LPSAの特別企画「木曜ワインサロン」が、4月より復活した。これはソムリエの資格を持つ船戸陽子女流二段がミニワイン講座を行い、同女流二段オススメのワインを楽しみつつ、指導対局を受けるというものだ。
かねてから船戸女流二段は、ワインと将棋を融合させたイベントを開きたい、と熱望していた。「木曜ワインサロン」は、そんな船戸女流二段の構想が具現化されたものである。昨年は10月~12月に6回開かれたが、好評だったため、今年も開催の運びとなった。今回は4月から6月まで、計6回開かれる。開講時間は午後7時から9時まで。その第1回目が14日にあり、私は芝浦サロンに向かった。
6時すぎにJR田町駅で下車し、改札を抜けたあと、海側に向かって左側の階段を降りる。まずは「小諸そば」で腹ごしらえをしたい。芝浦サロンは芝浦運河を抜け、大通りにぶつかったところを右折するのだが、先月末にオープンした「小諸そば」は道路左側の歩道沿いにあるので、こちらから降りたほうがいいのだ。
しばらく歩くと、前に背の高い女性がいる。船戸女流二段!? と思ったが、髪型が違う。同じロングだが、船戸女流二段はちょっと縮れ気味だ。しかし万が一船戸女流二段だったら、こちらも心の準備があるので、一応の確認はする。
ああ…香水の香りがする。これは船戸女流二段の香りだ。しかし…。彼女がわずかに角度を変えた。…やっぱり違った。私は彼女の脇をすり抜け、小諸そばに入った。注文したのは例によって「二枚もり」。晩ご飯どきだったので、かなり客が入っていた。ここに出店したのはいい読みだったようである。
サロンには6時半ごろ入室した。テーブルの上には将棋盤とワイングラスがそれぞれ6つ用意されていた。初回は定員ギリギリまで申し込みがあったようである。
先客はひとり。船戸女流二段が「詰め将棋カレンダー2012」の作品提出をうながしていた。〆切は今月25日。私も出さねばと思うが、どうもいい問題ができない。
きょうの船戸女流二段は、薄手の生地の花柄のワンピースに、ピンクのカーディガンを羽織っている。もうすっかり春の装いだ。
「大沢さんは、ゴールデンウイークはどこかへ行くんですか?」
船戸女流二段が今度は私にきく。女流棋士ファンランキング1位の船戸女流二段と話すときは、いつもドキドキしてしまう。ムラムラするというべきか。ただし、妙な安心感もある。2位の島井咲緒里女流初段と話すときもドキドキするが、ムラムラまではいかない。ここが1位と2位の差である。ちなみに3位の中井広恵天河と話すときは、別の意味でドキドキする。
「ああ、九州へ行くつもりです。日程は未定だけど」
「九州ですか」
「ええ、毎年行ってるんで。(5月)2日は休めると思うんで、29日から5日まで行くと思います」
「私、2日はサロンなんですよ。しょぼん」
「……」
私の反応を楽しむためか、船戸女流二段はしょげる。今年は、ゴールンウイーク中も芝浦サロンがあるらしい。そこに船戸女流二段が入るとは、何という巡り合わせの悪さか。しかし私だって、旅行の予定を変えるわけにはいかない。
もう6時55分だが、まだ客は私たちふたりだけだ。とりあえず駒だけ出したところで、バタバタと3人入室して、計5人になった。その中にはミスター中飛車氏、読売日本一戦で優勝経験もあるK氏がいた。
船戸女流二段が今回用意したのはアルゼンチン産の、桜色のワイン。泡だっていたので
「シャンパンですね」
と口走ったが、これが疑問手だった。
「これはシャンパンではありません。大沢さん、去年教えませんでしたか?」
と船戸女流二段がすかさず咎める。
「いえ…忘れちゃいました」
「シャンパンはシャンパーニュ地方で造られたものをいいます。これはスパークリングワインですね」
そう言って、船戸女流二段がホワイトボードに名称を書く。私は頭をかくばかりだ。
