ケイの読書日記

個人が書く書評

夏目漱石 「夢十夜」 青空文庫

2024-08-25 12:41:39 | 夏目漱石
 夢って、どうして夢を見ているときには「これは夢だ」という事に気が付かないんだろうか? 荒唐無稽で夢だとわかりそうなものなのに。そして、どうして同じ家や部屋、駅や電車や線路が、繰り返し出てくるんだろう。

 この「夢十夜」も、漱石が本当に見た夢、という訳でもないんだろうけど、美しい夢、不思議な夢、ちょっと怖い夢、滑稽な夢、色々出てくる。その中で第七夜の話が、すごく印象に残った。
 一人の男が大きな船に乗っている。どこから乗ってどこで降りるのか、全く分からない。そもそも何のため乗っているのか分からない。ただただ船は、昇っては沈む太陽を追いかけている。どこに向かっているのか水夫に尋ねても返事はないし、他の乗客と会話らしい会話はない。
 男はつまらなくなって、とうとう死ぬことを決意した。
 ある晩、あたりに人のいない時分、思い切って海の中に飛び込んだ。ところが自分の足が甲板を離れたその瞬間、急に命が惜しくなった。心の底からよせばよかったと思った。やっぱり乗っていた方が良かったなと思い至ったが、もう遅い。無限の後悔と恐怖とを抱いて、黒い海へ静かに落ちていった…という話。

 そうだよなーーー。高いビルから投身自殺した人の記事を読むたび、この人は、投身自殺しようとジャンプした瞬間、そして地面に激突する瞬間、後悔の念にとらわれなかっただろうか?もし後悔したなら、本当に可哀相だ。悲劇だ。

 昔、読んだレディスコミックにこんなのがあった。夫の愛人問題で悩んでいた女性が、夫の心を取り戻そうと狂言自殺を図る。小学校低学年の娘にお使いを頼み、その間に大量に睡眠薬を服用、お使いから戻った娘に発見してもらおうと考えたのだ。しかし娘は母親の心を知らず、道草して遅く帰宅。母親は死んでしまった。お母さん、さぞ無念だったろうね。「なぜ娘は帰ってこない?このままでは私、本当に死んでしまう」それが怨念となって成仏できないだろうよ。
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東野圭吾「ブラック・ショーマンと覚醒する女たち」光文社

2024-08-08 16:37:24 | 東野圭吾
 すごく久しぶりだなと思っていたが、およそ1か月ぶりなんだ!! 驚いた。7月下旬べらぼうに忙しくて、おまけにべらぼうに暑くて、読書どころの騒ぎじゃなかった。8月の後半からは、落ち着いて読書ができるようになってほしいです。

 神尾武士は恵比寿にあるバーのオーナーバーテンダー、真世は大手不動産会社リフォーム部に所属している一級建築士。顧客は都心に近い分譲マンションをリフォームしたいというお金持ちばかりだ。
 私は首都圏に住んだことないから分からないけど、マンションでも何億という資産価値があり、リフォームといっても2千万3千万かかるみたいね。そういう世界で生活している人たちの話。どこをみても貧乏人はでてこない。やっぱり、これ出版社が光文社だからかなぁ。

 私はこのところ「財布は踊る」とか「燕は戻ってこない」といった、東京で非正規で働く20代女性の貧困を書いた小説をよく読んでいたから、不思議な感覚。断絶してるんだ。お金持ちと貧乏人は。まぁ、今に限った話じゃないけど。

 筆者の東野圭吾が超売れっ子作家で、まわりに裕福な家庭出身で高学歴の美女ばかりなんだろうな。
 最終話の「査定する女」。文字通り、玉の輿を狙って婚活している女性が、真世のリフォーム上客であるハンサムでお金持ちの男性と知り合い、良い雰囲気になっていく話。身長180㎝前後、年齢は40歳くらい、役員車両でイタリアの高級家具ショールームに自宅で使うソファを選ぶため訪れている。
 そもそも、こんな男が独身だというのがおかしい。話は二転三転し…興味のある人は読んでみてね。

 私が東野圭吾をナナメに見てしまってるのは自分のやっかみで、エンタメ小説としてとても面白いですよ。
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芥川龍之介「或日の大石内蔵助(おおいしくらのすけ)」 青空文庫

2024-07-11 16:54:01 | 芥川龍之介
 討ち入りが成功して泉岳寺へ引き上げた後、幕府から沙汰があるまで細川家に預かりになっている大石内蔵助たちの、或日の情景が描かれている。

 討ち入りとか大石内蔵助といってもピンとこない若い人が多いのかな? ほら、江戸時代中期頃の話。浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)が吉良上野介(きらこうずけのすけ)に恨みを募らせ、殿中で切りかかるという大不祥事を起こし、赤穂藩はお取り潰しになった。本来なら、喧嘩両成敗で吉良の方にもお咎めがあるはずなのに、それはない。赤穂の有志47人は、それを不服として、吉良の藩邸に討ち入り吉良公の首を取ったのだ。
 その噂はあっという間に江戸に広がり、彼ら47人は一躍、江戸のスターに。
 本来、彼らは幕府の決定に歯向かった犯罪人なので、最終的には全員が切腹したのだが、この太平の世に我が身を顧みず主人の仇を討つとはあっぱれ!武士の誉れ!という事で、浄瑠璃やら歌舞伎やら講談の題材になっている。

 もちろん、赤穂藩は47人であるはずもなく、もっと多くの藩士がいたが、最初は「仇討ちだ!」と声高に叫んでいた人も、今後の生活を考えると一人減り二人減り…抜けていった。当たり前の話だが、吉良家の方も仇討ちを警戒して、スパイをあちこちに潜り込ませていたようだ。

 でもね、抜けていった人たちの方が人間的と言えなくもない。赤穂の城を退去してから討ち入りまでの2年間、よく恨みを持ち続けていられるなぁ。私だったら、翌日から他の藩に何とか仕官できないか策をめぐらすね。

 しかし世の中は、英雄の対極として裏切り者を必要とする。町人百姓まで、犬侍とか禄盗人とか悪口を言う。討ち入りに参加しなかった元家臣を、親類縁者が申し合わせ詰め腹を切らせたという話があるそうだ。

 ああ、討ち入りに参加しなかった元家臣たちは肩身が狭かったろうね。令和の今でも、人の口の端にのぼるもんね。
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岸本葉子「60代 少しゆるめがいいみたい」中央公論新社

2024-06-26 09:39:01 | 岸本葉子
 敬愛する岸本さんのエッセイを久しぶりに読んだ。お元気みたい。良かった。だいたいが他の新聞や雑誌に連載されていたエッセイをまとめたもの。コロナ期後半から、皆さんマスク取っていいですよの頃まで。

 岸本さんは、パソコンにあまり強くない。音楽にもさほ造詣が深いという訳じゃない。そういう所がいいんだよね。彼女のステレオコンポが壊れたようで、修理か処分か迷っていたので、同世代の知人にどうしているか尋ねると、爆笑されたらしい。「えーーー、ステレオコンポなんてまだ持ってたの?」音楽はタブレットとイヤホンで聞く時代だと。
 いやいやいや、私などいまだにCDラジカセで聴いていますけど。でも、それがもう出来なくなるんだなぁと先日、しみじみ感じ入った出来事があった。

 私はスマホで『あんさんぶるスターズ!!』というリズムゲームをやっている。Valkyrieというユニットが推しで、彼らの曲はアニメイトでCDを買っていた。運営会社はそのCD販売を中止し、配信サイトでの購入に一本化するという。その方が経費が掛からないんだろうが、私のような高齢者は困るよ。それにアニメイトに出掛けていく口実が無くなっちゃうよ。キョロキョロ眺めたいのに。
 でもCD販売を止め配信サイトに一本化するというのは、時代の流れなんだろうなあ。しかしCDを購入するときに貰っていた缶バッジやポスターは、もう貰えないんだろうか?Too Bad!
 それに私のようなオババがワイヤレスイヤホンで音楽を聴くって笑われそうで怖いです。そうそう、2.5次元の舞台も観たいけど、全てインターネットで手続するから、デジタル弱者の私はよくわからないです。昔みたいに「チケットぴあ」で売ってほしい。

 同じパソコン弱者の岸本さんも、やらかしちゃってますね。グループラインで送られてくるアルバムを量が多すぎるから整理しようと削除したら…自分のスマホ画面だけでなく全員の画面から消えてしまった?! えっ!?そんな事ってあるの? 彼女はサークルの定例会に菓子折りを持っていき、お詫びしたそうだ。同情します。
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芥川龍之介「邪宗門」青空文庫

2024-06-13 15:34:28 | 芥川龍之介
 「平安貴公子の恋と冒険」と惹句にありそうな話。芥川には珍しく長編になりそうな話なのでワクワクして読んでいたら、途中で(しかも一番盛り上がるところで)ブチっと途切れていた。未完の作品らしい。Too Bad!!

 堀川の若殿は、中背のやせぎすの優しい顔立ち、詩歌管弦を何よりも好み、自身も諸芸に秀でていた。
 父親が亡くなり、堀川の若殿が家督を継いで5、6年たった頃、洛中に一人の風変わりな僧が現れ、摩利の教というものを説き広め始めた。この摩利の教が、どうも女菩薩の絵とか、首にかけた十字の怪しげな黄金の護符とか使ってるので、キリスト教っぽいのだ。
 でもキリスト教ってフランシスコ・ザビエルが16世紀半ばに種子島に来て広めたのが最初でしょ?これって完全なフィクションだよねと思っていたら…。中国大陸にはすでに唐の時代、景教(ネストリウス派キリスト教)が広まっていたらしい。そういえば教科書に載ってたような。
 だから遣唐使で中国大陸に渡った人は、この景教に出会っているだろうし、遣唐使としてではなく個人で大陸に渡ってさすらっていた人もごく少数だがいただろうから、そういう人が景教に出会い帰依した可能性もある。だから、全く噓八百、荒唐無稽という訳でもないのだ。

 この摩利の教の僧は、あちこちで奇跡を起こした。盲目の人が目が見えるようになったり、下半身不随で動けなかった人が立って歩けるようになったり、キツネや天狗の憑き物もきれいさっぱり落ちてしまう。だから日を追うごとに信者が増え、洛中の一大勢力になっていた。
 そんな中、嵯峨の阿弥陀堂建立供養が執り行われる。上達部殿上人それに女房達が大勢押しかけ、高名な僧都や僧正、座主が供養の真っ最中、なんと摩利の教の僧が現れ、仏教の僧たちに法力比べを持ちかける。それに乗った横川の僧都はコテンパンに負かされてしまい、仏教派あやうし!!!という所で、あの堀川の若殿が現れて…
 で、ここで終わってる。未完。ああ残念。

 これらのメインストーリーに、中御門の美しい姫君との恋物語が絡んできて、読みごたえあり。
 それにしても「法力比べ」ってマジックショーみたい。こんなことで宗教の真価が分かるのだろうか?でも、頼りになる医学がなかった時代「病気が治った」というご利益が一番信仰を集められるかも。
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内館牧子「老害の人」講談社

2024-05-31 14:13:13 | 内館牧子
 あまり面白いとは思えない小説。いや、いろいろ気づかされる事は多いよ。だから、ハッとする文章に出会うとメモする。でも、私はこういう本を読みたくないな。

 いつも思うけど、内館牧子は家族や家庭を善意に捉えすぎだと思う。この小説では、零細企業の社長職を婿養子に譲り、悠々自適な生活を送る福太郎は、経営戦略室長として週に2度ほど出社して老害をまき散らしている。
 その老害が取引先にも及び、優良な顧客を一つ失ったので、反省せざるを得なくなった福太郎は、近所の同じ老害高齢者たちと一緒に、若鮎サロンという高齢者の居場所を作ろうと計画する。

 この福太郎の家庭が、すごく良い家庭なのだ。奥さんには先立たれているが、娘とその婿、そして出来のいい孫2人。福太郎の友人たちの家庭も夫婦仲は良いし、子どもや孫は良い子ばかり。え?!どこの国の話? 内館先生の周囲には、「引きこもり」とか「家庭内暴力」とか「高校をドロップアウトして無職でぶらぶら」とか、そういうケースってないんだろうか?
 前回読んだのが林真理子「小説8050」だからか、余計にそう思う。というか、内館先生が8050問題を書くなら、どう書くんだろう。興味あるなぁ。それほどまでに、この小説に出てくる若者の素行は良いのだ。年長者に敬意を払い、あいさつはきちんと、もちろんみんな仕事熱心。
 内館先生の中には、子どもや孫がいれば、素晴らしい老後が送れると信じていらっしゃるフシがある。孫に殴り殺される年寄りだっているのにね。そこを読みたいのに。

 悪口ばっかり書いて申し訳ない。心に刺さるフレーズも多々ある。「人は評価されないと、どんどん老ける」「役目が人を生かす」「仕事というものは抗うつ剤なのだ(中略)今、あなたの力が必要なんだ、という仕事は老人性うつを正面から叩き潰す。」

 さすが1948年生まれ。人生の先達のお言葉です。
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林真理子 「小説8050」 新潮社

2024-05-26 09:50:33 | 林真理子
 社会現象にもなっている「8050問題」を他人事だと考えている人は少ないと思う。それほどまでに、この中年引きこもり問題は世の中に広まっている。自分の家族、親せき、友人、近所の人の中に、当事者が必ずいる。

 「あのひと、そういえば弟さんがいらっしゃるはずだけど全く話題に出てこないわ。ご両親がこの前亡くなっているから、喪主は弟さんがやっただろうけど、お元気にしていらっしゃるかしら?」なんて思っていたら、その相手から「実は長年、弟がひきこもっていて親が元気な時はまだよかったんだけど、亡くなったら弟に関するすべての面倒ごとが自分に降りかかってきちゃって…」などと相談される。

 この小説の主人公一家も、父親は2代続いた歯医者、母親は専業主婦、姉は早稲田を出て一流企業に勤め、今度その同僚との結婚話が進んでいる。弟の翔太は20歳。中高一貫の進学校に入学したが、中2の時から引きこもり、いまだに暗闇の中にいる。
 親はイジメにあったのではないかと学校に相談するが、けんもほろろ、イジメはないの一点張り。親は、同じ小学校から進学した男子生徒に食い下がり、イジメの事実を把握。裁判で息子とともに闘おうとする。

 この、同じ小学校から進学し、今は別のクラスだが、翔太に対してひどいイジメが行われていた事を知っている男子生徒の発言が一般的な世間の考えなのかもしれない。
「14歳とか15歳とかだと、善悪の境目がぼやけているんです。彼らはおそらく、そんな悪いことをしていたなんて、これっっぽっちも思っていないはずです。」「自殺する子がいますよね。いじめられて。(中略)死んだ子は、自分をイジメた子たちはこのことで一生世間から責められ、罪人として一生過ごすに違いないって考えるはずです。でも違うんですよ。(中略)すぐ忘れます。そして学校を出て大人になって、イジメた子のことなんか、どっか遠くにいくんですよ。そして、のうのうと普通に生きていくんです」
 確かにその通りだ。彼の母親は、彼が翔太に対して行われているイジメを告発しようかと悩んだ時、高校進学に不利になるかもしれないから言うな!知らぬ存ぜぬで過ごせ!と諭した。とっても普通の感覚の人だ。だけど、自分の子どもや孫がイジメにあったら、同じ感覚でいられるだろうか。

 なんにせよ、人間が人間である限り、イジメは無くならない。いじめっ子に対する最大の復讐は、自分が幸せになる事だろう。

 
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桐野夏生「燕は戻ってこない」集英社

2024-05-11 17:27:54 | 桐野夏生
 NHKでドラマの予告編を見て興味を持った。東京で暮らす29歳の独身女性で地方出身の非正規労働者。彼女が困窮し、東京で「代理母」をやることになった経緯を書いてある。

 うーーーーん、後味の悪い話だなぁ。ほとんどの登場人物に良い感情を持てない。代理出産を頼む側の夫と妻、夫の母親、妻の友人、そして1000万円貰って引き受けることになったリキ。皆、勝手なことばかり考えていると思う。
 唯一、リキの友人テルには、少し親近感を感じている。テルは名古屋近郊の市に生まれ、貧しい家庭だったが奨学金を借りて地元の四大に進学している。しかし新卒で就職した会社で上司と上手くいかず、退職。心機一転、東京に出てきて頑張ろうとしたが、契約社員にしかなれず、生活はカツカツ。それどころか奨学金の返済があるので、風俗の仕事もしてダブルワークで働いているが、全く余裕はない。
 そのテルが、こんなに生活が厳しいのは、奨学金で大学に進学したせいだと愚痴る。テルの親が奨学金を借りる時、親の生活費も上乗せして600万円借り、その返済をテルはしているのだ。金利が安いから借りたんだろうが、この親も酷いよね。
 「大卒ったって地方の名もない大学じゃ、全然意味ないよ」とテルは言うが、本当にその通りだと思う。
 で、テルの選択は、東京での生活に見切りをつけ、地元に帰り、元カレと同棲を始める。私もそれが良いと思うよ。地元の名古屋は製造業が強いので、仕事はいっぱいある。東京に比べ家賃は安いし、実家が近ければなにかと助けてくれるだろう。

 一方、リキは東京で「代理母」になる事を決意する。リキの故郷は、北海道の北東部の過疎の町で、短大を出て実家近くの介護施設へ就職するも、仕事になじめず、なんとか200万円貯めて、それを持って上京した。素晴らしい出会いがあるような気がして。
 しかし29歳になった今、貯金はとっくに無くなり、仕事は続かず、出会った男はクズだ。金のない女には金のない男しか近づいてこないよ。
 でもねぇ、介護職だったら正社員になれるだろうし、昇給やボーナスがあるだろう。目標の仕事があるならともかく、無いなら、東京近郊で介護の仕事を探してみたら?

 リキの家は金持ちではないが、子どもに借金を背負わせるほどひどい親でもない。貯金はないが借金もない、それなら前は開けていると思うけどなぁ。
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米澤穂信 「可燃物」 文藝春秋社

2024-04-28 13:07:10 | 米澤穂信
 新聞の書評ですごく褒めていたので、期待して読む。その通り本当に面白い。本格ミステリと警察って、あまり相性が良くないイメージだが、これはキャラの立った名探偵ではない、群馬県警捜査第一課の葛警部が主人公。地味だが鋭い推理力の持ち主だ。

 「崖の下」「ねむけ」「命の恩」「可燃物」「本物か」の5編が収められている。ね?タイトルからして地味でしょう? 表題作は「可燃物」で、確かに素晴らしい作品だ。こういう動機で放火する人っているだろうな。ちょっと犯人に同情しちゃうな。

 私の一番の推しは「ねむけ」。 「ねむけ」ってなんだよ。もっと読む気にさせる華のあるタイトルをつけろよ!よく担当編集者が通したな、なんんて私も内心毒づきながら読み進めていったが…見事でした!!

