フランスの詩人ボードレールは母を愛するあまりに
再婚した母の夫に反抗した末に義父の首を絞めてしまい
家族会議にかけられて家から追放されてしまいました。
ボードレールの父親ジョゼフは晩婚で
ボードレールが6歳の頃に亡くなった一年半後に
若く美しい母親カロリーヌは、軍人のオーピックと再婚します。
ボードレールは、母親の再婚に深く傷つき、
生涯エディプス・コンプレックス的な
鬱屈とした感情を抱えることになったと言われています。
エディプス・コンプレックスとは、
精神分析のフロイトが提唱した概念で、
男児の場合は、一番身近な異性(母親)の愛情を求めて
父親と対峙する。と言ったようなものです。
彼の場合は、実の父親ではなく再婚相手なので
厳密にいうとエディス・コンプレックスと言えるのかどうか
分かりませんが、実の父親に対しても起きることなので
母親の再婚相手に強い反抗心を持ってしまっても
おかしくはないのかも知れません。
しかし、首を絞めてしまうほどの激情の素因が
元々心の中に存在したと考えることも出来ます。
エディス・コンプレックスは、
小さい子供の精神の成長がどのようになされるのかを
フロイトが外側から眺めて、
「◯◯の様子が見られるから、それはつまりAAAなんじゃねえ。
そう考えると▢▢▢にすんなりと収まるんだけど。」的な感じの
一つの概念なので、他の者からの異論も少なからずあるようです。
多くの場合、自分を愛し庇護してくれる大きな存在である両親は、
当たり前に自分の傍にいるものであって
死別するなんてことは頭の片隅にもないもので、
両親との死別は、身体的にも精神的にも
ある程度成長してから経験するものです。
まだ6歳という身体的にも精神的にも成熟していない
子供の頃に人間とは如何に脆く儚い存在だと知ることになり、
残った母親さえも失う怖さや不安感から
母親の愛情を求める気持ちが強まったのかも知れません。
そして、そのような気持ちが母親の再婚によって、
さらに強まり子供のボードレールの心に何らかの影響を
及ぼしたと考えることも出来ます。
早くに親を亡くした全ての子供の心に
そのような影響があるとは限りませんが、
ボードレールには何らかの影響があったように思えます。
18歳ー進学校・最終学年時に教員と問題を起こし放学される。
20歳ーボードレールの行状を案じた養父に
インド行きの船に乗せられる。
21歳ー亡き父の遺産を分与され散財を始める。
ボードレールの行状を案じた親族らによって
強制的に遠洋航海に出される。
23歳ー心神喪失者として弁護士の管理下に置かれる。
24歳ー自殺未遂。
34歳ー美術評論、また詩篇十八を発表して詩人と認められる。
36歳ー詩集『悪の華』を出版するが治安裁判で六篇を削除され、
罰金を科される。散文詩六篇を発表する。
養父が亡くなり母との関係を修復。
42歳ー梅毒による体調の不良。
43歳ー負債に追われてパリを離れる。
45歳ー倒れて言葉を失う。
46歳ー病没。
生前のボードレールは、金銭的に恵まれず
また心神喪失についても克服した訳ではなかったようですが、
作品については高く評価されているようです。
ボードレールに限らず影があれば光ありで、
精神の安定を乱す強いエネルギーが
正の方向であろうが、負の方向であろうが
この人しか生み出せないと言われるような
独特で魅力的な作品を生み出す原動力となることも
少なくないように思います。