一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第12回 世田谷花みず木女流オープン戦・4

2019-05-16 00:15:52 | 将棋イベント

第7図以下の指し手。△4五歩▲3五銀△5五馬▲7一竜△4六歩▲同銀引△同香▲同銀△4四馬▲7二竜(第8図)

和田あき女流初段は△4五歩。これが先ほど森下卓九段も指摘していたズルい歩だ。将棋はもっと得をしよう、という考えが大事だ。
しかし頼本奈菜女流初段も▲3五銀と粘る。これを△同歩はむろん▲3四桂だ。
「予断が許されませんねこれは」
と森下九段が感嘆する。
ここで△5五馬の竜取りが、大盤でも指摘していた継続の一手。
▲7一竜に△4六歩で、今度は馬の脅威が付いている。ここで大盤は▲5六銀!!の勝負手を検討していたが、頼本女流初段は▲同銀引。しかし△同香▲同銀に△4四馬が変調だ。当然△4六同馬としたいが、それは▲7七角の王手竜がある。とはいえ後手にも△3六桂が残り、これはこれで難しいと思うが、和田女流初段は踏み込めなかったようだ。だが遡って整理すれば、第7図で平凡に△4六香のほうが、明快だったかもしれない。
本譜に戻り、頼本女流初段は▲7二竜と引き、中村修九段は「落ち着いてますねー」と感心した。

第8図以下の指し手。△4七歩▲同金△5八銀▲4八金△4九銀成▲同金△同竜▲3八銀打△4六竜▲4九香(第9図)

△4七歩から△5八銀が好手段。寄せは玉側の金を攻めろという。プロもアマも、寄せの心得は同じだ。森下九段はやはり「なるほどー」と唸った。
数手進んで、▲4九香にはどうするか。

第9図以下の指し手。△5五馬▲4六香△同馬▲2六飛△5七馬▲4三歩△4七歩▲4九香△4三金▲4四歩△3三金▲4五桂△4六香▲3三桂成△同桂(第10図)

△5五馬が、終盤は駒の損得に構っていられない、という手。中村修九段と森下九段も、「すごい手を用意してましたね」と感嘆しきりだ。
△4六同馬に、頼本女流初段は△3六桂を防ぎつつ▲2六飛。
「力づくで……。強いですね」
と中村九段が褒める。
▲4三歩の金取りには、△4七歩と打ち返す。
「(金取りに)構わず」(中村九段)、「すごい」(森下九段)と、ここでも称賛が聞こえる。
▲4二歩成では△3九馬以下詰みなので、▲4九香。そこで△4三金と手を戻した。
▲4四歩△3三金▲4五桂に、金を逃げるのは利かされなのだろう。和田女流初段は△4六香と据える。次に△3九馬~△4八金の狙いだ。「ほー、足し算の攻めですね」と中村九段。

第10図以下の指し手。▲4六飛△同馬▲4七銀△同馬▲同香△3五桂▲3八角△2六銀▲3六角△2七桂成▲同角上△3五桂▲3八金△5八飛▲4八香△4六歩(第11図)

頼本女流初段は▲4六飛とした。さっきの△5五馬同様、終盤は駒の損得よりスピード、風邪を引いても後手引くな、の実践である。
▲4七銀に△同馬も騎虎の勢い。先ほどからどちらもスピード感あふれる手に特化し、見ているこちらはハラハラし通しだ。
△3五桂が難解ながら詰めろ。
「平成最後を飾る名局ですね」
と森下九段が言えば、中村九段も「ですね」と続けた。
▲3八角に△2六銀!! ひえー!! と、中村九段が悲鳴を上げる。
「出ましたねー。いや、さすがです」
と森下九段も続く。
頼本女流初段は▲3六角と受けるしかない。「数には数で受ける」(中村九段)。
しかし△2七桂成から△5八飛と、後手は寄せの包囲網を着々と築く。▲4八香はつらい受けだが、よくよく見ると二枚の香が後手陣を睨んでいる。しかも受け一方に打たされた角が、5四に飛び出る手を見ているではないか。大山康晴十五世名人は「反撃の受け」を標榜し、受けはつねに反撃の味を秘めるべきと説いた。頼本女流初段のここ一連の手順は、まさにその思想の具現化であった。
△4六歩にはどう指す?

第11図以下の指し手。▲4三歩成△4七歩成▲3二と△同金▲同竜△同玉▲5四角△4三金▲4四桂△2二玉▲2三歩△1三玉▲4七香△2七桂成▲同角△同銀成▲同玉△2六銀(投了図)
まで、162手で和田女流初段の勝ち。

第11図でいったん▲4六同香もあったと思うが、頼本女流初段は▲4三歩成と最終決戦に行った。
清算して▲5四角に、「応手を間違えたら詰まされますよ」と森下九段。
和田女流初段は△4三金と強く受けた。数手後の▲2三歩には△1三玉がピッタリで、玉がこの小部屋に逃げ込むと、詰まないことが多い。
頼本女流初段は▲4七香と手を戻したが、これは勝負を諦めた手。和田女流初段は△2七桂成から、華麗に詰ました。
和田女流初段、見事優勝なる!!

大盤前にて、局後の談話である。
頼本女流初段「中盤の駒損が響きました」
和田女流初段「駒得したけど、玉が薄いので難しかった」
和田女流初段には花束が贈呈され、表彰式の後は、最後の撮影タイムとなった。私はまたもスマホで撮るが、撮った気がしなかった。
ともあれ和田女流初段は、非公式戦とはいえ、会心の優勝といっていい。和田女流初段は本当に強くなった。今後の活躍が楽しみである。
最後に、世田谷区生活文化部長・松本公平氏の講評である。
「私は将棋はできませんけれども、解説者の方々の解説を聞いて、大変な熱戦であることは、ひしひしと伝わってまいりました。
この世田谷花みず木女流オープン戦は、平成19年の『将棋の日』の開催がキッカケでした。
平成から令和へ文化を引き継ぎ、花みず木女流オープン戦も文化のひとつとして、いつまでも続けていきたい。皆様にも将棋をいろいろなところで普及していただき、花みず木女流オープン戦を盛り上げていってほしいと思います」
プロの真剣勝負を観られる機会はなかなかない。この棋戦が末永く続くことを願い、私は玉川高島屋S・Cを後にした。
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