一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

祝・船戸陽子女流二段、女流王位リーグ入り&暗転・金曜リーグ

2009-11-15 00:05:33 | LPSA金曜サロン
SMAP・木村拓哉の誕生日である11月13日のLPSA金曜サロンは、昼が山下カズ子女流五段、夜が船戸陽子女流二段の担当だった。
山下女流五段の指導対局中、船戸女流二段が見えた。私がほかの会員の対局を見物していると、近くを船戸女流二段が通ったので、12日のお祝いを述べる。
言うまでもないが、その日船戸女流二段は女流王位戦予選④枠の決勝で、山口恵梨子女流1級に勝ち、リーグ入り一番乗りを果たしたのだ。しかし船戸女流二段は「あ、どーも」とそっけなく、意外な気がした。
勝者がいれば敗者もいる。大勢の前で、おおっぴらに喜びを表現することは憚られたのかもしれないが、それも船戸女流二段らしい、とも思った。
この日は、ふだん夜からの参加となるK氏が、仕事休みということで、早めにサロンにいらした。リーグ戦の対局が少ないので、早速会員とリーグ戦を指す。
午後5時15分ごろ、植山悦行手合い係氏が、私との手合いをつけてくれる。現在K氏にはたしか3連敗中なので、そろそろ一番を返したいところだが、大盤解説が15分後に控えている。今回の棋譜は、もちろん12日に指された船戸女流二段の将棋である。
率直に言ってこの日の私の楽しみは、船戸女流二段に将棋を教えていただくよりも、この自戦解説を拝見することにあった。
「先生、もうすぐ大盤解説が始まりますけど、それが終わってからじゃいけませんか?」
私は植山手合い係氏に恐る恐る問うた。
「それでもいいけど、まだ山下さんの指導対局も続いてるし、(リーグ戦を指しても、時間的に)大丈夫じゃない?」
「はあ、そうですか…」
私はK氏とのリーグ戦を始めることにした。現在私の成績は8勝3敗。そのうちの2敗はU七段とI女流王位に喫したものでどうも釈然としないが、とにかく優勝戦線に残るためには、もう一番も負けられないところであった。
その将棋は先手番となったK氏のゴキゲン中飛車。こちらの対策はいろいろあるが、最近ブームになっている居飛車穴熊の作戦を採った。と、植山手合い係氏がいらして、「お、ヤマグチエリコちゃんですか」と言う。船戸-山口戦は、事前にネットで対局風景を見たが、山口女流1級が5筋の歩を突いていた。
本局はK氏の捌きが冴え、私は駒損を重ねて大苦戦。やがて背後で大盤解説が始まったが、私のほうもリーグ戦とあっては投了するわけにはいかない。そのうち私の無理攻めが通って、勝負形になった。
「きのうメールがいっぱい来たんですけど、みんな恵梨子ちゃんが負けて残念だった、とか書いてるんですよー」
とか話している船戸女流二段の声が聞こえる。船戸女流二段は人気棋士だ。メールの憎まれ口は、本当に親しくなければ書けない、将棋関係者独特のお祝いということだ。ああ、私もその解説を聞きたいと思う。しかしこちらの将棋は中盤から終盤の佳境に入っていて、とても対局を中断できる雰囲気ではない。
K氏の時間切迫もあり、こちらがおもしろくなった。K氏の承諾は得ていないが、植山手合い係氏が「熱戦でしたねぇ」と唸ったこの一番、終盤の局面を勝手に掲載してしまおう。おヒマな方は盤に並べていただきたい。

先手・K氏:1七歩、1九香、2七歩、2九桂、3七王、4五桂、4九金、5五銀、5六銀、5八飛、7二飛、9七歩 持駒:金、桂、香、歩
後手・一公:1二香、1三歩、2一玉、2二銀、2三歩、3四歩、3六桂、4二金、4四馬、4六歩、5二歩、6三歩、6九成香、7五歩 持駒:角、金、銀、歩7

中盤数手の記憶が曖昧で、正確な再生ができなかった。実は先手の持駒の歩の数が重要なのだが、あっても1歩だったはずなので、それで進めてみる。
局面は、☗5五銀と打たれたところ。ここで、終局までの指し手を一気に記してしまおう。

☖5五同馬☗同銀☖4七金☗2六王☖3五銀☗1六王☖5八金☗6五角☖3二銀☗7一飛成☖3一飛☗3三桂打☖同銀☗同桂不成☖同金☗1一金☖2二玉☗3一飛成☖同玉☗2二銀☖4一玉☗3一飛☖4二玉☗3三銀成☖5三玉☗4三成銀☖同銀☗同角成☖6二玉☗5二馬☖同王☗3二飛成☖4二桂☗5三歩☖6一玉☗4一竜☖5一歩☗同竜☖7二玉☗7三歩☖8三玉☗8一竜☖8二歩☗8九香☖8四桂☗7二竜 まで、K氏の勝ち。

☗5五銀打は、一目ありがたい気がした。ここで馬を逃げていては勝負にならぬから、私は☖5五同馬。以下☗同銀☖4七金☗2六王☖3五銀☗1六王に、☖5八金が「詰将棋の名手の一公さんらしくない悪手(植山氏)」。ここは☖2五角☗同王に☖2四銀と引くのが妙手、というかふつうの手で、以下王がどこへ逃げても銀打ちまでの詰みだった。☖2四銀では☖2四歩を読み、それで詰みなしと判断し、飛車を取ってしまったのだ。感想戦で植山手合い係氏から、「(☖2五角から数えて)5手詰じゃないですかー」と呆れられたが、おっしゃるとおりで返す言葉がなかった。
とはいえ、前期マイナビ女子オープン5番勝負第3局や、先日の中井広恵女流六段-斎田晴子女流四段の将棋を引き合いに出すまでもなく、後から冷静な目で見れば簡単に詰む将棋も、実戦ではエアポケットに陥って見えないときがあるのだ。ここが人間同士の対局の醍醐味というべきだろう。
それはとにかく、私が飛車を取って詰めろをかける?と、K氏の反撃が始まった。しかし☗2二銀に☖4一玉がまた悪手。☖4二玉だと手順に金を取りつつ王手をされるのがイヤだったのだが、「☗3一飛を打たせる人はいない(植山氏)」。☖4二玉☗3三銀成☖同銀で、先手の持駒が飛、金では後手玉は詰まなかった。しかしK氏にも悪手が出る。☗4三成銀は手筋風に見えて疑問で、「ふつうに☗5四香と打てば、☖6二玉☗5二香成☖同玉☗3二飛成で簡単に詰み(植山氏)」だった。
☗4一竜に私は堂々と☖5一歩。これで王手が続かないないだろうと自信を持って打ったのだが、☗同竜でタダだった。ここでは私のほうも秒読み入っており、まったく手が見えていなかった。ここで渡した1歩が、のちの変化に微妙な綾を生むことになる。
最終盤、☗8九香の王手に☖7四玉は☗8五銀で詰みだから、合駒をする一手。ところが☖8四桂と打ったのち、☗7二竜でトン死に気づき、愕然とした。実戦もそう進み、投了。☖8四桂では☖8五桂☗同香☖7四玉を読んでいながら、☖8四桂☗同香☖7四玉でも同じだろうと思い8四に桂を打ったのだが、読みが甘すぎた。
局後、植山手合い係氏を交えての感想戦では、そもそも☗8一竜に☖8二歩合が次の☗8九香を軽視した疑問手で、ここは☖8二桂合とし、次の歩合いを用意すべきだったという。香の王手に備えて最初に高い駒の合いをする。これはプロでは常識、とのことだった。
はぁ~…。激戦のすえ敗れると、精神的に堪える。すこぶる痛い敗戦で、リーグ戦の優勝に黄信号がともってしまった。
私は茫然としたまま、山下女流五段と船戸女流二段の大盤解説に目をやる。しかしあまりにも遅くなった。将棋は最終盤になっており、数手を指して、終わってしまった。それでも時間は6時半近くになっていたから、ふだんより30分遅い終了である。しかし目当ての解説会を堪能できず、私はきょう、何をしに来たのだろうと思った。
その後K氏は別の対局に入ったが、私は植山手合い係氏と、先ほどの将棋の検討を再開する。☖5一歩で1歩を渡したため☖8三玉に☗8四歩の叩きも生じており、☗8九香への応手だけでも膨大な変化が現れ、将棋の奥深さにあらためて唸る思いだった。とはいえいままた冷静なアタマで再検討してみると、☗8一竜には☖8二歩でも残していたようである。もっともその後☖8四桂と打って詰まされてしまったのだから、何をか言わんや、だが。

閉席のあと、会員有志と食事会。会員のW氏が言うには、船戸女流二段はいつもより大盤解説を長めにやったようで、やはりリーグ入りを喜んでいた、とのことだった。
私が声を掛けたときはわりと平静だったから、意外にドライなひとなんだと見方を変えたのだが、そうではなかったことに、ちょっとホッとした夜だった。
コメント (5)
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