一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第2回 信濃わらび山荘将棋合宿⑤・植山悦行VS中井広恵

2011-04-29 02:15:48 | 将棋イベント
食堂の中央付近に二寸盤を置き、ここが植山悦行七段と中井広恵女流六段の対局場となった。食堂の入口付近に移動させた黒板にはビニールの大将棋盤を張り付け、即席解説場の出来上がり。解説は大野八一雄七段である。すべてが手作りだが、不思議としっくり収まった感じだ。
今回使用する駒は、合宿で使っているものよりワンランク上のものを、植山七段が用意した。対局前は逃げ腰だった植山七段も、いったん腹を括ってしまえば、率先して最良の環境づくりに協力である。
持ち時間は20分。それを使い切ると、1手60秒の秒読みとした。秒読みが少し長いがこれは、余裕を持って解説したい、という大野七段の意向による。
棋譜読み上げ係は、私が手を挙げた。あまりでしゃばりたくなかったのだが、符号を間違わずに言え、大きな声を出せる人といえば、私しかいないと思った。
蕨市役所将棋部のY氏に振り駒をお願いし、植山七段の先手に決まる。かくして4月24日午前9時10分、植山悦行七段と中井広恵女流六段による、第1回信濃わらび杯・最恐戦が始まった。
植山七段の☗7六歩に、中井女流六段は、横歩取りにしましょうと☖3四歩。対して植山七段は、まったりで行きましょうと☗6六歩。
数手後の☖4二玉に、早い玉上がりを咎めてやると、長考して☗2六歩。矢倉なら矢倉でもいいわよと☖3二銀。いえ矢倉はやりませんと☗7八飛。「棋は対話」というが、ふたりの指し手を会話にすると、こうなる。虚々実々の駆け引きを経て、三間飛車対居飛車に落ち着いた。
中井女流六段は☖3二銀型を継承し、左美濃の構え。☖2二玉と玉を入城し、どこからでも来たら、の構え。植山七段は高美濃に組み、☗9七香と上がった。
植山七段の三間飛車はめずらしく、組み上がってしまえばよく見る形なのだが、力戦型を好む植山七段が指すと、変わった味が醸し出されるから不思議だった。
ところで駒は高級品に替えたが将棋盤もそうで、本局に伴い、やや高いものに替えている。よって中井女流六段は対局開始時から、イスの上に正座をしている。ために植山七段を上から見下ろす形になっているが、それが植山家の現在の立場を表わしているようで、私は植山七段へ声援を送らざるを得なかった。
大盤解説の大野七段は硬軟織り交ぜて「絶口調」だ。どちらが有利か、参加者から決を取ったが、その票数を選挙の出口調査に例え、巧みに笑いを取っている。むろん、指し手の解説も明快だ。それを参加者はすぐ前で、かぶりつきで聴いている。ふだんではあり得ない光景である。
植山七段、☗9八飛。後手が☖7三桂と跳ねている形ではよくある狙い筋だが、いまの後手は☖8一桂。それでも仕掛けが成立するのだろうか。
時間は植山七段のほうが多く余している。42手目、中井女流六段が☖7五歩と突っかけ、初めて駒がぶつかった。植山七段、これに☗9五歩と応じ、いよいよ戦いが始まった。
R氏がそろそろと、対局者にお茶を出す。私はまったく気が付かなかった。
そんな私は、対局者の正面にビデオカメラが置かれている関係で、植山七段の右横に座っている。植山七段の向かいにいる中井女流六段の表情は真剣そのものだ。それは植山七段も同じである。ふだんの指導対局にはない近寄りがたいオーラが発散されている。棋譜読み上げはこれでも神経を遣うが、唯一の特権は、そんな両対局者を間近で拝めることであった。
☖9三歩に植山七段は長考のすえ☗同香成。考慮時間は、いつの間にか植山七段のほうが上回っている。
☖9三同桂☗9四歩に☖8三飛浮きが、大野七段も感心した3手一組の手順だった。☗9三同香成を☖同香だと☖8一の桂が取り残されるので、桂、香を二枚とも捌いてしまおう、というココロである。
植山七段が55手目を考慮中、60秒の秒読みに入った。チェスクロックのボタンは自身で押すから、ここからは押し遅れに注意しなければならない。
中井女流六段も、62手目を考慮中に60秒将棋に入った。歩を取って、☖9四香と走る。
黒板には、聞き手・Y氏発案の「形勢判断バー」が引かれている。先月NHKで放映された、A級順位戦各局の形勢判断で使われていたアイデアを拝借したものだろう。虚々実々の応酬に、解説場の形勢判断も揺れているようだった。
ピッ、ピッ、ピー、と、秒読みの電子音が、容赦なく対局者に襲いかかる。さすがに百戦錬磨の猛者だけあって慌てたそぶりは見せないが、植山七段の残り秒数を見ると「1」になっている。見ているこちらの心臓にわるい。
中井女流六段が考えている。チラッと植山七段を見た。
ビシッ、と☖7五桂。植山七段の飛車が、詰んだ。
(つづく)
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする