一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

平手で負けて角落ちで勝つ

2012-05-03 00:04:53 | 将棋雑考
Fuj氏とジョナ研で話していると、決まって出る話がある。
Fuj「私はYさんに5連敗なんですけど、大沢さんは(Yさんに)角落ちで勝ったことがあるんですよねえ」
Fuj氏はY氏に相性が悪く、ここまで勝ち星なしの5連敗である。しかし私はY氏に、たまたま角を引いて勝ったことがある。ここまではまあよい。ところが次の事実が、Fuj氏を混乱させる。
私はFuj氏に、ダブルスコアで負け越している――。
Fuj氏は一流大学を卒業して、アタマは理系である。Y>Fuj、一公>Yならば、一公>Fujである。…と、彼の理論ではこうなる。
ところが現実は、「Fuj>>一公」なのである。それが自分の中で割り切れず、Fuj氏は毎回毎回、同じ疑問をひとりごちるのだ。
しかし、上にもチラッと書いたが、将棋には相性というものがある。
有名なところでは、中原誠十六世名人が加藤一二三九段に対して、最初の21局を20勝1敗。石田和雄九段が森安秀光九段に対して、最初の11局を全勝した例がある。最近では丸山忠久九段18勝-島朗九段0勝が有名だ。
加藤九段は元名人だし、森安九段も棋聖を保持したことがある。島九段だって初代竜王の元A級である。お互いプロだし、ふつうに考えれば、これだけ両者の対戦成績が偏ることはあり得ない。
ヒトの棋力を、完璧な数値で測ることはできないのである。
もうひとつ、Fuj氏が意外と軽視していることがある。「角落ちの手合いは、意外と小さい」ということだ。
かつて「将棋世界」誌で、プロ対プロの角落ち戦が何度か行われたことがあるが、大山康晴十五世名人と鈴木大介八段が上手を持って勝ってしまい、シラケてしまったことがあった。
私が若いころ通っていた将棋センターは、二段差の手合いが「角」だった。これは上手がきついが、指してみると、私が上手でもけっこう勝てるのに驚いた。
平手には定跡があって、これに精通していれば、それなりの勝負になる。乱戦になって飛車角総交換になれば、互角のまま終盤戦に突入である。
ところが角落ちだとそうはいかない。序盤や中盤で下手がケンカを売ってきても、上手は応じない。駒をぶつけてきても、落ち着いて駒を引く。必然的に大人、いや上手の指し方をしてしまうのだ。
そこで下手が焦って無理攻めをし、上手が桂得でもすれば、駒割は角と桂2枚の振り替わりとなる。これはもう完全に、「勝負形」である。
さらに心理的な面も小さくない。棋力に差がなくても、上手を持つと、それらしい気持ちになるものだ。
「どこからでもかかってきなさい」と余裕を持つから、指し手が落ち着いている。反対に下手は、「教えていただきます」と縮こまって指すから、手が伸びない。ヒトは役割で人格が変わってしまう、「スタンフォード監獄実験」と同じ理屈といえようか。
一段差のふたりが角落ち戦を10局指せば、上手が2、3番入っても不思議はない。私とY氏の角落ち戦での私の勝利は、その目がたまたま出たにすぎないのだ。
平手で負けて角落ちで勝つ。これはふつうにありうることである。Fuj氏はそのあたりのことを、もう少し柔軟に考えるとよい。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする