沖縄での一人暮らし

延べ8年間、沖縄で一人暮らしをしました。歴史・自然・文化を伝えます。

辺戸岬の夜

2008-09-20 | やんばる4村(国頭・今帰仁・大宜見・東)
辺戸岬は、那覇から車で約3時間、国道58号線を約110km北上した本島最北端の観光地だ。
長距離ドライブを経た人たちは駐車場に車を止め、祖国復帰の闘争碑から遠く与論島を望み、断崖に打ち寄せ砕け散る荒波を見つめ、草原と岩場の散策コースを歩き、トイレや自販機で用を済ませると、再び乗車して帰路につく。
この繰り返しで、駐車場は車が入れ替わる。

やがて、夕闇が迫り、波の音、風の音、激しく打ち寄せる波の音だけが暗闇を支配すると、車の台数は少なくなり、たまに近づいてくるヘッドライトの灯りが新たな訪問客の到着を知らせる。
どうやらここで夜を過ごせそうだと、缶ビールを開け、早めの夕食をとり、音楽を聴きながら、あたりが静かになるのを待つ。

数えると駐車場には乗用車が5台いた。入り口に近い東側に1台、中央部に2台、奥の西側に1台だ。
東側の車は、先ほど記念碑で夕暮れの写真を撮っていた年配のカップルで、しばらくすると立ち去った。中央部の2台は、待ち合わせをしていたのか、やがて仲間の車の到着とともにそろってどこかへ消えていった。一番西側の車は、一人で来ていた男性で、やがていなくなった。
エンジンを切りエアコンを止め、全ての窓の上部を5cm開けて外気を取り入れ、座席のシートを後ろに倒し、くつろいでいると、そのまま眠り込んでしまったようだ。

「ボコン!ボコン!」
車のボンネットがへこむようなイヤな音に驚いて、目が覚めた。
辺りは暗く、どこから聞えてくるのか見えないが、音の方角からすると東側に駐車している車が、場違いな音を立てているようだ。
「わぁ、きれい!」女性の声になぜか安心する。暴走族や物取りじゃあ、困る。
体が動かなくて良くわからないが、どうやら、車上に人影らしきものが感じられるので、カップルが車の屋根に上り、星空を見上げているようだった。
軽量化された今の車は、人の重みで簡単にへこむ。

その時、新たなヘッドライトが近づき、斜め後方に乗用車が止まった。
ドアを開け、「着いたぁ!」「星がきれい」など、口々に話す声は女性達で、安心する。
と同時に、車の傍を通る際、私の存在に気づかれないか、急に心配になる。
野宿する変人と騒がれたら迷惑だ。ここはひたすら気配を殺して、寝るしかない。
「辺戸岬」とかかれた石碑の横で記念撮影をしているのか、カメラのフラッシュ光で辺りが浮かび上がる。車の屋根に寝そべり星を見上げる2人の人影があった。
時計を見ると22時。土曜日の夜だからか。

やがて、真っ暗な散策を終えた後方の車も立ち去り、隣の車上のカップルも、再び「ボコン!ボコン!」と車内から天井の凹みを元に戻して、駐車場からいなくなり、一人となった。
車外に出てみると、満天の星。天の川。ひときわ銀河系が星の数が多い。
星も、太陽と同じように、海からのぼり、天空を横断し、再び海に沈むのだ。
風が心地よい。聞えてくるのは、岬にぶつかる風の音、砕け散る波の音。

今まで、天の川を何回見ただろう。
こどもの頃は、田舎で随分見たような気がする。街灯も少なかった。
山のキャンプ場で、星の数の多さに驚いた。
山の天気は、不安定で雲がかかりやすい。星は見えても、月がまぶしく、天の川がきれいに見えるチャンスは少ない。数えるほどしか見ていないのか。

流れ星も見つけた。発見してから願い事を唱えても、間に合わない。願い事をずーと反復しながら、流れ星を見つけるものだろうか。

夜は長い。再び車内に戻り、横になり眠り込む。
何やら、騒々しいカーステレオの低音に目覚める。2台の車がすぐ隣に止まった。
ドアを開け、聞えてきたのは男性グループだった。
「着いた!」「那覇から3時間かかった!」
人数が多く光不足のため、横付けした車のヘッドライトで、記念撮影をしているようだ。音も光も騒々しい。
どうやら、石碑近くの、落ち着かない場所に止めてしまったのか。

散策を終えた若者達が去り静かになったと、うたた寝しながら考えていると、ふたたびヘッドライトが近づいてくる。そんな繰り返しだったが、やがて暗闇と沈黙が辺りを包んだ。午前2時だった。
車外に出ると、天の川の流れる向きが変わっていた。
風上の西の方は、雲が流れてきたのか、星が見えない。もう見納めかな。

朝まで静かに眠れるだろう、と思ったら、午前3時過ぎになって、休憩所近くに新たな車が到着した。ルームミラーを見ると、自販機の灯りを頼りにテーブルで話を始めた男女4人がいた。
結局、このグループは夜明けまでいた。

やがて、夜が明け、水平線の上の雲間から、朝陽が辺戸岬に届いた。


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8 コメント

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天の川 (kururin)
2008-09-21 14:50:24
天の川をまだ一度も見たことがありません。
きっと辺戸岬から眺める天の川はきれいだったことでしょう 

島に行く度、星のよく見えるであろうスポットへ
車を走らせようか・・・と迷うのですが、
街灯のない真っ暗な道を行くのが怖くていつも断念していました。

岬に来る方、意外と多いのですね。
forever-greenさん、あまり眠れなかったのでは?

でも、美しい星空に朝焼けの空、
久しぶりの沖縄を満喫できたようでよかったです 

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今晩は (小鳥沢)
2008-09-22 20:40:51
暗闇の画像から、一夜の物語は私を惹きつけます。
素晴らしい表現力に、断崖に打ち寄せ砕け散る荒波の音まで聞こえそうです。
一気に読みました。次に想像が広がり読み直しました。
やがて夜が明け、水平線・昇る朝日が水面に映り、美しい情景を見せてくれましたね。
大変だったでしょうが、素晴らしい夜でしたね。
ありがとうございました。
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いろいろ。 (ひろし)
2008-09-22 23:29:45
真夜中の・・・。
様子が、鮮明に。
すごい記事ですね!!

真夜中でも、人が辺戸岬に向かってくるんですね。

かなり感動しています。

とっても綺麗な星、いいですね!
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kururinさんへ (forever-green)
2008-09-24 00:09:03
天の川をご覧になっていないんですか。
それは、いけないことだと思います。
プラネタリウムのような世界が、頭上に広がっていますよ。
宮古島では見れるかな。
沖縄の若人はロマンチックなんでしょうか。
予想外に訪問客が多かったです。
窓を閉め切っていれば気づかなかったのかもしれませんが、暑くて…。
ほんと、2年住んでいて初めての経験でしたが、楽しかったです。
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小鳥沢さんへ (forever-green)
2008-09-24 00:15:59
お褒めいただき、うれしいです。
丁寧に読んでいただき、ありがとうございます。

スタンド・バイ・ミーを読んでいて、ちょっと冒険したくなりました。
普通は、こんなことしないんですけど、街灯が少なく山もないので星が見やすい。気温も高く、治安もいい。そんな沖縄だからでしょうか。

スタンド・バイ・ミーなら、野宿した早朝に野生の鹿に出会って、それが最高の思い出になるんですけど…。
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ひろしさんへ (forever-green)
2008-09-24 00:19:27
夜中のことは、不思議とよく覚えています。
寝付けなかったのでしょうね。

ホント、真夜中でも、途切れることなく車が到着するのが予想外で、驚きました。土曜日の夜というのもあったと思いますが。

写真では全く写りませんでしたが、素晴らしい星空でした。
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辺戸岬の一夜 (ユウ)
2008-09-25 01:09:27
情景描写が素晴らしく、引き込まれました。

次々に登場する人間模様が目に浮かぶようで楽しかったです。
私も海を前に車の中で一夜を過ごしてみたいという願望を以前から持っていたので…。
まだ、実行していませんが、いつかきっとと思ってます。

多少の不安はあったのでしょうけれど、素敵な朝焼けを見えることができて良かったですね!!
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ユウさんへ (forever-green)
2008-09-27 13:04:14
お褒めいただき、ありがとうございます。
真っ暗なのに、それぞれが、記念撮影したり、散策したり、星を見たり、慣れているような感じでした。
不安でしたけど、星がきれいで、夜明けも見えて、よかったです。
デジカメで星を写す技術がないのが、残念でした。
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