 24時間の監視がつけられていた強盗事件の容疑者が、交通事故を起こして病院に運ばれる。特に事故が多い交差点でもないが、近くで道路工事をしていて、工事用信号が設置されていた。容疑者の車と、軽自動車が交差点で出合い頭に衝突。お互いに自分の方が青だったと主張するので、目撃者を探し、事情を尋ねる。

 真夜中にもかかわらず、目撃者は比較的簡単に見つかった。あわせて4人。
 下水道工事の誘導員。現場に面したコンビニの店員。帰宅途中の医師。ゲームで遊んでいた大学生。彼らの証言はみな一致している。身元を調べてもつながりは全くない。4人が口裏を合わせて偽証しているとは考えられない。
 それにもかかわらず、葛警部は不自然さ違和感を感じていた。夜中の3時に起きた交通事故で目撃者が4人も見つかるなんて、おかしくないか?
 そのとおり、多すぎるのだ。人間の観察力と記憶力はあいまいなものだ。2人の目撃者の証言が一致しても疑問ではない。3人の言う事が同じなら少し疑う。4人が全く同じだったら、頭から信じることはできない。

 どうしてこんなことになったのか? その過程が見事に解き明かされていく。
 
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原田ひ香 「財布は踊る」 新潮社

2024-04-10 13:17:35 | 原田ひ香
 あまりにもリアルなお金事情で、身につまされる。お金のことで困った立場にいる人たちが、続々と登場するよ。自分が、彼ら彼女らの立場だったらどう行動するだろうと、真剣に考えてしまう1冊。

 特に、最初のリボ払いの話と、第5話の奨学金返済に苦労している話は、心に深く刺さった。
 私自身、リボ払いは利用したことないけど、カードの明細を見るたびにリボ払いを進める広告があるし、リボ払いってカード会社がすごく儲かるシステムなんだと思ってた。案の定、年利15%の手数料がかかるんだ。この低金利の時代に15%!!!! シンジラレナイ!!
 作中では、ハワイに旅行に行って楽しんだ若い夫婦が、現地でカードで支払ったのに、請求額が3万円ほど。おかしいと気づいた奥さんが調べて、とんでもない事実が発覚! 毎月払っている3万円は、ほとんどが利息で、元金は貯まりに貯まって228万円!!どっひゃー!!!
 ダンナはお金に関してずぼらな人で、その上、明細はスマホで見ることになっているけど見ておらず、サブスクみたいなもんだと思っていたらしい。手数料が少々かかっても、郵送で明細を送ってもらった方がいいよ。

 奨学金の話の方は、もっと深刻。裕福でない家庭の地方出身の女の子が、東京の私大に進学し、奨学金を月12万円借りて、バイトもせっせとして、やっとのことで卒業する。でも条件のいい就職先は見つからず、契約社員またはブラック企業の正社員として働く。返済額は600万円以上あり、月に3万円ずつ返済している。家賃が高いので、どんなに切り詰めても生活はカツカツ。貯金はない。30歳になった今、半分ほどは返したが、まだ半分の300万円ほど残っている。あーーーお先真っ暗!結婚も考えられない、という話。

 作中に、主人公の友人が、マックで飲んでいたコーヒーの残りをマイボトルに入れ持ち帰り、翌朝のむという場面があり、これを読んで驚愕した。ここまでしても貯金ができない?!
 
 ただキツイこと書くけど、親からの仕送りなしで東京の私大に通うなんて無謀だよ。それこそ風俗で働くことになっちゃうよ。親元を離れたい気持ちはわかるが、なんとか自宅から通える範囲で進学先を見つけたら? それか、高校の3年間、ひたすらバイトしてお金を貯めるとか。それか、医療関係とか介護職の資格の取れる大学にして、就職に困らないようにするとか。
 そうだ! 地域おこし協力隊になって、地方で頑張るのはどう?生活費を抑えられるし、なによりもこれからの自分の将来を考えるきっかけになるんじゃないかな?
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