19日(日)の朝は、部屋への日射しで目が覚めた。前の晩は空腹がつらかったが、朝になってそれも消えていた。朝食は食堂でしっかり摂ったが、旅に出ると、朝はなぜこんなに食欲が出るのだろうと思う。
宿から駅へ向かう途中に生鮮食料品店があり、前夜の調べでは午前9時の開店であった。9時すぎに宿をチェックアウトし、その食料品店に入ってみる。
やはりクジラの赤身が置いてあった。「さえずり」というのもある。これはクジラの舌だ。かなり食指が動くが、肝心の宅配便のサービスはないようだ。大いに迷ったが、やはり買うのは見送りとした
早岐駅前に着いた。この近くに小さなクジラ専門店がある。外観は何てことのない店構えだが、地元密着型とも云え、その意味では信用がおける。
しかしシャッターは下りたままだった。もっと遅い時間に開店するのか、それともこのまま休みなのか。看板に記してある電話番号を控え、とりあえず私は佐世保へ向かった。
10時03分、早岐発。同16分、佐世保着。ここからは松浦鉄道に乗りたいと思う。
松浦鉄道は旧JR松浦線の第3セクターで、1988年に開業した。JRが見放した鉄道だが、その後の市の再建策は見事だった。赤字路線なら通常は、列車の本数を減らし、利用のない駅を通過し…と、スリム化を増進する。
しかし松浦鉄道はその逆をやった。列車の本数を増やし、駅数を増やし、住民の利用を促したのだ。
余談だが、むかし松浦鉄道に乗っていたら、ある駅で地元客の盛大な歓迎を浴びたのでビックリした。
何と、その駅の開業日だったのだ。運転手は花束をもらい、満面の笑みである。私は晴れがましい場に立ち会えたことに、感謝したものだった。ちなみにその花束は、終点に到着すると、客のオバチャンが貰っていった。この図々しさが男にはない。
とにかく松浦鉄道の努力が実って乗客数も上り、数年前までは黒字経営だった。最近は乗客も減って苦戦気味なので、激励の意味も込めて、松浦鉄道の乗り心地を心ゆくまで味わうつもりだった。
その前に、佐世保駅から500m先にある、「させぼ四ヶ町商店街」をぶらぶら歩く。
私は全47都道府県を踏破しており、各地の女子高生を見てきたが、ここ佐世保の商店街を歩く女子高生が、最も魅力的だった。
正確に書けば、女子高生の脚が綺麗だった。とにかくスラッと伸びているのだ。私はどちらかというとムッチリした脚が好みなのだが、四ヶ町商店街では、会う女子高生のほとんどが、モデルのような脚だった。
それで今回も多いに期待したのだが、日曜日とあって制服姿の女子高生がいない。これは小さからぬ誤算だった。
ガックリと気落ちした私は、佐世保バーガーも買わず、そのまま国道35号線沿いのネットカフェに入る。長崎で泊まったところと同じ系列店だ。最近では旅行に出ると、観光地でのネットカフェの有無を確認するようになってしまった。
まさにこのブログを書くためだからだが、貴重な観光の時間をつぶして、自分は何をやってるんだろうと自己嫌悪に陥る。
甚だ使いにくいパソコンに苦闘して19日分をアップし、松浦鉄道佐世保中央駅に向かう。この駅も松浦鉄道に変換されてから新設された駅で、隣の中佐世保とは200mしか離れていない。JRでは東京の日暮里-西日暮里間が500mしか離れていないが、この「200m」は、レール鉄道の中でも日本最短ではなかろうか。
ちなみにこの区間では、アーケード街になっている四ヶ町商店街の上を横断するという、珍しい造りになっている。
その前に例のクジラ専門店に、電話をしたい。しかし周りに公衆電話がないので、断念する。私はケータイを持たないので、こうしたケースはよくある。
ホッタテ小屋のような駅の窓口で「1日乗車券」を買う。ところが千円札を指しだしているのに、駅員の反応がない。よく聞いたら、1,700円だった。窓口横の貼り紙に「1,000円」と書いてあったから訝ったが、それは65歳以上限定の「シルバー1日乗車券」だった。
大人の通常料金は2,000円。この日は休日だったので、1,700円だった。
11時58分発の列車には乗れなかったが、次は12時28分がある。駅で貰った時刻表を見ると、日中はほぼ30分ヘッドで列車が出ている。これは観光客にありがたい。増えたといえば、駅の数もJR時代は32だったが、現在は57まで増えた。まさに客の利便を考えた措置というべきだろう。
ちなみにLPSAは駒込から芝浦に移るにあたり、サロン開業日を月~水も増やした。これは駅数を増やしたというべきか。ただし1日の担当女流棋士は減った。これは車両を1両にした感じか。また芝浦サロンでの指導対局は基本的に、「全席指定」になった。これは会員の敷居を高くしていると思う。
12時28分の列車に乗車。いかにも軽そうな車両で、車内のクロスシートは、都合12席しかなく、あとはロングシートだ。
最近は気動車でも、こうした造りが多くなってきた。島根県を走る木次線はロングシートのみ。岩手県を走る岩泉線(現在は休止中)もロングシートが幅を利かせている。ロングシートにすわって長時間汽車に揺られるのは、旅に適さない。理想的なのは東海道本線・山陽本線を走る特別快速の113系だが、通勤にも観光にも使えるあの座席スタイルを、他社も導入してほしいと思う。
それはともかく、このあとの予定である。本土最西端の駅・たびら平戸口に下車し、遅い昼食を摂ったあと、次の伊万里行きに乗って、15時55分着。ここから有田行きの時間が分からないが、まあ接続しているだろう。
そこから佐世保線に乗り早岐で下車、例の店でクジラを買って、どこかの駅から長崎空港行きのバスに乗る。
どうも、ギッチギチの行程である。とくにクジラ店がネックで、この店が開いているかどうかが問題だ。また伊万里→有田間の列車ダイヤも、まさかとは思うが2時間待ち、とかあったら、長崎空港に入る時間さえ怪しくなる。
もし可能なら、長崎空港では川上文旦堂のざぼんの砂糖漬も入手したいのだ。
そうすると、あまり時間の余裕もないのだった。やっぱり、朝ゆっくりしすぎたのか。
地元の女子高生が乗ってくる。しかし彼女らは席に着いても会話はせず、ひたすらケータイをいじっている。21世紀のいま、会話の相手は友人からケータイに移った。これでいいのだろうか。
たびら平戸口に着く。改札を抜けると、公衆電話があった。クジラ店にかけると、女性が出た。私が数年前にクジラを買ったとき、応対してくれた奥さんだ。
かくかくしかじかと用件を言うと、本日は営業しているが、4時まで。しかしもし店に来るなら、店は開けておく、と言ってくれた。
人生は選択の連続である。この条件を聞いたうえで、このあとの状況を瞬時に判断しなければならない。
私は将棋を趣味にして得をしたことは一度もないが、短時間で決断を迫られたとき、もろもろのシミュレーションを瞬時に描く技量は発達したと思っている。
ここで私が出した結論は、早岐駅にトンボ帰りする、というものだった。
腕時計を見ると、1時46分。松浦鉄道の時刻表を見ていたら、14時48分にここたびら平戸口で、上下線の列車が同時に出発する。
とするならば、その1時間前の13時48分にも、伊万里方面から来た佐世保行きの列車が、ここを出発すると思った。
受話器を置き、再び駅舎へ入ると、果たして佐世保行きの下り列車がホームに入線していた。
私はホームを渡って飛び乗る。「旅は一筆書き」が最上で、いま来た路線を引き返す、というのは私の辞書にはない。しかしこれも、クジラを買うためである。お土産を買うときは、このくらい本気を出さなければならない。
しかしこのまま行っても、佐世保着は16時07分。完全な遅刻だ…と思ったら、1本早い列車に乗っていたことに気づいた。この列車は、15時09分に佐世保に着く。そこから15時33分の快速があり、47分に早岐着。クジラ店は駅から1分の近距離にあるから、どうにか遅刻せずに済む。これで一安心だ。
とはいうものの、きょうはここまで、観光らしい観光をしていない。いくら前夜に今回の旅の目的を成就したといっても、この日の行程は最悪である。
前方の運賃表示器に、「神田」という駅名が映った。ところがアナウンスは「こうだ」と言うのでズッコケた。日本語の読みは本当に難しい。
15時09分、列車は佐世保駅に着いた。高架のホームから、駅前が見える。何かのイベントをやっているようだ。
私はいったん外へ出ることにした。……。聴き覚えのある音楽が流れている。……ああっ!! こ、これは!? 予想もしなかった絶景に、私は目を大きく見開いた。
(つづく)
宿から駅へ向かう途中に生鮮食料品店があり、前夜の調べでは午前9時の開店であった。9時すぎに宿をチェックアウトし、その食料品店に入ってみる。
やはりクジラの赤身が置いてあった。「さえずり」というのもある。これはクジラの舌だ。かなり食指が動くが、肝心の宅配便のサービスはないようだ。大いに迷ったが、やはり買うのは見送りとした
早岐駅前に着いた。この近くに小さなクジラ専門店がある。外観は何てことのない店構えだが、地元密着型とも云え、その意味では信用がおける。
しかしシャッターは下りたままだった。もっと遅い時間に開店するのか、それともこのまま休みなのか。看板に記してある電話番号を控え、とりあえず私は佐世保へ向かった。
10時03分、早岐発。同16分、佐世保着。ここからは松浦鉄道に乗りたいと思う。
松浦鉄道は旧JR松浦線の第3セクターで、1988年に開業した。JRが見放した鉄道だが、その後の市の再建策は見事だった。赤字路線なら通常は、列車の本数を減らし、利用のない駅を通過し…と、スリム化を増進する。
しかし松浦鉄道はその逆をやった。列車の本数を増やし、駅数を増やし、住民の利用を促したのだ。
余談だが、むかし松浦鉄道に乗っていたら、ある駅で地元客の盛大な歓迎を浴びたのでビックリした。
何と、その駅の開業日だったのだ。運転手は花束をもらい、満面の笑みである。私は晴れがましい場に立ち会えたことに、感謝したものだった。ちなみにその花束は、終点に到着すると、客のオバチャンが貰っていった。この図々しさが男にはない。
とにかく松浦鉄道の努力が実って乗客数も上り、数年前までは黒字経営だった。最近は乗客も減って苦戦気味なので、激励の意味も込めて、松浦鉄道の乗り心地を心ゆくまで味わうつもりだった。
その前に、佐世保駅から500m先にある、「させぼ四ヶ町商店街」をぶらぶら歩く。
私は全47都道府県を踏破しており、各地の女子高生を見てきたが、ここ佐世保の商店街を歩く女子高生が、最も魅力的だった。
正確に書けば、女子高生の脚が綺麗だった。とにかくスラッと伸びているのだ。私はどちらかというとムッチリした脚が好みなのだが、四ヶ町商店街では、会う女子高生のほとんどが、モデルのような脚だった。
それで今回も多いに期待したのだが、日曜日とあって制服姿の女子高生がいない。これは小さからぬ誤算だった。
ガックリと気落ちした私は、佐世保バーガーも買わず、そのまま国道35号線沿いのネットカフェに入る。長崎で泊まったところと同じ系列店だ。最近では旅行に出ると、観光地でのネットカフェの有無を確認するようになってしまった。
まさにこのブログを書くためだからだが、貴重な観光の時間をつぶして、自分は何をやってるんだろうと自己嫌悪に陥る。
甚だ使いにくいパソコンに苦闘して19日分をアップし、松浦鉄道佐世保中央駅に向かう。この駅も松浦鉄道に変換されてから新設された駅で、隣の中佐世保とは200mしか離れていない。JRでは東京の日暮里-西日暮里間が500mしか離れていないが、この「200m」は、レール鉄道の中でも日本最短ではなかろうか。
ちなみにこの区間では、アーケード街になっている四ヶ町商店街の上を横断するという、珍しい造りになっている。
その前に例のクジラ専門店に、電話をしたい。しかし周りに公衆電話がないので、断念する。私はケータイを持たないので、こうしたケースはよくある。
ホッタテ小屋のような駅の窓口で「1日乗車券」を買う。ところが千円札を指しだしているのに、駅員の反応がない。よく聞いたら、1,700円だった。窓口横の貼り紙に「1,000円」と書いてあったから訝ったが、それは65歳以上限定の「シルバー1日乗車券」だった。
大人の通常料金は2,000円。この日は休日だったので、1,700円だった。
11時58分発の列車には乗れなかったが、次は12時28分がある。駅で貰った時刻表を見ると、日中はほぼ30分ヘッドで列車が出ている。これは観光客にありがたい。増えたといえば、駅の数もJR時代は32だったが、現在は57まで増えた。まさに客の利便を考えた措置というべきだろう。
