きょう2010年12月4日、東北新幹線の八戸-新青森が開業した。おとといのワインサロンでA氏と同席した際、鉄道ファンでもある同氏とその話になった。そのときそばにいた船戸陽子女流二段に、
「先生には『あおもり』が『あわもり』に聞こえるんじゃないですか?」
と渾身のジョークを飛ばしたが、全然ウケなかった。どうも船戸女流二段と私とでは、笑いのツボが違うようである。
それはともかく、東北新幹線は1982年6月に大宮-盛岡が部分開業してから、実に28年6ヶ月をかけての全線開業であり、めでたいことである。新聞やテレビでも、きょうはその話題でもちきりだった。
しかしその一方、在来線である八戸-青森の東北本線が廃止になったことは、報道されていなかった。自宅で購読している新聞にも、その記述はなかった。
東海道新幹線や山陽新幹線、東北新幹線(上野-盛岡)、上越新幹線が開業したときは、並行して走っている在来線は、そのまま残された。しかし1987年4月に国鉄がJRに移管されてから、状況が変わった。
1997年10月に長野新幹線が開通したとき、JRは信越本線の横川-篠ノ井を廃止した。横川-軽井沢はバス代行とし、軽井沢-篠ノ井65.1kmは第3セクター「しなの鉄道」として生まれ変わった。
2002年12月、東北新幹線の盛岡-八戸が延伸開業したときは、JR東北本線・盛岡-八戸を廃止、盛岡-目時(めとき)82kmが「IGRいわて銀河鉄道」、目時-八戸25.9kmが「青い森鉄道」として生まれ変わった。
2004年3月に九州新幹線の新八代-鹿児島中央が部分開業したときは、JR鹿児島本線・八代-川内(せんだい)116.9kmを廃止、同区間が「肥薩おれんじ鉄道」として生まれ変わった(余談だが、同鉄道のロゴマークに使用されている色は、LPSAのそれとよく似ている)。
JRはほとんどの在来線が赤字である。新幹線はドル箱だが、不採算路線は抱えたくない。同じ区間に2つのJR路線はいらないというわけで、長野新幹線開業以降は、それと同時に在来線を廃止、第3セクターに移行するようになったのである。
今回の八戸-青森も、新幹線開業に合わせ、青い森鉄道が96km延伸した。奇しくもこちらも、晴れて全線開業となったわけである。
たぶん地元沿線では「祝!開業」という横断幕でも掲げられているのだろうが、現実的にはどうか。それほどめでたくない気もする。
ひとつは料金改定である。JR東北本線の八戸-青森間の普通料金は1,620円。それが第3セクター・青い森鉄道となって2,220円になった。実に37%の値上げである。ちなみに1ヶ月の通勤定期は、43,510円から71,800円。こちらは何と65%の値上げとなった。
私たちにとって在来線は観光路線にもなるが、地元の方にとっては生活路線であり、この値上げは小さからぬ打撃であろう。
ふたつめ。観光的見地から見ても、JRから第3セクターへの移管は痛いのだ。
鉄道ファンなら誰もが知っている「青春18きっぷ」という期間限定の企画切符がある。JR在来線の普通列車(快速列車含む)が1日乗り放題で2,300円、それが5日分ついているもので、ファンなら一度は利用したことがあるはずだ。
これが第3セクターでは利用できない。線路は変わっていないが、JRとは別会社だからだ。きのうの友はきょうの敵。まるで女流棋士会とLPSAの関係を見るようである。日本将棋連盟を東北新幹線とすれば、東北本線が女流棋士会、青い森鉄道(IRGいわて銀河鉄道)がLPSAというべきか。
もし盛岡から青森へJRのみの利用で行こうとすれば、盛岡から西に舵をとり、田沢湖線-奥羽本線と遠回りしなければならない。その距離313.3km。旧JR東北本線なら203.9kmですむのに、実に100km以上も余計に乗らねばならないのだ。ちなみに盛岡-青森を旧東北本線の第3セクターで利用すると、5,330円(JRだと3,570円)もかかってしまう。貧乏旅行でとてもそんなおカネは出せない。
八戸についてさらに記せば、今回八戸以北の東北本線が廃止になったことで、ここからJRに通じている路線は、太平洋側を走る八戸線のみになってしまった。しかしその八戸線も64.9km先の久慈で切れる。そこからは旧国鉄久慈線の第3セクター・三陸鉄道北リアス線が接続しているが、八戸線沿線の住人は、第3セクターを使わないとJR幹線に乗れないことになった。
みっつめ。ふたつめと連動するが、新幹線が開通すると、観光客が旧在来線で途中下車しないという弊害が起こる。
〈注:読者の指摘により、青い森鉄道・青森-八戸間の普通および快速列車は、途中下車をしなければ、青春18きっぷも利用ができることが分かりました(ただし、野辺地、八戸は途中下車可)。読者の皆様に誤った情報をお知らせしたことをお詫びします〉
肥薩おれんじ鉄道の阿久根は阿久根温泉の玄関口で、JR鹿児島本線時代は特急電車が停まる周遊おすすめ地だった。しかし九州新幹線は阿久根を通らず、山の中を通った。結果、阿久根はローカル線の一駅と化した。
八戸-新青森の東北新幹線も、野辺地(のへじ)や浅虫温泉は停まらない。もし鉄道で訪れようとすれば八戸での乗り換えを余儀なくされ、観光客は減少するだろう。
来年3月には、博多-新八代の九州新幹線が開業する。また2014年度には北陸新幹線、2015年度には北海道新幹線が部分開業予定である。JRは全国に新幹線を通し、手堅く稼ぐ。並行在来線は第3セクターに変換されるだろう。そのたびに各地で「ストロー現象」が起こり、沿線の町には悲喜こもごもの光景が繰り広げられるのだろう。在来線や民間ローカル線を愛する「乗り鉄」としては、複雑な気持ちである。
「先生には『あおもり』が『あわもり』に聞こえるんじゃないですか?」
と渾身のジョークを飛ばしたが、全然ウケなかった。どうも船戸女流二段と私とでは、笑いのツボが違うようである。
それはともかく、東北新幹線は1982年6月に大宮-盛岡が部分開業してから、実に28年6ヶ月をかけての全線開業であり、めでたいことである。新聞やテレビでも、きょうはその話題でもちきりだった。
しかしその一方、在来線である八戸-青森の東北本線が廃止になったことは、報道されていなかった。自宅で購読している新聞にも、その記述はなかった。
東海道新幹線や山陽新幹線、東北新幹線(上野-盛岡)、上越新幹線が開業したときは、並行して走っている在来線は、そのまま残された。しかし1987年4月に国鉄がJRに移管されてから、状況が変わった。
1997年10月に長野新幹線が開通したとき、JRは信越本線の横川-篠ノ井を廃止した。横川-軽井沢はバス代行とし、軽井沢-篠ノ井65.1kmは第3セクター「しなの鉄道」として生まれ変わった。
2002年12月、東北新幹線の盛岡-八戸が延伸開業したときは、JR東北本線・盛岡-八戸を廃止、盛岡-目時(めとき)82kmが「IGRいわて銀河鉄道」、目時-八戸25.9kmが「青い森鉄道」として生まれ変わった。
2004年3月に九州新幹線の新八代-鹿児島中央が部分開業したときは、JR鹿児島本線・八代-川内(せんだい)116.9kmを廃止、同区間が「肥薩おれんじ鉄道」として生まれ変わった(余談だが、同鉄道のロゴマークに使用されている色は、LPSAのそれとよく似ている)。
JRはほとんどの在来線が赤字である。新幹線はドル箱だが、不採算路線は抱えたくない。同じ区間に2つのJR路線はいらないというわけで、長野新幹線開業以降は、それと同時に在来線を廃止、第3セクターに移行するようになったのである。
今回の八戸-青森も、新幹線開業に合わせ、青い森鉄道が96km延伸した。奇しくもこちらも、晴れて全線開業となったわけである。
たぶん地元沿線では「祝!開業」という横断幕でも掲げられているのだろうが、現実的にはどうか。それほどめでたくない気もする。
ひとつは料金改定である。JR東北本線の八戸-青森間の普通料金は1,620円。それが第3セクター・青い森鉄道となって2,220円になった。実に37%の値上げである。ちなみに1ヶ月の通勤定期は、43,510円から71,800円。こちらは何と65%の値上げとなった。
私たちにとって在来線は観光路線にもなるが、地元の方にとっては生活路線であり、この値上げは小さからぬ打撃であろう。
ふたつめ。観光的見地から見ても、JRから第3セクターへの移管は痛いのだ。
鉄道ファンなら誰もが知っている「青春18きっぷ」という期間限定の企画切符がある。JR在来線の普通列車(快速列車含む)が1日乗り放題で2,300円、それが5日分ついているもので、ファンなら一度は利用したことがあるはずだ。
これが第3セクターでは利用できない。線路は変わっていないが、JRとは別会社だからだ。きのうの友はきょうの敵。まるで女流棋士会とLPSAの関係を見るようである。日本将棋連盟を東北新幹線とすれば、東北本線が女流棋士会、青い森鉄道(IRGいわて銀河鉄道)がLPSAというべきか。
もし盛岡から青森へJRのみの利用で行こうとすれば、盛岡から西に舵をとり、田沢湖線-奥羽本線と遠回りしなければならない。その距離313.3km。旧JR東北本線なら203.9kmですむのに、実に100km以上も余計に乗らねばならないのだ。ちなみに盛岡-青森を旧東北本線の第3セクターで利用すると、5,330円(JRだと3,570円)もかかってしまう。貧乏旅行でとてもそんなおカネは出せない。
八戸についてさらに記せば、今回八戸以北の東北本線が廃止になったことで、ここからJRに通じている路線は、太平洋側を走る八戸線のみになってしまった。しかしその八戸線も64.9km先の久慈で切れる。そこからは旧国鉄久慈線の第3セクター・三陸鉄道北リアス線が接続しているが、八戸線沿線の住人は、第3セクターを使わないとJR幹線に乗れないことになった。
みっつめ。ふたつめと連動するが、新幹線が開通すると、観光客が旧在来線で途中下車しないという弊害が起こる。
〈注:読者の指摘により、青い森鉄道・青森-八戸間の普通および快速列車は、途中下車をしなければ、青春18きっぷも利用ができることが分かりました(ただし、野辺地、八戸は途中下車可)。読者の皆様に誤った情報をお知らせしたことをお詫びします〉
肥薩おれんじ鉄道の阿久根は阿久根温泉の玄関口で、JR鹿児島本線時代は特急電車が停まる周遊おすすめ地だった。しかし九州新幹線は阿久根を通らず、山の中を通った。結果、阿久根はローカル線の一駅と化した。
八戸-新青森の東北新幹線も、野辺地(のへじ)や浅虫温泉は停まらない。もし鉄道で訪れようとすれば八戸での乗り換えを余儀なくされ、観光客は減少するだろう。
来年3月には、博多-新八代の九州新幹線が開業する。また2014年度には北陸新幹線、2015年度には北海道新幹線が部分開業予定である。JRは全国に新幹線を通し、手堅く稼ぐ。並行在来線は第3セクターに変換されるだろう。そのたびに各地で「ストロー現象」が起こり、沿線の町には悲喜こもごもの光景が繰り広げられるのだろう。在来線や民間ローカル線を愛する「乗り鉄」としては、複雑な気持ちである。