドイツは、年末までに「脱原発」を完了させる方針を維持。ロシアに代わる調達先との交渉や再生可能エネルギーの発展によって、最も依存してきた天然ガスでも「2024年夏までには依存ゼロに出来る」としています。

ドイツの専門家も、ロシア軍がウクライナの原発を一時制圧したことで「脱原発の必要性がより明確になった」と話します。

ドイツ経済研究所 ケムフェート教授
「原発は戦争の時代には合わない。これは私たちがウクライナでいま見ていることだ。フランスには学んでほしい」

フランスでは、今週末に行われる大統領選挙の主な候補者のほとんどが原発に賛成。選挙戦で議論されることもありません。

パリ市民
「確かに簡単に攻撃のターゲットになり得ますね。でも代わりはあるのかな?」「原発は他のものよりは悪くないと思う」

ヨーロッパで隣り合う大国で、方針は真っ二つに分かれています。【4月6日 TBS NEWS】
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【EUの脱ロシア依存戦略 禁輸については温度差】
EUはロシア産エネルギーを減らしていくということでは合意しています。

****EU、ロシア産エネルギーへの依存ゼロを計画 27年までに****
 欧州連合(EU)の行政執行機関、欧州委員会のフォンデアライエン委員長は13日までに、ロシア産のエネルギー源への加盟国の依存度を2027年までにゼロにする対策を今年5月半ばまでに示す方針を明らかにした。

27年までにロシア産の天然ガス、石油や石炭への依存度を段階的に減らし、加盟国や欧州全体が保有する資源の活用を訴える内容になるとした。(中略)

同委員長はまた、3月末までに天然ガス価格の上昇が電気料金に波及することを制限する選択肢を提示するとも表明。作業部会を設け、次の冬季へ向けた補充計画も錬らせるとした。

EUは長期にわたる天然ガスの備蓄政策をまとめる必要もあり、毎年10月の初旬までに地下施設における保存量を少なくとも90%にすることを提案するだろうとも指摘。供給面での障害の発生に備えた政策でもあるとした。

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けEUは先に、ロシア産の天然ガス輸入を今年3分の2程度減らし、30年よりかなり前には同国産の天然ガスや石油への総体的な需要をなくす方針も示していた。【3月13日 CNN】
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ただ、“禁輸”という話になると温度差が露呈します。

****EU、ロシア産原油・ガス禁輸で温度差 エネルギー依存解消急ぐ****
ブリュッセルで開かれた欧州連合(EU)首脳会議は25日、2日間の日程を終えて閉幕した。ウクライナに侵攻するロシアへの新たな制裁について協議したが、ロシア産原油や天然ガスなどの輸入禁止について意見が割れ、具体策に合意できなかった。エネルギー供給でのロシア依存が対露戦略上の課題として改めて浮き彫りになった。

一方、首脳会議でEUはガスの共同購入により安定供給を目指す方針を決定。また、米国と液化天然ガス(LNG)の欧州への輸出拡大で合意し「脱ロシア依存」を急ぐ。

米国は既にロシア産原油、天然ガスの禁輸に踏み切っている。しかし、天然ガスの4割超、石油の約3割をロシアからの輸入に頼るEUでは、依存度の高いドイツなどが慎重姿勢を崩さない。
 
一方、強硬派のポーランドやバルト3国からは禁輸に乗り出すべきだとの声が上がる。ラトビアのカリンシュ首相は24日、首脳会議の会場で報道陣に「(新たな制裁で)最も論理的なのは石油など(の禁輸)に踏み出すことだ」と主張した。
 
双方の溝は埋まらず、採択された声明では、ロシアに対する「さらに強力な制裁に向けた準備ができている」と記すにとどめた。(後略)【3月26日 毎日】
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アメリカの欧州へのLNG輸出が“支援”なのか、米国産ガスのウクライナ問題を利用した“売り込み”なのかは評価の分かれるところですが。

比較的代替調達先が見つけやすい石炭については、ドイツの要請でひと月遅れたものの、8月半ばから“禁輸”となるようです。

****EUのロシア産石炭禁輸案、実質的開始は8月半ばに延期=関係筋****
 欧州連合(EU)加盟国は7日の大使級会合で、ウクライナ民間人殺害を受けたロシアへの制裁措置として、ロシア産石炭の輸入を8月半ばから停止する措置で合意する見通し。EU筋がロイターに明らかにした。実施時期はドイツの要請で1カ月先送りされた。

欧州委員会の当初案は、既存契約を段階的に縮小するとし、制裁発動から90日間はロシアの欧州向け輸出が事実上可能となっていた。

EU筋によると、この猶予期間は4カ月に拡大された。域内最大の輸入国ドイツから圧力がかかったという。制裁は正式発表を経て週内か来週初めに施行する見込み。既存契約の下で8月半ばまでロシア産石炭の輸入は可能となる。

ある外交筋は、契約のほとんどが短期のため90日間で大半が完了可能とし、中途でのキャンセルは必要ないと述べた。

ロシアのウクライナ侵攻以降、EUがロシアからのエネルギー輸入を禁止するのは初めてとなる。

欧州委員会は、石炭の輸入禁止により、ロシアの年間収入が40億ユーロ(43億6000万ドル)失われる可能性があると推計している。

今回の措置により、ロシア産以外の石炭の輸入が増え、石炭価格が上昇する可能性がある。ただ、EU以外の輸入国はロシア産石炭の価格下落で恩恵を受ける可能性がある。【4月7日 ロイター】
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【フランス 「原子力産業のルネサンス」】
主要国のエネルギー・原子力発電への対応を見ていくと、フランスはウクライナ以前から【前出 TBS NEWS】にあるように原発拡大策をとっています。

****仏、原子炉最大14基新設へ 「原子力産業のルネサンス」****
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は10日、国内に原子炉を最大14基新設する計画を発表した。「仏原子力産業のルネサンス(再生)」を目指す。
 
マクロン氏は北東部ベルフォールの原子力発電用タービン工場を訪問した際、欧州加圧水型原子炉の改良型「EPR2」6基を新設し、さらに8基の新設を検討すると述べた。
 
マクロン氏によると、フランスは2011年の福島第1原子力発電所の事故以来、脱原発という「極端な選択」こそ避けたものの原子力産業への投資を怠ってきた。世界に類を見ない厳しい原子力規制があり、「進歩と科学技術に対する信頼」に基づき新設を決めた。
 
また、既存の原子炉の耐用年数を安全な範囲内で延長するとともに、風力や太陽光などの再生可能エネルギーに新たな大規模投資を行う方針も示した。 【2月11日 AFP】
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【ドイツ 「脱原発」と「脱ロシア依存」で厳しいエネルギー事情】
「脱原発」のドイツは「脱ロシア依存」もあって、苦しいエネルギー事情です。

****ロシア産石炭と石油、ドイツが年内に輸入停止…24年半ばには対露依存度ゼロへ****
ドイツのショルツ首相は8日、「ロシアの化石資源から自立するため、大きな仕事をしなければならない」と述べ、ロシアからの石炭と石油の輸入を年内に停止する考えを示した。就任後初めて訪問した英国で、ジョンソン英首相との共同記者会見の際に明らかにした。
 
独政府によると、石炭については今月から輸入制限を始め、秋には取引を止める。輸入量の半分を占める天然ガスは、2024年半ばまでにロシアへの依存度をゼロにする方針だ。
 
欧州連合(EU)は8月から露産石炭などの輸入を禁じる。石油禁輸についても11日に協議する見通しで、エネルギーのロシア依存からの脱却を加速させる。【4月10日 読売】
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****ウクライナ侵攻のせいでドイツで暴動が起きるかもしれない****
(中略)3月のドイツの消費者物価指数(CPI)は前年比7.6%上昇した(EU基準)。戦後のドイツの最悪のインフレ率は第1次石油危機時の7.8%だったが、この数字が更新されるのは時間の問題だろう。
 
深刻なインフレの原因はエネルギーコストの高騰にあることは言うまでもない。ドイツはウクライナ危機以前からエネルギー価格の上昇に苦しめられていた。

ガス早期警報プログラムを策定
ドイツでは通常、電力・ガスの契約は1年ごとに更新されるが、今年1月の見通しでは、ドイツの約420万世帯の電気料金は平均63.7%上昇し、360万世帯のガス料金は62.3%値上がりとなっていた。発電所の燃料調達コストが上昇したことや再生可能エネルギーの生産量が減少することなどがその理由だった。
 
昨年末に稼働中の3つの原子力発電所の運転を停止したことも災いした。ドイツが電力価格の高騰に対処できるカードは天然ガスのみとなってしまったのだが、その矢先にウクライナ危機が勃発し、頼みの綱だったロシア産天然ガスの依存から早期に脱却せざるを得なくなった。
 
その苦境を見透かすかのようにロシアが3月下旬にガス代金のルーブル払いを要求してきたことから、ドイツ政府は「ガス早期警報」プログラムを策定することを余儀なくされた。

プログラムは(1)早期警報、(2)警報、(3)緊急事態の3段階になっており、早期警報が出されると危機対策本部が招集され、緊急事態になると電気の配分について政府が介入するという仕組みになっている。
 
政府は国民に対してエネルギーの節約を強く呼びかけており、1970年代の石油危機を彷彿とさせる状況になってしまっている。
 
エネルギー危機に直面したドイツは、電力の安定供給を優先するため「脱炭素」を先送りせざるを得なくなっている。ドイツの電力最大手RWEは3月下旬、停止した石炭火力発電所の再稼働や、停止が決定されている発電所の運転延長を検討し始めた。
 
だが、欧州連合(EU)が4月上旬、追加制裁の一環としてロシア産石炭の禁輸を打ち出したために、ドイツの石炭火力発電所の一部が運転停止に追い込まれるという逆風にさらされている。(後略)【4月11日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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上記記事は、エネルギー価格上昇に加えて、ウクライナ情勢を受けた食料品価格上昇、インフレによる経済悪化、不動産バブル崩壊の危機で、ドイツの苦しい状況を指摘しています。

【イギリス 原発拡大で脱ロシア依存目指す】
イギリスは原発拡大でロシア依存脱却を図っています。

****英、原発8基新設へ 首相「プーチン大統領の脅しに影響されない」****
ロシアのウクライナ侵攻を受けた世界的なエネルギー不安の中、英国で原子力発電所を新設する動きが加速している。エネルギーのロシア依存脱却を図る狙いがあるが、安全面などからは懸念の声も上がっている。
 
「プーチン(露大統領)のような人物の脅しに影響されてはならない」。ジョンソン英首相は7日、訪問先の英南西部ヒンクリーポイント原発でそう語り、安定したエネルギー供給の重要性を強調した。
 
英政府は6日に発表した新エネルギー戦略の中で、2030年までに最大8基の原発を新設する方針を明らかにした。現在は電力需要の15%前後を占める原発の比率を50年までに25%程度に引き上げる計画だ。

風力や太陽光などの再生可能エネルギーも拡大し、30年には原発を含む「低炭素」電源で需要の95%を賄うという。

IAEA(国際原子力機関)によると、英国では現在11基の原発が稼働中だが、いずれも老朽化が進んでおり、新戦略では小型モジュール炉(SMR)など次世代原子炉の開発を進める方針も示された。
 
背景には、ロシア依存からの一層の脱却を目指す英政府の思惑がある。既にジョンソン政権はロシア産原油の輸入を22年末までに止める方針を表明し、今後は天然ガスの輸入禁止も検討している。

北海油田を擁する英国は他の欧州諸国に比べロシア依存度は高くないが、世界的なエネルギー不安の中、最近は英国でもガスや電気料金が値上がりしており、政府はエネルギー自給力の強化に乗り出した格好だ。
 
ただ原発は建設コストが高く、稼働までには時間もかかるため、即座に光熱費抑制にはつながらない。英メディアによると、野党からは「高額請求に直面する数百万の家庭には何の助けにもならない」(労働党のミリバンド元党首)と批判の声が上がっているほか、原発を危険視する反核団体なども反発を強めている。
 
ウクライナ情勢を受け、欧州各国では原発の存廃を巡る議論が続く。欧州メディアによると、22年末までの全原発停止を決めているドイツは予定通り脱原発に踏み切る方針。一方、25年までの脱原発を決定していたベルギーは、一部の原発の稼働延長を決めた。【4月11日 毎日】
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日本では、NHK世論調査によると“エネルギーの価格が上がっても、ロシアへのエネルギー依存度を下げることを、支持するか聞いたところ、「支持する」が68%、「支持しない」が17%でした。”【4月11日 NHK】とのこと。

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台湾  ウクライナ侵攻をうけての「台湾侵攻」に関する議論 中台双方に核の議論も

2022-04-10 23:32:19 | 東アジア
(3月12日、台湾軍の予備役訓練(台湾北部・南勢埔)を視察した蔡英文総統。【3月31日 BUSINESS INSIDER】)

【中国 ペロシ米下院議長訪台に激しく反発 とりあえずはコロナ休戦】
アメリカはトランプ前政権、バイデン政権ともに、中国との対立が深まるにつれて、それに比例するように中国を睨んだ台湾への関与を加速させています。

****米、台湾にパトリオット訓練=総額117億円支援を承認、中国反発****
米国務省は5日、台湾への地上配備型迎撃ミサイルシステム「パトリオット」に関連する訓練や配備、保守などの技術支援サービスや機器の売却を承認し、議会に通知した。売却総額は推定9500万ドル(約117億円)。
 
国防総省傘下の国防安全保障協力局は声明で「この売却は台湾の安全保障を向上させ、地域の政治的安定や軍事バランスの維持に寄与する」と説明した。
 
中国外務省の趙立堅副報道局長は6日の記者会見で「断固反対し強烈に非難する」と反発。売却計画や米台軍事関係の停止を求め、「中国は有力な措置を取る」と対抗策を示唆した。【4月6日 時事】 
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当然に中国は反発を強めていますが、更に、大統領権限の継承順位第2位というバイデン政権発足以降、最高レベルの要人となるナンシー・ペロシ米下院議長が近く台湾を訪問することが報じられ、中国のアメリカ非難はヒートアップしました。

