田川伊田からは11分で金田着。そこから5分の待ち合わせで糸田線に乗り換えた。
田川後藤寺15時14分着。「ちくまるキップ」には田川後藤寺のめぼしい観光場所は載っていなかったので、15時20分発の列車で折り返す。この列車は金田での乗り換えなしに、一気に直方に向かってくれる。
金田あたりまではそこそこ乗客がいたのだが、そこから直方までは過疎路線なのか、途中の赤池でひとり降りると、残りは私を含め4人になってしまった。いよいよローカル線の本領発揮である。
小雨の降る中、15時53分、直方着。これで平成筑豊鉄道の乗り津つぶしは終了である。直方から少し歩いたところに筑豊電鉄の筑豊直方駅があり、そちらにも食指が動くが、こちらは数年前に一度乗車しているので、今回はパスの予定だ。
駅を少し引き返したところに、多賀神社がある。とりあえずお参りするが、社務所に人がおらず、ご朱印はいただけなかった。なお今回は休日ばかりなので、郵便局の貯金もない。
私はその先にある「直方谷尾美術館」に向かう。美術館前の案内板を読むと、元はお医者さん所有の建物だったらしい。これは鹿児島県谷山の美術館にも同じ例がある。
谷尾美術館の入館料は100円。信じられない安さだ。森田秀樹なる人物の水彩画が展示されており、その細密さに驚く。別の部屋では、宇野恵美子なる人物の前衛的な作品が展示されていた。昨年亡くなったらしいから、これらは貴重な作品なのだろう。
私は画集の類は滅多に買わないのだが、帰り際に森田秀樹のそれを、一部求めた。1,000円也。
駅方面に向かう途次、喫茶店を併設している古民家風のギャラリーがあった。外から窺うと、ここにも宇野恵美子の作品が飾られてある。ちょうどコーヒーを飲みたくなったので、入る。
喫茶店は、畳の上に長方形のテーブルがひとつあるだけで、本当にお茶の間で飲む感じだった。私が入ると、押しだされる形で、先客の女性2人が出て行った。
出されたコーヒーは美味だった。一憩して店を出ようとすると、店の女主人が、ご旅行ですか、と話しかけてきた。
「東京からです」
私は答える。女主人は話好きのようで、それからいろいろ話が弾んだ。しかし私が独身だというと女主人はビックリし、恐る恐る年齢を聞いてきた。
46です、と答えると、さすがに驚いたようだった。私が30代のころは、相手も
「いまは皆さん結婚も遅いから…」
と気遣ってくれたものだが、40代になると、「お気の毒に…」と、マユをひそめられるようになった。同情されるようになってきたのだ。
でもこの女主人は、
「私は51歳と50歳のカップルを世話したことがあるのよ」
と強気だ。そして「アタシが何とかしてあげる」
と、しまいには名刺交換をする羽目になった。しかし私のほうは名刺を持ち合わせていない。いつもは財布に2、3枚忍ばせてあるのだが、家を出る直前に置いてきてしまった。
こういうときに限って、名刺が要り用になるのである。スマホの電話番号もど忘れしてしまい、まったく名刺交換にならなかった。ともあれ、女主人の手腕に期待しておこう。
さてあすからは「SUN Q パス」を使う予定なので、ここでおカネを遣って移動するのはもったいない。今夜は直方泊まりである。
店を出て、「直方ロイヤルホテル」に予約の電話をする。先ほどスマホで調べ、空きがあることを確認しておいた。
電話に出たのはおばちゃんだが、口調がぶっきらぼうで、愛想が悪い。しかも風呂が壊れているといい、何となく泊めたくなさそうである。
「宿泊をお願いしたらマズイでしょうか」
と再確認すると、そうでもなさそうなので、夕食後行くというと、ブチッと電話を切られてしまった。いまどき珍しい、高飛車な応対である。しかし逆に、ホテルに行くのが楽しみになってきた。
夕食は、和食の料理屋に入った。「釜めし定食」を頼む。1,030円。
まず揚げたての鶏肉とじゃが芋が出てきた。それをつまんでいると、今度は蒸したての茶碗蒸しが出てきた。一遍に出せばいいのにと思うが、アツアツのところを順番に食べてもらおう、という配慮であろう。
そして最後はメインの釜めしである。具は5種類の中から選べ、私がチョイスしたのはカニだった。
お茶碗によそう。旅先で釜めしを食すのはおととしの北海道・洞爺湖以来だ。
しかしいつも思うのだが、釜めしはひとりで食べるものではない。誰かによそってもらってこそ、うま味が増す。
釜めしをよそってもらうのは誰がいいか。恒例の妄想だが、やはり中倉宏美女流二段を挙げたい。もちろん室谷由紀ちゃんや山口恵梨子ちゃんもいい。しかしふたりのどちらかを選べといわれれば、ファンランキング4位の恵梨子ちゃんを取る。彼女の癒し系の笑顔は、釜めし向きである。
ともあれこの「釜めし定食」は、値段の割に内容充実、とても満足した。
午後6時50分、駅から少し歩いたところにある、直方ロイヤルホテルを訪れる。豪勢な名前とは裏腹に、個人経営と思しき、こじんまりとした「ホテル」だ。
受付のおばちゃんが出てきた。電話の女性だろう。恐る恐る用件を告げると、部屋のシャワーは使えるが、大風呂のボイラーが故障して、こちらは使えない、とのことだった。
電話で話したとき、私が旅行者風だったので、「大風呂でゆったり休みたかろうに、ウチでいいのかしら」との配慮だったようだ。やはり、実際に会ってみないと分からないものだ。私はシャワーが使えれば、それで十分である。
宿泊料は3,000円。ネットには3,500円と表記してあったから、トクした気分だ。ただしテレビは、3時間100円とのことだった。民宿によくある、昔なつかしいスタイルである。
部屋は和室。ドアの前にあるシャワー室は、タタミ半畳ぶんのスペースしかない。しかも利用は30分間。トイレは外だった。
まあ、眠るだけだから何でもよい。私はお札と硬貨をポケットに忍ばせ、身軽になって、表へ出る。直方のひとつ先、直方新入駅の近くにネットカフェがあるのは調べておいた。今夜はここでブログを書くのだ。2、3年前だったら宿でのんびりテレビを楽しむところだが、ブログの開設…毎日の更新は、私の旅行スタイルを根底から変えた。
国道27号を歩いていると、右手に筑豊直方駅が見えてきた。この駅は都営三田線の高島平駅に雰囲気が似ていて、道路に遮られて、突然高架の線路が途切れる、という趣がある。意味もなく一往復したいが、前述のとおり、今回はパスして先を急ぐ。
直方新入駅方面へさらに歩く。そのとき、私はたいへんな忘れ物をしているのに気がついた。
(つづく)
田川後藤寺15時14分着。「ちくまるキップ」には田川後藤寺のめぼしい観光場所は載っていなかったので、15時20分発の列車で折り返す。この列車は金田での乗り換えなしに、一気に直方に向かってくれる。
金田あたりまではそこそこ乗客がいたのだが、そこから直方までは過疎路線なのか、途中の赤池でひとり降りると、残りは私を含め4人になってしまった。いよいよローカル線の本領発揮である。
小雨の降る中、15時53分、直方着。これで平成筑豊鉄道の乗り津つぶしは終了である。直方から少し歩いたところに筑豊電鉄の筑豊直方駅があり、そちらにも食指が動くが、こちらは数年前に一度乗車しているので、今回はパスの予定だ。
駅を少し引き返したところに、多賀神社がある。とりあえずお参りするが、社務所に人がおらず、ご朱印はいただけなかった。なお今回は休日ばかりなので、郵便局の貯金もない。
私はその先にある「直方谷尾美術館」に向かう。美術館前の案内板を読むと、元はお医者さん所有の建物だったらしい。これは鹿児島県谷山の美術館にも同じ例がある。
谷尾美術館の入館料は100円。信じられない安さだ。森田秀樹なる人物の水彩画が展示されており、その細密さに驚く。別の部屋では、宇野恵美子なる人物の前衛的な作品が展示されていた。昨年亡くなったらしいから、これらは貴重な作品なのだろう。
私は画集の類は滅多に買わないのだが、帰り際に森田秀樹のそれを、一部求めた。1,000円也。
駅方面に向かう途次、喫茶店を併設している古民家風のギャラリーがあった。外から窺うと、ここにも宇野恵美子の作品が飾られてある。ちょうどコーヒーを飲みたくなったので、入る。
喫茶店は、畳の上に長方形のテーブルがひとつあるだけで、本当にお茶の間で飲む感じだった。私が入ると、押しだされる形で、先客の女性2人が出て行った。
出されたコーヒーは美味だった。一憩して店を出ようとすると、店の女主人が、ご旅行ですか、と話しかけてきた。
「東京からです」
私は答える。女主人は話好きのようで、それからいろいろ話が弾んだ。しかし私が独身だというと女主人はビックリし、恐る恐る年齢を聞いてきた。
