夕食後は、蕨市役所のY氏と対局。この将棋もむずかしい戦いだったが、何とか私の勝ち。
続けて指したいところだが、入浴時間は午後5時から9時までなので、いまのうちに入る。この山荘は自然がいっぱいで将棋を指す環境は申し分ないが、ラウンジの暖房と照明がいまひとつなのと、入浴時間が短いのが不満だ。ラウンジはほんらい長時間いるところではないので、暖房等の改善は無理としても、入浴時間は前後1時間延ばしてほしいところである。
風呂から上がって、ここからはたっぷり将棋である。就寝時間は午後11時だけれども、何時まで起きていても構わない。まずは大野八一雄七段に角落ちで教えていただく。私は三間飛車で臨んだが、☗6五歩☖同歩☗同飛☖6四歩に、☗3五飛と歩を取ったのが敗着。☖3四歩以下飛車を押し込められ、完敗となった。
せっかくの男性棋士の指導だったのに、何ともお恥ずかしい将棋を指したものだ。大野七段とは、対局を重ねるごとに、私の将棋の内容が悪くなっているのは、何ともマズイ。
「大沢さんに振り飛車は向いてないよ」
と、傍らの植山悦行七段が言う。以前植山七段には「大沢さんにイビアナは向いてない」とアドバイスを受けたことがあり、自分でもそう思うが、穴熊はともかく、たまには振り飛車も指したいのだ。
続いては、その植山七段と角落ち戦。こんなに立て続けにプロ棋士に教えを請うていいのかと、改めて思う。今回の合宿参加費は激安だがそれも道理で、中井広恵女流六段、植山七段、大野七段は、参加者から指導料を取っていない。まさに私たちへのファンサービスで、その厚意に頭が下がる。
植山七段との将棋は相居飛車の力戦となった。なお、合宿ではチェスクロックを使用しているが、今回は棋士との指導対局においても使用させていただいた。時間が決められていたほうが、かえって自由に時間を使えるからよいのだ。この方式は、他の参加者も採用することとなった。
さて本局は、大野七段のときとは違い、中盤まではうまく指していたと思う。その一場面が下。
上手(角落ち)・植山七段:1一香、1五歩、2一桂、2三銀、2四歩、3二玉、3三歩、4二金、4三歩、5四歩、6三歩、6四銀、7三桂、7四金、7五歩、8二飛、9三香、9四歩 持駒:なし
下手・一公:1七歩、1九香、3五歩、3六金、3七桂、4五歩、4六角、4八玉、5六歩、6六銀、6七歩、6八金、7八飛、8六歩、8七銀、8九桂、9六歩 持駒:歩3
ここで私は☗7二歩と垂らしたが、悪手だった。ふつうに☖同飛と取られて、何でもなかった。またその前の☖7五歩に☗8七銀と引いたのも緩手で、ここは当然☗7五同銀左と決戦するところだったらしい。
最後は植山七段の巧妙な寄せに屈し、悔しい敗戦となった。
私はだいぶ前から☗6四角と切る手を読んでいたのだが、感想戦でそれを言うと、植山七段は関心がないふうだった。下手が大事な角を切ってくれるなら歓迎で、それなら上手も何とかなる、という考えだった。むしろ下手が目を向けるべきは上手王のいる2~3筋で、☗2五歩~☗2四歩を狙うのが本筋、とのことだった。
言われてみればなるほどと思う。半ば団子状になっている金銀を相手にするより、敵王周辺の駒に働きかけるほうが、理に適っている。
ここまでの指し手を植山七段はほめてくれたが、それはたまたま指し手がいい方向にいっただけで、読みの内容はまったく違うことが分かる。よって、終盤に近づくほどボロが出て、疑問手を重ねることになるのも、当然の帰結だった。
それにしても、男性棋士の教えは本当にためになる。私は女流棋士に数多く指導対局を受けているが、感想戦で女流棋士の指摘に感心したことはほとんどない。ここに男性棋士と女流棋士の差がある。女流棋士、とくにLPSA所属女流棋士はもっと男性棋士に指導を受け、根本的な考え方から勉強しないとダメである。
続いてはHon氏と。Hon氏の変態三間飛車穴熊に、私の居飛車。Hon氏の構えは☗3八金、3九銀、4八銀、6七金とおかしいのだが、そこには彼なりの考えがあることを帰りの車内で聞いて、私は大いに唸ることになる。この将棋は私が勝った。
続いてはR氏と。今回の合宿は手合い割制なので、R氏とは角落ちか飛車落ちになる。
ところがR氏は、自分の持ち時間が20分・30秒、私が初手から20秒、という変則ルールを提示してきた。この条件なら私も望むところだったが、対局が始まってみると上手がなかなか厳しく、苦戦を強いられることになった。
