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崇高な理念と利権。森氏の発言で露わになったオリンピックの裏側

2021-02-10 20:30:33 | スポーツ

これまで森喜朗氏の発言を容認していたはずのIOCが、一転批判を始めた。
「謝るよりも、批判をする側についた方が、都合が良い」と考えたのが、IOCということになるだろうか?
朝日新聞:「得意の手のひら返し」IOCに恨み節も 森氏発言巡り

IOCが「手のひら返し」が得意だったとは知らなかったが、「手のひらを返した」理由はスポンサー企業からの声があったからだろう。
その一つが、最大スポンサーの1社であるトヨタの豊田章夫社長の「遺憾である」というコメントだろう。
スポニチ:【コメント全文】トヨタ社長、森会長女性蔑視発言は誠に「遺憾」五輪・パラ最高位スポンサー

1984年のロサンゼルスオリンピック以来、オリンピックはスポーツの祭典だけではなく、様々な利権が絡むスポーツビジネスと化した、と言われている。
例えば、オリンピックの聖火ランナーなどは、スポンサー企業がランナーを募集したり、ランナーそのものを有料参加募集をしたりするようになった。
一番大きな収入源となったのは、「放送権料」だ。
しかも、大会ごとにその「放送権料」は高騰するだけではなく、複数大会を一括購入するようなシステムになっているはずだ。
そうすれば、IOC側は将来的な「放送権料」を、確実に獲得することができる。
同様にスポンサー企業との契約も、複数大会の契約だったと、記憶している。
開催都市からすれば、開催期間中海外からの観光客も増え、ホテルや交通機関などの利用が増えることで、都市全体の収益アップも期待できる、と目論見もできた。

何故これほどまでに、ビジネス中心のオリンピックになったのか?と言えば、オリンピックを開催すると開催都市が大幅な赤字を抱えるようになったからだ。
競技種目が増え、当然のように参加者が増えれば、それだけ会場整備や選手が宿泊する施設の建設などが必要になる。
施設の建設ラッシュは、大会終了後の「負の遺産」として残ってしまうのが、それまでのオリンピックだったのだ。
そのため、開催都市に手を挙げる都市がほとんどない、ということまで言われていたはずだ。
その状況を打開し、「儲かるオリンピック」というビジネスモデルを創り上げ、成功したのが、1984年のロサンゼルスオリンピックだったのだ。

「儲かるオリンピック」となると、当然のことながらそこには「利権」が発生する。
それまでの「利権」は、施設建設など分かりやすい(というべきか?)だけだったが、今ではスポンサー企業との契約金やテレビの「放送権料」等、目に見えない「巨額な利権」が絡むスポーツビジネスと化したのだ。
おそらくそのような「スポーツビジネス」において、森喜朗という人はIOCにとっても使いやすい人物だったのかもしれない。
まして日本は、「オリンピック大好き」という傾向が強い。
「新型コロナ」の感染拡大が無ければ、昨年の7月~8月ごろはIOC側に支払われる「巨額な放送権料」等のことなどは気にせずに、日本人選手の活躍に一喜一憂しながらテレビ観戦をしていただろう。

ところが今回は「新型コロナ」の世界的感染拡大により、オリンピックそのものが延期となった。
延期決定までに関しても、相当な時間が必要だったこともあり「JOCとIOC、そして各国のスポーツ選手たちの受け止め方のズレ」のようなモノが、露わになった。
そこへ森氏の発言が加わり、ご本人は「何故こんなに世界から、自分が批難されなければならないのだろう?」という思いがあっただろうし、IOC側も「日本国内のことだから、上手におさめてくれよ」と、高をくくっていたら、今度はIOCにも矛先が回ってきたことで、慌てて批難声明のようなことになったのだろう。

これまで殿様商売のようにスポンサー料を吊り上げてきたIOCにとって、スポンサー企業が下りるということになれば、IOCという組織そのものが、立ち行かなくなるほどのことだからだろう。
1984年から続く「スポーツビジネス・オリンピック」が、今回のことでリセットされることになるかもしれない。
とすれば、オリンピック憲章が掲げる崇高に近づく可能性は「0ではない」気がしている。