一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

愛が敗れた日

2019-06-18 00:55:08 | 女流棋士
12日(水)は、女流王座戦二次予選・山口恵梨子女流二段と飯野愛女流初段の一戦が行われた。
飯野女流初段は、現在の私の「女流棋士ファンランキング」第1位である。かつては山口女流二段もトップ10の常連だったが、山口女流二段が高校を卒業したころから瑞々しさが失われた気がして、徐々に順位が下がっていった。よって本局、私は飯野女流初段に肩入れし、飯野女流初段の勝ちと予想していた。
将棋は振り飛車党の山口女流二段が居飛車で臨んだ。飯野女流初段は四間飛車。ここで居飛車の作戦が注目されたが、山口女流二段は古風な中央位取りを採った。いまや絶滅ともいえる戦法で、これは山口女流二段のほうも応援したくなってしまった。
ただし飯野女流初段も、昔の戦法に精通している。この進行は望むところだったはずだ。

第1図は▲4五歩の銀取りに、△3五銀と歩頭に出た局面。ここ△3三銀は▲2三歩成があるから当然ともいえるが、強烈な勝負手だ。
本譜は以下▲3五同歩△3六歩▲1一角成△5四歩と進んだが、そこで▲6六歩とされ、△8四角の働きが減殺されてしまった。
△5四歩のところ、私なら何はともあれ△3七歩成と桂を取る。以下▲3七同金△3九角成(参考図)は、後手も指せたと思うがどうだろう。

本譜△5四歩はいかにもプロらしい落ち着いた手だが、本局はそれが裏目に出てしまった気もした。
以下は飯野女流初段がズルズル駒損を重ね、負けパターンのひとつに陥ってしまった。そして121手まで、山口女流二段の勝ち。
飯野女流初段は残念だったが、公式戦はこれからもずぅっとある。次の対局を勝てばよい。

翌13日(木)は、渡部愛女流王位と里見香奈女流四冠の、女流王位戦第4局が指された。ここまで渡部女流王位の1勝2敗で、本局は女流王位が絶対に勝たねばならぬ一戦だった。
将棋は里見女流四冠のゴキゲン中飛車に、渡部女流王位の「超速▲3七銀」となった。
以下▲4六銀~▲6六銀と出て先手十分に見えたが、後手も△3三桂と交換を迫る。桂が駒台に乗れば後手も十分で、このあたりは「将棋世界」4月号の別冊付録でも解説されていた。
▲3三同桂成△同角。次に△5四桂があるから渡部女流王位は何か受けると思いきや、堂々と▲9五歩(第1図)と突いた。これがさすがの手で、△5四桂を受けるのは利かされと見たわけだ。

以下△5四桂▲5五銀左△4六桂▲同銀△5六歩▲6八金直△4二金と進む。先手は銀桂交換の駒損ながら、清水市代女流六段などは「先手も指せる」の意見で、実際ここまではいいワカレだったのだろう。
だがここで渡部女流王位が▲6六角(第2図)と上がった手がどうだったのだろう。

渡部女流王位は前局も渋く△4四角と出たが、この▲6六角も意味が分からなかった。
むろん端攻めの意だろうが、後手も端の守りは堅いので、待ち受けるところでもある。先手が攻め切れるとは思えなかった。
実戦はここで△6五銀。ひょいと顔を出した▲6六角を咎めた手で、渡部女流王位はこの手を軽視したのではなかろうか。
△6五銀以下は、▲4八角△5五銀▲4五銀に、軽く△5七歩成(第3図)が妙手。▲5七同角に△5六銀直と出て、これは後手の捌け形だ。といって先手はそれに従うよりなく、プロ的には後手大優勢だろう。渡部女流王位が負けたと思った。

私は仕事の合間にチラチラとスマホを見ていたが、そのたびに案の定、差が開いていく。
渡部女流王位には端攻めしか手段がなく、勇躍▲8五桂と跳んだはいいが、対して里見女流四冠が△1五の角を△3三に戻したのがニクイ手。渡部女流王位は▲7七桂と埋めるよりなく、また戦力が削がれた。
もはや渡部女流王位に逆転の綾はなく、こうした時の応援は、ステージ4のガン患者を見守るような、虚しいものがある。私は渡部女流二段がタイトルを獲ってからの1年を、ゆっくりと想起していた。
96手目△9七歩に、渡部女流王位が突然、といった感じで駒を投じた。
渡部愛、敗れる――。
私は放心してしまった。カド番からの連勝は厳しいから覚悟はしていたが、いざ現実になると、力が抜けた。渡部女流王位も頑張ったが、今シリーズは里見女流四冠の強さが目立った。
私はどこかで叫びたいが、その場所がない。しかしその悔しさや虚しさは、渡部女流王位……いや女流三段が、最も感じていることだ。
しかしまあよい。里見女流四冠が女流王位を取り返しに来たように、渡部女流三段も、来年取り返しに行けばいいのだ。
渡部先生、今回は、お疲れ様でした。
コメント
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