その将棋の、以下の手順を記す。
(☖8三銀以下の指し手)
☗2四歩☖同歩☗2五歩☖同歩☗同桂☖5一角☗2四歩☖4六歩☗3三桂成☖同桂☗2三歩成☖6二飛☗2四と☖4五銀☗3三と☖同角☗2三飛成☖5一角☗5三桂 まで、先手氏の勝ち。
玉の囲いの中で、高美濃から銀冠に組みかえる瞬間(☖8三銀)は、プロアマとも、最も気持ちがわるいのではないだろうか。金銀がバラバラで、ここでの仕掛けをつねに恐れる。しかし本局ではそれはないだろうと高をくくっていた。
ところが相手の20代前半と思しき青年は俯いたまま熟考し、☗2四歩と突いてきた。指されてみて、驚いた。受けがないのだ。そう、本局は私が後手番であった。
☖2四同角は☗同角☖同歩☗2三歩☖同飛☗3二角で後手つぶれ。したがって☖2四同歩と取るしかないが、☗2五歩の継ぎ歩が厳しい。4筋で1歩を持たれた弊害が早くも現れた。
本譜☗2五同桂に☖5一角が甘かったかもしれないが、反射的に角を引いてしまった。
局後の検討で青年は、2度目の☗2四歩に☖同角を恐れていたとのことだが、これは☗1三桂成で先手勝勢。先手陣が穴熊なので、☖6八角成が王手にならない。
2度目の☖5一角では☖4二角も考えたが、☗4三竜と回られ、銀を助けるために☖5三桂と打つようでは勝負にならない。しかし☗5三桂と金取りに打たれてシビれた。☖7一金では☗4一桂成で角を取られて後手負け。捨ておいて☗6一桂成と金桂交換に甘んじるのも、駒損がひどくてやはり後手の負け。
ほかの対局を見回すと、まだ中盤戦である。ここで投げるのは気がひけるが、7月のときのように、敗勢なのを我慢して、サンドバッグ状態にされるのはもうゴメンだ。攻防ともに見込みなく、ここで私は投了した。
いやしかし…これが「社団戦最後の対局」だったのに、まったくひどい将棋を指したものだ。私は茫然としつつ、フロアを回る。
同じ4部の、LPSA月組が対局している。ここはマンデーレッスンの常連が中心で、私はほとんど面識がない。堅実に勝ち星は稼いでいたが、昇級の目は残ったのだろうか。
時間を潰して戻ってくると、星組の残り6人は、まだ対局をしている。大将が早々と完敗して、残りの選手の戦いぶりを見守るとは、惨めなことこの上ない。
やがて対局がぼちぼち終局し、最終戦は1勝6敗となった。これでチームの成績はトータル5勝10敗。「LPSA」の名前を冠しているのに、情けない。
ふと見ると、将棋ペンクラブ幹事のM氏の姿が見えたので、挨拶に行く。12月発行の「将棋ペン倶楽部」の原稿について話すと、
「ここの席からは船戸さんがよく見えましたよ」
と、M氏が言う。特定の名前は出さないが、私がファンランキングを公表してからというもの、最近はその女流棋士トップ3に関する情報を出して、私の反応を楽しむ手合いが増えてきた気がする。
船戸陽子女流二段が、蕨将棋まつりのパンフレットを持って、こちらへいらした。なんだかドキドキしてしまうが、この展開だとM氏が邪魔駒である。しかし船戸女流二段とM氏は旧知の仲で、むしろ私が邪魔駒といえる。
「(女流王位戦の予選で、もし山口恵梨子女流1級が勝ちあがってきたら)みんな恵梨子ちゃんを応援するって言うんですよー」
と、船戸女流二段が言う。9月の将棋ペンクラブ大賞贈呈式でも同じようなことを聞いたが、私の答えもそのときと同じである。
「みんなが山口先生を応援しても、私だけは船戸先生を応援します!!」
やはり目の前にいる人に、「応援します!!」と宣言するのがエチケットである。
その後私たち星組は、用事で帰ったひとりを除き、6人で「反省会」に赴く。メンバーは、金曜サロン常連のW、I、Y、Xの各氏に水曜サークル常連のH氏、そして私である。いきなり居酒屋に入るのは時間的に味がわるいので、まずは喫茶店で時間をつぶす。
飲み物はコーヒーと相場が決まっているが、この日は私の旅行定跡に倣ってか、私もふくめて4人がケーキセットを注文した。ケーキの種類はいろいろあるが、私はいつもチーズケーキをオーダーすることにしている。一口にチーズケーキといっても店ごとに味や形が違い、個性が出ていておもしろいのだ。ちなみにこの店のそれは、透明な平べったい皿に載った小さめのもので、パウダーシュガーがふりかけてある。ちょっと甘めだが、美味だった。
それにしても、いい大人がケーキセットを頼んで「7六」とか「2五」とか、意味不明な数字を挙げて談笑している姿は、ちょっと近寄りがたいものがある。私ならこんなグループの輪に入りたくない。
約2時間後、チェーン店の居酒屋へ場所を移す。乾杯のあと棋士の悪口を言って談笑していると、真面目なY氏が、
「じゃあきょうの反省と、来年への課題をひとり3分、時計まわりで発表することにしましょう」
と言う。この日の3回戦、チームが勝ち越せば「祝勝会」、負け越せば「反省会」だったが、本当に反省の弁を述べさせられるとは思わなかった。まずは私が
「今年は勝てる将棋を落としたことが何局かあったので、来年はそういう星がないようにしたいです」
と言うと、
「ということは、来年も一公さんは社団戦に参加ですね」
と、みんながドッと笑う。どうも誘導尋問にかかってしまったが、まあ全部は無理としても、来年も何回かは参戦するしかないようだ。
(☖8三銀以下の指し手)
☗2四歩☖同歩☗2五歩☖同歩☗同桂☖5一角☗2四歩☖4六歩☗3三桂成☖同桂☗2三歩成☖6二飛☗2四と☖4五銀☗3三と☖同角☗2三飛成☖5一角☗5三桂 まで、先手氏の勝ち。
玉の囲いの中で、高美濃から銀冠に組みかえる瞬間(☖8三銀)は、プロアマとも、最も気持ちがわるいのではないだろうか。金銀がバラバラで、ここでの仕掛けをつねに恐れる。しかし本局ではそれはないだろうと高をくくっていた。
ところが相手の20代前半と思しき青年は俯いたまま熟考し、☗2四歩と突いてきた。指されてみて、驚いた。受けがないのだ。そう、本局は私が後手番であった。
☖2四同角は☗同角☖同歩☗2三歩☖同飛☗3二角で後手つぶれ。したがって☖2四同歩と取るしかないが、☗2五歩の継ぎ歩が厳しい。4筋で1歩を持たれた弊害が早くも現れた。
本譜☗2五同桂に☖5一角が甘かったかもしれないが、反射的に角を引いてしまった。
局後の検討で青年は、2度目の☗2四歩に☖同角を恐れていたとのことだが、これは☗1三桂成で先手勝勢。先手陣が穴熊なので、☖6八角成が王手にならない。
2度目の☖5一角では☖4二角も考えたが、☗4三竜と回られ、銀を助けるために☖5三桂と打つようでは勝負にならない。しかし☗5三桂と金取りに打たれてシビれた。☖7一金では☗4一桂成で角を取られて後手負け。捨ておいて☗6一桂成と金桂交換に甘んじるのも、駒損がひどくてやはり後手の負け。
ほかの対局を見回すと、まだ中盤戦である。ここで投げるのは気がひけるが、7月のときのように、敗勢なのを我慢して、サンドバッグ状態にされるのはもうゴメンだ。攻防ともに見込みなく、ここで私は投了した。
いやしかし…これが「社団戦最後の対局」だったのに、まったくひどい将棋を指したものだ。私は茫然としつつ、フロアを回る。
同じ4部の、LPSA月組が対局している。ここはマンデーレッスンの常連が中心で、私はほとんど面識がない。堅実に勝ち星は稼いでいたが、昇級の目は残ったのだろうか。
時間を潰して戻ってくると、星組の残り6人は、まだ対局をしている。大将が早々と完敗して、残りの選手の戦いぶりを見守るとは、惨めなことこの上ない。
やがて対局がぼちぼち終局し、最終戦は1勝6敗となった。これでチームの成績はトータル5勝10敗。「LPSA」の名前を冠しているのに、情けない。
ふと見ると、将棋ペンクラブ幹事のM氏の姿が見えたので、挨拶に行く。12月発行の「将棋ペン倶楽部」の原稿について話すと、
「ここの席からは船戸さんがよく見えましたよ」
と、M氏が言う。特定の名前は出さないが、私がファンランキングを公表してからというもの、最近はその女流棋士トップ3に関する情報を出して、私の反応を楽しむ手合いが増えてきた気がする。
船戸陽子女流二段が、蕨将棋まつりのパンフレットを持って、こちらへいらした。なんだかドキドキしてしまうが、この展開だとM氏が邪魔駒である。しかし船戸女流二段とM氏は旧知の仲で、むしろ私が邪魔駒といえる。
「(女流王位戦の予選で、もし山口恵梨子女流1級が勝ちあがってきたら)みんな恵梨子ちゃんを応援するって言うんですよー」
と、船戸女流二段が言う。9月の将棋ペンクラブ大賞贈呈式でも同じようなことを聞いたが、私の答えもそのときと同じである。
「みんなが山口先生を応援しても、私だけは船戸先生を応援します!!」
やはり目の前にいる人に、「応援します!!」と宣言するのがエチケットである。
その後私たち星組は、用事で帰ったひとりを除き、6人で「反省会」に赴く。メンバーは、金曜サロン常連のW、I、Y、Xの各氏に水曜サークル常連のH氏、そして私である。いきなり居酒屋に入るのは時間的に味がわるいので、まずは喫茶店で時間をつぶす。
飲み物はコーヒーと相場が決まっているが、この日は私の旅行定跡に倣ってか、私もふくめて4人がケーキセットを注文した。ケーキの種類はいろいろあるが、私はいつもチーズケーキをオーダーすることにしている。一口にチーズケーキといっても店ごとに味や形が違い、個性が出ていておもしろいのだ。ちなみにこの店のそれは、透明な平べったい皿に載った小さめのもので、パウダーシュガーがふりかけてある。ちょっと甘めだが、美味だった。
それにしても、いい大人がケーキセットを頼んで「7六」とか「2五」とか、意味不明な数字を挙げて談笑している姿は、ちょっと近寄りがたいものがある。私ならこんなグループの輪に入りたくない。
約2時間後、チェーン店の居酒屋へ場所を移す。乾杯のあと棋士の悪口を言って談笑していると、真面目なY氏が、
「じゃあきょうの反省と、来年への課題をひとり3分、時計まわりで発表することにしましょう」
と言う。この日の3回戦、チームが勝ち越せば「祝勝会」、負け越せば「反省会」だったが、本当に反省の弁を述べさせられるとは思わなかった。まずは私が
「今年は勝てる将棋を落としたことが何局かあったので、来年はそういう星がないようにしたいです」
と言うと、
「ということは、来年も一公さんは社団戦に参加ですね」
と、みんながドッと笑う。どうも誘導尋問にかかってしまったが、まあ全部は無理としても、来年も何回かは参戦するしかないようだ。