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ADC受賞を考える、日本の広告のありかた

2022-05-22 19:54:30 | マーケティング

一昨夜、一つの広告賞受賞のニュースが飛び込んできた。
受賞した広告賞というのは、ADC賞と呼ばれるアメリカの広告デザインに対する賞だ。
Art Directors Clubが主催する世界で一番古い広告デザイン賞でもある。
その意味では、「広告のカンヌ賞」と呼ばれる、「カンヌライオンズ賞」よりも、権威ある賞と言えるかもしれない。

その賞を、日本の「日本タンナーズ協会」という団体が制作した作品が、受賞をしたというのだ。
WWD:篠原ともえの革の着物作品が世界的広告賞、ADC賞で2冠達成

見出しだけを見ると、広告賞と篠原ともえさんの着物が結びつかない。
WWDの記事中にある、動画を見て初めてその関係が分かる。
プロモーション(=広告)動画としては、とても地味なつくり方だと思う。
使われている色が「墨」一色で、その濃淡によって表現をされ、まるで「水墨画」のような雰囲気だ。
しかもこの着物の素材は、獣害として処理をされたエゾ鹿の革の捨てられる部分を使って、誂えられている。
この動画を見てわかると思うのだが、受賞をした「日本タンナーズ協会」というのは、日本の皮革染色の事業者が集まった協会なのだ。
その「日本タンナーズ協会」が、デザイナーとして依頼したのがタレントの篠原ともえさんだった、ということになる。

ある一定世代以上の方々にとって、篠原ともえさんという名前よりもシノラーという愛称の方が、親しみがあるかもしれない。
シノラーと呼ばれていた頃はカラフルというよりも、奇抜さを感じさせるようなファッションを、自分でコーディネートをされていた。
一方、篠原さんご自身は、服飾に興味があるということで、服飾関係の学校へ進学し、服飾の基礎を学ばれている。
単なる奇抜なファッションを着て、目立つようなコトをしていたわけではないのだ。
ということは、この日本タンナーズ協会は、タレント兼デザイナーのシノラーではなく、デザイナー・篠原ともえさんにこのプロジェクトを依頼した、ということになる。
だからこそ、篠原さんご自身が「皮革とは?」というところから勉強をし、皮革染色や縫製といった工程に携わってこられたのだろう。
革きゅん公式チャンネル:篠原ともえが革のプロフェッショナルたちとつくる、エゾ鹿革きもとは

これらの過程を含め今回の広告デザインの賞受賞となったのか?という点は不明だが、「日本のモノづくりの原点」のようなものを広告として作り上げた、という点はこれまでの広告の在り方と違う気がしている。
もちろん、このようなプロジェクト型の広告には、大手広告代理店が関与している可能性は高いのだが、その「大手広告代理店がつくりました」感が感じられない、という点もこの広告賞受賞の大きな要因となったのでは?という気がしている。
それは「モノを売る」というのではなく、「文化を伝える広告」というアプローチがされているからだろう。

と同時に、昨今の「反毛皮・反皮革」の動きに、一石を投じているようにも感じる。
それは、害獣駆除として処分されたエゾ鹿の革を最大限有効活用している、という点だ。
豚や牛のように、家畜として飼育され、食料化された副産物としての「皮革」。
今回のように、自然環境を守る為に害獣として扱われた動物の「皮革」。
動物保護団体等が、声高に反対をしているが「なんでも反対をするのはどうなのか?」という考えに、疑問を呈しているようにも思えるのだ。
「いただいた命のすべてを使い切る」という文化が、日本にはあり、その文化を声高に叫ぶのではなく、この着物の色調のように「静かに」訴えている、という点でも日本的であり、日本のものづくり文化を伝えているような気がするのだ。

いずれにせよ、日本タンナーズ協会、篠原ともえさん2冠受賞おめでとうございました。