一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

再び大野教室に行く(前編)・大野八一雄七段の教え

2011-04-20 01:05:28 | 大野教室
17日(日)は、埼玉県川口市にある「大野教室」へ行った。3月6日(日)に続き、2度目となる。大野教室は、大野八一雄七段が講師を務める将棋教室。第1、3の週末に開かれ、大野七段自ら実戦指導するのがウリである。僚友である植山悦行七段や中井広恵女流六段の助っ人もあり、2局教えていただけることも多い。1回料金は3,500円だから、たいへんおトクな教室である。
午後1時すぎに教室に入る。ドア越しに声を掛けると、W氏の声がした。
「あれ大沢さん?」
「うん」
「ごめん、きょう野月さん来ないよ。きのう来ちゃったよ」
「そうなの? じゃあ帰ろかな」
実は15日(金)のLPSA芝浦サロンの帰り、W氏から「17日に野月浩貴七段が見える」との情報をもらい、そのときは聞き流したものの、やはり野月七段にお会いしたい誘惑には勝てず、今回出向いたわけだった。結果は空振りになったが、それはそれで構わない。もちろん私は、そのまま入室した。
この時点で、生徒は子供4人とW氏しかいなかった。最近の大野教室は生徒が多く、日に10人を越えることもしばしばだ。大野七段の丁寧な指導が支持されたもので、教室の質がよければ生徒が集まるという好例である。
「大野先生、竜王戦の勝利、おめでとうございます」
指導中の大野七段に挨拶する。大野七段は先日の竜王戦6組で土佐浩司七段に勝ち、ベスト4に進出した。植山七段の成績がパッとしない中、大野七段は他棋戦でも勝ち残っており、私たちの応援も大野七段に傾きつつある。
早速、角落ちで教えていただく。私の居飛車明示に大野七段は向かい飛車に構える。大野七段との角落ち戦はこれで5局目だが、いまだ勝ち星なし。位を張られて中押し負けするパターンが多く、その克服がカギである。
しかし本局も、大駒を押さえ込まれ苦しい展開となった。終盤、

の局面で、大野七段は☖6四桂。ここで私は☗7五桂と打ったが、☖5六桂☗6三桂成☖6二金で私の投了となった。
☗7五桂では☗7三歩成☖同王☗8五桂を利かすか、たんに☗5九飛と逃げておいたほうが、もう少し息が長かったと思う。本局も完敗し、大野七段の強さをまざまざと見せつけられた形となった。
一休みしていると、植山七段が見えた。とくにかける言葉がない。
2局目は小学生クンと。前回も対戦した男の子で、そのときは横歩取りの激しい将棋になったが、終盤うまく指されて、惜敗した。今回は大野七段に「リベンジしてください」とハッパをかけられ、プレッシャーがかかる中で、対局を始めた。

私の先手で、相横歩取りに進む。彼は居飛車党のようだ。飛車角総交換の第1図から☗4六角☖8二角☗同角成☖同銀☗5五角☖2八歩☗8二角成☖2九歩成☗4八銀☖2七角☗3六歩(第2図)…と進んだが、☖8二角では、いきなり☖2七角と打たれたほうがイヤだった。

本譜もむずかしい戦いが続いたが、中盤で小学生クンに大ポカがあり、私の勝ち。彼はこの秋、奨励会試験を受けるという。次に対戦するときは、彼が私にリベンジする番だ。
3時休みになり、赤福、せんべい、マドレーヌなどが供された。大野教室はおやつも豪華だ。ペットボトルのお茶やジュースも無料。大野七段は、全然商売っ気がないのだ。ただ、大野教室の3時は「休み」にならない。詰将棋トライアル(30分)の時間なのだ。今回は中級向け問題8題が出題された。W氏は今回も、トライアルに参加せず。いつもながら、賢明である。
せんべいをパリパリやりながら詰将棋を解いていると、大野七段がいらっしゃる。
「さっき言い忘れたことがあるんだけど」
「はい」
「私が飛車を振ったとき、大沢さん、私に歩の交換を許したでしょ。あれは拒否したほうがいいよ」
そう言って、大野七段は初形から駒を動かし始めた。「☖2二飛に☗2八玉と寄ったけど、ここは☗4八銀。美濃囲いにこだわらなくていい。☖2四歩☗3六歩☖2五歩☗3七銀。これでピッタリ間に合う」
「ああ、そうですね」
「あのね、大袈裟に言うと、ここで1歩手持ちにできると、プロは七割がた勝った気持ちになるよ。1歩あると、☗5六銀にも☖5五歩と追い返すことができるでしょ。指し手の幅がすごく広くなる」
これは斬新な言葉だった。いや、確かにそうなのだ。私も上手を持って指すことがあるが、1歩が入ると、すごく楽になる。以前も当ブログに書いたが、「歩切れは喉の渇き」なのだ。それを分かっていながら、下手の立場になると、上手に1歩を交換しに来ても、下手はそれ以上に指したい手があると考えてしまう。しかし実際は、それらの手はあとでも指せる手ばかり。ここは歩交換を防ぐことを真っ先に考えなければいけないのだ。
「ああ、そうですか…!! でも先生、下手が5筋の歩を交換に行くときはどうなんでしょうか」
「それは別。だって上手は、いつか☖5四歩と打たなければいけないときが来るから。でも向かい飛車のときは、上手が2筋に歩を打ち直すことはないでしょ。まあ下手がそれを咎めるべく、飛車を2筋に持ってくる場合もあるかもしれないけど、そうなったら角落ちの手合いじゃないよね」
いま大野七段が指摘されたことは、相当高度である。恐らく二枚落ちの手合いでは、こうしたアドバイスはしないだろう。また、ふだんの指導対局や駒落ちの本でも、「上手の1歩交換は見た目以上に大きい」とは話さない。つまり上手はこの「本音」を包み隠して、中盤以降のアドバイスに徹しても、何ら問題はないのだ。
しかし大野七段は、こんな「飯のタネ」を、一介の将棋ファンに吐露してくれたのだ。私は大野七段の実直さに、大いに感銘を受けたのだった。
(つづく)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする