勝つしかない

先月29日に指された、第30期女流王位戦第３局は、里見香奈女流四冠が渡部愛女流王位に勝ち、シリーズ２勝１敗と王手を掛けた。
この将棋、私はもうリアルタイムでネット中継を観る余裕はなく、最終盤だけ会社で観た。
なかなかにコクのある戦いだったが、渡部女流王位にも十分勝機はあるように見えたので、この敗戦は痛かった。

本局、私が気になったのは第１図である。ここ、何はともあれ△８六飛と、歩切れを補いながら走るのが第一感ではないだろうか。というか、△８六飛を決めて、そこから読みの枝葉を伸ばしていくのではと思う。
然るに渡部女流王位の指し手は△４四角！
ふつうに考えれば端攻めの構想だが、現状歩切れである。先手から見て、この手がいかほどの脅威になっていたのだろう。
いずれにしても、じっと△４四角は、私には一生考えても指せない手で、やはり渡部女流王位は強い、ということだけは分かった。
ただし実戦は以下▲４五歩△５三角▲７八飛と進み、これなら先手も不満はないと思った。

そこから進んで第２図。渡部女流王位が△３六桂とクサビを打ち込み、里見女流四冠が▲２七玉と上がった局面である。
ここで渡部女流王位は△１五歩としたが、△２八角はなかったのだろうか。
だが局後の感想戦コメントを読むと、△２八角は利かないらしい。とすれば、この局面は先手がよしということか。
しかし後手だって、得した桂を急所に打っているのだ。悪い道理はない。いずれにしてもこの前後で、渡部女流王位によくなる順があったと思う。
ちなみに、△３六桂に▲２七玉は、▲２六歩が突いてあるから指せた手で、かつて鈴木大介九段だかが、「▲３七桂と▲２六歩はワンセット」と解説したことがある。
本譜は▲２六の地点で角を取ったからたまたまこの形になったが、「▲２六歩～▲３七桂」の順番で指せば、つねに玉の懐が広い状況でいられるかもしれない。
実戦は149手まで里見女流四冠が勝ち、冒頭に戻る。カド番に追い込まれた渡部女流王位は苦しくなったが、後はもう勝つしかないんだから、却って開き直れる面もあるだろう。
次の対局は13日（木）。思いっきりぶつかっていくしかない。