とりあえずはペロシ米下院議長の新型コロナ感染で訪台は延期されましたので、中国の非難も小休止でしょうか。

****米下院議長の訪台に中国激烈反応、「コロナ陽性で延期」―米国華字メディア****
台湾メディアは7日、ナンシー・ペロシ米下院議長が近く台湾を訪問すると報じた。(中略)。以下は多維新聞記事の抄訳だ。

中国の王外相はフランスのボンヌ大統領外交顧問との電話会談の際に、ペロシ下院議長の訪台について「台湾問題で、『一つの中国』という(越えてはならならない)レッドラインを公然と踏みにじる挙動だ。もしも米国が独断専行するならば、中国は必ずや、断固たる対処をする。一切の結果の責任は米国にある」と述べたという。

中国政府外交部(中国外務省)の趙立堅報道官も、ペロシ議長の訪問について「一つの中国の原則と中米両国の三つの共同声明の定めに甚だしく違反するものだ」「中米関係の政治的基礎に重大な打撃を与える」などと米国側を強く批判した。

米国憲法などの定めによれば、大統領が執務を継続できなくなった場合に職務を引き継ぐのは副大統領であり、副大統領も職務執行が不能ならば、下院議長が大統領の執務を引き継ぐ。つまり下院議長は米国の政治で3番目に高い地位と言える。

直近では、1997年にニュート・ギングリッチ下院議長が訪台した事例がある。しかしギングリッチ議長は共和党に所属し、当時のクリントン民主党政権とは対立していた。つまり米国国内の政治的状況が作用する側面も強く、ギングリッチ議長の訪台は、当時の米国政権の意向を反映したものとは言えない側面があった。

しかしペロシ下院議長はバイデン大統領と同じ民主党に所属する。つまり米現政権の意志として、政界で極めて高い地位にある人物が台湾を訪問することになる。

中国メディアの環球時報の前編集長である胡錫進氏はペロシ議長の訪台について「中国は引き下がらない。前例のない対処をする」「ペロシ議長の台湾訪問が正常に行えないようする。例えば台湾上空を飛行禁止にして空から封鎖する」「解放軍の戦闘機を当日、台湾上空を通過させる。台湾軍の攻撃により解放軍機が墜落すれば、ミサイルを発射した台湾軍基地に壊滅的な打撃を当たる」などと論じた。

胡錫進氏にはあまりにも過激な論調が多く、「大言壮語」などと揶揄(やゆ)されてきた。しかし総合的に見れば中国では民間も当局も激高しており、「一戦も辞さず」の状況とも言える。このことで、中国政府が踏み越えることを認めないレッドラインが、かなり具体的に見えてきた。

ペロシ議長は新型コロナウイルス感染のために訪台を延期することになったが、米・中・台を巡る極度な緊張が一時的に緩和されただけで、問題が解決されたわけではない。

しかし米国政府がこの「モラトリアム」を利用して情勢を見極め、崖っぷちで踏みとどまれるかどうか、そのことによって、今回ほどには深刻な結果をもたらさない「台湾カード」を切り続けられるようにできるかどうかは、バイデン政権の知恵だけでなく、米国による秩序の安定にも関わっている。(後略)【4月10日 レコードチャイナ】
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ペロシ米下院議長のコロナ感染は本当なのか・・・中国のあまりの激高に、冷却のための体のいい言い訳としてコロナを利用したのかも・・・というのは下種(げす)の勘繰りというものでしょう。

【「中国にはこの秋、台湾を武力侵攻する計画があった」とのFSB内部リポート】
中国・習近平政権ができるものなら武力による台湾侵攻してでも統一を果たしたい・・・と考えているというのは、周知のところですが、現在起きているロシアのウクライナ侵攻がそのことにどのように影響するかについては、いろいろと議論があるところです。

ロシアの侵攻がスムーズにいっていれば、「次は台湾だ」という話にもなったかもしれませんが、逆にロシアが苦戦して、欧米から孤立し厳しい制裁を課されるという現状では、また違った影響も考えられます。

****これではできない「台湾武力侵攻」、プーチンの失敗で大誤算の習近平****
中国にはこの秋、台湾を武力侵攻する計画があったが、ロシアの苦戦ぶりをみてその機会を失ったと考えているという。情報元は、ロシア連邦安全局(FSB)のアナリストが書いたとされる情報分析リポートだ。(中略)

台湾のネットメディア「新頭殻」がこのFSB内部リポートを引用して、中国が「秋に全面的に台湾統一に出ると計画していた」と報じた。

それによると、習近平はこの秋に台湾全面進攻を計画していた。その勝利によって、党大会で政権3期目連任を確実なものにできると考えていた。しかし、ロシアのウクライナ侵攻が失敗して挽回できなくなったとみるや、習近平は台湾武力侵攻の機会がすでに存在し得ないと気づいた。さらに米国がこれを機に中国を脅して、習近平の政敵に有利な条件を与えることになった、という。(中略)
 
これが本物の内部文書であるとすれば、プーチンと習近平はもともと連動して軍事進攻を行う計画を持っていた、ということだろうか? だとすれば、昨年(2021年)11月に台湾武力侵攻反対派の筆頭である劉亜洲が「失踪」させられたこと、そして全人代閉幕と同時に飛び出した、国務院直属シンクタンクの著名学者、胡偉が発表した「ロシアと縁を切れ」という提言との関連性をどう整理すればいいのだろう。

「一刻も早くプーチンを切り捨てよ」と提言
胡偉の提言というのは、3月11日頃から中国内外で話題になった、「プーチンを切り捨て、米国サイドに立つべきだ」とした政府への提言文書のことである。(中略)

こういう状況で中国がこれまでの路線を進めると、ロシアが倒れたのちに西側勢力は中国にロックオンし、中国に対する戦略的包囲網をさらに強化し、軍事的包囲網だけでなく、西側の制度と価値観の挑戦に直面する、と予測した。
 
だから、できるだけ早く「ロシアという荷物を降ろすべきだ」と、プーチンを切り捨てるよう提言。1〜2週間のうちに即断しなければ中国にも挽回の猶予がない、と判断を急がせている。

中国が「世界平和維持の立役者」に?
さらに胡偉によると、中国は目下、曖昧路線、中間路線をとろうとしているが、この選択はロシア、ウクライナのどちらも満足させていない。それよりも「中国は世界のメーンストリームサイドになって、孤立を避ける選択をすべきだ」「この立場は台湾問題にも有利だ」と言う。(中略)

さらにうまくいけば、中国は「世界を核戦争から救った立役者」になるかもしれない、と胡偉は指摘する。「中国は世界で唯一この種の能力を持つことのできる国家であり、この優勢を発揮しなければならない。プーチンが中国の支持を失えば、おそらく戦争は終結するしかない。少なくともさらにエスカレートさせることはない。このことから、中国は国際的・普遍的な賞賛を勝ち得て、孤立局面から脱出する助けになるだけでなく、世界平和を維持した立役者となって、米国と西側との関係改善の機会を探すことも可能となるのだ」──。
 
この胡偉の大胆な提言は、中国のネットで一時的に広がったのちにすぐに削除され、今は見ることができない。つまり、この提言は中国当局としては公認されておらず、この意見に中国世論が感化されることを望んでいないということだ。(中略)

習近平を追い落とす絵が描かれている可能性
こうした情報を整理し、想像をたくましくして、次のような仮説を考えてみた。
 
習近平はプーチンに対し個人的にも思い入れがあり、全面的支援をするつもりだった。あるいはプーチンのウクライナ侵攻に呼応して秋に台湾進攻を計画していたかもしれない。この計画に反対する劉亜洲は発言を封じられて昨年11月以降、「失踪」した。習近平はプーチンに対して冬季五輪閉幕まで進攻作戦を延期するよう頼み、プーチンも承諾した。
 
だが、五輪後に行われたロシアのウクライナ電撃進攻作戦は明らかに失敗した。党内、官僚、軍内の反習近平派がこれを理由に、反プーチン親米路線への転換を望み、秋に習近平がやりたがっていた台湾進攻阻止を訴えている。(中略)

党内アンチ習近平派と米国側が手を組んでプーチンと習近平をセットで失脚させる絵を描いている可能性もある。(後略))【3月17日 福島 香織 JBpress】
******************

上記は、FSB内部リポートに関する真偽も定かでありませんし、“党内アンチ習近平派と米国側が手を組んで”云々も福島氏のたくましい想像の域をでません。

【そうそう容易ではない中国の台湾侵攻】
いずれにしても「台湾侵攻」というのは中国にとってそうそう容易にできるものではなく、また、国際社会・アメリカにとって軍事的・経済的に重要な台湾と東欧の一小国ウクライナを同列に論じることはできないとの指摘も。

****ロシア・ウクライナ戦争で中国も台湾に侵攻すると安易に考えない方がいいこれだけの根拠****
ロシアがウクライナに戦争を仕掛けたことで、次は中国が台湾に軍事攻撃を仕掛ける番だという論調が日本国内で見られる。(中略)

しかし、私は断言する。今の中国には、台湾を侵攻するだけの能力もなければ、意思もない。

能力とは、一にも二にも軍事力だ。戦闘機を例にとってみよう。(中略)軍事に詳しい専門家によると、アメリカ製のF−16たった1機で20機ものJ−20(中国の主力戦闘機・殲−20)を撃墜できるという軍事シミュレーションの結果もあると言う。(中略)

台湾はそのF−16をはじめ、アメリカから数億から数十億ドル単位で戦闘機や武器を購入している。台湾の2022年の防衛費は約1兆8600億円。九州本島とほぼ同じ面積に対してこの莫大な防衛費である。

そんな台湾を中国共産党の人民解放軍が明日にも侵攻するかも、などというのはおとぎ話なのだ。台湾が独立を宣言しない限り、少なくとも向こう10年、中国が台湾に侵攻することはないだろう。

中国にもその意思はナシ
次に、意思だ。仮に習近平国家主席が台湾に軍事侵攻し、ウクライナ戦争のどさくさに紛れて祖国統一を実現したいと考えていたとしても、今の中国共産党指導部の中には台湾侵攻を考えている人は少数派だ。チャイナ7とも呼ばれる中国共産党政治局常務委員7人のうち多くは、中国が今も発展途上国であり、アメリカ製の武器に人民解放軍が太刀打ちできないことを理解している。
 
ただし、「台湾が独立を宣言しない限り」という条件は付く。台湾が独立を宣言することはすなわち国家分裂に当たり、これは、中国共産党として許すことはできない。(中略)

習は軍の意思決定機関である中央軍事委員会の主席を兼務しているが、実は軍人としての功績はない。無謀な台湾侵攻を訴えても、職業軍人から猛反対に遭うのは目に見えている。軍を掌握していることと実際に軍を動員することは別次元の問題で、中国の仕組みはそうは甘くない。

台湾政府も「ウクライナとの比較はできない」
さて、ここからが肝心な話。日本ではほとんど報じられていないが、ウクライナと台湾を重ね合わせて考えることについて、実は台湾政府自身によって見当違いであることが表明されている。

対中国政策を所管する大陸委員会のトップ(閣僚級)を務める邱太三・主任委員は25日、メディアの取材に対し、「地政学から言ってもウクライナと台湾を比べることはできない」と明言し、その理由として以下の3点を挙げた。

第一は、台湾がアジア太平洋地域の第一列島線上で最も重要な場所を占めているため。第一列島線とは日本から台湾、フィリピンへと続く軍事的防衛ラインで、中でも台湾は真ん中に位置するため、戦略的価値が最も高い。
 
第二に、台湾は世界20位前後のGDPを持っており、経済で言えば特に半導体供給地として極めて重要であるため。農業や天然ガスしか産業がないウクライナとは比べられない。(中略)

そして第三に、(中略)中国大陸と台湾の間には台湾海峡が横たわっている(中略)

このような理由から台湾とウクライナは比較できないとすることで、中国が台湾に軍事的手出しはできないことを暗に言ったことになる。
 
台湾内で一笑に付されているような議論をまことしやかに日本国内で議論する人たちは、ただの野次馬、もしくはわざと危機感を煽って日本の軍事力をよりいっそう増強させようとする意図があるとしか思えない。(後略)【3月1日 武田一顕氏 デイリー新潮】
**********************

“台湾内で一笑に付されている”と言えるかは異論もありますが、中国・習近平政権にとって台湾侵攻のハードルは非常に高いのは間違いないでしょう。失敗したら政権崩壊です。

“台湾の最新世論調査「中国は軍事侵攻しない」が約6割の“意外”。なぜか日本は「侵攻懸念」が8割超で…”【3月31日 BUSINESS INSIDER】

【ウクライナ侵攻による台湾側の核抑止論】
台湾が“一笑に付していない”話としては、核抑止力の議論も。

****台湾で浮上しつつある「抑止力」の議論****
3月2日付のTaipei Times紙の社説が、ロシアによるウクライナ侵略を受け、台湾の抑止力向上の必要性を説き、台湾による核兵器計画の再開にまで踏み込んだ提言をしている。  

(中略)本社説は、「今日のウクライナが明日の台湾」にならないために、国防上核兵器を含む高度の抑止力を保持すれば、中国が将来、「台湾統一」を目指して台湾に軍事侵攻することを躊躇することとなるかもしれないと述べ、台湾にとっての今後の課題に言及している。

実行は容易ではないであろうが、検討に値する興味深い内容である。本社説によれば、台湾は秘密裏に核兵器開発計画(新竹計画:Hsinchu Project)をもち、1964年に最初のテストを実施した。しかし、88年、米国からの圧力でこれを中止した。その結果、台湾は今日、核兵器を保有していないだけではなく、米国の核の傘にも入っていない。  

(中略)本社説の述べる今後の台湾にとっての抑止力向上の選択肢は次の3点である。 
(1)台湾にとって、1つ目の選択肢は、現在、台湾の保有する中距離ミサイル(「雲峰」)の射程距離(2000キロメートル)を延長し、重要な通常戦力による抑止力として使用することだ。こうすれば、北京、上海なども射程距離内に入る。 

(2)第2の選択肢は核兵器の「持ち込み」である。米国の核ミサイルを台湾に配備することは、もう一つの選択肢となる。米台間に外交関係のあった時期ではあるが、62年まで米空軍は TM-61マタドール・核搭載ミサイルを台南空軍基地に配備していた。 

(3)台湾自身が、米国の支援のもと、あらためて核兵器開発計画を再開することは、第3の選択肢である。  

ロシアのウクライナ侵略が中国の「台湾統一」に今後如何なる影響を及ぼすかは、現段階では想像の域を出ない。しかし、あらゆる可能性に対峙できるように準備を行うことは台湾の防衛にとって、喫緊の課題だろう。
 
最近の台湾の世論調査を見る限り――世論調査は変わりやすいものではあるが――ウクライナ危機のあと、台湾の多数の人々の、第一の関心事項は「いざとなった時、米国は来てくれるだろうか?」という問いかけであるように思われる。(後略)【3月24日 WEDGE】
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【ウクライナ侵攻による中国の核兵器増強論】
「核抑止力」の話は中国でも出ているとか。アメリカがウクライナ支援で軍を出さないのはロシアに核があるせいである。だから中国もアメリカを抑止できるような核兵器の高度化を図る必要がある・・・という議論です。

****中国が核兵器を増強、台湾巡る米との対立念頭に****
中国は、より強力な核兵器を保有することが、台湾をめぐる紛争が起きた場合に米国が直接介入することを防ぐ一つの方法だと考えている 

中国が核兵器の増強を図っている。中国政府の意向を知る複数の関係者が明らかにしたもので、背景には米国による脅威の評価の変化がある。核兵器の増強に新たな光が当てられたことで、米中間の緊張が高まりそうだ。
 
(中略)米国がウクライナで直接介入することに慎重な姿勢を見せていることで、中国は抑止力としての核兵器開発を一段と重視する決断に強く促されたようだと話す関係者もいる。中国指導部はより強力な核兵器を保有することが、台湾を巡る紛争が起きた場合に米国が直接介入することを防ぐ一つの方法だと考えている。(中略)
 
中国指導部に近い関係者らによると、トランプ前政権とバイデン政権の下で対中政策がよりタカ派姿勢を強めているため、米国が中国共産党政権の転覆を狙う可能性があるとの恐れも中国が核兵器に力を入れる原動力になっている。

米軍当局者と安全保障専門家は、中国の核兵器増強について、不意打ちの核攻撃も辞さないことを意味する可能性があると懸念する。中国指導部に近い関係者らは、核を先制使用しないことを約束していると話す。
 
同関係者らによると、中国は安全保障面で必要以上の武装を保持することはしない計画だ。また、中国軍は、自国の核兵器はあまりに時代遅れであり、米国の潜在的な核攻撃に対する抑止力としては効果的ではないと考えているという。(後略)【4月10日 WSJ】
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中国が核兵器の増強に走り、(現時点では現実性は小さいですが)台湾でも核保有の議論が高まれば、「じゃ、日本は?」という話にもなりますが、状況を正確に判断し、慎重さを要する話です。

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中国・上海  長引く封鎖 不十分な食料供給で困窮する住民も 日本・世界経済への影響も懸念

2022-04-09 23:27:54 | 中国
(ロックダウン中の上海住民向けに食料品や必需品を運ぶ担当者(4月5日)【4月7日 Bloomberg】 2500万人に配るというのは大変な量・作業です)

【増え続ける感染者 封鎖解除は見通せない状況 長期化の懸念も】
周知のように中国最大の商業都市・上海で新型コロナウイルス対策のロックダウン(都市封鎖)が続いていますが、収束の見通しがたたないまま封鎖期間が延長されています。

****上海の感染拡大、解除見通せず 都市封鎖2週間****
中国上海市で新型コロナウイルス対策のロックダウン(都市封鎖)が始まってから11日で2週間となる。同市での封鎖開始から8日までの感染者(無症状含む)は、空港検疫などを除き計約14万人。1日当たりの感染者数は8日連続で過去最多を更新し、封鎖解除の時期は見通せない状況が続いている。
 
新規感染者数が減らない理由は分かっていない。市は9日の記者会見で、全市民対象のPCR検査を改めて行うと表明。これまでの検査結果も踏まえ、居住区ごとに封鎖を続けるかどうかを判断すると説明した。
 
市の封鎖は東部で3月28日に開始。日本人が多く住む西部で4月1日から始まった。【4月9日 共同】
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上海の8日の新規感染者数は、2万3,624人と過去最多を更新しています。
封鎖に入る前は、感染が増えているとは言っても、ゼロコロナを続ける中国基準の話で、日本・東京と比べたらそれほどでも・・・というレベルでしたが、今では東京(9日の新規感染者8102人)を大きく超える状況になっています。
(もっとも、上海ではしらみつぶしに検査していますので感染者も多数見つかる側面はあります。東京も全員のPCR検査を行ったら・・・こんなものではすまないでしょう。)

中国ではゼロコロナ政策のもとで、無症状でも片っ端から隔離処置を行っていますが、その隔離施設がお粗末で、感染拡大を助長しているのでは・・・との指摘も。

****“劣悪”隔離施設で感染拡大か 上海・ロックダウン****
事実上のロックダウンをしている中国・上海で、新型コロナウイルスの感染者数が過去最多を更新している。
隔離施設の劣悪な環境が、感染拡大を助長しているのではとの声も聞かれる。

投稿した人たちは、「飲める水はない、充電はほぼできない、トイレはほぼつまっている」などと、劣悪な環境だとのコメントを寄せている。(後略)【4月9日 FNNプライムオンライン】
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感染拡大を助長しているかどうかは証拠も明示されていませんが、布団や食料の供給といった最低限の対策すら追いついていないのは間違いないようです。
““ロックダウン”続く中国・上海 隔離施設で“物資”奪い合いも…”【4月7日 日テレNEWS】

【「餓死者が出てからでは遅い」】
上海に関する多くの報道の論点は大きく分けてふたつ。
一つ目は、上海市民への食料供給がいきわたっておらず、住民からも不満の声が強まっていること。
二つ目は、生産・物流拠点である上海が封鎖されたことで、日本など世界に及ぼす影響が大きいということ。

まず、食料供給の面。

****タイトルは「助けて!!」。食料不足の上海で「餓死」の危機を訴えた文章が削除される****
「求助!!(助けて!!)」。
中国・上海市の食料不足について危機感を露わにした文章が、現地のネット空間で話題を呼んでいる。

事実上のロックダウン措置の続く上海では、食べ物を買えない人たちがネットなどで不満の声を上げている。この文章では、上海市東部に住むという匿名ユーザーが「餓死者が出てからでは遅い」と警鐘を鳴らす。
文章はネット空間で拡散されていたが、原文は削除されている。一体、どんな内容だったのか。

■1%でも25万人が食べられない
上海市では、新型コロナウイルスのオミクロン株などが猛威を振るい、4月8日には症状ありで1015例、無症状で2万2609例の感染者が見つかっている。

市内では、東西に分けた事実上のロックダウン措置が3月末から4月初めにかけて開始された。
住民は自宅から出られず、食料不足を訴える投稿が次々とネットに上がっている。政府からの物資配給もあるが、地区などによってばらつきが出ているとの声もある。

こうしたなか、文章で声を上げたのは、上海市東部に住むという「stormzhang」という匿名ネットユーザー。4月8日にアップされ、この時点で「封鎖されてから22日目」だという。

東部のロックダウンが始まったのは3月28日。一方で居住エリアごとの封鎖措置が先行して始まっていたケースもあり、stormzhang氏も巻き込まれた可能性がある。

文章では、「上海がこうなった原因を語りたいわけではない。責任を問うこともなく、そんな権力はない。話したいのは、全ての人が無視できない、上海人民の基本的な生活保障についてだ」と切り出す。

生活保障とは食料のこと。stormzhang氏の元にも、これまでに3度の配給があった。しかし「もって2日。焼け石に水だ」と実情を明かす。居住エリアごとに管理能力や供給される物資に差異があり、配給が届かない地区すらあるという。

この現状について「多くの人は信じないかもしれません。2022年のきょう、国際的な大都市で、人々が食べ物を買えずにいるだなんて、自分が経験していなければ私だって信じません」と自嘲する。

そして、ある計算を持ち出す。
上海の住民はおよそ2500万人だが「1万歩譲って、99%の住民に物資が行き届き、食べられずに困っているのが1%だけだとしても、25万人です。国際的な大都市で25万人が食べられない。災難ではありませんか?」。

そして、一部の人たちは実際に食料不足に苦しんでいるとして「もし万が一、この大都市で餓死者が出て、人道主義上の災難が起きれば、国際的な笑いものです」と警鐘を鳴らす。

文章はこう締め括られる。「問題を解決する人の目に留まるよう、この文章を拡散してください。明日の上海の人々が食料を手に入れ、食べる肉があることを願います。最後に、災難が起きているときには、正能量(ポジティブエネルギー)をやめてください。助けを求めるシグナルに道を譲ってください」。
ポジティブエネルギーとは、物事のプラス面や、政府にとって好ましい情報などを指す。

この文章の原文は「規約違反」だとして中国のSNSから削除された。一方でSNS・ウェイボーでは、複数のネットユーザーたちが、文章の書かれた画像などをシェアしながら「彼の書いたことは全て事実だ」などと抗議している。

stormzhang氏は自らのウェイボーで、削除されたことについて「歴史の流れの中で力は尽くした。何も恥じることはない」と投稿した。

■文章で抗議、西安でも
中国では、厳格な水際対策と、徹底した検査と隔離を組み合わせた「ゼロコロナ」政策を取り続けてきた。一方で政策のしわ寄せを受けた市民らが文章などで抗議するケースも出てきた。

2022年1月には、ロックダウンとなった西安市で、現地在住のジャーナリスト・江雪(こう・せつ)さんが「長安十日」という文章を発表。食べ物が住民の手の行き届かない事態に対して「本質的には人災だ」と指摘した。【4月9日 HUFFPOST】
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自宅・社区から出られない・・・ということの一方で、「通行証」というものもあるようです。

****“ロックダウン”の中国・上海「通行証」不正販売も…****
感染拡大が止まらず、事実上のロックダウンが続く上海では、“通行証”をめぐる不正が相次ぎ、警察も捜査に乗り出しています。(中略)

長引く“ロックダウン”に、市民の我慢も限界に近づき、それにつけ込む動きも出ています。

大型スーパーの周辺には、食料などを求める車の長い列ができていました。しかし、今、上海では「臨時通行証」をもった政府関係者や医療従事者などの車両しか通行できません。

そこで明らかになったのが、SNS上での「通行証」の代理販売です。(後略)【4月8日 日テレNEWS】
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そもそも“ロックダウン”のさなかに大型スーパーが営業しているのも「そうなの?」ってとこですが、従業員はどうしているのか? 仕入れの業者はどうしているのか? ネット通販の商品の配送は誰が?等々、“ロックダウン”の実態はよく知りません。

ですが、住民の困窮が深まっているのは間違いないところ。もちろん当局は食料配布に全力をあげているのでしょうが2500万人に配るというのは・・・至難の業にも思えます。stormzhang氏の言うように1%でも配布がいきわたらない者がいれば大変な数になります。

“新型コロナ 上海で5日連続過去最多 市民悲痛「物資よこせ」”【4月7日 FNNプライムオンライン】
“上海市、食品など配送体制改善へ 価格つり上げ取り締まり”【4月7日 ロイター】
“ロックダウンなのに食料配給なし 上海居住の日本人、不安な日々”【4月9日 毎日】

【サプライチェーン寸断で日本経済は多大な影響 コンテナ取扱量世界一の上海港の機能マヒで世界経済への影響も】
二つ目の論点の世界経済・日本への影響の問題。こちらも脅威です。

****ゼロコロナに固執で上海ロックダウンの惨状 半導体工場は世界不況の“時限爆弾”か****
(中略)
上海に居住している人や4月1日に上海から東京に来たばかりの人などと密接に連絡を取る、シグマ・キャピタル代表取締役兼チーフエコノミストの田代秀敏氏が現地の様子をこう話す。

「いま上海市民の間では“封鎖は2か月くらい続くかも……”と諦めとも絶望ともつかない声が上がっているそうです。食料難やインフラが止まるといった事態には至っていませんが、スーパーに買い物に行こうにも48時間以内に発行されたPCR検査の陰性証明がないと店内に入ることすらできない。また、生鮮食品の価格はネット通販ではあまり変わらないが、個人商店では2倍から3倍に跳ね上がっているとのことです」

市内各所に設置されたPCR検査会場も長蛇の列で、場所によっては“4時間待ち”もあるとか。とはいえ、“時間がないから”と列に割り込もうとして揉め事を起こせば、すぐにスマホ搭載の信用スコア(個人の信用格付情報)に反映され、ネットショッピングをはじめ、ありとあらゆる行動に影響が出かねない。そのため皆、不満を胸の内に秘めて大人しく並んでいるという。(中略)
 
「“ゼロコロナ”を掲げている以上、中国当局は陽性者がゼロになるまでPCR検査を繰り返し実施していく方針です。しかし、それでは検体の解析が追い付かず、検査会場でのクラスター発生リスクにも繋がる。実際、4月1日に行った1回目のPCR検査の検体数は1400万を超え、マンパワーも限界に達しつつあった。そのため上海市は3日、抗原検査キッドを各戸に配る方針に切り替えたのです」(同)
 
市民が自らキットを使って検査し、陽性が出たらPCR検査を受けるという方針への転換は、当局が長期戦を見据えていることの表れとも見られている。

世界的な半導体不足の危機
中国が世界有数の半導体消費国であるのと同時に、上海は国内の半導体産業の集積地として知られる。半導体を重点産業に位置付ける習政権の意向に沿って、半導体受託生産最大手のSMIC(中芯国際集成電路製造)は昨秋、約1兆円を投資して上海に新工場を建設すると表明したばかり。

「すでにSMICは上海に巨大工場を持っていますが、他にも市内には半導体の製造工場がたくさんある。そこで造られているのはTSMC(台湾積体電路製造)が製造しているような最先端の半導体ではなく、一世代あるいは二世代前のもの。

ただ、電子機器は最先端のモノと旧型の半導体が混在する形で機能する仕組みとなっているため、上海製半導体の重要性に変わりはありません。つまり世界に向けた一大供給拠点となっている上海の半導体工場がストップすると、スマホやパソコン、そして自動車など世界中のメーカーの生産に直接影響を与えるのです」(同)
 
コロナ禍以降、サプライチェーンの混乱で世界的な半導体不足が起きているが、上海の工場群が稼働を止めれば、トヨタをはじめとした各自動車メーカーやアップル、サムスンなど名だたる企業の経営を直撃する可能性があるというのだ。

「そうなれば、中国の経済成長も冷え込ませる一大事。だから上海当局は半導体工場だけは稼働させ続けるため、感染対策として工員を工場に寝泊まりさせる措置を取っています。とはいえ、工員らの疲労も限界に近づきつつあるといわれ、いまや綱渡りのような状況にある。ウクライナ危機以上に世界恐慌を誘発しかねないリスクを秘めた上海のロックダウンは、世界最大の“時限爆弾”のような存在となりつつあります」(同)【4月9日 デイリー新潮】
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検査場での秩序維持にディストピア的格付け社会を象徴する「信用スコア」が威力を発揮している(あるいは「信用スコア」によって住民の不満が封じ込められている)というあたり、興味深いです。

サプライチェーン寸断という点では、海外で一番影響をうけるのは日本でしょう。
上海港のコンテナ取扱量は12年連続で世界一ですから、長期の機能マヒは世界経済にも影響します。

****中国の「ゼロコロナ」政策、世界経済リスクに…ロックダウンで部品調達滞り生産に影響****
中国政府の「ゼロコロナ」政策が世界経済のリスクとなり始めた。上海をはじめとする中国主要都市の封鎖(ロックダウン)で住民の行動が徹底的に規制され、現地の工場や店舗が休業しており、中国からの部品調達も滞って日本など海外企業の生産活動に支障が出ている。影響が長期化すれば世界経済への打撃は避けられない。

販売減
「新型コロナの蔓延まんえんにより、サプライチェーン(供給網)が混乱する中で生産や販売も影響を受けた」
日産自動車の中国合弁会社トップの山崎庄平総裁は8日、中国での3月の新車販売台数が激減した背景をこう説明した。日産が同日発表した販売台数は8万7902台で、前年同月比32・6%減と大きく落ち込んだ。
 
ホンダも33・2%減と激減。トヨタ自動車は中国全体では横ばいだったものの、都市封鎖中の吉林省長春市に工場を構える現地企業との合弁会社「一汽トヨタ」の販売台数は17・3%減だった。
 
中国のロックダウンは、PCR検査を受けるとき以外は家の外に出られないなど、欧米に比べて厳格な措置となっている。従業員が出勤できず、客も来ないため、現地の工場や店舗は休業せざるを得ない。経済活動は大きく制約される。
 
ソニーグループは3月28日から、主にテレビを生産する上海の工場で操業を停止している。「再開の見通しは立っていない。上海市政府の方針次第だ」(担当者)という。
 
日立製作所はエレベーター工場で一時操業を止め、再開した一部の工場でも稼働率を落としている。
 
流通・小売りへの影響も広がっている。ファーストリテイリングは、上海の「ユニクロ」全86店舗、「GU(ジーユー)」全8店舗で休業している。ファミリーマートは、上海にある約1500店舗の一部が休業中だ。

日本に影響
日本国内への影響も出てきた。三菱自動車は、スポーツ用多目的車(SUV)「アウトランダー」などを製造している岡崎製作所(愛知県岡崎市)で11日から5日間、操業を停止する。中国からの部品供給が滞っているためで、従業員の一時帰休も実施する見込みだ。

ホンダは鈴鹿製作所(三重県鈴鹿市)で、4月の生産を計画より3割減らすことを決めた。部品調達の遅れに加え、現在も続く半導体不足も影響した。
 
中国に進出する米国企業でつくる中国米国商会が1日に発表したアンケート結果によると、製造業の81・6%が中国政府による閉鎖指示などにより、「生産の遅延か減少があった」と回答した。「サプライチェーンに支障が生じた」との回答は製造業で85・5%に上った。

上海港
世界最大のコンテナ取扱量がある上海港の機能低下は深刻だ。中国メディアの財新によると、中国欧州連合(EU)商会幹部は6日のセミナーで、「上海港に出入りできるトラック運転手が不足し、製品輸送が制限されている」と指摘。上海港の取扱量は通常より40%減少しているとの試算を示した。
 
第一生命経済研究所の西浜徹・主席エコノミストは、「中国の景気減速は避けられず、影響は経済的なつながりが深い東南アジア諸国などにも及ぶ。ロックダウンが長期化すれば、世界経済の下振れにつながる可能性がある」と指摘する。【4月9日 読売】
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サプライチェーン寸断で日本経済は多大な影響を被りますし、コンテナ取扱量で12年連続で世界一の上海港の機能マヒが長期化すれば日本だけでなく世界経済への影響も拡大します。

更にウクライナ情勢をうけてエネルギー・食料品価格が上昇。
当分は波乱含みの展開が予想されます。

****感染拡大の上海市の共産党委「いかなる困難も人民を倒せない」とメッセージ****
中国上海市の共産党委員会は6日夜、新型コロナウイルスの感染拡大が収まらないことを受け、「コロナとの戦いの最前線で党旗を高く掲げなければならない」と党員に奮闘を呼びかけるメッセージを公開した。
 
コロナとの戦いで生まれた人々の「感動的な行為」を広めるよう指示し、「いかなる困難も英雄の上海人民を倒すことはできない」と訴えた。愛党、愛国感情を刺激し、長引く封鎖で高まる住民の不満を抑える狙いがありそうだ。【4月7日 読売】
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「ゼロコロナ」を世界に誇ってきた習近平国家主席のメンツがかかっています。不手際が続けば地方政府幹部の首がとびます。本当はそんな習近平国家主席のメンツなどより、住民の生活・命が大切なはずですが・・・。
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フランス  大統領選挙でマクロン氏に「誤差の範囲まで肉薄した“極右”ルペン氏 「脱悪魔化」奏功

2022-04-08 22:55:04 | 欧州情勢
(【4月8日 TBS NEWS】)

【マクロン対ルペン 「誤差の範囲」に縮まる】
フランスでは大統領選挙が10日に投開票が行われ、過半数を超える候補がいない場合には24日に上位2人による決選投票が行われます。

これまでのところ、10日の投票で現職マクロン大統領が1位、極右マリーヌ・ルペン氏が2位につけ、両者の決選投票になれば、さすがに極右ルペン氏への抵抗感が根強いので、マクロン大統領が勝利する・・・・という大方の予想でしたが、投票直前になってルペン氏の追い上げが急で、決選投票での両者の差がどんどん縮まっています。

ルペン氏がそうした勢いで10日に善戦すれば、さらに勢いは加速して決選投票でマクロン氏を破りフランス大統領に・・・という可能性もまったくゼロではないような状況にもなっています。

****仏大統領選が10日投票 極右ルペン候補が現職猛追****
10日に第1回投票が行われるフランス大統領選で、極右「国民連合」党首のルペン候補が選挙戦終盤になって、支持率で首位に立つマクロン大統領を猛追している。2人が24日の決選投票に進出するとの見方が強まっている。

7日発表の支持率調査によると、マクロン氏は26・5%で、2位のルペン氏は24%。その差は2・5ポイントと、これまでで最も接近した。3位は急進左派のメランション候補で17・5%だった。

マクロン氏の支持率は2月、ロシアのウクライナ侵攻後に31%に上昇し、その後、下降線をたどった。選挙運動をほとんど行っていないうえ、マクロン政権と密接な関係にあった米コンサルティング会社で脱税疑惑が浮上したことなどが、痛手となった。

これに対し、ルペン氏は、最近のエネルギー価格高騰は「マクロン氏の失策のせい」と攻撃し、生活支援を訴えて地方行脚を重ねた。

国民の関心が高いウクライナ紛争では、「ウクライナは欧州の一員」として難民受け入れを訴えた。「移民排斥」という極右の強面(こわもて)イメージを和らげ、支持基盤を広げた。

ルペン氏の伸長を受け、マクロン氏は7日付仏紙フィガロで「極右は変わらない。根幹に反ユダヤ主義、外国人嫌悪がある」と述べ、警戒感を示した。

大統領選は、第1回投票で過半数を獲得した候補がいない場合、上位2人が決選投票に進む。2017年の前回大統領選では、マクロン氏が決選投票でルペン氏に勝利した。【4月8日 産経】
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****仏大統領選、決選投票調査でルペン氏の支持率が過去最高48.5%****
フランス大統領選が極右政党、国民連合(RN)のマリーヌ・ルペン氏とマクロン大統領の決選投票となった場合、ルペン氏に投票する意向の有権者の割合が48.5%と、過去最高を更新した。調査会社ハリス・インタラクティブが週刊経済誌シャランジュ向けに実施した世論調査が4日発表された。

過去数カ月間はマクロン氏の勝利が既定路線と考えられていたが、ルペン氏はここ数日で勢い付いており、両氏の差は誤差の範囲内に縮小した。

シャランジュは「2017年(の大統領選)の決選投票に残った両候補の差がこれほど縮まったのは初めて」と指摘。3月時点では、両候補の支持率は53─47%から58─42%の間でマクロン氏が依然としてリードしていたと説明した。

過去1カ月間に実施された他の調査と同様、今回の調査でも依然としてマクロン氏が勝利する確率の方が高い。

しかしマクロン氏はウクライナ危機に忙殺されて選挙戦の開始が遅れ、リードが著しく縮小。退職年齢の引き上げといった不人気な改革に重点を置いていることも痛手となっている。

一方、4月10日の第1回投票まで1週間を切る中、中間所得層と低所得層の購買力低下に焦点を絞ったルペン氏の戦略は奏功している

同氏の支持率は、第1回投票と4月24日の決選投票の双方とも改善し続けている。【4月5日 ロイター】
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48.5%対51.5%・・・差はわずか3ポイント、何がおきてもおかしくない数字です。

【選挙戦が盛り上がりを欠くなかで、物価上昇を批判するルペン氏に勢い】
マクロン大統領としてはウクライナ問題で存在感を示すことで大統領選挙を優位に進める戦略でしたが、当初こそそうした戦略が奏功して支持率が上昇した。
“マクロン氏、ロシア侵攻追い風に 投票まで1カ月、大統領選で独走”【3月10日 共同】
“仏大統領の支持率42%に上昇 コロナ対応の20年4月以来”【3月20日 共同】

しかし、最近は物価上昇の方が国民の関心の大きなウェイトを占めるようになり、そこを大統領の失政としてルペン氏がアピールする形に。

一方で、マクロ大統領陣営はウクライナ問題に集中した結果、地道な選挙戦で遅れをとった格好にもなっています。
現職大統領としての活躍を示せれば、特別の選挙運動をしなくても勝てる・・・といった油断が裏目にでる形にも。

マクロン大統領にとっては、最近のエネルギー価格や食料価格などの物価上昇(消費者物価指数は年内、最大で4.4%上がるという試算も)、後述の密接な関係にあった米コンサルティング会社の問題に加え、大統領選挙が盛り上がりにか欠ける、投票率が伸びないことが予想される状況も懸念されるところです。

****フランス大統領選まで2日 終盤極右候補が猛追 マクロン大統領陣営に危機感****
(中略)
世論調査では常にトップを走ってきたマクロン氏ですが、選挙戦が終盤にさしかかるにつれ、陣営は危機感を募らせています。その背景にあるのは。

記者 「マクロン陣営が懸念しているのは、今回の大統領選挙がなかなか盛り上がらないということです」

パーカー姿でヒゲもそらず、疲れた表情を見せるマクロン氏。ウクライナ問題で外交に取り組む様子を公開する一方、選挙運動は最小限にとどめてきました。

メディアの報道がウクライナ情勢に集中する中で、選挙が盛り上がらず、投票率が過去最低になる可能性も指摘されています。

陣営は「マクロン氏、再選濃厚」のムードが広がることで、支持者の“ゆるみ”を心配しているのです。(中略)

一方、前回の選挙でマクロン氏と決選投票を争った極右・国民連合のルペン氏は(中略)過激な発言を抑える「脱悪魔化」路線を進めながら、国内問題を優先する姿勢をアピール。物価高への対策を重点的に訴えていて、支持率では、この1か月でマクロン氏との差を一気に縮めています。(後略)【4月8日 TBS NEWS】
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【マクロン政権の「コンサル巨額支出問題」】
マクロン大統領の足を引っ張る米コンサルティング会社の問題については、以下のようにも。

****仏検察、マクロン政権の「コンサル巨額支出問題」で捜査開始****
フランス金融検察局(PNF)は6日、エマニュエル・マクロン大統領率いる政権のコンサルタント会社への巨額な支払いに関連する脱税疑惑について、捜査を開始したと明らかにした。
 
フランスは、10日に大統領選の1回目投票を控えている。対立候補の極右政党「国民連合(RN)」のマリーヌ・ルペン(Marine Le Pen)党首が追い上げを見せる中、再選を目指すマクロン氏に逆風が吹いた格好だ。
 
PNFは、上院調査委員会の報告書を元に3月31日に予備捜査を開始した。
上院調査委員会は、2018~21年に米コンサルティング大手マッキンゼー・アンド・カンパニーなどへの政府支出が倍増し、昨年には過去最高の10億ユーロ(約1350億円)に達したとの報告書をまとめていた。
 
PNFの捜査チームは「無計画な広がり」を非難。マッキンゼーは、フランス国内売上高が3億2900万ユーロ(約440億円)だったにもかかわらず、過去10年間にわたり国内で法人税を払っていないと指摘した。一方のマッキンゼーは、これを否定している。
 
PNFは捜査の詳細を明かしておらず、対象となる企業名も挙げていない。
 
マクロン氏は投資銀行の出身。現職に就いて以降も、対立候補からは「富裕層の大統領」とやゆされるなど、今回の調査は格好の攻撃材料となる。
 
マクロン氏は、コンサルタント会社の使用に問題はないと述べ、世界中の政府が行っている普通の慣習だと擁護した。【4月7日 AFP】
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マクロン大統領は「何か不透明なものがあるとの印象があるようだが、それは正しくない」と反論。政府調達に関する政策は厳格に順守されており、新型コロナウイルスの感染拡大で省庁や公務員の職務遂行能力が逼迫し、外部からの支援が必要だったと弁明しています。一方、ルペン氏率いる国民連合は「国家的なスキャンダルだ」と非難しています【4月1日 AFPより】

【ルペン氏 「脱悪魔化」のソフト化戦略が結局は奏功 ただ50%の壁を超えられるか、これからが正念場】
一方、マリーヌ・ルペン氏は、反ユダヤ主義を隠そうともしないような典型的極右の父親を追放する形で「国民戦線」(「国民連合」の前身)のリーダーとなり、ソフト化を進めてきましたが、最近は特に極右的な過激な主張を控えるようになっています。

おそらく、前回大統領選挙での敗北で、「極右」イメージを払拭しないかぎり、決選投票で過半数を得ることはできない・・・との思いを強くしたのでしょう。

ただ、そういうソフト化、「脱悪魔化」は身内からも反発を招き、離脱が相次ぎ、一時は極右姿勢を明確に示すゼムール氏に主導権を奪われるよな展開にもなりました。

****フランスで極右王朝に反旗 ルペン党首の姪がゼムール氏支援に****
フランスで4月に行われる大統領選で、極右政党「国民連合」のマリーヌ・ルペン党首(53)の姪、マリオン・マレシャル元下院議員(32)が6日、ルペン党首の対立候補、極右評論家のエリック・ゼムール氏(63)に支持を表明した。

マレシャル氏はこの日、ゼムール氏が南仏トゥーロンで開いた選挙集会に出席。「政界は再編成されると確信する。新しい勝利が可能」と述べ、ゼムール氏を称えた。マレシャル氏はルペン党首の姉の娘。当初は後継者とみなされていたが、17年に下院議員を退任後、国民連合と距離を置いていた。

国民連合は、ルペン党首の父が創設した「国民戦線」が前身。ルペン党首は2011年に党首選で勝利し、ユダヤ人差別発言を繰り返す父親を党指導部から排除し、実権を握った。

大統領選の支持率ではマクロン大統領が首位に立ち、ルペン、ゼムール両氏が2位を争っている。【3月7日 産経】
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しかし、現在の状況を見ると、ルペン氏の「脱悪魔化」とも評されるソフト化路線は正しい戦略だったようです。

****「脱悪魔化」ルペン氏が現職追い上げ 極右色抑えて支持層拡大 フランス大統領選****
<極右の潮流㊦>
フランス大統領選の公式選挙運動期間が始まった3月下旬の昼下がり。パリから100キロほど北に位置する人口2000人弱の町コンティの商店街で、スーツ姿の男性が歩き回っていた。
 
2017年の前回大統領選で決選投票に進出したマリーヌ・ルペン(53)率いる極右政党「国民連合」の地方議員フィリップ・テブニオ(61)。少ない人影を見つけては小走りで近寄って声を掛ける。「マダム、暮らしはどうですか?」
 
買い物の足を止めた女性(72)は「40年以上働いたのに年金が月940ユーロ(約12万円)しかもらえないから、燃料費の値上がりで苦しんでいる」と嘆いた。テブニオがすかさず「ルペンなら燃料の消費税が20%から5.5%に下がります。年金も最低1000ユーロを保証しますよ」と政策チラシを手渡すと、女性は「期待しているわ」と返した。

◆根強い政党不信が背景に
コンティは現大統領エマニュエル・マクロン(44)の出身地アミアンに程近い。ただ、主要な産業がなく、町の経済は疲弊しているため政党不信が強く、5年前の決選投票でもルペンが僅差で上回っていた。
 
町出身の国民連合スタッフ、バンサン・ドゥヌ(30)は「今回はさらに手応えが良い」と話す。元社会党支持者の男性(65)は「左派も右派も中道も、誰がやっても暮らしは良くならなかった。ならば、ずっと頑張ってきた彼女に一度任せてみたい」と話し、「この町では8割くらいがルペンに入れるだろう」と予想した。

◆信頼できる候補調査で2位
選挙戦終盤に入り、再選を目指すマクロンと支持率の差を縮めているルペン。政治学者バンジャマン・モレル(34)は「支持率だけでなく『最も信頼できる候補は誰か』を問う調査でもマクロンに次ぐ2位につけた。極右である彼女のイメージがこれほど向上したことは過去にない」と驚く。
 
鍵となったのは、半世紀前に国民連合の前身「国民戦線」を創設した父ジャンマリ(93)との決別だ。ルペンはマクロンに敗れてからの5年間、人種差別的な言動で批判された父の影を薄めて他党支持層にも浸透するため、党名変更をはじめ「脱悪魔化」と呼ばれるソフト路線を加速。遊説では経済や医療政策を強調し、「庶民派」をアピールする。

テブニオも昨年6月の統一地方選前までは中道右派に所属していた。「彼女に人種差別的な言動が1度でもあったら離党することを条件に入党したが、問題は起きていない。国民連合は、人々が恐れてきた国民戦線とはまったく別の政党に生まれ変わった」

◆極右なのか、否か
ただ、選挙公約の移民政策では、家族呼び寄せの禁止や失業者の強制送還、雇用や公共住宅入居でのフランス人優先策などが並び、ルペンを「生ぬるい」と批判する極右評論家エリック・ゼムール(63)の公約とも共通点が多い。
 
マクロンは選挙戦で「国民連合はあくまで極右。普遍化してはいけない」と繰り返すが、テブニオは言う。「彼女が極右か、それは有権者が判断することだ」【4月6日 東京】
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ただ、ルペン氏にとっては「誤差の範囲」まで追い上げたこれからが正念場でしょう。

ルペン氏の勢いが増すにつれて、「ルペン・国民連合はあくまで極右」という反発、バネも強まります。

50%の壁を崩すことができるのか・・・万一、そうしたことになれば、(ルペン氏・国民連合はEU離脱路線から転換したとはいえ)EUに激震が走ります。ウクライナどころではなくなるかも。

国内では、ルペン氏警戒感から株・債券を売る動きも。
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ウクライナ問題で明確な一方の支持は避けながら、中国・インド・トルコが目指すもの

2022-04-06 23:41:16 | 国際情勢
(ニューデリーで1日、握手するインドのモディ首相(右)とロシアのラブロフ外相【4月2日 朝日】)

【曖昧戦略で巻き込まれるのを避けながらも、ロシア支持の本音がにじみ出る中国】
中国は、対米共闘パートナーであるロシアを支持したい一方で、国家主権尊重の外交原則からすればウクライナの状況に一定に理解を示す必要があるということで、ウクライナとロシアのどちらにも配慮した曖昧な戦略をとっている・・・というのはいつも言われることです。

言い換えれば、“全面的にロシアを支持すれば中国も国際社会から非難される。一方でロシアへの経済制裁にも同調しないことでウクライナ問題に巻き込まれるのを避けている格好だ。”【4月3日 FNNプライムオンライン】とも。

ただ、今回の問題を機にして欧米主導の国際的流れが強まることへの反発から、本音の部分ではロシア支援に相当に傾いているようにも見えます。

ここ2、3日の国内外の動きに関する報道を見ても、欧米主導のロシア制裁に反対し、実質的にロシアを支援する意図は色濃く出ています。

****王毅氏「一方的な制裁に反対、途上国の権利守る」…ASEAN4か国外相と相次ぎ会談****
中国の王毅ワンイー国務委員兼外相は3月31日〜4月3日、東南アジア諸国連合(ASEAN)4か国の外相と、内陸部の安徽省で相次ぎ会談した。米国のバイデン政権が対中包囲網を強める中、ロシアのウクライナ侵攻を巡って米寄りの立場を取らないように促した。
 
中国外務省によると、王氏は、昨年のクーデター後にミャンマー国軍が外相に任命したワナ・マウン・ルイン氏との会談で、「一方的な制裁に共に反対し、発展途上国の権利と利益を守りたい」と述べ、米国によるミャンマーやロシアへの制裁を批判した。
 
王氏は、今年のG20(主要20か国・地域)議長国を務めるインドネシアのルトノ・マルスディ外相との会談では、「G20を分裂させる権利は誰にもない」と表明。ロシアをG20から排除するように主張している米国などをけん制した。ルトノ氏は「関係国が(侵攻の)終結を促すことが重要だ」と述べ、中国の立場に理解を示した。
 
会談はタイ、フィリピンとも行われた。3月31日の米政治専門紙ポリティコ(電子版)によると、一連の会談は、3月末に米国とASEANが予定していた首脳会議が延期された直後に開催が決まった。同紙は「中国のプロパガンダが思いがけず勝利を収めた」と評した。
 
ASEAN10か国の多くは、内政不干渉などを理由にロシアへ中立的な立場を取っている。国連の対露非難決議でもベトナムやラオスは棄権した。【4月4日 読売】
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ASEAN諸国が“内政不干渉などを理由にロシアへ中立的な立場を取っている”・・・内政どころが軍事的に侵略しているロシアに対して“内政不干渉”云々は中国外交以上に奇妙かつ無責任な対応です。

****中国大使「根拠のない非難は避けるべき」ロシア側を擁護****
ウクライナの首都・キーウ近郊の町で民間人とされる遺体が多数見つかったことについて、中国の国連大使は、「根拠のない非難は避けるべきだ」と述べ、ロシア側を擁護する姿勢を示しました。

中国の張軍国連大使は5日の安全保障理事会で、キーウ近郊のブチャで多数の民間人とされる遺体が見つかったことについて、「民間人への攻撃は容認できず、あってはならないことだ」と指摘し、事件の状況や原因を明らかにすべきだと訴えました。

その一方で、「結論が出るまでは、根拠のない非難を避けるべきだ」とも主張し、アメリカなどが「戦争犯罪だ」として非難を強めるロシアを擁護する姿勢を示しました。

その上で張大使は、「制裁は問題解決の有効な手段ではなく、むしろ危機の広がりをさらに加速させる」と述べ、日本や欧米などが続けるロシアへの制裁に反対する立場を改めて強調しました。【4月6日 日テレNEWS24】
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****中国、教育現場に“ロシア寄り”指示か 「ウクライナ政府は腐敗」などの表現****
ウクライナ情勢をめぐり、中国政府が各地の学校に対して、責任はウクライナやNATO側にあるとの政府の立場に沿うよう指示した可能性が浮上している。

SNS上で拡散された中国の学校の様子。スライドのタイトルには中国語と英語で「ロシアはなぜウクライナに出兵したか」と書かれ、下には「ウクライナ政府は腐敗し、経済は疲弊し、政府軍とナチスがロシア人を殺害している」などと、ロシア政府の主張に沿った表現が並んでいる。
 
また、東部・山東省の地元政府が小学校から大学までの教育機関に出したとされる文書では、教員らに対し、ウクライナ問題での政府の「原則的立場」を学ぶよう求めている。
 
香港メディアなどは、中国政府が教育の場でもロシア寄りの姿勢を取るよう指示した可能性があるなどと指摘している。【4月6日 ABEMA Times】
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【バランス外交を維持しながら自国の利益の最大化を目指すインド 欧米からは不満も】
一方、中国同様に、国連でのロシア非難決議に棄権しているのが対米包囲網クアッドのメンバーでもあるインド。
インドは伝統的に大国に追随しない非同盟主義を原則としていますが、武器輸入などでロシア依存が高いこともその背景にあると思われます。

インドの場合は(クアッドに参加したように)確信的な中国と異なり、状況次第では・・・という部分もありますので、ロシア・中国、アメリカ・欧米・日本双方とも中立的なインドを自陣営に引き込もうと躍起になっています。

****ウクライナ侵攻を非難しないインド、我が陣営に…欧米・日本と露中が激しい綱引き****
ロシアのウクライナ侵攻を非難しないアジアの大国インドを巡り、主要国の綱引きが活発化している。欧米や日本は対露結束で同調を迫り、ロシアや中国は引き留めに懸命だ。ナレンドラ・モディ首相はバランス外交に徹し、自国の利益を拡大したい狙いがある。

■一方的
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は1日、インドの首都ニューデリーでスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相と会談した。ラブロフ氏は「インドが一方的ではなく、全体的な事実に基づいて状況をみていることに感謝する」と述べた。ロシアによる侵攻を批判する欧米の姿勢を「一方的」と断じ、同調しないインドの姿勢を評価した発言だ。
 
インドにとって、ロシアは伝統的な友好国であり、最大の武器調達先だ。欧米による対露経済制裁に参加するそぶりも見せない。
 
1週間前の3月25日には中国の王毅ワンイー国務委員兼外相がインドを訪れた。王氏はジャイシャンカル氏に、欧米の対露制裁に同調しないよう働きかけたとみられる。

■足並み
露中の動きは、ウクライナ侵攻直後から、米欧を中心とする民主主義陣営が対露包囲網の結成に向け、インドを抱き込もうとしていることを踏まえたものだ。
 
日米豪印の枠組み「Quad」(クアッド)は、3月3日にオンラインでの首脳会談を実施した。バイデン米大統領はモディ氏に「足並みをそろえてロシアを非難しよう」と呼びかけたとされる。
 
岸田首相は19日にインド入りしてモディ氏と会談した際、「力による一方的な現状変更はいかなる地域でも許さない」と確認した。3月31日に訪印したエリザベス・トラス英外相は、武器の共同開発を含む安全保障協力を深化させることでインド側と合意した。

■非同盟
それでもインドは、民主主義陣営の各国首脳らとの会談や声明などで対露批判に踏み込んだことはない。冷戦時代には、民主主義、社会主義の各陣営に寄らない非同盟主義を貫いた。今も特定の勢力に偏らず、多極的な枠組みに軸足を置く。クアッドに加わる一方、中露やブラジル、南アフリカとのBRICSも重視する。
 
対露関係が悪化すれば、中国との間で続く未画定の国境紛争に立場を示してこなかったロシアの姿勢の変化につながりかねない。クアッド関係筋によると、モディ氏は「ロシアを中国側に追いやり、国益を損ねる」と懸念しているという。
 
バランス外交の維持で目指すのは自国の利益の最大化だ。日本からは今後5年間で5兆円規模の投資を引き出すメドをつけた。一方、ニルマラ・シタラマン財務相は1日、「国益が第一だ」と強調し、ロシアから割安な価格で原油の購入を始めたことを明かした。【4月1日 読売】
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“バランス外交の維持で目指すのは自国の利益の最大化”ということで、インドは現在の状況をフルに活用しようともしています。ロシアもそうしたインドを制裁措置の“抜け道”にしたい思惑が。

“ロシアは、米国から禁輸措置を科せられている原油についても、インドの購買力に注目。(1日に“インド詣で”した)ラブロフ氏は外相会談後、「我々は、インドが望むどんな物でも提供する用意がある。西側諸国による制裁を回避する(決済)方法も間違いなく見つかるだろう」と自信を見せた。”【4月2日 朝日】

当然ながら、そうしたロシアを利するようなインドの対応に欧米は不満も。

****西側の制裁に加わらず自国利益を最優先、対ロ輸入を増やそうとするインド―独メディア****
2022年4月3日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、インドが自国の利益を最優先してロシアから多くの製品や資源を購入する姿勢を見せていることに対しロシアが喜ぶ一方で、西側が不満を募らせていると報じた。(中略)

また、インドは近年、米国、日本、オーストラリアと連携枠組みの「クアッド」を作って地域における中国の影響力に抗う姿勢を見せる一方で、遠く離れた欧州で起きているロシアとウクライナの紛争に足を突っ込む意思はなく、これによりインドが西側とロシアとの対立の中で受益者となる可能性があると説明。イ

ンドの対ロ貿易額は年間90億ドルと対米貿易額の10分の1に満たないほど小規模だったものの、ロシアによるウクライナ侵攻開始後、ロシアからかなりの割り引きを受けたことですでに昨年1年間の対ロ輸入量に近い1300万バレルの原油をロシアから購入する動きを見せているとした。

その上で、中立路線を保ち自国の利益を最優先してロシアからのエネルギー輸入を増やそうとしているインドの態度に西側諸国からは不満の声が出ており、バイデン米大統領が「インドの対ロ姿勢はぶれている」と批判したことを紹介する一方、インド政府はこれらの批判を突っぱねる姿勢を保っていると伝えた。

記事はさらに、インド政府がロシアからの鉄鋼生産用のコークス輸入量倍増を検討しているほか、4月に4万5000トンのロシア産ヒマワリ油を購入する契約を結ぶなど、石油以外の商品についてもロシアからの輸入を増やそうとしていることを併せて紹介した。【4月4日 レコードチャイナ】
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そうした中立的立場を利用して「国益第一」に走っていたインドがウクライナ・ブチャでの民間人殺害を非難し、独立した調査の実施を求めたとのこと。

****インド、ウクライナでの民間人殺害を非難 対ロ姿勢硬化か****
インドは5日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)郊外ブチャでの民間人殺害を非難し、独立した調査の実施を求めた。インドはこれまで、ロシアのウクライナ侵攻に対する批判を控えてきた。

インドのティルムルティ国連常駐代表は、安全保障理事会の会合で「ブチャでの民間人殺害に関する報告は実に悲惨だ」とし「こうした殺害を明確に非難し、独立した調査要請を支持する」と述べた。

これに先立ち、ブリンケン米国務長官はインドのジャイシャンカル外相と電話協議した。米国は、ロシアの軍事侵攻を非難するようインドに繰り返し求めてきた。

ロシア製軍事装備品への依存が大きいインドは、ウクライナでの暴力停止を呼びかける一方、ロシアと西側の双方との関係に配慮して、ウクライナでの戦争を巡る国連決議では投票を棄権してきた。【4月6日 ロイター】
********************

上記のインドの非難には“ロシア”という言葉は出てきません。
中国も“「民間人への攻撃は容認できず、あってはならないことだ」と指摘し、事件の状況や原因を明らかにすべきだと訴えました。”【前出 日テレNEWS24】と同じと言えば同じですが、やや非難のトーンが高いとも言えるような・・・。

アメリカの要請(あるいは恫喝)が奏功して、対ロ姿勢硬化となるのかどうか・・・もう少し様子見ないと・・・。

【ロシア・ウクライナ双方との関係を活かして存在感を高めようとするトルコ】
ロシアとウクライナ、双方との関係を利用して、存在感を高めるべく仲介にも意欲をみせているのがトルコ・エルドアン大統領。3月29日にはトルコ・イスタンブールでウクライナ・ロシアの停戦協議も行われました。

トルコの場合は、中国・インドとは異なり国連のロシア非難決議には賛成しており、ウクライナへドローンも供与していますが、一方でロシアとの関係も維持しています。

****ウクライナ戦争のおかげで「トルコが危機から立ち直る」とは、どういうことか?****
<度重なる失政で国際的にも孤立していたエルドアン政権だが、日和見的立場のおかげで好機がもたらされている>

ロシアのウクライナ侵攻がトルコにチャンスをもたらしている。東西冷戦時代と同じく、トルコはロシアに対する防波堤だから、ではない。

現今の危機に伴うチャンスは、もっと複雑で厄介な現実の産物だ。そこには、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領と与党が描く自立した大国という自国像、国内とシリアでのクルド人の分離・独立運動の脅威、欧米に対して募る失望と恨みといった要素が絡んでいる。

野望とトラウマが入り交じる動機に駆られて、エルドアンは危機の比較的早い時点でロシアのウラジーミル・プーチン大統領に手を差し伸べた。両首脳は複数回、電話で会談。シリアやリビア、おそらくはウクライナをめぐっても立場が異なるにもかかわらず、両国関係は深まり、トルコと欧米の間の不信感に拍車を掛ける形になった。

トルコは2019年にロシア製S-400地対空ミサイルシステムを配備した。これを受けてアメリカは翌年12月、トルコ当局の武器調達部門に対する制裁を発表している。トルコのNATO追放を求める声が再び高まり、エルドアン政権の外交政策に対する深刻な懸念も持ち上がった。

トルコは今も「西側」なのか。「東寄り」に移行しているのか。中東で、東地中海地域で、イスラム世界で、リーダーの座を目指しているのか――。これらの問いの答えは、どれも「イエス」だ。

わずか数カ月前までトルコは国際的に孤立していた。対欧州関係はキプロス問題やシリア難民の扱いをめぐって緊張化し、中東のほとんどの主要国と対立。アメリカのジョー・バイデン政権にはほぼ無視された。

昨年後半になる頃には、深まる孤立や急激な通貨危機の中、自業自得のダメージを修復しようとしたが、焦りの色は隠せなかった。

どっちつかずが強みに
そこへきてウクライナ侵攻が発生した。トルコの反応については、2つの正反対の主張が浮上している。

一方によれば、エルドアンはウクライナの主権を支持し、殺傷能力のあるドローンを提供。2月末には、ボスポラス海峡の軍艦通過を制限する措置を発表した。これらはトルコが依然、西側の安全保障体制の重要な一部であることを示す証拠だという。

だがもう1つの主張では、トルコはそれほどウクライナ寄りではない。ロシアに経済制裁も領空飛行禁止措置も科しておらず、国内のエーゲ海沿いのリゾート地には、オリガルヒ(新興財閥)の超豪華ヨットが(おそらくトルコ政府の許可を得て)集まっていると、批判派は強く指摘する。

いずれにしても、トルコは「親ウクライナ」も「反プーチン」も徹底できない。この事実自体が、トルコが自身の影響力と主体性を強化しつつ、かつての役割を再び担うチャンスを生んでいる。

近年の不必要に攻撃的な外交政策のせいで忘れられがちだが、05~11年頃のトルコは中東で建設的な役割を果たそうとしており、その経済力を活用して地域内の各国と良好な関係を築いていた。

トルコは戦争終結の力になれるのか。人道回廊の設置をめぐる貢献は可能だし、仲介役に最適の国だろう。3月29日にイスタンブールで行われた停戦交渉は、希望の持てる一歩だ。【4月5日 Newsweek】
******************

なお、停戦協議野の方は、ブチャなどでのロシアの残虐行為が表面化しているなかでも、オンライン形式で続いていると報じられています。

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中国  不動産市場の悪化、コロナ対策等で経済は厳しい状況 「共同富裕」も棚上げの感

2022-04-04 23:39:43 | 中国
(中国政府は、共同富裕の取り組みと関連する幾つかの政策を後退させている(3月10日 全人代)【4月4日 WSJ】)

【苦境の中国経済 ただし、“崩壊”はしない?】
世界経済を牽引している中国経済については、不動産バブル、新型コロナ禍等々による苦境を伝える報道は多々あります。実際、苦しいのは間違いないでしょう。

****不動産バブル崩壊で、いまや世界経済のお荷物に…中国経済を迷走させる習近平政権の断末魔上海市の「2500万人のロックダウン」が追い打ちに****

「5.5%前後の成長目標」に暗雲
2022年、中国共産党政権は、実質ベースで5.5%前後のGDP(国内総生産)成長率を実現する目標を掲げた。しかし、足許の経済状況を見ると、ゼロコロナ政策による主要都市の機能低下などで成長目標の実現はかなり難しそうだ。

その要因として、不動産バブルの崩壊、IT先端企業への締め付けの強化、およびコロナ感染再拡大による動線の寸断は大きい。3つのマイナスの要素=三重苦によって、中国経済はこれまで以上に厳しい状況を迎えることが懸念される。

秋に党大会を控える習近平政権は、求心力の低下をなんとしても避けなければならない。そのために、共産党指導部は経済の下支え策を強化するだろう。

一方、共産党政権に対する不満の高まりを抑えるため、SNS運営企業への監視を強化することになるだろう。共産党政権は貧富の格差を解消する政策運営を行っているものの、実際には経済成長期待が高い先端分野のダイナミズムをそいでいる。それは経済運営の効率性を低下させる。

また、感染者の増加に対してゼロコロナ対策も徹底せざるを得ない。中国の感染対策は世界経済の供給制約を深刻化させる要因でもある。中国の経済成長率の低下傾向は鮮明化する可能性が高い。それは、世界経済にとって大きなマイナス要因だ。

不動産規制が予想以上に市場を冷え込ませた
中国経済の減速懸念を高める3つの要因の中で、最も深刻なのが不動産バブルの崩壊だ。(中略)。

共産党政権は不動産分野での投資を積み増すことによって、高い経済成長率を目指す政策運営を行った。世界的な低金利環境とカネ余りが続く中で、中国国内では不動産価格は上がり続けるとの強気な心理が高まり不動産バブルが発生した。

しかし、いつまでも資産価格が上昇し続けることはない。2022年秋に予定されている党大会で3期続投を目指す習近平国家主席は、不動産バブルが膨張して債務問題が深刻化することは避けなければならない。その考えに基づき、2020年8月に共産党政権は不動産融資規制である“3つのレッドライン”を実施し、バブル潰しに取り掛かった。

しかし、3つのレッドラインは共産党政権が予想した以上に不動産市況を冷え込ませ、住宅価格の下落が止まらなくなった。その結果、中国の景気減速は鮮明化している。

恒大集団、佳兆業集団…次々と決算発表を延期
不動産市況は悪化するだろう。足許、上場規則で定められた3月末までに2021年の監査済み決算を公表できない不動産デベロッパーが増えている。(中略)

中国のGDPの30%近くを占めると言われる不動産関連セクターで企業の資金繰りはさらに悪化し、事業運営に行き詰まる企業は急増する恐れがある。それは経済成長率の低下要因だ。

IT先端企業への締め付けを強めているが…
現在、共産党政権はIT先端企業への締め付けを強めている。貧富の格差拡大阻止の姿勢を示すことに加えて、政権に対する不満を高めかねないSNSなどを抑え込む必要がある。

現時点では、習氏の政権基盤が揺らぐ状況には至っていないものの、先行きは楽観できない。例えば、不動産市況の悪化が深刻化すれば、保有してきた財産価値の急減に直面する人は増える。その結果、国民の生活が苦しくなってくる。

それは政権に対する不満を高めることになりかねない。今年秋の党大会を控える習氏は、なんとしても求心力を保たなければならない。アリババやテンセントなどへの締め付けは想定以上に強まる可能性がある。3月下旬にテンセントは共産党政権の規制強化に従うと恭順の意を示した。

それによって民間企業の創業経営者は当局からの圧力に対応しつつ、より自由度の高い国で新しい取り組みを進めようとするだろう。やや長めの目線で考えると、IT先端企業への締め付け強化によって中国から海外に流出する生産要素(ヒト、モノ、カネ)は増えると考えられる。

上海市のロックダウンが追い打ちに
また、新型コロナウイルスの感染再拡大も中国経済の成長率を下押しする。3月に入り習氏は徹底したゼロコロナ政策を調整する考えを示した。

しかし、感染急増によって、金融と経済の中心地である上海市がロックダウンを余儀なくされた。共産党政権はゼロコロナ対策を徹底せざるを得ないことを認めたといえる。常住人口約2500万人の上海市のロックダウンは、これまでの都市封鎖を上回る負の影響を中国にもたらすはずだ。(中略)

それによって節約心理は強まり、個人消費が減少する。動線遮断によって生産活動も停滞する。(中略)

不満を抑えるための対策がさらなる不満を呼ぶ
不動産バブル崩壊、民間IT先端企業への締め付け強化、感染再拡大が互いに共鳴するようにして中国経済の成長率は一段と低下するだろう。全人代で発表された5.5%前後の実質GDP成長率の実現はかなり難しい。

一つのシナリオとして、不動産セクターではデフォルトが増え、地方政府の財政や銀行セクターに負の影響が波及する展開が予想される。

それによって人々の不平不満は高まる。それを抑えるために習政権はSNSの監視や相対的に成長期待が高いIT先端企業への締め付けを強めざるを得なくなる。感染を抑えるためにゼロコロナ対策も強化しなければならない。

人々の自由はより強く制限される。都市部と農村部での戸籍制度の違いに起因する社会保障面での格差の拡大なども重なって、将来への不安を抱く人は増えるだろう。

世界経済の足を引っ張る状況は当面続く
それに加えて、ウクライナ危機を背景とする天然ガスや原油価格の上昇が、国営・国有企業の事業運営コストを増加させる。社会心理の不安定化の恐れが高まる中で中国の企業が最終価格にコストを転嫁することは難しい。中国全体で企業業績は悪化し、雇用と所得環境の不安定化懸念は高まる。

景気下支えのために財政と金融政策が総動員されたとしても、債務残高の増加によって経済全体で資本の効率性が低下しているため、景気減速を食い止めることは難しい。

今後の展開によっては想定以上に中国経済の減速が鮮明化し、資金の流出圧力が強まる恐れもある。2022年の中国経済の成長率を4.5%程度と予想する経済の専門家もいる。中国経済はかなり厳しい状況に追い込まれている。

それは世界経済にとって大きなマイナスだ。リーマンショック後の世界経済は米国の緩やかな景気回復と、中国経済の成長に支えられて相応の安定を維持した。中国経済の成長率の低下傾向は鮮明化し、世界経済全体の成長ペースも鈍化するだろう。

それに加えて、ウクライナ危機によって世界経済はグローバル化からブロック化に向かい始めた。その状況下、ゼロコロナ対策によって上海市の港湾施設の稼働率は低下し、世界全体での供給制約に拍車をかける。当面、中国経済は世界経済の足を引っ張ることが懸念される。【4月4日 真壁 昭夫氏 PRESIDENT Online】
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ただ、日本の中国嫌いの人々が以前から繰り返し主張(願望)するような一気の崩壊とはならないでしょう。少なくとも、これまでも何回も“崩壊”が言われながらも中国経済は成長を続けてきました。

おそらく、中国嫌いの人々が見落としているのは中国指導部の問題対応能力(強引な強制力も含めて)でしょう。言い換えれば、危機に際して何もしないほど「中国も馬鹿ではない」ということ。

****なぜ、中国経済のバブルは弾けないのか?****
「中国経済混乱“金返せ!”恒大集団の経営悪化」「中国版“リーマンショック”の恐れ!?」「不動産業界に倒産の波 世界が警戒―」

そんなヘッドラインが世界のメディアを賑わせたのは2021年8~9月のこと。マンションを中心とする不動産デベロッパーの中国恒大集団が、巨額の債務を抱えて経営難に陥っており、世界経済への影響も必至だというのだ。
 
あれから半年たった今、「あれ? 結局、中国恒大の問題ってどうなったんだっけ?」と思う方は少なくないのではないだろうか。
 
中国経済をめぐる議論は、長年、この繰り返しだった印象を受ける。
「上海株が暴落、ついに成長神話も崩壊か」「ゴーストタウンが予兆する経済崩壊」などと報じられるのに、いつのまにか危機は終わっている(ように見える)。本書はそんな「中国経済の謎」を解き明かす。

センセーショナルな報道は、必ずしも誇張とは言えない。人口14億人の中国で起きるトラブルは、日本はもとより、世界の多くの国にとってケタ違いに巨大であることが多い。

中国恒大の債務合計額は、2021年6月の時点で約2兆元(約35兆円)と言われるし、2016年の中国のマンション空室は約1200万戸と、カナダの全人口を住まわせるに十分な数だった。

ただ、中国にはそれをカバーする経済規模と金融システムがあり、経済当局には勉強家で独創的な施策を打ち出すテクノクラートがいる。また、合法性や適正手続を無視して強引に政策を実行できる一党独裁制だ(もちろんそれには多くの弊害もある)。

だから少なくとも今までは、政治・経済・社会の破滅的な崩壊は回避できたと、著者トーマス・オーリック氏は説く。(後略)【4月2日 DIAMONDonline】
*******************

【最近目にしなくなった「共同富裕」 長期的には格差是正のための根本対応が必要だが・・・】
現在の中国社会・経済が抱える極めて大きな、かつ政治的に危険な問題は格差の拡大でしょう
その改革の方向として昨年ぐらいから習近平政権が強調しだしたのが「共同富裕」

習近平版「文化大革命」とも言われるような社会・経済統制政策と併せて、中国が更にディストピア化するのではという懸念も。また、この路線がこれまでの成長を支えてきた民間セクターの活力をそいでしまうのでは・・・との懸念もありました。

ただ、最近はこの「共同富裕」と言う言葉、あまり目にしなくなったようにも思えます。
具体策として注目された不動産税導入も延期されました。

当面は前出のような経済苦境にあって、「それでころではない」といったところのようです。

****習氏の「共同富裕」政策、成長重視で尻すぼみ 国家主席3期目続投にらみ、中国経済の成長に軸足****
中国では、最重要政策目標の一つである「共同富裕」への取り組みが後退しているように見える。これは、習近平国家主席が権力を掌握してから10年近くが経過した今でも、中国経済の変革と不均衡是正がいかに困難な課題なのかを浮き彫りにするものだ。
 
昨年の大半の期間、習氏は「共同富裕」と称される自身の看板政策を積極的に宣伝してきた。同政策は、中国の富の再分配の強化を目指したもので、同国のエリート層が著しい経済発展から過大な恩恵を受けているとの懸念がその背景になっていた。

この政策は、利益拡大のため市場での影響力を巧みに利用していると見られていたハイテク企業への締め付けなど、習氏の多くの取り組みの基盤になっていた。
 
しかし、ハイテク企業への締め付けは、一部で継続されているものの、他の部分は尻すぼみになっている。これは、中国経済の減速を受けて、成長率押し上げがより優先されるようになったためだ。
 
昨年は「共同富裕」という文言が、国営メディアや学校、習氏らのスピーチの中など、あらゆるところにあふれていた。昨年秋の中国共産党の第19期中央委員会第6回全体会議(6中全会)で採択された「歴史決議」は、習氏を毛沢東と並ぶ指導者に位置付けたが、その中でこの共同富裕の文言が8回も登場した。
 
しかし、今年3月に李克強首相が発表した1万7000字の中国経済に関する「政府活動報告」の中で、共同富裕の文言が使われたのは1回だけだった。

中国財務省の最新の予算報告の中では、共同富裕キャンペーンへの中央政府の予算配分に関する明確な目標は示されなかった。共同富裕政策の主要な試験導入地に指定されていた浙江省の新たな経済計画では、比較的貧しい家庭への富の配分を強化するはずの同政策への言及はほとんどなかった。
 
中国政府は、共同富裕の取り組みと関連する幾つかの政策を後退させている。先月、社会保障制度の財源になる可能性のあった新たな不動産税の適用拡大計画を棚上げした。同税が不動産価格の下落につながることを懸念するエリート層や政策担当者らが、この計画に反対していた。同税が試験導入されているのは現在、上海と重慶だけだ。
 
中国財務省は同税の適用地域拡大見送りの背景について、条件が「まだ熟していない」と指摘しただけで、詳細を明らかにしなかった。
 
共同富裕が後退している理由の一つは、習氏が経済の力強い成長の継続を必要としている時に、これまでに導入された一連の政策が企業のオーナーらを動揺させ、成長を減速させたことだ。習氏は、国家主席3期目の続投が決まるとみられる今年の党大会に向け準備を進めているところだ。
 
しかし、エコノミストや学者らは、一段と思い切った内容で、痛みを伴う可能性もある変革なしには、共同富裕の目標は達成できないことが明確になってきたと指摘している。しかし、そうした変革を容認する用意が習氏にあるようには見えない。
 
それには、中国の課税や社会保障の制度の全面的な見直しが含まれる。中国の税制は先進国ほど累進的ではなく、より所得の低い労働者に大半の負担がのしかかる。政治的なつながりがより強い傾向にある上位層の税率引き上げは、抵抗に直面している。
 
中国の税制では根本的に、習氏の「共同富裕」の政策課題が示唆する教育や衛生、その他のサービスの水準を達成できるほどの歳入が得られていないとエコノミストは指摘する。このため、民間企業や大物実業家に富を再分配するよう求める圧力が生じている。

中国の個人所得税は、国内総生産(GDP)比で1.2%にとどまる。ちなみに米国や英国は約10%だ。国際通貨基金(IMF)によると、社会保障負担による収入は、GDP比で6.5%と、経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均9%を下回っている。

オックスフォード大学中国センターのアソシエートでエコノミストのジョージ・マグナス氏は、「こうした変革には、多くの政治的なイニシアチブが必要だ。政府がそれを進んで行おうとするとは思わない」と話す。(中略)

「共同富裕」という語句の誕生は、何十年も前にさかのぼる。毛沢東と鄧小平が社会の不平等と格差の低減を目指すという社会主義的な理想を表現するためにこの言葉を使っていた。
 
しかし、データからは、中国経済の世界への開放が始まって以降、貧富の差は広がり、社会的流動性が停滞していることが分かる。習氏はこの傾向について、共産党の継続的な支配に対する脅威だと考えている。世界不平等研究所によると、中国の上位10%の富裕層は、同国の家計の富の68%を保持している。
 
習氏は昨年1月、共同富裕の実現は待ったなしだと当局者に伝えた。このことは、同氏がこの問題を重視していることを示唆する。中国経済は新型コロナの第1波の収束後に力強く回復したため、政策立案者らは、習氏の目的を果たすような変化を推し進めるチャンスが到来したと考えた。
 
しかし、その後に設けられた規制は、暴利をむさぼる、もしくは金融リスクを取り過ぎているとみられていた業界の取り締まりを中心とするもので、革新を促したり、低・中所得層の機会を広げたりするための、より抜本的な改革ではなかったと、エコノミストは指摘する。
 
不動産開発業者に対する規制強化は、彼らのリスクテーキングの姿勢を低減させた一方で、不動産市場の低迷のきっかけになった。ハイテク企業や営利目的の学習塾・家庭教師業界に対する締め付けは、独占的な行為を後退させたが、業界での大規模なレイオフ(一時解雇)につながり、中国上場企業の市場価値が何十億ドルも吹き飛んだ。

国全体の成長は急速に鈍化しており、エコノミストの多くは、中国が約5.5%に設定している今年の政府成長目標を達成するのに苦労するとみている。
 
ハイテク企業や起業家は共同富裕の取り組みに何十億ドルもの寄付を表明しているが、エコノミストらによれば、そうした1回限りの資金提供は長期的な社会制度の改革に向けた持続的戦略にならない。その一方で、民間の起業家精神を廃れさせるような、政府の引き締め策による打撃が何年にも及ぶとみられる。(中略)

一部のエコノミストは、成長が力強く回復すれば、中国は今秋の共産党大会後に共同富裕を復活させることが可能かもしれないとみている。
 
しかし、中国国民が成長からより大きな恩恵を受けるための手助けとして、習氏が果たしてさらなる思い切った措置をとる意思があるのかどうかは不明である。オックスフォード大のマグナス氏や他のエコノミストらによれば、最も簡単な方法の一つは、より多くの収入――および権限――を政府から民間部門へ移管することだが、それは習氏の意向に逆らうことになる。

テキサスA&M大学経済学部教授のガン・リー氏は、別のアプローチとして個人に対する相続税あるいはキャピタルゲイン税の導入の可能性を指摘する。裕福な世帯からより多くの富を移すものだが、これらもまた反対に直面する可能性が大きい。

エコノミストの中には、地方政府の資金調達手段を中国は変更する必要があるが、これは中央政府の権限低下につながる可能性があるため、中国の政治環境の下では同様に難しいと指摘する声もある。
 
現状では、地方政府は多くの社会保障の提供を担っており、一般的に多額の負債を抱え、自力での資金調達能力は限られている。このため、大規模な福利厚生プログラムを引き受ける意欲はほとんどない。
 
カリフォルニア大のシー氏によれば、地方政府当局者はインフラなど結果が早く出るプロジェクト、あるいは半導体分野の自立性実現や軍事力強化の達成など中国指導者にとって戦略的に重要と思われる項目に関するプロジェクトへの投資を好む傾向がある。【4月4日 WSJ】
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現状の問題から目標実現を先延ばしするのはやむを得ないとして、格差是正のためのより根本的対応については習近平主席の一強支配力をもってしても難しいようです。
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中国・上海  ゼロコロナが破綻した香港は「社会実験」? 武漢と同じ情報隠蔽の懸念も

2022-04-02 23:13:56 | 中国
(【4月1日 HUFFPOST】封鎖で人影が消えた上海居住区を、背中に括りつけたスピーカーから感染予防対策スローガンを流しながら歩くロボット犬。なかなかディストピア的シュールな光景です)

【ゼロコロナが破綻した香港 中国にとっては「社会実験」「モルモット」?】
中国の「ゼロコロナ」政策に関して、“中国政府が「ゼロコロナ」に固執するのは、中国製ワクチンの有効性が低いため感染が広まると、高齢者死亡の増加など収拾がつかない状態になりかねいのを懸念している・・・との指摘もされています。”と、3月28日ブログ“中国 「ゼロコロナ」でも歯止めがかからない感染拡大 上海も封鎖 住民の不満・ストレスも増大”で書きましたが、中国が恐れる具体例が感染爆発した香港の惨状でしょう。

香港では「一国二制度」の形骸化を示すような北京からの封じ込め指示にもかかわらず、3月初旬のピーク時には1日の新規感染者数が7万人を超えました。人口740万人の約1%。東京都(1400万人)に換算すると14万人レベル。

その香港もさすがにピークアウトしたようですが(4月1日の新規感染者は5823人)、混乱の影響も大きく、今後の国際都市としての存続も危ぶまれる事態に。

****ゼロコロナが破綻した香港、止まらない人口流出と外資の「香港売り」****
1日の新型コロナ新規感染者数が一時期6万人に迫った香港の感染拡大もここ数日は1万人を下回り、ようやくピークアウト感が出てきた。香港大学は最大350万人程度の感染者が出たと推計している。筆者の周りを見ても、およそ市民の3人ないし4人に1人程度が感染した印象が強い。

北京中央政府の意向を受けて進めてきた「ゼロコロナ」政策は明らかに破綻したことになるが、香港政府は相変わらず、「ダイナミックゼロ」の看板を下ろさず、市民の失笑と怒りを買っている。

外国資本と外国人の香港流出も止まらない。アジアのハブとして自由にヒト・モノ・カネが行き交う国際都市、香港が香港たる存在理由を自ら損ねてしまった。「中華人民共和国香港特別行政区」はこのまま衰退していくのだろうか。

香港での新型コロナ致死率(死亡者数÷累計感染者数)は1%を超えており、日本や韓国に比べてはるかに高い。直近の第5波(オミクロン株)での比較では世界最悪となっている。香港は都市国家なので他の国と単純比較はできないにせよ、重症化や免疫不全によって連日、多数の方々が亡くなっている現実には心が痛む。
 
中国系建設会社によって急ごしらえで増設された隔離病床も、果たしてどこまで致死率低減に効果があるのか。
事実上、鎖国に等しい入国制限と徹底隔離に重点を置きすぎたあまり、肝心の域内での治療・療養体制整備が後回しになっていたのではないか。
 
老人ホームや障害者施設へのワクチン巡回接種は十分にできていたのか。 
そもそも中国ワクチン(シノバック)にどこまで重症化予防効果があるのか。
 
国安法施行以降、少なくない医療従事者が香港を離れていった事実も含めて、世界最悪の致死率を招いた様々な要因について分析し、再発防止に向けて政策転換を図るような声は、もちろん香港政府から聞こえてこない。
 
メディアや逮捕を逃れた民主派活動家も、一様に声を潜めている。そうした政府批判が「国家安全を損ねる」「市民を扇動する」との嫌疑をかけられ、罪に問われる今の香港では、残念ながら行政に対するチェック・アンド・バランスも自浄作用も機能しない。
 
世界最悪の致死率をもたらした要因には、そうした社会構造や統治システムの欠陥も少なからずあると筆者は感じている。

「全市民一斉検査」を棚上げも「朝令暮改」の香港政府
オミクロン株拡大に香港政府も手をこまねいているわけではないのだが、結局は中国と同様に「ダイナミックゼロ」なる掛け声ばかりで、多くの防疫措置が破綻をきたしている。
 
ワクチン未接種者には飲食店やスーパー、ショッピングモールへの立ち入りを禁止したものの、それを管理するスマホアプリ「安心出行(Leave Home Safe)」は肝心の通報システム(日本のCOCOAに似た接触確認アプリによるアラーム)の運営を止めてしまい、市民の失笑を買っている。
 
以前は感染者が立ち寄った場所に同時刻にいた場合、アプリ経由で「検査指示」がスマホに入り、無視して検査を受けない場合は罰金が課せられた。しかし、あまりにも感染者が増えすぎて「実施不能」とあっさり止めてしまった。
 
感染爆発で検査能力が追い付かないのが中止の真の理由だが、香港政府は「実効性がない」というだけで検査能力の問題には触れずじまい。行政が実態をきちんと説明して、市民に理解を求める姿勢がまったくない点は、日本人として違和感しか覚えないが、これが「中国流」なのだろう。
 
市民全員を一定期間に3回検査するとした「全民検査」も方針が二転三転した挙句、棚上げとなった。これも「今は実施する時期ではない」「全民検査をやらないというわけではない」などと歯切れの悪い説明に終始しているが、多くの市民は「どうせやりっこない」とタカをくくっている。
 
突然の全市民一斉検査、ロックダウンという話が行政長官から出て、市民が買いだめに走り、一時的にスーパーで食料品が棚から消える騒ぎになったが、結局は大山鳴動してネズミ一匹出てこなかった。
 
感染した発症者へのケアについてもお粗末なことこの上ない。
知り合いの日本人は家族全員が感染してしまい、本人とお子さんが39度近い熱が出て大変だったそうだが、コロナ専門病院の診療予約電話には何度かけてもつながらず、結局は診察も受けられないまま買い置きの解熱剤でしのいだとのこと。

外出もできないので食料も底をつき、ネットスーパーや友人の手助けで何とか耐えしのいだらしいが、行政からのサポートは皆無だったそうだ。
 
別の知人は、簡易抗原検査キットや体温計の入った「感染キット」のようなものを地域のソーシャルワーカーが持ってきたとのことだが、食料品の支給はなかったという。
 
香港でも居住地域によって行政の対応にかなりばらつきがあるのは、中国社会のように地域住民を統制、管理する「社区」システムが未整備なためだろう。日本でも町内会や自治会が、行政機能を担ってコロナ感染者ケアにあたれないのと同様で、その点で香港の社会システムはまだ日本に近いのかもしれない。

止まらない香港からの人口流出と外資の「香港売り」
このように感染しても病院にすら行けず、行政の対応もお粗末な状態では市民の不安は募るばかりだ。当然、年明けから続く香港からの市民脱出に歯止めがかからない。
 
出国者から入国者を引いた純流出者は、3月中旬までに14万人にも達している。
国安法施行後、20〜21年の移民等による香港の人口減は約10万人で21年末の香港の人口は740万人だったが、今年に入りさらに14万人もの市民が香港を離れたというのだから相当な数だ。特に香港の人口の10%を占めると言われる外国人(非中華系香港市民)の域外流出が著しいという。
 
在香港欧州商工会議所の調査では、香港で活動を行う欧州企業の半分が1年以内に事業を香港外に移転させる計画を持っている。
 
海外と自由に行き来できる香港の利点が「ゼロコロナ」政策で失われた上、移民による離職率の異常な高まり、コロナ規制によって海外から人材獲得もままならないなど、国際ビジネス拠点としてもはや香港は相応しくない、と多くの欧州企業は判断しているようだ。
 
ウクライナ紛争も、ビジネス拠点としての香港の魅力を削ぎ落す結果をもたらしつつある。中国への「経済制裁リスク」だ。
 
香港株式市場(ハンセン指数)は3月15日、再び急落し2日間の下げ幅としては2008年以来最大となる10%安となった。昨年の高値から40%もの大幅な下落になる。中国のコロナ規制リスクやロシアとの関係を巡る経済制裁への懸念による見切り売りだが、資本の移動に制限のない香港から投資マネー、外国資本が撤退を始めたと見ることもできる。

「香港モルモット論」で再び広がる反中感情と政府不信
市民の流出が止まらず外資も香港を見限り始めたことで、さすがにキャリー・ラム行政長官も多少焦りを感じたのだろう。ここにきて、これまでの入国時の最長3週間の強制隔離を最短1週間に短縮し、米英など9カ国との旅客便運航禁止措置を4月から解除すると決定した。
 
加えて、18歳以上の永住権を持つ市民に1人1万ドルの電子消費券を配布するほか、失業者への臨時給付、月給3万ドル以下の勤労者に対する給与補助等の実施も発表した。
 
いわばアメとムチによる懐柔策でもあるが、1月7日から禁止されている夜6時以降の店内飲食禁止措置は4月21日まで継続し、完全に営業禁止となっているバーやカラオケ等はさらに1カ月後の5月21日以降に再開可否を見直すとのことで、罰則付きでの行動制限や営業禁止措置は当面現行のまま維持される。
 
この香港の各種制限は、中国を除けば周辺諸国で最も厳しいものであることは言うまでもない。会社帰りに軽く一杯すらできないでいる在住日本人にとっては、日本の「まん延防止措置」ですらうらやましい。
 
このように建前では「ゼロコロナ」政策を堅持しつつ、全市民一斉検査を棚上げし、部分的に出入国制限も緩和、段階的に行動制限、営業制限も解除する香港に対し、中国側から「香港での社会実験」との論評が出始めた。
中国での「ゼロコロナ」転換について、香港を実験台にして、その経緯を静観しようというのだ。
 
経済活動への影響を無視して、上海や深センでロックダウンと市民全員検査を実施する中国の原則からみれば、全員検査を棚上げし、外国との行き来も部分的に緩和している香港は「おきて破り」になるので、その免罪符としての「香港モルモット論」なのだろう。
 
だが、実験台扱いされる我々にしてみれば愉快な話ではない。
「ゼロコロナ」で散々市民生活を規制しておきながら、結局は感染爆発で世界最悪の致死率に至った香港の市民感情は「今までの苦労が水の泡になった」というもので、香港政府への不信、不満は再びじわじわと広がっている。

そうしたところに中国からモルモット扱いされているのだから、国安法で押さえつけられていた反中感情がもたげてくるのは無理もない。
 
逃亡犯条例に端を発した抗議デモ、国安法の施行、そしてゼロコロナによる社会統制と突然の感染大爆発──。この3年間、香港は歴史に残る激動が続いた。
 
今後、外国資本と外国人の香港流出が止まらず、抜け去ったあとに中国資本と中国人が流入してますます中国化が進むのか。習近平政権や香港政府が思い描くほどスンナリとことは運ぶだろうか。もうひと波乱、ふた波乱あってもおかしくないと筆者は考える。【3月31日 平田 祐司氏 JBpress】
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意外な感じがありましたが、林鄭月娥行政長官も「頭脳(人材)が流出しているのは疑いようがない」と現状を認めています。

*****香港、ゼロコロナ措置での頭脳流出「疑いようがない」=行政長官****
香港の林鄭月娥行政長官は30日の記者会見で、香港政府が中国の厳格な「ゼロコロナ」感染対策の順守を掲げて続けていることで、世界的な金融拠点としての香港から「頭脳(人材)が流出しているのは疑いようがない」と述べた。

林鄭氏は「一部企業の上級幹部の一部は香港を離れている」と認めた。

一方で、自分はだれよりも香港の国際的な地位を評価していると強調。「最も重要なことは、香港は引き続き(金融拠点としての)優位性を維持しているということだ。感染が落ち着けば香港はさらに発展できる」と強気にコメントした。

香港では全域の「封鎖」措置や全員ウイルス検査などの実施を巡って、実際には政府当局者から矛盾するメッセージが出されていることも市民らの嫌気を誘い、この2か月で国外に出る動きが相次いでいる。【3月31日 ロイター】
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北京は強力な封じ込めを指示しましたが、香港には中国のような地域住民を統制、管理する「社区」システムが未整備なため、(その良し悪しは別にして)中国同様な強力な住民管理を行う土台もありません。

【封鎖でも感染拡大続く上海 高齢者医療施設で多くの死者との情報も】
では、中国では?
習近平国家主席の脳裏で香港とダブるのが、3月28日ブログでも取り上げた東西に分けて封鎖に入った上海の現状でしょう。その上海ではまだ拡大が収まっていません。

****中国 上海でコロナ感染者過去最多 市内大部分で厳しい外出制限****
新型コロナウイルスの感染拡大で、段階的に外出制限が行われている中国最大の経済都市・上海で1日、過去最多の感染者が確認され、市内の大部分で外出が厳しく制限される事態になっています。

中国では1日、新型コロナウイルスに市中感染した人が無症状を含めて9875人確認され、このうち、最大の経済都市・上海では過去最多の6311人が確認されました。

上海市当局は、先月28日から市内全域を主に東西2つの地域に分けて厳しい外出制限を段階的に行っていて、日本人も多く住む西部の地域では1日から今月5日までの予定で外出が制限され、大規模なPCR検査が行われています。

一方、東部の地域では、外出制限が1日に解除される予定でしたが、感染者が相次いで確認されたため、人口が多い浦東新区のすべての住宅地など、広い範囲にわたって制限が延長されることになりました。

この地域に住む日本人駐在員の中には、今月10日ごろまで外出制限を延長された人が相次いでいて、勤務先の工場の稼働なども停止を余儀なくされているということです。

このため、上海では市内の大部分で外出が厳しく制限される事態となっていて、市民生活や経済活動への影響が懸念されています。

上海東部に住む日本人 “外出制限長期化で生活物資調達厳しく”
上海・東部の浦東新区に住む40代の日本人駐在員の男性は、外出制限が1日に解除される予定でしたが、新たな感染者が確認されたため、今月10日まで延長されることになりました。

男性は「前触れもないまま通達があり、準備なしで外出が制限されたうえ、さらに長期化ということになり生活物資の調達が厳しくなっています。これ以上長期化しなければいいと思っています」と話していました。

男性によりますと、2日になって当局からコンビーフや野菜、それにそばなどの食料が配給されたものの、個人で肉や野菜などを調達することが難しくなっているということです。【4月2日 NHK】
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買い物に行くこともできないため、政府から配られる物資や買いだめした食料でしのぎます・・・とは言っても、2500万人がどうやって?

“上海ほぼ全域がロックダウン状態に 食料届かず 医療もひっ迫”【4月1日 TBS NEWS】
“上海のスーパーで食料めぐり男たちが「大喧嘩」、ロックダウン目前のパニック”【4月1日 Newsweek】
といった混乱も当然のことでしょう。

そうした状況で、前出香港の惨状ともダブるような事態を伝える報道も。

****コロナ感染拡大の上海、隠された高齢者病院の実態****
中国上海市にある大型の高齢者医療施設で、新型コロナウイルスの感染が広がっており、多くの患者が死亡していることが、内情を知る関係筋の話で分かった。金融ハブである上海市のコロナ感染状況が、当局の発表以上に深刻であることを示唆している。
 
上海市政府は当地でコロナが猛威を振るい始めた3月以降、市内に数百カ所ある高齢者医療施設におけるコロナ関連の集団感染や死者を公表していない。
 
上海市にある高齢者医療施設「上海市東海老年護理医院」では、スタッフが隔離施設に送られたことを受けて、用務係6人が穴埋め要員として配置された。彼らはウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に対し、病院から複数の遺体が運び出されるのを目撃したか、他人から聞いたと話した。病院内では少なくとも100人がコロナ検査で陽性反応が出たという。

ある用務係は、コロナに感染して3月28日に死亡した男性患者の死化粧を任されたと話した。
夜間に病院ゲート付近で6台の霊柩車が駐まっているのをみたという別の用務係は「死ぬほど怖かった」と心境を語った。
 
ある患者の息子はここ1週間に父親が同病院で死亡したと話した。息子の友人がWSJに明らかにした。その友人によると、他の訪問者も十数人の遺体を見たと話しているという。
 
中国のソーシャルメディア上でも、複数のユーザーが同病院で報告されていない死者が出ている疑いがあると投稿していた。
 
死因がコロナ感染か、慢性疾患によるものかは分かっていない。同病院は死者について公表しておらず、過去との比較が難しい。患者の親族からは、医療スタッフが隔離施設に送られたため、患者が放置されていたとの声も聞かれた。
 
上海市の保健当局者は、同病院で感染が急増していることを認めていない。上海市政府は、この病院の住所と一致する施設で3月16~17日に感染者が2人見つかったと報告していた。ところが、その後はこの住所で感染が確認されているとしているものの、数については報告されていない。(中略)
 
中国では、80歳以上の高齢者でワクチンを2回以上接種しているのは半分にとどまっており、専門家からは以前からオミクロン株がもたらす危険性を警告する声が上がっていた。上海で65歳以上の住民は400万人に上っており、中国の大都市としては高齢層の比率が特に高い。
 
東海医院に10年以上勤務する用務係、ザン・アイジェンさんは、3月19日の夜、検査で陽性反応が出たことで、医師や看護師を含む数十人のスタッフと共に、バスで隔離施設へと搬送された。隔離先のホテルに1週間滞在した後、先週末には競技場に設置された臨時隔離施設に送られたという。彼女は「用務係、看護師や医師も、みんな感染している」と話す。
 
内情に詳しい関係筋によると、同病院はスタッフの隔離に伴い、過去2日に約50人の用務係を採用した。その多くは病院内での様子を事前に聞かされておらず、あまりに多くのコロナ患者の世話を任されることになってショックを受けているという。
 
ある用務係は3日連続で、病院から遺体を運ぶ仕事を手伝ったが、その後、自身もコロナで陽性となり、隔離施設に送られたという。【4月1日 WSJ】
****************

高齢者医療施設ですから、コロナに関係なく死者が出ても不思議でもありませんが・・・

高齢者比率が高く、その高齢者へのワクチン接種が進んでいない、しかもワクチン自体の効果に疑問も・・・パンデミック初期の武漢の惨状を繰り返さないためにも中国政府には透明性が求められますが、その透明性がないの中国の中国たる所以・・・。
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