ちなみにLPSAは駒込から芝浦に移るにあたり、サロン開業日を月~水も増やした。これは駅数を増やしたというべきか。ただし1日の担当女流棋士は減った。これは車両を1両にした感じか。また芝浦サロンでの指導対局は基本的に、「全席指定」になった。これは会員の敷居を高くしていると思う。
12時28分の列車に乗車。いかにも軽そうな車両で、車内のクロスシートは、都合12席しかなく、あとはロングシートだ。
最近は気動車でも、こうした造りが多くなってきた。島根県を走る木次線はロングシートのみ。岩手県を走る岩泉線(現在は休止中)もロングシートが幅を利かせている。ロングシートにすわって長時間汽車に揺られるのは、旅に適さない。理想的なのは東海道本線・山陽本線を走る特別快速の113系だが、通勤にも観光にも使えるあの座席スタイルを、他社も導入してほしいと思う。
それはともかく、このあとの予定である。本土最西端の駅・たびら平戸口に下車し、遅い昼食を摂ったあと、次の伊万里行きに乗って、15時55分着。ここから有田行きの時間が分からないが、まあ接続しているだろう。
そこから佐世保線に乗り早岐で下車、例の店でクジラを買って、どこかの駅から長崎空港行きのバスに乗る。
どうも、ギッチギチの行程である。とくにクジラ店がネックで、この店が開いているかどうかが問題だ。また伊万里→有田間の列車ダイヤも、まさかとは思うが2時間待ち、とかあったら、長崎空港に入る時間さえ怪しくなる。
もし可能なら、長崎空港では川上文旦堂のざぼんの砂糖漬も入手したいのだ。
そうすると、あまり時間の余裕もないのだった。やっぱり、朝ゆっくりしすぎたのか。
地元の女子高生が乗ってくる。しかし彼女らは席に着いても会話はせず、ひたすらケータイをいじっている。21世紀のいま、会話の相手は友人からケータイに移った。これでいいのだろうか。
たびら平戸口に着く。改札を抜けると、公衆電話があった。クジラ店にかけると、女性が出た。私が数年前にクジラを買ったとき、応対してくれた奥さんだ。
かくかくしかじかと用件を言うと、本日は営業しているが、4時まで。しかしもし店に来るなら、店は開けておく、と言ってくれた。
人生は選択の連続である。この条件を聞いたうえで、このあとの状況を瞬時に判断しなければならない。
私は将棋を趣味にして得をしたことは一度もないが、短時間で決断を迫られたとき、もろもろのシミュレーションを瞬時に描く技量は発達したと思っている。
ここで私が出した結論は、早岐駅にトンボ帰りする、というものだった。
腕時計を見ると、1時46分。松浦鉄道の時刻表を見ていたら、14時48分にここたびら平戸口で、上下線の列車が同時に出発する。
とするならば、その1時間前の13時48分にも、伊万里方面から来た佐世保行きの列車が、ここを出発すると思った。
受話器を置き、再び駅舎へ入ると、果たして佐世保行きの下り列車がホームに入線していた。
私はホームを渡って飛び乗る。「旅は一筆書き」が最上で、いま来た路線を引き返す、というのは私の辞書にはない。しかしこれも、クジラを買うためである。お土産を買うときは、このくらい本気を出さなければならない。
しかしこのまま行っても、佐世保着は16時07分。完全な遅刻だ…と思ったら、1本早い列車に乗っていたことに気づいた。この列車は、15時09分に佐世保に着く。そこから15時33分の快速があり、47分に早岐着。クジラ店は駅から1分の近距離にあるから、どうにか遅刻せずに済む。これで一安心だ。
とはいうものの、きょうはここまで、観光らしい観光をしていない。いくら前夜に今回の旅の目的を成就したといっても、この日の行程は最悪である。
前方の運賃表示器に、「神田」という駅名が映った。ところがアナウンスは「こうだ」と言うのでズッコケた。日本語の読みは本当に難しい。
15時09分、列車は佐世保駅に着いた。高架のホームから、駅前が見える。何かのイベントをやっているようだ。
私はいったん外へ出ることにした。……。聴き覚えのある音楽が流れている。……ああっ!! こ、これは!? 予想もしなかった絶景に、私は目を大きく見開いた。
(つづく)