ケイの読書日記

個人が書く書評

原田ひ香 「老人ホテル」 光文社

2025-02-24 09:38:53 | 原田ひ香
 最初にこのタイトルを見たとき、なんてセンスがないんだ!これじゃ誰も手に取らないよと思ったが、帯に「節約、投資、女の誇り。老女が授けてくれたのは独りでも生きていける希望。秘密を抱えた2人の投資版マイフェアレディ」とあったので、ハウツー本のつもりで読んでみることにした。

 後半は、ちょっとミステリアスな展開で面白かったよ。
 主人公は日村天使(ひむらえんじぇる)限りなくグレーに近い生活保護大家族で生まれ育った。両親と7人兄弟姉妹。小さいときには「仲良し日村さん大家族」としてTVで取材を受けていた。でも弱肉強食の家庭で、決して仲良しではない。別に住んでいる祖父母も生活保護を受給。天使の兄や姉も受給していて、三世代受給のツワモノ。
 末っ子の天使は、そこから抜け出しガールズバーやキャバクラで働いていたが、たいして稼げない最底辺キャバ嬢。そのキャバクラが入っていたビルのオーナーが綾小路光子で、後に天使に不動産投資の手ほどきをする78歳の老女。
 天使は、光子がビジネスホテルに隠れ住んでいるのを見つけ、そのホテルの清掃作業員として働き始め、光子に「極貧生活から抜け出したい」と訴える。最初は相手にされなかったが、次第に信用されるようになる。

 それにしても、ビジネスホテルと言ってもホテルだもの、お金がすごくかかるんじゃない?と思うが、連泊するとそれなりに安くなるみたいね。それに水道光熱費やお掃除料金は宿泊費に含まれているし、駅から近いだろうし、食事はスーパーで買って来たものをチンすればいいし、それほどお金はかからないかもしれない。

 不動産投資かぁ…。時たまTVでいっぱいビルを持っている女性オーナーが出てくるが、資産も多いが借金も多い。家賃を踏み倒されて夜逃げされたらどうしよう…なんて考えると眠れなくなりそう。
 綾小路光子が、稼いだお金を次の投資にまわすために子供たちに使わせなかったので恨まれた、という話はわかるような気がする。こんな立派なビルのオーナー一家なのに、なぜ小遣いがないんだ、大学進学させてくれないんだ、と不平不満を持つのは当たり前かも。それが断絶の原因なんだろう。
 お金は無いと困るが、あっても扱いが難しいねぇ。
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藤野千夜 「じい散歩」 双葉社

2025-02-04 14:13:06 | 藤野千夜
 帯に「これぞ現代のスーパーシニア小説!」とあるが、本当にそう。なんていったって主人公の明石新平と妻の英子二人合わせて、もうすぐ180歳なのだ。3人の息子は50歳前後で全員独身。まさに現代の縮図。

 この新平は、田舎から東京に出てきて小さいながらも工務店を経営。景気の良かった時もあったが、なかなか商売が難しくなってきたので会社を畳んで、今は悠々自適の生活。90歳近いが健康で食いしん坊。健脚で頭もしっかりしているので、毎日あちこちに散歩に出掛け、電車に乗り、気になっている話題のレストランや食べ物を楽しみ、女の子にちょっかいをかける。この年代の人に珍しく、和食よりも洋食が好きなので、お昼ご飯を外で食べるのが何より楽しい。そして工務店を経営していただけあって、特徴のある年代物の建物をスマホで撮るのも好き。
 つまり、東京は楽しいことがいっぱいあるのだ。今、若い女性が東京に行ってしまって地元に残らない。子どもを産める年齢の女性が地方にあまり残らないから大問題!! これが少子化の原因だ!とエライ人たちが騒いでいるが、このじいさんでも楽しいんだもの。若ければなおさら楽しいだろうね。だから行った先の東京で子どもを産んでくれたらいいんだけど、それが難しいみたい。
 だって、新平の3人の息子たちも裕福な育ちで、実家が東京にあるんだもの、すぐ女の子を見つけて結婚しそうなものなのに、なぜかそれが出来ない。地方出身で東京に実家のない女の子たちにとって狙い目だと思うけどなぁ。

 そうそう、私がこの新平じいさんに興味をひかれる理由が分かりました。新平じいさんは、たぶん大正15年生まれ、私の父と同い年なんだ。だから中途半端な戦争体験の話などもよく似てるなぁと思う。赤紙が来て入隊したけど、よくわからない訓練をやっているうちに戦争が終わったのだ。戦況が極めて悪く、外地に行こうにも船が沈められてしまって行けず命拾いした。
 その後の高度経済成長時代、皆が今日より明日の方が豊かになると信じて働いていた時代の雰囲気なども、よく書けていると思う。

 新平じいさんは、健康なので医療費を使わず、散歩するときでもお金があるので散財する。こいいったスーパーシニアが大勢いればもっと景気も上向くだろうね。
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法月綸太郎 「法月綸太郎の消息」 講談社

2025-01-27 09:47:16 | 今村夏子
 皆様、本当にお久しぶりです。お正月に、gooサイトがサイバー攻撃にあい利用できなくなりました。すぐに復旧したところもあったみたいですが、当方では10日以上かかりました。その後も、私の体調がイマイチで、気になってはいたのですが、更新はのびのび。でも今後は、月に2回ほど更新したいと思っていますので、よろしくお願いします。

 法月綸太郎シリーズは昔から好きで読んでいたのですが、これこそお久しぶりですね。「綸太郎、あんた、生きてたんだよね、」と彼の肩でも叩きたくなります。
 この中編集には、いつもの、父・法月警視が持ち出す難問を、息子の推理作家・綸太郎が鮮やかに解き明かす、おなじみの展開2編も含まれていますが、他の2編はちょっと異色。
 ホームズの生みの親コナン・ドイルとポアロの作者アガサ・クリスティ。二人の創作の背景を法月綸太郎が推理していきます。

 まず、ドイルの方ですが、ワトソンではなくホームズが書いたという形式を取っている「白面の兵士」「ライオンのたてがみ」を俎上に載せている。どんな話か忘れていたので私も読み返したけど、あまり出来は良くない。
 私は、ホームズシリーズって推理小説としてそんなに優れているとは思わないなぁ。有栖川有栖とか法月綸太郎の最盛期の方が、よほど素晴らしいと思う。ホームズ物がここまで時代を超えて読み継がれているのは、ホームズのキャラや、ワトソンとの友情、そしてヴィクトリア王朝時代の雰囲気が愛されているからだと思うよ。
 チェスタトンとドイルのやり取りまで出てきて、ちょっと深読みのしすぎ。マニアックな人には楽しいかもしれないね。

 一方、クリスティの名探偵ポアロについても、ポアロの双子の弟か兄かが取りざたされる。そういえば、小説内にそんな記述があったような…。実際、本人は登場してないが名前だけ出てきたような…。ただホームズの兄マイクラフトは作品に何回か登場したが、ポアロの双子の弟か兄は登場していない。そんなに大事なこと?この本の中では重大なことのようです。
ああ、重箱の隅をつつくような事ばっかりやってないで、もっと普通の推理小説が読みたいよお。

P.S. ポアロの助手ジョージという記述が出てきて焦る。ポアロの助手ってヘイスティングじゃなかった? ああ、助手じゃなくて従卒ですね。訳は難しい。
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絲山秋子 「御社のチャラ男」 講談社

2024-12-11 15:43:28 | その他
 「御社のチャラ男」というからには、A社のチャラ男、B社のチャラ男、C社のチャラ男…というように、各々の会社のチャラ男たちの品定めでもするのかしら?と思って買ったが、どうもチャラ男は、ジョルジュ食品の三芳部長一人のことらしい。
 しかし…うーーーん、この人、チャラいかなあ。

 縁故採用で40歳くらいで入社して、いきなり部長。前は何をやっていたかといっても、大した事はやってない。アメリカの西海岸で自分探しをしていたなんて言うと、人は感心したような顔をするが、実際いたのは半月にも満たない。もちろん英語もしゃべれない。
 日本に帰ってきてから、あちこちでバイトをしていた時に知り合った、資産家の一回り年上の女性と、意気投合して結婚。その奥さんの従兄弟がジョルジュ食品の社長だ。

 三芳部長は仕事ができない。でも、できなくたっていいんだ。部長だから。仕事は叩き上げの部下がやってくれる。三芳部長は、説教するだけ。そして、働き方改革と称して、さっさと帰り、休みもきちんと取る。ワークライフバランスを実践して、部下の手本となりたいみたいだ。

 こういう人って、どこの組織にもいる。チャラ男と特筆すべき人とも思わない。それよりも、筆者の絲山秋子さんは、男に対して辛すぎるような気がするな。例えば、総務のかなこさん(24歳)は、中途入社してきたイケメン社員に最初はときめいていたのに、彼が宴会で下ネタを連発したらしく、評価がダダ下がりだった。
 でもアルコールが入って「うんこ」「ちんこ」を連発するのは、女の人にも結構いるよね。異性にボディタッチが多くなるのも、男性だけではない。

 絲山さんは、早稲田の政経を出て一流企業(住宅設備機器メーカー)に入社し、総合職営業として各地を転勤してまわった。すごく優秀な人だから、男だから出世が早いとか、ポジションが自分より上、という例をたくさん経験してきたんだろうね。

 ああ、ごめんなさい。自分はそういった経験がないからか、あまり共感はできないな。たぶん私は、性別に関係なく無能に分類される人間だからだと思う。
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東野圭吾「ブラックショーマンと名もなき町の殺人」光文社

2024-11-23 09:52:28 | 東野圭吾
 東野圭吾の探偵役といえば湯川を思い浮かべるので、最初は、このブラックショーマン・元マジシャンの神尾武史に違和感があったが、読み進めるうちにしっくりくるようになった。特に金に汚いところが良い。何かと姪にたかろうとする。お金がないのかなぁ。恵比寿で『トラップハンド』というバーを一人でやっている。オーナーバーテンダー。家賃は高いだろうし、お客は少なそうだ。

 寂れた観光地でもある、平凡な小さな町で、一人の元中学教師が殺される。妻は数年前に亡くなっており、一人娘は東京で仕事をしている。彼女の視点で話は進行していく。そして年の離れた弟が一人。彼がブラックショーマンで、若いころ渡米しマジシャンをやっていた。そのせいか鋭い観察眼を持ち探偵役にピッタリ!
 近々、同窓会があるというので、被害者の周りにはかつての教え子たちが時々顔を出し、電話などで連絡を頻繁に取り合っていた。被害者は人格者で、恨まれるような人間ではない。なぜ殺された?
 一見、平和で穏やかに暮らしているように見える教え子たちにも、それぞれ事情があり秘密があり、不穏な動きをする。それを一つ一つの潰していき、最後に残ったのが…。
 事件が地味なせいか、伏線の回収が丁寧。なるほど、そういう事もあるよね、と思わされる。

 ここからは、思いっきりネタバレしているので、未読の人は読まないでください。

 犯人の陥った窮状はよく理解できる。でも、こういう事ってよくあるんじゃない? 優れたクリエーターだとしても、すべてオリジナルって事は少ないと思う。幼いころ見た紙芝居、アニメ、童話、映画。おばあちゃんに聞いた昔ばなし、友人とおしゃべりしている時にひらめいたストーリーのかけら。そういったモノ全てにインスパイアされて、新しい物語が出来上がってくるんじゃない?
 ほら、映画監督が自分が影響を受けた作品の話をするでしょう?何もないところからすぐれた作品は生まれないよ。
 だから犯人も、最初に原案〇〇〇と記入しておけば良かったんだよ。今更悔やんでも遅いけど。原案者もこの作品が世に出たことを喜んでいると思うよ。
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東野圭吾 「透明な螺旋」 文藝春秋

2024-10-26 12:47:01 | 東野圭吾
 ガリレオの出生の秘密が書かれているというので、読んでみた。ストーリーは面白く一気に読めたが、ミステリとしてはイマイチ。

 男が房総沖で遺体となって見つかる。同棲していた女にはアリバイがあるが、どういう訳か失踪してしまう。彼女の部屋を調べると、関係者として湯川の名前が…。
 しかし、この関係者というのはあまりにこじつけで、失踪している女と行動を共にしていると思われる絵本作家がいて、彼女の描いた絵本の参考文献に、湯川の名前が書かれていただけなのだ。そんなことで警察が湯川に事情を聞きに行くかな?ちょっと無理なような気が…。
 まあ、なんとかして湯川を登場させなければならないから、仕方ないか。

 それにしても、この遺体で見つかったDV男のクズっぷりがすごい。出会った当初は優しくて素敵な人だったが、失職し経済的に行き詰まると、唯一、自分がコントロールできる相手だと思っている女を、自分の支配下に置き、他からの影響を排除しようとする。
 例えば、このDV男は、母親を亡くした女が、自分以外の友人・知人と接触するのを嫌がり、メールアドレスを消させ、自分だけを頼るようにする。

 この方法って、芸能人が占い師に洗脳される事件に、よく出てくるんだ。支配したがる側と支配されたがる側。いったんこのカップリングが成立すると、なかなか解消できない。何年も続く。
 DVの場合、加害者が被害者を殺してしまうまで。窮鼠猫を噛む、みたいに被害者が加害者を過剰防衛で殺すこともある。とにかくこういったDV気質の人間からは逃げなくっちゃ! 後味の悪い結末。

P.S. 湯川の生物学上の母親の事は分かったが、生物学上の父親はどうしたんだろう?
コメント (4)
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「アリスはふしぎの国で」ルイス・キャロル著 大久保ゆう訳 青空文庫

2024-10-12 16:19:29 | その他
 「不思議の国のアリス」(ALICE IN WANDERLAND)ってこういった話だったんだ。昔からある有名なお話にありがちな、断片的に有名なところは知っている。例えば、おかしな帽子屋がお茶会を開いている場面、白うさぎが懐中時計を見ながら大急ぎで走り去っていく場面、トランプのクイーンが誰彼なしに「首をちょん切れ!!」と命令する場面、チェシャ猫が笑って顔が幅広くなっている場面などなど。
 でも、きちんと読んでいなかったので、読み通すと新鮮な驚きでいっぱい。それにしてもチェシャ猫って人気あるね。ふてぶてしいのが良いのかな。でもこんな猫が、自分ちにいたら困るよね。

 この不思議な話は夢オチなんだ。まあ、そうだろう。そうじゃなかったら収拾がつかないよ。それから詩や歌がふんだんに出てくるんだ。英国のお話らしい。だから自分には分からないけど、言葉遊びがいっぱい散りばめられているんだろう。それを日本語に何とか訳すのが訳者のウデの見せ所。難しいよね。英語のダジャレを日本語のダジャレに訳すなんて至難の業。英語に自信がある人は、自分で原書に挑戦するのが良いかもしれない。

 そして最も驚いたのは、キャロルが友人の子どものアリスたちと一緒にピクニックに行った時にせがまれて、出まかせのヨタ話を話して聞かせたのが、この名作が誕生するきっかけだという事。そのヨタ話があまりにも面白かったので、アリスが読みたいと頼み、彼が手書きで本にしてプレゼントしたのが最初らしい。文筆家が、知り合いの子どもに肉筆の物語をプレゼントする事って、当時(19世紀)のヨーロッパでは、時々あったみたいね。

 ルイス・キャロルは、作家として有名だけど本業は数学者で、専門書も何冊も出しているみたい。ロリータコンプレックスで、13歳のアリスにプロポーズしたという話も残っているけど、どうかねぇ。アリスは別の人と結婚してますけど。
 青空文庫で使われている挿絵は、擬人化した動物たちはgoodだが、アリスがあまり可愛くない。色々調べたが、アーサー・ラッカムの挿絵が素敵です。
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太宰治 「駆け込み訴え」 青空文庫

2024-09-22 14:54:52 | 太宰治
 大昔に読んだ萩尾望都の「トーマの心臓」を思い出した。
 神学校に転校しようとするユーリが「それでもユダはキリストを愛していたのか、そしてキリストもユダを愛していたのか」とつぶやくシーンがある。

 イスカリオテのユダって、どういう人だったんだろうね。裏切り者の代名詞になってる。一般的には、キリストの弟子だったが、彼を裏切り役人に彼を売った悪人として認識されている。でも彼にも言い分はあるだろう。
 しかし、実直で信仰心の篤いペテロやパウロよりも、魅力的な人物のような気がするなぁ。
 貧乏でもともと何一つ持っていない人がキリストに帰依するよりも、裕福な家に生まれたユダが、持っているモノこれから手に入るだろうモノを捨て、キリストに帰依する方が、大きな犠牲を払っている分、評価されるべきだと、ユダ本人が思うのも、あまりに人間的。

 最後の晩餐時、キリストが弟子たちに「おまえたちのうちの一人が、私を売る」と言い「私がいま、その人に一つまみのパンを与えます。その人はずいぶん不仕合せな男なのです。本当にその人は生まれて来ない方がよかった」と言って、ユダの口にパンを押し当てた、という記述がある。本当にそんなことやったんだろうか?あまりにも酷い。他の弟子たちの前で、公然とユダを辱めるなんて。憎まれるのは無理もないこと。
 そしてユダに「お前の為すことを速やかに為せ」と告げる。そしてユダは走って役人に訴え出る。

 という事は、ユダは利用されたんだ。というか、そういった損な役回りだったんだ。気の毒に感じます。
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夏目漱石 「夢十夜」 青空文庫

2024-08-25 12:41:39 | 夏目漱石
 夢って、どうして夢を見ているときには「これは夢だ」という事に気が付かないんだろうか? 荒唐無稽で夢だとわかりそうなものなのに。そして、どうして同じ家や部屋、駅や電車や線路が、繰り返し出てくるんだろう。

 この「夢十夜」も、漱石が本当に見た夢、という訳でもないんだろうけど、美しい夢、不思議な夢、ちょっと怖い夢、滑稽な夢、色々出てくる。その中で第七夜の話が、すごく印象に残った。
 一人の男が大きな船に乗っている。どこから乗ってどこで降りるのか、全く分からない。そもそも何のため乗っているのか分からない。ただただ船は、昇っては沈む太陽を追いかけている。どこに向かっているのか水夫に尋ねても返事はないし、他の乗客と会話らしい会話はない。
 男はつまらなくなって、とうとう死ぬことを決意した。
 ある晩、あたりに人のいない時分、思い切って海の中に飛び込んだ。ところが自分の足が甲板を離れたその瞬間、急に命が惜しくなった。心の底からよせばよかったと思った。やっぱり乗っていた方が良かったなと思い至ったが、もう遅い。無限の後悔と恐怖とを抱いて、黒い海へ静かに落ちていった…という話。

 そうだよなーーー。高いビルから投身自殺した人の記事を読むたび、この人は、投身自殺しようとジャンプした瞬間、そして地面に激突する瞬間、後悔の念にとらわれなかっただろうか?もし後悔したなら、本当に可哀相だ。悲劇だ。

 昔、読んだレディスコミックにこんなのがあった。夫の愛人問題で悩んでいた女性が、夫の心を取り戻そうと狂言自殺を図る。小学校低学年の娘にお使いを頼み、その間に大量に睡眠薬を服用、お使いから戻った娘に発見してもらおうと考えたのだ。しかし娘は母親の心を知らず、道草して遅く帰宅。母親は死んでしまった。お母さん、さぞ無念だったろうね。「なぜ娘は帰ってこない?このままでは私、本当に死んでしまう」それが怨念となって成仏できないだろうよ。
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東野圭吾「ブラック・ショーマンと覚醒する女たち」光文社

2024-08-08 16:37:24 | 東野圭吾
 すごく久しぶりだなと思っていたが、およそ1か月ぶりなんだ!! 驚いた。7月下旬べらぼうに忙しくて、おまけにべらぼうに暑くて、読書どころの騒ぎじゃなかった。8月の後半からは、落ち着いて読書ができるようになってほしいです。

 神尾武士は恵比寿にあるバーのオーナーバーテンダー、真世は大手不動産会社リフォーム部に所属している一級建築士。顧客は都心に近い分譲マンションをリフォームしたいというお金持ちばかりだ。
 私は首都圏に住んだことないから分からないけど、マンションでも何億という資産価値があり、リフォームといっても2千万3千万かかるみたいね。そういう世界で生活している人たちの話。どこをみても貧乏人はでてこない。やっぱり、これ出版社が光文社だからかなぁ。

 私はこのところ「財布は踊る」とか「燕は戻ってこない」といった、東京で非正規で働く20代女性の貧困を書いた小説をよく読んでいたから、不思議な感覚。断絶してるんだ。お金持ちと貧乏人は。まぁ、今に限った話じゃないけど。

 筆者の東野圭吾が超売れっ子作家で、まわりに裕福な家庭出身で高学歴の美女ばかりなんだろうな。
 最終話の「査定する女」。文字通り、玉の輿を狙って婚活している女性が、真世のリフォーム上客であるハンサムでお金持ちの男性と知り合い、良い雰囲気になっていく話。身長180㎝前後、年齢は40歳くらい、役員車両でイタリアの高級家具ショールームに自宅で使うソファを選ぶため訪れている。
 そもそも、こんな男が独身だというのがおかしい。話は二転三転し…興味のある人は読んでみてね。

 私が東野圭吾をナナメに見てしまってるのは自分のやっかみで、エンタメ小説としてとても面白いですよ。
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