こんなにヒドイ将棋になったことにちょっと言い訳をすると、序盤の疑問手を大野七段に指摘され、動揺してしまった、ということがある。こちらは20秒だから、その疑問手を振り返ってしまうと、もう時間がない。そんな形でそのまま指し手を続けていたら、一遍に敗勢になってしまったとうわけだ。ただそれ以上に、R氏の指し手に非の打ちどころがなかったことは、いうまでもない。
本局はR氏の完勝だった。おめでとうございます。
続いてはHak氏との飛車落ち戦。私がいきなり角を換わる趣向に出たが、下手に自然に指され、作戦負けに陥った。このままひとり千日手になっても止むを得ないと腹をくくっていたが、下手が無理に開戦してくれたので、何とか誤魔化すことができた。
時刻は午後12時をとっくに回り、日付は23日になっている。大野七段が手持ち無沙汰のようだ。大野七段は前回の指導対局で17戦全勝。今回も負けなしで、連勝は20を越えたらしい。しかし再び指導対局を仰いでも大野七段の連勝に貢献するだけなので、先日行われた、小倉久史七段戦(王将戦)の自戦解説をしていただく。
お茶の入ったグラスを片手に、棋士の解説をトイメンで聞く。まさに至福の時間である。
この将棋がまた激戦で、息詰まる終盤には聞いているこちらまで息苦しくなった。しかし悲しいかな、変化が複雑すぎて、そばで聞いていた私たちには、さっぱり理解できないのだった。
ただひとつ分かったことは、棋士の読みの量はやっぱりモノスゴイ、ということだった。そんな熱戦譜が新聞にも将棋年鑑にも載らず、日の目を見ずに消えていくとは、何とも惜しい。
時刻は午前2時になろうかというところ。もうほとんどの参加者が床に就き、ラウンジにいるのはW氏と私だけになってしまった。指しましょうか、ということで一局。棋士との交流に力を入れているW氏だが、指し将棋がこんなに好きだとは知らなかった。
手合いは、私がいままで飛車を落としていたが、本局は角を落とした。結果は私の勝ち。時刻は2時20分。初日はさすがに、これでお開きとなった。
成績は、9局指して、5勝4敗だった。
(つづく)
続けて指したいところだが、入浴時間は午後5時から9時までなので、いまのうちに入る。この山荘は自然がいっぱいで将棋を指す環境は申し分ないが、ラウンジの暖房と照明がいまひとつなのと、入浴時間が短いのが不満だ。ラウンジはほんらい長時間いるところではないので、暖房等の改善は無理としても、入浴時間は前後1時間延ばしてほしいところである。
風呂から上がって、ここからはたっぷり将棋である。就寝時間は午後11時だけれども、何時まで起きていても構わない。まずは大野八一雄七段に角落ちで教えていただく。私は三間飛車で臨んだが、☗6五歩☖同歩☗同飛☖6四歩に、☗3五飛と歩を取ったのが敗着。☖3四歩以下飛車を押し込められ、完敗となった。
せっかくの男性棋士の指導だったのに、何ともお恥ずかしい将棋を指したものだ。大野七段とは、対局を重ねるごとに、私の将棋の内容が悪くなっているのは、何ともマズイ。
「大沢さんに振り飛車は向いてないよ」
と、傍らの植山悦行七段が言う。以前植山七段には「大沢さんにイビアナは向いてない」とアドバイスを受けたことがあり、自分でもそう思うが、穴熊はともかく、たまには振り飛車も指したいのだ。
続いては、その植山七段と角落ち戦。こんなに立て続けにプロ棋士に教えを請うていいのかと、改めて思う。今回の合宿参加費は激安だがそれも道理で、中井広恵女流六段、植山七段、大野七段は、参加者から指導料を取っていない。まさに私たちへのファンサービスで、その厚意に頭が下がる。
植山七段との将棋は相居飛車の力戦となった。なお、合宿ではチェスクロックを使用しているが、今回は棋士との指導対局においても使用させていただいた。時間が決められていたほうが、かえって自由に時間を使えるからよいのだ。この方式は、他の参加者も採用することとなった。
さて本局は、大野七段のときとは違い、中盤まではうまく指していたと思う。その一場面が下。
上手(角落ち)・植山七段:1一香、1五歩、2一桂、2三銀、2四歩、3二玉、3三歩、4二金、4三歩、5四歩、6三歩、6四銀、7三桂、7四金、7五歩、8二飛、9三香、9四歩 持駒:なし
