ケイの読書日記

個人が書く書評

湊かなえ 「ベストフレンド」 光文社

2021-06-18 14:20:09 | 湊かなえ
 脚本家が主人公という作品は、林真理子の小説や内館牧子のエッセイ、東村アキコのマンガで読んだことあるけど、やはりメジャーではないからピンとこない。私、脚本家の名前もほとんど知らないしね。
 今、TVドラマが低調なので、ゲームのシナリオライターを目指した方がいいんじゃないの?なんて心配しちゃう。でも、この小説の主人公・涼香は大人の恋愛話が得意だから、やっぱりTVドラマ向きか…。
 でも、TVドラマの脚本家ってそんなにたくさん需要があるんだろうか? なんて、ウツウツ考えながら読んだ。

 涼香は、宅配事務のアルバイトをしながら脚本を書いて応募している30歳女性。毎朝テレビ脚本新人賞を受賞した。その時の最優秀新人賞を受賞した薫子に、猛烈なライバル意識を持つ。
なぜなら、本当は涼香こそ最優秀新人賞に輝いていたはずだから。多数決では涼香の作品が一番だったのに、選考委員長の大御所が、薫子の作品を気に入って推したので、ひっくり返ってしまったのだ。
 薫子は島根在住のパッとしない女で、その点でもそんな女に負けたという事が、都会の女である涼香には許せなかった。
 涼香は、どんどん担当プロデューサーにプロットを送り指示を仰ぎ、仲良くなっていく。脚本家の世界にも枕営業という言葉があるんだ。タレントや女優さんではよく聞くけど。もちろん涼香はそんなことしてないが、仲良くするにこしたことはない。仕事をもらえることになったが、低視聴率に終わり、担当プロデューサーは左遷される。
 一方、薫子の方は初めの方こそもがいていたが、良い理解者に巡り合い、力作を書き始める。そして…

 脚本家の収入ってどれくらいなんだろうね。もちろんドラマ1本いくらって勘定なんだろうけど、その値段の交渉って自分でやるの? それに連続ドラマだと、低視聴率で途中で打ち切りになったりすると経済的に大打撃。一時的に人気があったとしても、それが続くことは少ないし、とすると需要がなくなったら何をやるんだろう? シナリオ教室の講師とか。うまく小説家に進路変更できる人は良いだろうけど。

 シナリオライター、ああ、厳しい世界です。「この世に容易い仕事はない!!!」(津村記久子の小説のタイトルから)
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湊かなえ 「マイディアレスト」 光文社

2021-06-11 10:40:33 | 湊かなえ
 湊かなえって人は、本当にこういった家族間(この場合は姉と妹)の軋轢というか緊張を書くのが上手だなって、つくづく思う。

 淑子はアラフォー女性。親に厳しく育てられたせいか、人との付き合いが下手で、勤めても1~2年で退職・転職を繰り返す。ここ数年は仕事が見つからず、無職のまま実家でぶらぶらしていた。実家は経済的に困っておらず、淑子が働いてなくても文句を言わないので、のんびり過ごしていた。
 ところが、淑子の6歳年下の妹・有紗が妊娠し、赤ちゃんを産むために帰ってくる。実家は初孫が生まれるウェルカムモードに入ってしまい、淑子が少し居づらくなる。6歳年下の有紗とは実のところ、あまり仲良くない。
 小さい頃から、母親は姉の淑子には厳しかった。(例えば、男の子からの電話を取り次いでくれない)しかし妹には甘々で、お小遣いを与えてデートに送り出す。よくある話だと思う。
 その不満を親にぶつけてみても、うまく言いくるめられる。しかし、両親との関係は悪くなかった。妹が里帰り出産で実家に帰ってくるまでは。

 妹の有紗はイマドキの女の子で、実家にボーイフレンドを連れて泊りがけで帰ってくる。家族は、結婚の挨拶だろうと思ってもてなすが、遊びに来ただけで、男はそのまま帰っていく。そんな事が何度もあった。
 つまり、姉とは全く違って、姉の事をバカにしていた。姉の部屋に勝手に入って来て、本棚のロマンス本を勝手に取り出し読んで「バッカじゃないの!40過ぎの女が大会社の御曹司に見初められハッピーエンドなんて、あるわけないじゃん!!」と毒づいている。

 ああもう、事件の前兆がはっきり現れてるよ。

 そもそも、どうして里帰り出産なんかするの? 実家には未婚の姉がいるのに。母親に手伝いに来てもらえばいいだけなのに。
 だいたい、昔話や民話では、姉より妹が幸せになる話ばかりだ。WHY? 年が少ない方がカワイイという世界共通認識があるんだろうか?
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湊かなえ 「贖罪」  二葉文庫

2017-10-16 10:40:37 | 湊かなえ
 WOWOWでドラマ化しているので、知ってる人も多いと思う。(私は観てないけど)

 15年前、静かな田舎町で、一人の女の子が性的暴行を受け殺害された。フランス人形のように可愛らしかったエミリちゃん。
 直前まで一緒に遊んでいた4人の女の子は、犯人と思われる男と会話していたが、なぜか顔が思い出せず事件は迷宮入りになる。
 4人も目撃者がいるんだ、犯人はすぐ逮捕されるだろうと思っていたエミリちゃんの母親は驚き、嘆き悲しみ怒り、その矛先を4人の女の子に向けた。
 母親は言った。「あなたたちを絶対に許さない。必ず犯人を見つけなさい。それが出来ないのなら、わたしが納得できる償いをしなさい」と。重い十字架を背負わされた4人の少女は、15年後、時効の直前に、それぞれの償いを果たそうとする。

 『親の因果が子に報い』という言葉を思い出した。すべての元凶は、このエミリちゃんのお母さん。
 なにを、10歳の女の子4人集めて、怒鳴り散らし、脅迫してるんだ。すべて、おまえのせいだろうーーーが!!!
 金持ちのぼんぼんをつかまえ、良家の奥様におさまった。でも若い頃、さんざん酷い事やったそのバチが、いつか当たるんじゃないだろうかという怖れが、この女には全くないんだ。サイテーです!!

 4人の女の子の中で、真紀が一番、償いに真摯に取り組んだ。彼女は、小学校の先生になり、不慮の事故や事件から子どもを守ろうと、体を鍛えていた。そんななか、プール指導時に、不審な男がサバイバルナイフを持って男児に襲いかかる。真紀先生は果敢に応戦、男はあやまって自分の太ももを刺し、プールに転がり落ちる。
 プールから上がろうとした男の顔をけりつけ、男をプールに沈めるが、その後、男の死亡が確認。殺人罪で、真紀は警察に逮捕される。

 こういう場合、いったい真紀はどうすればよかったんだろうか?不審者には、精神科に通院歴があるという。でも、そんなこと、その場じゃわからない。目の前の危機には関係ない。プールから上がろうとした男の顔を蹴り上げたのは、プールサイドにまだ、最初に刺された男児が残っていたから。
 後から、マスコミや保護者がやりすぎだ、殺人だと、非難するのはおかしいよ。

 湊かなえも、教師の経験があるから、保護者の理不尽な要求に、うんざりする事も多かったんだろう。
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湊かなえ 「少女」 早川書房

2017-08-09 10:03:04 | 湊かなえ
 高2の夏休み前、由紀と敦子は、転入生から、彼女の友人が自殺した話を聞く。その告白に魅せられた二人は「人が死ぬ瞬間を見たい」という思いにとらわれる。
 由紀は病院でボランティアをし、重病の少年の死を目の当たりにしたいと願い、敦子は老人ホームで手伝いをして、入居者の死を目撃しようとする。

 
 彼女たちは偉い!! 願いが「人が死ぬ瞬間を見たい」であって「人を殺してみたい」じゃないから。「人が死ぬ瞬間を見たい」と相談されたら…「看護師さんになったら?」とアドバイスするかなぁ。でも、そういう事じゃないんだよね。周囲は何も知らない子ども。私だけが『死』を知っている大人だ。だって私は「親友の死を目の前で経験したんだもの」といった特権意識にひたりたいんだろう。

 「人を殺してみたい」と相談されたら…困る。外人部隊に志願するか(給料、良いらしい)、テロリストの仲間になるか(自爆テロを起こせと言われ腹に爆弾まかれそう)、自殺志願の人と出会って委託されるか(それでも罪を問われるだろう)


