一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

鈴木九段と藤森五段の新橋解説会(第77期名人戦第3局)・4

2019-05-27 00:14:35 | 将棋イベント
「どっちにしても、ストレート負けはマズいよね。私も喰らったことあるけど。もうね、4連敗したら主催社に申し訳ないんですよ。今も叡王戦が0-3でしょ? どっちもマズイよね」
と、鈴木大介九段。
「先生は4連敗あるんですか」
と、藤森哲也五段。
「ない。1-4(竜王戦)と0-3(棋聖戦)。竜王戦で藤井猛さんに3連敗して、4局目でやっと勝ったけど、ホッとしました。だけど5局目で負けた。やっぱり6局までは行きたいよね。これは4勝2敗だから、まあ形になる。
佐藤康光先生だったかな、ストレート負けすると、棋士としての格が落ちるって言ったのかな。4連敗すると、何かが落ちるらしいですね。もっとも佐藤先生もストレート負けを何度か喰らってるんだけど。
あのね、予選のトーナメント戦は、まだ緩いものがあるんですよ。勝っても負けても、その棋士とはその棋戦でもう指さないしね。
だけどタイトル戦は、トーナメントと違う。人間同士の戦いっていうか、旗が一本立っていて、それを取り合う激しさがありますね。相手をとことんまで叩きのめさなきゃいけないから、それは大変です。
とにかく、理事としては佐藤名人を応援していますよ。
さて局面ですが、私の予想は▲7三歩ですね。次に▲7二銀があるから取るしかないけど、△7三同玉は一手パス。△同金と取るよりないけど、それは△6二玉・△7三金の形になる。
私が主張した△6二金なら、この時点で金と玉が逆なんです。本局の場合、上のほうが安全地帯だっていうのが分かりますよね。だから玉は三段目がいい。△6二金のほうがよかったんです」
私たちは妙に納得させられる。そこに指し手が伝えられた。

第9図以下の指し手。▲5二銀△5三金▲6三歩△7三玉▲7七桂△4四金▲6二歩成△3四金▲6三銀成△8四玉▲7二と(第10図)

「▲5二銀!?」
鈴木九段が頓狂な声を上げた。
「名人が指したんじゃなかったら、筋悪くないですか? と言いたくなりますね」
と、これは藤森五段。
「そうだね、▲7三歩じゃダメだったのかなあ」
「ああ、中継のコメント欄に、▲7三歩は手筋、と書いてあります」
「うん、これは何か喰らうね、先手が。後手は△6二玉から、値切りにいってるんですよ。ここで△5三金とされたらどうするんだろ。これは8:2で豊島二冠有利になりましたね」
▲6三歩には△7三玉と上がった。「△7三玉は、局面に自信ありだと思います。もう先手は▲7七桂しかないでしょう」
そこに▲7七桂が指され、会場から拍手が起こった。会場は大介ライブの趣になっている。
△4四金▲6二歩成に豊島二冠は△3四金と角を取り、これは佐藤名人の指し切りがハッキリしたと思った。
しかし▲6三銀成が意外な迫力で、△8四玉の局面は、後手にも危険なところがある。
「ここで▲7六桂は△7五玉で、ここがあったかいか。これは△7六玉となかなか桂を取らないのがいいんです」
しかし佐藤名人は▲7二とと迫る。
「これは後手もあぶないですね。何か手段があるのかな。……これか! △4七馬。▲同金は△7八飛成▲同玉△6七角▲6九玉△7八金(参考5図)まで。だけどこれ、△4七馬に何もしなければ詰めろではないんですね。

……あれ? じゃあこれちょっと、だいぶ差が詰まってきましたよ。野球で7回まで勝ってたのが、8回裏に満塁ホームランを打たれて7-4になった感じです。流れ的には、もう逆転のニオイしかしない」
「誰かツイッターにそう書いてください」
と藤森五段がおどける。
「これ、現状は名人が駒損しているけど、駒の損得は関係ないよ。もう、4×4の脱出ゲームになっちゃってる。ここを逃げきれなかったら、後手負けです」
あまりの急転直下に、私たちは声も出ない。「△4七歩ですかね。ああ二歩か。……私はプロになってから反則負けはないんですよ。私は今45歳だけど、(この分だと)現役中に3回は反則負けをやりますね」
もう、どこまで本気で言ってるのか分からない。「いやー、しかし豊島二冠も、10通りくらい勝ちがある中で、最も手堅い手を選んだはずなんですよ。それでこの進行ですからね。混乱してるんじゃないでしょうか」
「先生、先ほどは8:2で佐藤名人持ちと言ってましたけど、今は」
「6:4ですね。しかも流れがありますからね、この差もすぐになくなるでしょう。ヒドイです。……あ、私、対局中に『ヒドイ』って言ったら、その将棋は必ず投了します」
「本当ですか?」
と藤森奈津子女流四段。
「本当です。2、3手指すかもしれないけど、投げます」
「じゃ、『いやー』はどうですか」
「いやー、ね……。それは投了しないかな。いやー、はアツイ演出ですから。
あのー、森内先生も、頭抱えて55秒まで読まれて、いい手を指すんですよね。態度と指し手は分からないんですよ。
あと島九段の、窓からビル群を眺めるやつね。島九段は淡白で、早く投げることも多いんだけど、稀に新宿のビル群を眺める時があるんですね。その時はとことん粘るぞ、と自分に言い聞かせているという……」
鈴木九段は、時々知られざるエピソードをぶちこんでくるので、油断がならない。
しかし時刻は午後9時近くなろうというのに、まだ終わる気配がない。この解説場は、9時まで使えるのだが、これは私初の、中途で終了、ということになるのだろうか。「とにかく将棋に流れがあるならば、逆転してるんですよ」
鈴木九段は、妙に自信のある声で言った。

(つづく)
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