第31期女流王位戦五番勝負・里見香奈女流王位VS加藤桃子女流三段の第3局は17日に行われ、里見女流王位が勝ち、3勝0敗で防衛した。
本局は里見女流王位の先手中飛車に加藤女流三段が穴熊に潜ったのだが、私は加藤女流三段が△1二香を上がった瞬間、訝った。前の2局も里見女流王位の中飛車に穴熊で負けていたからで、いやもっと書けば、五番勝負直前に行われた第13期マイナビ女子オープン第5局でも、加藤女流三段は西山朋佳女王の先手中飛車に穴熊を用い敗れていた。もはやこの組み合わせは負けのイメージしかないわけで、私だったらさすがに別の囲いを選ぶ。
いや加藤女流三段に新たな対策があるならまだしもだが、第3局も前2局と似た感じで、加藤女流三段に工夫の跡は見られなかった。何か、意地で指しているみたいだった。
それに実際問題、▲5五歩と位を取られた形は、後手の角が使いにくい。しかも松尾流四枚穴熊に組んでいるから、攻めのパターンが乏しい。せいぜい右桂を跳ねるくらいだが桂頭攻めがあるので△8四飛が必要となり、徐々に指しづらくなってゆく。
これは私の見解なのだが。先手中飛車には、居飛車は5筋の位を取らせないほうがいいのではないか?
31年前のNHK杯で、大山康晴十五世名人と永井英明氏が「むかしは5五の位は天王山といいましたけど、いまはそういうことはなくなりましたねえ」と語っていたが、先手中飛車においては、5筋の位が大きいと思うのだ。▲5五歩を▲5六銀・▲5八飛と支えた形が強力である。しかも相手が穴熊に組めば、よけい効力を発揮する(……と書くと、素人が偉そうに講釈を垂れるんじゃない、という人がいるのだが、当ブログはマイナーな存在なので、堂々と書いてしまう)。
もし私の仮説が正しく、里見女流王位もこの法則を認識していたとしたら、第3局は▲5五歩に加藤女流三段が△1二香と上がった時点で、「この将棋はもらった」と思ったのではなかろうか。
第3局はその後、里見女流王位が▲1五歩△同歩▲1三歩△同香▲2五桂の端攻めに出た。これが指しすぎのニオイもあったのだが、居飛車側から見たらやはり嫌味である。▲7七角が地味に△1一玉を睨んでいるのも大きい。藤井猛九段が「四間飛車上達法」(浅川書房)の中で、「振り飛車は、角が間接的に相手玉を睨んでいるのがよい」と書いたが、相手が穴熊に組んだ形は、小さくないアドバンテージになっていると思う。
その後数手進んで、△5四飛の角取りに▲1五歩、と打ったのが、これぞ「女流四冠の手」だった。
いわゆる「終盤は駒の損得よりスピード」だが私には一生考えても浮かばない手で、この手が見られただけで、観戦した甲斐があったというものだ。
以下は加藤女流三段が微妙に最善手を逸し、里見女流王位の指し手も冴え、143手までで里見女流王位の勝ちとなったわけだった。
これで加藤女流三段の、里見女流四冠との対戦成績は6勝18敗、直近は9連敗となってしまった。元奨励会初段と三段の対戦とはいえ、ちょっと離された気がする。
ちなみに勝った6勝を見てみると、いずれもタイトル戦で、加藤女流三段の囲いは、左美濃、超速▲3七銀、相居飛車、銀冠、左美濃、穴熊だった。
やはり持久戦調が多いが、穴熊は1局のみである。いずれもガンガン攻め合って調子がよい。
それなのにここから負けが込んできて、最後は穴熊に執着してしまった。
ちなみに他者との将棋を見ると、もちろん穴熊もあるが、それ以外の囲いが多い。これは、自分と同程度の女流棋士にはふつうの囲いで対処できるが(失礼)、里見女流四冠のような強豪には固く囲わないと太刀打ちできない……と考えているからではあるまいか。
しかし、先のマイナビ女子オープン第3局で、▲4五歩の早仕掛けで快勝したように、加藤女流三段の本質はその攻めにある。穴熊に潜ってカウンター狙い、は棋風が合わないと思うのだ。
次に加藤女流三段がタイトル戦に登場するとき、相手は里見女流四冠か西山女流三冠であろう。そのとき加藤女流三段がどの作戦で立ち向かうのか。「ニュー桃子」に期待したい。
本局は里見女流王位の先手中飛車に加藤女流三段が穴熊に潜ったのだが、私は加藤女流三段が△1二香を上がった瞬間、訝った。前の2局も里見女流王位の中飛車に穴熊で負けていたからで、いやもっと書けば、五番勝負直前に行われた第13期マイナビ女子オープン第5局でも、加藤女流三段は西山朋佳女王の先手中飛車に穴熊を用い敗れていた。もはやこの組み合わせは負けのイメージしかないわけで、私だったらさすがに別の囲いを選ぶ。
いや加藤女流三段に新たな対策があるならまだしもだが、第3局も前2局と似た感じで、加藤女流三段に工夫の跡は見られなかった。何か、意地で指しているみたいだった。
それに実際問題、▲5五歩と位を取られた形は、後手の角が使いにくい。しかも松尾流四枚穴熊に組んでいるから、攻めのパターンが乏しい。せいぜい右桂を跳ねるくらいだが桂頭攻めがあるので△8四飛が必要となり、徐々に指しづらくなってゆく。
これは私の見解なのだが。先手中飛車には、居飛車は5筋の位を取らせないほうがいいのではないか?
