一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

感動のフランボワーズカップ(中編)・遅刻

2010-12-26 01:58:22 | LPSAイベント
「そ…それは、私たちが指す場所を変えるということでしょうか。それとも、指導の先生が代わるということでしょうか」
私は観念しつつも、一縷の望みを抱いて聞いた。
「いえ、先生が代わります」
アイリスの女性は、散文的に答える。何でだ。一体、何があったのだ…。
ほどなくして、山下カズ子女流五段がいらした。考えてみれば、船戸陽子女流二段には、もう30局以上も指導対局を受けている。ここは山下女流五段に指導を受けられることを、貴重な機会だと考えるべきだ。
私は気を取り直して盤に向かう。
「大沢さん、大沢さん」
背後で私を呼ぶ声がする。振り返ると、W氏が(あれ? あれ?)という口の形をしてゲラゲラ笑っている。どうもおもしろくない。
山下女流五段が
「お久しぶりです。…私の先手ですね」
と、冗談とも本気ともつかないことを言う。
元女流名人を相手に、後手で指せるわけがない。私が強引に先手で指した。
将棋は私の居飛車明示に、山下女流五段のゴキゲン中飛車。山下女流五段の軽い動きに中盤まで苦戦だったが、やはり上手が多面指し(4面)だったのが、こちらに有利に働いた。終盤の入口で山下女流五段に淡泊な手が出て、以下はなんとか勝つことができた。時に午後1時57分。
ちなみに、鹿野圭生女流初段は2面指し、大庭美樹女流初段は4面指しだった。山下女流五段と鹿野女流初段を3面指しにする手はあったかもしれない。
ほかの指導対局も続いているので、私も感想戦を早めに切り上げ、準決勝「第2局」の島井咲緒里女流初段-渡部愛ツアー女子プロの観戦に入る。これも毎年恒例だが、準決勝からはステージに対局者が上がり、解説がついての公開対局である。
その解説は現在、阿久津主税七段が務めている。「現在」と書いたのは、阿久津七段が大幅に遅刻し、先ほどやっと来たからだ。それまでは石橋幸緒天河、中倉宏美女流二段が務めていた。
実はLPSAのイベントなどで、阿久津七段が遅刻したのは今回が初めてではない。3回目である。いわば遅刻の常習者だ。
私は時刻表片手に旅行することが多いが、飛行機や列車の乗り遅れは命取りになるので、時間にはシビアである。だから時間にルーズな人は信用しない。
阿久津七段は、公式戦や日本将棋連盟のイベントには、遅刻はしないのだろう。ということは、阿久津七段はLPSAや私たちを、ナメているのだ。
今回は阿久津七段の遅刻のせいで、準決勝第1局の中井-石橋戦が後回しになった。LPSAの両巨頭が対局に入ってしまうと、ほかの女流棋士には、この将棋の解説の荷が重くなってしまうからだ。よって第2局を繰り上げ、石橋天河を解説のひとりに据えたのである。
島井-渡部戦は、島井女流初段の四間穴熊に渡部ツアー女子プロの銀冠となったが、非勢の将棋を渡部ツアー女子プロが盛り返し、最後は島井玉を鮮やかに寄せ切った。
遠くにHak氏が入場したのが見える。朝は30~40人程度の入りだったが、午後になってかなり客も集まってきたようだ。
さて準決勝「第1局」、中井-石橋戦である。2時30分、両雄が登場して抱負を述べるが、いつものカードなので、お互い苦笑するしかない。こうして事実上の決勝戦は、2時35分に始まった。
聞き手は、船戸女流二段。結局船戸女流二段は指導対局を行わなかったようだが、どうもここで聞き手を務めることと、関係があるらしかった。
私からの席では、解説場所のすぐ横に座っている中井広恵女流六段の容姿がよく見えた。その中井女流六段が、チラッ…チラッ…と、私を2回ほど見たような気がしたのだが、気のせいだろうか。ひょっとしたら、私の粘りつくような視線に、悪寒を感じたのかもしれない。
将棋は、先番石橋天河の、藤井システム風普通四間飛車。中井女流六段は、居飛車穴熊。何でも指す石橋天河の作戦が注目されたが、オーソドックスな振り飛車は、これはこれで意表を衝いたかもしれない。
本日対局でない女流棋士もパラパラと訪れている。このあと5時30分ごろから、LPSA懇親会(5,000円)があるからだ。
2時50分、松尾香織女流初段が訪れた。いつの間にか席を立っていたW氏と、何やら談笑している。私は女流棋士を前にするとアガッてしまうが、W氏は何の屈託もなく話す。彼の話術があれば、私ももう少し女流棋士とお近付きになれたのにと思う。
局面は、中盤の入口である。中井女流六段が考えている。相変わらずアンニュイで、一幅の絵画のようだ。と、右手が動いて、☖3二飛を着手した。今度は石橋天河が長考に入った。
2時52分、Y氏の顔が見えた。来るべき人が来る、という感じだ。
2時56分、石橋天河がとうとう秒読みに入った。中井女流六段はまだ9分も残しているから、大差だ。ふたりは先日の女流王位戦リーグで、ともに苦杯を喫した。決して好調とはいえず、石橋天河のほうに、それは大きいような気がする。
石橋天河、文字どおりノータイムで、☗8八角と引く。これに☖9五角と出られたらどうするのだろう。角成りが受からない。と、案の定☖9五角が指された。石橋天河の手が止まる。どうも先手が苦しくなったようだ。
その前の☗8七飛もどこか違和感があり、この日の石橋天河の指し手は、どこかふわふわした感じだった。
3時6分。中井女流六段、熟考して☖3六歩と決めに出た。阿久津七段が、
「方針を決めるときに時間を使うのが強者の指し方」
と言う。素人目にも、後手を持ちたくなった。
決めるだけ決めて、☖3五飛と浮く。このまま攻めて忙しくせず、アタリの飛車をじっとかわす、落ちついた手だ。
阿久津七段も、
「この手は気づかなかった」
と感心する。これは大差になったようだ。
石橋天河、☗2八角と辛抱する。飛車は「8八」におり、聞き手の船戸女流二段が、
「飛車角を並べ間違えた人みたいですね」
とノーテンキなことを言う。
3時14分、T氏が来た。現在東京・将棋会館では、清水市代女流六段が竜王戦を戦っている。女流棋士会ファンクラブ「駒桜」主導の解説会も行われるが、そちらに行かなくていいのだろうか。
その直後、中井女流六段、☖3七金打。敵歩のアタマに露骨に打ちこみ、ここで石橋天河の投了となった。
感想戦。石橋天河はどこかで☗3六歩とキズを消しておくべきだったが、ここには打たない方針だったというから、仕方ない。反対に中井女流六段は自然に指し、優勢になってからは穴熊の堅さを頼みに、一気に収束までもっていった将棋だった。とにかく中盤の「☗8八角☖9五角」の2手がすべてだった。
さあ、これでいよいよ、中井女流六段と渡部ツアー女子プロの決戦となったのである。
(つづく)
コメント (4)
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