一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

鈴木九段と藤森五段の新橋解説会(第77期名人戦第3局)・5+補足版

2019-05-28 00:16:03 | 将棋イベント

第10図以下の指し手。△6七歩成▲同金△6六歩▲6八金△3一飛▲7六歩△7五歩(第11図)

豊島将之二冠は、△6七歩成とした。「怒った」と藤森哲也五段。
鈴木大介九段は、「▲8九金の夢か……」と、意味不明の指し手をつぶやく。
先手は▲8八銀を出動させて、後手玉を仕留める変化があるらしい。その時▲7八金を移動させておけば、△8七玉で詰まない。それを見越しての歩成のようだった。
しかし佐藤天彦名人は、少ない持ち時間(10分)の中で考える。
「これはもう、形勢は五分ですね。先手は▲同金と取って、後手のミスを誘うしかない。仮に▲8一ととして8分使ったら、残り2分で二択の時、必ず間違えます。それより▲6七同金と取ったほうがいい」
果たして佐藤名人は▲6七同金と取ったが、やや時間を使い過ぎたか。
△6六歩▲6八金。
「こうなってみると、▲5九銀が囲碁みたいに左右の2枚の金に連結して、堅いですね」
ここで豊島二冠は△3一飛。しかしこの撤退は痛い。
「ここで▲8六歩が考えられます。もし△7六歩なら、▲8五歩△7五玉▲8七桂△8六玉▲9七銀△8七玉▲7八金△9八玉▲8八金△9九玉▲8九金(参考6図)まで詰み」

オオーッ!! と会場がどよめく。これがさっきの夢の手順の正体か。
棋士は時々意味不明の符号をつぶやいたりするが、それが十数手後の指し手だったりして、そのたびに私は、プロの読みの深さに感嘆するのである。
時刻は午後9時にならんとしている。そろそろお開きの時間で、プロの矜持として、どちらが勝ちか断定しなければならない。
「どう藤森君、どっちが勝ちだと思う?」
「佐藤名人でしょうか……」
「藤森君がここまで言ってんだから、佐藤名人が勝つでしょう。ただ私は、まだまだ難しいと思います」
ええっ!? 鈴木先生、土壇場で裏切るなあ……。
というところで、▲7六歩が着手された。逆に打たれると、制空権を支配されそうだかららしい。
そして△7五歩。

「えっ、歩を!? 歩を打ったの?」
鈴木九段が最後に叫んだ。「これは▲8六歩△7四馬▲8五歩で先手がいいでしょう。△7四馬の形は、自分から技を掛けなくちゃいけなくなるから、大変なんですよ」
先手が馬を取って、それを▲5二角から▲3四角成とする変化も並べられる。こうなれば名人勝ちだ。「後手の△3一飛、△3二金、△3四金の形がヒドイですね」
鈴木九段が嘆いた。
時刻は9時をとうに過ぎており、さすがにこれでお開きである。しかし名人戦屈指の熱局だっただけに、惜しい。どんなに遅くなってもいいから、勝負の行方を見届けたかった。
「第4局の新橋解説会はありません。でも(第3局は佐藤名人が勝つだろうから)第5局はあります。対局はそこの増上寺でやるんで、私も理事として同行します。新橋の解説は、どなたかが出ると思います」
と、鈴木九段は言った。
私は就職が決まり、その会社も残業はあるが、解説会を聞ける環境になるかどうかは分からない。
いずれにしても、鈴木九段、藤森五段、そして藤森女流四段のお三方は、今回2時間半に及ぶ解説会となった。長い時間、お疲れ様でした。

   ◇

私は電車に乗ったが、考えてみればAbemaTVで続きを観られるのだった。改めて、恐ろしい時代になったものである。
観ると、△2九馬が先手の駒台に乗っていた。もちろん先手が優勢なのだろうが、何か後手陣がサッパリしたようにも見える。
次に観た時は、佐藤名人が▲8五桂と跳ねた。
次に観た時は、豊島二冠が△4八飛成と金を取った。……あれ? これ、▲4八同銀は△6八銀成から先手玉が詰むじゃないか。
……ということは、この局面で後手玉が詰むのか?
佐藤名人は▲7三桂右成から追う。だけどこれ、△9二玉▲7四角成に△8一玉で、連続王手の千日手に見える。といって先手にそれ以外の追及はなく、となれば後手の勝ちである。
ええー!? そんなことがあるの?
豊島二冠は△8一玉と着手する。そこで最寄り駅に着いたので、私は下車した。

後になって、その局面で佐藤名人が投了したことを知った。私はビックリである。
あの将棋を、豊島二冠が勝った? じゃあ、鈴木九段と藤森五段の予想は何だったのか?
いやはや、勝負事は分からないものだ。
……あれ? じゃあ、次の第4局を豊島二冠が勝ったら、第77期名人戦は終了ではないか。そして新橋解説会も終わりとなる。何と中途半端な!

第5局の解説会に行ける保証はないけれど、でも何となく、名人戦は第4局で終わりそうな気がした。

第11図以下の指し手。▲8六歩△7四馬▲7三と△同馬▲同成銀△同玉▲6五桂△8三玉▲5二角△6七銀▲8五桂△4八飛成▲7三桂右成△9二玉▲7四角成△8一玉(投了図)
まで、136手で豊島二冠の勝ち。

(おわり)
コメント
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