一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第2回 信濃わらび山荘将棋合宿⑥・中井広恵VS植山悦行

2011-04-30 23:26:15 | 将棋イベント
植山悦行七段、▲6五歩。中井広恵女流六段の飛車も死に、いきおい飛車の取り合いとなった。しかし△6七桂不成と飛車を取った手がさらに5九の角取り。▲6四歩に△5九桂成と大駒を二枚取れては、中井女流六段の優勢がハッキリしたようだ。
中井女流六段、△9八飛とここから打つ。植山七段、▲4五歩とじっと拠点を作る。ここで中井女流六段が△6九成銀と入ったのが好手だった。ここ、ふつうは△6八成銀と寄って、5九の金と交換するところ。しかしそれでは単に金銀交換に終わってつまらない。△6九成銀を▲同金なら、△4八飛成とこちらの銀を取って、これは中井女流六段がよい。
植山七段▲4九金の辛抱に、中井女流六段△6七角。どうやらこれは、スジに入ったようだ。
▲5七飛の自陣飛車に、△4七歩が千金の決め手となった。▲4七同銀左と右は、いずれも△4九角成。▲4七同飛は△5六角成。どの駒でも取れないのだ。植山七段、力なく▲6七飛と角を取るが、△4八歩成となっては、もはや大勢決した。
このあたりいま思えば、植山七段の精気が失せていた気がする。ペチッと置いた▲4四桂に、中井女流六段が△3八とと王手で銀を取らず、黙って△4九とと金を取ったのも憎かった。
もう、終局への手続きである。植山七段、銀を取ってから、形づくりの▲4四香。いよいよ終局のときが近づいてきた。中井女流六段、静かに△3九銀。植山七段、もう一手指して▲2七玉。中井女流六段、△2八金。植山七段、小さいがはっきりとした声で「負けました」と告げ、中井女流六段の勝利となった。
その瞬間、バンザイをする中井女流六段。喜び半分、パフォーマンス半分だったと思うが、緊張感から解放された、実にすばらしい笑顔だった。
すぐに感想戦が始まったが、大盤の前に移動してもらい、改めて初手から、感想戦を行ってもらった。
植山七段によると、序盤の進行はこんなもの。ただ、中井女流六段の指し手に2回意表を突かれたことがあったそうだ。そのうちのひとつが△6九成銀と入った手。あえて一段目にすべらせる手を軽視していたという。たしかに△6九成銀を指したときの中井女流六段の手は、しなっていた。本人も会心の一着だったろう。
本局、始まる前までは、やはり植山七段が勝つのだろうと思っていた。事実戦前の勝敗予想でも、私は棋譜読み上げの席に着いていながら、「植山勝ち」に手を挙げてしまったぐらいだ。
しかし中井女流六段は終始堂々とした指し回しで、見事な勝利だった。また植山七段も、斬られ役に回ってしまったものの、感想戦でも悪びれることなく読み筋を述べ、実に清々しかった。大野八一雄七段の、緩急自在の解説もおもしろく、熱局に花を添えた。
さて、表彰式である。むきだしのままの賞金を受け取った中井女流六段は、
「これで家計が助かります~」
と、大喜びだった。さすがにコメントも、気が利いていた。
終わりはやや差がついてしまったが、ふたりの持ち味がよく出た、素晴らしい一局だった。いや私はその内容よりも、賞金が少なかったにもかかわらず、ふたりが真剣に指してくれたことのほうが、うれしかった。
両雄に敬意を表して、以下に本局の全棋譜を掲げておく。


平成23年4月24日
第1回信濃わらび杯・最恐戦
先手:七段 植山悦行
後手:女流六段 中井広恵
対局場所:長野県南佐久郡川上村「信濃わらび山荘」
開始時刻:午前9時10分 終了時刻:10時23分
持ち時間各20分 秒読み60秒

☗7六歩☖3四歩☗6六歩☖6二銀☗6八銀☖5四歩☗5六歩☖4二玉☗2六歩☖3二銀☗5七銀☖5二金右☗3六歩☖4四歩☗7八飛☖8四歩☗3八銀☖8五歩☗7七角☖3三角
☗4八玉☖3一玉☗3九玉☖1四歩☗1六歩☖2四歩☗5八金左☖2二玉☗2八玉☖4三金☗4六歩☖5三銀☗4七金☖7四歩☗9六歩☖9四歩☗9七香☖6四銀☗5九角☖4二角
☗9八飛☖7五歩☗9五歩☖8六歩☗同歩☖9五歩☗同香☖9三歩☗同香成☖同桂☗9四歩☖8三飛☗7五歩☖8五桂☗7四歩☖8四飛☗6五歩☖同銀☗7三歩成☖5五歩
☗同歩☖9四香☗6八飛☖6四飛☗8五歩☖5六歩☗4八銀☖3三角☗7七桂☖6六香☗6七歩☖7六銀☗6六歩☖7七銀不成☗6九飛☖7八銀成☗6七飛☖7五桂☗6五歩☖6七桂不成
☗6四歩☖5九桂成☗同金☖4五歩☗5六金☖9八飛☗4五歩☖6九成銀☗4九金☖6七角☗5七飛☖4七歩☗6七飛☖4八歩成☗4四桂☖4九と☗3二桂成☖同金☗4四香☖3九銀☗2七玉☖2八金
まで、102手で中井女流六段の勝ち。
(つづく)
コメント (2)
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