46です、と答えると、さすがに驚いたようだった。私が30代のころは、相手も
「いまは皆さん結婚も遅いから…」
と気遣ってくれたものだが、40代になると、「お気の毒に…」と、マユをひそめられるようになった。同情されるようになってきたのだ。
でもこの女主人は、
「私は51歳と50歳のカップルを世話したことがあるのよ」
と強気だ。そして「アタシが何とかしてあげる」
と、しまいには名刺交換をする羽目になった。しかし私のほうは名刺を持ち合わせていない。いつもは財布に2、3枚忍ばせてあるのだが、家を出る直前に置いてきてしまった。
こういうときに限って、名刺が要り用になるのである。スマホの電話番号もど忘れしてしまい、まったく名刺交換にならなかった。ともあれ、女主人の手腕に期待しておこう。
さてあすからは「SUN Q パス」を使う予定なので、ここでおカネを遣って移動するのはもったいない。今夜は直方泊まりである。
店を出て、「直方ロイヤルホテル」に予約の電話をする。先ほどスマホで調べ、空きがあることを確認しておいた。
電話に出たのはおばちゃんだが、口調がぶっきらぼうで、愛想が悪い。しかも風呂が壊れているといい、何となく泊めたくなさそうである。
「宿泊をお願いしたらマズイでしょうか」
と再確認すると、そうでもなさそうなので、夕食後行くというと、ブチッと電話を切られてしまった。いまどき珍しい、高飛車な応対である。しかし逆に、ホテルに行くのが楽しみになってきた。
夕食は、和食の料理屋に入った。「釜めし定食」を頼む。1,030円。
まず揚げたての鶏肉とじゃが芋が出てきた。それをつまんでいると、今度は蒸したての茶碗蒸しが出てきた。一遍に出せばいいのにと思うが、アツアツのところを順番に食べてもらおう、という配慮であろう。
そして最後はメインの釜めしである。具は5種類の中から選べ、私がチョイスしたのはカニだった。
お茶碗によそう。旅先で釜めしを食すのはおととしの北海道・洞爺湖以来だ。
しかしいつも思うのだが、釜めしはひとりで食べるものではない。誰かによそってもらってこそ、うま味が増す。
釜めしをよそってもらうのは誰がいいか。恒例の妄想だが、やはり中倉宏美女流二段を挙げたい。もちろん室谷由紀ちゃんや山口恵梨子ちゃんもいい。しかしふたりのどちらかを選べといわれれば、ファンランキング4位の恵梨子ちゃんを取る。彼女の癒し系の笑顔は、釜めし向きである。
ともあれこの「釜めし定食」は、値段の割に内容充実、とても満足した。
午後6時50分、駅から少し歩いたところにある、直方ロイヤルホテルを訪れる。豪勢な名前とは裏腹に、個人経営と思しき、こじんまりとした「ホテル」だ。
受付のおばちゃんが出てきた。電話の女性だろう。恐る恐る用件を告げると、部屋のシャワーは使えるが、大風呂のボイラーが故障して、こちらは使えない、とのことだった。
電話で話したとき、私が旅行者風だったので、「大風呂でゆったり休みたかろうに、ウチでいいのかしら」との配慮だったようだ。やはり、実際に会ってみないと分からないものだ。私はシャワーが使えれば、それで十分である。
宿泊料は3,000円。ネットには3,500円と表記してあったから、トクした気分だ。ただしテレビは、3時間100円とのことだった。民宿によくある、昔なつかしいスタイルである。
部屋は和室。ドアの前にあるシャワー室は、タタミ半畳ぶんのスペースしかない。しかも利用は30分間。トイレは外だった。
まあ、眠るだけだから何でもよい。私はお札と硬貨をポケットに忍ばせ、身軽になって、表へ出る。直方のひとつ先、直方新入駅の近くにネットカフェがあるのは調べておいた。今夜はここでブログを書くのだ。2、3年前だったら宿でのんびりテレビを楽しむところだが、ブログの開設…毎日の更新は、私の旅行スタイルを根底から変えた。
国道27号を歩いていると、右手に筑豊直方駅が見えてきた。この駅は都営三田線の高島平駅に雰囲気が似ていて、道路に遮られて、突然高架の線路が途切れる、という趣がある。意味もなく一往復したいが、前述のとおり、今回はパスして先を急ぐ。
直方新入駅方面へさらに歩く。そのとき、私はたいへんな忘れ物をしているのに気がついた。
(つづく)