ケイの読書日記

個人が書く書評

今村夏子 「おばあちゃんの家」 「森の兄妹」

2018-01-12 13:29:39 | 今村夏子
 この2編は対になった作品。どちらにも優しいおばあちゃんと、隠居所としてのおばあちゃんの家が出てくる。

 「おばあちゃんの家」では、みのりちゃんという、おばあちゃんの孫娘の目線から物語が語られる。実は、おばあちゃんとみのりちゃんには、血のつながりはない。ここらへんの事情は詳しく書かれていないが、私が勝手に推測するに、おばあちゃんは子宝に恵まれず、男の子(みのりちゃんの父親になる人)を養子にもらったのではないか?
 そのせいか、みのりちゃん以外、あまりおばあちゃんのいる隠居所に行かない。自宅から15歩隣にあるだけなのに。つきあいはいたって淡白。嫁姑の争いもない。

 でも、みのりちゃんはおばあちゃんが大好き。お母さんの言いつけを破って、一人でお祭りに行って迷子になった時、おばあちゃんが迎えに来た。その時、おばあちゃんはこっぴどくお父さんやお母さんに叱られた。そういう事に、みのりは心を痛めている。
 最近は、それ以外にもおばあちゃんに認知症の症状が出てきたので、心配している。

 みのりの作ったおはぎを、一度に4個全部食べてしまったおばあちゃん。年を取ると食がだんだん細くなる。普通ならいくらなんでも年寄りが食べる量じゃない。私もボケかかった実母を見ているから分かる。食べた事を忘れ、また食べる。
 そして、誰かドロボウが入って来て食べたんだ、私じゃない、と主張する。

 そのおばあちゃんと「森の兄妹」に出てくるモリオ・モリコ兄弟が仲良くなる。

 モリオ・モリコ兄妹の家は、どうも母子家庭みたいで、お母さんは身体が弱くて通院しているが、1日中働きっぱなし。それで、小2のモリオが、お米を研いで炊飯器にセットしたり、小さな妹の面倒をみているのだ。 モリオはものすごく感心な子なのだ。
 私、この「森の兄妹」を読んで、どうしてこんなに心が惹かれるのかと自問したが…どうも小学5・6年生の時の同級生・T沢君を思い出したからだと思う。
 T沢君ちは父子家庭で、お母さんが家を出て行って、家事は一切、T沢君がやっているという話だった。まだ小さい弟や妹がいたとおもう。
 ああ、T沢君、もやしみたいに色白のヒョロっとした子だった。今、どうしているかなぁ。幸せになっているよね。きっと。
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今村夏子 「あひる」

2018-01-02 10:56:30 | 今村夏子
 皆さま、あけましておめでとうございます。親の介護の必要が出てきて、ブログの更新が遅れることがありますが、それでも頑張ってやっていきますので、今年もよろしくお願いいたします。


 小説の導入部は優しい雰囲気。おだやかな老夫婦とその娘(この人が語り手「わたし」)の一家のもとにアヒルがもらわれてきて、世話をしていたら、近所の子供たちがアヒルを見学に集まってきた。
 老夫婦は寂しかったのだろう、子供たちを歓待し、家の中に入れてお菓子をあげたり、宿題をさせたりする。

 ここらへんで私の心が少しザワっとする。山間の静かな田舎町。子どもたちがどこで遊んでいるか分からない訳ないのに、彼ら彼女らの親御さんはどうしているの?「いつも子供がお菓子をいただいているそうで、ありがとうございます。これ、貰い物ですけどどうぞ。」くらい言いに来ないのが不思議。

 あの家に行けば何でも好き勝手できる、という評判が子供たちの間に広まったのだろう、最初は小学生がアヒルと遊びに来ていたのに、不良中学生の溜まり場になり、家の中の物を勝手に持ち出して換金したり、お金をくすねたり、やりたい放題。
 そこへ老夫婦の息子(語り手の弟)が帰って来て、不良たちをたたき出す。実は息子は中学ごろ素行が悪く、老夫婦は困っていたが、だんだん落ち着いてきて10年ほど前に家を出て結婚した。
 ここで、語り手「わたし」の年齢と状況が分かってくる。弟が30歳ちょっととすると、その姉だから「わたし」は30歳代半ばだろう。医療関係の資格を取ろうと、家でずっと勉強している。今まで一度も働いた事はないらしい。引きこもっている訳ではないが、家族以外とはほとんど話さない。

 そう、この「わたし」がどういう立ち位置の人が分からなかったから、読んでいて落ち着かなかったのかも。
 一見、穏やかに見えるこの一家が、実はどうしようもなく歪んでいて、昔ヤンチャをやっていた弟の方が、実はまともな人間だったんじゃないか。


 実は、もらったアヒルは1か月くらいで死ぬ。老夫婦はアヒルを動物病院に連れて行ったら治ったと偽り、別のアヒルを買ってくるが、そのアヒルも1か月ほどで死ぬ。理由は分かっている。環境の変化によるストレス。たくさんの子供たちに見つめられ、触られ、追いかけ回され、ストレスが過度にたまって食欲不振になったのに、なんの対策も取らなかったからだ。
 子どもたちに、アヒルを追い掛け回さないようにと言うと、家に子供たちが集まって来なくなるから、アヒルを見殺しにした。
 自分たち老夫婦が、子供たちに囲まれていたいがために。

 小説の最後は、息子夫婦に孫が生まれるからと、二世帯住宅に建て替えている最中で、老夫婦はニッコニコ。でも、この老夫婦は孫をダメにしそうで、怖い。
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