一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

鈴木九段と藤森五段の新橋解説会(第77期名人戦第3局)・1

2019-05-24 00:08:28 | 将棋イベント
苦節1年9ヶ月、奇跡的に就職が決まり、8日(水)は晴れがましい気持ちで、名人戦第3局の新橋解説会に赴いた。
まずはニュー新橋ビルの小諸そばで腹ごしらえである。だが午後6時を過ぎていたため店内は満員だった。
だが立ち食い蕎麦は回転率が早い。私のオーダーが出て来たときは、しっかり席が空いていた。
二枚もりはゆでたてのはずだったが、水があったかいのか、いつものキレはなかった。
さて6時半になり、解説会の開始である。今は陽が長い時期なので、まだ空は明るい。客は少な目で、椅子席はほとんど埋まっていたが、立ち見は数えるほどしかいなかった。
解説陣が登場する。鈴木大介九段、藤森哲也五段、藤森奈津子女流四段とお馴染みの布陣である。
鈴木九段「名人戦は第2局を終わって佐藤名人の0勝2敗。名人危うしですけど、いつもスタートは悪いですからね。第1局勝ったことありましたっけ?」
なかったと思う。
藤森女流四段「第3局の対局場は岡山県倉敷市の芸文館です。倉敷藤花戦でもお馴染みです」
早速初手から並べられた。

▲名人 佐藤天彦
△王位・棋聖 豊島将之

▲2六歩△8四歩▲7六歩△3二金▲7八金△8五歩▲7七角△3四歩▲6八銀△7七角成▲同銀△2二銀▲3八銀△6二銀▲4六歩△4二玉▲4七銀△1四歩▲1六歩△7四歩▲3六歩△3三銀(第1図)

佐藤名人の▲2六歩からスタート。「最近は横歩取りも増えてきましたけど」と鈴木九段。
しかし△8五歩に▲7七角と上がり、これで角換わりがほぼ確定した。
「△6二銀では、昔は△7二銀も多かったんですけど、最近は棒銀も少ないんでね。それなら△6二銀のほうが作戦の幅が広い」
第1図で次の手は、もはや定跡か。

第1図以下の指し手。▲4八金△7三桂▲6八玉△6四歩▲3七桂△6三銀▲2九飛△8一飛▲9六歩△9四歩▲6六歩△6二金▲5六銀△5四銀▲7九玉△4四歩▲2五歩(第2図)

佐藤名人は▲4八金と、まっすぐ上がった。
「これがここ2年くらいの指し手でね。どう藤森君」
「2年は経ってますね。多いですね」
「昔は、固める将棋が主流だったんですよ。だけどコンピューターの影響もあって、渡辺明二冠らが穴熊からバランス型にスタイルを変えちゃった。それでみんなが倣ったんですね」
両者は桂を跳ね合う。
「ここで△6五桂は▲8八銀と引く。後手も攻め切れそうだけど、ここは一手待ちました」
ちなみに我が将皇はこの形で△6五桂が好きで、後に△8四角と据え、飛車も切って猛烈に攻めてくる。
豊島二冠は△6三銀と上がり、数手後に△4四歩と突いた。
「この歩を突くかどうかはひとつのポイントです」
私には高度すぎてよく分からないが、▲4五歩の争点を作ることが得か損かということか。
そして第2図の次の手は、私には一生かかっても指せない手だ。

第2図以下の指し手。△4一飛▲4五歩△5二玉▲4四歩△同飛▲4七歩△4一飛▲8八玉△7二金▲3八金△6二玉▲4六歩△6三金(第3図)

△4一飛。「これが豊島二冠の得意形なんですね」
と、鈴木九段が感嘆する。
「最新形なんですね」
と、藤森五段も続けた。
「これねえ……。ここに飛車を持ってくるなら、最初から飛車振りゃいいのに」
と鈴木九段。▲4五歩△5二玉▲4四歩の進行に、
「将棋ソフトがこう指すんですね」
と呆れた。そして△4四同飛に▲4七歩と謝る。
「▲4七歩ねえ……。これ、ソフトがなかったら、指した人に将棋やめたら?って言いますよ」
「それは破門、という手ですか」
藤森五段の意地悪い突っ込みに、鈴木九段も苦笑するしかない。
豊島二冠は△7二金と寄った。これが分からん、と鈴木九段。藤森五段は、
「私だったら△2二玉、△8二飛の形で、△6五歩と行きますよ」
と鼻息が荒い。さすがに攻めの藤森五段だ。
「確かに4年前くらいは、みんなもそう指してたよね」
先手も▲3八金と寄った。後手は△6二玉。
鈴木九段「先手が攻められるように、千日手模様で待機してるんですね」
▲4六歩は誘いの隙で、△4六同飛は▲4五桂△4四銀▲4七金の変化があるようだ。

第3図以下の指し手。▲9八香△8一飛▲4八金△4四銀▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2九飛△8六歩▲同銀(第4図)

佐藤名人は▲9八香と上がった。香は元に戻れないから、これは積極的な手待ちだ。
「でも▲9九玉の瞬間に△8六歩ならどうするんですかね」
と、鈴木九段は懐疑的だ。果たして△8一飛には▲9九玉と潜らず、▲4八金と戻った。豊島二冠は△4四銀と出動する。
「ほかに指す手がなかったんでしょう。この局面で、後手にはマイナスの手しかない」
先手はありがたく、飛車先の歩の交換をする。「苦労して、やっと飛車先の歩を交換しました」
▲2九飛に豊島二冠は△8六歩の突き捨てを入れ、次が中盤の勝負手だった。

第4図以下の指し手。△2二角▲4五歩△5五銀左▲同銀△同角▲4四角△6五歩▲5六銀△6六角▲7七銀△4四角▲同歩△4二歩▲4六角△6四銀▲7九玉(第5図)

豊島二冠は△2二角と据えた。鈴木九段「これは思い切った手ですね。▲5八金なら、△6五歩▲同歩△5五銀左の狙いでしょう」
しかし佐藤名人の▲4五歩が勝負手のお返しだ。後手はただでさえ銀が出たいところに、それを呼び込んだからだ。鈴木九段も「すごい手」と驚きを隠さない。
豊島二冠は当然△5五銀左と出る。以下▲同銀に△同銀は、▲4三銀がある、と鈴木九段。「▲4三銀△同金▲2三飛成△3三角▲2五桂(参考1図)。これは後手イヤですね」

よって本譜は△5五同角と取り、先手も▲4四角と、この角を消しにいく。
△6五歩に▲5六銀。いわゆる腰の入った手で、鈴木九段も「評判のよかった手です」と褒める。しかし形勢判断は、鈴木九段、藤森五段とも、後手持ちだった。
数手後の△4二歩には鈴木九段が、「△4七歩もあったと思います」と説いた。そう指さず△4二歩と我慢したのは、後手がいいと思っているかららしい。
▲4六角は「期待の一着」だが、△6四銀も「厚い」。かつて大山康晴十五世名人と植山悦行七段の一戦で、お互い交換した銀を自陣に打ち合ったことがあったが、これがプロの指し手というものなのだろう。

名人は▲8八玉と引いた。もう▲9八香の顔など立てていられないということか。
「これは頭のいい人の勝ちですね」
と、鈴木九段が意味不明の言葉を吐いた。
だが次の手は、頭のいい人の指し手とは対極だった。

(つづく)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする