「第7世代」の登場もあって、新たなお笑いブームとなっている昨今。若手芸人のプロフィールに注目してみると、意外な事実に気がついた。それはズバリ、慶応義塾大出身の芸人が増えているのだ。
お笑い界では、高校卒業後にプロダクションの養成所に入って芸人になるというキャリアが一般的だが、今や大卒芸人も珍しい存在ではなくなっている。むしろ、大学での経験を強みにする芸人も多くなってきているのだ。
「関西の大学は、サークル活動で落語研究会やお笑い研究会が多く、近年では大学生限定のお笑い大会も活発に行われています。在学中、もしくは卒業後に吉本に入るパターンも少なくない。関東圏だと大卒芸人は落研の強い明治大や早稲田大、生徒数も多く芸術学部のある日本大出身者などが多い印象です。高学歴芸人として有名なのはクイズ番組で活躍したロザン・宇治原史規さんが京都大卒、『やりすぎ都市伝説』などに出演していたお笑いコンビ・田畑藤本の藤本淳史さんは東京大卒として有名です」(民放バラエティ制作スタッフ)
今、人気のお笑い第7世代でいえば霜降り明星・粗品が同志社大(中退)。ハナコ・岡部大は早稲田大卒だ。では、慶応大出身の芸人には誰がいるのか。
「最近だと昨年の『NHK新人お笑い大賞』で優勝したラフレクランの西村真二。慶応大を出て、一度、広島ホームテレビのアナウンサーになり3年ほど務めた後に芸人になったという異色の経歴です。また『キングオブコント』やバラエティ番組で存在感をみせているゾフィーの上田航平や昨年『マイナビ Laughter Nightチャンピオン大会 』で優勝した真空ジェシカの川北茂澄も慶応大卒ですね。あとは、空気階段の水川かたまりは、慶応大に入学した直後に中退しお笑いを志したそうです。さらに若手でいうと、令和ロマンはコンビ揃って慶応大卒で、同大学のお笑いサークルの出身。吉本の芸人養成所東京NSC を首席で卒業したという実力派です」(同)
とはいえ、数年前までは慶応大出身の芸人はほとんどいなかった。ふかわりょう(45)は1994年、慶応在学中にデビューしたが、当時は芸人の学歴はあまりネタにされなかった。その後、バラエティなどで徐々にいじられキャラになり、慶應大卒という肩書がむしろ邪魔になっていったのかもしれない。
TVウォッチャーの中村裕一氏は、慶応大出身の芸人についてこう分析する。
「ほかの慶応大芸人としては、かつて『号泣』というコンビを組んでいた、手相占いで有名な島田秀平が通信制の卒業生、『パンケーキ食べたい』で昨年プチブレイクした夢屋まさるが在学中、また、ロンブー・田村淳も大学院のメディアデザイン研究科に籍を置いています。一般の会社でも『早稲田閥』『慶応閥』という派閥があるように、お笑い界でも他と比べて目立つ存在になりつつあります。慶応大とお笑いとの相関関係を明確に定義するのは難しいですが、知的で他にはない視点・切り口を持ち、自ら先頭に立って道を切り開くというイメージがあるので、慶応大の校風を含め、大学生活を通じて培われる何かがあるのかもしれません。お笑い芸人も昔と違い、笑いにプラスアルファを求められる今の時代にあって、今後、慶応大芸人のニーズは高まっていくと思います」
■従来の芸人像を打破するオリラジ中田
そして今、彼らが単なる高学歴芸人として終わらない時代になってきている。その代表格がオリエンタルラジオの中田敦彦だろう。
「オリラジのあっちゃんは在学中にNSCに入学し、卒業後すぐに人気が出たためすぐに“慶應大卒芸人”としても注目が集まった。クイズ番組への出演やトーク番組でのうんちく披露から徐々に“成功のメソッド”のようなトークが増えてきて、意識高い系から支持を集めていました。最近ではすっかり教育系ユーチューバーとして動画を配信したり、ビジネス系メディアで社会問題について討論したりするなど、ビジネス方面の展開で話題になっています。『中田敦彦のYouTube大学』はたびたび内容をめぐって炎上していますが、ファンも多く、再生回数もかなり多い」(放送作家)
中田と似たケースではAO入試で入学した女性芸人・たかまつななもいる。現在、自ら会社を設立し、講演活動を始めとしたビジネスを手掛ける起業家として注目されており、本人も「お笑い界の池上彰」を目指しているという。
「あっちゃんやたかまつななのように、慶応大卒の芸人さんはお笑いの定義を変え、さまざまな方法で人を楽しませるビジネスに変換させていくことが得意なのかもしれません。芸人であってもビジネスマンとして顔出しで人を引きつける企画を立てたり、高いコミュニケーションスキルにあこがれている。経営戦略をたて、自己プロデュースをしながらビジネスをしていくこともまた、ひとつのタレント力です」(同)
慶応大芸人がお笑い界をリードし、新風を巻き起こすかもしれない。(今市新之助)