孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル  大統領やバイデン氏の仲裁・要請も効果なし ネタニヤフ首相が進める「司法改革」

2023-03-21 22:57:06 | 中東情勢

(ネタニヤフ政権の「司法改革」に対する抗議デモ=イスラエル中部テルアビブで11日、ロイター【3月16日 毎日】)

【イスラエル大統領もバイデン米大統領も止めらないネタニヤフ「司法改革」 毎週の大規模抗議デモ】
昨年12月末に発足したイスラエルの「建国史上最も右寄り」とされるネタニヤフ政権が進めようとする「司法改革」が1月に明らかになって以来、民主主義の根幹たる三権分立を脅かすものとして、イスラエル国内では大規模抗議デモが続いています。

「改革」の背景には、収賄や背任の罪で起訴され、公判が進行中のネタニヤフ首相自身にとって有利な仕組みをつくりたいとの思惑があるのではないかと推測されています。

****イスラエルでデモ拡大 司法改革が国論二分 軍務拒否や通貨下落も****
イスラエルでネタニヤフ政権が司法制度改革を推進し、国論を二分する議論が起きている。

改革案は司法の権限を縮小して政府や国会の裁量を拡大する内容で、民主主義の根幹である三権分立を骨抜きにする狙いだとしてデモが頻発している。「建国史上最も右寄り」とされる政権の動きは海外でも懸念を招いている。(中略)

ネタニヤフ政権は1月前半に改革の草案を公表した。イスラエル有力紙ハーレツ(電子版)によると、司法が持つ違憲審査権の制限が盛り込まれており、国会で成立した法律について、最高裁がイスラエル基本法(憲法に相当)に違反すると判断しても、国会がそれを覆すことが可能になる。裁判官の任命をめぐっても、政権の影響力を強化する条項がある。

昨年12月末にネタニヤフ氏を首相として発足した連立政権は、同氏が党首を務める右派「リクード」や、ユダヤ教の戒律を厳格に守る超正統派、対パレスチナ強硬派の極右政党などで構成されている。ハーレツ紙によると、各党にはそれぞれ司法への影響力を強めたい事情がある。

ネタニヤフ氏は2019年に収賄や背任の罪で起訴され、公判が進行中だ。改革には自らに有利な判断を示す裁判官を任命する狙いがあると指摘される。

また、超正統派の政党は信徒の若者たちの徴兵免除を法制化して定着させる思惑がある。超正統派は宗教やユダヤ人の歴史を学ぶことを最優先しており、慣例として徴兵が免除されてきたが、世俗派のユダヤ人らが不平等だとして反発を強めている。

さらに、極右政党は、パレスチナ人が多く住むヨルダン川西岸でユダヤ人入植地を拡大する方針を公言してきた。司法の違憲判断を覆せるようになれば、入植推進に向けて大きな障害が消えることになる。イスラエル軍は年初以来、70人以上のパレスチナ人を殺害しており、双方の緊張は近年になく高まっている。

司法制度改革をめぐっては、最大の友好国である米国のナイズ駐イスラエル大使が「(国民の)総意を得るよう努力してほしい」と述べたほか、ベーアボック独外相が司法の独立は「常にイスラエルの大きな特徴」だったとし、それぞれ自制を促した。

9日にはイスラエルのヘルツォグ大統領がテレビ演説し、政権に改革案を撤回するよう求めた。ただ、与党各党には国民の支持を基に連立政権を発足させた自負があり、事態が収束に向かうかは不透明だ。【3月10日 産経】
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ネタニヤフ首相は大統領の仲裁案も拒否して、「改革」を強行する構えです。

****イスラエル「司法改革」 大統領の仲裁案を与党が拒否 混乱深まる****
イスラエルで大規模デモを引き起こしている右派・ネタニヤフ政権の「司法改革」を巡り、ヘルツォグ大統領は15日、改革の仲裁案を発表した。ヘルツォグ氏は、与野党双方の意見を取り入れた代案と主張したが、ネタニヤフ首相は受け入れを拒否した。国内の混乱はさらに深まりそうだ。

ネタニヤフ政権は、国際法違反とされるヨルダン川西岸の入植地拡大などを目指し、最高裁による法律審査の権限を制限する「司法改革」を進める。改革は、国会が過半数の賛成で最高裁の判決を覆すことを可能にするなど、司法に対する政権の力を強めるものだ。

だが「三権分立が崩れ、独裁国家になる」との批判が野党支持者から噴出。各地で毎週末に抗議デモが開催され、今月11日には30万人以上が参加するなど、国内の対立が激しくなっている。

ヘルツォグ氏は「市民戦争を避けなければならない」として、仲裁案を発表した。最高裁の権限を一部制限する一方で、国会による判決の「無効化」は容認しないとの内容だが、与党側は「一方的だ」と強く批判。ネタニヤフ氏は15日夜、仲裁案について「(現行の司法制度を)継続するのと変わらず、受け入れられない」と述べた。

「司法改革」を巡っては、同盟国の米国も懸念を表明。専門家からは、政権が内政に集中し、対イランなどの外交をおろそかにしているとの指摘も出ている。【3月16日 毎日】
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毎週末に行われている抗議デモは上記記事にあるように「30万人規模」とも、あるいは「50万人規模」とも報じられています。イスラエル人口は940万人ほどですが、全国民の3~5%がデモに参加していることにもなります。

同盟国アメリカ・バイデン大統領もネタニヤフ首相と電話会談を行い自重を促していますが、パレスチナの立場も一定に考慮し、人権問題にも敏感な米民主党政権とはもともと折り合いが悪いネタニヤフ首相ですから、聞く耳は持たないのでは・・・。

****米 バイデン大統領 イスラエルの司法制度改革めぐり電話会談****
イスラエルでは、司法制度の改革を巡り大規模な抗議デモが続いていて、アメリカのバイデン大統領はイスラエルのネタニヤフ首相と電話会談し、国民からの理解を得たうえで進めるよう示唆しました。(中略)

アメリカのバイデン大統領は19日、ネタニヤフ首相と電話会談し「民主主義的な価値観こそが、アメリカとイスラエルの関係の証だ」と強調しました。

そのうえで、司法制度改革が三権分立を脅かす可能性があると指摘されるなか「民主主義社会は真の均衡と抑制によって強化されるものであり、根本的な変革は人々からのできるかぎり広い支持のもとに進められなければならない」と述べ、国民からの理解を得るよう示唆しました。

これに対しネタニヤフ首相は「イスラエルはこれまでも、これからも強く活気のある民主主義国家だ」と述べたということで、バイデン大統領との会談のあと、どのような対応に出るかが焦点となっています。【3月20日 NHK】
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「アメリカに民主主義の何たるかを教えてもらう必要などない」といった、会談の“冷え冷えとした”雰囲気が容易に想像できます。

あるいは、公表されないもっと“生々しい”やり取りがなされたのか・・・「強行するならアメリカはこれ以上イスラエルを支援できない」「そんなことができるのか?」っといった・・・

首脳会談に先だってイスラエルを訪問したオースティン米国防長官は9日、「米国とイスラエルの民主主義は独立した司法の上に築かれている」とのバイデン大統領の発言を引用し、ネタニヤフ政権が進める「司法改革」を暗に批判しましたが、変化はありません。

この問題でアメリカがイスラエルを制御できないということは、イスラエルがイランの核施設などを攻撃するようなことになっても、アメリカはイスラエルを制御できないという現状をも示してもいます。

【有事の際のネタニヤフ首相の指導力は認めるが、独裁も困る・・・というジレンマ】
「司法改革」については、一般国民だけでなく、警察や軍関係者にも困惑・抗議が拡大しているようです。

****司法制度改革反対デモ11週目も30万人:暴力エスカレート 2023.3.20***
司法制度改革反対デモ・毎週30万人規模:警察との暴力エスカレート
1月から始まった「オーバホール(乗り越え)法案」と呼ばれる司法制度改革案。イスラエルの民主主義が危ういとして、毎週、安息日明けの夜に、テルアビブを中心に全国で大規模なデモが行われている。この週末で11回目(2ヶ月半)となった。

このままでは、国が分裂するとして、野党側は、与党が、改革にむけた法案への動きを一時停止することを条件に交渉すると言ったが、与党側はこれを受けいれず、今も法案作りを急いでいる。今に至るまで、交渉は、まだ一回も行われていない。

こうした中、デモへの参加人数は、時間経過とともに増え続け、先週末とこの週末では、それぞれ30万人(メディアによっては50万人)を超えている。最もデモが盛んなのは、テルアビブでは、毎週、16-17万人が参加。町の中心を走るアヤロン・ハイウエイを一時的ではあるが、封鎖する事態になっている。

また、デモは、週末に加えて、国会で司法制度改革関連法案が議論される平日にも、エルサレムの国会周辺で大規模に行われるようになっている。今週も、木曜日に大規模なデモが予定されている。

平日のデモについては、反ネタニヤフ首相の動きになり、先週までに、イタリアやドイツに外交訪問したネタニヤフ首相の出国を妨害しようと、ベングリオン空港までの道中やその入り口を閉鎖する事態にまでなった。

こうした中でも、与党はあくまでも司法制度改革案を推し進めており、国会審議一回目を通過した法案はすでに2項目。今週、汚職で一度逮捕された経験を持つ政治家アリエ・デリ氏(ユダヤ教正当シャス党首)のような人物でも、閣僚になれるという法案についても、第一回目を通過させている。(法律になるには3回可決が必要)

連立政権と警察・軍との対立も深刻・複雑
警察は、できれば市民に危害は加えたくないと考えているが、連立政権(つまり司法改革推進派)で警察を管轄する極右正当のベン・グビル氏は、デモ隊は、“クーデター”だとして、暴動発生時の断固とした態度をとるようにとの指示を出している。

警察も態度を決めかねて、グビル氏とトップ警察長官らとの間でどろどろの対決になっている。

実際には、週を重ねるごとに、警察が放水銃や、威嚇用手榴弾を使ったり、デモ参加者と警察が掴み合いとなり、暴力の度合いがエスカレートしている。逮捕者も多数出ている。

特に、今週末には、安息日にベン・グビル氏が、滞在していたベイト・シェメシュに近いクファル・ウリヤのモシャブで、祈りに出かけたシナゴーグを、100人ほどのデモ隊が取り囲み、反対を訴える事態になった。

すると町の住民たちが、静かな安息日を邪魔したと、逆にデモ隊に向かって「死ね」と叫んだ者もいたとのこと。グビル氏は、「シナゴーグですることではない」とコメントしている。

また、さらに大きな問題は、軍隊への影響である。戦争の際には招集を受けて従軍する予備役兵たちが、この改革案に反対しており、招集に応じない動きにでていることはすでにお伝えした通りである。

しかしその後、軍情報部、特殊作戦部隊といったエリート部隊の予備役将校ら450人、サイバー部隊200人を含む将校たちを含む予備役兵たちが、招集に応じないとするボイコットを開始した。

警察と同様、政権とイスラエル軍トップの間でも、どろどろの対決になってはいる。

しかし、さすがに、今、パレスチナ人やイランとの対立がエスカレートしていることもあり、ギャラント防衛相、ハレヴィ参謀総からは、「国の防衛という最重要事項を背負っている予備役兵が招集をボイコットというのは、赤線を超える。」として、これに反対する意見を出している。

野党側で、この改革に反対しているガンツ元防衛相・参謀総長も、予備役兵は何があっても招集には応じるべきだとの考えを表明している。(中略)

ネタニヤフ首相をめぐるイスラエル人のジレンマ
世論調査によると、政権与党が進める司法制度改革については反対意見の方が多い。

しかしながら、防衛上の緊急事態において、憲法に払拭する可能性があるような指示が出た場合、警察や軍、シンベトといった治安部隊は、その時の政権側(今ならネタニヤフ首相)に従うべきか、憲法を重視して最高裁に従うべきか、となると意見が別れるようである。

この問題が浮上したのは、最近、イスラエル軍の中で、スモトリッチ西岸地区担当が、不用意にもフワラ(西岸地区でテロ事件があったパレスチナ人地区)は一掃すべきだ」との問題発言をして以来である。

軍はこれに従えば、この町に住むパレスチナ人を一掃する(殺すか追い出すか)ことになるが、当然ながらこれは違法行為である。

政府の指示に従えば、憲法の視点で違法になると判断される可能性がある。政府に従うべきか、最高裁の判断に従うべきなのか。今回は当然ながら、軍は、スモトリッチ氏の発言(後で失言と認めた)には従わないという道を選んだ。しかし、これは大きな論議を呼ぶこととなった。

この一件をもって、行政が司法の上になり、行政のいうことが全て通ってしまうことに危機感が広がり、司法制度改革に反対する予備役兵たちが増えたということである。

ところが、チャンネル12の調査では、治安部隊は常に最高裁に従うべきと答えた人は40%、政府側と答えた人は40%。わからないが20%と、政権側と答えた人と、最高裁側と答えた人はとんとんという結果であった。

さらに、現時点に限っていえば、本当に治安上の緊急事態になった場合、与党ネタニヤフ政権に従うべきと答えた人は43%で、野党ラピード氏側、つまりは最高裁の権限を維持する側に従うべきと答えた人は39%と、若干ながら、政権側に軍配があがるという結果だった。

現実をみれば、ネタニヤフ首相の指導者としての力量を認めるしかないという思いと、ネタニヤフ首相に、全権を委ねて独裁のようになっても困る・・という複雑な人々の思いとと現状が今、イスラエルにはあるということである。

イスラエルという国は、世界に先んじて、いろいろな問題を突きつけられる国だが、今も、かなり本質的な問題をつきつけられているようである。【3月20日石堂ゆみ氏  オリーブ山通信】
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【政権に参加する極右勢力の「信念」に基づく暴言】
上記記事にあるスモトリッチ西岸地区担当(財務相でもあります)の「問題発言」は以下のようなもの。

****イスラエル財務相がパレスチナの村「せん滅」発言、国連非難****
国連難民高等弁務官事務所のボルカ―・ターク高等弁務官は4日、イスラエルのベザレル・スモトリッチ財務相がパレスチナ自治区ヨルダン川西岸の村フワラの「せん滅」を求めたことを「理解し難い」と非難し、イスラエル人とパレスチナ人の衝突の終結を呼び掛けた。

イスラエル人入植者2人がフワラで撃たれて死亡したことへの報復として数十人が同村を襲撃したのを受け、スモトリッチ氏は1日、「フワラ村をせん滅する必要がある」「イスラエルが国家としてやるべきだと思う」と述べた。

スモトリッチ氏はその後、ツイッターで「フワラ村を消し去るという意味ではなく、テロリストを一掃すべきという意味だった」と釈明した。 【3月4日 AFP】
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発言後に釈明したようですが、スモトリッチ氏の発言は、失言でも何でもなく、彼のゆるぎない「信念」です。

***イスラエル極右党が狙う西岸支配、新たな火種に****
イスラエルのベザレル・スモトリッチ新財務相は、ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地にインフラ整備など巨額投資を行う方針を打ち出した。同氏は極右政党「宗教シオニズム」党首で、西岸地区の少なくとも一部併合を唱えている人物だ。

入植地の出身者が大半を占める宗教シオニズムのメンバーは、ベンヤミン・ネタニヤフ元首相が樹立した新政権の連立相手として不可欠な存在で、現在は入植地の権限を握る重要ポストを占めている。

同党の狙いはさらにユダヤ人100万人の入植に道を開き、国際的に認められたイスラエル領土内と入植地における生活水準の格差を段階的に解消することにある。将来的には西岸地区におけるパレスチナ国家の可能性を消し去ることが究極の目標だ。(後略)【1月5日 WSJ】
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従って、以下のような発言を繰り返すことにもなります。

****イスラエル閣僚、暴言連発 「パレスチナ人存在せず」****
イスラエルの極右閣僚、スモトリッチ財務相がパリで開かれたユダヤ系フランス人らの会合で「パレスチナ人など存在しない」「歴史も文化もない」と暴言を連発したことが分かった。イスラエルやフランスのメディアが20日、伝えた。演壇では「大イスラエル」と称された地図が示され、ヨルダンも含まれていた。

暴力の連鎖が続くイスラエル、パレスチナの当局者は19日にエジプトで事態沈静化に向け協議し、情勢を悪化させる言動の自制で一致したばかりだった。閣僚の暴言でネタニヤフ政権の在り方が問われそうだ。

ヨルダン外務省は20日、イスラエル大使を呼び出し抗議した。【3月21日 共同】
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イスラエル、パレスチナの当局者の事態沈静化に向けた合意は以下のようにも。

****暴力抑制の仕組み構築=イスラエルとパレスチナが合意****
イスラエルとパレスチナ自治政府の当局者は19日、エジプト東部シャルムエルシェイクで、エジプト、米国、ヨルダンの当局者を交え、暴力の応酬が止まらないパレスチナ情勢を巡り協議した。

共同声明によると、イスラエルとパレスチナは「暴力や扇動的な言動を抑制し、それらに対抗する仕組み」の構築で合意した。

イスラム教のラマダン(断食月)が今週始まり、期間中にユダヤ教の祝祭「過ぎ越しの祭り」が重なることから、対立感情激化への懸念が高まっている。5者は、エルサレム旧市街にある両教の聖地を巡り、イスラエルとパレスチナ双方が「神聖さを乱す行為」を防ぐ必要性を強調した。【3月20日 時事】
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ただ、上記のような極右勢力が入閣し重要閣僚を務めるネタニヤフ政権と、ハマスや武装勢力への「グリップが全く効かない」パレスチナ自治政府が何を合意しても、どれだけの実効があるのか・・・疑問と言わざるを得ません。

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タイ  5月に総選挙 親軍勢力の分裂選挙に加えてペートンタン人気 野党はあまり勝ち過ぎると危険?

2023-03-20 23:24:58 | 東南アジア

(5月に下院総選挙の実施が見込まれるタイで、与野党がポピュリズム(大衆迎合主義)政策を競っている。政権奪回を狙う最大野党が最低賃金の引き上げを公約に掲げたのに対し、親軍政権の維持を目指す最大与党は低所得者向け給付金の増額を打ち出した。【3月7日 日経】 画像は野党・タイ貢献党のタクシン元首相の娘ペートンタン氏)

【下院解散で5月総選挙】
タイの総選挙については、2月23日ブログ“タイとカンボジア 総選挙に向けた政治状況 タイは親軍勢力の「分裂選挙」 独裁色強めるカンボジア”でも取り上げたように、親軍勢力は新党を立ち上げたプラユット首相とプラウィット副首相を担ぐ現与党の分裂選挙となっています。

下院が20日に解散、国王ラーマ10世が解散を承認したと王室が官報で発表したことで、5月に総選挙が行われる見込みとなっています。

****タイ下院解散、5月にも総選挙へ 親軍政権“継続”が焦点****
タイの下院が20日に解散され、5月にも総選挙が実施される見通しとなりました。クーデターの流れを組む親軍政権が継続するかが焦点となります。
タイの下院解散は官報を通じて発表され、4年ぶりとなる総選挙は5月にも行われる見通しです。

タイでは2014年、プラユット氏が軍事クーデターを主導して暫定首相に就き、2019年の総選挙の後、親軍政党「国民国家の力党」の支持で正式に首相に就任しました。

プラユット氏は今回、「力党」内で支持が広がらないため、自身で新党を立ち上げ首相続投を目指す一方、「力党」は副首相のプラウィット氏を首相候補としていて、与党が分裂する構図となります。

一方、軍政に反対する最大野党「タイ貢献党」からは、タクシン元首相の二女ペートンタン氏が首相候補として政権奪還を目指します。
「次期首相にふさわしい人物」を尋ねた世論調査では、ペートンタン氏が優勢となっています。

親軍政権が継続するかが焦点ですが、総選挙の後に行われる首相の選出は、下院議員と軍政下で任命された上院議員の票の合計で決まるため、親軍勢力が有利な仕組みとなっています。【3月20日 日テレNEWS】
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【「3分の2民主主義」ではあるものの、選挙法改正で変化も】
民政移管後の政権選択となった2019年総選挙の結果は下記の通り。



タイではタクシン派政党(タイ貢献党)が選挙では強みをみせますが、軍事政権によって決められた選挙法・政治枠組みには、そのタクシン派政党の力を削ぐための「工夫」がなされています。

まず、首相指名選挙は下院議員(定数500)と、軍政下で任命された上院議員(定数250)の合同投票となります。上院が軍部で固められているため、反軍勢力が首相になるためには下院で75%以上を獲得する必要があります。
つまり、タイ民主主義には「3分の2民主主義」という「壁」があります。

更に、下院は2019年選挙では、小選挙区350と比例区150にわかれていましたが、有権者の投票は小選挙区だけの1票。そして比例区議席については、政党ごとの得票率をもとに、日本のように比例区定数150に対してではなく、下院総定数500に対して議席を割り振る方法で決まってきます。

例えば、ある政党の小選挙区での得票率が2割だった場合、下院定数500の2割にあたる100議席が総議席数として割り当てられます。この政党が小選挙区ですでに80議席を得ていた場合、比例区で残り20議席が得られるということになります。

しかし、この政党が小選挙区で2割の100を超える110議席を得た場合には超過分の10議席を返す必要はないものの、比例では1議席も得られません。

上記表で小選挙区で第1党となったタイ貢献党の比例区議席数がゼロなのはそういった仕組みでした。
小選挙区で強い政党は比例分の議席配分で不利になる「仕組み」です。

2019年総選挙では、プラユット首相続投を支持する「国民国家の力党」が主導する軍政派と、タクシン派「タイ貢献党」が主導する反軍政派のどちらが下院の多数派を形成するかが焦点となっていましたが、上記のような「仕組み」もあって結局、反軍政派は245議席と下院過半数を獲得できませんでした。

今回の総選挙では、選挙法が改正され、上記の仕組みが代わるようです。

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タイの下院議員選挙と政党に関連する2つの法律が1月28日に官報に掲載され、翌日から施行された。これにより、下院総選挙の法的な基礎が整った。

(中略)小選挙区選出議員が350人から400人、比例代表選出議員が150人から100人に議席配分を再調整した。

投票方法は2票制方式に変更され、1枚の投票用紙で小選挙区の候補者に投票し、もう1枚の投票用紙で政党が提出した比例代表候補者の名簿を選べることになった。

また、各政党が獲得する比例代表の議席の割合は、各政党が獲得する比例代表の票数の割合に比例することになった。【2月13日 JETRO】
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詳細は知りませんが、上記情報で判断すれば、小選挙区で圧勝した政党が比例区でも議席を上積みし、下院全体の流れを掌握することが可能になったように思われます。

【野党 親軍勢力の分裂選挙に加えてペートンタン氏人気で「地滑り的」圧勝も可能】
こうした話を前提にして、今回総選挙の展開を見ると、前述のように親軍勢力が分裂選挙になっていることに加え、タイ貢献党のタクシン氏の娘ペートンタン氏の人気上昇が注目されます。

****タイ下院が解散、5月総選挙の見込み タクシン氏娘が支持率首位****
(中略)選挙の具体的な日程は発表されていないが、ウィサヌ副首相は20日に下院が解散された場合、5月14日に行われる可能性が高いと述べていた。

世論調査によると、次期首相はタクシン元首相の娘のペートンタン氏が最有力候補で、タイ国立開発行政研究院(NIDA)が先週末に公表した調査では支持率が10%ポイント上昇して38.2%となった。現職のプラユット首相は15.65%で3位にとどまった。【3月20日 ロイター】
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周知のように、小選挙区では得票率差以上に議席数差が開きます。場合によっては「地滑り的」圧勝も可能です。しかも、今回は親軍勢力は分裂選挙です。

ペートンタン人気がこのまま続けば、タクシン派「タイ貢献党」が小選挙区で「地滑り的」圧勝を実現し、比例区で更に上積みするというケースもあり得ます。

小選挙区(定数400)で「地滑り的」勝利によって8割320議席を、比例区で4割40議席を獲得すれば、下院で360議席。

前述のように首相指名選選挙では上院250を含めた750議席の過半数375議席が必要ですが、他の反軍勢力を合わせれば・・・という想像(妄想?)も。

そこまでいかなくても、下院の大勢を牛耳ることになれば、首相指名において、親軍勢力との交渉で優位な立場に立ちます。

【「あまり勝ち過ぎると危険」 ミャンマーの実例】
妄想するのは勝手なので、話を更に進めると、「あまり勝ち過ぎると危険」ということも。
実例がミャンマー

****(2020年ミャンマー総選挙)アウンサンスーチー圧勝の理由と、それが暗示する不安の正体****
(中略)
2020年11月8日にミャンマーで総選挙が実施された。選挙結果はNLDの勝利であった。だが、前回のような盛り上がりも世界的な注目もなかった。無理もない。前回の選挙が55年ぶりの文民政権の樹立につながる一大イベントだったのに対し、今回は、選挙戦前からNLDが勝つという予想が大半を占めていた。

さらに、同じ週にアメリカ大統領選挙があって、世界はその話題でもちきりだった。新型コロナウイルスの感染が拡大するなかでの選挙で、祝勝イベントも自粛されていた。

選挙結果をおさらいすると、二院制の連邦議会と、14ある地方議会とを合わせた1117議席が争われ、上院選挙では138議席(争われた161選挙区の86%)、下院選挙では258議席(争われた315選挙区の82%)を(スーチー氏率いる)NLDが獲得した。前回の総選挙では上下院合わせて390議席(上院135、下院255)を獲得していたので、今回は前回を6議席上回る結果であった(396議席)。2度目の大勝である。地方議会でも、ヤカイン(ラカイン)州とシャン州を除いた地域ではNLDが過半数を占めた。

ここで注意が必要なのは、ミャンマーの議会が「4分の3の民主主義」でしかないことだ。今回の選挙で争われた議席は、連邦議会、地方議会の全議席のうち4分の3である。残りの4分の1は、国軍最高司令官の「推薦」によって就任する現役軍人たちが占めている。彼らは選挙で勝つ必要はなく、任期も固定されていないので、人事異動もする。国軍最高司令官の手足といってよい。

この「4分の3の民主主義」という条件の下では、議会で与党になるためのハードルが高い。一政党が過半数を確保するには、全選挙区の3分の2で勝つことが必要になるからだ。今回もスーチーはこの高いハードルを越えたわけである。(中略)

NLDの大勝がもたらす不安
今回の選挙でNLDによる一党優位はより盤石となり、スーチーの政権基盤は安定した。その一方で、今後の不安を垣間みせる選挙でもあった。3点挙げておこう。

(中略)
(不安事項として、ポスト・スーチーの不在、少数民族問題、そして)最後に、国軍である。2度の選挙でのNLDの勝利は、国軍を動かすだろうか。ミャンマーの「4分の3」の民主主義が終わるかどうかは国軍次第である。

憲法改正には議員総数の4分の3を越える賛成が必要で、4分の1の議席を占める国軍代表議員が反対する限り、憲法の改正はありえない。

憲法改正を公約に掲げるNLDが8割を越える選挙区で勝利したのだから、この民意を受けて国軍の妥協を期待する向きもある。

だが、国軍が憲法改正を容認する可能性は極めて低い。理由は2つある。まず、国軍が政治への関与を正当化する最大の理由は内戦である。選挙結果がどうあっても、内戦の終結がない限り、国軍の政治関与が終わる可能性は低い。(中略)

また、国軍の政治関与の背景には民主主義への不信感がある。国軍が伝統的に持つ民主主義観は、国民全体の利益を顧みない党派争いである。したがって、NLDの勝利は、民意の反映というよりも、特定の党派が勝利した状態と国軍にはみえるはずである。

スーチー政権に対して警戒を強めることはあっても、権限を自ら手放すことはなさそうだ。ミンアウンフライン国軍最高司令官は就任から10年目を迎えてますます自信を深め、文民政権を批判する言動も目立つ。スーチー政権にとって最大の難敵が国軍であることは変わらないだろう。【2020年11月 中西 嘉宏氏 IDE-JETRO】
*****************

ミャンマー国軍が「選挙で不正が行われた」として軍事クーデターを決行したのが2021年2月21日。
スーチー氏拘束、民主派との内戦状態など、その後の経緯は周知のところ。

残忍・非道で悪名高いミャンマー国軍とタイの軍部を同列に扱うことはできないかもしれませんが、タイ軍部がクーデターという形で政治介入するのは日常茶飯事です。

1932年の立憲君主制成立以来、未遂を含めて19件のクーデターが起きています。
ミャンマーと異なるのは、ほとんど「無血」で行われ、一定期間後に民政移管されるということ。

結果的に、国民の軍事クーデターへのネガティブな評価も小さく、軍部にすればクーデターを起こしやすい環境にもあります。

だいぶ話が先走り過ぎました。
まずは5月の総選挙の結果を見ないと・・・。

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アメリカ  増加するメキシコ国境を超える不法移民 米の厳しい対応で移民は更にカナダへ

2023-03-19 22:41:09 | 難民・移民

(放置されたトレーラーの中から救出された移民ら=5日、メキシコ東部ベラクルス州(ロイター時事)【3月3日 時事】)

【1台のトレーラートラックの荷台に移民343人】
メキシコ国境を越えてアメリカに流入しようとする不法移民の問題は、トランプ前政権の「壁」建設や、共和党系南部州知事が比較的移民に寛容な民主党系のニューヨークやワシントンなどにバスで不法移民を送り付ける・・・といったアメリカ社会の分断・対立を象徴する深刻な問題となっています。

不法移民側からすれば、多くの悲劇をももたらす命がけのアメリカ流入ですが、よくあるのが移民仲介業者がトラックなどに大勢の移民を押し込んで国境を超えようとして、暑さや酸欠窒息などで多くの犠牲者を出す事故。
下記事件は、そうした犠牲者は出さなかったものの、その数の多さに驚きました。

****放置トレーラーに移民343人=3割が付き添いなしの未成年―メキシコ****
メキシコ入国管理局は6日、東部ベラクルス州の幹線道路脇に放置された1台のトレーラートラックの荷台から、移民343人を救出したと発表した。うち103人は保護者の付き添いがない未成年という。

グアテマラなど中米諸国から米国への不法入国を図ったが、途中で運転手が摘発を恐れて逃亡したとみられる。

トレーラー内は2層に改造されており、窒息しないよう空気穴や扇風機が設置されていた。移民らは狭い空間に膝を抱えるようにして詰め込まれていたが、死傷者は伝えられていない。【3月3日 時事】 
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1台に343人も乗れるものかと驚きました。冒頭写真で見ると相当に長いトレーラーみたいですが・・・。いずれにせよ、中は想像を絶する状況でしょう。大昔の「奴隷船」を連想するような感じも。

トレーラー内は2層に改造されているということで、相当なビジネス投資がなされた車両です。移民搬入で頻繁にこれまで使用されてきたのでしょう。

【バイデン政権 不法移民対策強化】
不法移民が増大する状況に、野党・共和党側からは、その寛容な姿勢が移民を呼び込んでいると批判されるバイデン政権ですが、一方で、感染対策を建前にした「タイトル42」による即時の強制送還などトランプ前政権と同じような対応に与党・民主党内の左派からも批判が出ています、

****バイデン米政権、新たな国境管理策を提案 数万人が入国拒否の恐れ****
米バイデン政権は21日、メキシコ国境からの不法移民の流入を阻止するための新たな国境管理策を提案した。同政権にとってこれまでで最も広範な不法移民対策となり、数万人の入国が拒否される恐れがある。

計画の詳細がオンラインで公表された。30日間の意見公募を経て最終案をまとめる。

提案によると、米国に入国するのに既存の合法的な経路を使わなかったり、米国に向かう途中の通過国で保護を求めなかったりした移民は、特定の例外に該当しない限り、自動的に難民の資格がないとみなされる。

人権団体の全米市民自由連合(ACLU)は、今回の提案を活動家から「通過禁止措置」と呼ばれたトランプ前大統領の規制になぞらえ、裁判で争う方針を示した。

バイデン氏は大統領就任当初、トランプ前政権下で縮小された難民希望者の受け入れを復活させると約束していた。しかし過去最大規模の移民流入への対応に苦慮。移民擁護派や一部民主党議員からトランプ流の入国制限を強めていると批判を浴びている。【2月22日 ロイター】
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【移民労働を必要としているアメリカ経済】
上記のような話からは、どうやって移民流入を防ぐか・・・といった面ばかりが強調されますが、一方でアメリカ経済が移民労働を必要としており、そのことが移民をアメリカにひきつける磁石ともなっているようです。

移民が嫌われる経済的理由として、移民の流入によって仕事が奪われるといったことがよくありますが、アメリカの場合は事情が異なるようです。

****米移民労働者は「売り手市場」 賃金も急騰****
サービス業の雇用主は時間給職の空きを埋めるのに苦労

仕事を求めて米国に来る移民たちは今、近年にないほど迅速かつ良い条件で職を得ている。雇用主やエコノミストらによると、多くの場合、移民労働者は米国人労働者と同水準の賃金を受け取っているという。

(中略)今年1月の失業率は3.4%と、53年ぶりの低水準だった。多くの中小企業は、米国生まれか、帰化した労働者を十分に確保することができず、割増賃金を払って移民労働者を雇っていると話す。

これは過熱気味の労働市場のもう一つの側面だ。こうした市場環境を映して、賃金と物価が押し上げられており、米連邦準備制度理事会(FRB)は、インフレを抑制するために利上げを続けるよう圧力を受け続けている。

首都ワシントンでレストラン「ローリオル・プラザ」を経営するルイス・レイエスさんは、料理人や皿洗いが不足していることから、大規模な移民コミュニティーがある地域の地下鉄の駅やバス停で求人のチラシを配布した。「人手不足は深刻だ。ひどいストレスを感じている。サービスを提供するために何をすべきかを考えるとしばしば眠れなくなる」と話した。

レイエスさんは、大部分が移民で構成されるスタッフをつなぎ留めるため、賃金を引き上げ、手当てを充実させた。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)前には、クリスマスのボーナスとして無料の昼食券を配布していたが、昨年12月には「レストランの魂である、厨房(ちゅうぼう)で働く人たち」に250~5000ドル(約3万3000~66万円)のボーナスを現金で支給した。

米国で仕事を探す移民には、有効な労働許可証を得ている者と得ていない者がいる。移民の中には、不法に国境を越えながら逮捕されるのを回避し、友人や親類などの地下のネットワークを頼って仕事を探す者もいる。

そのほか、入国時に亡命を申請している者も多い。申請後の裁判所での手続きには数年かかるため、彼らはそれを待つ間に労働許可証を取得することができる。労働許可証の取得は、より高い賃金につながる。

季節労働ビザを付与されている移民もいるが、ビザの発給件数は需要を満たすのに全く十分ではないと、雇用主らは指摘する。

許可なく米国で働いている移民の賃金を追跡する公式の統計はないが、エコノミストは米国から中南米への送金額に基づくと、賃金は上がっているようだと述べる。世界銀行は2022年の中南米への送金額が前年比9%以上増え、1420億ドルになったと推計している。

ベネズエラでは料理人として働き、昨年9月にワシントンに到着した直後は建設関係の仕事に就いていたというフレディ・モロンさんによると、より良い仕事を見つけるたびに収入は上がっていった。あっせん業者は建設、電気、配管関係の仕事ができる人を探していたという。日給はおよそ150ドルだった。

モロンさんはその後、ピッツバーグに移動し、日給約170ドルで住宅を塗装する安定した仕事に就いた。これにより、ベネズエラにいる妻と子どもたちに月に最低300ドルを送金できている。

国境を越える不法移民の急増
2022年度(21年10月~22年9月)に南部国境で逮捕された不法移民は、過去最高の220万人に達した。その大半は、メキシコ、中米諸国、キューバおよびベネズエラから来ていた。

バイデン政権は、新型コロナのパンデミックを受けて発動した「タイトル42」など、いくつかの国境管理措置を延長した。タイトル42は移民を迅速に退去させるのに使われている。議会は国境警備政策に関する議論を続けている。

給与水準の上昇と就業機会の増加は、国境地帯に移民が押し寄せるのを米国が防ぐことを難しくしている。コロナ感染拡大の初期段階では、移動制限と米国のビザ申請処理ペースの遅れから、移民の数が急減した。しかし、米経済活動が再開されると、国境を越えて来る人々が急増した。

また、中南米での経済状況の悪化や、キューバやニカラグアなどでの圧政も、何十万人もの移民を生み出す要因になった。

2020年終盤以降、不法入国した約260万の人々が、亡命申請の手続きを進める間、米国内にとどまることを認められている。亡命申請が承認されるまでには5年か、あるいはそれ以上の時間がかかる可能性があるが、彼らは申請の約1年後には社会保障番号(SSN)と、申請が承認されるまで有効な労働許可証を手に入れることができる。

またバイデン政権は、一時保護資格(TPS)の名で知られる制度を大幅に拡大した。TPSは、戦争や天災で混乱が起きている諸国からの不法入国者を送還の対象から外し、彼らに労働許可証を付与する措置だ。移民政策研究所(MPI)の分析によれば、バイデン政権はベネズエラやハイチからの不法入国者を中心に、既に70万人以上にこうした保護措置を適用している。

こうした移民の求職者と、就労先候補を結び付ける上で、ソーシャルメディア上の非公式のネットワークが役に立っている。多くの移民はこうしたネットワークのおかげで、米国で就業先が用意されていることを、母国を離れる前から知っている。

メキシコのユカタン半島のマヤ系住民のコミュニティーは、フェイスブックを通じて、米西海岸の親戚から通知を得ている。最近アップされた情報は「清掃スタッフを求む。時給は16~18ドル。勤務時間はさまざま」という内容だった。

グアテマラの人々は、フェイスブックの投稿やティックトック(TikTok)のビデオで伝えられる求人情報をシェアしている。そのうちの一つは「緊急に人手が必要。仕事は米国でのクリスマスベリーの収穫作業。勤労意欲があり非常に責任感の強いグアテマラ人を求む」というものだった。(中略)

労働許可証のない人を働かせている雇用主は法的なリスクを冒すことになる。バイデン政権は、こうした雇用主の取り締まり策を強化する意向を表明している。労働者本人を逮捕し、強制送還することが多かったトランプ前政権の重点対策を転換する方針だ。

移民労働者は労働許可証があればSSNを取得できるが、中には偽の労働許可証を購入している人もいる。こうしたケースでは、雇用主が給与天引きで税金を払う。多くの不法滞在労働者も、今後の移民申請の際に役立つことを見込んで、自発的に税金を払っている。

米国は近年、労働者不足から、雇用主が季節労働で低賃金の外国人労働者を雇用できる「H-2B」ビザの発給数を増やしているが、その数はまだ雇用主の需要を大きく下回っている。

H-2Bプログラムを支援する米業界団体、シーズナル・エンプロイメント・アライアンス(季節雇用同盟)のエグゼクティブ・ディレクター、グレイ・デラニー氏は「レストランに行く米国人なら誰しも、人手に関してこの国が抱えている現実の問題を目の当たりにする」と話している。【2月8日 WSJ】
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【アメリカの厳しい移民対応で、移民は更にカナダへ】
アメリカ当局の労働許可と難民認定における移民への厳しい対応は、アメリカから更にカナダに向かう移民を増加させているとのこと。その結果、今度はカナダ政府が対応に苦慮・・・・

****「安全な」米からカナダへ不法入国、難民申請が急増****
ペルーで書籍販売の仕事をしていたスレマ・ディアスさん(46)は、誘拐されて体を痛めつけられ、金を奪われるという悲惨な体験をした後、故国を離れて米国で安全な生活を手に入れようとした。ところが米国でディアスさんを待っていたのは、住む家がない厳しさと、何とか見つけた非正規の病院清掃員の職場でのセクハラ被害だった。

ニューヨーク市が無料のバス切符を配布しているという情報を耳にしたディアスさんは早速、わずかな望みにかけてバスに乗車し、カナダ国境近くの町プラッツバーグに向かった。そこからタクシーで「ロクサムロード」を通ってカナダに不法入国し、難民申請したのだ。

こうしたカナダへの不法入国者の難民申請は急増しており、ディアスさんのようにニューヨーク市や各支援団体が料金を負担したバスでたどり着いた人も多く含まれている。

カナダのトルドー首相には、国境にやって来る難民申請者への入国制限を強化するようバイデン米大統領との間で合意しろと迫る声が日々強まりつつある。

カナダのフレーザー移民相は最近、米首都ワシントンでマヨルカス国土安全保障長官と不法入国者問題を協議。トルドー氏は、今月23―24日にオタワを訪れるバイデン氏とこの問題を話し合う考えを示している。

現在、米国で難民申請を目指していた人たちの多くは、審査期間の長さや難民認定の厳格さに阻まれて計画を断念せざるを得ない、というのが複数の政府高官や当の申請者を取材して判明した実情だ。

2月下旬のある雪の日、40人弱の難民申請希望者がスーツケースを引きずったり、バックパックを担いだりしながら、ニューヨーク州からカナダのケベック州へと重い足取りで進む光景が見られた。

ディアスさんにとって、プラッツバーグまで片道約150ドルのバス料金をニューヨーク市が支払ってくれるというのは、何カ月も前から温めていた考えを実行するこの上ない好機で「まるで奇跡のようだった」と話す。昨年6月に米国に到着した後、移民裁判所への出頭時期として示されたのは2024年1月。手続きに時間がかかり、身動きが取れないと感じたという。

ニューヨーク市は2007年から、他の都市や国で支援が受けられると証明できたホームレスに対してバス切符や航空券を配る取り組みを続けている。幾つかの難民支援団体も昨年8月に無料のバス切符配布を始めたが、費用の問題で11月に打ち切った。

アダムス市長は、同市や提携する慈善団体がそうした切符をどれだけ購入したかは明らかにしていない。

市長報道官は、あくまで難民申請希望者らが目的地を選んでいると説明。「ニューヨーク市がカナダのどこかに人々を送り込んでいるのではないことは明確だ。われわれは難民申請をしようとしている人々がニューヨーク市であれ、別の場所であれ安定した生活ができるよう手助けをしている」と述べた。

米国土安全保障省は、米国の難民申請制度における審査期間についてコメントを拒否。バイデン政権は議会に対して、包括的な移民法制を整備するよう求めている。

いずれにせよ昨年、米国からカナダに不法入国した難民申請者は約4万人と、新型コロナウイルスの感染対策に伴う規制が続いていた2021年の9倍に膨れ上がり、19年の1万7000人近くと比べても2倍以上に達した。カナダ政府のデータによると、今年1月だけで5000人前後が不法入国したという。

同じくカナダ政府のデータに基づくと、昨年9月末までの1年で同国が受け入れた不法入国の難民申請は全体の46%。一方で米移民裁判所がこの間、難民認定した不法入国者の割合は14%だった。

昨年末の段階でカナダと米国で難民申請手続き中の件数は、それぞれ7万件強と78万8000件前後だ。

カナダではナイジェリアとハイチ、コロンビアの出身者が不法入国者の半分近くを占めていることが、カナダ移民・難民委員会のデータで分かる。

<カナダの魅力>
カナダと米国は「安全な第三国」協定の定めに従って、正式な国境管理所を経た難民申請希望者をお互いに送り返すことができるが、ロクサムロード経由のような不法入国者には同協定は適用されない。

あるカナダ政府高官は、米国側はこの協定の範囲を両国国境全域に拡大することに乗り気ではないと明かした。

シラキュース大学のトランザクショナル・レコーズ・アクセス・クリアリングハウスによると、米国では難民申請者が移民裁判所に出頭するまで平均で4年余りも待機しなければならない。また米国市民権・移民業務局の規定では、難民申請してから労働許可が得られるまでにも最低半年はかかる。

ニューヨーク市で難民申請希望者の支援をしているチームTLC・NYCのディレクター、イルゼ・ティールマン氏は「人々は労働許可と難民認定のヒアリング機会を得るまでのあまりの長さにがっかりしている」と述べた。

カナダ移民・難民委員会によると、同国では19年の難民認定審査期間は15カ月だったが、昨年1─10月には25カ月に延びている。それでも米国に比べると短い。

そんなカナダを目指して、ニカラグアからやってきた難民申請者の1人がレイモンド・テリオルトさん(47)だ。カナダは亡くなった父が生まれた国で、今もいる親族を頼ろうとしたからだ。

テリオルトさんはニカラグア政府を批判した影響で、小さなシーフードレストランの開業を当局に妨害され、安定した仕事を見つけるのに苦労していた。このためまず昨年11月、メキシコから米国に入り、ニューヨーク市から自腹で140ドルのバス料金を支払ってプラッツバーグに着いた後、今はカナダ政府が料金を負担しているナイアガラの滝近くにあるホテルに滞在している。

カナダ行きの決断に満足しているというテリオルトさんは「(カナダの方が)より人道的でサポートが手厚い。米国では飢え死にしても自己責任だ」と違いを強調した。

ただカナダのケベック州政府は、こうした難民申請者の増加で施設の収容能力や基本的なサービスの提供態勢がひっ迫しつつあると悲鳴を上げる。同国連邦政府は、昨年6月から合計で5500人を超える難民申請者を別の州に移していると明らかにした。

<国境閉鎖がもたらすリスク>
だからと言ってカナダが難民申請者に対して国境を全面的に閉ざせば、彼らをより危険なルートで不法入国させかねない、と専門家は警告している。

昨年、米国からカナダのマニトバ州に入ろうとしたインド人の家族4人が凍死。オタワ大学のジェイミー・チャイ・ユン・リュー教授(移民法)は「(国境閉鎖は)人々をもっと危険な選択と行動に駆り立て、より多くの悲劇が起きるだろう」と語った。【3月19日 ロイター】
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ニューヨーク市が無料のバス切符を配布・・・移民対応に苦慮するニューよーくなどの状況は2月2日ブログでもとりあげましたが、南部から送り付けられた移民を持て余し、どこかよそに厄介払いしたいといった思惑でしょうか。

テキサス州の国境地域から送られた移民を乗せたバスが首都ワシントンのハリス副大統領宅近くに極寒のクリスマスイブに到着した件では、ホワイトハウスは「アボット知事は連邦政府や地元当局と一切調整することなく、クリスマスイブの氷点下の気温の中、道端に子どもたちを置き去りにした」と批判も。

まるで犬や猫のようにあっちへやったり、こっちへやったり・・・・というか、いまどき犬や猫を氷点下の気温の中、道端に置き去りにすれば激しい批判を浴びます。人間なら許されるのでしょうか。
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電気自動車(EV)をめぐる最近の話題 パキスタン、フィリピン、EU

2023-03-18 22:38:23 | 環境

(フィリピンのジープニー 当局は環境に優しい車両への切り替えを推進中【3月14日 Newsweek】)

【電気自動車が必ずしもエコと言えない面も それでも主流となる状況】
温暖化の原因ともなるCO2や窒素酸化物を含む排気ガスを出さない電気自動車(EV)は本当にエコで環境に優しいのか?という話はときおり見かけます。

****電気自動車は本当にエコなのか?環境に悪いと言われる理由を解説****
(中略)
電気自動車自体が環境にいいかは別物
とはいえ、「排気ガスを出さない」というイメージで誤解しがちですが、「電気自動車を使えば二酸化炭素が発生しない」訳ではありません。電気自動車が必ずしもエコと言えない理由を説明します。

製造時の二酸化炭素排出量が多い
自動車は製造時に電気を使います。電気は火力発電で作られることが多いため、間接的に二酸化炭素を排出しているのです。鉄などの鉱石の採掘から、輸送、精錬、製品への加工まで、製造工程は複雑であり評価が難しいですが、一般的には電気自動車の方が二酸化炭素排出量が多いと言われています。(中略)

走行分の環境負荷も少ないがある
同様に、電気自動車に充電する電気を作る際にも二酸化炭素は発生しており、特に火力発電では石炭や石油を燃やすため、大量の二酸化炭素が排出されます。(中略)

ここまでは、二酸化炭素排出量の問題についてお伝えしましたが、電気自動車には電池に関する環境問題も課題となっています。

電池用資源をめぐる問題
現在、車載用の電池にはリチウムイオン電池が用いられていますが、リチウムイオン電池はリチウムやコバルト、ニッケルなどのレアメタルが必要です。

詳細はこちらの記事で言及していますが、電気自動車の普及によって爆発的にリチウムイオン電池の需要が高まることで、ニッケルやコバルトの採掘に様々な問題が発生すると懸念されています。

また、採掘が進んでいくと既存の鉱山での資源が枯渇し、より採掘が難しい所を利用しなければならないため、結果的に採掘における二酸化炭素が増えてしまうといった問題も内包しています。

廃棄時の環境汚染が深刻化
電気自動車に使われるリチウムイオン電池は5年ほどで寿命を迎えますが、コバルトやニッケル、マンガンなど、土壌や水を汚染する材料が多く使われているため、そのまま廃棄することは環境汚染に直結します。

特に電気自動車への移行が早い中国では、廃棄されるバッテリーの数は急速に増えつつあり、環境汚染は既に深刻化しているといえるでしょう。今後、各国で廃棄方法の確立が課題となることは間違いありません。

リサイクル率の低さも問題に
電池の廃棄による環境汚染や、製造コストを抑えるには電池のリサイクルやリユースも重要なポイントとなりますが、現状ではリサイクルが適切に行われているとは言えない状況です。(中略)

それでも電気自動車が主流となる理由
電気自動車は環境問題が山積していますが、それでもガソリン車の代替として、自動車業界の主流となりつつあります。その理由をお伝えします。

各国の法規制に伴うガソリン車の廃止
最も大きな理由は、欧州や中国、インド、米国、日本など、主要な国がガソリン車廃止の方向で進んでいることです。

きっかけは欧州グリーンディール政策です。2035年までに自動車の二酸化炭素排出量を100%削減すると決定されたことで、実質的にガソリン車が廃止となる流れが生じました。普通のガソリン車だけでなく、ハイブリッド車などエンジンのある自動車は全て販売できなくなるため、自動車業界は電気自動車への舵を切らざるを得なくなったのです。

この政策が制定された後、中国など他の国でも電気自動車の採用が加速し、今では多くの国でガソリン車を廃止する動きが進んでいるため、必然的に電気自動車が主流となりつつあります。

環境性能の向上に向けた開発も加速中
政策上、電気自動車が普及していくのは確実なのですが、環境性能の向上も同時に期待されています。例えば、より少ない電気で電池を作ることに成功すれば、製造時の二酸化炭素排出量を大幅に低減できるでしょう。電気自動車の電池をリサイクルする方法も有効です。

また、再生可能エネルギーなど、二酸化炭素排出量が少ない発電方法を行うことでも、電気自動車の二酸化炭素排出量を抑えられます。現状すぐに解決できる問題ではありませんが、将来的には「電気自動車はエコ」なのが常識となるかもしれません。

環境面以外のメリットも多い
電気自動車には、環境面以外でも、メンテナンス性の良さや維持費の低さ、乗り心地の良さなど、様々なメリットがあります。デメリットもあるため、走行距離などの使用状況や好みによっても変わりますが、今までの自動車にはない楽しみ方ができるでしょう。(後略)【2022年11月10日 FREE AID】
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【大気汚染改善に期待されるEV しかし、財政難パキスタンでは現状変更規模には至らず】
いろいろな議論はあるものの、現実問題としてはEVの普及は今後も更に進むことが予想されます。(EV普及が遅い日本ではあまり実感がありませんが)

また、大気汚染が深刻化している国では、EVへの転換は現実的政策課題ともなっています。

ひと頃(北京オリンピックの頃)、中国の大気汚染がよく話題にもなりましたが、世界にはもと汚染が深刻な国がたくさんあります。例えばインド大都市の汚染はよく話題にもなります。

****汚染上位100都市、インド6割超=南アジアの大気汚染深刻―調査****
昨年の世界の大気汚染状況をまとめた報告書が14日公表され、汚染度の高い上位100都市の中で首都ニューデリーをはじめインドの65都市が占めた。

パキスタン東部ラホールが最も空気の悪い都市と評価されるなど、南アジア地域の汚染の深刻さが改めて浮き彫りになった。

スイスの大気汚染調査会社IQエアが131カ国・地域、7323カ所を対象に汚染を引き起こす微小粒子状物質(PM2.5)の濃度を調べた。国別のワースト1位はアフリカのチャドで、3位パキスタン、5位バングラデシュ。インドは8位、日本は97位だった。【3月15日 時事】 
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上記記事のようにパキスタンの状況も深刻。政府は電気バスの導入などにも取り組んではいるようですが、状況の深刻さにくらべると、いささか「焼け石に水」の感も。

****大気汚染大国パキスタン、電動バス導入は焼け石に水か****
約2億2400万人の人口を抱えるパキスタンでは、大気汚染が死因のトップになっており、「世界疾病負担(GBD)」による最新の調査では、2019年には大気汚染が原因で推定23万6000人が平均寿命以前に死亡することになったとされている。

パキスタンの金融中心地カラチで働くラジャ・カムランさん(50)はオートバイで通勤していたが、電動バスが導入されたのに伴い、そちらに切り替えた。出費を削減できる上、この街の汚染された空気を吸い込むのを多少なりとも避けられるようになった。

カラチでは1月、小規模ではあるが、完全電動バスの運行が始まった。自動車や工場、発電所やれんがの焼き窯、ごみ焼却によって発生する大気汚染の悪化を削減する政府の対策の一環だ。(中略)

とはいえ、電動バスの台数が十分ではないとカムランさんは言う。初回導入予定の50台のうち、現在走っているのは10台だけだ。乗るには45分も待たされることがあるという。

汚染防止技術を専門とするスイス企業IQAirによれば、都市部の大気汚染はパキスタン全土における長年の大問題だ。大気の質に関する2021年の世界ランキングでは、パキスタンは全118カ国・地域中で下から3番目だった。(中略)

道路を走る自動車数の増加に対する懸念も高まっている。パキスタン国内の自動車登録台数は2011年には960万台だったが、2020年には3070万台へと増加。ペシャワールやカラチといった都市は、より環境負荷の低い輸送手段を推進する計画を発表している。(中略)

(カラチが属する)シンド州政府のアブドゥル・ハリーム・シャイフ運輸・公共交通長官によれば、州政府は現在バスを100台追加するため、購入費用約3000万ドルの融資を求めてアジア開発銀行(ADB)と交渉中だという。(中略)

だが環境問題や都市問題の専門家は、少数の電動バスでは大きな効果は出ないのではないかと考えており、もっと範囲が広く有意義な交通改革を求めている。

<必要なのはシステム改革か>
(中略)同国の気候変動対策省はそれでも、大気汚染は引き続き国の主要な環境問題の1つだと述べている。大気汚染物質の少なくとも40%を排出するのが自動車だという。

政府は2019年11月、電動オートバイと電動人力車(リキシャ)計50万台のほか、電気自動車、電動バス、電動トラック10万台以上を5年以内に交通システムに投入するという目標を掲げた。現時点で実際に走行している台数は分かっていない。

パキスタンは2030年までに、販売される全ての自動車とトラックの3分の1、オートバイとバスの半数を電動にするという長期目標を掲げている。総合的には、2030年までの期間に温室効果ガス削減の取り組みを強化することを公約している。

北西部の都市ペシャワールでは、州政府が新たな公共交通システムの一環として、旧式のバスを引退させ、ディーゼル・電動のハイブリッドモデルで置き換えつつある。

カラチでは電動バス50台導入とは別に、州政府が水牛のふんから生成されるバイオメタノールを燃料とする車両250台による交通網を展開中だ。

とはいえ、一部のアナリストは、カラチにおける新旧のバス改革は、汚染抑制のために十分ではないと批判している。

カラチ経営研究大学都市研究所のムハンマド・トヒード副所長は、走行する自動車やオートバイの総数を削減し、大気汚染の影響に関し市民を啓発することにもっと注力すべきだと主張する。(中略)

環境問題を専門とするコンサルタント会社ダリヤ・ラボのヤシール・フサイン氏は、カラチにおける排ガス問題の解消に向けて効果を上げるには150台どころか、少なくとも1500台の電動バスが必要だろうと語る。

啓発団体「グリーンパキスタン連盟」の創設者でもあるフサイン氏は「政府は電動オートバイと電動リキシャの利用促進に向けて、長期低金利ローンも提供すべきだ」と語る。(後略)【3月18日 ロイター】
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財政危機に直面し、国際通貨基金(IMF)との協議を進めている状況、更には昨年の国土の三分の一が水没する大洪水からの復興が急務となっている・・・というパキスタンの現状では、なかなか環境対策まで手が回らないというというのが現実でしょう。

【フィリピン 「ジープニー」の転換に、負担できない運転手がストライキ】
派手な装飾の簡易乗合バス「ジープニー」が庶民の足であり、また、観光的にも目玉のひとつとなっているフィリピンでは、この「ジープニー」のEV等への転換を進めていますが、その負担の大部分が低収入の運転手にかかってくるということで、抵抗する運転手のストライキに発展しています。

****フィリピン名物「ジープニー」が消える日****
<運転手や事業主ら10万人以上が全土でストライキを実施>

ど派手な装飾の簡易乗合バス「ジープニー」は、フィリピン庶民の足として欠かせない交通手段だ。その運転手や事業主ら10万人以上が3月6日から1週間、全土でストライキを実施。マニラ首都圏だけで4万台以上のジープニーが姿を消し、学校や企業がオンラインへの切り替えを迫られるなど混乱が続いている。

ディーゼルエンジンを搭載したジープニーは環境負荷が大きく、大気汚染の元凶とされる。政府は2017年から電気自動車または欧州排ガス規制「ユーロ4」対応エンジンを搭載した車両への移行を進める「公的車両近代化プログラム」を推進してきた。

だが、基準を満たす車両の価格は従来の10倍以上。買い替えに補助金が支給されるとはいえ、低収入の運転手に払える額ではなく、抗議のストに踏み切った。

それでも彼らの声が当局に届く気配はない。サラ・ドゥテルテ副大統領は、ストは共産主義の反政府勢力に扇動された行為だと一蹴した。【3月14日 Newsweek】
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外交面で注目されるマルコス大統領に比べ、就任後、大きく取り上げられることがあまりないサラ・ドゥテルテ副大統(ドゥテルテ前大統領の長女)ですが、さすが父親譲りというか、(噂どおり)父親以上に強気な性格のようです。

【世界をリードする欧州でも、35年からガソリン車新車販売を事実上禁止するとなると・・・】
一方、EVを含む環境問題で世界をリードすることを経済的・政治的戦略ともしている欧州EUですが、“ガソリン車など内燃機関(エンジン)を搭載する車の新車販売を2035年から事実上禁止する”となると、さすがに容易ではないようです。

****エンジン車の新車販売禁止法案、EU理事会で承認延期 ドイツ反対に*****
欧州連合(EU)域内でガソリン車など内燃機関(エンジン)を搭載する車の新車販売を2035年から事実上禁止する法案について、EU加盟国で構成する理事会による正式承認が延期され、法案が宙に浮いている。自動車大国ドイツが土壇場で反対の意向を示し、合意が困難となったためだ。

法案は、35年までに乗用車と小型商用車の新車を、二酸化炭素(CO2)を排出しないゼロエミッション車にする内容。実現すれば、35年以降はガソリン車に加え、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の新車も事実上販売できなくなる。

EUは50年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標を掲げている。EUの欧州委員会が気候変動対策の一環として提案した同法案を巡っては、EU各国と欧州議会が昨年10月に政治合意。今年2月には欧州議会が法案を採択したことで、欧州理事会の正式承認を残すだけとなっていた。

しかしドイツのウィッシング運輸相は2月28日付の独大衆紙ビルト(電子版)で、合成燃料「eフューエル」を使用する新車販売が認められない限り、「法案には賛成できない」と表明。ショルツ独首相も3月6日の記者会見で欧州委に対し、「35年以降にeフューエルをどう使用できるかに言及した提案を期待している」と対応を求めた。

法案は、EU加盟27カ国のうち15カ国以上が同意し、なおかつ同意した国々の人口総計がEU総人口の65%以上となることが承認の条件だ。欧州メディアによると、ドイツ以外にイタリアやポーランド、ブルガリアも賛成しない意向を示しており、承認が見込めないことから、今月7日に予定されていた承認手続きは延期された。

ドイツが使用を求めるeフューエルは、CO2と再生可能エネルギー由来の水素を合成させてできる合成燃料の一種だ。燃やせばガソリン同様CO2が出るが、製造時に大気中に含まれるCO2を回収して利用すれば、地球温暖化防止につながるとされ、実用化に向けて開発が進められている。

ドイツがeフューエルを認めるよう求めるのは雇用対策の側面が大きい。電気自動車(EV)は動力に内燃機関を必要としない。欧州自動車部品工業会が21年に公表した調査結果によると、EVシフトによってEU域内では40年までに内燃機関製造にかかわる最大約50万人の雇用が失われ、EV用バッテリー生産などの新規雇用を差し引いても27万5000人の雇用減となる。eフューエルはガソリン車などの内燃機関で使えるため、雇用維持に一定の役割を果たすとみられる。【3月16日 毎日】
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EV販売台数で世界断トツの中国では・・・、EV導入が全く進まない日本では・・・と、話は尽きませんが、長くなりますのでまた別機会に。
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中国「一帯一路」  10周年を迎えるものの、方針転換を迫られる

2023-03-17 22:30:12 | 中国

(2019年4月に開催された第2回「一帯一路」国際協力サミットフォーラム【新華社】)

【仲介外交に自信を深める習近平主席】
中国・習近平国家主席は先のサウジアラビアとイランの関係正常化仲介の成功の勢いに乗って、ロシアとウクライナの和平仲介にも意欲を示しています。

****習主席、ロシア訪問へ ウクライナとの和平仲介に意欲 中国外務省「建設的な役割を果たしたい」****
中国外務省は、習近平国家主席が20日からロシアを訪問すると発表しました。ウクライナ問題をめぐり、プーチン大統領と会談する予定です。

中国はロシアとウクライナの和平仲介に意欲を見せているものの、侵攻の継続に執着するプーチン大統領と話して具体的な成果を本当に引き出せるのかが焦点となります。

習主席のロシア訪問は20日から22日までの予定で、プーチン大統領とも会談します。中国外務省は17日午後、訪問の目的について「ウクライナ問題で平和と対話を促すため、建設的な役割を果たしたい」と述べました。

ウクライナ問題をめぐり、中国は先月、和平交渉の再開を呼びかける声明を発表したほか、16日はウクライナのクレバ外相との電話会談を行うなど動きを活発化させています。

さらに最近では、犬猿の仲だったサウジアラビアとイランの外交関係の正常化を取り持つなど、仲介外交に自信を深めています。

習主席はロシア訪問の後、ウクライナのゼレンスキー大統領とのオンライン会談の準備も進めているとの見方もありますが、ロシアとウクライナともに一歩も引かない情勢の中、何かしら成果を出せるのかが焦点となります。【3月17日 日テレNEWS】
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もちろん、現在のロシアとウクライナがの真正面からぶつかり合う状況で何らかの着地点を見出すのは至難の業ではあります。

しかし、ロシアは中国を“頼み”にしていますし、ウクライナも、2月24日に中国外務省がウクライナ侵略の政治解決に向けて発表した12項目の提案文書について、ゼレンスキー大統領が「中国がウクライナのことを話し始めている。これはよいことだ」と一定に評価、また、習近平国家主席との会談を希望する旨も語っていますので、中国の立ち位置は悪くはないかも。

【かつての勢いがない「一帯一路」】
こうした派手な仲介外交の一方で、これまでの中国外交の中核だった「一帯一路」の方は、最近影が薄くなっているように見えます。

停止している訳ではなく、一部では活発な動きも。

****サウジアラビアやインドネシアを一帯一路に取り込もうとする中国****
ぶちゃけ、中国の習近平国家主席の動きが活発化し、世界の注目を集めています。
国内ではゼロコロナ政策への反発が強まっているため、目を海外に向けようとしているかのようです。

12月9日にはサウジアラビアの首都リヤドで初の「中国アラブ首脳会議」を開催しました。
中東諸国を中心に30か国の元首と面談した習主席ですが、特にサウジアラビアとは300億ドルを超える経済協力案件に署名。

これまでサウジアラビアはアメリカとの経済、軍事的結び付きが強かったのですが、このところ急速に中国との関係強化に走っています。(中略)

そうした動きを象徴するのが、サウジアラビアを南北、東西に結ぶ高速鉄道を中国が建設していることです。
更には、「ライン」と呼ばれる巨大な新都市建設計画も進行中です。

2030年に第一期工事が完成する予定ですが、170キロに及ぶ新都市には900万人が暮らすとのこと。大半は地下部分になる模様ですが、全ての設計から建設まで中国が請け負っていると言われています。

一方、イドネシア政府が水没の危機に瀕しているジャカルタからヌサンタラへの首都移転計画を発表。この遠大な構想の実現に関しても、頼みの綱は中国と言われています。

インドネシアは中国に対しては新幹線計画の大幅な遅れによって不信感を募らせてきました。その汚名挽回のためにも、中国は積極的な資金と技術の提供をジョコ大統領に申し出ているわけです。(後略)【2022年12月18日 浜田和幸氏 MAG2NEWS】
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2023年は習近平国家主席が「一帯一路」構想の前身「シルクロード経済ベルト」構想を打ち出して10年の節目を迎えます。

しかし、「一帯一路」10周年にあたるにもかかわらず、その中国政府の扱いは微妙なものにもなっています。3月初旬の全国人民代表会議(全人代)でも「一帯一路」に関する言及はほとんどありませんでした。

習近平主席は第3回「一帯一路」フォーラムを2023年中に開催する方針を打ち出していますが、「一帯一路」10周年を大々的にアピールしたくてもできないジレンマに直面しているとのこと。

****「一帯一路」10周年なのに熱心に宣伝しない中国──求心力低下への警戒****
<習近平自身が打ち出した「一帯一路」構想を巡って中国政府はジレンマに直面している。今年開催される第3回フォーラムへの参加国が減れば中国のメンツは傷つくが、かといって、中止する訳にもいかない>

今年で10周年を迎える中国主導の経済圏「一帯一路」構想には、これまで多くのヨーロッパ諸国も参加してきた。
しかし、2019年以降、香港デモとコロナ禍をきっかけに、ヨーロッパにおける反中感情はかつてなく高まっている。

この状況下、中国政府は今年「一帯一路」フォーラムを開催する方針だが、首脳クラスの参加が減少する公算も高い。

ただし、中国は「一帯一路」フォーラムを開催しないわけにもいかないジレンマに直面している。(後略)
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香港における中国統治に対する抗議デモ拡大への中国の対応、武漢で発生したコロナ感染を中国当局が過小評価して隠蔽しようとしたという疑惑から、近年欧州の中国への好感度は著しく低下していますので、欧州首脳の参加減少は避けられないところ。

途上国・新興国にしても、米中対立が激化するなかで、あえて首脳クラスの派遣に新たに応じることは火中のクリを拾うようなもので、「大国同士の対決に巻き込まれたくない」多くの途上国・新興国が「割に合わない」と判断しても不思議ではありません。

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仮にヨーロッパからの参加国がゼロになれば、「一帯一路」フォーラム首脳会合そのものが前回の4分の3程度の規模に縮小する。そうなれば中国政府が何より重んじるメンツは大きく傷つく。

かといって、「首脳クラスを派遣する国が少なくなると見込まれるから『一帯一路』フォーラムを開かなかった」とみなされれば、それはそれでメンツは傷つく。

だからこそ習近平はあえて「2023年中に開催」を打ち出したのだろう。かなり強気ともいえる方針だ。【同上】
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また、“中国は2010年代末頃から、かつてほどインフラ整備に資金を投入しなくなった。そこには「債務の罠」などの悪評が立ったことや、中国自身の財政事情など、いくつもの理由があり、これらと連動して中国政府が以前ほど国際的な舞台で「一帯一路」をアピールしなくなっているという指摘もある。”【同上】という事情も。

【「一致一路」の軌道修正 融資審査を一段と厳格化】
「債務の罠」の悪評は常に指摘される問題。
また、中国の銀行等にしても、回収の見込みがない案件への融資を強要されても困ります。

そうしたことで、「一帯一路」が、融資審査を一段と厳格化する「一帯一路2.0」への方針転換を余儀なくされているということは昨年来指摘されています。

****中国に「一帯一路2.0」構想、問題噴出で方針転換****
融資慣行は「債務のワナ外交」との批判

中国が巨大経済圏構想「一帯一路」の見直しに着手した。影響力の拡大を狙い、アジアやアフリカ、中南米諸国に多額の資金を投じてきたが、ここにきて債務国の返済が行き詰まっており、軌道修正を余儀なくされている。政策運営に関与している複数の関係者が明らかにした。

世界経済の減速や金利上昇、インフレ高騰が足かせとなって、借り手の国家財政は急速に悪化。巨額の融資返済が滞っているほか、多数の開発案件が凍結に追い込まれている。

中国の融資慣行を巡ってはかねて「債務のワナ外交」との批判も上がっており、スリランカやザンビアなどの債務危機を助長しているとの指摘は絶えない。

こうした中、中国当局内では新規プロジェクトへの融資審査を一段と厳格化する「一帯一路2.0」構想が浮上した。またかたくなに拒否していた不良債権の計上や債務再編に対しても、幾分許容する方向へと傾いているという。関係筋が明らかにした。

習近平国家主席はかつて、一帯一路を「世紀のプロジェクト」と呼んではばからなかった。しかし、見直しを迫られている現状は、世界の秩序を塗り替えるという習氏が描くビジョンの限界を露呈させた。

習氏は昨年11月に開いた高官との協議で、一帯一路を取り巻く外部環境は「ますます複雑さを増している」との認識を表明。リスク管理の強化と他国との協力拡大が必要だと強調した。国営メディアが報じた。

中国の銀行はすでに、低所得国の新規案件に対する融資を大きく減らし、既存融資の対応に注力している。(
中国の対外融資のうち、借り手が返済困難な状況にあるとされる割合は60%に迫っており、2010年の5%から急上昇している。(中略)

途上国の債務問題解決のため、中国は先進国で構成する「パリクラブ(主要債権国会議)」といった多国間制度についても、長年の拒否姿勢を撤回する方向にかじを切った。足元では途上国の債務負担軽減に向けて20カ国・地域(G20)と協力している。

中国はこの過程で、国内銀行に対し、損失の受け入れを強要する可能性がある。中国は長年、債務元本の減免ではなく、返済期限を延長することで融資の焦げ付きに対応してきた。問題を「見て見ぬふり」する戦略だとされ、借り手の債務危機をむしろ長引かせる恐れがあると言われている。

中国国営メディアも、一帯一路に対する論調を落としている。かつては中国の融資によって借り手が受ける経済的恩恵を誇示していたが、足元ではリスク管理や国際社会との協力改善といった面を強調している。

ジョージ・メイソン大学傘下のシンクタンク「メルカタス・センター」で中国政府のプロパガンダについて研究するウェイフェン・ゾン上級研究員はこう指摘する。「中国は軌道修正を試みている」(中略)

とはいえ、一帯一路が全面的に撤回される可能性は低い。来月の共産党大会で3期目続投を目指す習氏は、国際社会における中国の役割を拡大することが重要だとの考えを堅持している。政策運営に詳しい関係筋への取材や、習氏の最近の演説要旨から分かった。

問題の多い一帯一路だが、過去10年に多数の国々を中国の勢力圏に引き入れたことも事実だ。国連の採決では、借り手の多くが中国の意向に合わせて票を投じるようになった。中国が融資への消極姿勢を強めれば、一部の国にとっては中国マネーの魅力が薄れ、国際社会の意志決定において中国の影響力が後退することもあり得る。

米外交評議会(CFR)の上級研究員で、ソブリン債務専門家のブラッド・セッツァー氏は「中国が影響力を拡大する上で、一帯一路が重要な存在であり続けるには、新たな方策を見いだす必要があるかもしれない」と述べる。具体的には融資ではなく、助成金などの支援を拡大するといった措置が挙げられるという。

内情に詳しい関係筋によると、中国当局者はリスク軽減に向けた官民パートナーシップの構築、市場水準を下回る優遇金利での融資といった手段を通じて、一帯一路を持続可能な軌道に乗せる方策も探っている。さらに中国当局は、新規案件の融資でアフリカ開発銀行のような多国間機関との協力拡大にも、前向きな姿勢をにじませ始めているという。【2022年9月27日 WSJ】
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ただ、パキスタンでの事業など重要案件を中国が諦めることはなさそうです。

****中国の一帯一路構想、縮小しても撤退せず****
新型コロナ下で後退した国外インフラ整備プロジェクト、立て直しに向かう見通し

中国が国外で進める巨大インフラ整備構想「一帯一路」は2010年代半ばから本格化したが、最近はやや絞り気味になっている。

だが、すべてを帳消しにするのは早計だ。当初の資金が多く投じられたアジアの一帯一路計画は、新型コロナウイルスのパンデミック(感染症の大流行)下で特に縮小が顕著だった。

しかし少なくとも外国直接投資でみた場合、ラテンアメリカではいまだ拡大を続けている。また、パキスタンのような問題のある地域でさえも、これまでの投資額を考えれば、中国政府が大規模プロジェクトを放棄することはないだろう。

パキスタンでは、中国が一帯一路の港湾整備計画を推進する港町グワダルで一連の政治的な頭痛の種が発生した。日経アジアの報道によれば、2022年後半に港湾周辺の警備や深海底引き網漁などの問題が住民の怒りを招いたことで港湾を封鎖する抗議行動が起き、12月末に警察の強制捜査が行われた。ここ数カ月はパキスタン在住の中国人が襲撃される事態が続いている。

パキスタンは中国同様にインドと対立してきた歴史があるため、中国にとっては政治的に取り組みやすい国のはずだった。だが、いまでは逆に一帯一路の広範な問題の象徴だ。

多くの低所得国は一帯一路の巨額プロジェクトに実行するだけの価値があるか疑問を持つようになっており、プロジェクトの結果抱える債務や地元で頻発する反対を警戒している。世界的な金利高や新興国通貨の下落、コロナ禍による経済損失で、一帯一路に対する懐疑論は高まっている。

M&A(合併・買収)情報サービスのマージャーマーケットと米エンタープライズ研究所のデータを分析したフランスの投資銀行ナティクシスによれば、一帯一路地域の国々に対する中国の融資と直接投資が近年急減したことは、驚くことではない。

急減は部分的には、中国を含むほとんどの国がコロナ下でそうしたように、中国の金融部門が世界から撤退したことを反映している。(中略)

中国は明らかに、最も注目度の高い未開発の国外インフラ整備プロジェクトに含まれるパキスタンのグワダルやスリランカのハンバントタ港でやけどを負っている。

すでに収益を生み出しているインフラ資産への直接投資は、不安定な地域で新規の巨大プロジェクトに融資する際の政治・財政的リスクを避けつつ地元政府の信用を得る一つのやり方になるかもしれない。

また、ラテンアメリカの豊富な農作物と鉱物資源は明確に中国政府の関心の的だ。中国政府は民主主義の先進諸国との関係が悪化する中、以前にも増して食料とサプライチェーン(供給網)の安全保障に固執しているように見える。

それでも、中国政府がグワダルのようなプロジェクトを放棄すると考えるのは恐らく現実的ではない。ワシントンのシンクタンク、ウィルソンセンターの南アジア研究所でディレクターを務めるマイケル・クゲルマン氏は、パキスタンでもその他の場所でも、中国は一帯一路を諦めようとはしていないと考えている。

クゲルマン氏はこうしたインフラと、他地域との連結度を高めるプロジェクトが中国の経済的利益にとって必要不可欠なものであり続け、またこの一部を軍事資産に変換する長期計画が中国政府にあるとすれば、戦略的利益にとっても重要なものであり続けると述べた。

だが、経済的な見返りと現地の人々とうまくやっていくことに焦点を当てた一帯一路計画のほうが、見識のあるものになりそうだ。【1月10日 WSJ】
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オーストラリア  中国との貿易戦争を経て、経済面で関係改善の動き 安全保障面では米欧基軸

2023-03-16 23:14:25 | オセアニア

(習近平国家主席は(2022年11月)15日午後、オーストラリアのアルバニージー首相とインドネシア・バリ島で会談した。【2022年11月16日 人民網日本語版】)

【豪中貿易戦争 「豪州は問題を起こす国だ。靴の裏にこびりついたチューインガムのようなものだ」】
中国との関係悪化が目立つカナダについて、3月8日ブログ“カナダ 中国の選挙介入疑惑で、冷え込んでいた中国との関係が更に悪化”で取り上げた際に、“一時期中国と険悪な関係に陥ったオーストラリアの方は、最近、オーストラリア・アルバニージー首相が訪中意欲を示すなど経済を中心に関係改善の兆しが見えています。”と触れたオーストラリアの話。

経済的には強いつながりがあるなかで、目に見えてオーストラリアと中国の関係が悪化したのは新型コロナが拡大した際に、オーストラリア保守党政権が中国発生源に関する独立した調査を求めたあたり。

****中国が豪州に「報復」連発…コロナ発生源の調査求められ、食肉輸入停止で対抗か****
新型コロナウイルスの感染拡大を巡り、独立機関による中国での調査を求めるオーストラリアが、中国の対抗措置とみられる動きに揺れている。豪州産の大麦に高関税が課される可能性が出ているのに加え、豪政府は(20年5月)12日、中国が豪州の食肉処理大手4社に対し、輸入停止措置を取ったと明らかにした。

◆輸出の35%
サイモン・バーミンガム豪貿易相は12日の記者会見で、中国による輸入停止は食肉表示に関する技術的問題への対応だと説明し、「(中国側の)許可を得るために力を尽くす」と述べた。豪州の牛肉輸出のうち中国向けが4分の1を占める。豪公共放送ABCによると、4社は牛肉の対中輸出の35%を手がけており、食肉業界団体幹部は「非常に深刻に受け止めている」と動揺を隠せない様子だ。

豪州では穀物生産者団体などが10日、豪州産の輸出大麦に中国が約80%の高関税を課す可能性があると明らかにしたばかりだ。(中略)
 
◆チューインガム
中国のこうした動きに関し、ABCなど豪州メディアは、豪政府が新型コロナの発生源や感染拡大に関し、中国・武漢の研究施設からの拡散の可能性を念頭に調査実施の必要性を訴えていることへの報復との見方を伝えている。

スコット・モリソン豪首相は4月23日、記者会見で発生源に関し「独立した調査が必要だ」と強調した。世界保健機関(WHO)加盟国の査察受け入れを義務付けるべきだとも主張している。

これに対し、中国外務省の耿爽グォンシュワン副報道局長は、「国際的な防疫協力を妨害するものだ」と強く反発した。中国紙・環球時報の胡錫進フーシジン編集長はSNSに、「豪州は問題を起こす国だ。靴の裏にこびりついたチューインガムのようなものだ」と書き込み、不満ぶりを強調した。
 
◆5Gでも対立
豪州は調査実施の姿勢を崩していないが、貿易を巡る中国の相次ぐ措置には不安を募らせている。最大貿易相手国の中国は、豪州の輸出入額の約4分の1を占めるからだ。モリソン氏は現状について、「両国にとって貿易は非常に重要で有益だ」などと述べるにとどめている。

豪中の間では近年、外交面での摩擦が頻発している。
次世代通信規格「5G」導入を巡っては、情報工作への懸念を深めた豪当局が中国企業を排除し、中国が不満を示した。

豪州と歴史的につながりが深い南太平洋の島嶼とうしょ国では、中国が巨額の財政支援を通じて影響力を拡大しており、豪州も経済協力の拡大で対抗しようとしている。【2020年5月13日 読売】
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中国の豪への輸入規制は、記事にある牛肉・大麦の他、石炭・綿花・ワインなど豪の輸出主要品目に及びました。

当時はアメリカ・トランプ大統領が過激な中国批判を行っていた時期で、豪政権はそれに沿っただけで、中国としてもさすがにアメリカとは事を構えられないので、代わりに豪を“いじめている”といった印象もありました。

【中国の豪政治への介入に対する批判も】
一方、こうした貿易戦争が繰り広げられているオーストラリア国内では、中国が豪政治に介入しようとしているという批判が強まり、国民世論・政界の対中国感情は更に悪化しました。

****総選挙にちらつく中国の影 オーストラリア国民の選択は****
オーストラリア総選挙は21日に投開票され、22日未明までに大勢が判明する見通し。豪州では近年、中国が選挙に介入しているとの情報が絶えず、豪州政府は外国人からの政治献金を禁止するなど海外からの政治介入を阻止する仕組みを作ってきた。だが今回の総選挙でも中国の影がちらつく。選挙戦では中国との向き合い方が争点の一つとなっている。

「中国共産党は労働党に投票しろと言っている」。最大都市シドニーなどでは、中国の習近平国家主席が野党・労働党に1票を投じる図柄にこんなスローガンを記したトラックが走っている。現地メディアによると、与党系の市民団体による労働党攻撃の一環という。

総選挙は、モリソン首相の率いる保守連合(自由党、国民党)が勝利するか、労働党による9年ぶりの政権交代となるかが焦点。労働党は与党時代の政策が中国に融和的だったとして「親中」批判を浴びがちだ。

2月には中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報(電子版)が「豪州国民はモリソンの言うことを信じなくなっている」と酷評し、労働党のアルバネージ党首を「光り輝いている」と絶賛する記事を掲載。与党による労働党攻撃の材料となっている。

モリソン政権は対中強硬姿勢を取り、2020年に新型コロナウイルスの発生源調査を求めたことで中国との関係が決定的に悪化した。日米印との安保協力の枠組み「クアッド」や米英との安保枠組み「AUKUS(オーカス)」を通じて米欧日との結束を強めている。選挙戦では中国の脅威を念頭に「労働党を選ぶのは安全保障上のリスクだ」と訴えている。

ただ、モリソン政権は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済の停滞などで支持率が低下しており、やや劣勢だと報じられている。(中略)

与党が「親中」攻撃をする背景には、国民の間に強まる中国への警戒感を刺激して、劣勢をはね返したい思惑がある。豪シンクタンク・ローウィー研究所の調査によると、豪州で「中国を経済パートナー」と考える人は18年に82%、「安全保障上の脅威」と見る人は12%だった。だが21年には経済パートナーと見る人が34%に下落する一方、安全保障上の脅威との見方が63%に上昇した。

(中略)豪州政界では中国の浸透工作をうかがわせる事件が相次いだ。16年、中国人実業家から資金援助を受けた労働党の国会議員が、南シナ海問題で中国を擁護する発言をしていたことが判明。これを受けて政府は18年、外国人からの政治献金を禁止した。19年の前回総選挙では、中国の情報機関から立候補を働き掛けられた自由党員の中国系男性が豪治安情報局(ASIO)に相談した後、死亡しているのが見つかった。(中略)

労働党は世論の動向も踏まえ、政権交代を果たしてもモリソン政権と同様に米欧基軸の外交政策を推進すると強調する。アルバネージ党首は「中国はより攻撃的になっている。豪州は同盟国などと協力して対応しなければいけない」と訴え、「親中」イメージを払拭(ふっしょく)しようと躍起になっている。(後略)【2022年5月21日 毎日】
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【経済面で豪中関係改善の動き アルバニージー首相は訪中の意欲も ただし、過度の中国依存は避ける構え】
上記総選挙の結果は労働党勝利で、アルバニージー氏が首相に。

安全保障面ではAUKUS・QUADなど中国包囲網的な米欧基軸の外交政策は今も続いていますが、経済的に重要な中国との関係について関係改善の動きが見られます。

“豪中首脳が短時間会話 ASEAN関連会議、3年ぶり”【2022年11月13日 産経】(アルバニージー首相と李克強首相)
“習近平国家主席がオーストラリアのアルバニージー首相と会談”【2022年11月16日 人民網日本語版】
“中豪外相会談で王毅外相「歴史的恨みや根本的利害対立はない」両国関係改善に意欲”【2022年12月21日 TBS NEWS DIG】

****豪の対中輸出に回復の兆し、外交関係の修復進む****
中国が課した「貿易障壁」で2年半にわたり低迷してきたオーストラリアの対中輸出に、回復の兆しが見え始めた。外交関係の修復で輸出復活への期待が高まり、関係の再構築に向けた企業の取り組みに拍車がかかっている。

中国とオーストラリアは、華為技術(ファーウェイ)による5世代(5G)移動通信網への参入制限、中国の情報機関によるオーストラリアでの工作疑惑、さらにはオーストラリア政府が新型コロナウイルスの発生源を巡り中国での国際調査を求めたことなどを巡って関係が悪化。中国は2020年から200億豪ドル(約140億米ドル)規模の貿易障壁を導入した。

しかし昨年11月以降、両国の首脳、外相、貿易相が相次いで会談するなど外交面で足並みをそろえた努力を進めたことで緊張緩和の兆候が表れ始めている。

オーストラリア産業界の首脳らはこうした政治的シグナルに注目している。資源大手フォーテスキュー・メタルズ創業者のアンドルー・フォレスト氏、同業BHPのマイク・ヘンリー最高経営責任者(CEO)、ワイン企業トレジャリー・ワイン・エステートのティム・フォードCEOはいずれも3月に訪中する予定だ。

豪林産品連合会(AFPA)のビクター・ビオランテ会長は、国内の農業関係者が最近、中国の税務当局と木材の輸入について「前向きな」協議を始めたと明かした。「(3カ月後か6カ月後の)近い将来、貿易が再開されるかもしれないと楽観視している」という。オーストラリア産木材の対中取引は以前、年6億豪ドルに上っていた。

貿易業者は既に緩和されている貿易障壁がさらに緩むと見込んでいる。先週にはオーストラリア産石炭を積んだ貨物船少なくとも15隻が中国に向かって航行、中国の綿花バイヤーも非公式な貿易規制の解除を当て込んでオーストラリア産綿花の輸入を進めている。

ただ、安全保障や人権などの問題を巡るめぐる対立から、貿易関係修復の道のりは紆余曲折が予想される。オーストラリアは3月、米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」に基づく原子力潜水艦の調達計画についてさらなる詳細を発表する予定で、中国政府はこうした動きに反対している。(中略)

貿易が再開されたとしても、オーストラリアの生産者の多くは中国に過度に依存した状態に戻るのは避ける構え。アルバニージー首相は来月、貿易相や資源相、大規模な企業代表団を引き連れてインドを訪問する。

カトル・オーストラリアのデービッド・フートCEO氏は、中国と切り離された生産業者は2年余りかけて新しい顧客を掘り起こしており、こうした顧客を手放すつもりはないと説明。こうした企業は「中国を再度取り込みたがるだろうが、新規顧客を失うことと引き替えにはしたくないだろう」と話した。【2月28日 ロイター】
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アルバニージー首相は訪中の意欲も示しています。

****豪首相、訪中に強い意欲 招待があれば「受け入れる」****
オーストラリアのアルバニージー首相は7日、関係が悪化していた中国から招待があれば「私は受け入れるだろう」と述べた。シドニーで記者団に語った。アルバニージー氏はこれまでも中国訪問の可能性に言及しているが、より踏み込んだ表現で、強い意欲を見せた形だ。

アルバニージー氏は「中国はわれわれの主要な貿易相手であり、国益にかなう」と語った。「協力できる分野では協力し、反対しなければならないところでは反対する」とも述べた。

日本や米国は、アルバニージー政権が中国に急接近することで、日米豪印の協力枠組み「クアッド」にほころびが出ないか注視している。【3月7日 共同】
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ただ、上記【ロイター】に“中国に過度に依存した状態に戻るのは避ける構え”とあるように、アルバニージー首相は、貿易・外国投資パートナーの多様化を目指す考えを表明し、新たな有望なパートナーであるインドを訪問しています。

****豪印、中国念頭に連携強化 首脳会談 安保や貿易など幅広く****
オーストラリアのアルバニージー首相は10日、訪問先のインドの首都ニューデリーでモディ首相と会談した。両首脳は安全保障や貿易など幅広い分野での連携強化で一致。両国は日米豪印の協力枠組み「クアッド」の一翼を担うが、中国を念頭に2国間関係も同時に強化していきたい考えだ。

アルバニージー氏のインド訪問は2022年5月の首相就任後初。会談後の会見で、アルバニージー氏は、安保面での連携で「重要かつ野心的」な進展があったと言及。経済面の関係緊密化でも合意し、両国間の包括的な自由貿易協定(FTA)の締結について年内に目途を付けたい考えを示した。

両国は対中関係がそれぞれ冷え込んでおり、連携の重要性が増している。20年には2国間関係を戦略パートナーシップから包括的戦略パートナーシップに格上げした。豪州紙オーストラリアン・フィナンシャルレビュー(AFR)は豪州にとりインドは「中国とは異なり、大きなプラスをもたらす」存在だと指摘した。

特に資源大国である豪州にとり、中国は大口の輸出先だが、外交関係悪化を受けて貿易の多様化を模索している。経済成長を遂げるインドは接近したい相手で、アルバニージー氏の訪印には財界関係者らも同行した。

AFRはウクライナ侵略をめぐるインドの対露融和姿勢など懸念材料もあるが、2国間関係は「今後も緊密化していくだろう」と予測している。【3月10日 産経】
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【安全保障面では米欧基軸の外交政策】
安全保障面では米欧基軸の外交政策が続いています。

“日米豪印、オーストラリアで海上共同演習へ 海洋安保の強化ねらう”【3月10日 日系メディア】

****米でAUKUS首脳会合 インド太平洋安定化へ結束 次世代攻撃型原潜を共同開発****
バイデン米大統領は13日、インド太平洋における米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」の首脳会合を西部サンディエゴで主催した。

3カ国首脳は中国の覇権的な海洋進出に対抗するため、2030年代前半までにオーストラリアが米原子力潜水艦を最大5隻購入することや、米英が共同で次世代攻撃型原潜「オーカス」を建造する計画を発表。バイデン政権は長期に及ぶ中国との競争を見据え、米国を中心とした民主主義陣営の抑止力強化に全力を挙げる構えだ。

会合にはバイデン氏、スナク英首相、アルバニージー豪首相が出席。バイデン氏は両首相とともに演説し、「オーカスの目的は世界情勢が急速に変化する中でインド太平洋の安定を維持することだ」と語り、今回の成果を域内外の同盟・パートナー諸国との連携強化につなげると強調した。

ホワイトハウスによると、今回合意した計画は複数のフェーズ(段階)に分けられる。第1フェーズでは今後の数年間で米英潜水艦による豪州への寄港実績を積み上げ、原潜の運用・建造に関連する豪州側への訓練を加速。早ければ27年にもインド太平洋を巡回する米英潜水艦のローテーション部隊を設置する。

第2フェーズの30年代前半には豪州が、通常動力型潜水艦の退役による戦力の穴を埋めるため米国からバージニア級攻撃型原潜3隻を調達。豪州はさらに2隻を追加購入することもできる。さらに第3フェーズでは英国の設計と米国の技術による次世代攻撃型原潜オーカスを開発し、英国で30年代後半に、豪州で40年代前半にそれぞれ建造する。

首脳会合が行われたサンディエゴは米太平洋艦隊の主要拠点。3カ国がインド太平洋への関与を強化することを内外に示す象徴的な意味合いがある。【3月14日 産経】
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中国はもちろん反発しています。
“中国、米英豪の原潜導入合意に警告 「誤った危険な道」”【3月14日 AFP】

この原潜開発参加にはオーストラリア国内でも批判が強いようです。労働党のキーティング元首相、自由党のターンブル元首相が批判を。

****豪元首相2人が原潜反対 AUKUS「最悪の合意」****
オーストラリアのキーティング元首相が15日、米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」に基づく原子力潜水艦の導入について、巨額の費用を理由に「歴史上最悪の合意だ」と批判した。

ターンブル元首相も16日、原子力産業のないオーストラリアには技術者が少なく「非常に大きなリスクを伴う」と反対した。

与野党の首相経験者による攻撃に国内で衝撃が広がっている。アルバニージー首相や閣僚は終日、釈明に追われた。

キーティング氏は1990年代に首相を務めた与党労働党の重鎮。15日に全国記者クラブで講演し、オーストラリアで広がる中国脅威論について「歪曲であり真実ではない」と主張した。

13日に米サンディエゴで行われた米英豪の3首脳による記者発表を「歌舞伎ショー」とやゆ。バイデン米大統領とスナク英首相がうれしそうにしていたのは、オーストラリアが最大3680億豪ドル(約32兆円)を「米英の軍事産業に支払うからだ」と皮肉った。【3月16日 共同】
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グローバルサウス  欧米や中ロとも距離を置く立ち位置とバランス感覚

2023-03-15 23:39:34 | 国際情勢

(1月、インド政府の呼びかけで「グローバル・サウス」のサミットがオンラインで開かれ、世界の国のおよそ3分の2にあたる125か国が参加しました。【1月30日 NHK「キャッチ!世界のトップニュース」】)

【中ロ・イランなどの強権国家と西側欧米諸国の対立】
ウクライナ戦争、米中対立、イラン問題、北朝鮮問題など現在の世界情勢を大きく見ると、中国とロシアを中心とし、イランや北朝鮮を含む強権国家と、それ以外のG7を中心とした国々、いわゆる「西側」が対立する構図になっています。

強権国家はもともとはそれほど強い結びつきはありませんが、それぞれ西側の圧力を受けるなかで、互いの結びつきを強めているように見えます。

最近の軍事演習にも、そうした構図が反映されています。

****海上自衛隊 インド洋で米・英・仏など8か国共同訓練****
海上自衛隊は、アメリカやフランスなど合わせて8か国による共同訓練をインド洋で行ったと発表しました。この地域で影響力を強める中国を念頭に多国間の連携をアピールする狙いがあるとみられます。

海上自衛隊によりますと、インド洋での共同訓練は、フランス海軍の主催で14日までの2日間行われ、アメリカとイギリス、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、インドも含め合わせて8か国が参加しました。

海上自衛隊からは護衛艦1隻が参加し、射撃訓練や、各国の艦艇と編隊を組んで航行する訓練などを行ったということです。

この共同訓練は、2019年からインド太平洋地域で行われていて、海上自衛隊は初回から参加していますが、8か国の参加はこれまでで最も多いということです。

海上自衛隊は「自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて連携を強化した」としていて、訓練にはこの地域で影響力を強める中国を念頭に、多国間の連携をアピールするねらいがあるとみられます。【3月15日 NHK】
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****中ロ・イランが海上軍事演習=オマーン湾で15〜19日****
中国国防省は15日、中国、ロシア、イランの海軍が同日から19日まで、イラン近海のオマーン湾で合同軍事演習を行うと発表した。対米で共闘する3カ国の軍事協力関係や、地域での中国の影響力拡大を誇示する狙いがあるとみられる。

中国は先週、イランとサウジアラビアの関係修復を仲介したばかりで、ロシアのウクライナ侵攻を巡っても和平交渉に関与する姿勢を示している。【3月15日 時事】
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中ロ・イランの枠組みでの演習は2019年、22年に続いて3回目となります。いずれもアメリカとの対立を抱える3カ国が安全保障面での連携を強めています。

また、イランは中ロが主導する上海協力機構(SCO)への加盟手続きを進め、中ロを含む新興5カ国(BRICS)への加盟も申請しています。

【対立を見守る「グローバルサウス」】
そして、上記の強権国家と西側欧米諸国の対立を見守っているのが「グローバルサウス」と称される国々です。
「グローバルサウス」は明確な定義はありませんが、アフリカ、インド、中南米など、主に南半球に位置する途上国・新興国を指す呼称です。

これまでも時折触れてきたように、ロシアの侵略への批判といった日本にとっては「当然」のように思える西側主張が、「グローバルサウス」の国々にも広く受け入れられている・・・という訳でもありません。
中国・ロシアと欧米諸国の間でグローバルサウスの国々を取り合っているのが現状とも言えます。

****G20の分断深刻化 外相会合、途上国は対露批判に同調鈍く****
(3月)2日に実質的な討議が行われた20カ国・地域(G20)外相会合は、ロシアのウクライナ侵略をめぐり、米欧とロシアの対立が改めて鮮明となった。

双方は批判を応酬した上で、侵略をめぐって対応が揺れるグローバルサウス(南半球を中心とする途上国)を取り込む動きを強化。議長国インドはG20の融和と団結を呼びかけたが、顕在化したのは深刻な分断だった。

「多国間主義は危機にひんしている。世界に深い溝がある時期にこの会合は開かれている」
インドのモディ首相は2日の会合冒頭、ビデオメッセージでこう参加国の亀裂に言及した。モディ氏はG20の連携を訴えた上で、途上国が食料・エネルギーの高騰や巨額の債務負担に直面している現状を踏まえ、参加国に「グローバルサウスの声に耳を傾ける」よう求めた。

インドは議長国として、外相会合が侵略をめぐる批判の応酬になることは避けたい考えがあった。だが、2月下旬のG20財務相・中央銀行総裁会議と同様、会合ではウクライナ情勢についての発言が相次ぐ展開となった。(中略)

欧米はロシアに経済制裁を発動しているが、グローバルサウスに同調の動きは鈍い。制裁参加に慎重なのは、ロシアや中国が米欧主導の国際秩序に対し「多極化」を唱え、接近してきたことも背景にある。

ブリンケン氏は「米国が(物価高など)世界的な課題に焦点を当て、主導的役割を果たすことに変わりはない」と述べ、グローバルサウスに寄り添う姿勢を示した。

一方、ロシアは今年のG20関連会合をウクライナ侵略の正当性のほか、欧米批判を発信する好機と捉える。対露融和姿勢を崩さないインドが議長国を務めるためだ。ラブロフ外相は2月28日にインド入りすると、国際的孤立を回避すべく、中国やインド、ブラジル、トルコ各外相と相次いで2国間会談を実施した。

在インド・ロシア大使館は会合前の声明で「米国とその同盟国による破壊的な政策は既に世界を大惨事の瀬戸際に追いやっている」と自説を展開。欧米が「低所得国の状況を悪化させている」と指摘し、こちらもグローバルサウスを取り込む姿勢を示した。

グローバルサウスを意識した動きは、秋に予定されているG20首脳会議でも展開されそうだ。

インド外務省幹部は「グローバルサウスの意見は多様だが、確かなのは冷戦期のような二極化を望んでいないことだ」と指摘。米欧やロシアが自陣営に取り込むことの困難さを指摘した。【3月2日 産経】
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【「グローバルサウス」の欧米への反感とバランス感覚】
西側欧米・日本などからすれば、自分たちは民主主義という「正義」を掲げているという意識がありますので、「グローバルサウス」の同調がなかなか得られないことには「どうして?」という感もあるでしょうが、「グローバルサウス」から見れば、西側欧米の「偽善」も感じられるというところです。

****誰もプーチンを擁護しないが、欧米諸国も支持しない──グローバルサウスが冷ややかに見て取る「偽善」と2つの溝****
<政府高官らの「表向きの楽観論」と「非公式の場での悲観論」のギャップ。もっと怖いのは、バイデン大統領の言葉がどんどん壮大になっていること>

毎年2月に世界各国の首脳が集まって、外交や安全保障を話し合うミュンヘン安全保障会議。今年の話題を独占したのは、当然、ウクライナ戦争だった。ただ、出席者の間には、2つの重要なギャップがあるように感じられた。

第1のギャップは、この戦争に関する幅広い認識や、好ましい対応策に関する欧米諸国とグローバルサウス(途上国の大半が位置する南半球)の見解の違いだ。

欧米諸国のリーダーたちはウクライナ戦争を、現代の世界でダントツに重要な地政学的問題と見なすきらいがある。アメリカのカマラ・ハリス副大統領は「世界の隅々にまで影響を及ぼす」問題だと語り、ドイツのアンナレーナ・ベアボック外相は、ロシアの完全な敗北と撤退以外の結果は「国際秩序と国際法の終焉」を意味すると主張した。

つまり、ウクライナ戦争には、法の支配や自由世界の未来が懸かっているというのだ。だから、ウクライナが迅速かつ断固たる勝利を収められるように、必要な武器や援助をいくらでも提供するべきだと、彼らは主張する。

だが、欧米諸国以外の世界の考えは違う。もちろん、ロシアのウクライナ侵攻や、ウラジーミル・プーチン大統領を擁護するリーダーはいなかった。だが、インドやブラジル、サウジアラビアをはじめとする「それ以外の国々」は、欧米主導の対ロシア制裁に参加していないし、この戦争をさほど終末論的に見ていない。

これはそんなに意外な反応ではない。彼らにしてみれば、法の支配や国際法の遵守を強いる欧米諸国の態度は偽善にほかならず、自分たちが道徳的優位にあるかのような押し付けに憤慨している。

そもそも、欧米諸国が遵守を強いる国際法は、欧米諸国が作ったものであり、都合が悪いときは平気で踏みにじってきた。2003年のアメリカのイラク侵攻がいい例だ。あのとき法の支配に基づく秩序はどこにあったのかと、欧米以外の国は考えているのだ。

クリミアより気候変動
グローバルサウスの国々は、ウクライナ戦争の行方が21世紀の世界を決定付けるという欧米の主張にも納得がいかない。彼らに言わせれば、クリミアやドンバスの運命よりも、自国の経済発展や気候変動、移民、テロ、中国やインドの台頭のほうが、よほど人類の未来に大きな影響を与える。

大体ウクライナ戦争は、食料価格の高騰などグローバルサウスに大打撃を与えており、勝利するまでウクライナに戦争を続けさせるよりも、早く戦争を終わらせることのほうが、これらの国々にとっては重要だ。

前述したように、だからといってグローバルサウスがロシアを支持しているわけではない。ただ、これらの国には独自の国益があり、彼らはそれを重視した政策を取りたい。これはウクライナ戦争があろうがなかろうが、欧米諸国とそれ以外の国々の間の溝は続くことを意味する。

ミュンヘンで気が付いたもう1つの大きなギャップは、ウクライナ戦争の行方について政府高官らが表向きに示す楽観論と、非公式な場で見せる悲観論の差だ。

ハリスやベアボック、アントニー・ブリンケン米国務長官らが登壇したメインイベントでは「西側」の結束や最終的な勝利など威勢のいい言葉が相次いだ。

ミュンヘン会議の直後に、ジョー・バイデン米大統領がウクライナを電撃訪問してウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会ったときもそうだった。まだ厳しい日々が続くだろうが、やがて手にする勝利に焦点が当てられていた。

だが、非公式の場で交わされた会話は、もっと暗いものだった。今後1年間、どんなに莫大な支援をウクライナに与えても、戦争が早く終わるとか、ロシアに奪われた領土(クリミアを含む)をウクライナが奪還できると語る人はいなかった(ただし筆者が出席した非公式ミーティングに、主要国のトップクラスの政府高官はいなかった)。(後略)【3月7日 Newsweek】
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一方で、グローバルサウスの国々も中国・ロシアを「支持」しているという訳でもなく、大国間の争いに巻き込まれるのを避け、自国にとって最大の利益を引き出そうとしていると言えます。

****グローバル・サウスのバランス感覚****
ウクライナ侵攻をめぐり、西側が対ロシア制裁を強化するなか、多くの途上国・新興国はこれと距離を置いているが、それは「ロシアを支持しているから」というより「大国同士の対決に巻き込まれたくないから」と言った方がよい。

同じことは中国に関してもいえる。
例えば、台湾海峡を挟んで米中の緊張が高まった昨年8月、アフリカ各国は共同で「台湾は中国の一部」であることに中国と合意したが、その一方で第2回「一帯一路」フォーラムに首脳クラスを派遣していたのは5カ国(ジブチ、エジプト、ケニア、モザンビーク、エチオピア)だけだった。これは大陸全体の10分の1程度だ。

つまり、「一帯一路」沿線国の多くは中国と主に経済面で付き合いを深め、自分たちにあまり関わりない中国の「死活的利益」(台湾や香港など)で共同歩調をとり、いわば恩を売る一方、それ以外の部分では深入りを避けているといえる。

だからこそ、政治的に中国と強い結びつきを持つ国のなかにも「一帯一路」フォーラムに首脳クラスが出席しない国は珍しくない(例えば南アフリカ、タンザニアなど)。そこには「踏み込みすぎれば中国に取り込まれる」という警戒感をうかがえる。【3月13日 Newsweek「「一帯一路」10周年なのに熱心に宣伝しない中国──求心力低下への警戒」】
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【「グローバルサウス」を取り込むうえでは「民主主義」をあまり前面に出さないほうが得策との指摘も】
当然ながら、「グローバルサウス」と言っても、詳しく観れば、個々の国ごとに異なる事情・立場があります。

インドはロシアとは、これまでの付き合いもあって制裁にも参加せず中立的な立場ですが、中国とは領土問題で死者もでる衝突が起きる関係です。
“インド政府、貿易決済に人民元を使わないよう要請=消息筋”【3月14日 ロイター】

そのため、安全保障では中国包囲網を形成しようとする欧米側と接近しています。
“豪印、中国念頭に連携強化 首脳会談 安保や貿易など幅広く”【3月10日 産経】

東南アジア諸国は南シナ海問題などで中国を警戒して、フィリピン・マルコス大統領のように、どちらかと言うと西側諸国寄りになっています。
“フィリピン、米日豪と防衛強化 南シナ海巡り中国との対立鮮明に”【3月8日 毎日】

こうした「グローバルサウス」諸国を取り込んで行くうえでは、あまり「民主主義」という価値観を前面に出さない方が得策・・・との指摘も。

****「ヨーロッパやグローバルサウスとどう連携するか」が今後の日本の課題****
(中略)
佐々木(ジャーナリストの佐々木俊尚氏))グローバルサウスをどう取り込むかというところで、慶応大学の細谷雄一さんが先日、東洋経済に記事を書かれています。岸田政権や林外相などは、これからの国際社会の在り方について、「法の支配による国際秩序」というような言葉を使っています。(中略)

バイデン大統領はそうではなく、民主主義を理念にあげている。ところが日本は民主主義と言わずに「法の支配」と言っています。なぜかと言うと、民主主義と言ってしまえば、アジア・アフリカの民主主義ではない国を除外してしまうからです。(中略)

(ベトナムやシンガポールなどは)独裁だと言われていますから、強権国家の1つであると。アフリカもそうではない国がたくさんあります。だからあまり民主主義を中心にしてしまうと、分断を逆に広げてしまう。【3月15日 ニッポン放送 NEWS ONLINE】
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まあ、仲間を増やすという点では価値観は曖昧にした方がいいのでしょうが、ただ、「民主主義ではない国」の現状を座視・放置するのかという問題も。

安全保障的には、民主主義云々より「仲間を増やす」方が優先するのでしょう。
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トルコ  5月14日に大統領選挙 震災「人災」批判もあってエルドアン大統領は厳しい戦い

2023-03-14 23:32:10 | 中東情勢

(6日、大統領候補に決まって演説するクルチダルオール氏(アンカラ)=ロイター【3月7日 日経】)

【野党統一候補に最大野党党首のクルチダルオール氏】
5月14日に予定されているトルコ大統領選挙については、1月28日ブログ“トルコ 5月14日に大統領・議会選挙を前倒し実施 内政・外交、全ては選挙に向けて・・・”でも取り上げたように、野党側の有力候補の一人、最大都市・イスタンブールのイマモール市長が公務員を侮辱した罪で禁錮刑と政治活動禁止の判決を言い渡されたことで、野党陣営は野党統一候補の選定で混迷していました。

一時は、最大野党である中道左派・共和人民党(CHP)のケマル・クルチダルオール党首を統一候補とすることに右派・民族主義政党が反発し、野党連合が分裂する状況にもなりました。

****トルコ野党連合が分裂、大統領選の統一候補擁立巡り対立****
トルコの右派政党、民族主義の優良党(IYI)が3日、6党で構成されていた野党連合を離脱した。5月14日に実施される大統領選に向け、エルドアン大統領に対抗する統一候補の擁立を巡って意見が対立した。

IYIのメラル・アクシェネル党首は、他の5政党が提案した、共和人民党(CHP)のケマル・クルチダルオール党首を統一候補とする案は受け入れられないと表明。CHPに所属するイスタンブール市長とアンカラ市長を候補者として提案していた。【3月4日 ロイター】
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6党連合といっても、CHPの支持率が約20%、優良党が10%強で、ほか4党の支持率は合計で1〜2%ということですから、優良党(IYI)が抜けたら野党連合は完全崩壊です。

ただ、不当弾圧で人気が高まっているイスタンブールのイマモール市長は選挙直前または最中にに有罪となる可能性があり、そうなると当選無効になります。
アンカラ市長のヤワシュ氏はクルド人有権者の支持が多くは見込めない欠点があるようです。

といったこともあって、結局優良党(IYI)も最大野党の共和人民党(CHP)クルチダルオール党首を野党統一候補にすることに同意したようです。

****統一候補にクルチダルオール氏=野党、現職と一騎打ちへ―トルコ大統領選****
トルコの中道左派、共和人民党(CHP)など野党6党は6日、5月14日の投票実施が見込まれる大統領選で、CHPのケマル・クルチダルオール党首(74)を統一候補として擁立することを決めた。首都アンカラで行った6党での会合の後、発表した。

選挙は続投を目指すレジェプ・タイップ・エルドアン大統領(69)との事実上の一騎打ちとなる公算が大きい。

クルチダルオール氏は決定を受け、エルドアン氏の強権への傾斜を念頭に「(トルコ国民に対する)抑圧に終止符を打ち、権利を拡大させる」と表明した。【3月7日 時事】 
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【エルドアン大統領は苦しい戦いか 経済失政に加えて震災の「人災」批判】
野党側は選挙戦に向けて陣容が整いましたが、エルドアン大統領の方は、以前から物価上昇・経済悪化で国民支持が低迷していたところに2月6日の大地震・・・ということで苦しい展開です。

大地震に関して救助・救援の初動が鈍かった云々の批判は、混乱状態でのことですから、どこの国でも、どんな政権でもあることでしょう。

しかし、日本並みの厳しい耐震基準があるにもかかわらず、実際にはそれが守られず、多くの建物が倒壊したことで、エルドアン大統領の失政が招いた「人災」との批判が強くあります。

****耐震基準は“骨抜き” トルコ大地震「人災」招いたエルドアン政権の腐敗****
2月6日に発生したトルコ大地震で、建物が大規模に倒壊し、街全体が消失したかのような情景は日本でも繰り返し報じられた。

トルコのエルドアン大統領は2月20日、地震によって約11万8000棟の建物が、倒壊したか、緊急に取り壊しが必要になったか、あるいは深刻な害を被ったと述べた。死者数はトルコだけで4万3000人を超えている。建物の大規模な倒壊が死者数を増大させた一因であるのは明らかだ。

エルドアン政権と建設業者の癒着
では、なぜこれほど大規模に建物が倒壊したのか。その原因として、エルドアン政権と建設業者の癒着を指摘する声は多い。

建設業界はエルドアン氏にとって重要な支持基盤だ。折しもエルドアン氏が政権を握って以来、長らくトルコでは建設ブームが続いてきた。

エルドアン氏は公正な入札を経ず、「お仲間」の建設業者にインフラ事業を発注し、手抜き工事で安全基準を満たしていない建物に対しても、一定の金額を国に納めることで行政処分を見送る措置を続けてきた。

BBCはこの行政処分免除について、1960年代から続いており、今回の地震の被災地でも7万5000棟の建物にこの処分免除が与えられていたと報じている。

トルコは地震の多い国であり、1998年には近代的な耐震基準も制定され、翌99年には施行された。しかしそれは実際には徹底されず、骨抜きにされてきたわけだ。

エルドアン氏がスピードとコストを優先する建設業界に対して行政処分免除を与え、それと引き換えに業界からの支持をかためてきたことは、前回の大統領選が行われた2018年に全国で700万件以上の免除申請があったことからも裏付けられる。エルドアン政権の腐敗が今回の「人災」を招いたと批判される所以だ。

一方エルドアン氏は、倒壊した建物は近代的な耐震基準が施行される以前に建てられたものだとして政権に対する批判を退け、建設請負業者ら100人以上に逮捕状を出し、すでに10人以上を拘束している。

加えて、被災者に対し20万戸の住宅を建設すると約束し、それらを断層から離れた頑丈な地盤の上に建設すること、高層にはせず高くても3〜4階建てにすること、「正しい方法」で建設することなどを明言した。

エルドアン氏は、「テントやコンテナで生活している人々は1年以内に頑丈で安全かつ快適な家に住み始める」とも述べている。

今回の建物倒壊の全責任を業者に負わせ、自身は「被災したかわいそうな国民を迅速に救済するヒーロー」の座に収まるつもりらしい。

繰り返される人災
エルドアン政権と癒着した「お仲間」業者の手抜きのせいで、国民の命が失われたり生活に大きな支障が出たりしたのは、今回の地震が初めてではない。

2020年に西部イズミル県沖で大地震が発生した際には、214棟の建物が倒壊したり、深刻な被害を受けたりし、114人が死亡した。BBCはこの地震後、同県では67万2000棟が直近の行政処分免除の恩恵を受けていたと報じている。
にもかかわらずエルドアン政権は、今回の地震発生の直前にも新たな行政処分免除法案を検討していた。

2021年にトルコ南部で山火事が発生し、少なくとも9人が死亡、数千人が避難を余儀なくされた際には、「お仲間」建設業者が環境に配慮していなかったことや、政権が空中消火機を保有していなかったなどが批判された。

今回のエルドアン氏の約束も、一時的に批判を免れ、選挙で勝ち抜けるための方便にすぎない可能性は排除できない。少なくとも彼が、権力の座を明け渡す気配は微塵もない。【3月1日 FNNプライムオンライン】
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エルドアン政権は、被災者への現金給付などで被災者に「寄り添う」姿勢をアピールしています。

****トルコ急ぐ生活支援、現金給付も 大地震1カ月、シリアは支援遅れ****
トルコ・シリア大地震は6日で発生から1カ月が過ぎた。トルコ政府は現金支給などの生活支援策を急ぎ、エルドアン大統領は被災者に「寄り添う」と強調する。国民が長引くインフレに疲弊する中、支援が十分に行き届くかどうか先行きは不透明だ。

両国の犠牲者は5万2千人を超えた。隣国シリアでは内戦の影響で国際支援の遅れが目立つ。窮状は深まる一方で、被災者向けのテントが届いていない人々もいる。

トルコ政府は被災家族に1万トルコリラ(約7万2千円)の現金支給を決め、これまで106万世帯に給付。被災地から転居した家族には1万5千リラを支援する。【3月6日 共同】
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物価高が進むトルコで“1万トルコリラ(約7万2千円)”がどれだけのバラマキ効果を生むのか?

エルドアン大統領に“権力の座を明け渡す気配は微塵もない”のは間違いありませんが、かねてからの経済失政に加えて、上記のような「人災」批判・・・震災復興のバラマキをやったとしても“選挙で勝ち抜ける”のはかなり厳しい状況です。

****経済に影響必至、大統領再選に強まる逆風 トルコ地震1か月****
トルコ・シリア大地震で大きな被害が出たのを受け、トルコ国内でエルドアン大統領に対する批判が高まっている。被災地の再建には膨大な費用が見込まれ、経済低迷に悩む国民の暮らしを圧迫する公算が大きいからだ。(中略)

捜査当局は、2月6日の地震で多数の建物が倒壊したのは建築基準を守らず手抜き工事が行われたのが原因だとして、これまでに建設業者約250人を逮捕した。エルドアン氏は「不正を行った者に法の裁きを受けさせることが政府の義務だ」とし、厳罰で臨む姿勢を強調している。トルコ国内では地震で約4万6千人の死亡が確認された。

一方、政府が必要な措置を怠ったとの見方も根強い。トルコでは北西部で1999年に起きた地震で1万7千人以上が死亡し、建築基準が厳格化されたが、政府は金を払えば耐震補強の追加工事義務が緩和される〝抜け穴〟も設けた。欧米メディアによると、「地震税」と称する特別税で少なくとも30億ドル(約4千億円)を徴収したが、どう使われたかも不透明だ。

大きな被害が出て住民の姿が激減した南部イスケンデルンの車販売業の男性(60)は「友人夫妻が地震で負傷し、搬送先で亡くなった。エルドアン氏は被災者の救助に全力を注がなかった。住民が街からいなくなり、商売もできない」と怒りをぶちまけた。

被災地からは210万人が避難したとされ、最大都市イスタンブールにも大量の避難民が流入した。同市の会社員、エネスさん(27)は「地震で人口が増大して家賃はさらに上がり、就職も厳しくなるだろう。耐震基準を守って建物が建てられたか分からず、地震も怖い。最近のエルドアン氏の政治は国民のためになっていない」と不満をあらわにした。

2003年に首相に就任したエルドアン氏は14年の大統領選で勝利。憲法改正で実権が首相から大統領に移行された後の18年の選挙でも当選し、大きな権力を持つ大統領となった。しかし、近年は新型コロナウイルスの感染拡大に加え、景気浮揚重視の低金利政策で急激なインフレを招いた。

エルドアン氏は1日、被災地の復興が見通せないなかで大統領選を予定通り5月14日に実施すると表明した。「1年以内に被災地を再建して住民の元に返す」とも訴え、再建に向けた建設の入札も近く始まる見通しだ。専門家からは「拙速な建物の再建より都市計画の策定が先だ」との指摘も聞かれる。

トルコの政治評論家、クルカナト氏は産経新聞の取材に電子メールで回答し、「地震は(政府の)腐敗や無能力ぶりを明らかにした。選挙でエルドアン政権に対する批判となって現れるだろう。すでに経済低迷で大きく支持を落としてもいる」との見方を示した。

主要野党6党は6日、最大野党の共和人民党(CHP)のクルチダルオール党首を大統領選の統一候補として擁立すると決定。エルドアン陣営との間で激しい論戦が展開されそうだ。【3月7日 産経】
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こうした不利な状況でも“大統領選を予定通り5月14日に実施する”というエルドアン大統領の考えはよくわかりません。(未曽有の災害を理由に選挙の延期もできないことはないでしょう)

もともと選挙は当初6月18日に行われる予定でしたが、エルドアン大統領が5月14日に前倒した経緯があります。

選挙結果に自信を持っているのでしょうか?
生活に苦しむ国民の声、震災の「人災」批判が届いていないのでしょうか? だとしたら、“まずい”状況です。

あるいは、選挙までに起死回生の外交・軍事サプライズに出るのか?

****トルコ大統領選、野党候補が現職を10ポイント超リード=世論調査****
新たに発表された各世論調査によると、5月14日実施のトルコ大統領選で、野党候補のケマル・クルチダルオール氏が現職のタイイップ・エルドアン氏に10%ポイント以上の差をつけてリードしている。

同時に実施される議会選を巡っても、「国民連合」と呼ばれる野党ブロックが、エルドアン大統領の公正発展党(AKP)とその連合相手に少なくとも6ポイント差をつけてリードしている。

エルドアン氏は生活費危機で人気が低下。また、先月の大地震を受けてAKPの地盤も揺らいでいる。

アクソイ・リサーチが11日発表した世論調査(8日実施)では、6日に野党統一候補として擁立が決まったクルチダルオール氏の支持率が55.6%と、エルドアン氏の44.4%を上回っている。

また、野党勢力の支持率は44.1%。与党連合は38.2%となっている。【3月14日 ロイター】
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良くも悪くも個性的で目立つ存在だった(ときにスタンドプレー的に)エルドアン大統領が敗退すれば、中東情勢の大きな変化要因ともなります。

中東だけでなく、同氏に振り回されてきた感もあるアメリカとか、トルコにNATO加盟を阻まれているスウェーデンなども選挙結果に注目しているでしょう。

もっとも、(随分と先走った話にもなりますが)クルチダルオール氏が勝っても、中道左派・共和人民党(CHP)と右派・民族主義の優良党(IYI)では肌合いが違いそう。どこまで連合が続くのか・・・・・イスラエルの「反ネタニヤフ連合」みたいな感じも。 

CHPとIYIの連合が混乱するときクルド系は?・・・といった話は「先のまた先」の話。

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ジョージアとモルドバ  旧ソ連構成国で親ロシア派支配地域を抱え、ロシア・欧米の対立の最前線に

2023-03-13 22:33:43 | 欧州情勢

(ジョージアの旗とともに、ウクライナやEUの旗を掲げるデモ参加者=8日、ジョージアの首都トビリシ【3月9日 CNN】)

【ジョージア 与党が進めるロシアの外国代理人法に似た法案に抗議デモ ロシアはデモの背後に「他国」がいると非難】
旧ソ連のジョージア(旧国名はグルジア)は、南コーカサスにある共和制国家で、北はロシアに接し、西は黒海に面しています。国内に一方的に分離独立を宣言している親ロシア派支配地域「南オセチア共和国」と「アブハジア共和国」が存在しています。

この国が世界の注目を集めたのは、ミハイル・サーカシビリ元大統領のもとで、2008年に南オセチアに侵攻し、これに対抗するロシアとの間で戦争が起きたことですが、戦いはロシア側の圧勝に終わっています。

その後、サーカシビリ元大統領率いる「統一国民運動」に代わって政治を担っている政党が「ジョージアの夢」です。

****グルジアの夢=民主グルジア(ジョージアの夢)*****
2012年4月19日、実業家出身の政治家ビジナ・イヴァニシヴィリにより設立された。(中略)

政党連合「グルジアの夢」の中心政党として南オセチア紛争を引き起こしたミヘイル・サアカシュヴィリの統一国民運動を破り、長らく与党の地位にあった同党を追い落として政権交代を達成した。

EU加盟を目指す親欧米路線でありながらも、ウクライナ侵略後のロシアに融和的な政党である。(中略)

イヴァニシヴィリのグルジアの夢(民主グルジア)を中心としたグルジアの夢連合は、初めは彩なイデオロギー志向を持つ6つの政党により構成された。この中には、市場主義的かつ親西側的なリベラルや、外国人嫌悪を掲げる過激なナショナリスト、2003年バラ革命で失脚したかつてのシェワルナゼ政権の代表者たちを含んでいた。(後略)【ウィキペディア】
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「EU加盟を目指す親欧米路線でありながらも、ウクライナ侵略後のロシアに融和的な政党」ということで、その性格は曖昧なところがありますが、“ロシアの息がかかっており、実のところジョージアのEU加盟を阻止しようとしている”と見る向きもあるようです。

そのジョージアで政権・与党が、欧米勢力の影響を警戒するロシアの法律とよく似た“外国から資金を受けた団体を規制する法案”の成立を強行しようとして、大規模な反対デモに直面しました。

****ジョージアで大規模デモ、一部が暴徒化 「外国工作員」法案巡り****
旧ソ連の構成国だったロシアの隣国ジョージアで7日、外国から資金を受けた団体を規制する法案が議会の第1段階審議で可決されたことに対し、数千人規模のデモが行われた。参加者は警察に火炎瓶や石を投げつけるなど暴徒化し、警察は催涙ガスなどで鎮圧に乗り出す事態となっている。

この法案は外国から20%以上の資金拠出を受けた団体に「外国エージェント」としての登録を義務付けるなどの内容。違反した場合は多額の罰金が科される。

反対派は、この法案が2012年にロシアで制定され言論弾圧に使用された法律に類似していると批判。将来的な目標である欧州連合(EU)加盟が遠のくと懸念している。

一方、ズラビシビリ大統領は、この法案が議会を通過した場合は拒否権を行使する方針を表明。反対派の味方だと述べた。【3月8日 ロイター】
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結局、政権・与党側は激しい反対デモに抗しきれず、法案を撤回すると発表するに至っています。法案は議会で廃案となっています。

****ジョージア与党、「外国人代理人」法案を撤回 抗議デモ受け****
旧ソ連構成国ジョージアの与党は9日、2日間にわたる激しい抗議デモを引き起こした「外国の代理人」に関する法案を撤回すると発表した。

与党「ジョージアの夢」は声明で、社会における「対立」を緩和する必要があるとして、同法案を無条件で取り下げると表明した。その一方で、「過激な野党」が法案について「うそ」を広めたと非難した。(中略)

欧州連合(EU)の代表団は法案の撤回を歓迎し「ジョージアの全ての政治指導者が包括的かつ建設的な方法で親EU路線の改革を再開するよう働きかける」とツイッターに投稿した。

ジョージア議会は7日に法案可決の第1段階のプロセスを終えたが、反発する多数の市民が議会の外に集まり一部が警察と激しく衝突した。治安当局によると77人が拘束された。【3月9日 ロイター】
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法案を潰した反対デモについて、ロシアは“「ロシア国境で問題を起こす」ために「国外から仕組まれたものなのは間違いない」”(ラブロフ外相)と、ウクライナ・欧米側の画策・扇動を批判しています。

****ロシア外相、ジョージアの大規模デモ「他国の仕業」****
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は10日、ジョージアの大規模デモについて、ロシアとの国境で緊張を高めるために他国が扇動していると非難した。

ラブロフ氏は、ジョージアのデモが2014年にウクライナの親ロシア派政権の崩壊を招いた「マイダン革命」に類似しているとし、「ロシア国境で問題を起こす」ために「国外から仕組まれたものなのは間違いない」と主張した。

ジョージアでは今週、外国とつながりのあるメディアなどに登録義務を課す「外国のエージェント(代理人)」法案をめぐり、同様の法律がロシアで反体制派の取り締まりに利用されているとして、首都トビリシの議会の外で大規模な抗議活動が行われた。与党は9日、法案を取り下げた。【3月11日 AFP】
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法案を廃案に追い込んだデモは、ジョージアの民主主義の空洞化、与党「ジョージアの夢」によるロシア的統治を危惧する国民の声でした。(与党側にちらつくロシアの影と同様に、デモへの「他国」の支援は“あり得る話”でしょう)

****デモ隊に放水銃の攻撃、ジョージア「ロシアそっくり法案」はなぜ今だったのか****
<NGO弾圧法案が議会に提出され、市民が大規模デモで抗議。法案は取り下げられたが、国民の大多数がEU・NATO加盟を求めるこの国で、民主主義の空洞化が進んでいる>

(中略)焦点になっていたのは、活動資金の20%以上を外国から得ている団体を「外国の代理人」として登録することを義務付ける法案だ。

10年前にロシアでそっくりの法律が導入され、NGOや独立系メディアの弾圧に使われた。それが7日、ジョージア議会でも審議が進んだ(編集部注:その後9日に取り下げられた)。

かつてソ連の一部だったジョージアは、ロシアと国境を接しながらも、一時は強力な親欧米路線を取っていた。ところが近年の政治には、ロシアの影がちらつく。

それでも国民の大多数はEU・NATO加盟を希望している。最近の世論調査では、EU加盟支持が75%、NATO加盟支持が69%に達した。

それだけに一般市民の間では、ロシアに対する警戒感が強い。2012年にロシアで外国代理人法が施行されたときは、多くの市民団体が活動休止に追い込まれた。
2021年には、ロシアの人権団体メモリアルが最高裁から解散命令を受けた(メモリアルは2022年にノーベル平和賞を受賞)。

ジョージアでも同じことが起こるのではという危機感が、トビリシでの大規模デモにつながった。

「(外国代理人法を)葬り去るために、社会全体が結束した。皆ロシアで起きたことを知っているからだ」と、トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)ジョージアのエグゼクティブディレクターを務めるエカ・ギガウリは語る。「ウクライナでは戦争が起きているが、ジョージアでもロシア的統治との戦いが起きている」

ちらつくロシアの影
近年、ジョージアの民主主義は、空洞化が目立つようになった。国家権力の抑制と均衡が乏しくなり、与党「ジョージアの夢」が異例の存在感を示すようになった。

その設立者である大富豪ビジナ・イワニシビリは現在、公職には就いていないが、舞台裏から政府に大きな影響を及ぼしていると広くみられている。

そんななかで外国代理人法が採択されれば、ジョージアの民主主義は大きく後退していただろう。当局は、市民団体や独立系メディアに嫌がらせをしたり、ひょっとすると黙らせたりする強力な権限を手にすることになるからだ。

ジョージア政府は既に、ミハイル・サーカシビリ元大統領の扱いをめぐり国際的な批判を浴びている。サーカシビリは2003年のバラ革命で強権体制を倒し、強力な親欧米・反ロシア路線を主導したが、在任中の権力乱用を理由に禁錮6年の判決を受けた。

ところが、サーカシビリは収監中に体調を大きく崩し、国際人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチとアムネスティ・インターナショナルは今年3月2日、治療目的の釈放をジョージア政府に訴えた。さもないとサーカシビリは、「死亡、生涯にわたる障害、または心身に取り返しのつかないダメージを受ける重大なリスク」があるという。

一方、政府寄りのメディアでは、数カ月前から複数のNGOの活動を攻撃する記事が目立つようになっていた。こうしたNGOは欧米の政府から多額の支援を受けており、ジョージアの国益を傷つける活動をしているというのだ。

「政府はわれわれのイメージを失墜させたと確信したところで、(外国代理人法案を)押し通そうとした」と、選挙監視団体「公正な選挙と民主主義のための国際社会(ISFED)」のエグゼクティブディレクターを務めるニーノ・ドリゼは指摘する。
これに対して、ジョージアの夢のイラクリ・コバヒゼ党首は、「(外国代理人法案は)ロシアと同じ法律だというキャンペーンがあるが、これは嘘だ。また、法案が通れば、ジョージアがEU加盟から遠ざかるという声もあるが、これも嘘だ」と主張する。

外国のスパイと同義語
(中略)この法案が提出されたタイミングについては、いくつかの解釈がある。
ISFEDのドリゼは、ジョージアの夢が権力基盤を固め、反対意見を抹殺しようとしている可能性を指摘する。ジョージアでは来年の議会選挙で、比例代表制が導入される。そうなれば、いずれかの党が単独過半数を獲得するのは難しくなる。

一方、ジョージアの夢は、ロシアの息がかかっており、実のところジョージアのEU加盟を阻止しようとしているのではないかと、TIジョージアのギガウリは推定する(同党は表向きはEU加盟推進を掲げている)。

EUは2022年、ウクライナとモルドバについては加盟候補国の地位を与えたが、ジョージアは法の支配やメディアの独立、司法の独立についてさらなる改革が必要だとして、認定を見送った。

今回の法案についても、EUの外相に当たるジョセップ・ボレル上級代表は7日、「EUの価値観や基準と相いれない」と改めて強調した。米国務省のネッド・プライス報道官も、言論の自由と民主主義にダメージを与える恐れがあるとの見方を示していた。

ジョージアの市民団体のリーダーたちも同じ考えだ。
「この国と、この国の民主主義の質が懸かっている」とギガウリは語る。「この国の今後の行方にも影響を与える。現時点で、正しい方向に向かっていないことは確かだ」【3月13日 Newsweek】
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【モルドバ 親ロシア派によるインフレ抗議デモ アメリカはロシアによる政権転覆計画と非難】
一方、ジョージア同様に旧ソ連構成国で、やはり国内に親ロシア派支配地域「沿ドニエストル共和国」を抱えるモルドバでも混乱が起きています。ただし、モルドバでの反政府デモを行っているのは親ロシア派です。

現モルドバ政権は反ロシア・親欧米的な政権ですが、ウクライナ戦争ではロシアがウクライナを攻撃するミサイルが領空を通過する状況にもあります。

反政府デモに先だって、ロシアは西側が親ロシア派支配地域に駐留するロシアの「平和維持軍」への攻撃を画策していると批判していました。

****ロシア、西側に警告 モルドバ親ロ地域への脅威「ロシアへの攻撃」****
ロシア外務省は24日、モルドバ東部の親ロシア派支配地域に駐留するロシアの「平和維持軍」に対するいかなる脅威的な行動もロシアへの攻撃と見なすと西側諸国に警告した。

旧ソ連構成国モルドバは東部にロシアが軍を駐留させる沿ドニエストルを抱えており、ロシア国防省は23日、ウクライナが偽旗作戦を展開して沿ドニエストルに侵攻する計画だと非難。モルドバ政府はこれを否定し、国民に平静を呼びかけている。

ロシア外務省は「米国、および北大西洋条約機構(NATO)加盟国とウクライナを保護する国に対し、さらなる無謀な行動を取らないよう警告する」とし、「彼らの安全を脅かすいかなる行動も、国際法上、ロシア連邦への攻撃と見なされる」とした。

ロシアがウクライナに対する全面侵攻を開始してからこの日で1年が経過。ウクライナのゼレンスキー大統領は先週、ロシアが標的にするのはウクライナだけでないのは「明白」だとし、ロシアはモルドバを「圧迫」する方策を検討していると述べている。【2月25日 ロイター】
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****ロシア、モルドバでウクライナが「挑発」と主張…「駐留兵士に危害なら対応」****
(中略)モルドバ、ウクライナ両政府は、露軍の発表について、全面的に否定している。

プーチン露大統領は21日、「沿ドニエストル共和国」を巡る問題解決で、モルドバの主権と領土保全を尊重することを明記した2012年の外交政策に関する大統領令を破棄した。

ロシアは昨年2月のウクライナ侵略前、東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)のロシア系住民にウクライナ軍が攻撃したと見せかける挑発行為を繰り返し、侵略開始の口実にした。モルドバに対しても、同様の挑発を繰り返していると懸念する声もある。【2月25日 読売】
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その後、親ロシア派政党によるデモも。
こうしたロシアが仕掛ける動きについて、「モルドバを直接軍事攻撃するのはハードルが高い。情報戦などを積極的に行っているだろう」(筑波大の東野篤子教授)、「(併合された)クリミアを想起させる。(ロシアが)資金面などで関わっている可能性が極めて高い」(慶応大の廣瀬陽子教授)との見方も。【3月4日 読売より】

親ロシア派によるデモは、表面上はインフレ対策を求める抗議という体裁をとっています。インフレで市民生活が苦しくなっているのは事実です。

****モルドバで反政府デモ 50人超拘束 ロシア関与との情報****
ウクライナに隣接する東欧の旧ソ連構成国、モルドバの首都キシナウで12日、高騰している光熱費の支払いを政府が補償することを求める4500人規模の反政府デモが起き、デモ隊の一部が警官隊と衝突した。

ロイター通信によると、警察当局はデモ隊50人以上を拘束。モルドバ政府高官のスピヌ氏は「これは抗議デモではなく、政情を不安定化させようとするロシアの試みだ」と非難した。

ロイター通信やタス通信によると、デモはモルドバの野党勢力が11日までに呼び掛けていた。デモに先立ち、同国警察当局は「露諜報機関が工作員をデモ隊に紛れ込ませ、デモを過激化させようとしている情報がある」とし、工作員7人を拘束したと発表していた。

デモ隊は12日中に解散を発表したが、政府に13日中にも光熱費の補償を約束するよう要求。政府が拒否した場合、再び混乱が起きる可能性がある。

モルドバでは2020年、親露派のドドン前大統領から親欧米派のサンドゥ大統領に政権交代。ただ、国内に親露分離派地域「沿ドニエストル」を抱えるほか、同国議会内外にも親露派勢力が存在し、ロシアと連携してサンドゥ政権の打倒を狙っているとされる。

ロシアによるウクライナ侵略の開始後、モルドバでは世界的なエネルギー高に伴う光熱費の上昇やインフレの加速で国民の反発が強まり、デモが頻発。今年2月、サンドゥ政権は国民の不満解消を図るため内閣を刷新していた。【3月13日 産経】
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ジョージアではデモの背後に「他国」がいるとロシアが欧米を非難していますが、モルドバでは「ロシアはモルドバ政府を弱体化させようとしている」とアメリカがロシアを非難しています。

****米高官 ロシアがモルドバ政権転覆を計画と非難****
アメリカ・ホワイトハウスの高官は10日、ロシアがウクライナの隣にあるモルドバの政情を不安定化させようとしていると非難しました。

ウクライナの西隣にあるモルドバには、親ロシア派が支配する地域があるほか、先月にはモルドバ国防省がロシアのミサイルが領空を通過したと発表するなど、ロシアとの緊張が高まっています。

ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は、「ロシアはモルドバ政府を弱体化させようとしていて、最終的には親ロシアの政権を作ろうとしていると考えられる」と指摘。

ロシアの情報機関とつながりのあるロシア関係者が、モルドバ政府への抗議活動を利用し、反乱を作り上げようとしていると明らかにしました。

さらに、別のロシア関係者らが、意図的に抗議活動を起こす訓練を行うことも予想されるとしています。

一方、モルドバのサンドゥ大統領が「差し迫った軍事的な脅威はない」としていることについては、アメリカも同意するとしています。

カービー調整官はその上で、モルドバに3億ドルのエネルギー関連支援を行い、今後も情報共有など支援を続けると明らかにしました。【3月11日 日テレNEWS】
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ウクライナ戦争によるロシアと欧米の対立の影響が、親ロシア派支配地域を抱えるもともと不安定な政治状況のジョージアとモルドバに及び、両国ともに揺れ動いています。
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ソマリアなど東アフリカ  13万人近くが深刻な飢餓状態にあり、死に直面

2023-03-12 23:19:14 | 食糧・飢餓

(世界の食危料機はアフリカに集中しています【2022年12月21日 日本赤十字社】)

【「アフリカの角」 13万人近くが深刻な飢餓状態にあり、死に直面】
自分を含めて、人は他人の苦しみ・不幸には極めて鈍感です。(だからこそ、苦しみ・不幸が溢れているこの世を生きていける・・・とも言えますが)

まして、海の遥か彼方の異国の出来事となると・・・何らかの事情で、例えばウクライナのように一定の関心を持たれる出来事もありますが、多くはスルーされます。

東アフリカの干ばつ・飢餓もそうしたスルーされる多くの出来事のひとつでしょう。

*****アフリカの角一帯で13万人が餓死の恐れ WHO*****
世界保健機関は10日、「アフリカの角(アフリカ東端部)」と周辺地域では13万人近くが深刻な飢餓状態にあり、死に直面していると警告した。

WHOによると、ジブチ、エチオピア、ケニア、ソマリア、南スーダン、スーダン、ウガンダを含む「アフリカの大角」と呼ばれる地域の住人4800万人が、危機的レベルの食糧不安に陥っている。

このうち約600万人は緊急対策が必要な状況で、さらに12万9000人は最悪の状況に置かれている。12万9000人のうち、9万6000人がソマリア人、3万3000人は南スーダン人となっている。

また、同地域では今年、5歳未満の子ども約1190万人が急性栄養失調に陥る恐れがあると見られている。

アフリカ東端部は、気候変動に対して最も脆弱(ぜいじゃく)な地域の一つだ。過去5年間、雨期に十分な雨が降らず、家畜数百万頭が死に、作物は壊滅状態に陥った。こうした状況を受け、地域住民は水や食べ物を求めて移動を余儀なくされている。 【3月12日 AFP】
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多少なりともアフリカの状況に関心がある場合でも、東アフリカの食料危機についてはこれまでも何度も耳にしてきた話であり、「またか」「相変わらずだね・・・」といった感もあるかも。

しかしながら、「13万人近くが死に直面している」という状況を座視していいことにもならないでしょう。

この地域の危機的状況は以前から報告されています。

****ソマリア、栄養治療施設で子ども730人死亡 ユニセフ****
国連児童基金(ユニセフ)は6日、飢饉(ききん)の恐れが出ているソマリアで1月以降、約730人の子どもが栄養治療センターで死亡したと発表した。実際の死者数はこれを上回る可能性があるという。

ソマリアが位置する「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ大陸北東部地域は過去40年間で最悪の干ばつに見舞われており、4期連続で雨期の降水量が不足したことにより家畜や作物が死滅。多数の人々が飢餓の危機に直面している。

ユニセフのソマリア代表を務めるワファ・サイード氏は、首都モガディシオからビデオ会議を通じスイス・ジュネーブで開いた記者会見で、「栄養失調は前例のないレベルに達している」と説明。1〜7月に全国の栄養治療センターで約730人の子どもの死亡が報告されたと述べた。

サイード氏によると、子ども約150万人が急性栄養失調の危機にあり、その半数近くが5歳未満。重度の急性栄養失調の治療が必要となる子どもは38万5000人に上る見通しとされる。

国連は5日、ソマリアがこの10年余りで2度目の飢饉に陥る可能性があり、人命を救うには一刻の猶予もないと警告していた。国連によると、同国では人口の半分に相当する約780万人が危機的な飢餓水準に達しており、約100万人が食料と水を求めて避難民化している。 【2022年9月7日 AFP】
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【ソマリア  国際支援を阻むイスラム過激派との戦い】
ソマリアでは、単に“過去5年間、雨期に十分な雨が降っていない”という干ばつだけでなく、長年続く紛争で政治の対応がほとんどなく、イスラム武装勢力のテロによって国際支援も滞るという状況があります。

南部中心のシャバブの支配地域のほか、政府の支配地域でも繰り返しシャバブによるテロ攻撃が行われており、援助物資の輸送が極めて難しくなっています。

イスラム武装勢力のテロなどについては、以下のようにも。
“ソマリア首都で車2台爆発 100人死亡、300人負傷”【2022年10月30日 AFP】
“ソマリア首都中心部のホテルに過激派武装勢力が立てこもり 治安部隊と銃撃戦 民間人8人死亡”【2022年11月29日 TBS NEWS DIG】

【“不公平”な温暖化の影響】
また、天候不順は地球温暖化の影響が指摘されています。

米カリフォルニア大サンタバーバラ校気候災害センターでディレクターを務めるクリス・ファンク氏は、南米ペルー沖の太平洋の水温が平年より低くなる「ラニーニャ現象」について地球温暖化が要因となっていること、「ラニーニャ現象」が起きると、アフリカ東部で干ばつが発生しやすくなることを指摘しています。

更に問題なのは「(温室効果ガスの排出が少なく)最も温暖化に加担してこなかった国々が、最も苦しめられている」(ユニセフ・ソマリア事務所のワファ・サイード代表)こと。

この“不公平”は常に指摘されるところです。温暖化に加担して経済的に優位な地位を得た国々の対応責任は免れないでしょう。

【グッドガバナンスこそが、社会を繋ぎ、人財育成を促し、経済の発展や繁栄につながる鍵】
食料危機に瀕しているのは東アフリカだけではありません。その原因は、紛争、経済ショック、気候危機、肥料の価格高騰・・・等々。

****世界的な食料危機****
紛争、経済ショック、気候危機、そして肥料の価格高騰が重なり、かつてないほどの食料危機を引き起こしています。世界では8億2800万人の人びとが飢餓に苦しんでいます。

今すぐに行動を起こし、命を救い、食料安全保障、安定、平和をもたらす解決法に投資するか、それとも世界の人びとが拡大する飢餓に直面するのをただ見ているのか、今、世界は選択を迫られています。

2023年:食料の確保が困難な家庭にとって、極めて危険な状態が継続
79カ国において、過去最高となる3億4900万人が深刻な飢餓(急性の食料不安)に苦しんでいます。この数は2021年の2億8700万人から拡大し、新型コロナウイルスのパンデミック前からは2億人も増加しています。

90万人以上は飢餓の中でも最も深刻な飢きんにほぼ近い状態にあり、こうした人びとは5年前と比較して10倍となり、憂慮すべき割合で急増しています。緊急の支援が必要です。国際社会は2030年までに飢餓と栄養不良をなくすという約束を反故にしてはなりません。

国連WFPは次のような複数の課題に直面しています。食料や燃料価格の高騰により食料支援を届けるための活動費が過去最高となる中、支援のための資金が追いつかないほど急性食料不安の人びとが増え続けています。

ニーズに対応できなければ飢餓や栄養不良の危険が高まります。必要な資金が確保できなければ、命が失われ、苦労して得た開発の成果が失われてしまいます。

飢餓と饑きんの要因
なぜ飢餓がかつてないほど増えているのでしょうか? 飢餓は危険な要因が重なり引き起こされています。

紛争は依然として飢餓の最大の要因で、世界の飢餓に苦しむ人びとの約6割は戦争や暴力の影響を受けた地域に住んでいます。ウクライナでの危機は紛争がいかに飢餓を引き起こし、避難民を発生させ、収入源を断ってしまうかということを示しました。

気候危機は世界的な飢餓の急増の要因の一つです。気候ショックは命を奪い、作物や生活を破壊し、人びとが食べ物を確保するのを困難にします。世界が気候危機に対する緊急の行動を取らなければ、飢餓を止めることはできません。

世界的な肥料価格は、過去10年で最高値に推移している食料価格の高騰を上回る勢いで上昇しています。
天然ガスの価格高騰など、ウクライナでの戦争の影響によって、世界的な肥料生産と輸出に混乱が生じました。供給が減少し、価格の上昇につながり、収穫の減少が懸念されています。

肥料価格の高騰によって、2022年には、トウモロコシや米、大豆、小麦の生産が減少しており、現在世界が直面する食料価格の危機(food affordability crisis)がいずれ、食料供給の危機(food availability crisis)に発展することが懸念されています。

国連WFPの活動費も過去最高となっています。(中略)ナイジェリア、南スーダン、イエメンなどで国連WFPは、より多くの人へ支援を届けるため、一人当たりの配給量を削減するなどの厳しい選択を迫られています。つまり、すでに飢えに苦しんでいる人びとから、食料を餓死寸前の人びとへ振り分けることを余儀なくされているのです。

飢餓のホットスポット
中央アメリカの"ドライ・コリドー(乾燥回廊)"地域やハイチから、サヘル地域、中央アフリカ共和国、南スーダンを抜け、東へ向かってアフリカの角、シリア、イエメン、そこからアフガニスタンにいたる地域では、紛争や気候ショックが、何百万人もの人びとを餓死の瀬戸際に追いやっています。

昨年、未曾有の世界的食料危機に対応するため、国連WFPだけでも140億米ドルという記録的な資金が世界から集められました。飢きんの危機にさらされているソマリアなどの国では、国際社会が結集し、最悪の事態を防ぐことができました。しかし、生き延びるための支援では十分とは言えません。飢餓の根本原因へ対処する必要があります。

レジリエンス(強靭性)を高めるための活動に投資しなければ、その影響は国境を超えて広がるでしょう。コミュニティがショックやストレスに耐えうるだけの強靭性を持っていなければ、移住の増加や政情不安、紛争に繋がりかねません。

近年の歴史はまさにこれを示しています。2015年に国連WFPによるシリア難民への食料支援の資金が枯渇した際、難民はキャンプを出て、支援を求めて移動しました。これが欧州の近年の歴史上最大の難民危機を引き起こしたのです。(中略)

今こそ行動する時
国連WFPの生活を変える支援は、人財を育て、社会保護プログラムを強化するため政府を支援し、特に脆弱な地域にあるコミュニティーを安定化させ、人びとがすべての資産を失うことなく、突然の危機を生き延びることができるように後押しをしています。

サヘル地域におけるレジリエンスプロジェクトの拡大では、わずか4年の間に国連WFPと地域コミュニティーは、サヘル地域の5カ国で15万8000ヘクタールの荒廃した土地を農地や牧草地に変えました。250万人を超える人びとが総合的な支援を受けています。

人びとは季節的なショックに耐えられるようになり、彼らが働く土地などの重要な自然資源へのアクセスが改善しました。家族や家屋、所有財産や農地は気候の危機から守られるようになりました。人びとを結びつけ、社会的なセイフティーネットを作り、生産的な土地を維持し、雇用の機会を生み出すことで(すべては飢餓のサイクルを断ち切ることに寄与)、支援は不安定な状況に対する緩衝材としての役割を果たしています。

国連WFPの旗艦プロジェクトであるマイクロインシュランスの事業(R4 Rural Resilience initiative)はバングラデシュ、エルサルバドル、エチオピア、フィジー、グアテマラ、ケニア、マダガスカル、ジンバブエを含む14カ国で農業や牧畜を営む36万世帯を作物や生活を脅かす気候災害から守っています。

同時に、より多くの人びとに緊急の食料支援を届けられるように、国連WFPは83カ国の政府と協力し、国家のセーフティーネットや、栄養に配慮した社会保護の強化や構築を行っています。

しかし、人道的な支援だけでは不十分です。政府、金融機関、民間セクターやパートナーとの連携によってのみ、2023年におけるさらなる危機を防ぐことができるのです。また、グッドガバナンスこそが、社会を繋ぎ、人財育成を促し、経済の発展や繁栄につながる鍵となります。

飢餓ゼロを達成するためには、より強固な政治的エンゲージメントが必要です。政治的な意思によってのみイエメンやエチオピア、南スーダンといった地域での紛争を終わらせることができます。そして、パリ協定に盛り込まれているように、強い政治的コミットメント無くしては、飢餓の主な要因である地球温暖化を食い止めることはできません。【1月23日 WFP】
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単に人道支援だけでなく、“グッドガバナンスこそが、社会を繋ぎ、人財育成を促し、経済の発展や繁栄につながる鍵となります”・・・・長年の内戦状態でそのガバナンズの基盤がないソマリアみたいな地域では事態はより深刻です。

世界の紛争をなくしていくことが、“世界では8億2800万人の人びとが飢餓に苦しんでいます”という状況を改善していくために不可欠です。

【ウクライナをめぐる穀物輸出合意延長にロシアが異論】
ウクライナ戦争のように紛争が現地だけでなく、世界中に影響することもあります。

****東アフリカ、食糧難1300万人 ウクライナ危機が拍車****
ソマリアなど東アフリカ各国が干ばつで食糧危機に陥っている。国連は1300万人が深刻な食糧難に直面していると明らかにした。ロシアのウクライナ侵攻による穀物の値上がりのしわ寄せが貧困国に真っ先に及んでおり、異常気象がもたらした苦境に拍車がかかっている。

深刻さが際立つのが「アフリカの角」と呼ぶ大陸東端にあるソマリアだ。同国で人道支援を調整する国連のアダム・アブデルムーラ氏は3月末、5歳以下の140万人の子どもが栄養不足だとし「対処しなければ35万人が夏までに命を落とす」と訴えた。(中略)

ソマリアでは降水不足の雨期が続いており、(中略)国連世界食糧計画(WFP)は「アフリカの角は1981年以来で最も乾燥した状態にある」と指摘した。(中略)

追い打ちをかけるのが、ロシアのウクライナ侵攻による穀物などの価格上昇だ。国連食糧農業機関(FAO)が8日発表した3月の世界の食料価格指数(2014~16年=100)は159.3と前月比17.9ポイント上昇した。穀物や植物油が大きく値上がりし、2カ月連続で過去最高を更新した。

ロシアとウクライナの小麦輸出は世界全体の3割を占め、アフリカには両国に依存する国が多い。FAOによるとソマリアは輸入小麦の9割、アフリカ東部のエリトリアは全量をロシアとウクライナに頼っている。(中略)

国際非政府組織(NGO)オックスファムは、ウクライナの戦闘による食糧供給の混乱について「最も貧しく弱い人々が真っ先にひどい打撃を被る」と指摘。「東アフリカに時間の猶予はない」と国際社会の支援を訴えた。

東アフリカではかねて食糧不安を高める混乱があった。エチオピアは20年からの反政府勢力との戦闘で、北部ティグレ州への食糧供給が著しく滞った。ケニアでは21年にかけてサバクトビバッタが大量発生し、農作物を食い荒らした。ソマリアでは政情の混迷が長引き、イスラム過激派の活動も活発になっている。

ただでさえサハラ砂漠以南のアフリカ諸国は、新型コロナウイルスで落ち込んだ経済の回復が鈍い。WFPは3月下旬に「世界的な供給不足で食糧の国際価格はさらに8~22%上がる可能性がある」との見方を示しており、輸入国の財政や家計をいっそう圧迫する可能性が高い。【2022年4月18日 日経】
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その後の合意でウクライナからの穀物輸出は再開されましたが、その合意延長にはロシアから異論も出ています。

****ロシア高官、穀物輸出合意「半分しか実施されず」 延長を疑問視****
ロシア高官は9日、ウクライナ産穀物の黒海経由での輸出を可能にした国際合意は「半分しか実施されていない」との見方を示した。

国連とトルコが仲介した「黒海穀物イニシアチブ」は昨年7月、ウクライナの3つの港から穀物を輸出することを可能にした。この合意は11月に120日間延長され、反対がなければ3月18日に延長されるが、ロシアはすでに、ロシアの輸出に影響する規制が解除された場合にのみ、延長に同意すると表明している。

ロシア大統領府(クレムリン)のペスコフ報道官は「最終的な受益者についてまだ多くの疑問がある。穀物の大半がどこに行くのかについての疑問もある」とした上で、ロシアの食料および肥料の輸出を促進する国連との覚書に関する疑問も「周知されている」と述べた。

ロシアのラブロフ外相は9日の記者会見で、ウクライナ産の穀物を安全に輸出することとロシアの輸出に対する障壁を取り除くことは「表裏一体」と指摘。前者は実施されており「われわれはトルコと共にこの点に関するあらゆる義務を果たしている」一方、後者は「全く実施されていない」とし、「半分しか実施されていないのであれば、延長に関する問題は非常に複雑化する」とした。(中略)

国連のグテレス事務総長は8日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問し、穀物輸出合意の延長を巡りゼレンスキー大統領と協議。国連貿易開発会議(UNCTAD)のレベッカ・グリンスパン事務局長は来週、ジュネーブでロシア高官と会談し、同合意の延長について協議する。(中略)

国連によると、ウクライナは同合意の下、これまでにトウモロコシと小麦を中心に2300万トンを超える穀物を輸出。主な輸出先は中国、スペイン、トルコ、イタリア、オランダとなっている。【3月10日 ロイター】
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