ミニ講義のあとに、指導対局が開始された。結局、ひとりは欠席になったようだ。私の左側には中飛車氏が座っているが、氏はワインに造詣が深く、船戸女流二段にいろいろ質問している。私はワインに興味はなく、フナトヨーコへの興味だけでワインサロンに通うクチなので、あまりいい客ではない。
将棋は船戸女流二段の中飛車に、私の棒銀。船戸女流二段は穴熊に潜った。よく見ると、ほかの平手戦3局も、船戸女流二段は穴熊だ。K氏が
「船戸さん、また穴熊を指すようになったの?」
と笑いながら問う。
「この前まで急戦を指してたんですけど、また穴熊に戻っちゃいました」
木曜日の夜、和気藹藹とした雰囲気である。
船戸女流二段、飛車角交換をしたのち、☖2八飛と角取りに下ろす。私は☗4七角打とつないだ。その局面が下である。
感想戦では私が「ここで☖5五歩と合わされるのがイヤでした」と述べたが、いま考えたら、船戸女流二段は歩切れだった。しかし歩の代わりに、☖5三香と打つ手もあったと思う。
本譜は☖5四銀と出たが、☗3三歩成として、私が指しやすくなった。
指導対局中、私は船戸女流二段を見上げることはしないから、雰囲気だけ味わうことになる。すると、植木理恵がいるような気がした。船戸女流二段を前にしてほかの女性を思い浮かべるなんて、船戸女流二段に失礼ではあったが。
将棋は私の勝ち。その感想戦では、時間が余っていたからか、上の局面から☖5五歩と指し、ずるずると「2局目」が始まった。
私は船戸女流二段をあらためて見やる。ワンピースの下に、白のミニスカートがうっすらと透けて見える。これは…。一体、どういう構造になっているのだろう。でもそのまま凝視してはいけない気がして、私は盤面に視線を戻した。
時刻は9時近くになり、自由解散となった。木曜サインサロンでの船戸女流二段は、女流棋士とソムリエの両面を見せねばならず、ふだんの倍の神経を遣うと思う。しかしソムリエの船戸女流二段は、将棋を指すときとは別の顔になって、とても凛々しい。
ワイン好きには好評のこの企画だが、若干私は浮いている気がする。もう少しワインを勉強して、サロンに臨みたい。
かねてから船戸女流二段は、ワインと将棋を融合させたイベントを開きたい、と熱望していた。「木曜ワインサロン」は、そんな船戸女流二段の構想が具現化されたものである。昨年は10月~12月に6回開かれたが、好評だったため、今年も開催の運びとなった。今回は4月から6月まで、計6回開かれる。開講時間は午後7時から9時まで。その第1回目が14日にあり、私は芝浦サロンに向かった。
6時すぎにJR田町駅で下車し、改札を抜けたあと、海側に向かって左側の階段を降りる。まずは「小諸そば」で腹ごしらえをしたい。芝浦サロンは芝浦運河を抜け、大通りにぶつかったところを右折するのだが、先月末にオープンした「小諸そば」は道路左側の歩道沿いにあるので、こちらから降りたほうがいいのだ。
しばらく歩くと、前に背の高い女性がいる。船戸女流二段!? と思ったが、髪型が違う。同じロングだが、船戸女流二段はちょっと縮れ気味だ。しかし万が一船戸女流二段だったら、こちらも心の準備があるので、一応の確認はする。
ああ…香水の香りがする。これは船戸女流二段の香りだ。しかし…。彼女がわずかに角度を変えた。…やっぱり違った。私は彼女の脇をすり抜け、小諸そばに入った。注文したのは例によって「二枚もり」。晩ご飯どきだったので、かなり客が入っていた。ここに出店したのはいい読みだったようである。
サロンには6時半ごろ入室した。テーブルの上には将棋盤とワイングラスがそれぞれ6つ用意されていた。初回は定員ギリギリまで申し込みがあったようである。
先客はひとり。船戸女流二段が「詰め将棋カレンダー2012」の作品提出をうながしていた。〆切は今月25日。私も出さねばと思うが、どうもいい問題ができない。
きょうの船戸女流二段は、薄手の生地の花柄のワンピースに、ピンクのカーディガンを羽織っている。もうすっかり春の装いだ。