31年前のNHK杯で、大山康晴十五世名人と永井英明氏が「むかしは5五の位は天王山といいましたけど、いまはそういうことはなくなりましたねえ」と語っていたが、先手中飛車においては、5筋の位が大きいと思うのだ。▲5五歩を▲5六銀・▲5八飛と支えた形が強力である。しかも相手が穴熊に組めば、よけい効力を発揮する(……と書くと、素人が偉そうに講釈を垂れるんじゃない、という人がいるのだが、当ブログはマイナーな存在なので、堂々と書いてしまう)。
もし私の仮説が正しく、里見女流王位もこの法則を認識していたとしたら、第3局は▲5五歩に加藤女流三段が△1二香と上がった時点で、「この将棋はもらった」と思ったのではなかろうか。
第3局はその後、里見女流王位が▲1五歩△同歩▲1三歩△同香▲2五桂の端攻めに出た。これが指しすぎのニオイもあったのだが、居飛車側から見たらやはり嫌味である。▲7七角が地味に△1一玉を睨んでいるのも大きい。藤井猛九段が「四間飛車上達法」(浅川書房)の中で、「振り飛車は、角が間接的に相手玉を睨んでいるのがよい」と書いたが、相手が穴熊に組んだ形は、小さくないアドバンテージになっていると思う。
その後数手進んで、△5四飛の角取りに▲1五歩、と打ったのが、これぞ「女流四冠の手」だった。
いわゆる「終盤は駒の損得よりスピード」だが私には一生考えても浮かばない手で、この手が見られただけで、観戦した甲斐があったというものだ。
以下は加藤女流三段が微妙に最善手を逸し、里見女流王位の指し手も冴え、143手までで里見女流王位の勝ちとなったわけだった。
これで加藤女流三段の、里見女流四冠との対戦成績は6勝18敗、直近は9連敗となってしまった。元奨励会初段と三段の対戦とはいえ、ちょっと離された気がする。
ちなみに勝った6勝を見てみると、いずれもタイトル戦で、加藤女流三段の囲いは、左美濃、超速▲3七銀、相居飛車、銀冠、左美濃、穴熊だった。
やはり持久戦調が多いが、穴熊は1局のみである。いずれもガンガン攻め合って調子がよい。
それなのにここから負けが込んできて、最後は穴熊に執着してしまった。
ちなみに他者との将棋を見ると、もちろん穴熊もあるが、それ以外の囲いが多い。これは、自分と同程度の女流棋士にはふつうの囲いで対処できるが(失礼)、里見女流四冠のような強豪には固く囲わないと太刀打ちできない……と考えているからではあるまいか。
しかし、先のマイナビ女子オープン第3局で、▲4五歩の早仕掛けで快勝したように、加藤女流三段の本質はその攻めにある。穴熊に潜ってカウンター狙い、は棋風が合わないと思うのだ。
次に加藤女流三段がタイトル戦に登場するとき、相手は里見女流四冠か西山女流三冠であろう。そのとき加藤女流三段がどの作戦で立ち向かうのか。「ニュー桃子」に期待したい。