ケイの読書日記

個人が書く書評

市川沙央 「ハンチバック」 文藝春秋

2023-09-26 15:36:30 | その他
 性的な描写が多く、ドギマギしてしまった。でも、それも障害のある女性は清らかに生きているはず、という私のゆがんだ思い込みのせいかもしれない。

 釈華の背骨は右肺を押しつぶすかたちで極度に曲がっていて、ヘルパーさんがいなければ日常生活が送れないが、頭脳は明晰。インターネットでエロ記事を書いて収入の全額を寄付している。(たいした金額ではないが)
 釈華は経済的には恵まれていて、働く必要はないのだ。亡くなった両親は資産家で、彼女の終の棲家としてグループホームの敷地と建物を遺した。その十畳ほどの部屋で、彼女は生活し、有名私大の通信課程で学び、小説を18禁TLサイトに投稿し、零細アカウントで「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」とつぶやく。

 この「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」という願望は、昔から多くの女の心を捉えている。ヨーロッパでは、高級娼婦が上流階級の貴婦人とはりあい、ファッションや美容の分野で大きな影響を与えたし、日本でも、吉原の高級遊女たちが浮世絵の題材となり、化粧法や衣装で一般女性のあこがれだった。
 一昔前でも、売れっ子芸者の写真が、現代の芸能人のブロマイドみたいに人気だったようだ。
 だから「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」という願いは、かなりの割合の女の普遍的な願望なんだ。ただ、障害のある女性がそれを口にすると、すごく違和感がある。ごめんね。一種の差別だよね。それって。

 小説の最後の方に、若くて健康で、そこそこ容姿も頭もいい女の子が出てくる。しかし彼女は身内が不祥事を起こし、極貧生活に転落、風俗で働いている。障碍者のグループホームで働いていた兄が、お金を奪おうと入所者を殺したのだ。そういったワケありの女の子と、釈華のどちらが幸せかといえば…ほんとうに難しい。
 裕福で優れた頭脳を持つ釈華は、恵まれた存在だと思うよ。
コメント
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