 この小説では『因果応報』も大切なファクター。生徒の小説を盗作した国語教師は、成績表データが流出し退職に追い込まれ、電車に飛び込む。うそ痴漢をでっち上げ、気の弱いサラリーマンからお金を巻き上げた女子高生は、自分の親が犯罪にかかわったとして、クラスから迫害され自殺する。
 家庭内で居場所が無いおじさんは、職場のモデルハウスで、娘と同じ年頃の女子高生にセクハラし、ストレスを解消しようとするが、逆に訴えられる。
 自称小説家と援助交際していた女の子は、悲惨な最期を…。

 そういえば、由紀の認知症のおばあちゃんだけは、どんなに人に暴力をふるっても報いが来ないね。それとも、ボケながら生き永らえているのが『因果応報』なのかも。
 しかし由紀など、命に係わるほどの暴行を受けたのに、後遺症が残って、左手で物が持てないほどのケガを負わされたのに、両親は身内の恥は外に出さないと言って、由紀が自分でガラスを割ってケガをしたと医者に伝えている。こういう所が分からない。
 施設に入所しても、職員に暴力をふるい、その人が泣きながら辞めていったのに、何のお咎めもなし。これって傷害事件だよ。


 そうそう、青酸化合物を使った連続殺人事件で、男性4人への殺人罪に問われた筧千佐子被告も、弁護側は、被告は認知症なので無罪、と主張している。認知症って無敵なのね。驚くワ。


 まとまりのない事を書いたが、さすが湊かなえ、面白い。一気に読めます。
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湊かなえ 「母性」 新潮文庫

2017-07-19 11:35:00 | 湊かなえ
 話の本筋とは関係ないのだが、すごく変で気になって仕方がない箇所がある。
 最初のページに新聞記事として「Y県Y市**町の県営住宅の中庭で、市内の県立高校に通う女子生徒(17)が倒れているのを、母親が見つけ、警察に通報した。**署は、女子生徒が4階にある自宅から転落したとして、事故と自殺の両方で原因を詳しく調べている。」という記述がある。
 そのつもりで読んでいたら、最後の方で、その女子生徒が大きな農家である自宅の庭のしだれ桜にロープをかけ、首をつろうとする場面が出てくる。えええ?! どっち?! それとも自宅で首をつり、枝が折れて下に落ちた身体を、県営住宅の中庭に引きずったんだろうか? でも、女子生徒の自宅は4階にはないんだよ。 単純ミス?

 女子生徒の母親は、立派な両親のもとに素晴らしい家庭環境で育ち、絵画教室で知り合った男性と結婚し、高台の小さな一軒家で暮らし、娘が生まれる。だが、火事で家は焼け、夫の実家で義父母と住むようになる。もともと大地主で資産家、ドラマのような嫁いびりが始まった。
 私は、いつ彼女が離婚して県営住宅に引っ越すんだろうと、期待しながら読んだが、最後までそれはなし。

 作者は思い込みがあって、気が付かない事もあるだろうが、担当者とか校正の人とか、気が付かないんだろうか? だって初出は2012年の単行本だし、2015年には文庫でも出ている。どうして訂正しないんだろうね。

 湊かなえさんも、売れすぎて雑になってるかも。こういった小さな事件or事故の裏側にある、表に出せない真実を丁寧に書いていくのは、湊かなえの得意とするところだが、今作品はそれが上手く行ってない。

 女子生徒の祖母(母の母)が、もやっとする。現実離れしている。一緒の毒親なのかな?
 別に子供を虐待するわけじゃない。むしろ、その反対で、愛情を精一杯注いで、大切に大切に育てている。娘もその愛情にこたえている。でも「お母さんは私の分身」なんて娘が感じだしたら…フリルの付いた虐待と言われても仕方ないんじゃない?
 日常生活でリルケの詩を口ずさむような母親なんて…私だったら迷惑だよね。
 娘の夫になる人を評して「湖のような人。たぎる情熱や一番大切な感情を深い底に沈めているんじゃないかしら?」なんて詩的な表現をするのは、越権行為。

 この女子生徒の祖母は、家が火事で焼けた時、不幸というかヒロイックな死に方をした。そんな事、できないよ!! あまりにも立派。この人と対照的なのが父方の祖母。嫁をいびり倒す。人間的、人間的。ちょっとホッとするね。
コメント (4)
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