下手・一公:1七歩、1九香、3五歩、3六金、3七桂、4五歩、4六角、4八玉、5六歩、6六銀、6七歩、6八金、7八飛、8六歩、8七銀、8九桂、9六歩 持駒:歩3
ここで私は☗7二歩と垂らしたが、悪手だった。ふつうに☖同飛と取られて、何でもなかった。またその前の☖7五歩に☗8七銀と引いたのも緩手で、ここは当然☗7五同銀左と決戦するところだったらしい。
最後は植山七段の巧妙な寄せに屈し、悔しい敗戦となった。
私はだいぶ前から☗6四角と切る手を読んでいたのだが、感想戦でそれを言うと、植山七段は関心がないふうだった。下手が大事な角を切ってくれるなら歓迎で、それなら上手も何とかなる、という考えだった。むしろ下手が目を向けるべきは上手王のいる2~3筋で、☗2五歩~☗2四歩を狙うのが本筋、とのことだった。
言われてみればなるほどと思う。半ば団子状になっている金銀を相手にするより、敵王周辺の駒に働きかけるほうが、理に適っている。
ここまでの指し手を植山七段はほめてくれたが、それはたまたま指し手がいい方向にいっただけで、読みの内容はまったく違うことが分かる。よって、終盤に近づくほどボロが出て、疑問手を重ねることになるのも、当然の帰結だった。
それにしても、男性棋士の教えは本当にためになる。私は女流棋士に数多く指導対局を受けているが、感想戦で女流棋士の指摘に感心したことはほとんどない。ここに男性棋士と女流棋士の差がある。女流棋士、とくにLPSA所属女流棋士はもっと男性棋士に指導を受け、根本的な考え方から勉強しないとダメである。
続いてはHon氏と。Hon氏の変態三間飛車穴熊に、私の居飛車。Hon氏の構えは☗3八金、3九銀、4八銀、6七金とおかしいのだが、そこには彼なりの考えがあることを帰りの車内で聞いて、私は大いに唸ることになる。この将棋は私が勝った。
続いてはR氏と。今回の合宿は手合い割制なので、R氏とは角落ちか飛車落ちになる。
ところがR氏は、自分の持ち時間が20分・30秒、私が初手から20秒、という変則ルールを提示してきた。この条件なら私も望むところだったが、対局が始まってみると上手がなかなか厳しく、苦戦を強いられることになった。
こんなにヒドイ将棋になったことにちょっと言い訳をすると、序盤の疑問手を大野七段に指摘され、動揺してしまった、ということがある。こちらは20秒だから、その疑問手を振り返ってしまうと、もう時間がない。そんな形でそのまま指し手を続けていたら、一遍に敗勢になってしまったとうわけだ。ただそれ以上に、R氏の指し手に非の打ちどころがなかったことは、いうまでもない。
本局はR氏の完勝だった。おめでとうございます。
続いてはHak氏との飛車落ち戦。私がいきなり角を換わる趣向に出たが、下手に自然に指され、作戦負けに陥った。このままひとり千日手になっても止むを得ないと腹をくくっていたが、下手が無理に開戦してくれたので、何とか誤魔化すことができた。
時刻は午後12時をとっくに回り、日付は23日になっている。大野七段が手持ち無沙汰のようだ。大野七段は前回の指導対局で17戦全勝。今回も負けなしで、連勝は20を越えたらしい。しかし再び指導対局を仰いでも大野七段の連勝に貢献するだけなので、先日行われた、小倉久史七段戦(王将戦)の自戦解説をしていただく。
お茶の入ったグラスを片手に、棋士の解説をトイメンで聞く。まさに至福の時間である。
この将棋がまた激戦で、息詰まる終盤には聞いているこちらまで息苦しくなった。しかし悲しいかな、変化が複雑すぎて、そばで聞いていた私たちには、さっぱり理解できないのだった。
ただひとつ分かったことは、棋士の読みの量はやっぱりモノスゴイ、ということだった。そんな熱戦譜が新聞にも将棋年鑑にも載らず、日の目を見ずに消えていくとは、何とも惜しい。
時刻は午前2時になろうかというところ。もうほとんどの参加者が床に就き、ラウンジにいるのはW氏と私だけになってしまった。指しましょうか、ということで一局。棋士との交流に力を入れているW氏だが、指し将棋がこんなに好きだとは知らなかった。
手合いは、私がいままで飛車を落としていたが、本局は角を落とした。結果は私の勝ち。時刻は2時20分。初日はさすがに、これでお開きとなった。
成績は、9局指して、5勝4敗だった。
(つづく)