ケイの読書日記

個人が書く書評

吉行和子 「老嬢は今日も上機嫌」

2016-06-23 16:25:34 | Weblog
 老嬢というのは、あんまりな…と思う。しかし、一度結婚した経験のある人でも今が独身なら、嬢をつけて良いんだろうか?という素朴な疑問も浮かぶ。

 吉行和子さんは1935年生まれらしいから、現在は80歳or81歳。有名な女優さんだ。「金八先生シリーズ」に出てたから覚えている人も多いだろう。
 この人がすごいのは、いまだに現役であること。舞台女優出身で、TV、映画と活躍の場を広げたが、60年近く第一線で活躍してきた。だから、芸能界の生き字引みたいで、いろんなことを知っているんだ。それに、今は亡き名優たちとの思い出話も面白い。
 そうそう、「おすぎとピーコ」のおすぎと40年来の友人だという。舞台衣装を作ってもらったのが始まりらしい。この文庫のあとがきも、おすぎが書いている。

 それから、生まれ育った家が、芸術家一家だったことも有名。父は吉行エイスケ(ごめん、この人、知らなかった) 兄は吉行淳之介(芥川賞作家、二枚目で大変もてたらしい。作品も有名だが、私は読んでいない) 妹は詩人の吉行理恵(私、詩は全く読まないからなぁ、有名かどうかわからない) 母は日本初の高名な美容師(この辺の事は、昔のNHK朝のドラマ『あぐり』に詳しい)
 家系的に文筆の才があるのだろう、この本のようにエッセイも書くし、俳人としても活躍しているらしい。


 でもやはり、一番興味を引くのは舞台のこと。もともと彼女は舞台女優なので、仕事柄よく観劇するみたいだけど、映画と違って芝居やオペラ、歌舞伎のチケットは高価だから、一般人にはなかなか敷居が高いんだよね。
 私など、子ども向けミュージカルとか宝塚を数回観た事があるだけ。ああ、劇団四季の『オペラ座の怪人』を一度観た事があったっけ。一万円以上した。そう考えると、宝塚は良心的だなぁ。
 シェイクスピアの戯曲など、読んでみたいと思って取り掛かるが、すっごく読みにくいので途中で挫折。これも、お芝居をあまり観てないせいだと思う。お芝居をたくさん見てる人は、戯曲を読むだけで芝居の場面がパッと頭の中に浮かび、登場人物が動き回るんじゃないだろうか?
 「マクベス」とか「リチャード3世」とか、観たいし読みたいです。
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コーネル・ウールリッチ 宇野利泰訳「聖アンセルム923号室」 

2016-05-04 09:13:16 | Weblog
 以前、読んだ有栖川有栖の「鍵のかかった男」の中に、この小説が紹介されていた。どうしても読みたくなって図書館で予約する。
 原題は『HOTEL ROOM』というらしい。

 ニューヨークの聖アンセルムホテル923号室を舞台に、ホテルを開業した1896年から廃業した1957年まで、7つの短編をつらねて、このホテルの一生を書いている。
 色々なお客様が、この923号室に泊まっていった。
 開業した初日には、初々しい新婚夫婦、アメリカが第1次大戦に参戦した1917年4月6日夜には、愛国心に燃え軍隊に入隊したばかりの若い男とその恋人。彼らは戦争が終結した1918年に、同じ部屋で再会したが、その時にはすっかり熱は冷め、それぞれ別の相手と付き合っていた。
 1924年、禁酒法真っ只中には、権力を失いかけたギャングのボスが、数名の手下と女たちを連れ923号室に身をひそめるが、手下や女たちは彼を見限り、次々と姿を消す。そして殺し屋が現れ、彼の最期の時は近づく…。
 1929年の大恐慌の時は、株式で大損した男が、923号室の窓から飛び降りようと身を乗り出し…。
 真珠湾攻撃で、日米開戦する前日、923号室に泊まった訳アリの二人組もいた。
 そして、さらに時代は流れ、聖アンセルムホテルも老いを深めていく。

 筆者は同性愛者だったようなので、マイナーな立場の人々の事が気にかかったようだ。
 例えば、1917年にアメリカがドイツ側に宣戦布告した後、ホテル内でのドイツ系宿泊客に対する嫌がらせはひどい。宿泊名簿からドイツ系の名前を探して、追い出しにかかる。ドイツから来た観光客じゃないんだよ。先祖がドイツ人というだけのアメリカ生まれのドイツ系アメリカ人を標的にした。
 また、1941年12月には、日系と思われる青年が出てくる。この人も親が日本から移民してきたというだけで、アメリカ生まれの日系アメリカ人。彼らのこの先の苦難を思うと、胸がつぶれるような気がします。


 筆者のコーネル・ウールリッチ(ウイリアム・アイリッシュという名の方が有名だろう)も、実際18歳くらいの時から、母親と一緒に、母親の死後は一人でホテル暮らしをしていたようだ。

 たまに泊まる分には浮き浮きするホテルだが、そこで暮らすとなると、どうだろう? 荷物なんかどうするの? 当時にもトランクルームってあったんだろうか? それとも彼は、モノを所有するのが嫌いな人だったんだろうか?
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益田ミリ 「今日も怒ってしまいました」

2016-04-29 10:36:26 | Weblog
 益田ミリお得意の、いつものエッセイ&4コママンガだが、すごーく考えさせられる話がある。

 「花泥棒」というエッセイの中の話。
 大阪生まれ、大阪育ちのミリさんが上京して6年。近所に洋服屋さんが新装オープンし、店頭にお祝いのお花が並べられた。そのお花を一輪、持って帰ろうとしたら「この泥棒!」と、洋服屋さんの隣の総菜屋のおじさんに怒鳴られたのだ!
 この話を読んで違和感を感じないのは東日本の人。私は名古屋だけど、ミリさんも書いている通り、店先のお祝いの花は「勝手にもらってOK」。開店祝いの花がすぐになくなると、その店は繁盛するといわれ、反対にいつまでも花が残っているような店は流行らないといわれる。
 ミリさんも、そのつもりで花を持って帰ろうとしたら、罵られたのだ。
 いやーーーー、かわいそうだなぁ。大勢の人がいる前で「この泥棒!」って怒鳴られれば、本当に恥ずかしいよ。二度とその通りを歩きたくなくなるね。
 しかし、この年配のおじさん、西の方では、そういう風習があるって話を聞いた事なかったんだろうか?

 それから部屋探しで不動産屋に冷たくあしらわれた事も書いている。
 そうだよね。フリーだから苦労するだろう。あの角田光代さんも、若くて知名度がない時に本当に苦労したって書いてあった。職業欄に「小説家」と書いたら「小説家って、小説を出版してるんですか?」と質問されたそうだ。他に、どんな小説家があるの?
 今は、直近の数年分の所得証明を出せば、対応してくれる所が多いらしい。
 それに保証人! 父親が会社勤めの時はまだいいが、定年退職して年金生活になると、不動産屋は嫌がる。この保証人、皆さん、どうしていらっしゃるのだろうか? こんなに親戚の数が少ないと、頼める人がいなくなっちゃうよ。
 だから、レオパレスみたいな保証人必要なしのアパートが、いっぱい建つんだろうね。


 それから、ミリさんはパチンコ好き。大阪に両親と妹がいて、とっても仲良し。結構きれい好きで部屋はきちんとしている、などなどミリさんの事、いろいろ分かるエッセイです。
コメント (4)
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鎌田慧 「橋の上の『殺意』 畠山鈴香はどう裁かれたか」

2016-04-25 10:04:12 | Weblog
 2000年4月、秋田県の山間の町で、小学4年生の彩香ちゃんが友達の家に遊びに行くといって家を出たまま帰宅せず、翌日、川の中州で水死体となって発見された。警察は、川に転落した事故死と判断した。
 それから1か月後の5月、彩香ちゃんの家の隣の隣の家の小学1年生の男の子・豪憲君が行方不明になり、翌日、川の土手で絞殺死体となって発見された。
 なにしろ28世帯しかいない町営住宅で、小学生二人が1か月の間に、あいついで死体で発見されたのだ。町は大騒ぎになる。

 ここで初めて警察は、2件を事件として関連付け捜査を開始。逮捕したのは、最初、川への転落事故として処理された彩香ちゃんの母親・鈴香だった。


 もう10年も前の事件になるんだ。でもはっきり覚えている。なにしろTVのワイドショーは、毎朝この事件でもちきりだった。鈴香は連日TVに出演し、自分の娘と近所の豪憲君を殺した犯人を捕まえてほしいと訴えた。
 ただ地元では、最初から母親の鈴香があやしいという噂が流れ、豪憲君殺しも彼女ではないかと囁かれていた。
 なんせ豪憲君は、自宅から80メートルほど離れた所で友達やその母親とサヨナラして、鈴香の家の前を通り、家に帰るところで行方不明になったのだ。不審者、不審車両の情報はなし、被害者の叫び声も悲鳴も聞こえてこなかった。


 彩香ちゃんについては、殺意があったのか事故だったのか、本人にも分からない。ただ彩香ちゃんが橋から川に転落した時、すぐに救急車を呼ばず家に逃げるようにして帰ったのは(弁護側の精神科医は『健忘』としている)もし事故だとしても、鈴香に重大な過失があったのだろう。

 でも、母親としての鈴香の気持ちも分かるような気がするなぁ。
 夕方になって娘が川で魚を見たいと言い出す。暗くなってるから見えないよと諭しても、娘は見たいと駄々をこねる。しかたがないので車でサクラマスがよく集まるという橋の上に行き、川をのぞかせ帰ろうとしたら、娘が身を乗り出してもっとよく見たいから「お母さん、身体をつかんでいてね」と頼んでくる。
 体調が悪くて、早く家で横になりたいのに、なんて身勝手な子だろう。ああ、うざい。目の前から消えてくれたら…
 そういう気持ちが一瞬でも胸の中をかすめても不思議はない。