「大沢さんは、ゴールデンウイークはどこかへ行くんですか?」
船戸女流二段が今度は私にきく。女流棋士ファンランキング1位の船戸女流二段と話すときは、いつもドキドキしてしまう。ムラムラするというべきか。ただし、妙な安心感もある。2位の島井咲緒里女流初段と話すときもドキドキするが、ムラムラまではいかない。ここが1位と2位の差である。ちなみに3位の中井広恵天河と話すときは、別の意味でドキドキする。
「ああ、九州へ行くつもりです。日程は未定だけど」
「九州ですか」
「ええ、毎年行ってるんで。(5月)2日は休めると思うんで、29日から5日まで行くと思います」
「私、2日はサロンなんですよ。しょぼん」
「……」
私の反応を楽しむためか、船戸女流二段はしょげる。今年は、ゴールンウイーク中も芝浦サロンがあるらしい。そこに船戸女流二段が入るとは、何という巡り合わせの悪さか。しかし私だって、旅行の予定を変えるわけにはいかない。
もう6時55分だが、まだ客は私たちふたりだけだ。とりあえず駒だけ出したところで、バタバタと3人入室して、計5人になった。その中にはミスター中飛車氏、読売日本一戦で優勝経験もあるK氏がいた。
船戸女流二段が今回用意したのはアルゼンチン産の、桜色のワイン。泡だっていたので
「シャンパンですね」
と口走ったが、これが疑問手だった。
「これはシャンパンではありません。大沢さん、去年教えませんでしたか?」
と船戸女流二段がすかさず咎める。
「いえ…忘れちゃいました」
「シャンパンはシャンパーニュ地方で造られたものをいいます。これはスパークリングワインですね」
そう言って、船戸女流二段がホワイトボードに名称を書く。私は頭をかくばかりだ。
ミニ講義のあとに、指導対局が開始された。結局、ひとりは欠席になったようだ。私の左側には中飛車氏が座っているが、氏はワインに造詣が深く、船戸女流二段にいろいろ質問している。私はワインに興味はなく、フナトヨーコへの興味だけでワインサロンに通うクチなので、あまりいい客ではない。
将棋は船戸女流二段の中飛車に、私の棒銀。船戸女流二段は穴熊に潜った。よく見ると、ほかの平手戦3局も、船戸女流二段は穴熊だ。K氏が
「船戸さん、また穴熊を指すようになったの?」
と笑いながら問う。
「この前まで急戦を指してたんですけど、また穴熊に戻っちゃいました」
木曜日の夜、和気藹藹とした雰囲気である。
船戸女流二段、飛車角交換をしたのち、☖2八飛と角取りに下ろす。私は☗4七角打とつないだ。その局面が下である。
感想戦では私が「ここで☖5五歩と合わされるのがイヤでした」と述べたが、いま考えたら、船戸女流二段は歩切れだった。しかし歩の代わりに、☖5三香と打つ手もあったと思う。
本譜は☖5四銀と出たが、☗3三歩成として、私が指しやすくなった。
指導対局中、私は船戸女流二段を見上げることはしないから、雰囲気だけ味わうことになる。すると、植木理恵がいるような気がした。船戸女流二段を前にしてほかの女性を思い浮かべるなんて、船戸女流二段に失礼ではあったが。
将棋は私の勝ち。その感想戦では、時間が余っていたからか、上の局面から☖5五歩と指し、ずるずると「2局目」が始まった。
私は船戸女流二段をあらためて見やる。ワンピースの下に、白のミニスカートがうっすらと透けて見える。これは…。一体、どういう構造になっているのだろう。でもそのまま凝視してはいけない気がして、私は盤面に視線を戻した。
時刻は9時近くになり、自由解散となった。木曜サインサロンでの船戸女流二段は、女流棋士とソムリエの両面を見せねばならず、ふだんの倍の神経を遣うと思う。しかしソムリエの船戸女流二段は、将棋を指すときとは別の顔になって、とても凛々しい。
ワイン好きには好評のこの企画だが、若干私は浮いている気がする。もう少しワインを勉強して、サロンに臨みたい。