 豪憲君殺しは認めている。ただ、その動機を鈴香の弁護側は「自分の娘は死んでこの世にいないのに、豪憲君は元気なのでうらやましい。天国で娘と一緒に遊んでほしいと思い、豪憲君を殺した」と主張しているが無理がある。
 もしそうなら、同じような年恰好の女の子を殺害するだろう。だいたい、カッとなって衝動的に首をしめたなら素手でだよね。わざわざ軍手をはめ、紐で首を絞めるだろうか?どう考えても計画性があると思う。
 裁判所は「彩香ちゃんが邪魔だから殺したと噂された鈴香が、世間や警察の目をかく乱しようと連続殺人犯をでっちあげた」という判断をしている。しかし…これもしっくりこないなぁ。
 一部の人が主張している「彩香ちゃんを車に乗せ橋に行くところを豪憲君に目撃されたor目撃されたと思い込んだ鈴香が、口封じのために殺した」が一番納得できるような…。


 筆者の鎌田慧は、さかんに「鈴香の育った劣悪な家庭環境」を言い立てているが、私にはそれほど劣悪だとは思えない。
 確かに、父親は暴君で暴力で家族を支配したけど、娘を風俗に売り飛ばして自分はギャンブルするようなタイプではなく、彼なりに娘を愛していた。鈴香は、母親と弟とは、すごく仲が良かった。彼女は「私には、母と弟と元カレの3人の味方がいる」と言っていたそうだ。(元カレはさっさと検察側に寝返った)
 ただ、母親を味方とするのは分かるが、弟を自分の味方と考える人は少数で、幸せな家庭だったんだなと思うよ。
 この弟さんは、鈴香が出頭するとき、車に乗せ警察署まで送って行ってた。TVのワイドショーに映っていた。なんて姉想いの優しい弟なんだと、感心した。
 だって、自分に置き換えて想像してごらんよ。私には兄がいるけど、兄が殺人を犯したかもと疑われた時、付き添うだろうか?絶対できない、絶対やれない。遠く離れた場所に逃げていき、知らんぷりする。

 この弟さん、本当に気の毒だなぁ。
 親はその道義的責任はまぬがれないだろうが、兄弟姉妹は本当に気の毒。
 鈴香のお父さんは病死、お母さんは離婚して県外の実家に戻り、弟さんはどうしてるんだろう。あの狭い集落で息をひそめ生活してるんだろうか?

2009年5月18日  畠山鈴香 無期懲役刑 確定。
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水戸計 「江戸の大誤解」

2016-04-04 09:20:12 | Weblog
 表紙のカバー写真が「殿様の登城」写真。へぇぇぇと興味を惹かれ借りてみた。幕末なのだろう、駕籠に乗ろうとする殿様、刀を差しだす家臣、あと6人はお侍らしくない。このうち2人が駕籠かき屋さんだろう。あとは下男なのかな?ずいぶんこじんまりしているから小大名だね。どこの藩主だろう。
 本の内容は、アカデミックなものではなく、雑学的な知識ばかりなので、すごーーーく読みやすかった。

 水戸黄門、大岡越前、遠山の金さん、鬼平など、TV番組のヒーローたちのエピソードはほとんど嘘。剣豪・宮本武蔵は剣の達人というより、すぐれた芸術家だった…etc(実際、いくつかの宮本武蔵の画は、国の重要文化財に指定されているらしい)

 江戸は、世界的に見ても、当時、ロンドンと並ぶ大都会で、庶民はさほど悲惨な生活を強いられていた訳ではなく、娯楽も多かったそうだ。(春は花見、夏は花火や祭りで大賑わい)
 江戸のファッションリーダーは、吉原の売れっ子遊女。遊女たちの髪形や化粧法、着物の柄や着付け方を、町の女性たちがこぞってマネしようとしたとか。
 また、高度な循環型社会で、エコの面から考えると、現代よりもうんと進んで先進的ともいえる。
 確かに、輸入に頼れないから、資源をリサイクルさせるしかないよね。古紙回収は現代でもやっているが、火鉢などから出た灰も業者が集めて、農家に売っていた。(灰は水に溶かすとアルカリ性になり、酸性土を中和した) 鉄くずやろうそくの燃えカスも集め、再生するシステムが出来上がっていたようだ。

 そうそう、特筆すべきは人糞!! この人糞が農作物の肥料になることは古くから知られていて、近隣の農家で争奪戦が勃発。長屋では共同便所を屋外に作っていて、その糞尿の権利は大家さんが持ち、近くの農家に年間三両(約30万円)ほどで売っていたとか。すごい高値! びっくり! しかもこの糞尿にはランクがあり、大名屋敷のはAランク、吉原のはBランク、牢屋のは最低ランクだったらしい。まぁ、糞尿を出す人の食生活から考えても、納得できる。

 お金になるものを、毎日身体から排出していたことを考えると、江戸時代の人は、リッチな気分になれたかもしれないね。
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